監査・保証実務委員会実務指針第 61 号
債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示
に関する監査上の取扱い
平成 11 年2月 22 日
改正 平成 23 年3月 29 日
日本公認会計士協会
1.はじめに
企業の財務内容の開示に関して注目される重要な情報の一つに、財務諸表における
債務保証に関する注記を挙げることができる。
財務諸表等規則第58条では、「偶発債務(債務の保証(債務の保証と同様の効果を
有するものを含む。)、係争事件に係る賠償義務その他現実に発生していない債務で、
将来において事業の負担となる可能性のあるものをいう。)がある場合には、その内
容及び金額を注記しなければならない。」とするとともに、同ガイドライン第58で、
「規則第58条の規定による注記は、当該偶発債務の内容(債務の保証(債務の保証と
同様の効果を有するものを含む。)については、その種類及び保証先等、係争事件に
係る賠償義務については、当該事件の概要及び相手方等)を示し、その金額を記載す
るものとする。」とされている。
また、会社計算規則第103条第1項第5号では、「保証債務、手形遡求債務、重要な
係争事件に係る損害賠償義務その他これらに準ずる債務(負債の部に計上したものを
除く。)があるときは、当該債務の内容及び金額」を注記することとされている。
この債務保証に関し、実務においては、金融機関と保証人との間の契約等が保証類
似行為(保証予約又は経営指導念書等の差入れ)として行われている場合が少なから
ず存在するが、この保証類似行為を債務保証の注記の対象とするか否かについて、実
務上必ずしも明確にされておらず、また、保証債務の履行に伴って損失の発生が予想
される場合の会計処理及び表示についても具体的な取扱いは示されていなかった。
そこで、これらの債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関して、実務上
での具体的な考え方及びその取扱いを明らかにするとともに、監査上留意すべき事項
を掲げ、実務上の指針として本指針を平成11年2月に公表した。
今般、本指針の中で示されている会計処理に関し、企業会計基準委員会から平成21
年12月に企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以
下「過年度遡及会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第24号「会計上の変
更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(以下「過年度遡及適用指針」とい
う。)が公表されたことを受け、所要の見直しを行った。
なお、本指針は、保証類似行為が債務保証又は債務保証に準ずるものに該当するか
否かについての法律的な解釈を示すことを目的とするものではない。したがって、特
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に法律的な解釈を必要とする場合には、法律専門家等の見解を適宜参考にすることと
なる。
2.注記すべき債務保証の範囲
債務保証とは、主たる債務者が債務を履行しない場合に、保証人が当該債務を履行
する責任を負うことを契約することによって債権者の債権を担保するものである。
財務諸表において注記の対象とする債務保証には、通常の債務保証のほか、以下に
掲げる保証類似行為を含めるものとする。
(1) 保証予約
保証予約とは、将来において保証契約の成立を約束する契約のことであり、それ
には次の形態がある。
① 停止条件付保証契約
保証先の財政状態が悪化した場合等の一定の事由を停止条件とし、それが生じ
た場合に自動的に保証契約が発効する契約
② 予約完結権行使型保証予約
債権者による予約完結権(保証契約を成立させる権利)の行使により、保証予
約人の承諾を必要とせずに自動的に保証契約が成立する予約契約
③ 保証契約締結義務型保証予約
債権者から保証契約締結の請求を受けた場合に、保証予約人が保証契約を締結
する義務を負うこととなる予約契約
上記保証予約に関する注記の取扱いは、以下のとおりとする。
1) 停止条件付保証契約及び予約完結権行使型保証予約については、債務保証と法
形式上は異なっているものの、実務における法律的効果や経済的実態はおおむね
同一の性格を有するものと考えられるため、債務保証に準ずるものとして注記の
対象に含める。
2) 保証契約締結義務型保証予約については、保証予約人は、法律上は保証契約成
立について承諾する義務を負うに過ぎず、承諾の意思表示を行わない限り保証は
成立しないものであるが、債権者である金融機関等との取引関係を維持する等の
理由により、現実には保証契約を締結せざるを得ないのが通常であることから、
原則として、他の保証予約と同様に、債務保証に準ずるものとして注記の対象に
含める。
(2) 経営指導念書等の差入れ
保証予約以外の保証類似行為として経営指導に関する念書等(以下「経営指導念
書等」という。)の差入れがある。経営指導念書等とは、一般的に、子会社等が金
融機関等から借入を行う際に、親会社等としての監督責任を認め、子会社等の経営
指導などを行うことを約して金融機関等に差し入れる文書をいい、実務的には、経
営指導念書、念書、覚書、レター・オブ・アウェアネス、キープウエル・レター等
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の標題により作成されている。ただし、標題によりその記載内容を画一的に判断で
きるものではなく、また、中には、標題そのものが付されていないものもあるので、
その存在の把握に留意する必要がある。
経営指導念書等の記載内容は、単に道義的責任のみを負うものから、親子会社関
係等の保持、経営支援、子会社等の健全な財政状態の維持等を約するもの、子会社
等の債務不履行の場合には親会社等が債務保証義務、損害担保義務等を負担するも
のまで様々である。さらに、経営指導念書等において、子会社等の債務不履行の場
合に親会社等が債務保証義務、損害担保義務等を負担する旨の明確な記載がなくて
も、現実に、当該経営指導念書等が差し入れられていることに起因して、実質的に
保証契約と同様の効果がもたらされることもある。このため、実務上は、保証契約
又は保証予約契約と同様の効果を期待されて、経営指導念書等の差入れが行われて
いることも少なくない。
このような状況に鑑み、記載内容に基づく法的効力が保証契約又は保証予約契約
と同様と認められる経営指導念書等の差入れについては、債務保証又は保証予約の
取扱いに準ずるものとする。
また、記載内容に基づく法的効力が保証契約又は保証予約契約と同様と認められ
るもの以外の経営指導念書等の差入れに関しても、債権者との関係及び経営指導念
書等の差入れの経緯その他の状況から、実質的に、債務保証義務又は損害担保義務
を負っていると認められるもの又は保証予約と同様であると認められるものにつ
いては、債務保証に準ずるものとして注記の対象に含める。
なお、上記の法的効力や債務保証義務又は損害担保義務の解釈に当たっては、法
律専門家等の見解を考慮することが望ましい。
3.財務諸表における注記に関する取扱い
(1) 債務保証の注記に関する取扱い
財務諸表における債務保証の注記に関しては、原則として、すべての債務保証に
ついて保証先ごとに総額で表示する。
債務保証の内容別表示及びその留意点は、以下のとおりである。
① 保証予約及び経営指導念書等の差入れ
対象となる債務の額につき、原則として、通常の債務保証に含めて記載する。
なお、債務保証に含まれている金額を内書によって記載する方法又は債務保証と
区分して記載する方法によることもできる。
② 複数の保証人がいる場合の連帯保証
債務保証を保証先ごとに総額で表示することに加え、内書等で複数の保証人が
いる連帯保証が含まれている旨及び当該連帯保証額を付記することができる。
なお、保証人間の取決め等により、負担割合又は負担額が明示され、かつ、他
の連帯保証人の負担能力が十分であると判断されるときには、保証総額を注記し
た上で、自己の負担割合又は負担額を付記することができる。ただし、この場合
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であっても、商社又は建設業等、特定の業種における保証形態の特異性により、
保証総額と自己の負担額との間に著しい乖離があり、かつ、保証総額を記載する
ことが財務諸表提出会社の利害関係人の判断を誤らせるおそれがあると認めら
れるときには、自己の負担額を記載し、その旨を付記することができる。
③ 契約上自己の負担額が明示されている債務保証
原則として、保証先ごとに総額で表示する。なお、債権者への対抗要件を備え
た保証契約(共同保証等)で、自己の負担額が明示され、かつ、他の保証人の負
担能力に関係なく自己の負担額が特定されている場合には、自己の負担額を記載
することもできる。
④ 根保証(継続的取引に係る債務を保証するために設定した一定の限度額の範囲
内で保証する契約)
原則として、開示対象となる事業年度末日現在の債務額又は保証極度額のいず
れか少ない金額を記載する。ただし、保証極度額によって記載することもできる。
⑤ 再保証
1) 自己の債務保証を他者が再保証している場合
原則として、再保証額を控除する前の自己の債務保証額を記載する。この場
合、自己の債務保証を他者が再保証している旨、当該他者の氏名又は名称及び
金額を付記することができる。ただし、当該再保証が、上記3.(1)②「複数の
保証人がいる場合の連帯保証」のただし書きに示す状況と同様の状況にあると
認められるときには、自己の負担額を記載し、この旨を付記することができる。
なお、自己の債務保証契約が単なる名義貸であって、法律的な観点から債権者
及び再保証先への対抗要件を十分備えている等、その全額について実質的な負
担が生じるおそれがない場合には、債務保証としての開示を省略することもで
きる。
2) 他者による債務保証を自己が再保証している場合
原則として、自己の再保証額を記載する。この場合、他者による債務保証を
自己が再保証している旨及び当該他者の氏名又は名称を付記することができ
る。ただし、再保証契約が単なる名義貸であって、法律的な観点から債権者及
び再保証元への対抗要件を十分に備えている等、その全額について実質的な負
担が生じるおそれがない場合には、債務保証としての開示を省略することもで
きる。
(2) 表示上のその他の留意点
保証人が債務者から担保提供を受けている場合や、債務者が債権者に直接に担保
提供している場合であっても、総額で債務保証の額を記載する。なお、その旨及び
当該担保資産の実質的価額を付記することができる。
また、債務保証等の注記に関して、債務額の元本に加え遅延未払金利等も債務保
証の対象となっている場合には、債務額に当該遅延未払金利等を加算して記載する。
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4.債務保証損失引当金の会計処理と表示
(1) 計上基準
主たる債務者の財政状態の悪化等により、債務不履行となる可能性があり、その
結果、保証人が保証債務を履行し、その履行に伴う求償債権が回収不能となる可能
性が高い場合で、かつ、これによって生ずる損失額を合理的に見積もることができ
る場合には、保証人は、当期の負担に属する金額を債務保証損失引当金に計上する
必要がある。
具体的には、主たる債務者が、法的、形式的な経営破綻の状態にある場合のほか、
法的、形式的な経営破綻の事実は発生していないものの深刻な経営難の状態にあり、
再建の見通しがない状況にあると認められるなど、実質的に経営破綻に陥っている
場合、及び経営破綻の状況にはないが経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗
状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が高いと認められる場合には、債
務保証損失引当金の計上対象となる。
保証債務を履行し、その履行に伴う求償債権が回収不能となる可能性を判断する
場合には、個々の主たる債務者の財政状態等について、その状況、財政状態悪化の
原因、再建計画による業績の回復可能性、親会社等の支援状況、銀行等金融機関か
らの融資の状況、今後の資金繰りの見通し、担保の状況及びその処分見込、他の保
証人の負担能力等を総合的に判断することが必要である。
(2) 計上額
債務保証損失引当金は、債務保証の総額から、主たる債務者の返済可能額及び担
保により保全される額等の求償債権についての回収見積額を控除した額を計上す
る。
損失見積額は、主たる債務者の財政状態、担保価値の評価、プロジェクトの損益
の見込み、他の保証人の負担能力の評価等を総合的に判断して算定するが、その損
失見積額には幅が生ずる場合が少なくない。このような場合、その見積損失幅の中
から最も合理的な金額を算定して債務保証損失引当金を計上する必要がある。
なお、債務保証損失引当金の計上額は、主たる債務者の財政状態等に対応して、
決算期ごとに見直す必要がある。
(3) 引当金の計上と注記との関係
保証債務の履行に伴う損失の発生の可能性は、①高い場合、②ある程度予想され
る場合、③低い場合があり、また、それぞれ金額の見積りが可能な場合と不可能な
場合とがある。
保証債務の履行に伴う損失の発生の可能性が高く、かつ、金額の見積りが可能な
場合には、債務保証損失引当金を計上しなければならない。一方、損失の発生の可
能性が高いが金額の見積りが不可能な場合、及び損失の発生がある程度予想される
場合には、その旨、主たる債務者の財政状態(大幅な債務超過等)、主たる債務者
と保証人との関係内容(出資関係、役員の派遣、資金援助、営業上の取引等)、主
たる債務者の債務履行についての今後の見通し等、その状況を適切に説明するため
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に必要な事項を追加情報として注記する。なお、損失の発生の可能性が高いが金額
の見積りが不可能な場合には、これらの注記に加えて、金額の見積りが不可能な理
由を注記するものとする。
上述の保証債務の履行に伴う損失の発生の可能性の程度と債務保証損失引当金
及び追加情報との関係をまとめると、別表のようになる。
(別表)
損失の発生の
損失金額の見積りが
損失金額の見積りが
可能性の程度
可能な場合
不可能な場合
・債務保証損失引当金を計上
・ 債 務 保 証 の 金 額 を 注 記 す
する。
る。
高い場合
・損失の発生の可能性が高い
が損失金額の見積りが不可能
である旨、その理由及び主た
る債務者の財政状態等を追加
情報として注記する。(注)
・債務保証の金額を注記する。
・債務保証の金額を注記する。
ある程度予想
される場合
・損失発生の可能性がある程
・損失発生の可能性がある程
度予想される旨及び主たる債
度予想される旨及び主たる債
務者の財政状態等を追加情報
務者の財政状態等を追加情報
として注記する。
として注記する。
・債務保証の金額を注記す
・債務保証の金額を注記する。
低い場合
る。
(注) 損失の発生の可能性が高く、かつ、その損失金額の見積りが不可能な場合は、
通常極めて限られたケースと考えられる。
したがって、主たる債務者が経営破綻又は実質的な経営破綻に陥っている
場合には、必要額を債務保証損失引当金に計上することになる。
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(4) 会計処理及び表示
① 債務保証損失引当金の繰入額は、その金額、発生事由等に応じ、原則として、
営業外費用又は特別損失に計上する。なお、引当金計上後に判明した引当額の過
不足は、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針に基づき処理することにな
る(過年度遡及会計基準第 55 項参照)。
② 貸借対照表における債務保証損失引当金の表示については、一般の引当金と同
様にワンイヤールールに従い、流動負債又は固定負債に区分する。
③ 保証債務について履行請求を受けた場合には、負担すべき債務を未払金等に計
上する。また、求償すべき債権については未収入金等に計上し、当該債権に対す
る回収不能見積額を直接控除するか又は貸倒引当金として計上する。
④ 債務保証損失引当金を計上した保証先の債務不履行により、債権者に対して保
証債務を履行した場合、又は保証債務の履行を請求された場合には、債務保証損
失引当金の目的取崩となるが、通常、保証債務の履行に伴い、主たる債務者に対
して求償債権が生じるため、目的取崩に対応する損失は求償債権に対する貸倒引
当金繰入額又は貸倒損失として発生する。この債務保証損失引当金の目的取崩と
貸倒引当金繰入又は貸倒損失処理は一連の会計処理と考えられるため、原則とし
て、債務保証損失引当金の目的取崩額と貸倒引当金繰入額又は貸倒損失は、相殺
後の純額で表示する。この場合、相殺する対象は、個別の相手先ごととする。
なお、この場合には、引当金明細表において、両者を相殺した旨及び当該貸倒
引当金繰入額を記載するものとする。
⑤ 債務保証について債務保証損失引当金を設定した場合において、注記する債務
保証の金額は、債務保証の総額から債務保証損失引当金設定額を控除した残額と
する。
5.監査上留意すべき事項
監査人が監査上留意すべき事項は次のとおりである。
(1) 債務保証の注記に関して、特に保証予約及び経営指導念書等の内容を的確に把握
し当該保証予約等を財務諸表の注記に含めるか否かの被監査会社の判断について
の妥当性を確かめる。
(2) 保証債務の履行に伴う損失の発生の見込みに関して、特にその状況を的確に把握
し、債務保証損失引当金の計上額についての適正性を確かめる。
(3) 監査人が必要と認めた場合には、債権者又は保証先等に対して確認を行う。また、
法律上の解釈等につき、弁護士などの外部専門家に対して、必要に応じて照会等を
行う。
(4) 債務保証の注記及び債務保証損失引当金の計上等に関する表示について、被監査
会社及び保証先における業種等の特性を考慮して、重要な債務保証に関する表示の
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網羅性及びその妥当性を確かめる。
6.適用
(1) 本指針は、平成 11 年3月 31 日以後終了する事業年度に係る財務諸表、同日以後
終了する中間会計期間に係る中間財務諸表及び同日以後終了する連結会計年度に
係る連結財務諸表の監査から適用する。
(2) 「監査委員会報告第 61 号「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関
する監査上の取扱い」の改正について」(平成 23 年3月 29 日)は、平成 23 年4月
1日以後開始する事業年度から適用する。なお、適用初年度より前の事業年度に行
われている会計上の変更及び過去の誤謬の訂正については遡及処理しない。
以 上
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