業務本部審理ニュース[No.6]
平成 22 年2月 12 日
退職給付会計における未認識数理計算上の差異等 の費用処理方法等の変更について
1.昨年秋以降、複数の会員や企業関係者から、退職給付会計における過去勤務債務及び
数理計算上の差異の費用処理方法の変更及び費用処理年数の変更(以下「費用処理方法
等の変更」という。)が行われており、開示されている財務諸表の注記を見る限り、正当
な変更理由又は合理的な変更理由とは考えられないような事例が見受けられるが、日本
公認会計士協会は、こうした会計処理を認めているのかとの質問が寄せられております。
当協会は、費用処理方法等の変更事例の調査を行い、いくつかのケースについてその
事実確認を行いました。
2.過去において、費用処理方法等の変更については、正当な変更理由又は合理的な変更
理由に該当するかどうか必ずしも明確でない事例が相当数見受けられ、かつ、財務諸表
への影響が大きいことから、当協会は次のとおり、過去2回にわたって審理情報等を公
表し、監査人に慎重な検討を行うように注意を喚起してまいりました。
① リサーチ・センター審理情報[No.18]「退職給付会計における未認識項目の費用処理
年数の変更について」(平成 14 年 10 月8日)
② 審査・倫理・相談課ニュース[No.1]「退職給付会計における未認識数理計算上の差
異の費用処理年数の変更について」(平成 18 年9月 21 日)
3.最近の厳しい経済情勢下、多くの企業では、多額の数理計算上の差異が発生しても退
職給付会計基準を遵守し、費用の規則的処理の方法を継続適用しています。また、費用
処理方法等の変更を打診してきた企業に対して、正当な理由又は合理的な理由がない限
り容認されない旨、企業の説得に取り組んできた監査人も少なくないと認識しておりま
す。
過去2回の注意喚起にもかかわらず、最近、費用処理方法等の変更の妥当性について、
正当な理由又は合理的な理由に該当するか否か疑義がもたれる事例が見られることは、
財務諸表の信頼性を揺るがす可能性のある問題と考えられます。
4.退職給付会計基準については、複雑な基準設定となっており、かつ、種々の予測を織
り込みながら会計処理が行われる特性を有していることから、最初に基準を適用する時
点又は新たな退職給付制度の導入の時点(現行退職給付制度の改訂や移行を含まない。)
での会計処理方法については、複数の方法の中から会社の特性を考慮して一つの方法を
選択することを容認しているものの、一度採用した方法については継続適用を求めてお
り、その後の会計処理方法の変更はより厳格に正当な変更理由又は合理的な変更理由の
存在を求めることとされています。今回のケースでは、リーマンショックによる年金資
産価値の大幅下落という異常事態を踏まえた変更を理由としている事例も見られました
が、有価証券の時価の大幅な変動は、正当な変更理由又は合理的な変更理由に該当しな
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いことにご留意ください。
今回、当協会としての対応は3回目となりますが、監査人に対して、費用処理方法等
の変更が行われる場合には、正当な変更理由又は合理的な変更理由が存在するか否か慎
重に対応するよう強く注意を喚起することとしました。また、監査事務所においても、
費用処理方法等の変更について、慎重な審査が行われることを期待するものであります。
なお、最近の退職給付制度に係る会計処理方法の変更事例に見られる現象から、別紙
のとおり、監査上の留意事項をまとめましたので、ご参考としてください。
以 上
(業務本部長 島田 眞一)
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(別紙) 退職給付会計における未認識数理計算上の差異等の費用処理方法等の変更に
係る監査上の留意事項について
1.費用処理方法等
退職給付会計基準の前文四3では、数理計算上の差異について、過去勤務債務と同じ
く、平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理することとし、この場合、一定
の年数での規則的処理には、発生した期に全額を処理する方法(以下「一括法」という。)
を継続して採用することも含まれるとしている。
未認識数理計算上の差異等の費用処理については、「各期の発生額について平均残存勤
務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理しなければならない」(退職給付会
計基準三2.(4)(定額法))とされており、その費用処理方法として「残高の一定割合
を費用処理する方法」(定率法)も認めるとしている(退職給付会計基準注解(注9)1.)。
一括法の場合は、発生時に一括費用処理されるため、償却年数をどのように決定する
かという問題は生じないが、定額法又は定率法による償却を選択した場合は、償却年数
の決定が必要となる。退職給付会計基準では、上記に示すように「平均残存勤務期間以
内の一定の年数」としていることから、基準適用初年度や新たな退職給付制度の導入の
時点(現行退職給付制度の改訂や移行を含まない。)において償却年数の決定を行う必要
がある。
2.費用化の始期
未認識数理計算上の差異等の費用化の始期については、退職給付会計基準三2.(4)に
おいて「発生額について・・・・毎期費用処理しなければならない」とされていること
から、発生年度から費用化を開始することが求められている。ただし、数理計算上の差
異の発生額については、「当期の発生額を翌期から費用処理する方法を用いることができ
る」(退職給付会計基準注解(注9)2.)とされているため、費用化の始期として「当期」
からと「翌期」からが認められており、ここでも二つの方法が容認されている。
ただし、「翌期」からの費用化が認められているのは、数理計算上の差異のみであり、
過去勤務債務については「当期」からの費用化のみ容認されている。
3.費用処理方法等の変更に際しての留意事項
最近の変更事例をみると、年金資産の運用実績の低迷による数理計算上の差異の多額
な発生に伴う償却額が期間損益に与える影響が大きくなる環境において、費用処理方法
等の変更事例が見られるなど、利益操作と見られかねない事例が見受けられる。
特に費用処理年数の変更は、基本である従業員の平均残存勤務年数の大きな変動など、
合理的理由の存在が必要であることを改めて確認する必要がある。リサーチ・センター
審理情報[No.18]では、「リストラによる大量退職等により平均残存勤務期間が延長又は
短縮したことにより変更する場合を除き、いったん採用した費用処理年数は継続して適
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用しなければならないこととされている(会計制度委員会報告第 13 号「退職給付会計に
関する実務指針(中間報告)」第 29 項及び第 30 項参照)」ことを再確認している。なお、
償却年数として「平均残存勤務期間以内の一定の年数」を採用している場合は、例えば、
大量退職などにより既に採用している償却年数より平均残存勤務期間が短縮される場合
には、見積りの変更となり、これ以外の合理的な理由がある場合に変更するときは、会
計方針の変更になるとされている(「退職給付会計に関するQ&A」Q9)。
また、同審理情報では「例えば、退職給付費用を計算する前提となっている基礎率が
長期国債等の利回りの低下から引き下げられなければならない状況下にあっても、当該
基礎率等の変更は、直ちに数理計算上の差異の費用処理年数を短縮又は延長するための
正当な理由とはならないので、・・・」とされ、単なる経済環境の変化のみを理由とする
費用処理年数の変更は直ちに正当な理由とはならないとの考え方が示されており、年金
資産の運用実績の低迷を理由とする変更も同様に認められないと解される。
さらに、一括法を採用する場合は、その期に全額が費用処理される方法であるため、
1年以内での費用処理年数の変更はあり得ないものとされている(「退職給付会計に関す
るQ&A」Q9)。
定額法と定率法の間の変更及び費用処理の開始時期の変更については、変更理由に合
理性が認められる場合のみ変更可能であるが、数理計算上の差異の性格上、規則的処理
の方法を変更し得る状況について、現時点でその事例を挙げることは困難であると考え
ている。
改めて説明することもないと思われるが、現在採用している会計処理方法の変更には
常に正当な理由があることが必要であり、一定期間継続適用した後であれば変更するこ
とが可能であるという考え方は、現行会計基準にはないことも重ねて留意する必要があ
る。
以 上
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