This is a cache of https://search.satorifactory.jp/kaikeidata/handbook/%e7%9b%a3%e6%9f%bb%e5%9f%ba%e6%ba%96%e5%a0%b1%e5%91%8a%e6%9b%b8700_%e5%ae%9f%e5%8b%99%e3%82%ac%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%b3%e3%82%b9%e7%ac%ac%ef%bc%91%e5%8f%b7_%e7%9b%a3%e6%9f%bb%e5%a0%b1%e5%91%8a%e6%9b%b8%e3%81%ab%e4%bf%82%e3%82%8b%ef%bc%b1%ef%bc%86%ef%bc%a1%ef%bc%88%e5%ae%9f%e5%8b%99%e3%82%ac%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%b3%e3%82%b9%ef%bc%89/%e7%9b%a3%e6%9f%bb%e5%9f%ba%e6%ba%96%e5%a0%b1%e5%91%8a%e6%9b%b8700_%e5%ae%9f%e5%8b%99%e3%82%ac%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%b3%e3%82%b9%e7%ac%ac%ef%bc%91%e5%8f%b7_%e7%9b%a3%e6%9f%bb%e5%a0%b1%e5%91%8a%e6%9b%b8%e3%81%ab%e4%bf%82%e3%82%8b%ef%bc%b1%ef%bc%86%ef%bc%a1%ef%bc%88%e5%ae%9f%e5%8b%99%e3%82%ac%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%b3%e3%82%b9%ef%bc%89.pdfminer. It is a snapshot of the page at 2025-11-14T18:13:29.870+0900.
監査基準報告書700_実務ガイダンス第1号_監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス).pdf

監査基準報告書 700 実務ガイダンス第1号

監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)

2 0 1 9 年 7 月 1 8 日

改正 2 0 2 0 年 5 月 1 4 日

改正 2 0 2 1 年 6 月 2 5 日

改正 2 0 2 1 年 1 0 月 4 日

改正 2 0 2 2 年 1 0 月 1 3 日

改正 2 0 2 3 年 7 月 2 8 日

最終改正 2 0 2 4 年 2 月 8 日

日 本 公 認 会 計 士 協 会

監査・保証基準委員会

(実務ガイダンス:第 12 号)

Ⅰ はじめに ..........................................................................1

1.適用範囲 ........................................................................ 1

2.背景 ............................................................................ 2

Ⅱ Q&A ............................................................................5

1.監査報告書全般のQ&A ........................................................... 5

Q1-1 監査報告書の変更点及び共通点 ............................................ 5

Q1-2 監査報告書における監査役等の財務報告に関する責任の記載 .................. 9

Q1-3 監基報 700 及び同 720 と ISA700 及び同 720 に基づく監査報告書の記載内容の差異

............................................................................ 11

Q1-4 日本の監査の基準に基づいて英文で監査報告書を作成する場合の留意点 ....... 16

Q1-5 監査事務所の所在地の記載 ............................................... 19

Q1-6 除外事項の重要性と広範性及び除外事項の記載上の留意点 ................... 20

Q1-7 継続企業の前提に関する注記又は開示の検討における変更点 ................. 23

Q1-8 証券発行に関する文書におけるその他の記載内容の適用範囲 ................. 25

Q1-9 開示書類等において、監査報告書を開示せず、監査を受けている旨の記載を企業が

行う場合の留意点 ............................................................ 28

Q1-10 監査報告書における報酬関連情報開示の適用範囲 ........................... 31

Q1-11 監査報告書における報酬関連情報開示の省略等 ............................. 32

2.監査上の主要な検討事項関係のQ&A .............................................. 36

Q2-1 監査上の主要な検討事項の適用範囲 ....................................... 36

Q2-2 監査上の主要な検討事項の決定プロセス ................................... 40

i

Q2-3 監査上の主要な検討事項と特別な検討を必要とするリスク ................... 42

Q2-4 監査上の主要な検討事項と内部統制の重要な不備 ........................... 43

Q2-5 監査上の主要な検討事項と未修正の虚偽表示 ............................... 45

Q2-6 監査上の主要な検討事項がない状況 ....................................... 47

Q2-7 監査上の主要な検討事項の個数及び記載量 ................................. 48

Q2-8 個別財務諸表の監査上の主要な検討事項 ................................... 49

Q2-9 監査上の主要な検討事項における固有の情報の記載 ......................... 50

Q2-10 監査上の主要な検討事項の経年比較 ....................................... 52

Q2-11 監査上の主要な検討事項の記載順序 ....................................... 53

Q2-12 監査人が行った手続の結果や監査人の主要な見解の記載 ..................... 54

Q2-13 監査上の主要な検討事項における専門家又は構成単位の監査人への言及 ....... 56

Q2-14 会社に対する財務諸表における注記の拡充の要請 ........................... 58

Q2-15 会社の未公表情報の記述と監査人の守秘義務との関係 ....................... 60

Q2-16 監査上の主要な検討事項を監査報告書において報告しない場合 ............... 63

Q2-17 訂正監査報告書における監査上の主要な検討事項の取扱い ................... 66

Q2-18 監査スケジュールや監査役等とのコミュニケーションにおける留意点 ......... 68

Q2-19 株主総会における対応 ................................................... 70

Q2-20 監査上の主要な検討事項の監査人の法的責任に及ぼす影響 ................... 73

3.監査報告書の電子化に関するQ&A ................................................ 75

Q3-1 監査報告書の電子化の根拠法令 ........................................... 75

Q3-2 電子化された監査報告書等を発行する場合の被監査会社との事前合意 ......... 80

Q3-3 電子署名を付した監査報告書等と署名した紙媒体による監査報告書等の提出 ... 82

Q3-4 電子化された監査報告書等に用いる電子署名サービスの要件 ................. 83

Q3-5 電子署名サービスにおける当事者型と事業者署名型の違い ................... 84

Q3-6 PDF 作成・編集ソフトウエアに設定されているセルフサインの利用の可否 ...... 86

Q3-7 タイムスタンプの利用 ................................................... 87

Q3-8 監査報告書に記載する日付と電子署名の実施日の関係 ....................... 88

Q3-9 電子署名の対象となる文書の範囲 ......................................... 89

Q3-10 会社法の監査報告書と金融商品取引法の監査報告書の電子化 ................. 90

Q3-11 監査責任者の氏名の表示 ................................................. 91

4.EDINET で提出する監査報告書関係のQ&A ......................................... 92

Q4-1 EDINET で提出する監査報告書の記載内容の適切性を確保する取組 ............. 92

Q4-2 EDINET で提出される監査報告書の欄外記載について ......................... 94

Q4-3 XBRL データが訂正された場合の監査上の取扱い ............................. 96

ii

凡例

金商法 財務諸表等規則 開示府令 企業内容等開示ガイドライン 監査証明府令 内部統制府令

監基報

金融商品取引法 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 企業内容等の開示に関する内閣府令 企業内容等の開示に関する留意事項について 財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するため の体制に関する内閣府令 監査基準報告書

iii

《Ⅰ はじめに》 《1.適用範囲》

1.2018年7月に企業会計審議会から公表された「監査基準の改訂に関する意見書」に対応するた

めに、2019年2月27日付けで監査基準委員会から監査基準報告書701「独立監査人の監査報告書

における監査上の主要な検討事項の報告」等が公表された。また、2020年11月に企業会計審議会

から公表された「監査基準の改訂に関する意見書」に対応するために、2021年1月14日付けで監

査基準委員会から監査基準報告書720「その他の記載内容に関する監査人の責任」等が公表され

た。本実務ガイダンスは、これらの改正が従来の監査報告書の記載内容に大きな変革をもたらす

ものと考えられるため、その背景や意図についてQ&A方式によって解説を提供し、新しい監査

報告書の実務の定着を支援するために作成されたものである。

2.2021年5月19日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」

において、押印・書面の交付等を求める手続を廃止する48の法律の改正が含まれており、公認会

計士法も改正の対象となった。公認会計士法の改正の内容は、監査報告書等(監査報告書、中間

監査報告書又は四半期レビュー報告書。以下「監査報告書等」という。)への自署、押印を求め

ている規定を署名のみに変更し、さらに監査報告書等の交付を署名された書面に代えて、電磁的

方法、すなわち電子化された監査報告書等によって行うことができるようにするというものであ

る。この公認会計士法の改正が2021年9月1日から施行されることを踏まえ、本改正の概要や監

査報告書等を電子形式により作成する場合の具体的な留意事項を解説することを目的として、

2021年10月4日付けの本実務ガイダンスの改正において《3.監査報告書の電子化に関するQ&

A》を追加している。

2-2.日本公認会計士協会は、倫理規則の理解のしやすさを向上させ、その遵守を引き続き確実な

ものとするため、倫理規則の体系及び構成等の見直しを行うとともに、国際会計士連盟(IFAC)

における国際会計士倫理基準審議会(IESBA)による倫理規程の改訂を踏まえて、実質的な内容

の変更を伴う個別規定の見直しを行い、改正した「倫理規則」を2022年7月25日付けで公表した。

当該改正において、会計事務所等が報酬関連情報の開示を行う場合の複数ある方法の一例として

監査報告書によることを示しており、また、倫理規則の改正に併せて2022年12月15日付けで公表

した倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」(以下「倫理規

則に関するQ&A」という。)では、会計事務所等が報酬関連情報の開示を行う場合は、我が国にお

いては監査報告書に記載する方法が適切と考えられる旨を示している。さらに、改正倫理規則及

び倫理規則に関するQ&Aの公表後、監査証明府令が改正され、金商法に基づく財務諸表等の監査

報告書において、報酬関連情報の開示が求められることとなった。これらの改正に従って監査報

告書において報酬関連情報の開示を行う場合の具体的な留意事項を解説することを目的として、

2023年7月28日付けの本実務ガイダンスの改正において《1.監査報告書全般のQ&A》に項目

を追加している。

3.本実務ガイダンスの適用に際し関連する報告書は、主に以下のとおりである。

・ 監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」

・ 監査基準報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」

・ 監査基準報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」

- 1 -

・ 監査基準報告書706「独立監査人の監査報告書における強調事項区分とその他の事項区分」

・ 監査基準報告書720「その他の記載内容に関する監査人の責任」

・ 監査基準報告書210「監査業務の契約条件の合意」

・ 監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」

・ 監査基準報告書570「継続企業」

本実務ガイダンスは、個々の監査業務の実施に関して追加的な要求事項を設定するものではな

い。また、一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成するものではなく、会員が遵守すべき

基準等にも該当しない。2023年7月28日時点の最新情報に基づいている。

《2.背景》

《(1) 経緯》

4.監査報告書は、実施した監査の結果を利用者に伝達する重要な手段である。監査対象の財務諸

表の適否について端的に意見を述べる従来の短文式の監査報告書は、監査人の職業的専門家とし

ての結論が利用者にとって分かりやすい一方で、そのほとんどが標準文言により記載されるため、

監査報告書の情報価値を高める余地があることが欧米の利用者を中心に指摘されてきた。特に、

2000年代後半から、監査報告書の記載内容の見直しに対する要望が強く聞かれるようになった。

このような要望の背景には、監査対象となる財務諸表の変化がある。近年の財務諸表には、経

営者による判断に大きく依存する将来情報に基づく会計上の見積りが多く含まれるようになり、

財務諸表が複雑化・高度化している。財務諸表のどの領域で複雑で高度な会計上の見積りが含ま

れているのか、それに対して監査人はどのような対応を行っているのかについて、情報提供を望

む声が認識されるようになった。加えて、2008年の金融危機において継続企業の前提に関する重

要な不確実性の注意喚起が十分機能しなかったという批判を受け、監査人がどのような点に着目

して監査を実施したのかについての情報を求める声が強く認識されるようになった。

このような利用者からの要請を受けて、国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、2015年1月

に、監査報告書の情報価値を高めるための新しい監査報告書に関する国際監査基準(ISA)を公

表し、上場会社の監査において、監査の過程で監査人が特に重要と判断した事項として Key

Audit Matters(KAM)の記載を求めることとした。また、KAMのほかにも、利用者に対する監査

報告書の情報価値を高めるための改正が行われており、国際監査基準(ISA)を採用する海外の

国々では、2016年12月期より、新しい監査報告書が適用されている。また、米国の公開会社会計

監督委員会(PCAOB)も監査基準を改正し、KAMと同趣旨のCritical Audit Matters(CAM)の記載

が求められることとなり、2019年6月期の大規模早期提出会社の監査から段階的に適用されてい

る。

我が国においては、金融庁に設置された「会計監査の在り方懇談会」の提言(2016年3月公表)

に、会計監査に関する情報の株主等への提供の充実のための施策の一つとして、このような海外

の動向を踏まえた監査報告書による監査業務の透明性の向上が織り込まれた。提言には様々な施

策が織り込まれているが、通底しているのは、高品質で透明性の高い監査を提供する監査人が適

切に評価され、選択される環境を確立しようという考え方である。リスク・アプローチの監査に

おいて監査の技術的な側面を強化するのではなく、監査法人及び監査に関する情報開示の充実に

- 2 -

より、市場の規律に委ね、品質による競争を促すことが企図されていることを認識する必要があ

る。

このような提言を受けて、2017年秋から企業会計審議会において監査基準の改訂に関する審議

が行われ、2018年7月に、KAMに相当する監査上の主要な検討事項の記載を求める改訂監査基準

(以下「2018年改訂監査基準」という。)が公表された。監査上の主要な検討事項は、監査証明

府令により、金商法の監査に2021年3月期より適用されている(2020年3月期より早期適用可)。

《(2) 監査上の主要な検討事項の目的、期待される効果及び性質》

5.監査上の主要な検討事項は、リスク・アプローチの監査において監査人が重点を置いた個々の

会社の監査に固有の情報を記載することにより、実施された監査の透明性を高め、監査報告書の

情報価値を高めることを目的としている。

リスク評価

リスク対応 手続の実施

意見形成

財務諸表 全体に対 する意見

監査報告書

監査意見

KAM

監査プロセスに関する情報

個々の KAM に関する監 査人の結論は財務諸表 全体の意見に反映

監査の透明性 の向上

このような監査プロセスに関する情報を監査報告書に記載することにより、以下の効果が期待

されている(2018年改訂監査基準の前文並びに監基報701第2項及び第3項参照)。従来の標準文

言を中心とした監査報告書では、個々の会社においてどのような監査が実施されたのかに関する

情報の記載がなく、監査がブラックボックスとなっているという批判への対応である。

・ 想定される財務諸表の利用者に監査の品質を評価する新たな検討材料が提供され、監査の信

頼性向上に資する。

・ 想定される財務諸表の利用者の監査及び財務諸表に対する理解が深まり、また、企業や監査

済財務諸表における経営者の重要な判断が含まれる領域を理解するのに役立つ。その結果、利

用者と会社の経営者や監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下「監査役

等」という。)との間の対話が促進される。

・ 監査人と監査役等、監査人と経営者との間での議論が深まり、リスクに関する認識の共有が

促進されることにより、会社のリスクマネジメントの強化、ひいてはコーポレート・ガバナン

スの強化につながる。

また、新たに導入される監査上の主要な検討事項の性質については、以下の点を十分に理解す

る必要がある(監基報701第4項参照)。

・ 経営者が行う注記(適正表示達成のために必要な追加情報の注記を含む。)を代替するもの

ではない。会社の状況に関する開示を適切に行う責任は経営者にあり、会社に代わって事業上

- 3 -

のリスクを監査人が報告することを意図したものでもない。

・ 除外事項を付すべき状況において、除外事項を代替するものではない。監査意見の形成は従

来どおりであり、除外事項付き監査意見に至った根拠は除外事項として記載する。

・ 継続企業の前提に関する重要な不確実性に関して、監査人が利用者に注意喚起するために行

う報告を代替するものではない。

・ 個々の監査上の主要な検討事項について、個別の監査意見を述べるものではない。

《(3) 中長期的視点での対応の必要性》

6.近年、監査品質に影響を及ぼす様々な背景的要因1について、それぞれ重要な変更が加えられよ

うとしている。スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードの制定及び改

訂、会社法の改正、取引所の市場構造の見直し、企業内容等の開示制度における記述情報の拡充

など、大きな変革期を迎えている。これらは、資本市場全体における対話の促進を図ることによ

り、我が国の上場会社の持続的成長を促そうとするものである。監査報告書においても前述の監

査上の主要な検討事項の記載のほか、2020年11月の改訂監査基準により、記述情報を含むその他

の記載内容について、監査人の責任や実施した手続の結果として報告すべき事項の有無等に関す

る記載が求められることとなった。これらの企業の開示制度及び資本市場における様々な取組と

監査報告書の変革の取組が相互に噛み合って、初めて意図した効果が期待できる。

監査人は、今般の監査報告書の変革を単なる監査報告書の記載内容の変更として捉えるのでは

なく、監査の最終受益者にとっての監査の価値を高める中長期にわたる取組として対応していく

必要がある。また、金融庁に設置された「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」

の報告2において、実施した監査について適切な説明を行うことは監査の本来の目的に含まれてお

り監査人の守秘義務が解除される正当な理由に該当することが示されている。財務報告制度に係

る利害関係者の要請に応えて、監査人としての説明責任をどのように果たしていくべきかについ

ても中長期的視点に立って検討を加えていく必要がある。本実務ガイダンスにおいて、監査人の

守秘義務との関係について一部概念的な考察を加えているが、具体的な事例の積上げにより更な

る検討が行われ、利害関係者の認識の共有が図られることが想定されている。

1 品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第1号「監査品質の枠組みに関する実務ガイダンス」では、直 接的又は間接的に監査品質に影響を及ぼす可能性がある背景的要因(環境要因)として 10 の要因を挙げて いる。

2 同懇談会から、2019年1月22日付けで「会計監査に関する情報提供の充実について―通常とは異なる監査

意見等に係る対応を中心として―」が公表されており、金融庁のウェブサイトより入手できる。 https://www.fsa.go.jp/singi/jyouhouteikyou/siryou/20190122/01.pdf

- 4 -

《Ⅱ Q&A》 《1.監査報告書全般のQ&A》

Q1-1 監査報告書の変更点及び共通点

2018 年7月及び 2020 年 11 月の監査基準の改訂に対応するために監査基準報告書等の改正が行

われたが、改正前の監査報告書との変更点、共通点は何か。

改正前の監査報告書との主な変更点及び共通点は以下のとおりである。

《変更点》

独立監査人の監査報告書

① 事務所の所在地を記載することになった(Q

事務所名、所在地

業務執行社員 資格・署名

【財務諸表監査】

監査意見(第 21 項から第 25 項)

監査意見の根拠(第 26 項)

継続企業の前提に関する重要な不確実 性(該当する場合)(第 27 項)

監査上の主要な検討事項(第 28 項及び 第 29 項)

強調事項及びその他の事項(監基報 706 の A16 項及び A17 項)

1-5参照)。

② 利用者にとって関心の高い情報から記載する

ことになり、監査意見を監査報告書の冒頭に記

載することになった。

③ 意見の根拠区分は、無限定意見の場合を含め

常に記載し、我が国における職業倫理に関する

規定に従い独立性を保持し、また、監査人とし

てのその他の倫理上の責任を果たしている旨を

記載することになった。ただし、意見不表明の

場合は、当該記載は監査人の責任区分に記載す

る(監基報705第27項参照)。

④ 継続企業の前提に関する重要な不確実性は、

従来は強調事項区分に記載されていたが、独立

した区分に記載することとなった。

⑤ 「監査上の主要な検討事項」区分が新設され

その他の記載内容(第 33-2 項)

た。

財務諸表に対する経営者及び監査役等 の責任(第 30 項から第 33 項)

財 務 諸 表 監 査 に お け る 監 査 人 の 責 任 (第 34 項~第 38 項)

利害関係

当該会社の監査に固有の情報

標準化された文言

( )内の項番号は、報告書が特定されてい るものを除いて、監査基準報告書 700「財務 諸表に対する意見の形成と監査報告」の項番 号を示している。

⑥ 追記情報と監査上の主要な検討事項の両方に

該当する事項は、監査上の主要な検討事項とし

て記載される。ただし、監査基準報告書で追記

情報として記載することが求められている事項

は、両方の区分に記載する(監基報706参照)。

⑦ 「その他の記載内容」区分が新設された。

⑧ 継続企業の前提に関する経営者及び監査人そ

れぞれの責任の記載が追加された。

⑨ 経営者の責任区分に、監査役若しくは監査役

会、監査等委員会又は監査委員会(以下「監査

役等」という。)の責任の記載が追加された

(監査役等の責任についてはQ1-2参照)。

⑩ 監査人の責任の記載内容が拡充された。

- 5 -

《共通点》

① 監査意見の類型及び監査意見形成における判断の規準は改正前と同じである。「広範」の定

義は表現の見直しが行われたが、監査人の判断の規準を変えるものではない(Q1-6参

照)。

② 追記情報の定義や記載事項は改正前と同じである。記載の要否の判断は、監査上の主要な検

討事項との関係に関する事項を除いて、改正前と同じである(監基報706参照)。

③ 公認会計士法に基づく利害関係の記載は、改正前と同じように、監査報告書の末尾に独立し

た区分に記載する(監基報700のA35項参照)。

(解説)

(1) 監査報告書の記載事項及び記載順序(変更点②から⑦)

2019年2月の改正に伴う監査報告書の変革は、監査報告書の情報価値を高めることを目的とし

ており、その観点から監査報告書の記載の順番についても見直しが行われている。監査報告書の

全体構成は、利用者にとっての関心を考慮して当該会社の監査に固有の情報を先に記載し、どの

会社にも共通する標準化された文言による経営者及び監査役等並びに監査人の責任に関する区分

を後に記載することとしている。

監査報告書の利用者にとって最も関心が高いのは監査意見であるため、監査意見を監査報告書

の冒頭に記載し、続けて「監査意見の根拠」区分を記載することが求められている。「継続企業

の前提に関する重要な不確実性」区分、「監査上の主要な検討事項」区分、追記情報(強調事項

又はその他の事項)及び「その他の記載内容」区分の記載順序については一律に定められていな

いが、利用者にとって関心の高い情報、つまり相対的重要性に関する監査人の判断によって決定

することになる。前頁の図表は、監査基準報告書700及び同570の監査報告書の文例を基にしてお

り、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」区分は財務諸表を理解する上で基礎となる重要

な事項であるため、「監査上の主要な検討事項」区分より上に記載することが想定されている。

(2) 我が国における職業倫理に関する規定の遵守に関する記載(変更点③)

2019年2月の改正により、「監査意見の根拠」区分に、「監査人は、我が国における職業倫理に

関する規定に従って、会社から独立しており、また、監査人としてのその他の倫理上の責任を果

たしている」旨を記載することとなった(監基報700第26項(3)参照)。この記載は、監査人の独

立性への関心の高まりを受けて記載することになった事項であり、監査の透明性向上の一環とし

て、どの国の監査基準に準拠しているのかを記載するのと同様に、どの国の職業倫理に関する規

定に準拠しているのか明示することが求められている。また、我が国の職業倫理に関する規定の

対象は、監査人だけでなく、公認会計士全体を対象にしていることから、職業倫理に関する規定

のうち監査人に関する規定が対象であることを明確化するため、「監査人としてのその他の倫理

上の責任」と記載することとした。

なお、意見不表明の場合には、当該職業倫理に関する規定を遵守している旨の記載は、「財務

諸表監査における監査人の責任」区分に記載される(監基報705第27項参照)。

(3) 継続企業の前提に関する記載の追加(変更点④及び⑧)

継続企業の前提に関する重要な不確実性は、改正前の監査報告書では強調事項の1項目として

- 6 -

「強調事項」区分に記載されていた。しかしながら、継続企業の前提に関する重要な不確実性に

関する注記への利用者に対する注意喚起をより際立たせるために、2019年2月の改正により、独

立した区分を新たに設けて記載することになった。ただし、記載内容に変更はなく、従前と同様

の事項を記載することが求められている(監基報570第21項参照)。

また、2019年2月の改正により、継続企業の前提に関する評価と開示に関する経営者及び監査

人の対応についてより明確にするために、「財務諸表に対する経営者及び監査役等の責任」区分

及び「財務諸表監査における監査人の責任」区分に、継続企業の前提に関する経営者及び監査人

の責任をそれぞれ記載することとなった。

(4) 追記情報(強調事項又はその他の事項)と監査上の主要な検討事項の記載の関係(変更点⑥及

び共通点②)

監査基準報告書701が適用となる場合、「強調事項」区分の利用は、監査上の主要な検討事項の

記載の代替とはならない(監基報706のA1項参照)。監査上の主要な検討事項に該当する項目は、

監査上の主要な検討事項として記載することが求められている。

監査上の主要な検討事項と決定した事項が、同時に強調事項又はその他の事項に該当する場合

には、監査上の主要な検討事項として記載する(監基報706第7項(2)及び第9項(2)参照)。ただ

し、当該事項が、他の監査基準報告書において強調事項又はその他の事項として記載することが

要求されている事項(監基報706の付録1又は付録2参照)である場合には、監査上の主要な検

討事項と強調事項又はその他の事項の両方の区分に記載することになる(監基報706のA4項及び

A9項参照)。

(5) 「その他の記載内容」区分の記載(変更点⑦)

2020年11月改訂以前の監査基準では、追記情報の一つとして、「監査人が監査した財務諸表を

含む開示書類における当該財務諸表の表示とその他の記載内容との重要な相違」が掲げられてい

た。この点、改訂後の監査基準及び監査基準報告書720では、「その他の記載内容」区分を新たに

設け、その他の記載内容の範囲、経営者及び監査役等の責任、監査人は意見を表明するものでは

ない旨、監査人の責任及び報告すべき事項の有無並びに報告すべき事項がある場合はその内容を

記載することとなり(監基報720第20項及び第21項参照)、追記情報には含めないこととなった。

(6) 監査人の責任の記載内容の拡充(変更点⑩)

「監査人の責任」区分の記載内容が拡充され、財務諸表の監査において監査人が実施すること

が求められている基本的な責任とともに、監査の基本的な性質が記載される(監基報700第35項

から第37項参照)。また、従前は「監査人の責任」区分の記載内容が会社の状況によって変わる

ことはなかったが、改正された監査報告書では、下記の各項目はそれぞれ該当する場合にのみ記

載することが要求されている。

- 7 -

適正表示の枠組みに従って作成されて いる場合(監基報700第36項(2)⑤)

監基報600「グループ監査における特別 な考慮事項」が適用となる場合(監基 報700第36項(3))

上場企業の財務諸表監査の場合(監基 報700第37項(2))

監査上の主要な検討事項の記載が法令 により求められる場合又は任意で記載 する場合(監基報700第37項(3))

財務諸表の表示及び注記事項の検討に、注記 を含め財務諸表が適正に表示されているかど うかを評価すること

グループ内の企業又は事業単位の財務情報に 関する十分かつ適切な監査証拠を入手するた めにグループ監査を計画し実施すること、グ ループ監査のために実施される監査の作業の 指揮、監督及び査閲をすること、グループ監 査責任者として単独で監査意見を表明する責 任があること

監査役等に独立性に関する報告を行うこと

監査上の主要な検討事項を決定し、監査報告 書に記載すること

なお、意見不表明の場合には、「財務諸表監査における監査人の責任」区分の記載項目が変更

される(監基報705第27項参照)。

(7) 公認会計士法に基づく利害関係の記載(共通点③)

公認会計士法に基づく利害関係の記載は、監査報告書の末尾の独立した区分に記載される(監

基報700のA35項参照)。これは、財務諸表監査と内部統制監査の一体型の監査報告書の場合に、

内部統制監査報告書においても内部統制府令により利害関係の記載が求められているため、財務

諸表監査と内部統制監査に共通する記載事項として、改正前と同じように監査報告書の末尾の独

立した区分に記載することとした。

なお、連結財務諸表の監査報告書の場合には、監査意見や意見の根拠区分に含まれる独立性に

関する記述と整合するように、「会社及び連結子会社」と記載する。

- 8 -

Q1-2 監査報告書における監査役等の財務報告に関する責任の記載

2018 年7月の監査基準の改訂により、監査報告書において、監査役等の財務報告に関する責任

を記載することになった背景は何か。また、従来からの監査役等の責任に変更があるのか。

監査人の監査報告書に、監査役等の財務諸表に対する責任を記載することになった背景には、監

査役等の財務報告プロセスにおける監視責任の重要性についての認識が高まっていることがある。

現行法令に基づく取締役又は執行役の職務の執行を監査するという監査役等が担っている役割の一

部として、財務報告プロセスを監視する責任があることについて、経営者の財務諸表の作成責任と

並んで監査報告書の利用者に明確に示すこととしたものである。したがって、この記載は、監査役

等の責任の拡大又は変更をもたらすものではない。

(解説)

新しい監査報告書の様式においては、「経営者の責任」区分が「経営者及び監査役等の責任」区

分に拡張され、同区分において、経営者の財務諸表の作成責任の記載と併せて「監査役等の責任」

が記載される。監査役等の責任として、財務報告プロセスの整備及び運用における取締役又は執行

役の職務執行を監視することにある旨が記載される。この記載は、会社法(第381条)は元より、

公益社団法人日本監査役協会が定めている監査役監査基準(第25条及び第45条)において監査役等

に求められている役割を越えた監視責任を求めるものではなく、取締役又は執行役による職務の執

行を監視する監査役等の役割の重要性を踏まえ、監査報告書において明確に記載することにしたも

のである。

なお、2018年改訂監査基準の前文において、監査上の主要な検討事項の記述に当たり、監査人が

会社の未公表情報に言及する必要があると判断した場合、経営者に追加の開示を促す役割を果たす

ことが監査役等に期待される旨の記載がある。これは、監査役等が取締役又は執行役の職務の執行

を監視する責任の一環として示されたものである。また、コーポレートガバナンス・コードにおい

ても、監査役等はその役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託責任を踏まえ、独立した

客観的な立場において適切な判断を行うこと(原則4-4)が想定されている。

監査上の主要な検討事項の導入により、監査人と監査役等との深度あるコミュニケーションの重

要性は一層増していくものと考えられる。

「公益社団法人日本監査役協会 監査役監査基準」より抜粋 (内部統制システムに係る監査) 第25条 1.監査役は、会社の取締役会決議に基づいて整備される次の体制(本基準において「内部統制シス テム」という。)に関して、当該取締役会決議の内容及び当該決議に基づき構築・運用されている内 部統制システムの状況について監視し検証しなければならない。【Lv.1】

一 取締役及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制 二 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制(本条において「法令等遵守体

制」という。)

三 損失の危険の管理に関する規程その他の体制(本条において「損失危険管理体制」という。) 四 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 五 次に掲げる体制その他の会社並びにその親会社及び子会社からなる企業集団における業務の適

正を確保するための体制

- 9 -

イ 子会社の取締役の職務の執行に係る事項の会社への報告に関する体制 ロ 子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制 ハ 子会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 ニ 子会社の取締役、執行役及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保す

るための体制

六 第18条第2項に定める監査役監査の実効性を確保するための体制

2.監査役は、内部統制システムの構築・運用の状況についての報告を代表取締役その他関係する取 締役に対し定期的に求めるほか、内部監査部門等との連携及び会計監査人からの報告等を通じて、 内部統制システムの構築・運用の状況を監視し検証しなければならない。【Lv.2】また、法令等遵守 体制、損失危険管理体制等を所管する取締役が選定され、又はそれらを所管する委員会等が設置さ れている場合には、監査役は、当該取締役又は委員会等から定期的な報告を受領するなど、緊密な 連携を図るよう努める。【Lv.4】 (第3項~第8項 省略)

(法定開示情報等に関する監査) 第45条 1.監査役は、有価証券報告書その他の会社が法令等の規定に従い開示を求められる情報で会社に重 大な影響のあるもの(本条において「法定開示情報等」という。)に重要な誤りがなくかつ内容が 重大な誤解を生ぜしめるものでないことを確保するための体制について、第25条に定めるところに 従い、法定開示情報等の作成及び開示体制の構築・運用の状況を監視し検証する。【Lv.3】

2.監査役は、継続企業の前提に係る事象又は状況、重大な事故または災害、重大な係争事件など、 企業の健全性に重大な影響のある事項について、取締役が情報開示を適時適切な方法により、か つ、十分に行っているかを監視し検証する。【Lv.3】

(各条項のレベル分けについて) 【Lv.1】法定事項 【Lv.2】不遵守があった場合に、善管注意義務違反となる蓋然性が相当程度ある事項 【Lv.3】不遵守が直ちに善管注意義務違反となるわけではないが、不遵守の態様によっては善管注意

義務違反を問われることがあり得る事項

【Lv.4】努力義務事項、望ましい事項、行動規範ではあるが、上記1~3に該当しない事項(検討・

考慮すべきものの具体的な行動指針は示されていない事項等)

【Lv.5】権利の確認等上記1~4に当てはまらない事項

- 10 -

Q1-3 監基報 700 及び同 720 と ISA700 及び同 720 に基づく監査報告書の記載内容の差異

監査基準報告書 700 及び同 720 と国際監査基準(ISA)700 及び同 720 に基づく監査報告書の記

載内容には、どのような差異があるのか。

監査基準報告書700及び同720とISA700及び同720それぞれに基づく監査報告書には、以下の差異

がある。

(1) 経営者の責任:財務報告の枠組みでどのような場合に継続企業の前提が成立していると規定さ

れているかの記載は、監査基準報告書700では求められていない。

(2) 監査人の責任:

① 合理的な保証の説明は、監査基準報告書700では求められていない。

② 不正による重要な虚偽表示についての説明は、監査基準報告書700では求められていない。

③ 監査手続の選択及び適用は監査人の判断による旨の記載は、ISA700では求められていない。

④ 内部統制の評価について、ISA700では内部統制に関する意見を表明するかどうかで文言を変

更するが、監査基準報告書700では内部統制に意見を表明するかどうかで影響を受けない文言

としている。

⑤ 監査基準報告書700では、財務諸表の表示及び注記事項の検討において、財務報告の枠組み

に準拠しているか否かの検討が含まれていることを記載する。

⑥ 監査人の責任に関する記述の一部を適切な当局等のウェブサイトで公開するという選択肢

は、監査基準報告書700では記載されていない。

(3) 利害関係区分は、日本の公認会計士法に基づく記載であり、ISA700では求められていない。

(4) その他の記載内容:

① ISA720では、目論見書を含む証券発行に関する文書を適用対象外としているが、監査基準報

告書720では、適用対象外としていない。

② ISA720では、一定の場合には監査報告書に「その他の記載内容」区分を設けることが求めら

れていないが、監査基準報告書720では、財務諸表に対する意見を表明しない場合を除き、監

査報告書に「その他の記載内容」区分を設けることが求められている。

③ 監査基準報告書720では、その他の記載内容に対する監査役等の責任を記載する。

(解説)

各項目の差異の内容は下記のとおりである。

(1) 経営者の責任-継続企業の前提に関する記述

ISA700では、継続企業の前提に関する経営者の評価責任に、適用される財務報告の枠組みにお

いて、どのような場合に継続企業の前提を適用することが適切であるとされているかに関する記

述を含めることが求められている(下線部。以下は国際会計基準(IFRS)の場合の記述)。

ISA700 財務諸表を作成するに当たり、経営者は、継続 企業の前提に基づき財務諸表を作成することが 適切であるかどうかを評価し、経営者が清算若 しくは事業停止の意図があるか、又はそれ以外 に現実的な代替案がない場合を除いて、継続企

監基報700 財務諸表を作成するに当たり、経営者は、継続 企業の前提に基づき財務諸表を作成することが 適切であるかどうかを評価し、[適用される財務 報告の枠組み]に基づいて継続企業に関する事 項を開示する必要がある場合には当該事項を開

- 11 -

ISA700 業を 前提とし て財務諸表を 作成する 責任が あ る。また、[適用される財務報告の枠組み]に基 づいて継続企業に関する事項を開示する必要が ある場合には当該事項を開示する責任がある。

示する責任がある。

監基報700

日本の会計基準においては、どのような場合に継続企業の前提として財務諸表を作成すべきか

についての明文規定がないため3、監査基準報告書700では当該記述を含めることを求めていない。

ただし、このような記述は、継続企業の前提に関する評価の責任を具体的に説明することに資す

るため、当該記述を任意に含めることは差し支えないものと考えられる。したがって、IFRSや米

会計基準に基づく財務諸表を日本の監査基準に基づき監査を行う場合、適用される財務報告の

枠組みに基づき適切な記述を行うことができる。

(2) 監査人の責任

①合理的保証の説明、②不正による重要な虚偽表示の説明並びに③監査手続の選択及び適用

いずれも財務諸表監査の基本的な概念であり、ISAと我が国の監査基準において考え方が異

なるわけではなく、監査基準で記載が求められているか否かにより、差異となっている事項で

ある。

ISA700 我々の目的は、全体としての財務諸表に不正又 は誤謬による重要な虚偽表示がないかどうかに ついて合理的な保証を得て、監査報告書におい て意見を表明することにある。①合理的な保証 は、高い水準の保証であるが、国際監査基準に 準拠して行った監査が全ての重要な虚偽表示を 常に発見することを保証するものではない。虚 偽表示は、不正又は誤謬により発生する可能性 があり、個別に又は集計すると、財務諸表の利 用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込 まれる場合に、重要性があると判断される。

監査人は、国際監査基準に従って、監査の過程 を通じて、職業的専門家としての判断を行い、 職業的懐疑心を保持して以下を実施する。

⚫ 不正又は誤謬による重要な虚偽表示リスク を識別し、評価する。また、重要な虚偽表 示リスクに対応した監査手続を立案し、実 施する。さらに、意見表明の基礎となる十 分 か つ 適 切 な 監 査 証 拠 を 入 手 す る 。 ② な お、不正には、共謀、文書の偽造、取引等 の記録からの除外、虚偽の説明、又は内部 統制の無効化を伴うため、不正による重要 な虚偽表示リスクは、誤謬による重要な虚 偽表示リスクよりも高くなる。

監基報700 監査人の責任は、監査人が実施した監査に基づ いて、全体としての財務諸表に不正又は誤謬に よる重要な虚偽表示がないかどうかについて合 理的な保証を得て、監査報告書において独立の 立場から財務諸表に対する意見を表明すること にある。虚偽表示は、不正又は誤謬により発生 する可能性があり、個別に又は集計すると、財 務諸表の利用者の意思決定に影響を与えると合 理的に見込まれる場合に、重要性があると判断 される。

監査人は、我が国において一般に公正妥当と認 められる監査の基準に従って、監査の過程を通 じて、職業的専門家としての判断を行い、職業 的懐疑心を保持して以下を実施する。 ⚫ 不正又は誤謬による重要な虚偽表示リスク を識別し、評価する。また、重要な虚偽表 示リスクに対応した監査手続を立案し、実 施する。③監査手続の選択及び適用は監査 人の判断による。さらに、意見表明の基礎 と な る 十 分 か つ 適 切 な 監 査 証 拠 を 入 手 す る。

ISA700に記載されている①合理的保証及び②不正リスクに関する説明は、それぞれ、我が国

3 企業会計基準委員会(ASBJ)において、「財務諸表を継続企業の前提に基づき作成することが適切であるか どうかの判断規準の作成」について検討されている(2019年7月4日付け「現在開発中の会計基準に関する 今後の計画」参照)。

- 12 -

の監査基準及び不正リスク対応基準の前文において同趣旨の内容が記載されている。

・ 合理的な保証(2002年(平成14年)改訂監査基準の前文)

合理的な保証を得たとは、監査が対象とする財務諸表の性格的な特徴(例えば、財務諸表

の作成には経営者による見積りの要素が多く含まれること。)や監査の特性(例えば、試査

で行われること。)などの条件がある中で、職業的専門家としての監査人が一般に公正妥当

と認められる監査の基準に従って監査を実施して、絶対的ではないが相当程度の心証を得た

ことを意味する。

・ 不正リスク(不正リスク対応基準の前文)

不正は他者を欺く行為を伴う意図的な行為であるために、監査人にとって、不正による重

要な虚偽の表示を発見できない可能性は、誤謬による重要な虚偽の表示を発見できない可能

性よりも高くなる。また、経営者により不正が行われる場合には、内部統制が無効化される

場合が多いので、監査人が経営者不正による重要な虚偽の表示を発見できない可能性は、従

業員不正による場合よりも高い。

これらは、監査基準において監査報告書への記載が求められていないことから、監査基準報

告書700においては記載を求めていないが、これらの考え方に関して、我が国の監査基準とISA

との間に相違はないため、監査報告書に記載することが禁止されているわけではない。

また、③の監査手続の選択及び適用は監査人の判断による旨の記載は、ISA700ではそのまま

の文言としての記載は求められていないが、監査の過程を通じて職業的専門家としての判断を

行う旨の記載に含まれていると考えられる。

④ 財務諸表監査における内部統制の検討

ISA700及び監査基準報告書700間で、従前から取扱いが異なっている事項であり、差異の理

由も改訂前と同じである。

ISA700 ⚫ 状況に応じて適切な監査手続を立案するた め に 、 監 査 に 関 連 す る 内 部 統 制 を 理 解 す る。ただし、これは、内部統制の有効性に 対する意見を表明するためではない。

監基報700 ⚫ 財務諸表監査の目的は、内部統制の有効性 について意見表明するためのものではない が 、 監 査 人 は 、 リ ス ク 評 価 の 実 施 に 際 し て、状況に応じた適切な監査手続を立案す るために、監査に関連する内部統制を検討 する。

ISA700では、監査人が財務諸表監査だけでなく、内部統制の有効性についても意見を述べる

場合には、後半の「内部統制の有効性に対する意見を表明するためではない。」旨を記載して

はならないとされている(ISA700第39項(b)(ii)参照)。一方、我が国の監査基準は、監査人が

内部統制の有効性に対して監査意見を表明している場合においても財務諸表監査の目的は変わ

らないため、「財務諸表監査の目的は、内部統制の有効性について意見表明するためのもので

はない」旨の記載を求めている。そのため、監査基準報告書700は、監査基準とISA700の要求

事項の趣旨を同時に満たせるように、内部統制監査を実施しているかどうかによって影響を受

けない文章を記載することとしている(監基報700のA49項参照)。

- 13 -

⑤ 財務諸表の表示及び注記事項の検討

ISA700 (準拠性の枠組みの場合)

記載なし

(適正表示の枠組みの場合) ⚫ 関 連 す る 注 記 事 項 を 含 め た 財 務 諸 表 の 表 示、構成及び内容、並びに財務諸表が基礎 となる取引や会計事象を適正に表示してい るかどうかを評価する。

監基報700

(準拠性の枠組みの場合) ⚫ 財務諸表の表示及び注記事項が[適用される 財務報告の枠組み]に準拠しているかどうか を評価する。

(適正表示の枠組みの場合) ⚫ 財務諸表の表示及び注記事項が、[適用され る財務報告の枠組み]に準拠しているかどう かとともに、関連する注記事項を含めた財 務諸表の表示、構成及び内容、並びに財務 諸表が基礎となる取引や会計事象を適正に 表示しているかどうかを評価する。

ISA700では、財務諸表の表示及び注記事項の検討において、財務報告の枠組みに準拠してい

るかどうかについての記載は含まれておらず、準拠性の枠組みに基づく財務諸表の監査の場合

に、表示及び注記事項の検討に関する記載は求められていない。一方、監査基準報告書700で

は、表示及び注記事項の検討は、財務報告の枠組みが準拠性の場合でも適正表示の場合でも共

に必要であるため、財務諸表の表示及び注記事項が財務報告の枠組みに準拠していることを評

価することを記載することとしている(監基報700第36項(2)⑤参照)。

⑥ 監査人の責任の記載場所

ISA700第41項(c)では、監査人の責任の記載のうち、第39項及び第40項の記載事項を適切な

当局のウェブサイトに載せる方法が選択肢の一つとされている。一方、日本では適切な当局の

ウェブサイトに当該責任の記載内容を掲載する予定はないため、監査基準報告書700ではこの

選択肢は削除されている。

(3) 利害関係の記載

利害関係は、公認会計士法の規定(公認会計士法第25条第2項及び第34条の12第4項参照)に

より記載が求められている我が国固有の記載事項であり、従来どおり、監査報告書の末尾に独立

した区分を設けて、「利害関係」という見出しを付して記載する(監基報700のA35項参照)。

(4) その他の記載内容

ISAでは、ISA720の改訂により、監査報告書に「その他の記載内容」区分を設け、その他の記

載内容に関する記載を行うことが求められている(ISA700第32項参照)。我が国においても、

ISA720の改訂版に対応する監査基準の改訂が行われ、監査報告書上「その他の記載内容」区分を

設けることが求められているが、以下の点で差異が存在する。

① 目論見書を含む証券発行に関する文書を対象とするか。

一般的に、証券発行に関する文書に対する監査人の責任は各国の法令等により定められてお

り、そのような法令等と重要な不整合が生じる可能性があることから、ISA720は目論見書を含

む証券発行に関する文書をその適用対象外としている(ISA720第7項(a)参照)。

一方、監査基準報告書720は、証券発行に関する文書を適用対象外としていない(監基報720

第7項参照)。したがって、監査基準報告書720は、目論見書を含む証券発行に関する文書にも

適用され、監査報告書において「その他の記載内容」区分を設けて報告することが求められる

(Q1-8参照)。

- 14 -

② 「その他の記載内容」区分を設けるかどうか。

ISA720では、上場企業の監査においては監査報告書日時点でその他の記載内容を入手してい

るか、又は入手予定である場合、若しくは上場企業以外の監査においては監査報告書日時点で

その他の記載内容の一部又は全部を入手している場合に、監査報告書に「その他の記載内容」

区分を設けることが求められている(ISA720第21項参照)。つまり、その他の記載内容が存在

しないと判断している場合や、上場企業以外の企業の監査において監査報告書日時点でその他

の記載内容を全く入手していない場合には、ISA720では監査人は監査報告書に「その他の記載

内容」区分を設けることは求められていない。

一方、監査基準報告書720においては、その他の記載内容に関する監査報告書の記載には、

上場企業の監査か非上場企業の監査かによる違いがなく、また、その他の記載内容が存在しな

いと判断している場合であっても「その他の記載内容」区分を設けることが求められている

(監基報720第20項)。したがって、監査基準報告書720においては、財務諸表に対する意見を

表明しない場合を除き、いかなる場合においても「その他の記載内容」区分を設けることが求

められる。

なお、その他の記載内容が存在しないと監査人が判断した場合には、監査報告書利用者が理

解し得るよう、その旨を「その他の記載内容」区分を設けて明記することが求められている。

③ 監査役等の責任の記載

ISA720では、その他の記載内容に対する監査役等の責任について特段の言及はないが、監査

基準報告書720では、財務諸表についての財務報告プロセスの整備及び運用における取締役の

職務の執行を監視する場合と同様に、その他の記載内容についても取締役の職務の執行を監視

する責任があることを明確にするために、その他の記載内容に対する監査役等の責任を記載す

ることとしている(監基報720第21項(2)参照)。

- 15 -

Q1-4 日本の監査の基準に基づいて英文で監査報告書を作成する場合の留意点

改訂された日本の監査の基準に従って新しい監査報告書を英文(日本語以外の言語)で作成す

る場合、どのような点に留意すればよいか。

我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準(日本の監査の基準)に準拠して監査を

実施し、監査報告書を作成する場合は、作成する言語にかかわらず、監査の基準のみならず、以下

の公認会計士法の規定に従う必要があることに留意する。

・ 会社その他の者との利害関係の有無の記載(同法第25条第2項及び第34条の12第4項参照)

・ 業務執行社員は、その資格を表示し、署名すること(同法第34条の12第2項参照)

なお、監査人が公認会計士の場合、公認会計士法上は署名は求められていないが、金商法に基づ

く監査の場合は、監査法人の場合と同様に署名することが求められている(監査証明府令第4条第

1項参照)。そのため、日本語による監査報告書では金商法以外の監査報告書においても監査法人

と同様に署名していることから、日本語以外の言語で監査報告書を作成する場合においても同様の

扱いとすることが適切である。

(解説)

2019年2月に改正された監査基準報告書700は、国際監査基準(ISA)700(改正)との整合性を

確保するための改正が行われており、監査報告書に監査責任者の氏名を含めること(監基報700第

41項参照)が新たに要求事項として設けられている。一方、我が国では、従来より、公認会計士法

の規定に基づいて利害関係の有無の記載及び監査法人の場合は業務執行社員の署名が求められてい

ることから、新設された要求事項との関係を明瞭化する必要が生じた。

企業活動のグローバル化の進展に伴い、日本語以外の言語で財務諸表及びそれに対する監査報告

書を任意で作成するケースが増加している。また、海外投資家から有価証券報告書の英訳のニーズ

が高まっていることを受けて、以下に、任意の監査契約に基づき日本語以外の言語により作成され

た財務諸表に対する監査報告書を作成する場合と、海外の利用者の利便性を勘案して日本語の財務

諸表及び監査報告書を他言語に翻訳版として提供する場合に分けて、留意点を記載する。

なお、海外の法令又は取引所の規則により現地の言語で監査報告書を作成する場合は、現地の法

令又は規則を遵守する必要があるため、当Q&Aの対象とはしていない。

(1) 任意の監査契約に基づき、日本語以外の言語により監査報告書を作成する場合

① 利害関係の記載

監査意見の根拠区分において、我が国における職業倫理に関する規定に従って、会社(連結

財務諸表監査の場合は「会社及び連結子会社」)から独立している旨の記載があるが、その記

載に加え、監査報告書の末尾に我が国の公認会計士法に基づき記載すべき利害関係がないかど

うかを記載する(監基報700のA35項参照)。

英文の記載例

Interest required to be disclosed by the Certified Public Accountants Act of Japan Our firm and its designated engagement partners do not have any interest in the Company (and its consolidated subsidiaries) which is required to be disclosed pursuant to the provisions of the Certified Public Accountants Act of Japan.

- 16 -

② 業務執行社員の署名

日本語以外の言語の場合も、監査報告書の原本には、監査法人のときは公認会計士法の規定

に従って業務執行社員はその資格を表示し、個人名で署名する必要がある。資格としては、公

会計士であることのほか、監査法人において当該業務について業務執行を行う権利を有し義

務を負っていることを示す必要がある。公認会計士の場合も、監査の根拠法令の規定の有無に

よらず4、日本語による監査報告書において公認会計士の資格を表示して署名する実務が定着し

ていることから、個人名で署名する。

署名は、日本語又は他言語のいずれでもよい。また、法人名の署名を併せて記載することが

できる。署名した監査報告書の原本は、会社及び監査法人において備置することを想定してい

る。

英文監査報告書(原本)の記載例 業務執行社員の個人名の署名 業務執行社員の氏名(英字で記名) Designated Engagement Partner* Certified Public Accountant

監査法人名の英文署名(任意) 監査法人英文名称(英字で記名) Tokyo, Japan xx、June ,2020

業務執行社員の個人名の署名 業務執行社員の氏名(英字で記名) Designated Engagement Partner* Certified Public Accountant

* 無限責任監査法人において指定証明でない場合は、資格として「Representative Partner(代

表社員の場合のみ)、Engagement Partner、Certified Public Accountant」と表記する。個人

の場合は、資格として「Certified Public Accountant」のみを記載する。

なお、会社のウェブサイト又は印刷物などにより年次報告書を広く一般に提供する場合は、

業務執行社員の署名又は法人名の署名のいずれかを省略したり、記名のみの監査報告書とする

ことができる。記名のみの監査報告書が許容されるとした背景には、我が国において株主への

招集通知やEDINETに含まれる日本語の監査報告書は署名を付さない実務が定着していること、

及び海外企業のウェブサイトに掲載されている年次報告書に含まれる監査報告書に署名(のコ

ピー)がなく記名のみの報告書も散見されることなどがある。

③ ISA700の文例の利用

監査基準報告書700の監査報告書の文例は、ISA700の文例に基本的には整合しているが、以

下の記載が省略されている(Q1-3参照)。

ア.経営者の継続企業の前提に関する評価責任に関して、財務報告の枠組みにおいてどのよう

な場合に継続企業の前提に基づき財務諸表を作成することとされているかの説明(ISA700第

34項(b)参照)

イ.合理的な保証に関する説明(ISA700第38項(b)参照)

4 例えば、現行の会社法及び関連省令上、公認会計士又は監査法人ともに監査報告書における署名に関する

規定はない。

- 17 -

ウ.不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクに関する説明(ISA700第39項(b)(i)参

照)

これらの項目は、監査基準において監査報告書への記載が求められていないことから、監査

基準報告書700においては含めていないが、監査報告書に記載することを禁止するものではな

い。したがって、英文の監査報告書にこれらの記載を加える場合は、ISA700の文例に含まれて

いる記述を利用することができる(ア.は、適用される財務報告の枠組みがIFRSの場合の文例

がISA700に示されている。)。

④ 監査報告書の様式

我が国の監査報告書は、監査報告書日、監査法人名、事務所所在地、業務執行社員名を監査

報告書の冒頭に記載する様式をとっているが、英文などの他言語の監査報告書の場合は、国際

的な慣行に従い、監査報告書の末尾に記載することもできる。その際、ISA700の監査報告書の

文例が参考となる。

(2) 日本語の監査報告書を他言語に翻訳する場合

我が国の会社法又は金商法等の法令に基づき日本語で作成した財務諸表及びその監査報告書を

他言語に翻訳する場合は、監査報告書は、その様式を含め、忠実に翻訳する必要がある。また、

監査報告書の原本は日本語で作成されており、翻訳したものであることを以下の方法により監査

報告書に記載する。

・ 監査報告書の表題(Independent Auditor’s Report)の上に、以下のいずれかを付す。

‐ Translation

‐ English Translation

‐ English Translation of the Independent Auditor’s Report Originally issued in the

Japanese Language

なお、会社法に基づく事業報告等又は金商法に基づく有価証券報告書の文書全体について英訳

であることが明示されている場合は、省略できる。

・ 監査報告書の末尾に以下の注意書きを記載する。日本語の監査報告書の原本は会社が保管し

ている旨を併せて記載してもよい。

Notes to the Readers of Independent Auditor’s Report This is an English translation of the Independent Auditor’s Report as required by the Companies Act of Japan * for the conveniences of the reader. * 金商法に基づく監査報告書の場合は、「the Companies Act of Japan」を 「the

Financial Instruments and Exchange Act of Japan」に変更する。

- 18 -

Q1-5 監査事務所の所在地の記載

監査報告書における監査事務所の所在地は、どのように記載すればよいか。

監査報告書における事務所の所在地をどのように記載するか、また、複数の事業所がある場合に

どの事業所の所在地を記載するかは、各監査事務所の方針に従って記載することになる。なお、所

在地の記載方法は、監査基準報告書 700 の A56 項の例示の方法以外にも、事務所の住所を記載する

方法も考えられる。

(解説)

2019 年2月の改正により、監査基準報告書 700 の要求事項どおりに日本語の監査報告書において

も監査事務所の所在地を記載することになった。その理由は、以下のとおりである。

・ 監査の透明性の向上の要請が高まっており、監査事務所の所在地も透明性の一つと考えられる。

特に、複数の事業所を有する監査事務所の場合、事務所所在地の記載により当該監査契約の管理

責任が明確になる。

・ 海外投資家から有価証券報告書の英文化への要請が高まっており、監査上の主要な検討事項の

導入とともに有価証券報告書に含まれる英文監査報告書のニーズも高まることが予想される。従

来から、英文監査報告書においては要求事項どおりに事務所所在地を記載しており、日本語と英

語の監査報告書に差を設ける理由に乏しい。

監査基準報告書700第43項では、「監査報告書には、監査事務所の所在地を記載しなければならな

い。」とされているが、適用指針(監基報700のA56項参照)又は付録の監査報告書の文例では、監

査事務所の所在地の記載方法として以下の例が複数示されている。これらは、例示であり、他の適

切な記載方法を選択することができる。

・ 監査責任者が執務する事業所の都市名又は市町村名

・ 登記されている事業所名(「東京事務所」など、事業所名が所在地を表している場合)

・ 国外で流通する外国文の監査報告書の場合は、監査責任者が執務する事業所の都市名に加え、

国名

また、複数の事業所を有する場合には、どの事業所の所在地を記載するかについての方針を決定

しておく必要が生じることがある。例えば、複数の監査責任者が選任される監査業務において監査

責任者それぞれが所属している事業所の所在地が異なっている場合や、監査チームが複数の事業所

の社員及び職員により構成されている場合などである。そのような場合に、どの事業所の所在地を

記載するかは、契約を所管している事業所や主として監査を実施した事業所など、各監査事務所の

方針に従って記載することになる。

- 19 -

Q1-6 除外事項の重要性と広範性及び除外事項の記載上の留意点

2019 年2月の監査基準報告書 705 の改正において除外事項の「広範」の定義が変更されている

が、どのような意図か。また、除外事項の記載に当たり、留意する点は何か。

監査基準報告書 705 の「広範」の定義の表現をより分かりやすくなるように見直したが、広範性

の概念を変更することを意図するものではなく、したがって、除外事項の重要性と広範性に基づき

意見形成を行うことも、従前と何ら変わるところはない。

広範性は、注記事項を含め財務諸表に未修正の重要な虚偽表示がある場合、未修正の重要な虚偽

表示の財務諸表全体に及ぼす影響の程度、又は重要な監査手続が実施できず十分かつ適切な監査証

拠を入手できなかったため、未発見の重要な虚偽表示の可能性がある場合(監査範囲の制約)、未

発見の重要な虚偽表示の財務諸表全体に及ぼす可能性のある影響の程度を説明するために用いられ

る。

除外事項付意見の根拠区分に除外事項を記載するに当たっては、監査報告書の利用者の視点に立

って、除外事項付意見に至った監査人の判断の根拠を分かりやすく具体的に記載することが重要で

ある。

(解説)

(1) 「広範」の定義

監査の結果、無限定意見を表明できない原因となった事項を総称して除外事項と呼んでいるが、

除外事項の区分及び意見形成における考え方は、従前のとおりである。「広範」の定義の表現の

見直しのポイントは以下のとおりである。

・ 定義において、「未修正の虚偽表示」は適用される財務報告の枠組みに照らして財務諸表に

不適切な事項が未修正のまま含まれている状況を表す用語として用いている。「未発見の虚偽

表示」は、無限定意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できず、財務諸表に重

要な虚偽表示が未発見のまま含まれている可能性がある状況を表す用語として用いている。

・ 「未修正の虚偽表示」又は「未発見の虚偽表示」は、財務諸表本表のみならず、注記事項に

おいても存在又は存在する可能性があることを明確化した。注記事項の未修正の虚偽表示には、

注記内容が不適切又は不完全である場合や、財務報告の枠組みにおいて明示的に要求されてい

ないが、注記を求める趣旨に照らして必要と考えられる注記がなされていない場合、又は適正

表示の枠組みに基づき作成された財務諸表の場合で、財務報告の枠組みでは明示的に求められ

ていないが、適正表示の目的を達成するために必要な注記が行われていない場合などが含まれ

る(監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」第3項及びA1項参照)。

未修正の虚偽表示 重要であるが広範でない。

除外事項を付した限定意見

重要であり、かつ、広範である。 否定的意見

未発見の虚偽表示 重要であるが広範でない。

除外事項を付した限定意見

重要であり、かつ、広範である。 意見不表明

虚偽表示の評価に当たって適用する「重要性」の概念についても特段の変更はない。監査人は、

未修正の虚偽表示が重要であるかどうかを判断するに当たっては、過年度の未修正の虚偽表示が

- 20 -

当期の財務諸表に及ぼす影響も含め、未修正の虚偽表示が財務諸表及び関連する取引種類、勘定

残高又は注記事項に対する虚偽表示の大きさと内容、並びに虚偽表示が発生した特定の状況を考

慮することが求められている(監基報450第10項参照)。ただし、定性的な注記事項に重要な虚偽

表示があるかどうかについては、金額に関する虚偽表示のように合算することはできないため、

2019年6月に改正された監査基準報告書450において指針(A16項、A17項及びA21項)が追加され

ている。

「広範性」の概念は、財務諸表全体に及ぼす影響の程度であり、未修正の虚偽表示の場合は、

当該虚偽表示が財務諸表の全体像を大きく歪め、財務諸表全体が虚偽の表示に当たる場合に「広

範」な影響を及ぼしていることになる。また、未発見の虚偽表示の場合は、十分かつ適切な監査

証拠を入手できなかった影響が財務諸表全体に対する意見表明ができない程である場合に「広範」

な影響を及ぼしていることになる。

それに対して、除外事項を付した限定意見の場合は、除外事項以外の部分は適正である(又は

準拠性の枠組みの場合は財務報告の枠組みに準拠している)ということを意味しており、利用者

は、除外事項に記載された除外事項の内容及び財務諸表に及ぼす影響に関する情報を用いて、財

務諸表を補正して利用することができる。

(2) 除外事項の記載に当たっての留意点

監査の最終受益者である監査報告書の利用者にとって、監査報告書で一番関心が高いのは、監

査意見である。とりわけ、除外事項付意見の場合、監査人がなぜ、除外事項付意見を表明するに

至ったかの根拠に対する利用者の関心は格段に高くなる。したがって、監査人は、除外事項の記

載に当たっては、利用者の視点に立って、以下の点に留意して除外事項付意見に至った監査人の

判断の根拠を分かりやすく具体的に記載することが重要である。

また、除外事項を付した限定意見の場合、未修正又は未発見の虚偽表示の影響が重要ではある

が広範ではないと判断した根拠が適切に記載されているかどうかに注意を払う必要がある。通常

は、未修正の虚偽表示又は未発見の虚偽表示について、以下を記載することにより、監査人の判

断の根拠が説明されていると考えられる。

・ 財務諸表のどの勘定残高、取引種類又は注記事項に関連するのか。

・ どのようなタイプの虚偽表示であるのか(アサーションを念頭において、実在性/発生、網

羅性、正確性、評価の妥当性、期間帰属、表示及び注記等のどれに関連する虚偽表示であるの

か。)。

・ なぜ、虚偽表示となったのか(財務報告の枠組みの理解の誤りか、会計方針の適用誤りか、

基礎となるデータの収集又は処理の誤りかなど)、なぜ、重要な手続が実施できず十分かつ適

切な監査証拠を入手できなかったのか。除外事項付意見の形成において、監査人は未修正又は

未発見の虚偽表示の金額的影響のみならず質的な要素を含め様々な観点から検討を加えること

が求められているが、その意見形成における論理的筋道を個々の状況の背景とともに分かりや

すく説明する。

・ 財務諸表に計上又は注記される金額に関する虚偽表示の場合は、未修正の虚偽表示の金額的

な影響額、又は十分かつ適切な監査証拠が入手できない勘定残高、取引種類又は注記事項の金

額。金額的な影響額は、概算値や範囲で示すこともある。なお、金額的な影響額を算定できる

- 21 -

かどうかは、算定に必要な資料の入手可能性や監査報告書の提出期限に依存するため、金額的

影響を算定することが困難な場合は、その旨を記載することが求められている(監基報705第

20項参照)。

なお、財務諸表に開示することが必要な情報が開示されていない場合、監査人は、除外事項に

おいてどのような情報が開示されていないかについて記載することが求められているが、法令等

により禁止されておらず、実務的に困難でなく、かつ十分かつ適切な監査証拠を入手したときの

み、除外事項に本来経営者が開示すべき情報の内容を記載することが求められている(監基報

705第22項参照)。これは、財務報告の枠組みに従って必要な開示を行う責任は経営者にあり、監

査人にはないことと、十分な裏付けのない不正確な情報を監査報告書に記載することは職業的専

門家として避けなければならない(倫理規則の誠実性の原則)ためである。

以下の場合は、特に、除外事項の記載が監査人の重要な判断の内容を適切に伝達しているかど

うかについて、慎重に検討することが適切である。

・ 定性的な注記事項の虚偽表示の場合(虚偽表示であると判断した定性的な注記事項の内容に

ついて説明し(監基報705第21項参照)、なぜ、虚偽表示と判断したのかが明確に説明されて

いるか。)

・ 新しい取引形態の場合など、会計処理の方法が財務報告の枠組みで定まっていない場合(会

社が採用した会計方針が適用される財務報告の枠組みの基礎となる考え方とどのような点が乖

離しているのか、重要な会計方針の定性的な説明が不適切又は不完全であるのかなど、監査人

が虚偽表示と判断した根拠が明確に説明されているか。)

・ 除外事項を付した限定意見の場合(なぜ、未修正又は未発見の虚偽表示が広範でないと判断

したのか。単に「広範でないと判断した」という定型句ではなく、個々の状況における職業的

専門家としての監査人の判断の論理的筋道が説明されているか。)

- 22 -

Q1-7 継続企業の前提に関する注記又は開示の検討における変更点

2018 年7月及び 2020 年 11 月の監査基準の改訂によって継続企業の前提に関する注記又は開示

の検討に関して、どのような変更が行われたのか。

2018年7月及び2020年11月の監査基準の改訂によっても継続企業の前提に関する財務諸表への注

記又は財務諸表外のその他の記載内容における開示の記載要件に変更はないが、継続企業の前提に

関する情報は利用者にとって関心が高い情報であると考えられることから、財務諸表における注記

又はその他の記載内容における開示状況の検討に関する要求事項及び適用指針が拡充されている

(監基報570第19項及びA21項からA24項参照)。

また、監査上の主要な検討事項が適用となる監査の場合、継続企業の前提に関する重要な不確実

性が存在すると判断した場合、その結論に至るまでの検討は当期の監査において監査人が特に重要

であると判断するものと考えられるため、定義上、監査上の主要な検討事項に該当する。ただし、

重要な不確実性に関しては、その重要性に鑑み、独立した区分に記載することになったため、監査

上の主要な検討事項の区分には記載しないこととされている(監基報701第14項参照)。

(解説)

我が国においては、財務諸表に関する表示及び注記に関する法令(財務諸表等規則や会社計算規

則など)により、継続企業の前提に関して重要な不確実性が認められる場合は財務諸表への注記が

求められている。加えて、その他の記載内容に関する開示の規則(開示府令など)により、重要な

不確実性には至らないが継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせる事象又は状況が存在する

場合は、財務諸表外のその他の記載内容における開示が求められている。

継続企業の前提に関して重要な不確実性が認められるかどうかの検討は、監査における重要な検

討項目であるため、2019年2月の改正後の監査基準報告書570の適用指針において、以下の指針が

追加されている。

要求事項 適用される財務報告の枠組みによ り要求される事項に基づき、財務 諸表に当該事象又は状況について 注記がなされているかどうかを評 価しなければならない。

開示に関する規則等によって、当 該事象又は状況についてその他の 記載内容に開示することが求めら れている場合、監査基準報告書720 に基づき、その他の記載内容を通 読しなければならない。監査基準 報 告 書720 では 通読 の 過程 に おい て、その他の記載内容と財務諸表 の 間 に 重 要 な 相 違 が あ る か ど う か、その他の記載内容と監査人が

指針 ⚫ 財務報告の枠組み(例えば、米国会計基準)によって は、重要な疑義又は事象を財務諸表に注記することを求 めている場合があることを例示している(監基報570の A23項)。

⚫ 財務諸表が適正表示の枠組みに基づき作成されている場 合、適正表示を達成するために追加情報の記載が必要と 判断することがある旨を例示している(監基報570のA24 項)。

⚫ 我が国においては、開示に関する規則等によって、当該 事象又は状況の開示が求められている場合があることを 示している(監基報570のA24項)。 — 金商法の開示制度においては、開示府令により、そ の旨、その内容及び経営者による対応策を有価証券 報告書の「事業等のリスク」に記載することが求め られている。

— 会社法では事業報告に当該事項を記載することは明 示的には求められていないが、「株式会社の現況に 関する重要な事項(会社法施行規則第120条第1項第

- 23 -

要求事項 監査の過程で得た知識の間に重要 な相違があるかどうかを検討する ことが求められている。また、財 務諸表又は監査人が監査の過程で 得た知識に関連しないその他の記 載内容について、重要な誤りがあ ると思われる兆候に注意を払うこ とが求められている。

指針

9号参照)」等に記載することが望ましいと考えら れる。

— 監査人は、継続企業の前提に関する「事業等のリス ク」等のその他の記載内容は監査対象ではないが、 注意して通読する必要がある。

- 24 -

Q1-8 証券発行に関する文書におけるその他の記載内容の適用範囲

監査基準報告書 720 は、証券発行に関する文書についても適用対象外としていない(Q1-3 参照)が、具体的にどのようなものが証券発行に関する文書に含まれ、また、それらの文書に含 まれるどの部分がその他の記載内容に該当する情報となるのか。

我が国における証券発行に関する文書としては、有価証券届出書及び目論見書並びに新規上場申

請のための有価証券報告書(Ⅰの部)が存在し、これらの文書には監査した財務諸表及びその監査

報告書が含まれる。したがって、これらの文書はいずれも監査基準報告書720の適用対象となると

考えられる。

また、その場合におけるその他の記載内容に該当する情報の範囲については、監査基準報告書

720の適用対象となるその他の記載内容が通常、年次報告書(例えば、有価証券報告書)に含まれ

る情報であること(監基報720第11項(1)及び(3)参照)に鑑み、その場合と同等の範囲を対象とす

ることが妥当であると考えられる。なお、金商法に基づくものについては、監査証明府令において

その他の記載内容となる情報の範囲が示されている。

一方、海外における資金調達の際に現地国の法令に従って発行される証券発行に関する文書につ

いては、監査基準報告書720の適用対象外になると考えられる。

(解説)

我が国における証券発行に関する文書としては、金商法に基づく有価証券届出書及び目論見書並

びに証券取引所上場規程等に基づく新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)が存在する。

このうち、金商法に基づくものについては、監査証明府令において適用対象になることが明示され

ているが、これらは提出の根拠となる法令等、目的、提出時期等において違いが見受けられるもの

の、その内容は多くの点で共通であるため、いずれも監査基準報告書720の適用対象となると考え

られる。

ただし、有価証券届出書を組込方式で提出する場合(金商法第5条第3項参照)、届出書には直

近の有価証券報告書等の写しがとじ込まれ、また、参照方式で提出する場合(同法第5条第4項参

照)、届出書自体には監査報告書が含まれない。したがって、これらの場合には、とじ込まれた文

書又は参照元となる文書に含まれるその他の記載内容を適用対象とした監査報告書が発行済みであ

り、届出書等の提出時点で新たに監査報告書は発行されないため、監査基準報告書720の適用の問

題は生じない。

次に、証券発行に関する文書に監査基準報告書720が適用となる場合、その他の記載内容に該当

する情報の範囲については、監査基準報告書720が通常、年次報告書に含まれる情報のうち財務諸

表及びその監査報告書以外の情報を対象としていることに鑑み、それと同等の範囲を対象とするこ

とが妥当であると考えられる(監基報720第11項(1)及び(3)参照)。このうち、金商法に基づくもの

については、監査証明府令第4条第6項において、有価証券届出書のうち財務諸表等及び監査報告

書並びに証券情報、組織再編に関する情報その他これらに類する情報に関する事項以外の記載内容

とされている。さらに、2021年6月25日公表の「「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一

部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁

の考え方」の中で、「その他これらに類する情報に関する事項」には、例えば、開示府令第8条第

- 25 -

1項及び第2項で規定する区分に応じた有価証券届出書の各様式の記載事項のうち、「特別情報」、

「提出会社の特別情報」、「組織再編成対象会社情報」、「株式公開情報」が該当する旨が示されてい

る。すなわち、有価証券報告書(第三号様式)の場合、その他の記載内容は「第一部 企業情報」

及び「第二部 提出会社の保証会社等の情報」のうち、財務諸表及びその監査報告書以外の情報が

その対象となるため、例えば、通常方式(第二号様式)による有価証券届出書の監査の場合であれ

ば、「第二部 企業情報」及び「第三部 提出会社の保証会社等の情報」のうち、財務諸表及びその

監査報告書以外の情報がその対象となると考えられる。対象範囲の詳細については、後掲の表を参

照のこと。

一方、海外における資金調達の際に現地国の法令に従って発行される証券発行に関する文書につ

いては、その内容は一律ではなく、また、それらの文書に対する監査人の責任についても各国の法

令等により別途定められている場合がある。ISA720においても、このような事情を踏まえて、証券

発行に関する文書を適用対象外としていることも踏まえ(Q1-3参照)、これらの文書について

は監査基準報告書720の適用対象外になると考えられる。

(主な様式とその他の記載内容の対象範囲:★印を付した項目)

主な様式

【参考】 有価証券 報告書 (第三号 様式)

根拠

金商法 第 24 条

有価証券届出書(注)

通常方式 (第二号 様式)

組込方式 (第二号の二 様式)

参照方式 (第二号の三 様式)

新規公開 (第二号の四 様式)

金商法第5条

新規上場申請のた めの 有価証券報告書 (Ⅰの部)

有価証券上場規 程第 204 条等

新規発行 監査報告書

監基報 720 の対象と なるか

記載事項

対象となる

対象となる

第一部 証券情報

対象と ならない

第一部 証券情報

対象と ならない

第一部 証券情報

対象となる

対象となる

第一部 証券情報

第一部 企業情報★

第二部 企業情報★

第二部 企業情報★

第一部 企業情報★

第二部 公開買付けに 関する情報

第二部 公開買付けに 関する情報

第三部 参照情報

第三部 追完情報

第四部 組込情報

第二部

第三部

第五部

第四部

第二部 提出会社の保証 会社等の情報★

- 26 -

提出会社の 保証会社等 の情報★

提出会社の保 証会社等の情 報★

提出会社の保 証会社等の情 報

提出会社の保 証会社等の情 報

第四部 特別情報

第六部 特別情報

第五部 特別情報

第三部 特別情報

第三部 特別情報

第四部 株式公開情報

第四部 株式公開情報

(注) 1.上記以外の様式の届出書についても、新規発行の監査報告書がある場合におけるその他の記載内容に該当

する情報の範囲については、通常方式に準じて判断する。

2.目論見書においては、対応する有価証券届出書のうち、太字の項目を記載する。その他の記載内容に該当 する情報の範囲については、対応する有価証券届出書に準じて判断する。

- 27 -

Q1-9 開示書類等において、監査報告書を開示せず、監査を受けている旨の記載を企業が行う

場合の留意点

開示書類等において監査報告書を開示せず監査を受けている旨のみの記載が行われることがあ

る。そのような場合の留意点は何か。

監査基準及び監査基準報告書においては、監査を受けている旨の伝達のみならず、監査意見を表

明することによって監査人の総括的な目的が達成できること、また、監査の結果の伝達に当たって

は、監査意見の表明のみならず、監査人の責任並びに経営者及び監査役の責任が伝達されることが

示されている5。これらの点を踏まえれば監査報告書はその全文を掲示し、対象である財務諸表と一

体で利用されることが想定されていると考えられる。

しかし、法令等の要請を含め、実務上、開示書類等において監査報告書を開示せず監査を受けて

いる旨のみの記載が行われることがある。また、監査対象の財務諸表が開示又は特定されていない

こともある。

単に監査を受けている旨の記載のみがなされると監査意見の内容について利用者の誤解が生じる

リスクがある。また、対象である財務諸表が特定されない場合、監査対象の財務諸表やその範囲に

ついて利用者の誤解が生じるリスクがある。したがって、監査意見の内容や監査対象の財務諸表に

ついて利用者の誤解が生じないように、監査意見の類型の記載や監査対象の財務諸表に関する追加

的な情報の記載を行うなど状況に応じた対応をとることが重要である。

(解説)

開示書類等に財務諸表が含まれるか、当該財務諸表は監査対象財務諸表と一致しているか、監査

対象財務諸表が文言で特定されているかにより状況を分類すると、下記図表の六つの状況例に分類

できる。

5 監査基準報告書 200「財務諸表監査における総括的な目的」においては、監査人の総括的な目的に「監査人 の発見事項に従って、財務諸表について監査意見を表明する」ことが含まれている(同第 10 項)。 また、「監査報告書は、監査の結果として、財務諸表に対する監査人の意見を表明する手段であるとともに、 監査人が自己の意見に関する責任を正式に認める手段である」(大蔵省企業会計審議会中間報告「監査基準の 設定について」1956 年 12 月 25 日)とされている。 さらに、監査報告書には、想定利用者の理解を促すために、いわゆる二重責任の原則について明示する取 扱が導入され(企業会計審議会「監査基準の改訂について」2002 年1月 25 日)、それを推し進める形で、経 営者及び監査役並びに監査人の責任を監査報告書に記載することが求められている。

- 28 -

状況例ごとの起こり得る利用者の誤解は以下のとおりである。実務上は状況例3及び4の状況が

多く存在していると考えられるが、開示されている財務諸表と監査対象の財務諸表とが異なる場合

には利用者の誤解が生じるリスクが大きくなるため特に慎重な検討が望まれる。

状況例

起こり得る利用者の誤解

区分

・ 監査対象の財務諸表が転載されている。 ・ 「××年の計算書類」等、対象を文言で特 定した上で監査を受けている旨が記載されて いる。

・ 監査対象の財務諸表が転載されている。 ・ 監査を受けている旨の記載において対象財

務諸表が特定されていない。

・ 要約財務諸表など、監査対象の財務諸表と

異なる財務諸表が開示されている。

・ 「××年の計算書類」等、対象を文言で特 定した上で監査を受けている旨が記載されて いる。

・ 要約財務諸表など、監査対象の財務諸表と

異なる財務諸表が開示されている。

・ 監査を受けている旨の記載において対象財

務諸表が特定されていない。

・ 財務諸表は開示されていない。 ・ 「××年の計算書類」等、対象を文言で特 定した上で監査を受けている旨が記載されて いる。

・ 財務諸表は開示されていない。 ・ 監査を受けている旨の記載において対象財

務諸表が特定されていない。

(1) 監査意見の内容の誤解や、その他監査報告書に含 まれる強調事項などの重要事項について認識できな い可能性が生じる。

(1) 監査意見の内容の誤解や、その他監査報告書に含 まれる強調事項などの重要事項について認識できな い可能性が生じる。

(監査対象の財務諸表の誤認は生じないが特定するこ

とが望ましいと考えられる。)

(1) 監査意見の内容の誤解や、その他監査報告書に含 まれる強調事項などの重要事項について認識できな い可能性が生じる。

(2) 監査対象の財務諸表の誤認が生じる。

(1) 監査意見の内容の誤解や、その他監査報告書に含 まれる強調事項などの重要事項について認識できな い可能性が生じる。

(2) 監査対象の財務諸表の誤認が生じる。 (1) 監査意見の内容の誤解や、その他監査報告書に含 まれる強調事項などの重要事項について認識できな い可能性が生じる。

(2) 監査対象の財務諸表の誤認が生じる。

((1)なお書き参照)

- 29 -

起こり得る利用者の誤解は二種類の誤解があると考えられるが、その対応としては以下の方法が

考えられる。

(1) 監査意見の内容の誤解や、その他監査報告書に含まれる強調事項などの重要事項について認識

できない可能性への対応

一般に、監査報告書を開示せず監査を受けている旨のみ記載されると、監査意見の内容につい

て利用者の誤解が生じる場合があると考えられる。

監査意見には無限定意見のみではなく除外事項付意見があること、監査報告書には監査意見の

ほかに、強調事項、継続企業の前提に関する重要な不確実性、監査上の主要な検討事項、その他

の記載内容等の情報が含まれ、監査意見はこれらの情報と合わせて理解されるべきものであるこ

とを踏まえ、利用者の誤解が生じるリスクが高い状況にないか慎重な検討が望まれる。

したがって、上記の1から5の状況においては監査を受けている旨を記載するに当たって監査

意見の類型についても記載することが望ましい。特に、監査報告書において除外事項付意見を表

明している場合や継続企業の前提に関する重要な不確実性区分を設けている場合などには、監査

報告書への参照を記載し、注意を喚起することが考えられる。

なお、財務諸表の開示もなく、単に例えばコーポレート・ガバナンスに関する記載のセクショ

ンにおいて、「会社法に基づく監査、金商法に基づく監査を受けている」「会計監査人は××であ

る」とのみ記載する場合(上記6の状況)であれば、通常、監査意見の内容に関する利用者の誤

解が生じるリスクは小さいと考えられる。

(2) 監査対象の財務諸表の誤認への対応

開示されている財務諸表が要約されたものである場合や監査対象の財務諸表から一部の注記を

削除したり、反対に勘定科目の内訳に関する記載を追加したりするなど、監査対象の財務諸表と

異なる財務諸表が開示されている場合(上記3及び4の状況)、監査対象の財務諸表の文言での

特定の有無にかかわらず、開示されている財務諸表が監査を受けているという利用者の誤解が生

じるリスクがある。

また、監査対象の財務諸表が文言で特定されているものの財務諸表の開示がない場合(上記5

の状況)、どの財務諸表が監査を受けているか利用者が特定できないリスクが生じる。

このような場合、監査を受けている旨の記載において、監査対象の財務諸表は開示されている

財務諸表とは異なる旨や、監査対象の財務諸表の開示箇所を特定する情報を記載する等、誤認防

止や監査対象の財務諸表を利用者が容易に特定し参照することができるような措置をとることが

望ましい。

- 30 -

Q1-10 監査報告書における報酬関連情報開示の適用範囲

倫理規則の改正により、一定の場合に監査報告書において報酬関連情報の開示が求められること となったが、適用範囲はどこまでか。

2023 年4月1日より施行される倫理規則では、R410.31 項において社会的影響度の高い事業体の

監査業務の報酬関連情報の開示が求められている。なお、社会的影響度の高い事業体とは、公認会

計士法における大会社等及び会計事務所等が追加的に社会的影響度の高い事業体として扱うことと

した事業体をいう(倫理規則第 400.8 項参照)。また、倫理規則の改正に合わせて監査証明府令も

改正されており、金商法に基づく監査において、監査報告書等の記載事項を定める監査証明府令第

4条第1項に従って監査報告書を発行する場合、報酬関連情報は監査証明府令においては、記載を

省略できる場合等の例外が認められている(Q1-11 参照)。

(解説)

社会的影響度の高い事業体の監査業務においては、公共の利益に資する観点から報酬関連情報

の開示が求められており(倫理規則 R410.31 項参照)、倫理規則に関する Q&A のQ410-13-1 にお

いて、会社又は会計事務所等が報酬関連情報を開示することになるが、利害関係者の利便性の観

点から、基本的には、会計事務所等が監査報告書において倫理規則で求められる報酬関連情報全

体の開示を行うことが適切と考えられる旨の記載がある。

社会的影響度の高い事業体とは、公認会計士法における大会社等及び会計事務所等が追加的に

社会的影響度の高い事業体として扱うこととした事業体とされており(倫理規則第 400.8 項参照)、

この定義に該当する場合には、報酬関連情報の開示が必要となる。

倫理規則第 400.8 項においては、利害関係者が多数かつ多岐に及ぶ事業体を、追加的に社会的

影響度の高い事業体として扱うかどうかを検討することが推奨されており、検討すべき事項とし

て、事業の内容、規模、従業員数が挙げられている。

また、資本金5億円未満又は売上高 10 億円未満かつ負債総額 200 億円未満の非上場会社の金商

法に基づく財務諸表等の監査報告書においては、監査証明府令第3条第5項及び第4条第 10 項の

定めにより、監査上の主要な検討事項と同様に、報酬関連情報を記載しないことができるとされ

ている。

- 31 -

Q1-11 監査報告書における報酬関連情報開示の省略等

監査報告書において報酬関連情報の開示が行われることとなったが、記載が省略される例外はあ るか。また、それはどのような場合か。

監査報告書における報酬関連情報は、倫理規則 R410.32 項に定められる例外規定(監査証明府令

第4条第 11 項第2号及び第3号において同趣旨の定めがある。)に該当する場合や、金商法監査と

会社法監査の両方を受けている場合の会社法監査の監査報告書において、記載を省略することがで

きる。なお、会社法監査において、倫理規則 R410.32 項に従って記載を省略する場合等には、「報

酬関連情報」の区分を削除することもある。

また、開示府令及び会社法施行規則に基づいて開示される報酬金額と、倫理規則に基づく報酬金

額が一致している場合には、監査報告書において報酬金額を記載する方法のほかに、会社の開示箇

所を参照する方法も考えられる。

(解説)

記載省略の有無、金商法と会社法の両方の監査を受けているかどうか、報酬に関する開示参照の有

無によって、監査報告書における報酬関連情報の記載は、複数のパターンが考えられるため、フロ

ー図によるパターンの整理を行った。

- 32 -

(1)倫理規則の例外規定が適用される場合の省略

社会的影響度の高い事業体の報酬関連情報の開示については、倫理規則において記載を省略す

る例外が認められている。連結財務諸表に係る監査報告書に報酬関連情報が記載される場合の当

該会社の財務諸表に係る監査報告書の報酬関連情報、及び完全親会社の連結財務諸表に係る監査

報告書に報酬関連情報が記載される場合の完全子会社の(連結)財務諸表に係る監査報告書の報

酬関連情報が該当する場合がある(監査証明府令第4条第 11 項第2号及び第3号、倫理規則

R410.32 項並びに倫理規則に関する Q&A Q410-15-1 及び Q410-16-1 参照)。

金商法監査において当該例外規定に従い記載を省略する場合の記載例は監査基準報告書 700 実

務指針第1号「監査報告書の文例」の文例1(注 13)及び文例2(注 15)に示されている。会社

法監査において当該例外規定に従い記載を省略する場合の記載例及び区分を削除する場合の説明

- 33 -

は監査基準報告書 700 実務指針第1号の文例 11(注 14)及び文例 12(注 14)に示されている。

なお、倫理規則 R410.32 項(2)に該当し、他の社会的影響度の高い事業体の監査報告書に記載され

ている旨を記載する場合、参照先の監査報告書の日付が将来の日付であることは想定されていな

い。

(倫理規則第 R410.32 項から抜粋) (1) 親事業体がグループ 財務諸表を作成し、R410.31 項で規定されている情報が開示されており、会計事務所等又は ネットワーク・ファームが、当該グループ財務諸表に対する意見を表明する場合の、当該 親事業体の個別財務諸表における情報の開示

(2) 事業体が他の社会的影響度の高い事業体により(直接的又は間接的に)完全に所有され ており、次のいずれの条件も満たす場合の、当該事業体の財務諸表における情報の開示

① 当該事業体の財務諸表が、当該他の社会的影響度の高い事業体のグループ財務諸表

に連結されること。

会計事務所等又はネットワーク・ファームが、当該他の社会的影響度の高い事業体

のグループ財務諸表に対する意見を表明すること。

(2) 金商法監査と会社法監査の両方を受けている場合の省略

社会的影響度の高い事業体が、金商法に基づく監査と会社法に基づく監査の両方を受けている

場合、いずれか片方の監査報告書において報酬関連情報を開示し、他方を省略することができる

とされている(倫理規則に関する Q&A Q410-13-4 参照)。倫理規則改正後、監査証明府令におい

て金商法に基づく監査の監査報告書の記載事項に報酬関連情報が追加され(監査証明府令第4条

第1項第1号リ参照)、一方で、会社法に基づく監査の監査報告書の内容を定める会社計算規則

第 126 条については改正されていない。このため、社会的影響度の高い事業体が金商法に基づく

監査を受けている場合、その監査報告書では報酬関連情報は必須の記載事項となり、会社法に基

づく監査の監査報告書においては報酬関連情報の記載を省略することができると考えられる。こ

のため、同事業体の会社法に基づく監査の監査報告書では、報酬関連情報の区分を設ける必要は

ないが、区分を設けて報酬金額等を記載することを妨げるものではない。ただし、区分を設ける

場合、実務上は、会社法監査は金商法監査よりも監査報告書の日付が先行することが多いため、

会社法に基づく監査の監査報告書において、将来の日付の金商法に基づく監査の監査報告書を参

照することは想定されていない。

(3) 報酬関連情報における報酬金額の参照

倫理規則においては、会計事務所等が報酬関連情報として開示すべき事項として、倫理規則

R410.31 項において以下の定めがある。一方で、会計監査人の報酬金額については、開示府令に

基づく有価証券報告書における開示、及び会社法施行規則に基づく事業報告の開示の実務がある

が、これらの開示と倫理規則に基づく報酬関連情報の開示においては金額集計範囲において差が

生じる場合がある(倫理規則に関する Q&A Q410-13-1 参照)。例えば、開示府令において認めら

れる重要性が乏しい場合の集計の省略や、非連結子会社で報酬が発生している場合がこれに該当

する。

開示府令及び会社法施行規則に基づいて開示される報酬金額と、倫理規則に基づく報酬金額が

一致している場合には、監査報告書において報酬金額を記載する方法のほかに、監査報告書にお

- 34 -

いて会社の開示箇所を参照する方法が考えられる。監査基準報告書 700 実務指針第1号の文例1

脚注及び文例2脚注において記載例が示されている。

開示府令及び会社法施行規則に基づいて開示される報酬金額と、倫理規則に基づく報酬金額に

差がある場合には、監査報告書において倫理規則に基づく報酬金額を記載し、会社の開示箇所は

参照しないこととなる。ただし、監査役等との協議の結果、有価証券報告書や事業報告の報酬の

開示箇所に、倫理規則に基づく報酬金額の開示が追加される場合には、上記一致している場合と

同様に、監査報告書において報酬金額を記載する方法のほかに、監査報告書において会社の開示

箇所を参照する方法が考えられる(倫理規則に関する Q&A Q410-13-1 参照)。

なお、有価証券報告書や事業報告における監査人(ネットワーク・ファームを含む。)に対す

る報酬に関する記載は、通常、「その他の記載内容」を構成することになるため、その他の記載

内容と監査人が監査の過程で得た知識の間に重要な相違があるかどうか検討することになる(監

基報 720 第 13 項参照)。検討の結果、監査人は、重要な相違があると思われる場合や、その他の

記載内容に重要な誤りがあると判断した場合において、監査基準報告書 720 第 15 項から第 18 項

に従った対応が求められる。開示府令及び会社法施行規則に基づく報酬金額の開示と、倫理規則

に基づく報酬金額の開示に差が生じる場合は、それぞれの規則等が求める集計範囲の違い(倫理

規則に関する Q&A Q410-13-1 参照)に起因することが想定されるため、それぞれの規則等に従っ

て適切に集計されている限り、通常は重要な相違にはならないと考えられる。

なお、倫理規則 R410.31 項(4)の規定による報酬依存度の記載が必要となる場合(監査証明府令

第4条第1項に基づいて報酬関連情報を記載する場合を含む。)、文例1(注 14)、文例2(注 16)、

文例 11(注 15)及び文例 12(注 15)に記載例が示されており、その算定方法については、倫理

規則に関する Q&A Q410-5-4 を参照する。

(倫理規則 R410.31 項) 会計事務所等は、R410.30 項に規定された監査役等との協議を実施した後、社会的影響度の 高い事業体である監査業務の依頼人が関連する開示を行わない場合は、R410.32 項で規定さ れている場合を除き、次の全ての事項を開示しなければならない。 (1) 会計事務所等が意見を表明する財務諸表の監査に対して、会計事務所等及びネットワー

ク・ファームに対して支払われた、又は支払われるべき報酬

(2) 会計事務所等が意見を表明する財務諸表の対象期間において、会計事務所等又はネット ワーク・ファームが業務の提供の対価として依頼人に請求する(1)で開示される報酬以外 の報酬。ここで開示の対象となる報酬は、依頼人に請求する報酬及び会計事務所等が意見 を表明する財務諸表に連結されている、依頼人が直接的又は間接的に支配する関連事業体 に請求する報酬に限られる。

(3) 監査業務の依頼人が直接的又は間接的に支配する他の関連事業体に対して、会計事務所 等又はネットワーク・ファームによる業務の提供の対価として請求する、(1)及び(2)に基 づき開示される報酬以外の報酬(ただし、当該報酬が会計事務所等の独立性の評価に関連 することを知っている場合又はそのように信じるに足る理由がある場合)

(4) 2年連続して報酬依存度が 15%を超える場合又は超える可能性が高い場合、その事実

及び当該状況が最初に生じた年

- 35 -

《2.監査上の主要な検討事項関係のQ&A》

Q2-1 監査上の主要な検討事項の適用範囲

監査基準報告書 701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の適

用範囲はどこまでか。

監査上の主要な検討事項の記載は、監査意見とは明確に区別された追加的な情報提供であり、そ

の記載を求める趣旨が、我が国の資本市場の透明性、公正性を確保することにあることを踏まえ、

主として財務諸表及び監査報告について広範な利用者が存在する金商法に基づいて開示を行ってい

る会社(非上場会社のうち資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の会

社は除く。)の財務諸表の監査報告に記載が求められている。

(解説)

(1) 金商法に基づく監査

監査上の主要な検討事項を記載しなければならない監査報告書は、監査における不正リスク対

応基準と同じ範囲、すなわち、監査証明府令第3条第5項各号に掲げる者が提出する以下の有価

証券届出書又は有価証券報告書等に含まれる財務諸表等の監査報告書である。

・ 金商法第5条第1項(金商法第27条において準用する場合を含む。)の規定により提出され

る有価証券届出書

・ 金商法第7条第1項、第9条第1項又は第10条第1項(これらの規定を金商法第27条におい

て準用する場合を含む。)の規定により提出される訂正届出書

・ 金商法第24条第1項(金商法第27条において準用する場合を含む。)の規定により提出され

る有価証券報告書

・ 金商法第24条の2第1項(金商法第27条において準用する場合を含む。)において読み替え

て準用する同法第7条第1項、第9条第1項又は第10条第1項の規定により提出される訂正報

告書

これら監査上の主要な検討事項の適用対象となる金商法に基づく監査に関しては、以下の点に

留意が必要である。

・ 投資信託の受益証券等のいわゆるファンド自体は、金商法の特定有価証券に該当し、同法第

5条第5項等の規定に基づき、有価証券届出書、有価証券報告書等を提出することから、当該

有価証券届出書、有価証券報告書等に含まれる財務諸表等の監査報告書には、監査上の主要な

検討事項の記載は必要ない。一方、投資信託の受益証券等のいわゆるファンドの委託会社が、

監査証明府令第3条第5項各号に掲げる者(すなわち、監査上の主要な検討事項の記載が求め

られる会社)に該当し、有価証券届出書、有価証券報告書等を提出する場合には、公認会計

又は監査法人は監査報告書に監査上の主要な検討事項を記載する必要がある。

・ 新規上場の場合、取引所に提出する新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)に含ま

れる財務諸表に対しては、取引所の上場規程により、金商法第193条の2の規定に準ずる監査

が求められており、厳密には金商法に基づく監査ではない。ただし、取引所による上場承認後、

金商法に基づき、ほぼ同内容の有価証券届出書の提出が必要となるため、取引所に提出する上

場申請書類に含まれる監査報告書は、後日提出が予想される金商法に基づく監査報告書と同様

- 36 -

であることが想定されていると考えられる。金商法に基づきEDINETに掲載される有価証券届出

書に含まれる財務諸表の監査は金商法監査となるが、この時点では当該会社は上場会社ではな

いため、監査報告書に監査上の主要な検討事項の記載が求められるかどうかは、金商法で規定

されている非上場会社向けの金額基準が適用されることになる(注1)。つまり、新規に上場

申請した会社が金商法で規定されている金額基準以上の一定の規模の会社の場合のみ(注2)、

法令上は監査上の主要な検討事項の記載が求められるが、金額基準に満たない会社の監査の場

合も任意で記載することも妨げられない。なお、上場後に最初に到来する事業年度に係る有価

証券報告書に含まれる監査報告書には、会社の規模にかかわらず、監査上の主要な検討事項の

記載が求められる。

(注1)監査証明府令第3条第5項第2号に記載されている金額基準(※)を表にすると以下のと

おりとなる(太枠部分に該当する会社のみ KAM の対象外)。

資本金5億円未満 資本金5億円以上 売上高 10 億円未満 売上高 10 億円以上

(※)監査証明府令第3条第5項

負債 200 億円未満

負債 200 億円以上

KAM の対象外 KAM の対象外 KAM の対象

KAM の対象 KAM の対象 KAM の対象

前項第五号に掲げる基準は、監査証明を受けようとする者が次のいずれかに該当する者で

あるときに限り、適用されるものとする。

一 (省 略)

二 その発行する有価証券が法第二十四条第一項第三号又は第四号に該当することにより同

項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない会社6(最終事業年度7に係る貸

借対照表に資本金として計上した額が五億円未満又は最終事業年度に係る損益計算書によ

る売上高(事業収益及び営業収益その他これに準ずるものを含む。以下、この号において

同じ。)の額若しくは直近三年間に終了した各事業年度に係る損益計算書による売上高の

額の合計額を三で除して得た額のうちいずれか大きい方の額が十億円未満であり、かつ、

最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円未満である会

社を除く。)

6 新規上場等に際して金商法第 24 条第1項第3号の規定に従い有価証券届出書を提出する時点で、有価証券

報告書を提出しなければならない会社に該当すると解される。

7 新規上場時の最終事業年度は、上場申請直前事業年度のことを指す。

- 37 -

(注2)新規上場時の有価証券届出書に係る監査における KAM 記載の要否(任意適用する場合を除

く。)

2020 年3月期 (早期適用)

2021 年3月期 (強制適用)

2022 年3月期

2023 年3月期

パターン1

直前々期

一 定 規 模 以 上 か 否か(※1) KAM の要否

パターン2

KAM 不要

一 定 規 模 以 上 か 否か(※1) KAM の要否 パターン3

一 定 規 模 以 上 か 否か(※1) KAM の要否

申請期

直前期 ( 最 終 事 業 年 度)

一定規模以上

KAM 必要

直前々期

KAM 必要(※2) 直前々期

直前期 ( 最 終 事 業 年 度)

一定規模以上

KAM 必要 直前期 ( 最 終 事 業 年 度)

一定規模未満

KAM 不要(※2)

KAM 不要

申請期

申請期

(※1)一定規模以上か否かは、上場申請の直前期を基準に判断する((注1)脚注6参照)。

(※2)直前々期が強制適用以後で、直前期が一定規模以上の場合には、直前期、直前々期いずれ

の監査報告書においても、KAM の記載が必要となる。一方、直前期が一定規模未満の場合

は、直前期、直前々期いずれの監査報告書においても、KAM の記載は不要となる。

(2) 会社法に基づく監査

会社法監査において監査上の主要な検討事項の記載を求めるか否かについては、企業会計審議

会の監査部会において重要な論点として取り上げられた。監査上の主要な検討事項の導入の初期

段階においては、記載内容に関する監査人と会社との間の協議に一定の時間を要することが想定

され、現行の株主総会のスケジュールを前提とすると、監査上の主要な検討事項を会社法上の監

査報告書に記載することに実務的な負荷が大きいと考えられる。そのため、当面、金商法上の監

査報告書においてのみ記載を求め、会社法上の監査報告書に記載することは求められていない。

ただし、会社法上の監査報告書に任意で監査上の主要な検討事項を記載することは可能であるた

め、監査上の主要な検討事項の導入後何年か経過した後は、株主からの要請により、会社法上の

監査報告書に監査上の主要な検討事項を記載することも考えられる。

(3) 契約書における取扱い

法令により監査上の主要な検討事項の記載が求められる場合、又は監査人と会社との間の協議

に基づき任意で監査上の主要な検討事項を記載する場合(金商法監査において早期適用する場合

を含む。)、その旨を契約条件の合意として、監査契約書に記載する。また、当初の監査業務の契

約条件の合意後に、監査上の主要な検討事項を監査報告書において報告することについて合意し

- 38 -

た場合は、契約条件の変更として覚書等の書面を取り交わすこととなる(監基報210第10項、A25

項及びA32項、法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」(最終

改正 2021年12月7日)参照)。

- 39 -

Q2-2 監査上の主要な検討事項の決定プロセス

監査上の主要な検討事項は、どのように決定されるのか。

監査上の主要な検討事項は、以下の二つのステップを経て絞り込みを行うことにより決定される。

(1) 監査人は、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、財務諸表の監査において、

特に注意を払った事項を決定する。その決定に当たっては、監査基準報告書701第8項(1)から

(3)に記載されている項目等を考慮する。

(2) 監査人は、上記の特に注意を払った事項の中から、当年度の財務諸表の監査において、職業的

専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定する。

(解説)

(1) 監査人が特に注意を払った事項の決定

監査人は、監査役等とのコミュニケーションを行った事項の中から、監査上の主要な検討事項

の候補の検討を行う。この検討において、監査人は、①特別な検討を必要とするリスクが識別さ

れた事項、又は重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された領域、②見積りの不確実性が高いと

識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人

の重要な判断、③当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響等を考慮して

決定する。

監査上の主要な検討事項の決定プロセス

監査の過程で監査役等 と協議した事項

(重要な事項)

監査上特に注意 を払った事項

特に 重要な 事項

特に注意を払った事項の決定に当たって以下の 項目等を考慮

① 特別な検討を必要とするリスク又は重要な 虚偽表示のリスクが高いと評価された領域 ② 見積りの不確実性の程度が高い会計上の見 積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財 務諸表の領域に関連する監査人の重要な判 断

③ 当年度において発生した重要な事象又は取

引が監査に与える影響

監査上の主要な検討事項 特に重要であるかどうかは、当該監査における 相対的な重要性に基づいて決定する。

①から③の項目は相互に関係するため、複数の項目に該当することがあり、そのような場合、

監査人が当該事項を監査上の主要な検討事項として識別する可能性は高まる。一方、監査役等と

コミュニケーションを行った事項には、①から③の項目に該当しない項目も含まれ、そのような

項目が特に注意を払った事項となることもある。

監査人は、計画した監査の範囲と実施時期の説明をする際に、監査上の主要な検討事項となる

可能性のある事項についての監査人の見解を監査役等にコミュニケーションを行うことは有用で

ある(監基報 260 の A13 項参照)。監査上の主要な検討事項の最終的な決定は、監査の結果又は

監査の実施過程を通じて入手した証拠に基づいて行われる。

- 40 -

監査基準報告書において、監査役等にコミュニケーションを行うことが要求されている項目の

うち、監査上の主要な検討事項に関連する可能性のある主な項目は以下のとおりである。経営者

(取締役又は執行役)の業務執行を監視し、監査人の監査の相当性を評価する責任を有している

監査役等に対して、監査人は、監査の過程で経営者と協議又は伝達した重要な事項について、双

方向のコミュニケーションを行うことが求められている。監査人が特に注意を払った事項は、監

査役等と重点的にコミュニケーションが通常行われるため、監査役等とのコミュニケーションの

内容及び程度は、どの事項が監査において特に重要であるかを示唆していることが多い(監基報

701 の A27 項参照)。このことは、経営者とのコミュニケーションにも当てはまり、経営者とのコ

ミュニケーションの内容及び程度は、どの項目が監査において特に重要であるかを示唆している

と考えられる(Q2-18 参照)。 ・ 計画した監査の範囲とその実施時期(特別な検討を必要とするリスクを含む。)(監基報260第

13項参照)

・ 監査上の重要な発見事項(監基報260第14項参照)

会計方針、会計上の見積り及び財務諸表の表示及び注記事項を含む、企業の会計実務の質 的側面のうち重要なものについての監査人の見解(会計実務が財務報告の枠組みの下では受 入れ可能であるが、企業の特定の状況においては最適なものではないと考える場合はその理 由)(監基報260付録2参照)

‐ 監査期間中に困難な状況に直面した状況 ‐ 監査の過程で発見され、経営者と協議したか又は経営者に伝達した重要な事項 ‐ 監査の過程で発見され、監査人が、職業的専門家としての判断において財務報告プロセス

に対する監査役等による監視にとって重要と判断したその他の事項 ・ 識別された不正又は不正の疑い(監基報240第F39-2項から第41項参照) ・ 識別された違法行為又はその疑い(監基報250第19項及び第22項から第24項参照) ・ 内部統制の重要な不備(監基報265第8項参照) ・ 未修正の虚偽表示、過年度の未修正の虚偽表示(監基報450第11項及び第12項参照) ・ 関連当事者に関する重要な事項(監基報550第26項参照) ・ 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象又参照は状況(監基報570第24項参照) ・ 経営者による監査範囲の制約、財務諸表に必要な開示がなされていない場合、除外事項付意見

を表明する場合等(監基報705第11項、第22項及び第29項参照)

・ 強調事項又はその他の事項(監基報706第11項参照) ・ 前任監査人が監査した前年度の財務諸表に影響を及ぼす重要な虚偽表示(監基報710第17項参

照)

・ その他の記載内容の重要な誤り(監基報720第16項から第18項参照)

(2) 特に重要であると判断した事項の決定

重要であると判断した事項の決定は、その数も含め、職業的専門家の判断による。また、特に

重要であると判断した事項は、個々の監査業務における相対的な重要性を考慮して決定されるも

のであり、同業他社等との比較において重要であるかどうか考慮する必要はない(Q2-7参

照)。

- 41 -

Q2-3 監査上の主要な検討事項と特別な検討を必要とするリスク

特別な検討を必要とするリスクは、必ず監査上の主要な検討事項に該当するのか。反対に、特 別な検討を必要とするリスクでないものから、監査上の主要な検討事項を選定することはあるの か。

特別な検討を必要とするリスクは、監査人が特に注意を払う必要がある領域となることが多いが、

全ての特別な検討を必要とするリスクが、監査上の主要な検討事項となるわけではない。また、特

別な検討を必要とするリスクではない場合であっても、重要な虚偽表示リスクが高い領域として監

査人が監査役等にコミュニケーションを行う場合もあり、監査人が特に注意を払う事項に該当し、

相対的重要性に基づき監査上の主要な検討事項として選定されることもある。

(解説)

特別な検討を必要とするリスクは、固有リスク要因が、虚偽表示の発生可能性と虚偽表示が生じ

た場合の影響の度合い(金額的及び質的な影響の度合い)の組合せに影響を及ぼす程度により、固

有リスクの重要度が最も高い領域に存在すると評価された重要な虚偽表示リスク又は他の監査基準

報告書の要求事項にしたがって特別な検討を必要とするリスクとして取り扱うこととされた重要な

虚偽表示リスクと定義されており(監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスク識別と評価」第11

項(10)参照)、監査役等とコミュニケーションを行うことが求められている(監基報260第13項参

照)。経営者の重要な判断に依存している事項や重要かつ通例ではない取引の領域は、特別な検討

を必要とするリスクとして識別されることが多く、同時に監査人が特に注意を払う領域であること

が多い。

一方で、監査基準報告書によって特別な検討を必要とするリスクとして扱うことが求められてい

る領域(例えば、収益認識への不正リスクの推定(監基報240「財務諸表監査における不正」第25

項及び第26項参照)、経営者による内部統制の無効化(監基報240第30項参照))については、監査

上の主要な検討事項の候補となり得るが、個々の状況によっては、最終的に監査人が特に注意を払

った事項に該当しないことがあり、監査上の主要な検討事項とならないこともある。

また、特別な検討を必要とするリスク以外にも、重要な虚偽表示リスクが高い領域に対する監査

人の対応について監査役等とのコミュニケーションを行うこともあり(監基報260のA13項参照)、

そのような事項を監査人が特に注意を払った事項に該当すると判断し、監査上の主要な検討事項と

なることもある。

- 42 -

Q2-4 監査上の主要な検討事項と内部統制の重要な不備

内部統制の重要な不備8が監査上の主要な検討事項となるのか。内部統制報告制度における開示

すべき重要な不備と監査上の主要な検討事項との関係はどのようになるのか。

監査上の主要な検討事項は、内部統制の重要な不備を報告することを目的とするものではない。

ただし、監査上の主要な検討事項として選定した理由又は監査上の対応の記述に、内部統制に関す

る記述が含まれることがある。また、内部統制報告制度における開示すべき重要な不備も同様であ

るが、内部統制の開示すべき重要な不備が監査上の主要な検討事項に関連している場合、必要に応

じて、監査上の主要な検討事項を記述する際に内部統制監査報告書における開示すべき重要な不備

を参照することがある。

(解説)

監査上の主要な検討事項は、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断し

た事項であり、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から選定される。内部統制の重要な不備

は、監査役等にコミュニケーションを行うことが求められているため、監査上の主要な検討事項を

選定する際の母集団に含まれることになる。

ただし、監査上の主要な検討事項は、内部統制の重要な不備を報告することを目的とするもので

はないため、内部統制の重要な不備の存在そのものが監査上の主要な検討事項となるわけではない。

監査上の主要な検討事項は監査基準報告書701第8項及び第9項に基づき決定するが、内部統制の

重要な不備又は開示すべき重要な不備は監査人が特に注意を払った事項に該当することがあり、関

連する事項が監査上の主要な検討事項と判断されることがある。その場合、例えば、以下のような

状況において、監査上の主要な検討事項として選定した理由や監査上の対応において内部統制に関

する記述が含まれることがある。

・ 財務諸表監査において監査人は企業の内部統制の有効性を踏まえて実証手続の種類、時期及び

範囲を決定することが求められているが、会社の内部統制が脆弱で内部統制に依拠できないた

め、監査人の実証手続の範囲を拡大する必要が生じる場合がある。特に固有リスクが高い場合

は、監査人は内部統制の不備を踏まえ、より強力な監査証拠が得られる実証手続を追加したり、

実施範囲を拡大するなどの対応が必要となり、その結果、監査人が特に注意を払った事項に該当

し、監査上の主要な検討事項となることがある。そのような場合、監査上の主要な検討事項の決

定理由に当該内部統制の状況の説明が含まれることがある。ただし、監査上の主要な検討事項の

記述において、内部統制の重要な不備に該当することに触れる必要は必ずしもない。

・ 期中において、内部統制の大幅な変更を伴う組織再編や IT システムの新規導入又は大幅な変

更などが行われた場合、監査人は、新しい内部統制の整備状況の理解とその運用状況の評価に特

に注意を払う必要が生じることがある。そのような場合、内部統制の大幅な変更が監査上の主要

な検討事項の決定理由となることがあり、監査上の対応において内部統制の評価手続について言

及することがある。

8 内部統制の重要な不備は、財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として、監査役等の注意を促 すに値するほど重要と判断した内部統制の不備又は不備の組合せと定義されている(監基報265「内部統制 の不備に関するコミュニケーション」第5項(2))。

- 43 -

・ 当初のリスク評価において内部統制の整備状況は有効であり、内部統制に依拠できると監査人

は判断していたが、運用評価手続の実施過程で会社の内部統制が意図したとおりには運用されて

いないことが判明したり、不正又は誤謬の識別により内部統制の有効性を再評価する必要が生じ

ることがある。その結果、監査アプローチを変更し、追加の監査手続の実施が必要になった場合

など、監査上の主要な検討事項の決定理由に内部統制の記述が含まれることがある。

・ 会社の事業内容がITに大きく依存している場合は、監査上、ITを含む内部統制の整備及び

運用状況の評価は毎期の監査において不可欠であり、監査人は多くの監査時間を投入している場

合がある。そのような場合、事業特性の背景とともにITに関する記述が監査上の主要な検討事

項の決定理由や監査上の対応に含まれることがある。

なお、上場企業における内部統制監査において開示すべき重要な不備が識別されている場合、開

示すべき重要な不備自体を監査上の主要な検討事項として取り扱う必要は必ずしもない。ただし、

当該識別された開示すべき重要な不備が財務諸表監査に及ぼす影響を考慮して、当該不備に関連す

る事項が監査上の主要な検討事項に該当すると判断した場合は、財務諸表監査の監査報告書に記載

することがある。その場合、開示すべき重要な不備は、内部統制報告書や内部統制監査報告書に記

載が求められているため、監査上の主要な検討事項において内部統制監査報告書の強調事項や意見

に参照を付すことがある。

- 44 -

Q2-5 監査上の主要な検討事項と未修正の虚偽表示

未修正の虚偽表示は監査上の主要な検討事項になるのか。

未修正の虚偽表示は、監査上の主要な検討事項となることもあるが、ならないこともある。これ

は当年度に識別された前年度の財務諸表の未修正の虚偽表示についても同様である。監査上の主要

な検討事項になるかどうかの決定は、監査基準報告書701第8項及び第9項に沿って検討されるこ

とになる。

(解説)

監査人は、監査の過程で識別した未修正の虚偽表示及び過年度の未修正の虚偽表示が当期の財務

諸表に与える影響について、監査役等に報告することが要求されている(監基報450第11項及び第

12項参照)。監査上の主要な検討事項は、監査役等とコミュニケーションを行った事項から決定す

るものであることから、これら未修正の虚偽表示は監査上の主要な検討事項を検討する母集団に含

まれている。

未修正の虚偽表示が監査上の主要な検討事項に該当するかどうかの検討に際しては、監査人は、

監査の過程で虚偽表示が識別され、修正されたかどうかの事実に着目するのではなく、虚偽表示の

内容や発生状況が当期の監査において特に注意を払った事項に該当するかどうかを検討し、他に識

別している事項との相対的重要性に基づき監査上の主要な検討事項の決定を行うことになる(監基

報701第8項及び第9項)。したがって、監査の過程で識別された未修正の虚偽表示が監査上の主要

な検討事項に関連することもあるが、全ての未修正の虚偽表示が、必ず監査上の主要な検討事項に

なるというものではない。また、監査の過程で識別された重要な虚偽表示について、会社(経営者

及び必要に応じて監査役等)と監査人との間で協議を重ね、期末の財務諸表に適切に修正が反映さ

れる場合があるが、そのような事項は当期の監査において監査人が特に注意を払った事項に該当し、

最終的に監査上の主要な検討事項となることもある。したがって、修正されたかどうか自体が監査

上の主要な検討事項の決定要因というわけでもない。

また、当期の監査の過程で、前年度(過年度)の財務諸表の未修正の虚偽表示を識別する場合が

ある。未修正の虚偽表示の発生状況や影響について、会社(経営者)は十分な調査を行った上で過

年度の財務諸表の修正再表示(金商法の場合は訂正報告書の提出、会社法の場合は期首剰余金の修

正)が必要かどうかを決定するが、発生状況や影響の程度によっては重要性のない過年度の虚偽表

示であると判断し、当期の財務諸表において修正することがある。監査人は、当該経営者の判断の

妥当性について当期の監査において検討することになるが、例えば虚偽表示が不正に起因する場合

など、当該未修正の虚偽表示の発生原因や影響額の算定(同様の不正による虚偽表示が他にないか

の検討を含む。)に広範な監査手続を要することがある。監査手続を実施した結果、新たに識別し

た過年度の未修正の虚偽表示が過年度財務諸表に重要な影響を及ぼしていると監査人が判断した場

合は、会社に修正再表示を要請することになる。一方、当該過年度の虚偽表示が金額的にも質的に

も重要でないとする経営者の見解に監査人が同意することがあるが、そのような場合であっても、

監査人は、監査基準報告書701第8項の各項目を考慮し、第9項に基づき監査上の主要な検討事項

に該当するかどうかを判断することになる。通常、過年度の虚偽表示が識別された場合(特にそれ

が不正による場合)、監査人は経営者及び監査役等とその対応について協議を重ねるが、経営者及

- 45 -

び監査役等とのコミュニケーションの内容や程度自体が監査において特に注意を払った事項かどう

かを示唆しているものと考えられる(監基報701のA27項参照)。

前年度の財務諸表の虚偽表示を当年度の監査において識別した場合における、当該虚偽表示と監査

上の主要な検討事項の関係

20X1 の財務諸表 前年度 当年度

20X2 の財務諸表 前年度 当年度

20X2 の監査中に、前年度部分に虚偽表示を発見

はい

重要な虚偽表示か?

いいえ

20X1 の財務諸表の訂正が行われるか?

20X1 の財務諸表の訂正が行われるか?

いいえ

はい

はい

いいえ

当年度の財務諸表に対する監

査報告書において、除外事項

付意見を表明する(監基報 710

第 11 項)。

除外事項付意見の原因となる

事項は、その性質上、監査上

の主要な検討事項に該当する

が、監査報告書においては除

外事項として記載し、監査上

の主要な検討事項の区分には

記載しない。

(監基報 701 第 14 項)

訂正報告書の提出

前 年 度 の 未 修 正 の 虚 偽 表 示

は、前年度の財務諸表におい

(訂正 報告書 に添付 する

て重要性がなく、かつ、前年

監査報 告書に おける 監査

度及び当年度の財務情報の比

上の主 要な検 討事項 の取

較可能性も損なわれていない

扱いについては、Q2-17

場合、当年度の数値において

参照のこと)

修正される。

監査上の主要な検討事項になる可能性がある。

(監基報 701 第8項を考慮して、当期の監査において特に注

意を払った事項に該当するかどうかを検討し、第9項に基づ

き監査上の主要な検討事項とするかどうかを決定する。)

- 46 -

Q2-6 監査上の主要な検討事項がない状況

監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断することがあるのか。

上場企業の監査において、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項の中に、監査報

告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと判断することはまれであり、少なくとも

一つは存在していると考えられる。しかしながら、例えば、企業の実質的な事業活動が極めて限定

される状況においては、監査人が特に注意を払った事項がないため、監査上の主要な検討事項がな

いと監査人が判断することはある(監基報701のA59項参照)。

(解説)

監査基準報告書701のA59項に記載のとおり、監査上の主要な検討事項は、他社との比較における

重要性や絶対的な重要性で判断するのではなく、監査人が特に注意を払った事項の相対的な重要性

に基づいて決定される。上場企業の監査においては、監査人が監査役等とコミュニケーションを行

った事項の中に監査人が特に注意を払った事項がないという状況は想定されにくく、そのような項

目の相対的な重要性を考慮した上で、少なくとも一つは監査上の主要な検討事項が存在していると

考えられる。ただし、全て又はほとんどの監査において特別な検討を必要とするリスクとして扱う

ことが求められている不正な収益認識や経営者による内部統制の無効化に関連する事項を、監査上

の主要な検討事項として、「少なくとも一つ」選定することが想定されているわけではない(Q2

-3参照)。監査上の主要な検討事項は、リスク・アプローチに基づいて実施した監査において監

査人が何に重点を置いたかを説明するものであるため、監査人は、個々の監査における相対的な重

要性に基づき、監査上の主要な検討事項を決定する。

しかしながら、企業の実質的な事業活動が極めて限定されている状況においては、監査役等とコ

ミュニケーションを行った事項の中に監査人が特に注意を払ったといえる事項が存在せず、監査上

の主要な検討事項がないと判断する可能性は全くないと考えられているわけではない。上場企業の

事業活動が実質的に極めて限定されている状況自体が想定しにくく、極めてまれな状況であると考

えられるが、強いて挙げるとすれば、例えば、事業活動を行っていない純粋持株会社が考えられる。

そのような会社の個別財務諸表の監査における監査上の主要な検討事項の有無について、以下の点

に留意して、監査役等にコミュニケーションを行った事項の中に特に注意を払う事項がないか否か

を慎重に検討する。

・ 関係会社に対する投融資の評価

・ 純粋持株会社が徴収する経営指導料やその他コーポレート関連業務に関する収益の有無

・ 純粋持株会社における年間取引件数が極めて限定されているかどうか。

・ 移転価格を含む税務に関する論点の有無

・ 繰延税金資産に関する論点の有無

・ 貸借対照表における金額的重要性のある勘定科目の存在

・ 資金調達に関連する勘定及び会計に関する論点

・ 偶発債務に関する論点の有無

・ 関連当事者取引に関する論点の有無

なお、仮に監査上の主要な検討事項がないと判断した場合には、その判断の根拠を監査調書に記

載することが求められている(監基報701第17項(2)参照)。

- 47 -

Q2-7 監査上の主要な検討事項の個数及び記載量

監査上の主要な検討事項は監査人の判断で決定するとあるが、個数及び記載量について、目安

等はあるのか。

監査上の主要な検討事項は、監査役等にコミュニケーションを行った項目の中の相対的な重要性

によって決定されることになるため、個数についての目安は設けられていない。また、その記載に

当たっては、記載量に関する制限はないものの、想定される財務諸表の利用者が理解できるように、

詳細さと簡潔さのバランスを保つことが重要となる。

(解説)

監査役等にコミュニケーションを行う項目の個数や内容は、会社の事業活動の複雑性、多様性及

び変化の状況、会計上又は監査上の検討の必要性、並びに事業環境の変化等によっての影響を受け

るが、その中で特に注意を払った事項が監査上の主要な検討事項となるため、個数はある程度必然

的に絞られていくことになる。監査上の主要な検討事項として選定した項目が多い場合は、監査に

おいて特に重要でない項目が含まれている可能性があるため、監査人は、各々について監査上の主

要な検討事項に該当するかどうかについて、再度慎重な検討を行うことになる(監基報701のA30項

参照)。

個別の監査上の主要な検討事項については、(1)関連する財務諸表における注記事項がある場合

は、当該注記事項への参照、(2)個々の監査上の主要な検討事項の内容、(3)財務諸表監査において

特に重要であるため、当該事項を監査上の主要な検討事項に決定した理由、及び(4)当該事項に関

する監査上の対応の記載が求められている(監基報701第12項参照)。

監査上の主要な検討事項の複雑性や監査上の対応内容によって、記載量は変化すると考えられる

が、その記載は、想定される財務諸表の利用者が理解できるように簡潔に記載することが想定され

ている(監基報701のA34項参照)。一方、個々の会社の監査に固有の情報を記載するためには、あ

る程度の詳細さを伴った具体的な記述が必要となる。例えば、監査上の主要な検討事項の決定理由

の記述において、監査証拠の入手可能性に影響を与えた経済情勢、企業並びに産業における特有の

事象の内容、企業の戦略又はビジネスモデルの変更など、監査人が特に重要であるかどうかの検討

時に考慮した事項を説明することは、利用者にとって、監査人の判断の背景が理解でき、有用と考

えられる(監基報701のA45項参照)。また、監査上の対応として、実施した監査手続を網羅的に記

載することは想定されておらず、個々の会社の当期の状況に合わせて採用した監査アプローチの特

徴的な面を記述すること(監基報701のA48項参照)は、利用者にとって特に有益である。監査上の

主要な検討事項の記載量に制限はないものの、想定される財務諸表の利用者の目線に立って、監査

人は、詳細さと簡潔さのバランスの取れた記載を行うことが重要である。

なお、監査上の主要な検討事項は、同じ規模や業種であっても、当年度の監査における重要な事

項の相対的な重要性によって判断されるため、個数や記載量から単純に監査の品質や企業の財務報

告の質を判断することは適切ではない。監査人は、このような点を経営者及び監査役等に十分説明

を行い、理解を得ておくことが重要と考えられる。

- 48 -

Q2-8 個別財務諸表の監査上の主要な検討事項

個別財務諸表の監査報告書において、連結財務諸表の監査報告書と同一内容であっても監査上 の主要な検討事項の記載が求められるのはなぜか。また、個別財務諸表に特有の監査上の主要な 検討事項には、具体的にどのようなものが該当するか。

監査上の主要な検討事項を記載する目的は、実施された監査に関する透明性を高めることにより、

監査報告書の情報伝達手段としての価値を向上させることにある。個別財務諸表及び連結財務諸表

それぞれについて監査人はリスク評価を行い、リスク対応手続を実施し、監査意見を形成しており、

職業的専門家として特に重要であると判断した事項が両者で異なることも想定される。そのため、

個別財務諸表及び連結財務諸表の監査報告書において監査上の主要な検討事項をそれぞれ記載する

ことは、財務諸表の利用者にとって有益な情報であると考えられる。

個別財務諸表に特有の監査上の主要な検討事項については、関係会社株式や関係会社貸付金を含

む連結財務諸表の作成において消去される領域が特有の事項になり得る。

(解説)

連結財務諸表の監査報告書において同一内容の監査上の主要な検討事項が記載されている場合に

は、個別財務諸表の監査報告書においてその旨を記載し、監査上の主要な検討事項の内容の記載を

省略することができる(監基報701第12項参照)。

個別財務諸表における情報は、通常、連結財務諸表を構成するため、当年度の監査において特に

重要な事項は、共通することが多い。しかし、例えば特定の事業の業績が悪化している場合に、両

方の監査に影響を及ぼすが、それぞれの監査に及ぼす内容は異なることがある。例えば、連結財務

諸表の監査においては、のれんの減損の見積り、個別財務諸表の監査においては基礎となる投資額

の評価に影響を及ぼすことがある。したがって、監査報告書においては、それぞれの監査に基づき

監査上の主要な検討事項を記述することになる。また、個別財務諸表の監査と連結財務諸表の監査

において適用する監査上の重要性の違いによって、監査上の重要な事項が、個別財務諸表の監査に

おいてのみ監査上の主要な検討事項になると結論付ける場合がある。さらに、監査上の主要な検討

事項は、相対的な重要性を考慮して決定されることから、個別財務諸表の監査において相対的な重

要性が高いとして、監査上の主要な検討事項になった項目も、連結財務諸表の監査における他の論

点と比較して相対的な重要性が低い場合には、それぞれの監査報告書において異なる監査上の主要

な検討事項が記載される場合もある。

- 49 -

Q2-9 監査上の主要な検討事項における固有の情報の記載

監査上の主要な検討事項における、企業の特定の状況に直接関連付けた記載とは、どのような

ものか。

企業の特定の状況に直接関連付けた記載とするためには、監査上の主要な検討事項の対象となっ

ている領域や金額を特定した上で、どの企業にも共通する一般的な要因だけでなく、対象となる企

業の事業内容及び事業環境に紐付いた固有の要因を含めて記載することが適切である。

(解説)

財務諸表の利用者は、監査上の主要な検討事項を、財務諸表のみならず、財務諸表以外で企業が

開示する情報(例えば、取引所の適時開示ルールによる開示、決算発表の会見時の文書及び口頭に

よる説明、企業のウェブサイトで開示するIR情報等)と併せて読むことが想定されている。した

がって、監査人は、個々の企業の状況を踏まえ、何に重点をおいて監査を実施したのか、どのよう

な領域で監査人の重要な判断が行われたのかについて、利用者の理解が深まるように監査上の主要

な検討事項を記述することが極めて重要である。監査及び監査人の判断に対する利用者の理解が深

まるように監査上の主要な検討事項を記述するためには、以下の点に留意して、企業の特定の状況

に直接関連付けた、個々の企業の監査に特有の情報を含めることが適切である(監基報701のA44項、

A47項及びA48項参照)。

・ 監査上の主要な検討事項の対象となっている領域や金額を特定する。対象領域や金額を曖昧な

記述にすると、財務諸表の利用者に当該監査の重点が適切に伝わらないのみならず、対象として

いる範囲が広範に及んでいるかのような誤った憶測につながる可能性もある。例えば、監査上の

主要な検討事項に関連する勘定科目のみを記載し、対象となった領域の名称(例えば、セグメン

ト名や事業名等)や金額が監査上の主要な検討事項の記述に含まれていない場合、どの取引内容

に関連して言及しているかが不明瞭になる。その結果、監査上の主要な検討事項が勘定科目全体

に及ぶのか、その一部のみに留まるのか、財務諸表の利用者はその影響の大きさを正しく理解す

ることができず、監査人の意図が適切に伝わらない可能性がある。

・ 監査上の主要な検討事項の決定理由や監査上の対応が、財務報告の枠組みや監査基準で利用さ

れる文言のみで記述されると、過度に専門用語が多用され、分かりにくくなる可能性があるだけ

でなく、どの企業の監査報告書にも当てはまる特徴のない記述となり、監査上の主要な検討事項

の趣旨に合致しないこととなる。例えば、会計上の見積りに関連する項目は監査上の主要な検討

事項として選定されることが多いが、以下に例示した点を参考に、どのような点が決定理由にな

っているのかを個々の状況に即してポイントをよく検討した上で、記述することが適切である。

単に「見積りが複雑である」、「経営者の主観的判断に大きな影響を受ける」等の記述では、会

計上の見積りにどのような企業固有の不確実性に関連する要因が含まれているのか、監査人は会

計上の見積りに使用されたどの要素に対して重点的な対応を行ったのかを利用者は理解すること

はできない。

- 経営者が適用している見積りの手法は複雑かどうか。複雑な手法となっている要因は何か。

- 経営者が採用している重要な仮定はどの程度主観的か。なぜ、主観性が高いのか(例えば、

過去の実績データが利用できない場合、新規のビジネスである場合、事業環境が大きく変わる

- 50 -

ことが予想されている場合など、主観性を高める要因は何か。)。

- 重要な仮定を左右する要因は何か(例えば、将来キャッシュ・フローの見積りの基礎となっ

ている将来の事業計画等に影響を与える要因として、市場の成長率、顧客の定着率等、どのよ

うなものが大きな影響を与えているか。)。

- 見積りには、どのような分野の、どの程度の専門的な知識が必要か。

監査上の対応の記述は、監査上の主要な検討事項の決定理由に書かれた要因に適合する手続又は

監査アプローチの内容をできる限り具体的に記述することが適切と考えられる。単に「関連する内

部統制の整備・運用状況を評価した」、「経営者の採用した仮定を批判的に検討した」というだけで

なく、どのようなリスク(統制目標)に対応した内部統制を評価したのか、どのように批判的な検

討を行ったのかを具体的に示すことが利用者にとって有用な情報となる。

のれんの減損に関する監査上の主要な検討事項の記述の比較

固有の情報を含まない

内 容 及 び 理由

監査上の主要な検討事項の例 貸借対照表に計上されているのれん の残高XX百万円は重要であり、のれ んの減損テストに必要な将来キャッ シュ・フローの見積りは経営者の判 断により重要な影響を受けるため、 監査上の主要な検討事項に該当する ものと判断した。

監 査 上 の 対応

会社の将来キャッシュ・フローの見 積 り 方 法 に 関 連 す る 内 部 統 制 の 整 備・運用状況を評価した。また、経 営者が見積りに使用した重要な仮定 及びデータが適切かどうかを批判的 に検討した。

固有の情報を含む 監査上の主要な検討事項の例 貸借対照表に計上されているのれん(残高XX百 万円)には、○○○に関連するのれん(XX百万 円)が含まれており、総資産のXX%を占めてい る。当該のれんの減損テストに必要な将来キャ ッシュ・フローの見積りには、収益予想に影響 を及ぼす○○○の市場成長率の見込、既存顧客 に関する定着率の推移見込、・・・・・、及び割 引率などの重要な仮定が用いられており、経営 者の判断により重要な影響を受けるため、監査 上の 主要な検討 事項に該当 するものと 判断し た。 将来キャッシュ・フローの見積りに経営者が用 いた重要な仮定について、以下の検討を実施し た。 ⚫ ○○○の市場成長率については、外部の複 数 の 機 関 が 公 表 し て い る デ ー タ と 比 較 し た。

⚫ 既存顧客の定着率の推移見込については、 過去の実績に基づく分析を行うとともに、 今後の新規参入動向等を含む○○○の将来 動向について、○○○が属するセクターの 複数の専門家のレポートを参考に、監査人 の予測との比較を行った。

Q2-14(会社に対する財務諸表における注記の拡充の要請)及びQ2-15(会社の未公表情報の記

述と監査人の守秘義務との関係)も、併せて参照のこと。

- 51 -

Q2-10 監査上の主要な検討事項の経年比較

会社の状況に大きな変化が生じていない場合、監査上の主要な検討事項を経年比較すると、同

じ記載となることもあり得るか。

状況によって、当年度の監査上の主要な検討事項の記載が、過年度と同じ記載になることもあり

得る。

(解説)

監査上の主要な検討事項は、当年度の財務諸表監査において、監査人が職業的専門家として特に

重要であると判断した事項であり、それらは過年度と同じこともあれば、変化する場合もある。

企業を取り巻く環境や規制などの外部要因、又は企業の事業内容、規模及び業績を含む内部要因

に重要な変化がないのであれば、監査上の主要な検討事項は過年度と同じ記載になる傾向が強くな

る。一方、外部要因又は内部要因に重要な変化がある場合には、監査人が注意を払う領域に変化が

生じ、結果として監査役等にコミュニケーションを行う事項も変わり、監査上の主要な検討事項の

記載は変化することが想定される。

また、監査役等にコミュニケーションを行った事項に変化はないものの、その時々の相対的な重

要性に変化が生じ、監査上の主要な検討事項の記載が変わることもある。監査上の主要な検討事項

が過年度と同一であったとしても、なぜ当該項目が特に重要であるのか、そしてその対応手続が、

その年度の状況やリスクに応じて適切な内容となっていることが重要である。

- 52 -

Q2-11 監査上の主要な検討事項の記載順序

監査上の主要な検討事項が複数ある場合、記載順序はどのように考えればよいか。

複数の監査上の主要な検討事項の記載順序については、特段の要求事項はなく、職業的専門家と

しての判断に係る事項とされている(監基報701のA32項参照)。

(解説)

監査人は職業的専門家としての判断に基づき、複数の監査上の主要な検討事項間における相対的

な重要性に応じて配列する方法、又は財務諸表の利用者がより理解しやすいように財務諸表におけ

る表示、若しくは注記事項の順番に配列する方法などが考えられる。

なお、監査上の主要な検討事項と同時に強調事項にも該当する事項については、財務諸表の利用

者の目に触れやすくするために「監査上の主要な検討事項」区分の最初に記載することも考えられ

る(監基報706のA2項参照)。

- 53 -

Q2-12 監査人が行った手続の結果や監査人の主要な見解の記載

監査上の主要な検討事項に対する監査上の対応として、監査人が行った手続の結果や監査人の

主要な見解は、記載することが求められているのか。また、記載する場合の留意点は何か。

監査上の主要な検討事項に対する監査上の対応として、監査人が行った手続の結果や監査人の主

要な見解を記載するかどうかは、監査人の判断による。また、監査上の主要な検討事項は、財務諸

表に含まれる個別の事項に対する意見を表明するものではないため、監査人が行った手続の結果や

監査人の主要な見解を記述するに当たっては、監査上の主要な検討事項として記載した項目に対し

て個別の監査意見を表明しないように、また、個別の意見を表明しているという印象を与えないよ

うに留意する(監基報701のA47項参照)。

(解説)

監査上の主要な検討事項に対する監査上の対応(監基報701第12項(4)参照)の記載事項として、

以下のいずれか又は組合せで記載することとされている(監基報701のA46項参照)。

・ 監査上の主要な検討事項に最も適合している、又は評価した重要な虚偽表示リスクに焦点を当

てた監査人の対応又は監査アプローチの内容

・ 実施した手続の簡潔な概要

・ 監査人による手続の結果に関連する記述

・ 当該事項に関する主要な見解

これらのうち、監査上の対応としては、少なくとも「監査上の主要な検討事項に最も適合してい

る、又は評価した重要な虚偽表示リスクに焦点を当てた監査人の対応又は監査アプローチの内容」

について記載することが想定されるが、多くの場合、具体的にその内容を記載するために「実施し

た手続の簡潔な概要」を併せて記載することになると考えられる。監査上の対応を記載するに当た

っては、利用者に、監査上の対応が不完全なのではないか、又は適切な対応がまだ完了していない

のではないかという懸念を抱かせないように留意する(監基報701のA47項参照)。そのような懸念

を防ぐためにも、監査上の主要な検討事項の決定理由に記載された内容に適合する監査アプローチ

や手続を記載することが有用と考えられる。その際、監査の基準で用いられる監査の専門用語の使

用については、監査の基準を知らなくとも監査人の行った手続の意図や方法が理解可能かどうかを

考慮し、専門用語の多用はできる限り避け、分かりやすい表現を選択する。

さらに、監査報告書の利用者が、監査上の対応やアプローチをよりよく理解することができるよ

うに、「監査人による手続の結果に関連する記述」又は「当該事項に関する主要な見解」が記載さ

れることもあるが、これらの記載は強制されるものではない。監査上の主要な検討事項に対して監

査人が行った対応の結果は、全て財務諸表全体に対する監査意見に反映されている。したがって、

除外事項付意見が表明されている場合を除いて、監査上の主要な検討事項について監査人は財務報

告の枠組みに照らして不満足な事項はなかったということを意味している。

「監査人による手続の結果に関連する記述」又は「当該事項に関する主要な見解」を含める場合、

監査人は、財務諸表に含まれる個別の事項に対する監査意見を表明しないように、又は表明してい

るという印象を与えないように留意する。また、これらは必ずしも監査の発見事項の記載を想定し

ているわけではないが、発見事項を記載する場合は、監査意見と矛盾しているような印象を与えな

- 54 -

いように留意する。

なお、監査人による手続の結果に関連する記述と監査人の主要な見解の違いと、それぞれの記述

に当たっての留意点は、以下のとおりである。

実施した手続の結果を事実に基づき客観的に記述する。

監査人による手続の 結果に関連する記述 監査人の主要な見解 監査上の主要な検討事項に関連する勘定残高等についての結論を述べる のではなく、監査上の対応として記載した監査アプローチ又は手続の対 象となった要素(経営者の重要な仮定等)に対する監査人の評価を記述 する。

個別の意見を述べているような印象を与える例

・ 実施した監査手続の結果、○○に関する会社の見積金額は、適用される財務報告の枠組み

に準拠して適切に算定されていると結論付けた。

・ 会社が行った○〇に関する見積りは、合理的であった。 ・ 会社が行った○〇に関する見積りについて、合理的でないと認められる点はなかった。

上記のような、監査上の主要な検討事項に関連する勘定残高等についての結論を積極的又は消極

的な方法で表明すると、個別の意見を述べているような印象を与える。

- 55 -

Q2-13 監査上の主要な検討事項における専門家又は構成単位の監査人への言及

監査上の主要な検討事項において、専門家の業務を利用した旨又は構成単位の監査人が作業を

実施している旨を記載することは可能か。記載する場合の留意点は何か。

監査上の主要な検討事項に対する監査上の対応を記載する際に、専門家の業務を利用した旨又は

構成単位の監査人が作業を実施している旨を記載することは可能である。

監査上の対応に関する記述の詳細さの程度は、職業的専門家としての判断に係る事項であるが、

監査上の主要な検討事項に関連して、専門家の業務を利用した場合や構成単位の監査人が作業を実

施している場合の記載については、Q2-9を参考に、汎用的な又は標準化された文言を避け、ど

のように利用したかについて、具体的な状況に直接関連付けた記載となるよう留意する。

(解説)

(1) 専門家の業務の利用

監査人は表明した監査意見に単独で責任を負うものであるため、無限定意見の監査報告書にお

いて監査人の専門家の業務を利用したことを記載してはならないとされている(監基報620第13

項参照)。監査上の主要な検討事項において監査人の専門家の業務の利用に言及することができ

るかどうかは、この要求事項との関係についてどのように考えるかを明確にする必要がある。

この点については、監査基準報告書701のA49項において、監査上の主要な検討事項の監査アプ

ローチを記載する際に、例えば、複雑な金融商品の公正価値の評価のように見積りの不確実性が

高い会計上の見積りに関して、監査人は専門家の業務を利用したことについて記載することがあ

るが、そのような監査人の専門家の業務の利用に関する記載は、監査基準報告書620第13項に規

定されている状況には該当しないと整理されている。ただし、監査上の主要な検討事項に専門家

の業務を利用したことを記載したとしても、監査意見に対する監査人の責任を軽減するものでは

ないことに変わりはない。したがって、監査上の主要な検討事項への監査上の対応として、専門

家の業務の利用が特徴の一つであるのであれば、職業的専門家としての判断に基づき、専門家の

業務の利用について記載することができる。

監査上の主要な検討事項において、専門家の業務を利用した旨の記載をする場合には、監査基

準報告書620「専門家の業務の利用」に基づいた監査手続(専門家の利用の必要性の判断や専門

家の適性、能力及び客観性の評価等)に焦点を当てるのではなく、監査上の主要な検討事項に対

応するために、どのような領域の専門家の業務をどのような局面(リスク評価、リスク対応手続、

又は結果の評価など)で利用したかについて、利用した業務の内容、範囲及び目的等を具体的に

記載することが適切であると考えられる。

(2) 構成単位の監査人が作業を実施している場合

専門家の業務の利用と同様に、監査上の主要な検討事項において構成単位の監査人が作業を実

施している旨を記載することは可能である。ただし、構成単位の監査人が作業を実施している旨

を記載したとしても、監査人は表明した監査意見に単独で責任を負うものであるため、監査人の

責任が分割されたり、軽減されることはない。なお、2019年2月の監査基準報告書700の改正に

より、監査報告書の「財務諸表監査における監査人の責任」において、グループ監査が適用され

る場合、グループ監査責任者として単独で監査意見に対して責任を負う旨を記載することとされ

- 56 -

た(監基報700第36項(3)参照)。

構成単位の監査人が作業を実施している場合、グループ監査における一般的な記述(例えば、

監査基準報告書600の文言を利用して、構成単位の監査人が実施する作業内容や結論について十

分な理解や評価を行った旨)をするだけではなく、Q2-9を参考に、監査上の主要な検討事項

に関連する構成単位の名称(国地域名、セグメント名等)や構成単位の監査人が実施した監査手

続を具体的に記載することが適切であると考えられる。

- 57 -

Q2-14 会社に対する財務諸表における注記の拡充の要請

監査人が監査上の主要な検討事項を記載するために、会社に対して、財務諸表における注記の

拡充を要請することになるか。

企業に関する情報を開示する責任は経営者にあるため、監査人による監査上の主要な検討事項の

記載は、経営者による開示を代替するものではない。経営者は、適用される財務報告の枠組みによ

り求められる財務諸表の表示及び注記事項、又は適正表示を達成するために必要な財務諸表の追加

的な注記事項を開示する責任を有している。したがって、監査人は、監査上の主要な検討事項を記

述するに当たり、会社の未公表の情報を含める必要があると判断した場合には、財務諸表利用者が

財務諸表を適切に理解するための情報が十分に提供されているかどうかという観点から、経営者に

対して追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である。

経営者が財務諸表に追加情報の注記は必要ないと判断した場合、監査人は財務報告の枠組みに照

らして、追加情報の注記がなくとも財務諸表が適正表示を達成しているかどうかを判断することに

なるが、適正表示を達成していると判断したときは、経営者に対して、監査上の主要な検討事項を

監査報告書に記載することを理由として注記の拡充を強要することはできない。

(解説)

監査上の主要な検討事項は、監査に関する情報を提供するものであり、監査上の主要な検討事項

の記述に当たり監査人が必要と判断した内容が企業により公表されていない場合、監査人は以下の

対応が必要となる。

・ 経営者に対して財務諸表又はそれ以外の方法により情報を追加することを促し、必要に応じて

監査役等と協議する。

・ 経営者が注記を追加することは不要と判断した場合、監査人は、追加情報がなくとも利用者は

財務諸表を適切に理解できるかどうか、つまり、財務諸表が適正表示を達成しているかどうかを

検討する。検討の結果、監査人が財務諸表は適正表示を達成していると判断した場合、経営者に

対して、監査上の主要な検討事項を監査報告書に記載することを理由として、注記の拡充を強要

することは適切ではない。

・ 経営者が、財務諸表以外の手段によっても追加の開示を行わないと判断した場合、監査人は、

監査の基準に照らして必要と判断した内容を監査上の主要な検討事項に含めることが求められて

いる。

このように、監査人及び経営者は、適用される財務報告の枠組みに照らして、財務諸表の適正表

示が達成されているかどうかの検討は、これまで以上に必要になると考えられる。監査基準報告書

700では、監査人は、財務報告の枠組みに基づいて、財務諸表の注記事項に関して以下を評価する

ことが求められており、監査人は適用指針を考慮して、注記事項について注意を払うことが適切で

ある。

・ 重要な会計方針が財務諸表において適切に注記されているか。この評価において、会計方針の

記述が企業の状況に照らして目的適合性を有しているか、及び理解可能かどうかを考慮しなけれ

ばならない(監基報700第11項(1)参照)。

・ 財務諸表において表示又は注記された情報が目的適合性、信頼性及び比較可能性を有し、かつ

- 58 -

理解可能なものであるかどうか。この評価において、以下を考慮しなければならない(監基報

700第11項(4)参照)。

- 必要な情報が含まれているかどうか、及び当該情報が適切に分類、集計又は細分化され、性

質に応じた記載となっているか。

- 関連しない情報又は注記された事項の適切な理解を曖昧にする情報を含めることにより、財

務諸表の全体的な表示が損なわれていないかどうか。

これらを評価するに当たっては、適用指針において、財務諸表に含まれている情報が企業に特

有の情報をどの程度提供しているか、想定される利用者の理解に資するように適切な注記がなさ

れているかを考慮することが示されている(監基報700のA6項参照)。

・ 財務報告の枠組みが適正表示の枠組みの場合、財務諸表が適正表示を達成しているかどうかの

評価に関して、以下の適用指針が追加されている。

- 企業の事実及び状況並びにその変化を考慮する。財務報告の利害関係者のニーズの変化や経

済環境の変化の影響等が適正表示の達成に必要な追加的な注記が必要かどうかの判断に影響す

ることがある(監基報700のA8項参照)。

- 経営者及び監査役等との間で、財務諸表における情報開示の詳細さの程度や業界の適切な会

計慣行と異なる方法を採用している場合の決定理由や、財務諸表の最終案に至る過程で検討し

た代替案がある場合、それに関する見解を討議することがある(監基報700のA9項参照)。

また、監査人は経営者に追加開示を要請する際、財務諸表において追加情報として注記する方法

に限定する必要は必ずしもない。財務諸表を補完し、利用者(投資家)による適切な投資判断を可

能とする記述情報の拡充が図られている(金融庁「記述情報の開示に関する原則」2019年3月公表)

ことに鑑み、有価証券報告書の財務諸表以外の区分における開示を含め、財務報告の枠組み又は法

定開示書類の開示規則を踏まえた情報開示を促していくことが考えられる。

なお、監査上の主要な検討事項は、関連する財務諸表の注記事項がある場合にのみ参照を付すこ

とが求められており(監基報701のA40項参照)、財務諸表以外の情報を参照することは財務諸表以

外の情報まで監査対象であるかのような誤解が生じることになるため、財務諸表以外の情報には参

照を付さない。

Q2-15「会社の未公表情報の記述と監査人の守秘義務との関係」も併せて参照のこと。

- 59 -

Q2-15 会社の未公表情報の記述と監査人の守秘義務との関係

監査上の主要な検討事項を記載するに当たり、会社の未公表情報9に言及した場合、監査人の守 秘義務との関係はどのように考えるのか。企業の未公表情報の記述に当たり、監査人はどのよう な点に留意することになるか。

監査人が監査上の主要な検討事項に企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場

合には、会社の未公表の情報を監査報告書において不適切に言及しないように、経営者に追加の情

報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である(監査基準の前文及

び監基報701のA36項参照)。

このような協議を経た上で、経営者が情報を開示しない場合、監査人が監査基準に基づき正当な

注意を払っている限り、職業的専門家としての判断において監査上の主要な検討事項として記載す

ることについては、守秘義務が解除される正当な理由に該当する(監基報701のA55項及び倫理規則

第114.1 A1項(3)④参照)。

(解説)

監査上の主要な検討事項は監査に関する情報であり、会社に関する情報開示の責任は会社の経営

者にある。最終的には、監査上の主要な検討事項の記述に会社の未公表情報が含まれていたとして

も、監査人の守秘義務には抵触しないということになるが、そのためには、会社と開示について十

分議論を重ねることと、その記載が監査基準に準拠する上で必要な範囲であることの二つが満たさ

れている必要がある。

(1) 会社の経営者及び監査役等との協議

会社の経営者及び監査役等との協議においては、監査上の主要な検討事項は個々の監査に特徴

的な固有の情報を記載することが求められていることを十分に説明することが重要である。その

際、企業に関する情報の開示に責任を有する経営者には、監査人からの要請に積極的に対応する

ことが期待され、また、取締役又は執行役の職務の執行を監査する責任を有する監査役等には、

経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待されていることについても十分説明し、理解

を得ることが重要となる(Q2-18参照)。

(2) 監査基準に準拠する上で必要な範囲

金融庁に設置された会計監査に関する情報提供の充実に関する懇談会の報告書(2019年1月22

日公表)において、公認会計士法上、守秘義務の対象になるのは業務上知り得た「秘密」であり、

会社の未公表の情報の全てが監査人の守秘義務の対象になるわけではないこと、また、仮に「秘

密」に該当する情報であっても監査人が監査報告書の利用者に必要な説明・情報提供を行うこと

は守秘義務が解除される正当な理由に該当するという考え方が確認されている(Ⅱ2(3)の「守

秘義務についての考え方」参照)。

監査上の主要な検討事項に含まれる会社の未公表情報がどの範囲であれば、監査基準に準拠す

9 未公表の情報は、会社により公にされていない当該会社に関する全ての情報をいい、有価証券報告書の財務諸表以外の 区分や会社法の事業報告、決算発表又は投資家向けの説明資料等により、会社が口頭又は書面で公表している情報は含 まれない(監基報 701 の A35 項)。

- 60 -

る上で必要と考えられるかについては、企業内容等の開示制度全体10(監査もその一部を構成し

ている。)の目的に照らして判断することが適切と考えられる。つまり、企業内容等の開示制度

において開示が想定されている事項は、会社が非開示であったとしても、監査の基準に準拠して

監査上の主要な検討事項を記載する上で必要な範囲とみなされるものと考えられる。

例えば、我が国において一般に公正妥当と認められている企業会計の基準に基づき財務諸表が

作成されている場合、日本の開示制度において認められている、広く受け入れられている他の一

般目的の財務報告の枠組み(IFRSや米国会計基準)で注記が求められている内容は、監査人が監

査上の主要な検討事項の記述内容を検討する際に参考になると考えられる。もちろん、監査上の

主要な検討事項は、監査基準に照らして必要な範囲の記載が求められるものであるため、IFRSや

米国会計基準の注記が監査上の主要な検討事項の記載範囲を限定するものではないことに留意が

必要である。

一方、会社の未公表情報の中には、取扱いに注意を要するセンシティブな情報が含まれること

があり、そのような情報の中には、監査上の主要な検討事項において記載することが企業内容等

の開示制度の目的から、監査基準に準拠する上で必要な範囲には入らないものもある。監査基準

に準拠する上で必要な範囲には入らないと一般的に考えられる情報としては、例えば以下が考え

られる。

・ 会社が取引先と守秘義務を負っているような情報(製造工程や製品に関する情報、特許申請

に関連する情報、新製品の開発に関する情報、取引価格に関する情報等)

・ 訴訟又は訴訟には至っていないが係争中の事案に関して、自己(会社)に不利益な影響を及

ぼすほどに詳細な内容

・ 会社の取引先などの第三者の権利を不当に侵害する内容

監査上の主要な検討事項を記述するに当たり、このような情報の記載が必要かどうかはより慎

重な検討が必要であり、経営者や監査役等と十分な協議を行い、利害関係者に誤った印象を与え

ないように記述の仕方や詳細さの程度を工夫することで対応を図ることが適切である。

10 金商法は、投資者が自己責任のもと適切な投資判断を行えるように、有価証券及びその発行者に関する情報等が正確、 公平かつ適時に開示されることにより、投資者が事実を知らされないことにより被る損害から保護するために企業内容 等の開示制度を整備している。金商法の第1条では、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成 等を図り、もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することが法の目的として記載されている。

- 61 -

監査人の守秘義務の対象と正当な理由による解除

業務上知り得た情報

業務上知り得た秘密

正 当 な 理 由 に よ り 守 秘 義 務 が 解 除 さ れる秘密

監査の過程で知り得た情報であっても、監査人に開示された時点 で既に公知となっていたものや既に監査人が保有していたもの、 監査人に開示された後に監査人の責めに期すべき事由によらず公 知となったもの、監査人が守秘義務を負うことなく第三者から正 当に開示されたものは、守秘義務の対象にはならない。(現行の 監査約款より)

監査人の守秘義務の対象:守秘義務は、会社が監査人に対して、 監査に必要な情報を提供することを確保するための不可欠な前提

守秘義務が解除される正当な理由(倫理規則第114.1 A1項を基に要約、組替) ⚫ 法令等によって要求されている場合(訴訟手続の過程で文書を作成又は証拠を提出するとき、法令等によ

る質問・調査・検査に応じるとき、法令違反等事実を当局に申し出るとき等)

⚫ 職業上の義務又は権利がある場合(技術的及び職業的専門家としての基準に基づくとき、日本公認会計士 協会(JICPA)の会則に基づく品質管理レビューや質問・調査に応じるとき、訴訟手続において自己の職業 上の利益を擁護するとき等)

⚫ 会社の了解が得られている場合

★ 守秘義務が解除される理由ごとに、解除される範囲は異なる。法令の規定、監査の基準、JICPA の会

則等、それぞれの趣旨に照らして守秘義務が解除される秘密の範囲は判断される。

- 62 -

Q2-16 監査上の主要な検討事項を監査報告書において報告しない場合

監査人が監査上の主要な検討事項として決定した事項を監査報告書において報告しない場合と

は、どのような場合が想定されているのか。

監査人は、以下のいずれかに該当する場合を除き、監査報告書に監査上の主要な検討事項を記載

しなければならないとされている(監基報701第13項参照)。

(1) 法令等により、当該事項の公表が禁止されている場合

(2) 極めて限定的ではあるが、監査報告書において報告することにより生じる不利益が公共の利益

を上回ると合理的に見込まれるため、監査人が当該事項について報告すべきでないと判断した場

したがって、上記(1)又は(2)に該当する場合は、監査人は監査上の主要な検討事項として決定し

た事項を監査報告書に記載しないこととなるが、そのような場合は極めて限定的であると考えられ

ており、実務的には、監査上の主要な検討事項の記載をしないという決定には至らず、監査上の主

要な検討事項の記述の仕方を工夫することで問題の解決が図られるものと考えられる。

(解説)

監査上の主要な検討事項は、監査の最終受益者である利用者に対する監査報告書の情報価値を高

めることを目的としており、その記載は公共の利益に資するものとして導入された。一方、監査対

象となる財務諸表には様々な状況にある会社の事業活動の全てが反映されるため、監査上の主要な

検討事項を通じた監査情報の提供が他の公共の利益を損ねる可能性を完全には排除することは困難

である。そこで、開示することによる不利益(つまり、開示しないことにより保護すべき利益)と

の比較衡量を求める規定として置かれたのがこの規定である。監査上の主要な検討事項の導入趣旨

を没却しないように、この規定の適用は、不開示により保護するに値する内容に限られ、極めて限

定的に捉える必要がある。

(1) 法令等により、当該事項の公表が禁止されている場合

監査人は、監査の過程で違法行為又はその疑いのある行為に関する情報を入手し、関連する領

域について重点的に監査を実施することがある。当該事項に関連して公的な機関による調査・捜

査が進行しているような状況においては、当該情報を公にすることにより、調査・捜査を害する

ことが想定される。このような状況をあらかじめ想定して、社会の安全と秩序の維持のために当

該情報の公開を禁止している法令や規則を定めている国又は地域がある。

・ 欧州連合(EU)指令112018/843 マネー・ローンダリング又はテロリストへの資金供与に金融

システムを利用することを防止する指令(2018/5/30)

本指令の適用対象は金融機関のほか監査人も含まれており、マネー・ローンダリングやテロリ

ストへの資金供与等の調査が実施されていることについて、その顧客や第三者に情報を開示する

ことを禁止する条文(第39条)が含まれている。

11 Directive (EU) 2018/843 of the European Parliament and of the Council of 30 May 2018 amending Directive (EU) 2015/849 on the prevention of the use of the financial system for the purposes of money laundering or terrorist financing, and amending Directives 2009/138/EC and 2013/36/EU (Text with EEA relevance)

- 63 -

我が国の場合、特定の情報について開示を禁止する法令には、例えば、「特定秘密の保護に関

する法律」がある。当該法令は、国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であ

る情報の保護に関するものであり、行政機関のほか、特定秘密を取り扱う適合業者も対象となる。

監査の過程で監査人が当該法令で開示を禁止されている情報に触れる可能性は極めて低いと考え

られるが、仮に監査人が知った場合にそれを監査上の主要な検討事項として開示することは会社

が法令に違反することとなり、監査人に対しても相応の責任が生じると考えられる。

我が国においては、法令によるものではないが、以下のような場合、法令による場合と同様に

慎重に扱うことが適切と考えられる。

・ 公的機関による調査・捜査の一環として監査人が協力を求められる場合、一般に当該機関か

ら情報の秘匿が求められる。

・ 金融機関の監督当局による検査情報は、特定の金融機関の信用不安を招くおそれがあること

から、監督当局から金融機関に対して第三者に開示してはならないこととされている(金融庁

「金融検査に関する基本指針」Ⅱ-4参照)。

(2) 監査報告書において監査上の主要な検討事項を報告することにより生じる不利益が公共の利益

を上回ると合理的に見込まれる場合

監査上の主要な検討事項を報告することによる不利益は、社会に及ぼすものと会社に及ぼすも

のに分けて考える必要がある。社会に及ぼす不利益は、(1)と同様に、国家機密、社会全体の安

全と秩序の維持など、守るべき他の公共の利益との比較において検討することになる。通常、財

務諸表監査の過程で、監査人がそのような情報を入手する可能性は少なく、かつ、そのような内

容を含めなければ監査上の主要な検討事項に必要な内容を記述できない状況はほぼないものと考

えられる。

監査の透明性向上という公共の利益と比較する会社に及ぼす不利益は、企業内容等の開示制度

の目的に照らして考える必要がある。監査制度も当該開示制度の一部を構成するものであり、監

査上の主要な検討事項の記載による監査の透明性向上は開示制度全体の透明性の向上につながる

ため、不開示により保護すべき利益の有無は、開示制度の目的に照らして検討することが適切で

ある。具体的には、企業の株価や資金調達への影響は、本来、会社が財務諸表やその他の開示を

通じて投資家等の利害関係者に伝達することが開示制度上想定されていると考えられることから、

株価や資金調達への影響は、監査上の主要な検討事項の記載による公共の利益と比較する不利益

には含まれないと考えられる。

監査上の主要な検討事項に該当するにもかかわらず、情報開示の不利益を理由として監査上の

主要な検討事項として記載しないという決定を安易にすることは、今回の監査報告書の改革の制

度趣旨を脅かすことにつながりかねない。したがって、監査上の主要な検討事項の記載による不

利益については、監査人は、会社側が情報開示すべきでないと考える理由を理解した上で、以下

の点に留意して様々な角度から慎重に検討を加え、監査役等とも十分な協議を重ねることが重要

である(監基報701のA54項参照)。

・ 企業が当該事項を公表していない理由が、公共の利益の観点から法令等で特定の状況の開示

を一定期間留保することが認められている、又は当該事項を開示しないことが許容されている

状況に該当していることがある。例えば、以下の場合が考えられる。

- 64 -

‐ 金商法第25条第4項の規定は、事業上の秘密の保持の必要により書類の一部について公衆

の縦覧に供しないことについて内閣総理大臣が承認した場合、その一部は公衆の縦覧に供し

ないものとすることができる旨定めている。この承認に当たっては、秘密事項の内容、公衆

の縦覧に供しないことの必要性、及び投資者保護上の問題点等について、総合的に比較衡量

の上、判断することとされており、必要に応じ、参考となる資料及び監査法人等関係者から

の意見書等の添付、取引所の意見も参考とすることとされている(企業内容等開示ガイドラ

イン)。

‐ 欧州連合(EU)規則No.596/201412「市場阻害行為規則」では、即時の開示が会社の正当

な利益を損なう可能性が高く、かつ、開示の遅延が投資家の誤解を招く可能性が低く、かつ、

当該情報の保秘を確実に行える場合は、自己の責任において情報開示を遅らせることができ

るという規定が設けられている(同規則第17条第4項参照)。

・ 経営者が、非開示の理由として、不利益の検討に関連する可能性のある法令等(例えば、企

業の営業上の交渉、又は競争上の地位に対する損害等に関連する法令等)を示すことがある。

しかしながら、監査人は、経営者の見解のみに基づいて、当該不利益が公共の利益を上回ると

合理的に見込まれるかどうかについて判断することはできない。

・ 当該事項に関して、該当する規制・監督当局等と企業のコミュニケーションが行われている

かどうか、また、それが当該事項の公表が適切でないとする経営者の見解を裏付けているかど

うかについて検討する。

監査報告書に監査上の主要な検討事項として記載しないという決定をした場合は、その判断の

根拠を監査調書に記載することが求められる。監査人は、これらを検討した結果、当該事項の記

載が適切ではない場合には、監査上の主要な検討事項として監査報告書に記載を行わず、未公表

の理由について経営者確認書を求めることがある(監基報701第17項(3)及びA54項参照)。

これらに該当することは極めて限定され、実務的には、監査上の主要な検討事項の記載をしな

いという決定には至らず、監査上の主要な検討事項の記述の仕方を工夫することで問題の解決が

図られるものと考えられる。監査の基準に準拠して監査上の主要な検討事項を記述するに当たっ

て「必要な範囲」については、Q2-15参照のこと。

12 Regulation (EU) No.596/2014 of the European Parliament and of the Council of 16 April 2014 on market abuse (market abuse regulation) and repealing Directive 2003/6/EC of the European Parliament and of the Council and Commission Directives 2003/124/EC, 2003/125/EC and 2004/72/EC Text with EEA relevance

- 65 -

Q2-17 訂正監査報告書における監査上の主要な検討事項の取扱い

訂正報告書において監査報告書を添付する場合、以前に発行された監査報告書において記載さ

れた監査上の主要な検討事項にどのような影響があるか。

財務諸表の訂正の原因となった事項が、①追加の監査上の主要な検討事項を生じさせているかど

うか、又は②以前に発行された監査報告書に記載されていた監査上の主要な検討事項に関連してい

る場合には記載内容の修正が必要かどうかを検討する。監査上の主要な検討事項の追加又は修正が

必要と判断される場合には、訂正後の財務諸表に対して発行する監査報告書において、追加又は修

正を加えた監査上の主要な検討事項を記載する。

(解説)

財務諸表が発行された後に、もし監査報告書日現在に気付いていたとしたら財務諸表の訂正が必

要な事実が判明し、会社が訂正報告書を提出する場合、監査人は改めて訂正後の財務諸表に対して

監査を実施し、監査報告書の提出が必要となることがある。金商法上、訂正後の財務諸表の監査は、

訂正箇所のみではなく、訂正箇所を含んだ財務諸表全体を対象として、訂正対象の事業年度に適用

される監査の基準に基づき実施することが求められている。以下は、訂正対象の事業年度の監査が、

法令又は監査契約により、監査上の主要な検討事項の記載が求められている場合を想定して記載し

ている。

(1) 監査上の主要な検討事項の追加又は修正の必要性の検討

訂正後の財務諸表に対して監査人が監査報告書を提出する場合、財務諸表の訂正の原因となっ

た事項が以前に発行された監査報告書に記載されていた監査上の主要な検討事項に関連している

かどうかにより、以下の検討を行う。

① 関連していない場合、追加の監査上の主要な検討事項を記載するかどうか。

② 関連している場合、以前に発行された監査報告書に記載されていた監査上の主要な検討事項

の記載内容の修正が必要かどうか。

検討の結果、監査人が監査上の主要な検討事項について追加又は記載内容の修正が必要と判断

した場合には、訂正後の財務諸表に対して発行する監査報告書において追加又は修正を加えた監

査上の主要な検討事項を記載する。財務諸表の訂正内容に重要性があり、訂正報告書に監査報告

書を添付する場合、通常は訂正の原因となった事項は監査上の主要な検討事項に該当し、①又は

②の対応が必要になると考えられる。

一方、以前に発行された監査報告書に記載された訂正の原因となった事項に関連しない監査上

の主要な検討事項は、訂正財務諸表の監査に際して改めて監査上の対応を見直した場合を除いて、

訂正による影響を受けないと考えられるため、訂正後の財務諸表に対して発行する監査報告書に

おいても以前と同様の内容を記載する。

なお、訂正後の財務諸表に対する監査の場合、監査人は、監査上の主要な検討事項の記載の有

無にかかわらず、訂正後の財務諸表に対して発行する監査報告書の「強調事項」区分又は「その

他の事項」区分において、訂正事由について説明している財務諸表の注記又は訂正報告書の該当

箇所に参照を付し、以前に発行した財務諸表を訂正した旨を記載し、監査人が以前に提出した監

査報告書について記載することが求められている(監基報560第15項参照)。

- 66 -

(2) 監査人の交代があった場合の対応

訂正対象となった事業年度の監査人が交代している場合、実務上は、訂正前の財務諸表の監査

を担当した前任監査人が訂正後の財務諸表の監査を実施することが多いと考えられるため、前任

監査人は(1)に従って監査上の主要な検討事項の追加又は修正を行うことになる。

何らかの理由により、前任監査人が訂正後の財務諸表の監査を実施せず、現在の監査人が訂正

後の財務諸表の監査を実施する場合は、現在の監査人が訂正後の財務諸表全体に対して監査を実

施するため、現在の監査人の判断に基づき、監査基準報告書701に従って訂正対象年度の財務諸

表監査における監査上の主要な検討事項の選定及び記載を行うこととなる。その際、訂正後の財

務諸表に対して発行する監査報告書には、前任監査人が記載していた監査上の主要な検討事項と

の相違点について説明する必要はない。

監査基準報告書560第15項に従い、「強調事項」区分又は「その他の事項」区分において、訂

正事由について説明している財務諸表の注記又は訂正報告書の該当箇所に参照を付し、以前に発

行した財務諸表が訂正されている旨を記載する。また、「監査人が以前に提出した監査報告書に

ついての記載」は、訂正前の財務諸表に対して提出した監査報告書は依拠できないことを示すた

めに記載するものであるため、例えば、「訂正前の財務諸表に対して×年×月×日付けで提出さ

れた監査報告書は、本監査報告書により訂正されている」等の記載をすることが考えられる。

- 67 -

Q2-18 監査スケジュールや監査役等とのコミュニケーションにおける留意点

監査上の主要な検討事項の有意義な導入を図るためには、監査スケジュールや監査役等とのコ

ミュニケーションにどのような留意点があるか。

監査上の主要な検討事項に関して、監査報告書を作成する監査最終段階ではなく、監査計画段階

で監査上の主要な検討事項の候補を経営者及び監査役等に提示し、草案の作成に着手できるように、

監査スケジュールや監査役等とのコミュニケーションに配慮することが適切である。

そのためには、監査の早い段階で、監査上の主要な検討事項の候補の提示及び協議、草案の検討

等を行うおおよその時期について経営者及び監査役等と協議しておくことが重要となる。

(解説)

(1) 監査の全過程を通じたコミュニケーション

監査上の主要な検討事項は監査報告書の記載事項ではあるものの、監査の最終段階を待って、

監査の過程で監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から監査上の主要な検討事項の決

定に着手することが想定されているわけではない。

監査人は、本来、監査の過程を通じて、経営者及び監査役等と監査上の重要な論点となる事項

について適時にコミュニケーションを行うことが想定されている。監査上の主要な検討事項に関

するコミュニケーションの適切な時期は、状況により様々であるが、できる限り、監査の早い段

階から経営者及び監査役等に監査人の見解を伝達することが望ましいと考えられる。特に、監査

上の主要な検討事項の導入初期においては、監査上の主要な検討事項の決定理由や監査人の対応

の記載内容に関する検討や監査役等及び経営者等との協議に相応の時間を要すると見込まれるこ

と、その過程で経営者に開示を促すことがあること、また、財務諸表に重要な影響を及ぼすリス

クに関する認識が深まる効果が期待されること等を勘案すると、監査上の主要な検討事項につい

てのコミュニケーションは監査計画の段階から始めることが適切である。

(2) 監査役等とのコミュニケーション

監査人は監査役等とコミュニケーションした事項を基礎として監査上の主要な検討事項を決定

することとなり、また、当該事項について監査役等とコミュニケーションを行うこととなる(監

基報701第8項、第9項及び第16項参照)。監査上の主要な検討事項に関して、監査役等とは以下

のコミュニケーションを行うことが想定されている。

・ 計画した監査の範囲と実施時期について監査役等とコミュニケーションを行う際に、通常、

監査上の主要な検討事項となる可能性がある事項についてもコミュニケーションを行う(監基

報260のA13項及び監基報701のA60項参照)。

・ 監査上の主要な検討事項となる可能性がある事項については、監査役等と深度ある協議を行

うため、頻繁にコミュニケーションを行うことがある(監基報260のA48項参照)。これら監査

上の主要な検討事項となる可能性がある事項は、監査の過程で新たに追加したものを含め、監

査上の発見事項を報告する際に更にコミュニケーションを行う(監基報701のA60項参照)。

・ 監査役等との協議を促進するために、監査上の主要な検討事項が記載された監査報告書の草

案を監査役等に提示することは有用である。このような協議により、監査役等は監査人の判断

の根拠を理解し、監査役等が財務報告プロセスに対する監視の重要な役割を果たすことにつな

- 68 -

がり、また、監査上の主要な検討事項に関連する追加的な情報を開示することが有用かどうか

の検討に役立つ(監基報701のA61項参照)。

このように監査人が、監査計画の段階で監査上の主要な検討事項となる可能性がある事項につ

いてコミュニケーションを行い、その後も事業年度を通じて、新たな事項の追加や記載すべき内

容の具体化について円滑に協議を進めるためには、年度当初に監査役等とコミュニケーションの

範囲、時期等について協議する際に(監基報260第17項及びA36項参照)、監査上の主要な検討事

項についてもいつまでに候補を提示し、いつから草案の検討を行うか、おおよその時期について

も協議し、決定しておくことが必要になると考えられる。

監査役等とのコミュニケーション

監査契約の 締結

監査計画 リスク評価

監査手続の 実施

監査意見の 形成

監査報告書 の作成

重要事項の報告 ⚫ 実施した手続の結果を踏まえ、 KAMに該当する事項について協議 ⚫ 監査報告書に記載するKAMの草案

について協議

⚫ 財務諸表又はその他の方法によ

る開示状況について協議

契約条件の確認 ⚫ KAM が適用にな る か 否 か の 確 認

監査計画の概要 ⚫ KAMの候補となる 項 目 に つ い て 協 議

⚫ KAMの候補となる 項 目 の 財 務 諸 表 又 は そ の 他 の 方 法 に よ る 開 示 状 況について協議 ⚫ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 頻 度 、 日 程 、 方 法 等 に つ いて確認

随時 ⚫ KAMの候補となる 項 目 ( 項 目 の 変 動 の 有 無 を 含 む 。 ) に つ い て 、 状 況 の 確 認 &協議

⚫ 財 務 諸 表 又 は そ の 他 の 方 法 に よ る 会 社 の 開 示 状 況について協議

KAM : 監査上の主要な検討事項

- 69 -

KAM に該当する事項について協

• 監査報告書に記載する KAM の草

案について協議

• 財務諸表又はその他の方法によ

る開示状況について協議

Q2-19 株主総会における対応

株主総会で監査上の主要な検討事項に関する質問が出ることが想定されるが、事前にどのよう

な対応及び準備が考えられるか。また、監査人が株主総会で陳述する場合の留意点は何か。

株主総会において、株主より監査上の主要な検討事項に関する質問が出ることが想定される場合、

想定される質問の内容について事前に会社との間で、監査人が回答すべき事項と会社側が回答すべ

き事項の区分について十分に協議しておくことが適切である。また、株主総会で監査人が意見陳述

を行うには、会社法の規定を踏まえる必要があるため、円滑な総会運営のためには必要な手続や段

取りについて確認しておくことが重要となる。

会社法の規定に従って株主総会において監査人の出席の決議があった場合は、監査人は株主総会

に出席し、株主からの質問の趣旨を踏まえて議長から指名を受けて監査人は回答することとなる。

会社法の規定に基づき、株主総会において監査人が意見を述べる場合には、監査人が業務上知り得

た秘密に関するときであっても、監査人の守秘義務解除の正当な理由に該当する。

(解説)

監査上の主要な検討事項は、基本的には追加的な説明を要しないように監査報告書において分か

りやすく記述することが必要であるが、株主総会で、株主より監査上の主要な検討事項に関する質

問が出ることも想定される。したがって、監査人は、株主総会において株主から出る質問に対する

準備を会社とともに行うことが適切である。

(1) 株主からの想定される質問と適切な回答者に関する協議

株主総会における監査上の主要な検討事項に関する株主からの想定される質問内容について、

事前に会社との間で、監査人が回答すべき事項なのか、会社側(経営者又は監査役等)が回答す

べき事項なのかについて十分協議しておくことが適切である。株主総会で、株主が監査上の主要

な検討事項に関連する質問を行う場合であっても、質問の趣旨は監査上の主要な検討事項とは別

のところにあり、監査上の主要な検討事項を単なる議論のきっかけとして利用することが考えら

れるためである。例えば、監査上の主要な検討事項に関連する質問であっても、監査人の判断や

対応についての質問ではなく、経営者の将来の事業計画や業績予測に関する質問であることや、

監査役等の判断や対応に関する質問であることも想定される。したがって、想定される質問の趣

旨に応じて適切な者が回答できるように、あらかじめ質問趣旨に応じた回答予定者について会社

と協議しておくことが望ましい。

(2) 会社法に基づく手続

会社から株主総会で監査人の陳述を求められる場合には、会社法の規定を踏まえた手続を踏む

必要がある。会社法上、計算書類が法令又は定款に適合するかどうかについて監査人が監査役等

と意見を異にする場合、監査人は定時株主総会に出席して意見を述べることができるとされてお

り(会社法第398条第1項参照)、そのほか、定時株主総会において監査人の出席を求める決議が

あった場合は、監査人は総会に出席して意見を述べる義務がある(会社法第398条第2項参照)。

会社法第398条第1項の「計算書類が法令又は定款に適合するかどうか」についての監査人と監

査役等との意見を異にする場合とは、監査結果(つまり監査意見)の相違がある場合が想定され

ているため、仮に監査人が選定した監査上の主要な検討事項について監査役等が異なる見解を有

- 70 -

する場合は同条第1項には該当しない。そのため、監査上の主要な検討事項に関して監査人が株

主総会で説明を求められるとすれば、多くの場合、会社法第398条第2項に基づく決議により、

監査人は出席を求められることになると考えられる。

株主総会の決議は、あらかじめ招集通知に議題として記載されているほか、取締役会設置会社

において株主総会において株主の動議に基づいて行うことができるとされている(会社法第309

条第5項ただし書き参照)。株主総会に監査人が出席するに当たり、留意すべき主な点は以下の

とおりであるが、実際の運用に当たっては、監査人は法律の専門家の助言を求めることが適切で

ある。

・ 株主からの動議が想定される場合にどのように対応するかは、会社の株主総会の議事運営に

属する事項であるため、監査人は会社の対応方針をあらかじめ確認しておく。

・ 株主総会に動議により出席が求められる可能性が高く、会社から要請がある場合、監査人は、

その場合に備えて株主総会当日は会場又はその近くに待機する。

・ 株主総会の決議に基づき株主総会に出席するように求められた監査人が正当な理由なく出席

及び意見陳述を拒むことは、監査人の任務懈怠(会社法第423条第1項参照)を構成するとさ

れている。

・ 株主総会に監査人(業務執行社員)が出席を確保するための努力がなされたにもかかわらず、

出席ができない状況において、代わりに補助者が出席して意見を述べる方法や、監査人の意見

を代読する方法を株主総会が認めた場合は、監査人の出席の決議が変更されたものと解される

が、株主総会がそのような措置を認めない場合は、株主総会の継続の決議をし、継続会として

後日監査人の出席が求められる。

(3) 監査人の守秘義務との関係

株主総会において、会社法第398条第2項に基づく決議の下で自ら行った監査について監査人

が株主に対して説明することは監査の目的に付随するものであり、監査が公共の利益に資する業

務であることに照らして監査人の守秘義務が解除される正当な理由に該当すると考えられる

(「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」報告書参照)。さらに、会社法において

も、株主総会が監査人の出席を求める決議をしたということは、会社の最高決議機関が監査人の

守秘義務を免除したと解されている。

株主総会において、株主からの質問内容から監査人が回答すべきであると判断され、議長によ

り指名を受けた場合には、監査人は株主総会にて株主に対して回答を行うことになる。株主総会

で監査人が陳述する場合の留意点は以下のとおりである。

・ 監査上の主要な検討事項について、監査報告書13に記載した内容を口頭で説明することにな

るが、監査報告書の記載内容を越えた詳細な内容に言及する可能性がある。特に、会社のセン

シティブ情報に触れる詳細な陳述が必要になることが想定される場合、監査人が監査人として

の説明責任を果たす上で必要な範囲で説明することは監査人の守秘義務解除の正当な理由に該

13 金商法に基づく当事業年度の監査報告書を想定しているが、会社法監査報告書に任意で監査上の主要な検

討事項が記載される場合も同様である。なお、有価証券報告書が株主総会時点では未提出である場合も、現 在の多くの上場企業の株主総会の日程を前提とすると、株主総会時点では、金商法に基づく監査報告書の内 容は確定しており、その内容について、会社の経営者及び監査役等も認識しているものと考えられる。有価 証券報告書が未提出の場合は、(4)フェア・ディスクロージャー・ルールの項を参照のこと。

- 71 -

当することについて、会社の理解を得ておくことが重要である。なお、監査人が会社法の規定

に基づき株主総会における説明を行う場合、会社は監査人に対して陳述内容の制約を課すこと

はできない。この点に関する双方の理解を確認するために、株主総会において、監査上の主要

な検討事項を含め、実施した監査の内容について説明する上で監査人が必要と判断した事項を

監査人が陳述することは、監査人の守秘義務には抵触しない旨を確認する文書を念のために入

手することも考えられる。

・ 監査人が株主総会において意見を述べるに当たり、虚偽の申述を行い、又は事実を隠蔽した

ときは、過料に処せられる(会社法第976条第6号参照)。

(4) フェア・ディスクロージャー・ルールとの関係

監査上の主要な検討事項は、当面、金商法の監査においてのみ適用される。現行の多くの上場

企業は、株主総会終了後に有価証券報告書を提出している。その場合、株主総会においては、ま

だ提出していない有価証券報告書に含まれる情報(監査報告書に記載予定の監査上の主要な検討

事項も含まれる。)について、説明が求められることも想定される。

株主総会において「重要情報」が伝達された場合はフェア・ディスクロージャー・ルールの対

象になり得るとの見解14が示されているため、監査上の主要な検討事項に関連する質疑応答が

「重要情報」に該当すると会社が判断した場合は、法令に従い、速やかに有価証券報告書を提出

するなどの方法により、重要情報の公表が求められることとなる。

14 金商法第 27 条の 36 の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルール・ガイドラ

イン)に対する「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」コメント No.26 参照

- 72 -

Q2-20 監査上の主要な検討事項の監査人の法的責任に及ぼす影響

監査上の主要な検討事項は、監査人の法的責任にどのような影響を及ぼすと考えられるか。

監査上の主要な検討事項は、監査の透明性を高めるため、監査プロセスに関する情報として監査

意見とは別に監査報告書に記載されるものであり、従来のリスク・アプローチの手法の変更を意図

するものではない。したがって、監査人が、監査契約に基づき、一般に公正妥当と認められる監査

の基準に準拠して監査上の主要な検討事項を選定し監査報告書に記載している限り、監査上の主要

な検討事項の記載が、会社又は第三者に対する監査人の法的責任(損害賠償責任)の帰結に大きな

変更をもたらすものではないと考えられる。

(解説)

監査人の法的責任は、最終的には個々の事案ごとに裁判所が判断することになるため、以下は、

現時点で考えられる一般的な考え方を示している。なお、監査上の主要な検討事項は、金商法に基

づく監査でのみ適用されることから、金商法監査を前提として記載している。

(1) 会社に対する責任

監査人は、会社との間で監査契約を締結しており、契約に基づく債務の不履行について責任を

負っている(民法第415条参照)。監査契約では、監査人は、一般に公正妥当と認められる監査の

基準に準拠して監査を実施する債務を負っており、監査上の主要な検討事項が適用になる監査契

約の場合は、監査の基準に準拠して監査上の主要な検討事項を選定し監査報告書に記載すること

も、監査人の債務に含まれる。したがって、監査人が、監査上の主要な検討事項に係る債務を善

良なる管理者としての注意をもって実施すべきことを実施していなかった場合は、契約に定める

範囲内で民法上の債務不履行責任を負うことになる。

監査上の主要な検討事項の選定等が監査の基準に準拠していないと認められ、その部分につい

て、債務不履行と評価される可能性が考えられる。しかしながら、監査上の主要な検討事項は、

従来のリスク・アプローチの監査手法の変更を意図するものではなく、監査上の主要な検討事項

を記載するために特に追加の監査手続を実施することが想定されているわけではない。また、監

査上の主要な検討事項の選定等に係る債務について監査契約上の債務不履行があったとしても、

監査結果(監査意見)に比べ、債務不履行と損害との間の因果関係は認めにくいものと考えられ

る。

したがって、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査上の主要な検討事項を選

定し監査報告書に記載している限り、監査上の主要な検討事項に係る債務不履行という法的責任

の問題は生じないと考えられる。監査人は監査基準に準拠して正当な注意義務を払って監査を実

施していた場合には責任を負わないという点は、監査上の主要な検討事項が適用される以前から

も同じであり、この意味で、監査上の主要な検討事項は、監査人の法的責任(損害賠償責任)の

帰結に大きな違いをもたらすものではないと考えられる。

(2) 第三者に対する責任

監査上の主要な検討事項の監査報告書への記載について、監査人が第三者に対して負う法的責

任として主に想定されるのは、金商法の虚偽証明に係る責任と民法の不法行為に基づく損害賠償

責任である。

- 73 -

金商法上、監査人の虚偽証明に係る第三者に対する損害賠償責任が規定されている。監査人は、

有価証券報告書等に係る監査証明において虚偽の証明をした場合、虚偽の記載があることを知ら

ずに有価証券を取得した者に対して虚偽記載により生じた損害について賠償責任を負っている

(金商法第24条の4、第22条及び第21条第1項第3号ほか参照)。

監査上の主要な検討事項は監査プロセスに関する情報であり、財務諸表全体に対する監査意見

は従前と何ら変わるものではない。金商法の第三者に対する損害賠償責任は、監査対象である

「財務計算に関する書類」についての記載が虚偽であり又は欠けているものを虚偽でなく又は欠

けていないものとして証明した場合に負うものであるため、その対象は監査意見に限定される。

そのため、監査上の主要な検討事項は、金商法上の監査人の第三者に対する法的責任に変更をも

たらすものではないと考えられる。

また、監査業務には一般的な不法行為による賠償責任も適用され(民法第709条参照)、監査人

は、監査業務に関連して故意又は過失によって第三者の権利(財産権、人格権)又は法律上保護

される利益を侵害した場合、これによって生じた損害を賠償する責任を負うこととなる。この不

法行為による責任は、監査意見だけに原因が限定されるわけではないため、監査上の主要な検討

事項もその対象になるものと考えられる。例えば、実際には実施していなかった監査手続を監査

上の対応として記載した場合など、監査上の主要な検討事項の記載内容に事実と異なる記載が含

まれている場合が考えられる。

なお、監査人の守秘義務については、Q2-15で考察しているが、守秘義務に違反した場合は、

債務不履行(民法第415条参照)及び不法行為(民法第709条参照)を構成し、公認会計士法上の

刑事罰の対象となる。

監査人の法的責任については、法規委員会研究報告第1号「公認会計士等の法的責任について」

(最終改正2016年7月25日)を参照のこと。

- 74 -

《3.監査報告書の電子化に関するQ&A》

Q3-1 監査報告書の電子化の根拠法令

公認会計士法において監査報告書等の電子化はどのように定められているか。

公認会計士法の改正(2021年9月1日施行)により、第34条の12第3項が新設され、当該規定に

関する公認会計士法施行規則第24条の2の新設及び監査証明府令第3条第1項の改正によって、書

面による証明書の交付に代えて、電磁的方法によって監査報告書等を作成することが可能となった。

ただし、電磁的方法によって監査報告書等を作成した場合には電子署名を行わなければならないこ

ととされている。

(解説)

第2項に記載のとおり、2021年5月19日に公布された公認会計士法の改正の内容は、監査報告書

等への自署、押印を求めている規定を署名のみに変更し、更に監査報告書等の交付を署名された書

面に代えて、電磁的方法、すなわち電子化された監査報告書等によって行うことができるようにす

るというものである。電子化された監査報告書等を用いる場合には、作成者による電子署名が行わ

れている監査報告書等でなければならない。押印の廃止に関する法令等の改正については、公認会

計士法第34条の12第2項の「自署し、かつ、自己の印を押さなければならない。」との規定が、

「署名しなければならない。」に改正され、監査報告書等への押印に関する規定が廃止された(図

表1)。これに合わせて、監査証明府令第4条(監査報告書等の記載事項)の「自署し、かつ、自

己の印を押さなければならない。」との規定が、「署名しなければならない。」に改正された(図

表2)。また、公認会計士法施行規則においては、第69条(監査報告書の記載事項)の「自署し、

かつ、自己の印を押さなければならない。」との規定が、「署名しなければならない。」に改正さ

れた(図表3)。

電子化された監査報告書等に関する法令等の改正については、公認会計士法第34条の12第3項が

新設されて、書面による交付に代わり、電磁的方法によって監査報告書等を作成することができる

ことになった。電磁的方法については、内閣府令で定めるものとされ、監査証明府令第3条(監査

証明の手続)にある、公認会計士又は監査法人が作成する監査報告書、中間監査報告書及び四半期

レビュー報告書にそれぞれ括弧書きで「(その作成に代えて電磁的記録(法第十三条第五項15に規

定する電磁的記録をいう。以下同じ。)の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。

以下同じ。)」が追加された(図表2)。

電磁的方法による監査報告書等については、監査証明府令第3条第2項が新設され、作成者によ

る電子署名が行われているものでなければならないと規定された(図表2)。電子署名の要件につ

いては、Q3―4参照。

15 金商法第 13 条第5項

- 75 -

【図表1】公認会計士法の新旧対照表(該当箇所のみ抜粋)

改正後

改正前

(監査又は証明の業務の執行方法) 第 34 条の 12 (略) 2 監査法人が会社その他の者の財務書類に ついて証明をする場合には、当該証明に係 る業務を執行した社員は、当該証明書にそ の資格を表示して署名しなければならな い。

3 監査法人は、前項の規定による証明書に よる証明に代えて、内閣府令で定めるとこ ろにより、当該証明に係る会社その他の者 の承諾を得て、電磁的方法であつて同項の 規定による措置に代わる措置を講ずるもの として内閣府令で定めるものにより当該証 明をすることができる。この場合において は、同項の規定は、適用しない。

4 (略)

(注)傍線は改正部分

(監査又は証明の業務の執行方法) 第 34 条の 12 (略) 2 監査法人が会社その他の者の財務書類に ついて証明をする場合には、当該証明に係る 業務を執行した社員は、当該証明書にその資 格を表示して自署し、かつ、自己の印を押さ なければならない。 (新設)

3 (略)

【図表2】監査証明府令の新旧対照表(該当部分のみ抜粋)

改正後

改正前

(監査証明の手続) 第3条 財務諸表(財務諸表等規則第一条第 一 項 に 規 定 す る 財 務 諸 表 を い う 。 以 下 同 じ 。)、 財務書 類又 は連 結財務 諸表( 以下 「財務諸表等」という。)の監査証明は、財 務諸表等の監査を実施した公認会計士又は監 査法人が作成する監査報告書(その作成に代 えて電磁的記録(法第十三条第五項に規定す る電磁的記録をいう。以下同じ。)の作成が されている場合における当該電磁的記録を含 む。以下同じ。)により、中間財務諸表(中 間財務諸表等規則第一条第一項に規定する中 間財務諸表をいう。以下同じ。)又は中間連 結 財務諸 表(以 下「 中間 財務諸 表等」 とい う。)の監査証明は、中間財務諸表等の監査 (以下「中間監査」という。)を実施した公 認会計士又は監査法人が作成する中間監査報 告書(その作成に代えて電磁的記録の作成が されている場合における当該電磁的記録を含 む 。以下 同じ。 ) に より 、四半 期財務 諸表 (四半期財務諸表等規則第一条第一項に規定 する四半期財務諸表をいう。以下同じ。)又 は四半期連結財務諸表(以下「四半期財務諸 表等」という。)の監査証明は、四半期財務 諸表等の監査(以下「四半期レビュー」とい

(監査証明の手続) 第3条 財務諸表(財務諸表等規則第一条第 一 項 に 規 定 す る 財 務 諸 表 を い う 。 以 下 同 じ 。)、 財務書 類又 は連 結財務 諸表( 以下 「財務諸表等」という。)の監査証明は、財 務諸表等の監査を実施した公認会計士又は監 査法人が作成する監査報告書により、中間財 務諸表(中間財務諸表等規則第一条第一項に 規定する中間財務諸表をいう。以下同じ。) 又は中間連結財務諸表(以下「中間財務諸表 等」という。)の監査証明は、中間財務諸表 等の監査(以下「中間監査」という。)を実 施した公認会計士又は監査法人が作成する中 間監査報告書により、四半期財務諸表(四半 期財務諸表等規則第一条第一項に規定する四 半期財務諸表をいう。以下同じ。)又は四半 期連結財務諸表(以下「四半期財務諸表等」 という。)の監査証明は、四半期財務諸表等 の監査(以下「四半期レビュー」という。) を実施した公認会計士又は監査法人が作成す る四半期レビュー報告書により行うものとす る。

- 76 -

う。)を実施した公認会計士又は監査法人が 作成する四半期レビュー報告書(その作成に 代えて電磁的記録の作成がされている場合に おける当該電磁的記録を含む。以下同じ。) により行うものとする。

2 前項に規定する監査報告書、中間監査報告 書及び四半期レビュー報告書に係る電磁的記 録は、作成者の署名に代わる措置として、作 成者による電子署名(電子署名及び認証業務 に関する法律(平成十二年法律第百二号)第 二条第一項の電子署名をいう。)が行われて いるものでなければならない。

(監査報告書等の記載事項) 第4条 前条第一項の監査報告書、中間監査 報告書又は四半期レビュー報告書には、次の 各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める 事項を簡潔明瞭に記載し、かつ、公認会計士 又は監査法人の代表者が作成の年月日を付し て署名しなければならない。この場合におい て、当該監査報告書、中間監査報告書又は四 半期レビュー報告書が監査法人の作成するも のであるときは、当該監査法人の代表者のほ か、当該監査証明に係る業務を執行した社員 (以下「業務執行社員」という。)が、署名 しなければならない。ただし、指定証明(公 認会計士法第三十四条の十の四第二項に規定 する指定証明をいう。)又は特定証明(同法 第三十四条の十の五第二項に規定する特定証 明をいう。)であるときは、当該指定証明に 係る指定社員(同法第三十四条の十の四第二 項に規定する指定社員をいう。以下同じ。) 又 は当該 特定証 明に 係る 指定有 限責任 社員 (同法第三十四条の十の五第二項に規定する 指定有限責任社員をいう。以下同じ。)であ る業務執行社員が作成の年月日を付して署名 しなければならない。 (一~三 略)

(注)傍線は改正部分

[項を加える。]

(監査報告書等の記載事項) 第4条 前条第一項の監査報告書、中間監査 報告書又は四半期レビュー報告書には、次の 各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める 事項を簡潔明瞭に記載し、かつ、公認会計士 又は監査法人の代表者が作成の年月日を付し て自署し、かつ、自己の印を押さなければな ら ない。 この場 合に おい て、当 該監査 報告 書、中間監査報告書又は四半期レビュー報告 書が監査法人の作成するものであるときは、 当該監査法人の代表者のほか、当該監査証明 に係る業務を執行した社員(以下「業務執行 社員」という。)が、自署し、かつ、自己の 印を押さなければならない。ただし、指定証 明(公認会計士法第三十四条の十の四第二項 に規定する指定証明をいう。)又は特定証明 (同法第三十四条の十の五第二項に規定する 特定証明をいう。)であるときは、当該指定 証明に係る指定社員(同法第三十四条の十の 四第二項に規定する指定社員をいう。以下同 じ。)又は当該特定証明に係る指定有限責任 社員(同法第三十四条の十の五第二項に規定 する指定有限責任社員をいう。以下同じ。) である業務執行社員が作成の年月日を付して 自署し、かつ、自己の印を押さなければなら ない。 (一~三 略)

- 77 -

【図表3】公認会計士法施行規則の新旧対照表(該当部分のみ抜粋)

[条を加える。]

改正前

改正後 (監査証明の業務の執行に係る情報通信の技 術を利用する方法) 第24条の2 監査法人は、法第三十四条の十 二第三項の規定により同項に規定する証明を しようとするときは、あらかじめ、当該証明 を受けようとする会社その他の者に対し、そ の用いる次項各号に掲げる措置の種類及び内 容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を 得なければならない。 2 法第三十四条の十二第三項の内閣府令で 定めるものは、次に掲げる措置とする。 一 電子情報処理組織を使用する措置のうち イ又はロに掲げるもの イ 送信者の使用に係る電子計算機と受信者 の使用に係る電子計算機とを接続する電気通 信回線を通じて法第三十四条の十二第二項の 証明書に記載すべき事項を送信し、受信者の 使用に係る電子計算機に備えられたファイル に記録する措置 ロ 送信者の使用に係る電子計算機に備えら れたファイルに記録された法第三十四条の十 二第二項の証明書に記載すべき事項を電気通 信回線を通じて情報の提供を受ける者の閲覧 に供し、当該情報の提供を受ける者の使用に 係る電子計算機に備えられたファイルに当該 情報を記録する措置 二 磁気ディスクその他これに準ずる方法に より一定の情報を確実に記録しておくことが できる物をもって調製するファイルに法第三 十四条の十二第二項の証明書に記載すべき事 項を記録したものを交付する措置

3 前項各号に掲げる措置は、次に掲げる基準 に適合するものでなければならない。 一 受信者がファイルへの記録を出力するこ とにより書面を作成することができるもので あること。 二 ファイルに記録された事項について、当 該証明に係る業務を執行した社員による電子 署名が行われているものであること。 4 第一項の規定により示すべき措置の種類 及び内容は、次に掲げる事項とする。 一 第二項各号に掲げる措置のうち監査法人 が講ずるもの 二 ファイルへの記録の方式 5 第一項の規定による承諾を得た監査法人

- 78 -

は、当該証明に係る会社その他の者から書面 又は電磁的方法により当該証明を受けない旨 の申出があったときは、当該証明に係る会社 その他の者に対し、当該証明をしてはならな い。ただし、当該証明に係る会社その他の者 が再び同項の承諾をした場合は、この限りで ない。 (監査報告書の記載事項) 第 69 条 前条の監査報告書には、次に定める 事項を簡潔明瞭に記載し、かつ、公認会計士 又は監査法人の代表者が作成の年月日を付し て署名しなければならない。この場合におい て、当該監査報告書が監査法人の作成するも のであるときは、当該監査法人の代表者のほ か、当該監査証明に係る業務を執行した社員 (以下「業務執行社員」という。)が、署名し なければならない。ただし、指定証明(法第 三十四条の十の四第二項に規定する指定証明 をいう。)又は特定証明(法第三十四条の十の 五第二項に規定する特定証明をいう。)である ときは、当該監査法人の代表者に代えて、当 該指定証明に係る指定社員(法第三十四条の 十の四第二項に規定する指定社員をいう。)又 は当該特定証明に係る指定有限責任社員(法 第三十四条の十の五第二項に規定する指定有 限責任社員をいう。)である業務執行社員が作 成 の年月 日を付 して 署名 しなけ れば な らな い。 (一~五 略)

(注)傍線は改正部分

(監査報告書の記載事項) 第69条 前条の監査報告書には、次に定める 事項を簡潔明瞭に記載し、かつ、公認会計士 又は監査法人の代表者が作成の年月日を付し て自署し、かつ、自己の印を押さなければな らない。この場合において、当該監査報告書 が監査法人の作成するものであるときは、当 該監査法人の代表者のほか、当該監査証明に 係る業務を執行した社員(以下「業務執行社 員」という。)が、自署し、かつ、自己の印 を押さなければならない。ただし、指定証明 (法第三十四条の十の四第二項に規定する指 定証明をいう。)又は特定証明(法第三十四 条 の十の 五第二 項に 規定 する特 定証明 をい う。)であるときは、当該監査法人の代表者 に代えて、当該指定証明に係る指定社員(法 第三十四条の十の四第二項に規定する指定社 員をいう。)又は当該特定証明に係る指定有 限責任社員(法第三十四条の十の五第二項に 規定する指定有限責任社員をいう。)である 業 務執行 社員が 作成 の年 月日を 付して 自署 し 、かつ 、自己 の印 を押 さなけ れば な らな い。 (一~五 略)

- 79 -

Q3-2 電子化された監査報告書等を発行する場合の被監査会社との事前合意

公認会計士及び監査法人は、電子化された監査報告書等を発行しようとする場合に、被監査

会社との間で合意しておく必要があるか。

公認会計士及び監査法人が電子化された監査報告書等を発行する場合には、事前に被監査会社の

承諾を、書面又は電磁的方法によって得なければならない(公認会計士法第25条第3項及び第34条

の12第3項並びに公認会計士法施行規則第12条の2第1項及び第24条の2第1項参照)。

(解説)

公認会計士法の改正(2021年9月1日施行)により、電子化された監査報告書等を発行すること

が可能になったが、その場合には、事前に被監査会社の承諾を得ることが求められている(公認会

計士法第25条第3項及び第34条の12第3項参照)。

被監査会社の承諾は、口頭ではなく、書面又は電磁的方法によることが必要である(公認会計

法施行規則第12条の2第1項及び第24条の2第1項参照)。被監査会社から承諾を得るに当たって

は、「電磁的方法の種類及び内容」を被監査会社に対して示さなければならないとされている(公

会計士法施行規則第12条の2第1項及び第24条の2第1項参照)。具体的には、電子化された監

査報告書を監査人が被監査会社に対して受渡しを行う方法と、監査報告書のファイルへの記録の方

式を示し、事前に被監査会社の承諾を得ることになる(公認会計士法施行規則第12条の2第4項及

び第24条の2第4項参照)。

(1) 監査人が使用する受渡しの方法

以下のいずれか。

① 電子メール(公認会計士法施行規則第12条の2第2項第1号イ及び第24条の2第2項第1号

イ参照)

② 電子契約サービスなどのウェブサイトからダウンロードしてもらう方法(公認会計士法施行

規則第12条の2第2項第1号ロ及び第24条の2第2項第1号ロ参照)

③ CD-ROM・USBメモリ等の記録媒体(公認会計士法施行規則第12条の2第2項第2号及び第24

条の2第2項第2号参照)

(2) ファイルへの記録の方式

PDF形式(当面はPDF形式しか選択できないと思われる。)

被監査会社の承諾を得る方法としては、既に監査契約を締結済みの場合は、被監査会社から同意

書を入手したり、メールにより承諾を得たりすることが想定されるが、例えば新規の監査契約であ

る場合には、監査契約書上で電磁的方法の利用について承諾を得ることが考えられる。

被監査会社の承諾は、監査契約ごとではなく、包括的に(当該監査人が提出する全ての監査報告

書等について)得ることができる。そのため、一度被監査会社から承諾を得た場合、被監査会社が

撤回(公認会計士法施行規則第12条の2第5項及び第24条の2第5項参照)しない限りは、次の年

度の監査の際に承諾をもらい直す必要はない。

- 80 -

なお、Q3-9に記載のとおり、監査報告書と財務諸表の一体的利用を図るために、監査報告書

を電子化する場合には、被監査会社の財務諸表を電子形式で入手することについて、被監査会社に

申し入れておくことが望ましい。

【図表4】公認会計士法及び公認会計士法施行規則における事前合意の該当箇所

適用対象

改正後の公認会計士法

公認会計士 (証明の範囲及び証明者の利害関係の

明示) 第25条 (略) 3 公認会計士は、前項の規定による 証明書による証明に代えて、内閣府 令で定めるところにより、当該証明 に 係 る 会 社 そ の 他 の 者 の 承 諾 を 得 て、電磁的方法(電子情報処理組織 を使用する方法その他の情報通信の 技術を利用する方法であって内閣府 令 で 定 め る も の を い う 。 以 下 同 じ。)により同項に規定する事項を 合わせて明示することにより当該証 明をすることができる。この場合に おいては、同項の規定は、適用しな い。

監査法人 (監査又は証明の業務の執行方法) 第34条の12 (略) 3 監査法人は、前項の規定による証 明書による証明に代えて、内閣府令 で定めるところにより、当該証明に 係る会社その他の者の承諾を得て、 電磁的方法であって同項の規定によ る措置に代わる措置を講ずるものと して内閣府令で定めるものにより当 該証明をすることができる。この場 合においては、同項の規定は、適用 しない。

改正後の公認会計士法施行規則 (情報通信の技術を利用する方法) 第12条の2 公認会計士又は監査法人 は、法第二十五条第三項(法第十六条 の二第六項及び第三十四条の十二第四 項において準用する場合を含む。以下 この項及び次項において同じ。)の規 定により電磁的方法(法第二十五条第 三項に規定する電磁的方法をいう。以 下同じ。)による証明をしようとする ときは、あらかじめ、当該証明に係る 会社その他の者に対し、その用いる電 磁的方法の種類及び内容を示し、書面 又は電磁的方法による承諾を得なけれ ばならない。

(監査証明の業務の執行に係る情報通 信の技術を利用する方法) 第24条の2 監査法人は、法第三十四 条の十二第三項の規定により同項に規 定する証明をしようとするときは、あ らかじめ、当該証明を受けようとする 会社その他の者に対し、その用いる次 項各号に掲げる措置の種類及び内容を 示し、書面又は電磁的方法による承諾 を得なければならない。

(注)傍線は被監査会社との事前合意に関する部分

- 81 -

Q3-3 電子署名を付した監査報告書等と署名した紙媒体による監査報告書等の提出

被監査会社から電子署名を付した監査報告書等と署名した紙媒体による監査報告書等の両方を

求められた場合には、その両方を提出することになるか。

電子署名を付した監査報告書等を提出する場合には、署名した紙媒体による監査報告書等を提出

しない。同様に署名した監査報告書等を紙媒体により提出した場合には、電子署名を付した監査報

告書等を提出しない。

(解説)

公認会計士法の改正(2021年9月1日施行)により新設された第34条の12第3項では、電子署名

を付した監査報告書等によって監査証明をする場合には、監査報告書等への署名を求める規定であ

る同法第34条の12第2項は適用しないとされている。被監査会社との事前合意に基づいて監査報告

書等を電子形式により作成する場合に、紙媒体により別途監査報告書等が作成されると、法的には

電子形式によるものが原本であるにもかかわらず、誤って紙媒体によるものが原本として使用され

ることがある。したがって、電子署名を付した監査報告書等と署名した紙媒体による監査報告書等

の両方を被監査会社に提出することはない。

- 82 -

Q3-4 電子化された監査報告書等に用いる電子署名サービスの要件

電子化された監査報告書等に電子署名を付す場合には、電子署名サービスを利用することにな

るが、その電子署名サービスには、どのような要件があるか。

電子化された監査報告書等に付す電子署名は、公開鍵暗号技術を用いた公開鍵基盤( PKI:

Public Key Infrastructure)に基づいた電子署名サービスであることが要件となる。

(解説)

電子化された監査報告書等に付す電子署名は、電子署名及び認証業務に関する法律(以下「電子

署名法」という。)第2条第1項に規定する電子署名である(公認会計士法施行規則第1条第2項

参照)。電子署名法第2条第1項では、電子署名についての要件として電子署名を行った本人の識

別性(同項第1号参照)と非改ざん性(同項第2号参照)を求めている。さらに電子署名法第2条

第3項では、電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令

で定める基準に適合するものについて行われる認証業務を「特定認証業務」と定義し、当該主務省

令で定める基準は、公開鍵暗号技術を用いた公開鍵基盤とされている(電子署名及び認証業務に関

する法律施行規則第2条参照)。公認会計士法施行規則は、電子署名法第2条第3項に定める要件

まで求めていないが、公開鍵基盤に基づいた電子署名サービスは、電子署名法第3条の「電磁的記

録の真正な成立の推定」を満たすものとして普及しており、電子化された監査報告書等に付す電子

署名としても公開鍵基盤に基づく電子署名を要件とすることが適切であると考えられる。

公開鍵基盤(PKI:Public Key Infrastructure)とは、公開鍵暗号方式という暗号化技術を用い

て、電子署名及びその電子認証を実現するためのシステムとその運用を含めた基盤をいう。電子署

名で用いられる公開鍵の電子認証は、電子文書への電子署名の実施者及び電子署名の検証者から独

立した第三者機関である認証局によって行われる。公開鍵基盤に基づく電子署名は、電子署名の実

施者が認証局に対して電子証明書の発行を申請し、認証局は申請者の本人確認を行った上で、電子

証明書を発行する。電子署名が付された電子文書の受信者は、その電子文書に有効な電子証明書が

付いていることを検証することで、電子署名の本人性を識別し、電子文書の非改ざん性を確認する

ことができる。

なお、電子署名を行った本人の識別性については、公認会計士法施行規則第1条第2項において、

電子署名法第2条第1項に規定する電子署名であることのみを要件としており、公認会計士登録の

証明や監査事務所の所属証明を求めていないため、前述の電子署名サービスにおける本人の識別性

を満たすことで足りる。

- 83 -

Q3-5 電子署名サービスにおける当事者型と事業者署名型の違い

公開鍵基盤に基づく電子署名サービスには、電子署名者自らが電子署名を行う当事者型と、電 子署名サービス事業者が電子署名を行う事業者署名型(立会人型)があるが、監査報告書の電子 署名はどちらの方法を選択すべきか。

公開鍵基盤に基づく電子署名には、認証局の発行する電子証明書が付くことになるが、その電子

証明書が署名者本人の証明書なのか、それとも電子署名サービス提供事業者の証明書なのかによっ

て、当事者型と事業者署名型に分けられる。

監査人が電子署名を行う場合に利用する電子署名サービスの方法については、当事者型と事業者

署名型の両方が認められる。監査人が利用する電子署名サービスについて、公認会計士又は監査法

人は、その電子署名サービスの機密性、完全性、可用性等の情報セキュリティ等を勘案して、自ら

の責任において選択することになる。

(解説)

公開鍵基盤に基づいた電子署名サービスについては、署名者本人が電子署名を行い、その署名者

の電子証明書を電子文書に付すサービスである当事者型と呼ばれる電子署名サービスが該当する。

一方で、電子署名サービス提供事業者が電子署名を行う事業者署名型と呼ばれる電子署名サービス

については、2020年7月17日に総務省、法務省及び経済産業省の連名で公表された「利用者の指示

に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」

の「問2」で示された要件を満たす電子署名サービスは電子署名法第2条第1項第1号の要件を満

たすことが示された。

当事者型は、電子署名実施者である業務執行社員の電子証明書が発行される方法であり、電子化

された監査報告書には業務執行社員本人の電子証明書が付けられる。一方、事業者署名型は、電子

署名サービス提供事業者の電子証明書が付けられる。事業者署名型の電子署名であっても、署名者

本人の指示の下で行われる電子署名については、当事者型と同様の効果があるとされており、署名

者本人の指示を表すものとして、電子署名サービス提供事業者が、電子証明書の任意記載項目欄に、

業務執行社員を特定できる記載(氏名やメールアドレス等の本人を識別する符号)を残すことなど

が考えられる。

- 84 -

【図表5】PDFの「署名のプロパティ」情報での当事者型と事業者署名型の署名の見分け方

- 85 -

Q3-6 PDF 作成・編集ソフトウエアに設定されているセルフサインの利用の可否

PDF 作成・編集ソフトウエアに設定されているセルフサインの機能を使って、PDF の監査報告書

等に電子署名を付けることは認められるか。

PDF作成・編集ソフトウエアに設定されているセルフサインは、公開鍵基盤に基づく電子署名で

はないため、認められない。

(解説)

PDF作成・編集ソフトウエアには、PDFの改ざん防止機能として、セルフサイン機能が用意されて

いる場合がある。当該セルフサイン機能は、電子署名法で規定している特定認証業務における電子

署名(電子署名法第2条第1項の電子署名をいう。)には当たらないため、監査報告書等への電子

署名としては認められない。なお、PDF作成・編集ソフトウエアの仕様によっては、セルフサイン

機能を電子署名と表記している場合があるため、両者の違いには留意する必要がある。

セルフサイン機能の説明については、監査基準報告書500周知文書第3号「PDFに変換された証憑

の真正性に関する監査に係る周知文書」(別紙)を参照のこと。

- 86 -

Q3-7 タイムスタンプの利用

電子化された監査報告書への電子署名と合わせて、タイムスタンプを付けることが求められて

いるか。

Q3-1に記載のとおり、公認会計士法、公認会計士法施行規則及び監査証明府令では、電子化

された監査報告書には電子署名を付すこととされているが、タイムスタンプまでは求めていない。

ただし、タイムスタンプを付けることは禁止されていないため、任意で付すことはできると考え

られる。

(解説)

タイムスタンプは、電子データに対してタイムスタンプの生成時刻に存在していたこと(存在時

刻証明)及びその生成時刻の状態から改ざんされていないこと(完全性証明)を証明する時刻証明

技術である。タイムスタンプの時刻情報は、日本標準時に基づいており、時刻の信頼性が確保され

ている。

一方、電子署名は、署名者の本人性の識別と電子署名した文書の非改ざん性を確保する技術であ

るが、電子署名を生成した時刻については、電子署名を行ったコンピュータ上の時刻でしかないた

め、時刻の信頼性は確保されていない。そこで、タイムスタンプを利用することで電子署名を行っ

た時刻の真正性を担保することができる。

さらに、タイムスタンプには、電子署名の有効性を長期にわたって維持する長期署名という仕組

みがある。例えば、電子契約書等のサービスにおいては、電子署名とともにタイムスタンプを付す

ことがある。これは、電子署名の有効期間が通常1~3年程度であるのに対して、長期署名のタイ

ムスタンプは約10年の有効期間があり、更に期限到来後に新たにタイムスタンプを付すことで期限

を延長することが可能となるためである。契約書については、契約の有効期間が電子署名の有効期

間を超える場合には、電子署名のみでは契約期間中の完全性証明が保持できない16。そこで、長期

署名のタイムスタンプを追加することで電子契約書の長期保存に対応している。

公認会計士法、公認会計士法施行規則及び監査証明府令においては、タイムスタンプを付すこと

が求められていない一方、電子署名の有効期間終了後に監査報告書の存在時刻証明が求められるよ

うな場合も想定される。このような場合に備えて、長期署名のタイムスタンプを付しておく、長期

署名のタイムスタンプを付さない場合においても関連する証跡(メール等)を保管しておくといっ

た対応を行うことが考えられる。

16 電子署名の有効期間が短く設定されているのは、電子署名法施行規則第6条第4項において「電子証明書 の有効期間は、5年を超えないものであること」とされており、電子署名の有効期限もその電子証明書の期 限内に設定されるためである。

- 87 -

Q3-8 監査報告書に記載する日付と電子署名の実施日の関係

監査報告書に記載されている日付と電子署名の実施日の関係について教えてほしい。

監査基準報告書700にいう監査報告書の日付は、電子署名の実施日ではなく、監査報告書に記載

された日付である。

電子署名の実施日は、通常、監査報告書の日付となるが、実務上は、関連する審査が完了した後、

監査報告書の日付までの期間に電子署名を行うと考えられる。

(解説)

監査基準報告書700では、署名とは別に日付を記載することが求められており、監査報告書の日

付は、電子署名の実施日ではなく、監査報告書に記載された日付である。したがって、電子化され

た監査報告書に電子署名を行っても、引き続き監査報告書には日付が記載されることになる。監基

報700においては、監査報告書日は意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手した日以

降の日付であり(監基報700第44項参照)、また、後発事象に関する監査手続の最終実施日である

(監基報700のA57項参照)。

なお、公開鍵基盤に基づく電子署名の日付は、PDFの署名のプロパティ欄に登録されている署名

日時で確認できる。また、同様に証明書ビューアには、電子証明書の証明日時が登録されている。

これらの電子署名の日時は、電子文書に暗号化技術による処理を行うことで監査報告書の記載内

容が本人の作成に係ることを認めた日時であるが、監査人は、当該時点まで後発事象に関する手続

を実施した上で意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手することとなるため、通常、

監査報告書の日付と電子署名の日付は一致すると考えられる。ただし、実務上は、複数の監査責任

者が電子署名を行う等、監査報告書の発行準備に一定の時間が必要であることから、監査人は監査

報告書の日付前に監査責任者の電子署名をあらかじめ付し、手許に保持しておき、監査報告書の日

付現在において後発事象の監査手続を追加的に実施した上で監査報告書を発行することがあると考

えられる。

このような実務上の取扱いについては、以下の理由によるものと考えられる。

(1) 一般的に、文書において日付が記載されている場合、別途の定めのない限り、当該日付におい

て、当該文書の作成者による意思表示又は認識が示されたものと考えられており、電子署名が実

際に行われる日時が文書記載の日付と異なる場合であっても、特段の事情のない限り、このこと

は変わらないが、監査報告書の日付と電子署名の日付に相当な乖離がある場合には、監査報告書

がその日付の意思・認識を反映したものではないものとされる可能性があると考えられる。

(2) 監査報告書の日付は、関連する審査を完了した日以降とすることになる(監基報 700 の A57 項

なお書参照)とされており、十分かつ適切な監査証拠を入手して意見表明を行う上で審査の完了

は重要である。そのため、電子署名の日付は審査完了日以降とすることが合理的であると考えら

れる。

- 88 -

Q3-9 電子署名の対象となる文書の範囲

監査報告書を電子化した場合、電子署名を付けるのは監査報告書に限られるのか。それとも、 監査対象となった財務諸表と監査報告書が一体となったファイルとして電子署名を付けるのか。

監査証明の対象となった財務諸表を特定し、監査報告書と財務諸表が一体として利用されるよう

にすることが望まれる。そのため、例えば、監査報告書と財務諸表が一体として作成された電子形

式のファイルに対して電子署名を付すことが考えられる。また、電子署名サービス提供事業者によ

っては、他の方法によって監査報告書と財務諸表が一体として利用されるように図ることも考えら

れる。

(解説)

監査報告書は、対象である財務諸表と一体として利用されることが想定されており、対象である

財務諸表と切り離して利用される場合には、監査の対象が誤認され、監査意見が誤って利用される

可能性が高まることとなる。そのため、監査報告書を電子形式によって発行する場合にも財務諸表

と一体として利用されるように図ることが重要である。

電子署名は電子署名者の本人の識別性のみならず、署名後の電子文書の非改ざん性を担保する技

術である。したがって、例えば、監査報告書と財務諸表が一体として作成された電子形式のファイ

ルに対して監査人が電子署名を付すことにより、監査報告書と監査の対象である財務諸表が一体と

して利用されるように図ることが考えられる。この場合、例えば、監査報告書と監査の対象である

財務諸表を分割すると、PDFのプロパティ欄において、変更が加えられた旨が表示されることにな

る。

なお、この方法以外にも、PDF作成ツールの添付ファイルを追加する機能を利用して、監査報告

書のPDFに財務諸表のPDFを添付ファイルとして追加した上で、監査人が電子署名を付す方法がある

が、この場合であっても、監査対象とした財務諸表と監査報告書の一体的な利用が適切に図られて

いるかどうか留意することになる。

- 89 -

Q3-10 会社法の監査報告書と金融商品取引法の監査報告書の電子化

電子化の対象となる監査報告書は、会社法の監査報告書と金商法の監査報告書のどちらか、そ れとも両方か。また、どちらか一方が電子化された監査報告書で、もう一方は紙媒体による監査 報告書とすることは可能か。

会社法の監査報告書と金商法の監査報告書の両方が、公認会計士法及び公認会計士法施行規則の

対象となる。

公認会計士法において、会社法の監査報告書と金商法の監査報告書の両方について、紙媒体又は

電子形式のいずれかに統一することは求められていない。そのため、会社法の監査報告書を紙媒体

によることとし、金商法の監査報告書は電子文書、又は会社法の監査報告書を電子文書とし、金商

法の監査報告書を紙媒体によることは可能である。

(解説)

会社法の監査報告書については、会社計算規則第126条において会計監査人の会計監査報告の内

容について規定されているが、監査報告書の媒体や署名及び押印に関する会社法上の規定はなく、

公認会計士法及び公認会計士法施行規則の改正(2021年9月1日施行)によって電子文書による監

査報告書の作成が可能となった。また、金商法の監査報告書については、監査証明府令の改正

(2021年9月1日施行)によって、電子文書による監査報告書の作成が可能となった。

しかしながら、会社法の監査報告書と金商法の監査報告書について、その媒体、署名及び押印を

紙媒体又は電子文書の一方に揃えることを求める規定は、会社法、金商法又は公認会計士法のいず

れにも定められていない。そのため、監査報告書の媒体も紙媒体又は電子文書をそれぞれ選択する

ことができると考えられる。

- 90 -

Q3-11 監査責任者の氏名の表示

監査報告書には監査責任者の氏名を含めなければならない(監基報 700 第 41 項)とされている が、電子署名のプロパティ情報に監査責任者の氏名が含まれている場合には、監査報告書を一見 して見読できなくとも、監査実務指針の要求事項を満たすと言えるのか。

監査報告書を電子形式により作成し、電子署名を行う場合には、監査責任者の氏名が容易に見読

可能となるように、電子署名のプロパティ情報とは別に監査報告書にその氏名を表示することとさ

れている(監基報700実1第26項参照)。そのため、電子署名のプロパティ情報に監査責任者の氏

名が含まれていることのみでは、監査実務指針に示された要求事項を満たすとは言えない。

(解説)

監査基準報告書700第41項の趣旨は、監査を実施した監査責任者に関する情報は重要であり、そ

のため、監査責任者の氏名が容易に識別できるように図ることにある。したがって、上記のとおり、

監査報告書を電子形式で作成する場合、監査責任者の氏名が容易に見読可能となるように、電子署

名のプロパティ情報とは別に監査報告書にその氏名を表示することが求められる。なお、電子署名

のプロパティ情報とは別に監査報告書に監査責任者の氏名を表示する方法としては、監査責任者の

氏名を記名するほか、例えば、監査責任者の氏名を示す画像を貼り付けることが考えられる。ただ

し、署名の画像はコピーが容易であり、悪意のある用途で利用されるおそれがあるため、被監査会

社における情報セキュリティに留意する。

【図表6】監査責任者の氏名を示す画像を貼り付ける方式

- 91 -

《4.EDINET で提出する監査報告書関係のQ&A》

Q4-1 EDINET で提出する監査報告書の記載内容の適切性を確保する取組

企業情報開示の主流が紙媒体での流通からインターネットを通じたデジタル情報へと遷移する 状況において、長文化が進む監査報告書の記載内容が EDINET で提出する監査報告書に適切に反映 されることの重要性が高まっていくと考えられるが、監査人はそれに対して具体的にどのような 取組が期待されるのか。

監査人は、以下の対応を行うことが望ましい。

(1) EDINET で提出される電子データとその原本の同一性の確保

(2) EDINET における XBRL(eXtensible Business Reporting Language)タグ付けの適切性の確認

(解説)

(1) EDINET で提出される電子データとその原本の同一性の確保

有価証券報告書等の提出会社(以下「会社」という。)は、EDINETで有価証券報告書等の開示

書類を提出するが、これらは金融庁が指定した技術仕様に基づく電子データにより作成されるた

め、有価証券報告書等に含まれる財務諸表等も当然ながら電子データとして提出される。さらに、

監査報告書(四半期レビュー報告書、中間監査報告書を含む。)については、会社がディスクロ

ージャー支援会社の開示書類作成支援システムに監査報告書に記載された事項を入力してEDINET

で提出することが一般的に行われている。

もとより監査終了後の財務諸表等及びそれに対する監査報告書を含む適正な有価証券報告書等

を作成し、提出する責任は会社にある。しかしながら、仮に記載誤りのある監査報告書がEDINET

を通じて公衆縦覧に供された場合、監査人が当該監査報告書の提供に関与しているという外観を

生じさせる可能性が想定される。社会の期待に応え、公共の利益に資するため、誠実に行動する

という倫理規則の趣旨に照らして、監査人には、EDINETで提出される監査報告書の作成に関して

このような外観を生じさせないように、注意を払うことが期待される。

したがって、監査人は以下の対応を行うことが望ましい。

・ EDINETで提出される最終の有価証券報告書等と同一のものを紙媒体又は電子データによって

入手し、紙媒体の場合はこれにつづり込まれた監査報告書に署名し、また電子データの場合は

同じデータ形式の監査報告書と一体化して電子署名を行い、会社及び監査人双方が保管するな

どして、監査人が監査の対象とした財務諸表等及び提出した監査報告書を確定する手続を実施

する。

・ EDINETで提出される監査報告書について、提出前及び提出後に監査報告書の原本と記載内容

の同一性が確保されていることを確かめる。

(2) EDINET で提出される監査報告書における XBRL タグ付けの適切性の確認

2021年3月31日以後終了する事業年度から「監査上の主要な検討事項」について、2022年3月

31日以後に終了する事業年度から「その他の記載内容」について、EDINETで提出される監査報告

書におけるXBRLタグ付けがそれぞれ求められることとなった。

監査報告書部分のXBRLタグ付けについても有価証券報告書等のXBRLタグ付けと同様に会社の責

- 92 -

任で行われることになるが、「監査上の主要な検討事項」や「その他の記載内容」区分の記載に

ついては、非定型な内容を含み、かつ記載項目ごとにXBRLタグ付けが求められることから、会社

のみで監査報告書へのXBRLタグ付けを正確に行うことは困難な場合も想定され、タグ付けの誤り

は、データの利用者の利便性を損なうことになる。そのため、監査人は、監査報告書における

XBRLタグ付けが適切になされているかどうかの確認等を行うことが望ましい。

- 93 -

Q4-2 EDINET で提出される監査報告書の欄外記載について

EDINET で提出される監査報告書の欄外記載について、どのような記載内容とすればよいか。

EDINETで提出される監査報告書は監査報告書の原本ではなく、当該原本は被監査会社が保管して

いること、及びXBRLデータは監査の対象には含まれていないことを利用者に注意喚起するため、監

査報告書の欄外においてそれらを記載するよう会社に求めることが適切と考えられる。

(解説)

我が国において有価証券報告書等を電子データとして作成し提出する電子開示制度は、2001年に

EDINETの稼働によって始まった。EDINETの稼働によって有価証券報告書等の提出会社は、有価証券

報告書等を紙媒体から電子データであるHTMLで作成することになったが、2001年2月1日付けの日

本公認会計士協会会長名による文書(JICPAニュースレターNo.95、29頁掲載)では、従来どおり紙

媒体による書類の形で監査報告書を作成し、会社に渡す手続を続けることを求めた。この文書に対

応して、2001年5月14日付けのリサーチ・センター審理情報(No17)「電子開示制度により有価証

券報告書等を提出する場合の監査上の留意点について」では、「当面の間、監査報告書に記載され

た事項を電子データ化して金融庁に提出する場合には欄外に(注)として監査報告書に記載された

事項を入力したものである旨及び監査報告書の原本は財務諸表に添付される形で別途会社に保管さ

れていることを注記するよう会社に依頼することが適当である。」とし、これ以降、EDINETで提出

される監査報告書には欄外記載として監査報告書の原本は会社が別途保管している旨が記載される

ことになった。

このように、2001年のEDINET稼働開始以降、紙媒体による書類の形で監査報告書を作成すること

が求められていたため、EDINETで提出される監査報告書には書面による監査報告書の作成を前提と

した「監査報告書の原本に記載された事項を電子化したもの」である旨を記載する実務が続けられ

てきたが、2021年5月に改正された公認会計士法の施行日(2021年9月1日)後においては、電磁

的方法により電子署名を付した監査報告書を作成することが可能になったことを踏まえ、監査報告

書の原本が紙媒体であることを前提とした記載とせずに、引き続き、「監査報告書の原本は会社が

別途保管している」旨をEDINETで提出される監査報告書の欄外記載として記載するように会社に求

めることが適切であると考えられた。

また、2008年にはEDINETで提出する有価証券報告書等における財務諸表本表(注記事項、附属明

細表等を除く。)にXBRLが導入された。この変更を受けて、2008年5月20日付けで公表された日本

公認会計士協会常務理事名による「EDINETへのXBRL導入に伴う財務諸表作成プロセスの変更及び監

査人の留意点について」では、視認可能な財務諸表以外のXBRL特有の情報は、金商法上で定められ

た開示情報ではなく、監査報告書の範囲区分における監査の対象となる財務諸表の範囲にはXBRL特

有の情報は含まれないことを意味しているとして、EDINETで提出される監査報告書の欄外記載に

「財務諸表の範囲にはXBRLデータ自体は含まれない」旨を記載することを会社に依頼することにな

った。その後、2013年に開示書類の二次利用性の向上、検索機能等の向上等を目的とした新EDINET

の運用が開始され、XBRLの導入範囲が財務諸表本表から有価証券報告書等の開示書類全体に拡大さ

れた。

- 94 -

この変更を受けて、2014年2月12日付けで公表された自主規制・業務本部 平成26年審理通達第

1号「EDINETで提出する監査報告書の欄外記載の変更及びXBRLデータが訂正された場合の監査上の

取扱い」では、財務諸表全体が XBRL の対象となったことを契機として XBRL データが監査の対象

ではないことをより明確にするため、欄外記載の見直しを行い、「XBRLデータは監査の対象には含

まれていない」旨を記載することになった。これに関しては、現行のEDINETにおいても何ら変更は

ないことから、引き続き、「XBRLデータは監査の対象には含まれていない」ことをEDINETで提出さ

れる監査報告書の欄外記載として記載するよう会社に求めることが適切であると考えられる。

上記を踏まえて、EDINETで提出される監査報告書の欄外記載において、以下のような記載を行う

ことが考えられる。

【EDINETで提出される監査報告書の欄外記載例】

(注)1.上記の監査報告書の原本は当社(有価証券報告書提出会社)が別途保管しておりま

す。

2.XBRLデータは監査の対象には含まれていません。

なお、EDINETにより提出する中間監査報告書や四半期レビュー報告書についても、欄外記載につ

いて、同様に表現を工夫することが考えられる。

- 95 -

Q4-3 XBRL データが訂正された場合の監査上の取扱い

XBRL データに誤りがあった場合、会社はその誤りを訂正した XBRL データを訂正報告書ととも

に EDINET で提出することになるが、監査上対応が必要になるのか。

Q4-2に記載のとおりXBRLデータは監査の対象には含まれていないため、XBRLデータの誤りを

原因として提出される訂正報告書については、その内容に対して監査を実施する必要はない。

(解説)

金融庁が公表しているEDINET総合ガイドラインに含まれる「EDINET概要書 4-2 XBRLの訂正」に

は、「提出書類全体がインラインXBRLの対象である提出書類の訂正報告時」として「訂正後のXBRL

書類一式(提出者別タクソノミ、報告書インスタンス及びマニフェストファイル)を添付して、訂

正報告書を提出」することが記載されている。インラインXBRLとは、コンピュータによる処理を前

提としたXBRLに対して、人間が視認できるようにHTMLを追加したXBRLの仕様であり、監査対象とな

る財務諸表等を含む有価証券報告書等の開示書類全体に適用されるデータ形式である。「EDINET概

要書 4-2 XBRLの訂正」では、モニター画面で視認することができる範囲における訂正報告時と、

モニター画面で視認することができない範囲における訂正報告時の区別をしていないことから、モ

ニター画面で視認できないXBRLデータ特有のデータ属性や英語表記などに誤りがあった場合にも訂

正報告書の提出が必要となるときがある。

しかしながら、監査の対象となったモニター画面で視認できる財務諸表自体を訂正する必要がな

いときは、XBRLデータは監査の対象ではないため、当該誤りを原因として提出される訂正報告書に

ついては、その内容に対して監査を実施する必要はない。

・ 本実務ガイダンス(2024 年2月8日改正)は、次の公表物の公表に伴う修正を反映してい

る。 - 監査基準報告書 600「グループ監査における特別な考慮事項」」(2023 年1月 12 日改正)

以 上

- 96 -