監査基準報告書 500 周知文書第1号
新型コロナウイルス感染症に関連する監査に係る周知文書(その1)
2 0 2 0 年 3 月 1 8 日
改正 2022 年 10 月 13 日
日本公認会計士協会
監査・保証基準委員会
(周知文書:第4号)
我が国においては、現状、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための対策に取り組んでいる過
程にあり、企業や監査人の事業活動にも影響が及んでいる。監査においては、当初予定していた手
続が実施できない状況が生じているとの会員からの声が寄せられている。
財務諸表監査の実施における監査人の総括的な目的は、不正か誤謬かを問わず、全体としての財
務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得ることにより、財務諸表が、全
ての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関して、
監査人が意見を表明できるようにすることである。監査人は、合理的な保証を得るために監査計画
を策定し、通年の監査作業を通じて、監査リスクを許容可能な低い水準に抑える十分かつ適切な監
査証拠を入手する。意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかは、職業的
専門家としての判断に係る事項である。新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響下において
も、監査人は、感染拡大のリスクに留意しながら、職業的専門家としての判断を行使し、被監査会社
の協力を得て、十分かつ適切な監査証拠を入手できるように対応することが望まれる。
以下に記載する事項は、現時点において、監査人が留意すべきと思われる事項を(その1)として
列挙したものである。今後も状況の変化により追加して留意すべき事項が生じた場合には、改めて
周知する。
本周知文書は、一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成するものではなく、会員が遵守す
べき基準等にも該当しない。また、2020 年3月 18 日時点の最新情報に基づいている。
1.監査手続に係る留意事項
(1) 実地棚卸の立会
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響で、実地棚卸及びその立会に関する検討が必
要となる場合が想定される。
監査人は、棚卸資産が財務諸表において重要である場合には、棚卸資産の実在性と状態につい
て十分かつ適切な監査証拠を入手するため、実務的に不可能でない限り実地棚卸の立会を実施
することが要求されており(監査基準報告書 501「特定項目の監査証拠」第3項)、立会に関し
て被監査会社の理解と協力を得ることが重要である。
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(実地棚卸が期末日以外の日の場合の対応)
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響で、実地棚卸が期末日以外の日、例えば、期
末日後に実施される場合も想定される。その場合には、実地棚卸日と期末日における棚卸資産
の増減が適切に記録されているかどうかについて監査証拠を入手するための監査手続を実施
しなければならない点に留意する必要がある(監基報 501 第4項)。
(代替的な手続による対応)
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響で、監査人が被監査会社から実地棚卸の立
会を取りやめることを要請される場合も想定される。
監査人は、実地棚卸の立会を実施することが実務的に不可能な場合には、棚卸資産の実在性
と状態について十分かつ適切な監査証拠を入手するため、代替的な監査手続を実施しなけれ
ばならない点に留意する必要があり(監基報 501 第6項)、個々の状況を踏まえて慎重に検討
する必要がある。なお、監査人にとって単に不都合であるということだけでは、監査人が実務
的に不可能であるという旨を判断する際の十分な理由とはならない(監基報 501 の A12 項)。
また、監査人による立会が実務的に不可能な場合には、例えば、実地棚卸日以前に取得又は
購入した特定の棚卸品目について、実地棚卸日後に販売されたことを示す記録や文書を閲覧
するなどの代替的な監査手続によって、実地棚卸日現在の棚卸資産の実在性及び状態につい
ての十分かつ適切な監査証拠を入手することができることがある(監基報 501 の A13 項)。
なお、第三者が保管し、管理している棚卸資産に関しては、第三者に対して確認を実施する
ことは、十分かつ適切な監査証拠を入手する手続となる場合がある(監基報 501 第7項)。
(代替的な手続も実施できない場合の対応)
代替的な監査手続を実施できない場合や実施しても十分かつ適切な監査証拠を入手できな
かった場合には、監査基準報告書 705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」に
従い、監査意見に与える影響を評価しなければならない(監基報 705 第5項(2))。
(2) 残高確認
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響により、事業が停止している、又は業務が遅滞
していることによって、海外に所在する金融機関や企業から確認に対する回答が得られない場
合が想定される。この場合、回答を得られない理由や相手先の状況についての情報を入手し、適
切な代替的手続を実施する(監査基準報告書 505「確認」第 11 項)。
(代替的な証拠の入手による対応)
例えば、売掛金について、確認に対する正規の書面による回答が得られないが、確認回答の
複写を電子メール等の電子経路により入手して代替的に利用する場合、監査人は代替的に入
手した確認回答について監査証拠としての評価を行う。この場合、相手先の状況を踏まえ、実
在性と回収可能性の評価の検討が必要となる。評価の結果を踏まえて、利用する情報の信頼性
に関する疑義を解消するための手続の変更又は追加が必要であるかを判断し、必要と判断す
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るときは、監査人は、確認回答者が実際に回答を送信したかどうかを、確認回答者に電話によ
り確かめることがあるとされていることに留意する(監基報 505 第9項、A12 項及び A14 項)。
(代替的な証拠が入手できない場合の対応)
代替的な監査手続を実施できない場合や実施しても十分かつ適切な監査証拠を入手できな
かった場合には、監基報 705 に従い、監査意見に与える影響を評価しなければならない(監基
報 705 第5項(2))。
(3) 監査証拠の信頼性
監査人は、提供される監査証拠の適合性及び信頼性について考慮しなければならない(監査基
準報告書 500「監査証拠」第6項)。
(被監査会社への往査が制限され監査証拠を電子媒体等により間接的に入手する場合の対応)
被監査会社への往査が制限され、被監査会社が証憑を複写又は PDF 等の電子媒体に変更し
たものを監査証拠として利用する場合や、被監査会社が自社のデータベースからダウンロー
ドした情報を監査人が利用する場合がある。このような場合に、原本から媒体に変更する過程
で、又は被監査会社のデータベースから情報をダウンロードし監査人に提供するためにデー
タを加工する際に、情報が変更される可能性があることに留意する。
なお、原本から複写された、又は媒体が変更された監査証拠については、原本よりも証拠力
は弱まるとされるが(監基報 500 の A31 項)、直ちに追加の監査証拠が求められる訳ではない。
監査人は、当該監査証拠のみならず、入手した監査証拠全体を総合して、重要な虚偽表示リス
クを許容可能な低い水準に抑えるために証拠力が十分かつ適切であるかどうかを改めて慎重
に評価することとなる。その上で、必要と判断する場合に、追加の監査証拠を入手するための
手続を実施することに留意する(監基報 500 第5項及び A6 項)。なお、一般に、原本によって
提供された情報は電子媒体に変換された文書によって提供された監査証拠よりも、証拠力が
強い。このため、電子媒体に変換された文書を監査証拠として用いる場合、その作成と管理に
関する内部統制について評価する必要が生じ得ることに留意する(監基報 500 の A31 項)。
(4) グループ監査
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響により、構成単位の企業活動や構成単位の監
査人の作業に制限等があった場合、グループ監査チームは、被監査会社及び構成単位の監査人と
一層のコミュニケーションを図る必要があり、監査基準報告書 600「グループ監査」の要求事項
を満たすように以下の点に留意が必要である。
① 構成単位への影響及びその程度を理解する。構成単位の事業への影響及びグループ財務諸
表作成のために必要な情報収集の方法や時期について、グループ経営者等とのコミュニケ
ーションが必要となる場合がある。
② 構成単位の監査人が実施する作業への影響を理解する。監査手続の実施及び監査証拠の入
手可能性等への影響に関して、構成単位の監査人とのコミュニケーションを実施する。な
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お、構成単位の監査人に要求する事項及び監査スケジュール等を更新した指示書を送る場
合がある。
なお、十分かつ適切な監査証拠を入手できなかった場合には、グループ財務諸表の監査意見に
与える影響を評価しなければならない(監基報 600 第 44 項)。
2.既に決算日を迎えた企業の監査対応
本文書発出時点で、既に決算日を迎えた企業においては、新型コロナウイルス感染症に起因す
る事業活動の縮小や停止、将来キャッシュ・フローの悪化、将来の課税所得の見積りの下振れの可
能性等の影響について、監査対象事業年度において会計処理を行うか、又は翌事業年度の会計処
理として取り扱うか、慎重な検討が必要となることがある。この場合、決算日現在において新型コ
ロナウイルス感染症に起因してどのような影響がどの程度生じているかを見積もり、その程度を
勘案して、当事業年度の会計処理に反映させるかどうかを検討することに留意する。
なお、翌事業年度に会計処理を行う場合であっても、その影響の程度に応じて当事業年度の開
示後発事象に関わる注記事項として取り扱うかどうか検討することに留意する(監査基準報告書
560「後発事象」及び監査基準報告書 560 実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」)。
3.内部統制監査
上場会社に関しては、内部統制監査への影響も検討する必要がある。内部統制監査に関しては、
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策により事業活動に甚大な影響を及ぼしている地域が、経
営者の評価範囲内にある拠点である場合に次のようなことが考えられる。
経営者の評価手続が実施できない場合は、災害等、やむを得ない事情による評価範囲の制約に
該当し、この取扱いに従った対応をとることになると考えられる(「財務報告に係る内部統制の評
価及び監査に関する実施基準」Ⅱ3(6)評価範囲の制約)。この場合、経営者は当該事実の及ぼす影
響を把握した上で、当該範囲を除外して、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明することが
できる。監査人は、当該内部統制報告書の記載内容及びやむを得ない事情により内部統制の評価
ができなかった範囲の影響を判断し、内部統制報告書に対して内部統制監査意見を表明すること
になる。
すなわち、監査人は、①経営者による評価が、やむを得ない事情を除き、全体として適切に実施
されていること、かつ、②やむを得ない事情により、十分な評価手続を実施できなかったことが財
務報告の信頼性に重要な影響を及ぼすまでには至っていないことを確認できた場合には、監査報
告書に追記情報として経営者が十分な評価手続を実施できなかった範囲及びその理由を記載して、
無限定適正意見を表明することとされている(同実施基準Ⅲ5(2))。したがって、監査人は、被監
査会社の状況を十分に検討し、必要な監査手続の実施可能性を踏まえ、適切に対応する必要があ
る。
4.監査スケジュールの延長等
十分かつ適切な監査証拠を入手するための監査手続の進捗状況によっては、今後の監査スケジ
ュールを再度検討し、監査報告書の提出日を見直す必要がある点に留意が必要である。また、被監
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査会社の決算スケジュールの進捗状況にも留意が必要である。
(金融商品取引法に基づくスケジュール)
金融商品取引法については、今般の新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への
監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により有価証券報告書等の期限までに提出で
きない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められている(金融庁
「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」2020 年(令和
2年)2月 10 日公表)。
また、株式会社東京証券取引所から、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、適時開示、
上場廃止及び上場審査に関する対応方針の概要が公表されている(「新型コロナウイルス感染症
の影響を踏まえた対応方針について」2020 年3月 18 日公表)。
(会社法に基づくスケジュール)
また、会社法については、法務省が定時株主総会の開催時期についての説明資料を公表してい
る(「定時株主総会の開催について」2020 年(令和2年)2月 28 日公表、3月 13 日更新)。具
体的対応については、各被監査会社の法律専門家も交え検討する必要があると考えられる。
以 上
・ 本周知文書(2022 年 10 月 13 日改正)は、次の公表物の公表に伴う修正を反映している。
- 監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」(2022 年7月
21 日改正)
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