監査基準報告書240
財務諸表監査における不正
監基報240
2 0 1 1 年 1 2 月 2 2 日
改正 2 0 1 3 年 6 月 1 7 日
改正 2 0 1 5 年 5 月 2 9 日
改正 2 0 1 8 年 1 0 月 1 9 日
改正 2 0 1 9 年 6 月 1 2 日
改正 2 0 2 1 年 1 月 1 4 日
改正 2 0 2 1 年 6 月 8 日
改正 2 0 2 1 年 8 月 1 9 日
改正 2 0 2 2 年 1 0 月 1 3 日
改正 2 0 2 3 年 1 月 1 2 日
最終改正 2 0 2 4 年 9 月 2 6 日
日 本 公 認 会 計 士 協 会
監査・保証基準委員会
( 報 告 書 : 第 8 号 )
項番号
Ⅰ 本報告書の範囲及び目的
1.本報告書の範囲 ·································································· 1
(1) 不正の特徴 ···································································· 2
(2) 不正の防止及び発見に対する責任 ················································ 4
(3) 監査人の責任 ·································································· 5
2.本報告書の目的 ·································································· 9
3.定義 ··········································································· 10
Ⅱ 要求事項
1.職業的専門家としての懐疑心 ····················································· 11
2.監査チーム内の討議 ····························································· 14
3.リスク評価手続とこれに関連する活動 ············································· 15
(1) 経営者及びその他の企業構成員 ················································· 16
(2) 取締役会及び監査役等 ························································· 19
(3) 識別した通例でない又は予期せぬ関係 ··········································· 21
(4) その他の情報 ································································· 22
(5) 不正リスク要因の検討 ························································· 23
4.不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価 ····································· 24
5.評価した不正による重要な虚偽表示リスクへの対応
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(1) 全般的な対応 ································································· 27
(2) 評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手
続 ············································································· 29
(3) 経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続 ························· 30
6.監査証拠の評価
6-2.専門家の業務の利用 ······················································ F36-2
7.監査契約の継続の検討 ··························································· 37
8.経営者確認書 ··································································· 38
8-2.審査 ···································································· F38-3
9.経営者及び監査役等とのコミュニケーション
(1) 経営者とのコミュニケーション ················································· 39
(2) 監査役等とのコミュニケーション ··············································· 40
10.適切な規制当局への不正の報告 ··················································· 42
11.監査調書 ······································································· 43
Ⅲ 適用指針
1.不正の特徴 ····································································· A1
1-2.監査人の責任 ····························································· A5-3
2.職業的専門家としての懐疑心 ····················································· A6
3.監査チーム内の討議 ····························································· A9
4.リスク評価手続とこれに関連する活動
(1) 経営者への質問
(2) 取締役会及び監査役等による監視活動の理解 ···································· A18
(3) その他の情報の検討 ·························································· A20
(4) 不正リスク要因の検討 ························································ A21
5.不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価
(1) 収益認識における不正リスク ·················································· A26
(2) 不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び関連する内部統制 ·············· A29
6.評価した不正による重要な虚偽表示リスクへの対応
(1) 全般的な対応 ································································ A31
(2) 要員の配置及び指導監督 ······················································ A32
(3) 監査手続の選択における企業が想定しない要素の組込み ·························· A34
(4) 評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手
続 ············································································ A35
(5) 経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続
(6) 会計上の見積り ······························································ A43
(7) 重要な取引の事業上の合理性 ·················································· A46
7.監査証拠の評価 ································································ A47
(1) 財務諸表の全般的な結論を形成するための分析的手続 ···························· A48
ii
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(2) 識別した虚偽表示の検討 ······················································ A49
7-2.専門家の業務の利用 ····················································· FA51-2
8.監査契約の継続の検討 ·························································· A52
9.経営者確認書 ·································································· A55
10.経営者及び監査役等とのコミュニケーション ···································· A56-4
(1) 経営者とのコミュニケーション ················································ A57
(2) 監査役等とのコミュニケーション ·············································· A58
(3) 不正に関連するその他の事項 ·················································· A61
11.適切な規制当局への不正の報告 ·················································· A62
Ⅳ 適用
付録1 不正リスク要因の例示
付録2 不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続の例示
付録3 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況の例示
F 付録4 不正による重要な虚偽表示を示唆する状況の例示
iii
監基報240
《Ⅰ 本報告書の範囲及び目的》
《1.本報告書の範囲》
1.本報告書は、財務諸表の監査における不正に関する実務上の指針を提供するものである。
特に、本報告書は、監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」及び同330「評価
したリスクに対応する監査人の手続」を、不正による重要な虚偽表示リスクに関してどのように適
用すべきかについて記載している。
1-2.本報告書には、監査における不正リスク対応基準(以下「不正リスク対応基準」という。)に準
拠して監査を実施する際に遵守が求められる要求事項と関連する適用指針(項番号の冒頭に「F」
が付されている。)が含まれている(A5-2項参照。監査基準報告書200「財務諸表監査における総括
的な目的」第21項(3)参照)。
《(1) 不正の特徴》
2.財務諸表の虚偽表示は、不正又は誤謬から生ずる。不正と誤謬は、財務諸表の虚偽表示の原因と
なる行為が、意図的であるか否かにより区別する。
3.不正は様々な意味をもつ広範囲な概念であるが、本報告書では、監査人が財務諸表監査において
対象とする重要な虚偽表示の原因となる不正について取り扱う。
不正には、不正な財務報告(いわゆる粉飾)と資産の流用がある。監査人は、不正の発生が疑わ
れる場合や、まれに不正の発生を識別した場合においても、不正の発生に関する法的判断は行わ
ない(A1項からA5項参照)。
《(2) 不正の防止及び発見に対する責任》
4.不正を防止し発見する基本的な責任は経営者にあるが、取締役会や監査役若しくは監査役会、監
査等委員会又は監査委員会(以下、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会を「監
査役等」という。)も責任を負っている。なお、本報告書において、経営者とは、取締役又は執行
役のうち企業における業務の執行において責任を有する者をいい、監査役設置会社においては代
表取締役又は業務執行取締役を指し、指名委員会等設置会社においては代表執行役又は執行役を
指す。
経営者は、取締役会による監督及び監査役等による監査(以下「取締役会及び監査役等による監
視」という。)の下で、不正の発生の機会を減少させることとなる不正の防止や、不正の発見と処
罰の可能性によって各人に不正を思いとどまらせることとなる不正の抑止について強調すること
が重要である。これは、誠実性と倫理的な行動を尊重する企業文化を創出することに対する経営
者の姿勢に関係し、取締役会及び監査役等による積極的な監視により強化される。取締役会及び
監査役等による監視には、経営者が内部統制を無効化する可能性、又は企業の業績や収益力に関
する投資家の判断に影響を与える利益調整など、経営者による財務報告プロセスに対する不適切
な干渉を考慮することが含まれる。
《(3) 監査人の責任》
5.監査人は、不正によるか誤謬によるかを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がない
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ことについて合理的な保証を得る責任がある。
監査の固有の限界のため、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して適切に監査計画
を策定し適切に監査を実施しても、重要な虚偽表示が発見されないという回避できないリスクが
ある(監基報200のA50項及びA51項参照)。
6.監査基準報告書200のA50項に記載しているとおり、不正による虚偽表示に関しては、監査の固有
の限界が重要な影響を与える可能性がある。監査人にとって不正による重要な虚偽表示を発見で
きないリスクは、誤謬による重要な虚偽表示を発見できないリスクよりも高くなる。不正には、文
書を偽造すること、取引を故意に記録しないこと、又は意図的な虚偽の陳述を行うことのように、
不正を隠蔽するために巧妙かつ念入りに仕組まれたスキームを伴うことがあるためである。この
ような隠蔽が共謀を伴っている場合には、更に発見することが困難になる。また、共謀により、監
査証拠が実際には虚偽であるのに、監査人に心証を得られたと信じさせる要因となることがある。
監査人が不正を発見できるかどうかは、不正の巧妙さや改竄の頻度と程度、改竄された個々の
金額の重要性、共謀の程度、関与した者の組織上の地位などにより影響を受ける。
監査人は、不正の可能性を識別できることがあるが、会計上の見積りのような経営者の判断を
要する領域における虚偽表示が不正によるものか誤謬によるものかを監査人が判断することは困
難である。
7.経営者は、直接的又は間接的に会計記録を改竄すること、不正な財務諸表を作成すること、又は
他の従業員による不正を防止するためにデザインされた内部統制を無効化することができる立場
にある場合が多いので、監査人が経営者不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクは、従
業員不正による場合のリスクよりも高い。
8.監査人は、合理的な保証を得るために、経営者が内部統制を無効化するリスクを考慮するととも
に、誤謬を発見するために有効な監査手続が不正を発見するためには有効でない可能性があると
いうことを認識し、監査の過程を通じて職業的懐疑心を保持する責任がある。
本報告書により要求される事項は、不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び不正に
よる虚偽表示を発見する手続の立案に資するように記載している。
8-2.監査人は、不正を含む、企業の違法行為について、法令や職業倫理に関する規定による追加の
責任を有することがある。例えば、倫理規則では、以下の要求事項が定められている(A5-3項参照)。
(1) 違法行為又はその疑いに対処すること。これには以下を含む。
・ 経営者や監査役等との当該事項についてのコミュニケーション
・ 違法行為に対する経営者や監査役等の対応についての評価
・ 追加的な対応が必要かどうかの判断
(2) 違法行為又はその疑いを他の監査人(例えば、グループ監査におけるグループ内の他の監査
人)に伝達すること。
(3) 違法行為又はその疑いについて文書化すること。
これらの追加の責任を遵守することによって、監査人は、本報告書や他の監査基準報告書に準
拠した監査に関連する詳細な情報(例えば、経営者や監査役等の誠実性に関する情報)を入手する
ことがある。
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《2.本報告書の目的》
9.本報告書における監査人の目的は、以下の事項のとおりである。
(1) 不正による重要な虚偽表示リスクを識別し評価すること。
(2) 評価された不正による重要な虚偽表示リスクについて、適切な対応を立案し実施することに
より、十分かつ適切な監査証拠を入手すること。
(3) 監査中に識別された不正又は不正の疑いに適切に対応すること。
《3.定義》
10.本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。
(1) 「不正」-不当又は違法な利益を得るために他者を欺く行為を伴う、経営者、取締役、監査役
等、従業員又は第三者による意図的な行為をいう。
(2) 「不正リスク要因」-不正を実行する動機やプレッシャーの存在を示す事象や状況、不正を
実行する機会を与える事象や状況、又は不正行為に対する姿勢や不正行為を正当化する状況を
いう(A21項からA23項参照)。
(3) 「不正リスク」-不正による重要な虚偽表示リスクの略称。不正による重要な虚偽表示リス
ク、不正リスクいずれの表現も用いている。
(4)「不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況」-不正による重要な虚偽表示が行われている
可能性を示す状況をいい、監査手続を実施した結果、当該状況を識別した場合、監査人は、アサ
ーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに関する評価が依然として適切であるか
どうかを判断する際にこれを考慮することが求められる。
F(5)「不正による重要な虚偽表示を示唆する状況」-不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状
況のうち、不正による重要な虚偽表示が行われている可能性がより高いものとして不正リスク
対応基準で取り扱われているものをいい、当該状況が存在する場合、監査人は、経営者に質問し
説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施することが求められる。
F(6)「不正による重要な虚偽表示の疑義」-不正による重要な虚偽表示の疑いが高いと監査人が
判断した状況をいい、以下のいずれかに当てはまる場合が該当する。
− 不正による重要な虚偽表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に基づいて
経営者の説明に合理性がないと監査人が判断した場合
- 識別し評価した不正による重要な虚偽表示リスクに対応して当初計画した監査手続を実施
した結果、必要と判断した追加的な監査手続を実施してもなお、不正リスクに関連する十分か
つ適切な監査証拠を入手できない場合
《Ⅱ 要求事項》
《1.職業的専門家としての懐疑心》
11.監査基準報告書200第14項に記載のとおり、監査人は、経営者、取締役及び監査役等の信頼性及
び誠実性に関する監査人の過去の経験にかかわらず、不正による重要な虚偽表示が行われる可能
性に常に留意し、監査の全過程を通じて、職業的懐疑心を保持しなければならない(A6項及びA7項
参照)。
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F11-2.監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクについては、その評価、対応する監査手続の実
施、入手した監査証拠の評価に際し不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を看過することが
ないよう、職業的懐疑心を発揮しなければならない。また、監査人は、職業的懐疑心を高め、不正
による重要な虚偽表示の疑義に該当するかどうかを判断し、当該疑義に対応する監査手続を実施
しなければならない。
12.監査人は、記録や証憑書類の真正性に疑いを抱く理由がある場合を除いて、通常、記録や証憑書
類を真正なものとして受け入れることができる。しかしながら、監査の過程で把握した状況によ
り、ある記録や証憑書類が真正ではないと疑われる場合、又は文言が後から変更されているが監
査人に開示されていないと疑われる場合には、更に調査しなければならない(A8項参照)。
13.監査人は、経営者、取締役及び監査役等への質問に対する回答が矛盾していると判断した場合に
は、これを調査しなければならない。
《2.監査チーム内の討議》
14.監査基準報告書315第16項及び第17項は、監査チーム内で討議することと、討議に参加していな
い監査チームメンバーへ伝達する事項を決定することを要求している。この討議では、不正がど
のように発生するのかも含め、不正による重要な虚偽表示がどこにどのように行われる可能性が
あるのかについて、特に重点を置かなければならない。
監査チームメンバーは、経営者、取締役及び監査役等が信頼でき誠実であるという考えを持た
ずに、討議を行わなければならない(A9項及びA10項参照)。
《重要な事項の報告の指示》
F14-2.監査基準報告書220「監査業務における品質管理」第14項は、監査責任者に対し、職業的専門
家としての基準及び適用される法令等に準拠して監査業務を指示、監督及び実施することについ
て責任を負うことを要求している。監査責任者は、監査業務の監督に際し、監査の過程で発見され
た不正に関連する重要な会計及び監査上の問題となる可能性がある事項を、監査責任者及び監査
チーム内のより経験のあるメンバーに報告する必要があることを監査チームメンバーに指示しな
ければならない(FA10-2項及びFA10-3項参照)。
《3.リスク評価手続とこれに関連する活動》
15.監査基準報告書315で要求される、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業
の内部統制システムを理解するためのリスク評価手続とこれに関連する活動を実施する際、監査
人は、不正による重要な虚偽表示リスクを識別するための情報を入手するため、第16項(不正リス
ク対応基準が適用される場合は、第F15-2項)から第23項の手続を実施しなければならない。
《企業及び当該企業の属する産業における不正事例の理解》
F15-2.監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクを識別するための情報を入手するため、以下を
理解しなければならない(FA10-4項及びFA10-5項参照)。
(1) 公表されている主な不正事例
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(2) 不正に利用される可能性のある一般的及び企業の属する産業特有の取引慣行
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《(1) 経営者及びその他の企業構成員》(FA10-6 項参照)
16.監査人は、以下の事項について経営者に質問しなければならない。
(1) 財務諸表に不正による重要な虚偽表示が行われるリスクに関する経営者の評価(評価の内容、
範囲及び頻度を含む。)(A11項及びA12項参照)
(2) 経営者が不正リスクの識別と対応について構築した一連の管理プロセス(経営者が識別した
か注意を払っている特定の不正リスク、又は不正リスクが存在する可能性がある取引種類、勘
定残高又は注記事項を含む。)(A13項参照)
(3) 上記の管理プロセスに関して経営者と監査役等の協議が行われている場合にはその内容
(4) 経営者の企業経営に対する考え方や倫理的な行動についての見解を従業員に伝達している場
合にはその内容
17.監査人は、経営者、及び必要な場合にはその他の企業構成員に、その企業に影響を及ぼす不正、
不正の疑い又は不正の申立てを把握しているかどうかを質問しなければならない(A14項からA16
項参照)。
18.監査人は、内部監査機能を有する企業については、内部監査に従事する適切な者に対して、企業
に影響を及ぼす不正、不正の疑いや不正の申立てを把握しているかどうかを判断するため、及び
不正リスクに関する見解を得るため、質問を行わなければならない(A17項参照)。
《(2) 取締役会及び監査役等》(FA10-6 項参照)
19.監査人は、不正リスクの識別と対応について経営者が構築した一連の管理プロセスに対する監
視、及び不正リスクを低減するために経営者が構築した内部統制に対する監視を、取締役会及び
監査役等がどのように実施しているかを理解しなければならない(A18項及びA19項参照)。
20.監査人は、監査役等にその企業に影響を及ぼす不正、不正の疑い又は不正の申立てを把握してい
るかどうかを質問しなければならない。これらの質問は、経営者の回答を補強するためにも行わ
れる。
《(3) 識別した通例でない又は予期せぬ関係》
21.監査人は、収益勘定を対象としたものを含めて、分析的手続の実施により識別した通例でない又
は予期せぬ関係が、不正による重要な虚偽表示リスクを示す可能性があるかどうかを評価しなけ
ればならない。
《(4) その他の情報》
22.監査人は、自ら入手したその他の情報が不正による重要な虚偽表示リスクを示しているかどう
かを考慮しなければならない(A20項参照)。
《(5) 不正リスク要因の検討》
23.監査人は、実施したその他のリスク評価手続とこれに関連する活動により入手した情報が、不正
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リスク要因の存在を示しているかどうかを検討しなければならない。
不正リスク要因の存在は、必ずしも不正が行われていることを示すわけではないが、不正が発
生した状況においては、不正リスク要因が存在していることが多く、したがって不正による重要
な虚偽表示リスクを示すことがある(A21項からA25項参照)。
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《4.不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価》
24.監査人は、第23項で識別した不正リスク要因を考慮し、監査基準報告書315第27項に記載のとお
り、財務諸表全体レベル及びアサーション・レベルの二つのレベルで不正による重要な虚偽表示
リスクを識別し評価しなければならない。
25.監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際、収益認識には不正リスクがあ
るという推定に基づき、どのような種類の収益、取引形態又はアサーションに関連して不正リス
クが発生するかを判断しなければならない。
監査人は、収益認識に関する推定を適用する状況にないと結論付け、そのため収益認識を不正
による重要な虚偽表示リスクとして識別していない場合には、第46項に従い監査調書を作成しな
ければならない(A26項からA28項参照)。
26.監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクであると評価したリスクを、特別な検討を必要とす
るリスクとして取り扱わなければならない。そのため、監査人は、当該リスクに対応する内部統制
を識別し、デザインを評価し、業務に適用されているかどうかを判断しなければならない(A29項
及びA30項並びに監基報315第25項(1)①及び(4)参照)。
《5.評価した不正による重要な虚偽表示リスクへの対応》
《(1) 全般的な対応》
27.監査人は、監査基準報告書330第4項に記載のとおり、評価した財務諸表全体レベルの不正によ
る重要な虚偽表示リスクに応じて、全般的な対応を決定しなければならない(A31項参照)。
28.監査人は、財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクが識別された場合には、評価
したリスクに応じて全般的な対応を決定する際に、以下の事項を実施しなければならない。
(1) 重要な役割を与えられる監査チームメンバーの知識、技能及び能力、並びに評価した財務諸
表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクを考慮した上での監査チームメンバーの配置
と指導監督(A32項及びA33項参照)
(2) 企業が採用している会計方針の選択と適用、特に主観的な測定と複雑な取引に関係する会計
方針について、経営者による利益調整に起因する不正な財務報告の可能性を示唆しているかど
うかの評価
(3) 実施する監査手続の種類、時期及び範囲の選択に当たって、企業が想定しない要素の組込み
(A34項参照)
《(2) 評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続》
29.監査人は、監査基準報告書330第5項に記載のとおり、評価したアサーション・レベルの不正に
よる重要な虚偽表示リスクに応じて、リスク対応手続を立案し実施しなければならない。監査人
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は、評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対しては、当該アサーシ
ョンについて不正リスクを識別していない場合に比べ、より適合性が高く、より証明力が強く、又
はより多くの監査証拠を入手しなければならない(A35項からA38項参照)。
監基報240
《(3) 経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続》
30.経営者は、有効に運用されている内部統制を無効化することによって、会計記録を改竄し不正な
財務諸表を作成することができる特別な立場にある。経営者による内部統制を無効化するリスク
の程度は企業によって異なるが、全ての企業に存在する。内部統制の無効化は予期せぬ手段によ
り行われるため、不正による重要な虚偽表示リスクであり、それゆえ特別な検討を必要とするリ
スクである。
31.監査人は、経営者による内部統制を無効化するリスクに対する監査人の評価にかかわらず、以下
の監査手続を立案し実施しなければならない。
(1) 総勘定元帳に記録された仕訳入力や総勘定元帳から財務諸表を作成する過程における修正に
ついての適切性を検証するために以下の手続を立案し実施すること(A39項からA42項参照)。
① 財務報告プロセスの担当者に対して、仕訳入力及び修正のプロセスに関連する不適切な又
は通例でない処理について質問すること。
② 期末時点で行われた仕訳入力及び修正を抽出すること。
③ 仕訳入力及び修正を監査対象期間を通じて検証する必要性を考慮すること。
(2) 経営者の偏向が会計上の見積りに存在するかどうかを検討し、偏向の発生している状況が、
もしあれば、不正による重要な虚偽表示リスクを示すかどうか評価するために以下の手続を実
施すること(A43項からA45項参照)。
① 財務諸表に含まれる会計上の見積りにおける経営者の判断及び決定が、個々には合理的で
あるとしても、不正による重要な虚偽表示リスクとなるような経営者の偏向が存在する可能
性を示唆するものかどうかを評価すること。示唆している場合には、会計上の見積りを全体
として再評価すること。
② 過年度の財務諸表に反映された重要な会計上の見積りに関連する経営者の仮定及び判断に
対して、遡及的に検討すること。
(3) 企業の通常の取引過程から外れた重要な取引、又は企業及び企業環境に関する監査人の理解
や監査中に入手した情報を考慮すると通例でないと判断されるその他の重要な取引について、
取引の事業上の合理性(又はその欠如)が、不正な財務報告を行うため又は資産の流用を隠蔽す
るために行われた可能性を示唆するものであるかどうかを評価すること(A46項参照)。
32.監査人は、識別した経営者による内部統制を無効化するリスクに対応するために、上記の監査手
続に加えて、その他の監査手続を実施する必要があるかどうかを決定しなければならない。すな
わち、第31項に記載している手続では十分に対応していない経営者による内部統制を無効化する
リスクを識別した場合である。
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《6.監査証拠の評価》
《不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況を識別した場合におけるリスク評価への考慮》
32-2.監査人は、不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況を識別した場合には、監査基準報告書
330第24項に従い、当該状況を考慮して、アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リス
クに関する評価が依然として適切であるかどうかを判断しなければならない(A47項参照)。
F32-3.監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクに対する十分かつ適切な監査証拠を入手したか
どうかを判断しなければならない。また、監査人は、財務諸表の重要なアサーションについて十分
かつ適切な監査証拠を入手していないと判断した場合には、追加の監査証拠を入手するため、監
査手続を実施しなければならない(監基報330第25項及び第26項参照)。
《全般的な結論を形成するための分析的手続の結果の評価》
33.監査人は、企業に関する監査人の理解と財務諸表が整合していることについて全般的な結論を
形成するために、監査の最終段階で実施した分析的手続の結果が、これまで認識していなかった不
正による重要な虚偽表示リスクを示唆していないかどうかを評価しなければならない(A48項参照)。
《虚偽表示の識別》
34.監査人は、虚偽表示を識別した場合、当該虚偽表示が不正の兆候であるかどうかを評価しなけれ
ばならない。不正の兆候であると判断したときには、不正は単発的に発生する可能性は少ないこ
とを認識し、他の監査の局面との関係、特に経営者の陳述の信頼性に留意して、当該虚偽表示が与
える影響を評価しなければならない(A49項参照)。
35.監査人は、重要であるかどうかにかかわらず、虚偽表示を識別した場合、当該虚偽表示が不正に
起因するものであるか又はその可能性があり、経営者(特に上級経営者)が関与していると考える
ときには、不正による重要な虚偽表示リスクに関する評価と、実施するリスク対応手続の種類、時
期及び範囲への影響を再評価しなければならない。さらに、監査人は、それまでに入手した証拠の
証明力を再検討する場合、従業員、経営者又は第三者による共謀の可能性も検討しなければなら
ない(A50項参照)。
《不正による重要な虚偽表示の疑義》(FA50-2 項参照)
F35-2.監査人は、監査実施の過程において、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況(付録4参
照)を識別した場合には、不正による重要な虚偽表示の疑義が存在していないかどうかを判断す
るために、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならない
(FA50-3項参照)。
F35-3.監査人は、以下の場合、不正による重要な虚偽表示の疑義があるとして扱わなければならない。
(1) 識別した不正による重要な虚偽表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に
基づいて経営者の説明に合理性がないと判断した場合
(2) 識別し評価した不正による重要な虚偽表示リスクに対応して当初計画した監査手続を実施し
た結果必要と判断した追加的な監査手続を実施してもなお、不正リスクに関連する十分かつ適
切な監査証拠を入手できない場合(FA50-3項参照)
- 8 -
監査人は、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別したが、不正による重要な虚偽表
示の疑義に該当しないと判断した場合には、第F44-2項に従い監査調書を作成しなければならない。
F35-4.監査人は、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合には、当該疑義に関する
十分かつ適切な監査証拠を入手するため、リスク評価及び立案したリスク対応手続を修正し、不
正による重要な虚偽表示の疑義に関する十分な検討を含め、想定される不正の態様等に直接対応
監基報240
した監査手続を実施しなければならない。
《監査及び監査報告に及ぼす影響の評価》
36.監査人は、不正が行われた結果として財務諸表に重要な虚偽表示が行われていると判断した場
合、又はそうであるかどうかを判断することができない場合には、監査及び監査報告に及ぼす影
響を評価しなければならない(A51項参照)。
《6-2.専門家の業務の利用》
F36-2.監査人は、監査基準報告書620「専門家の業務の利用」第6項に従い、不正による重要な虚偽
表示リスクの評価、監査手続の実施、監査証拠の評価において、不正リスクの内容や程度に応じて
専門家の業務を利用する必要があるかどうかを判断しなければならない(FA51-2項及びFA51-3項
参照)。
《7.監査契約の継続の検討》
37.監査人は、不正又は不正の疑いにより虚偽表示が行われ、監査契約の継続が問題となるような例
外的な状況に直面した場合には、以下を実施しなければならない(A52項からA54項参照)。
(1) その状況において必要となる職業的専門家としての基準及び適用される法令上の責任を判断
すること(企業、監査役等又は規制当局等の第三者への報告が必要かどうかを含む。)。
(2) 監査契約の解除が可能な場合、監査契約の解除の当否を考慮すること。
(3) 監査人が監査契約を解除する場合には、以下の事項を実施すること。
① 監査契約の解除及びその理由に関して、適切な階層の経営者及び監査役等と協議すること。
② 職業的専門家としての基準及び適用される法令等に基づき、企業又は規制当局等に、監査
契約の解除及びその理由を報告する必要性について検討すること。
《8.経営者確認書》
38.監査人は、以下の事項を記載した経営者確認書を入手しなければならない(A55項及びA56項参
照)。
(1) 不正を防止し発見する内部統制を整備及び運用する責任は、経営者にあることを承知してい
る旨
(2) 不正による財務諸表の重要な虚偽表示の可能性に対する経営者の評価を監査人に示した旨
(3) 以下の企業に影響を与える不正又は不正の疑いがある事項に関する情報が存在する場合、当
該情報を監査人に示した旨
① 経営者による不正又は不正の疑い
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監基報240
② 内部統制において重要な役割を担っている従業員による不正又は不正の疑い
③ 上記以外の者による財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性がある不正又は不正の疑い
(4) 従業員、元従業員、投資家、規制当局又はその他の者から入手した財務諸表に影響する不正
の申立て又は不正の疑いがある事項に関する情報を監査人に示した旨
F38-2.監査人は、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合には、当該疑義に関連し
た記述を経営者確認書に含めることを要請するかどうかを検討しなければならない(FA56-2項及
びFA56-3項参照)。
《8-2.審査》
F38-3.監査責任者は、監査事務所の定める審査に関する方針及び手続に従って、不正による重要な
虚偽表示リスクへの対応に関する重要な判断と結論について、監査の適切な段階で審査を受けな
ければならない。また、監査責任者は、不正による財務諸表の重要な虚偽表示の疑義があると判断
した場合には、当該疑義に係る監査チームの対応について、監査事務所の方針と手続に従って、適
切な審査担当者による審査を受け、審査が完了するまでは意見を表明してはならない。
《9.経営者及び監査役等とのコミュニケーション》
《(1) 経営者とのコミュニケーション》
39.監査人は、不正を識別した場合、又は不正が存在する可能性があることを示す情報を入手した場
合、法令により禁止されていない限り、不正の防止及び発見に対する責任を負う者にその責任に
関する事項を知らせるため、適切な階層の経営者に適時にこれらの事項についてコミュニケーシ
ョンを行わなければならない(A56-4項、A57項及びFA57-2項参照)。
F39-2.監査人は、経営者の関与が疑われる不正又は不正の疑い(不正リスク対応基準で規定されて
いる不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合を含む。)を発見した場合には、第40
項に従って監査役等とコミュニケーションを行い、協議の上、経営者に問題点の是正等適切な措
置を求めなければならない。
《(2) 監査役等とのコミュニケーション》
40.監査人は、以下の企業に影響を与える不正を識別したか又は不正の疑い(不正リスク対応基準が
適用される場合、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合を含む。)を抱いた場合、
適時に、監査役等とコミュニケーションを行わなければならない。
(1) 経営者による不正又は不正の疑い
(2) 内部統制において重要な役割を担っている従業員による不正又は不正の疑い
(3) 上記以外の者による財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性がある不正又は不正の疑い
監査人は、不正又は不正の疑いに経営者の関与が疑われる場合、監査役等とコミュニケーショ
ンを行い、監査を完了するため必要となる監査手続の種類、時期及び範囲についても協議しなけ
ればならない。法令によって禁止されていない限り、当該監査役等とのコミュニケーションは求
められる(A56-4項、A58項からA60項参照)。
41.法令によって禁止されていない限り、監査人は、不正に関連するその他の事項で、監査役等の責
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任に関係すると判断した事項について監査役等とコミュニケーションを行わなければならない
監基報240
(A56-4項及びA61項参照)。
《10.適切な規制当局への不正の報告》
42.監査人は、不正を識別した場合、以下に該当するかどうかを判断しなければならない(A62項参照)。
(1) 法令により、適切な規制当局に報告することが監査人に求められている。
(2) 職業倫理規程により、追加的な対応として、適切な規制当局に報告することが例示されている。
《11.監査調書》
43.監査人は、監査基準報告書315第37項が要求している重要な虚偽表示リスクに関する監査人の識
別と評価についての監査調書に、以下の事項を記載しなければならない(監査基準報告書230「監
査調書」第7項から第10項及びA6項参照)。
(1) 不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に関する監査チーム内での討議及び重要な結論
(2) 識別し評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクとアサーション・レ
ベルの不正による重要な虚偽表示リスク
(3) 不正による重要な虚偽表示リスクに対応する統制活動において識別された内部統制
44.監査人は、監査基準報告書330第27項が要求している評価した重要な虚偽表示リスクに応じた対
応についての監査調書に、以下の事項を記載しなければならない。
(1) 財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応、及び実施し
たリスク対応手続の種類、時期及び範囲
(2) アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクと実施したリスク対応手続との関
連性
(3) 監査手続の結果(経営者による内部統制を無効化するリスクに対応するために実施した監査
手続を含む。)
F44-2.監査人は、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別したが、当該状況が不正による
重要な虚偽表示の疑義に該当しないと判断した場合には、その旨とその理由を監査調書に記載し
なければならない。
F44-3.監査人は、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合、当該疑義の内容、実施
した監査手続とその結果、監査人としての結論及びその際になされた職業的専門家としての重要
な判断について、監査調書に記載しなければならない。
45.監査人は、不正に関し、経営者及び監査役等と行ったコミュニケーション並びに規制当局等への
報告について、監査調書に記録しなければならない。
46.監査人は、収益認識に関係する不正による重要な虚偽表示リスクがないと判断したときは、その
理由を監査調書に記録しなければならない。
《Ⅲ 適用指針》
《1.不正の特徴》(第3項参照)
A1.不正な財務報告であるか資産の流用であるかを問わず、不正は、不正を実行する「動機・プレッ
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監基報240
シャー」、「機会」及び不正行為に対する「姿勢・正当化」を伴って生じる。例えば、以下のような
状況が不正の発生に関係している。
・ 経営者が、企業内外の関係者から期待される(そして、恐らく非現実的な)利益目標又はその
他の財務的な目標達成のプレッシャー下にある場合、財務的な目標達成の失敗の影響は経営者
にとって深刻となり得ることから、不正な財務報告を実行する動機・プレッシャーが存在する
ことがある。同様に、収入を超えた生活をしている者などは、資産を流用する動機をもつ場合が
ある。
・ 例えば責任のある立場にいるため、又は特定の内部統制の不備を知っているために、内部統
制を無効化できると考える者は、不正を実行する機会を有している。
不正行為を働くことを正当化する者がいる。不誠実な行為と知りながら又は意図的に、その
ような行為に関与することを許容してしまうような姿勢、人格又は価値観を有している者もい
る。しかし、普段は誠実であっても、非常に強いプレッシャーを受けた場合には不正を実行する
可能性がある。
A2.不正な財務報告とは、財務諸表の利用者を欺くために財務諸表に意図的な虚偽表示を行うこと
であり、計上すべき金額を計上しないこと又は必要な注記を行わないことを含んでいる。
不正な財務報告は、企業の業績や収益力について財務諸表の利用者を欺くために、経営者が利
益調整を図ることを目的として行われる可能性がある。このような利益調整は、経営者の些細な
行為又は仮定や判断の不適切な変更から始まることが多い。これらの行為は、動機やプレッシャ
ーによって、不正な財務報告にまで至ることがある。例えば、業績報酬を最大にしたいという欲求
や、市場の期待に応えるというプレッシャーのために、不正な財務報告を行うことがある。また、
税金を最小限にするための利益の圧縮、又は銀行からの資金調達を確保するための利益の水増し
といった動機を持つこともある。
A3.不正な財務報告は、以下の方法により行われることがある。
・ 財務諸表の基礎となる会計記録や証憑書類の改竄、偽造又は変造
・ 取引、会計事象又は重要な情報の財務諸表における虚偽の記載や意図的な除外
・ 金額、分類、表示又は注記事項に関する意図的な会計基準の不適切な適用
A4.不正な財務報告は、経営者による内部統制の無効化を伴うことが多い。経営者は、以下のような
方法を用いて意図的に内部統制を無効化し、不正を行うことがある。
・ 経営成績の改竄等の目的のために架空の仕訳入力(特に期末日直前)を行う。
・ 会計上の見積りに使用される仮定や判断を不適切に変更する。
・ 会計期間に発生した取引や会計事象を認識しないこと、又は認識を不適切に早めたり遅らせ
たりする。
・ 適用される財務報告の枠組みで要求される注記事項又は適正表示を達成するために必要な注
記事項を省略したり、不明瞭に記載したり、又は誤った表示をする。
・ 財務諸表に記録される金額に影響を与える可能性のある事実を隠蔽する。
・ 企業の財政状態又は経営成績を偽るために仕組まれた複雑な取引を行う。
・ 重要かつ通例でない取引についての記録や契約条項を変造する。
A5.資産の流用は、従業員により行われ、比較的少額であることが多い。しかし、資産の流用を偽装
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監基報240
し隠蔽することを比較的容易に実施できる立場にある経営者が関与することもある。
資産の流用は、以下のような方法で行われることがある。
・ 受取金の着服(例えば、売掛金の回収金を流用すること、又は償却済債権の回収金を個人の銀
行口座へ入金させること。)
・ 物的資産の窃盗又は知的財産の窃用(例えば、棚卸資産を私用又は販売用に盗むこと、スクラ
ップを再販売用に盗むこと、競合企業と共謀して報酬と引換えに技術的情報を漏らすこと。)
・ 企業が提供を受けていない財貨・サービスに対する支払(例えば、架空の売主に対する支払、
水増しされた価格と引換えに売主から企業の購買担当者に対して支払われるキックバック、架
空の従業員に対する給与支払)
・ 企業の資産の私的な利用(例えば、企業の資産を個人又はその関係者の借入金の担保に供す
ること。)
なお、資産の流用においては、資産の紛失や正当な承認のない担保提供といった事実を隠蔽す
るために記録又は証憑書類の偽造を伴うことが多い。
A5-2.不正リスク対応基準に準拠して監査を実施する際に遵守が求められる要求事項と関連する適
用指針は、不正リスク対応基準が適用されない監査業務においても、業務の状況に応じて、参考と
なることがある(第1-2項参照)。
《1-2.監査人の責任》(第 8-2 項参照)
A5-3.法令や職業倫理に関する規定により、監査人は追加的な手続を実施し、追加的な対応を講じる
ことが求められている場合がある。例えば、倫理規則により、監査人は違法行為又はその疑いに対
処するよう措置を講じ、追加的な対応が必要かどうかを判断することが求められている。当該措
置により、監査人は違法行為又はその疑いを監査チーム内の監査人(構成単位の監査人を含む。)
又はグループ監査以外の目的でグループの構成単位において業務を実施する他の監査人(例えば、
構成単位において法定監査のみを実施している監査人)に伝達することが求められる場合がある
(倫理規則R360.16項及び第360.18 A1項参照)。
《2.職業的専門家としての懐疑心》(第 11 項から第 13 項参照)
A6.職業的懐疑心は、入手した情報と監査証拠が、不正による重要な虚偽表示が存在する可能性を示
唆していないかどうかについて継続的に疑問をもつことを必要としている。これには、監査証拠
として利用する情報の信頼性の検討、及びこれに関連する情報の作成と管理に関する統制活動に
おいて識別された内部統制があればその検討が含まれる。不正の持つ特性から、不正による重要
な虚偽表示リスクを検討する場合には、経営者の説明を批判的に検討するなど、監査人の職業的
懐疑心は特に重要である。
A7.監査人が過去の経験に基づいて、経営者、取締役及び監査役等は信頼が置ける又は誠実であると
認識していたとしても、状況が変化している可能性があることから、不正による重要な虚偽表示
リスクを検討する場合には、経営者の説明を批判的に検討するなど、監査人の職業的懐疑心は特
に重要である。
A8.監査基準報告書200のA46項に記載のとおり、監査では、記録や証憑書類の鑑定を伴うことはほと
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んどなく、監査人はそのような鑑定の技能を習得していないし鑑定の専門家であることも期待さ
れていない。しかし、ある記録や証憑書類が真正ではない、又は文言が後から変更されているが監
査人に開示されていないと疑われる状況を識別した場合、さらに行う調査の手続には、以下の事
監基報240
項を含むことがある。
・ 第三者への直接確認
・ 記録や証憑書類の真正性を評価する専門家の利用
《3.監査チーム内の討議》(第 14 項参照)
A9.財務諸表に不正による重要な虚偽表示が行われる可能性について監査チーム内で討議すること
は、以下の事項を可能にする。
・ 監査チーム内で豊富な経験を有するメンバーが、不正による重要な虚偽表示が財務諸表のど
こにどのように行われる可能性があるのかについての知識を共有すること。
・ 監査人が、不正による重要な虚偽表示が財務諸表に行われる可能性への適切な対応を検討し、
監査チームのどのメンバーがどの監査手続を実施するかについて決定すること。
・ 監査人が、監査手続の実施結果をどのように監査チーム内で共有するか、及び知り得た不正
の申立てにどのように対処するかについて決定すること。
A10.討議内容には、以下の事項を含む。
・ 財務諸表(注記事項を含む。)のどこに、どのように不正による重要な虚偽表示が行われる可
能性があるのか、経営者がどのように不正な財務報告を行ったり、隠蔽する可能性があるのか、
どのように企業の資産が流用される可能性があるのかについての意見交換
・ 利益調整を示唆する状況及び不正な財務報告となり得る利益調整のために経営者が採る手法
の検討
・ 経営者が注記事項を、適切な理解を妨げるような方法(例えば、余り重要でない情報を多く含
めたり、不明瞭で曖昧な表現を使用するなど)で記述しようとするリスクの検討
・ 「動機・プレッシャー」、「機会」、「姿勢・正当化」に関する企業の外部及び内部要因の検討
・ 現金など流用されやすい資産に対する資産保全手続についての経営者の関与の検討
・ 経営者や従業員の不自然な又は説明のつかない行動や生活様式の変化の検討
・ 不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に対し、監査の過程を通じて、職業的懐疑心を
保持することの重要性の強調
・ 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況に遭遇した場合には、その状況の検討
・ 実施する監査手続の種類、時期及び範囲に、企業が想定しない要素をどのように組み込むか
の検討
・ 不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に対応して実施する監査手続、及びその監査手
続が他の監査手続よりも有効であるかどうかの検討
・ 監査人が知り得た不正の申立ての検討
・ 経営者による内部統制を無効化するリスクの検討
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監基報240
《重要な事項の報告の指示》(第 F14-2 項参照)
FA10-2.監査基準報告書220のA12項に記載されているとおり、監督には、監査の過程で発見された重
要な会計及び監査上の問題となる可能性がある事項をより経験のある監査チーム内のメンバーに
報告するように指示し、当該事項の重要性の程度を検討し、監査計画を適切に修正すること、ま
た、専門的な見解の問合せが必要な事項又はより経験のある監査チームのメンバーが検討を必要
とする事項を特定することが含まれる。
FA10-3.監査の過程で発見された不正に関連する重要な会計及び監査上の問題となる可能性がある
事項には、事業上の合理性が不明瞭な通例でない重要な取引等、不正による重要な虚偽表示を示
唆する状況が含まれる。
《4.リスク評価手続とこれに関連する活動》
《企業及び当該企業の属する産業における不正事例の理解》(第 F15-2 項参照)
FA10-4.公表されている主な不正事例には、例えば、以下に記載された事例が相当することになる。
・ 公認会計士・監査審査会が公表する監査事務所に対する直近の検査結果
・ 日本公認会計士協会が会員向けに公表している会員の監査業務の実施状況の直近の調査結果
これらの理解は、例えば、監査事務所内外で実施される不正に関する適切な研修への参加によ
って得られる。
FA10-5.不正に利用される可能性のある一般的及び企業の属する産業特有の取引慣行の理解は、監
査基準報告書315第18項に従って以下の事項を理解する際に併せて得られることが多い。
・ 企業及び企業環境に関する事項
・ 適用される財務報告の枠組み並びに企業の会計方針及び会計方針の変更がある場合にはその
理由
これらの事項は、監査基準報告書315第37項に従って、監査調書に記載されることになる。
また、これらの理解は、監査契約の新規の締結及び更新に当たって入手した情報により得られ
ることがある。
《不正による重要な虚偽表示リスクに関連する質問》(第 16 項から第 20 項参照)
FA10-6.不正リスク対応基準において求められている不正による重要な虚偽表示リスクに関連する
質問は、本報告書の第16項から第20項によって実施されることになる。
《(1) 経営者への質問》
《不正による重要な虚偽表示リスクに関する経営者の評価》(第 16 項(1)参照)
A11.経営者は、内部統制を整備及び運用し、財務諸表を作成する責任を有する。したがって、不正
リスクに関する経営者による評価及び不正を防止し発見するために構築した内部統制に関する経
営者による評価について、監査人が経営者に質問することは有益である。
経営者による評価の内容、範囲及び頻度は、企業により様々である。ある企業では、経営者は、
年次ベースで又は継続的な監視活動の一部として、詳細な評価を実施する。また、別の企業では、
経営者による評価が、制度化されているとまではいえず、かつ頻度も多くないことがあり得る。
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経営者による評価の内容、範囲及び頻度は、企業の統制環境についての監査人の理解に影響を
与える。例えば、経営者が不正リスクに関する評価を行っていない場合は、経営者が内部統制を重
視していないことを示唆している可能性がある。
監基報240
《小規模企業に特有の考慮事項》
A12.ある企業、特に比較的小規模な企業では、経営者の評価の焦点が、従業員不正に関するリスク
や資産流用に関するリスクに置かれることもある。
《不正リスクの識別と対応について経営者が構築した一連の管理プロセス》(第 16 項(2)参照)
A13.多数の事業所がある企業の場合、経営者の管理プロセスには、事業所や事業セグメントによっ
て異なるレベルの監視活動が含まれることがある。また、経営者は、不正リスクが存在する可能性
がより高い事業所や事業セグメントを識別していることがある。
《経営者及びその他の企業構成員への質問》(第 17 項参照)
A14.経営者に対する質問は、従業員不正による重要な虚偽表示リスクに関しての有益な情報を入手
することができるが、経営者不正による重要な虚偽表示リスクに関しての有益な情報を入手する
ことができる可能性は低い。監査人によるその他の企業構成員に対する質問は、通常は伝達され
ない情報を企業構成員が監査人に伝える機会を提供することがある。
A15.監査人が、不正の存在や疑いについて質問するその他の企業構成員には、例えば、以下の者が
含まれる。
・ 財務報告プロセスに直接関係しない業務担当者
・ 異なる職位の従業員
・ 複雑な又は通例でない取引の開始、記録又は処理に関係した従業員と、その管理者又は監視者
・ 法務部門担当者
・ 倫理担当役員又はその同等者
・ 不正の申立てに対応する責任者
A16.経営者が最も不正を行いやすい立場にあることが多い。したがって、監査人は、質問に対する
経営者の回答を評価する場合には、職業的懐疑心を保持して、質問に対する回答を他の情報で裏
付けることが必要かどうかを判断する。
《内部監査担当者への質問》(第 18 項参照)
A17.監査基準報告書315第13項(1)及び第23項(1)②、並びに監査基準報告書610「内部監査人の作業
の利用」では、内部監査機能を有する企業に対する監査に関連する要求事項を定め、指針を提供し
ている。これらの報告書の要求事項を実行するため、監査人は、例えば、以下のような特定の内部
監査活動について質問することがある。
・ 内部監査人が不正を発見するために監査対象期間中に実施した手続
・ 上記手続を実施したことにより発見した事項に対する、経営者による十分な対応の有無
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監基報240
《(2) 取締役会及び監査役等による監視活動の理解》(第 19 項参照)
A18.取締役会及び監査役等は、リスク管理、財務報告及び法令遵守に関する体制を監視する責任が
ある。
取締役会及び監査役等は、不正リスクに対する評価と当該リスクに対応する内部統制に対する
監視の役割を果たしている(監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」A1項からA7項
参照)。
A19.監査人は、取締役会及び監査役等が実施している監視活動を理解することにより、経営者によ
る不正が行われる可能性、不正リスクに対応する内部統制の妥当性及び経営者の能力と誠実性に
関しての見識を得ることがある。
監査人は、取締役会及び監査役会(又は監査等委員会若しくは監査委員会)の議事録の閲覧又は
監査役等若しくは非業務執行取締役への質問などによって、これらを理解することができる場合
がある。
《(3) その他の情報の検討》(第 22 項参照)
A20.分析的手続の実施により入手した情報に加えて、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠
組み並びに企業の内部統制システムについて入手したその他の情報は、不正による重要な虚偽表
示リスクの識別に有用なことがある。監査チーム内の討議により、そのようなリスクの識別に役
立つ情報を入手することがある。
さらに、監査契約の新規の締結及び更新に関する手続並びに企業に対して実施したその他の業
務、例えば、期中レビュー業務において入手した情報は、不正による重要な虚偽表示リスクの識別
に関連することがある。
《(4) 不正リスク要因の検討》(第 23 項参照)
A21.不正は、通常、隠蔽されるためその発見は非常に困難であるが、監査人は、不正を実行する動
機やプレッシャーの存在を示したり、又は不正を実行する機会を与えたりする事象や状況の存在
を識別する場合がある。
不正リスク要因としては、例えば、以下の事象や状況がある。
・ エクイティ・ファイナンスのために第三者の期待に応えなければならない場合には、不正を
実行するプレッシャーを生じさせることがある。
・ 非現実的な利益目標の達成に対する多額のボーナスは、不正を実行する動機を生じさせるこ
とがある。
・ 有効でない統制環境は、不正を実行する機会を生じさせることがある。
A22.不正リスク要因に、重要度により序列を付けることは容易ではない。不正リスク要因の重要度
は様々である。特定の状況が重要な虚偽表示リスクを示唆していない企業にも不正リスク要因が
存在することがある。したがって、不正リスク要因が存在しているかどうか、及び不正による重要
な虚偽表示リスクの評価において、不正リスク要因を考慮するかどうかについての決定には、職
業的専門家としての判断が求められる。
A23.付録1では、不正リスク要因を、不正な財務報告に関する不正リスク要因と資産の流用に関す
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る不正リスク要因とに分けて例示している。さらにこれらの要因を、不正が存在するときに通常
監基報240
示す以下の三つの条件に分類している。
・ 不正を実行する「動機・プレッシャー」
・ 不正を実行する「機会」
・ 不正行為に対する「姿勢・正当化」
不正リスク要因は、関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、虚偽表示の生じやすさを
作り出す状況に起因する動機やプレッシャー又は機会に関係する場合がある。意図的な経営者の
偏向を含む不正リスク要因は、それが固有リスクに影響を及ぼす場合には、固有リスク要因とな
る(監基報315第11項(6)参照)。企業の内部統制システムの状況が、不正を実行する機会を提供し
ているか又は不正行為を正当化する経営者の姿勢に影響を及ぼすことで、不正リスク要因と関連
する場合がある。
監査人が不正行為を正当化する姿勢に関する不正リスク要因に観察により気付くことは容易で
はないが、例えば、企業の統制環境の理解を通じて、そのような情報の存在に気付く場合がある
(監基報315第20項参照)。
付録1で記載している不正リスク要因は、広範囲に及んでいるが例示にすぎないため、別の不
正リスク要因が存在する場合もある。
A24.企業の規模、複雑性及び所有形態は、これに関連する不正リスク要因の検討に関して重要な影
響を及ぼす。例えば、大規模企業の場合には、経営者による不適切な行為を抑止する働きをもつも
のとしては、以下のものがある。
・ 取締役会や監査役等による有効な監視
・ 有効な内部監査機能
・ 文書化された行動規範の存在と運用
さらに、事業セグメントのレベルで不正リスク要因を検討することにより、企業全体レベルで
の検討とは異なった見識を得ることもある。
《小規模企業に特有の考慮事項》
A25.小規模企業の場合には、上記A21項からA24項の検討の一部若しくは全部が該当しない、又は余
り適切でない場合がある。例えば、比較的小規模な企業では文書化された行動規範はないが、代わ
りに、口頭による伝達や経営者による実践を通じて、誠実性と倫理的な行動を尊重する企業文化
を創出することがある。小規模企業において一人の経営者による支配がなされている場合、その
こと自体が、内部統制と財務報告プロセスに関して経営者により適切な態度を示し伝達すること
の欠如を示すことにはならない。例えば、経営者に承認を求めることは、その他の不備のある内部
統制を補完し、従業員不正に関するリスクも低減できることがある。しかしながら、一人の経営者
による支配は、経営者による内部統制の無効化の機会があるので潜在的な内部統制の不備となる
こともある。
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監基報240
《5.不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価》
《(1) 収益認識における不正リスク》(第 25 項参照)
A26.収益認識に関連する不正な財務報告による重要な虚偽表示は、多くの場合、収益の過大計上(例
えば、収益の先行認識又は架空計上)による。一方、収益の過少計上(例えば、収益の次年度以降
への不適切な繰延べ)によることもある。
A27.収益認識における不正リスクは、ある企業においては他の企業より大きいことがある。例えば、
業績が増収又は利益の達成によって評価される上場企業では、経営者が不適切な収益認識を通じ
て不正な財務報告を行うプレッシャー又は動機が存在することがある。同様に、例えば収益の大
部分が現金売上による企業の場合では、収益認識における不正リスクは増大することがある。
A28.収益認識において不正リスクがあるという推定を適用する状況にないと判断することもある。
例えば、単一の賃貸資産からのリース収入のように、収益取引が単一の形態で単純なものである
場合には、監査人は収益認識に関連する不正による重要な虚偽表示リスクはないと結論付けるこ
とがある。
《(2) 不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び関連する内部統制》(第 26 項参照)
A29.監査基準報告書315の付録3に記載しているとおり、経営者は、適用する内部統制の種類と範囲
及び受け入れるリスクの種類と範囲に関して判断することがある。経営者は、不正を防止し発見
するために適用する内部統制の種類と範囲の決定において、不正による財務諸表の重要な虚偽表
示リスクの発生可能性を検討する。この検討の一部として、不正による重要な虚偽表示リスクの
軽減に関して、特定の内部統制を整備及び運用することが、費用対効果に見合わないと結論付け
ることもある。
A30.経営者が不正を防止し発見するために整備及び運用している内部統制を、監査人が理解するこ
とは重要である。監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクに対応する内部統制を識別するこ
とにより、経営者が不十分な職務の分離によるリスクを意識的に受け入れていることを把握する
ことがある。これらの内部統制を識別し、デザインを評価し、業務に適用されているかどうかを判
断することから得られる情報は、不正による重要な虚偽表示リスクに対する監査人の評価に影響
を及ぼす不正リスク要因の識別にとっても有益なことがある。
《6.評価した不正による重要な虚偽表示リスクへの対応》
《(1) 全般的な対応》(第 27 項参照)
A31.評価した不正による重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応の決定には、通常、以下のよ
うに高められた職業的懐疑心を監査全般にどのように反映することができるか考慮することを含む。
・ 重要な取引の裏付けとなる証憑書類の種類及びその範囲をより注意深く選択すること。
・ 重要な事項に関する経営者の説明や陳述を裏付ける必要性の認識を高めること。
全般的な対応は、特定の手続の計画とは別の、より概括的な検討を伴うものであり、これらの検
討には第28項に列挙する事項(関連する適用指針を含む。)が含まれている。
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《(2) 要員の配置及び指導監督》(第 28 項(1)参照)
A32.監査人は、例えば、不正調査の専門家やITの専門家のような専門的な知識と技能をもったメ
ンバーを追加し、又は豊富な経験を有するメンバーを配置することによって対応する場合がある。
A33.不正による重要な虚偽表示リスクに関する監査人の評価と、監査チームメンバーの能力に応じ
て、指導監督の程度を決定する。
監基報240
《(3) 監査手続の選択における企業が想定しない要素の組込み》(第 28 項(3)参照)
A34.実施する監査手続の種類、時期及び範囲の選択に当たって、例えば、以下のような企業が想定
しない要素を組み込むことは重要である。なぜなら、企業構成員のうち、通常の監査業務で実施さ
れる監査手続に詳しい者にとっては、不正な財務報告の隠蔽がより容易に行えることがあるから
である。
・ 重要性やリスクの観点からは通常選択しない勘定残高やアサーションについて実証手続を実
施する。
・ 監査手続の想定される実施時期を変更する。
・ 異なるサンプリング方法を使用する。
・ 往査事業所の選択方法を変更し又は予告なしに往査する。
《(4) 評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続》
(第 29 項参照)
A35.監査基準報告書330第6項(2)では、監査人に、リスク対応手続の立案に当たって、評価した重
要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手することが求
められている。また、監査基準報告書330第20項では、監査人に、評価したアサーション・レベル
の重要な虚偽表示リスクが特別な検討を必要とするリスクであると判断した場合、そのリスクに
個別に対応する実証手続を実施することが求められている。
監査人は、評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応じて、以下の
とおり、実施するリスク対応手続の種類、時期及び範囲を変更することがある。
・ より証明力が強く適合性の高い監査証拠を入手するために、又は裏付けとなる追加的な情報
を入手するために、実施する監査手続の種類の変更が必要となることがある。監査手続の種類
の変更は、例えば、以下のように、実施する監査手続の手法とその組合せに影響を及ぼすことが
ある。
- 特定の資産の実地棚卸立会や実査を実施することがより重要になる場合、又は重要な勘定
や電子的な取引ファイルに含まれるデータについてより多くの証拠を集めるためにコンピュ
ータ利用監査技法(CAAT)を利用することがある。
- 監査人は追加的な裏付け情報を入手する手続を立案する場合もある。例えば、経営者に利
益目標の達成のプレッシャーがかかっていると監査人が識別した場合には、収益を認識でき
ないような条件を付された販売契約を締結することによって、又は出荷前に請求書を発行す
ることによって、売上を過大計上するリスクが存在していることがある。このような場合、監
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監基報240
査人は、例えば、売上債権残高だけでなく日付、返品条件及び引渡条件を含めた販売契約の詳
細を確認することがある。さらに、販売契約及び出荷条件の変更について、経理以外の部門に
質問し、確認を補完することが有効なこともある。
・ 実証手続の実施の時期の変更が必要となることがある。監査人は、期末日又は期末日近くで
実証手続を実施することが、評価した不正による重要な虚偽表示リスクにより適切に対応する
と結論付けることがある。意図的な虚偽表示又は利益操作が行われるリスクがある場合には、
監査人は、期中の監査上の結論を期末日まで更新して利用するために実施する監査手続は有効
でないと結論付けることがある。対照的に、意図的な虚偽表示(例えば、不適切な収益認識が関
係する虚偽表示)は期中から始められる場合があるので、取引の発生に近い時期又は監査対象
期間を通じて、実証手続を適用することがある。
・ 実施する監査手続の範囲の変更が必要となることがある。例えば、サンプル数の増加や、より
詳細なレベルでの分析的実証手続の実施が適切なこともある。また、CAATを用いることにより、
電子的な取引ファイルと勘定ファイルに対するより広範な手続の実施が可能となることがある。
CAATは、重要な電子的ファイルからのサンプルの抽出、特性に基づいた取引のソート又は項目
抽出を行わずに母集団全体に手続を実施する場合に利用できる。
A36.監査人は、棚卸資産の数量に関係する不正による重要な虚偽表示リスクを識別した場合には、
在庫記録の査閲が、実地棚卸時又は棚卸後において特に留意すべき事業所や品目を識別するため
に役立つ。この査閲の結果、例えば、予告なしに特定の事業所の実地棚卸の立会を決定する、又は
各事業所で一斉に実地棚卸を実施するように企業に依頼することがある。
A37.監査人は、多くの勘定科目とアサーションに影響する不正による重要な虚偽表示リスクを識別
する場合がある。これらは、資産評価、特定の取引(例えば、買収、リストラクチャリング又は事
業セグメントの廃止)や重要な債務(退職給付債務等)に関する見積りを含むことがある。また、
そのリスクは、経常的な見積りに関する仮定の重要な変更に関係することもある。企業及び企業
環境の理解を通じて入手した情報は、経営者の見積り及びその基礎となる仮定と判断の合理性に
対する監査人の評価に役立つことがある。過年度における経営者の類似の仮定と判断を遡及的に
検討することにより、経営者の見積りを裏付ける仮定と判断の合理性についての理解が得られる
こともある。
A38.不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続を、企業が想定しない要素を組み込んだ手
続を含めて、付録2に例示している。当該付録には、収益認識に起因するものを含む不正な財務報
告と資産の流用に関係する不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続を含む。
《(5) 経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続》
《仕訳入力及びその他の修正》(第 31 項(1)参照)
A39.不正による重要な虚偽表示は、不適切な又は権限外の仕訳を記録するような財務報告プロセス
における操作を伴うことが多い。これは監査対象期間を通じて又は期末に、経営者によって、連結
決算修正又は組替えのように正規の仕訳によらずに財務諸表上の金額を修正することにより行わ
れる可能性がある。
A40.監査人が仕訳入力に対する不適切な内部統制の無効化に関係する重要な虚偽表示リスクを検討
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監基報240
することも重要である(監基報315第25項(1)②参照)。これは、自動化されたプロセスや内部統制
が、不注意から生ずる誤謬のリスクを低減させることがあるにしても、自動化されたプロセスを
不適切に無効化するリスク(例えば、総勘定元帳又は財務報告システムが自動的に処理した金額
を個人が変更すること。)に対応しないためである。さらに、ITが情報の自動的な転送に使用さ
れている場合、情報システムにはそのような介入についての可視的な証拠がほとんど又は全くな
いことがある。
A41.詳細テストを実施する仕訳入力及びその他の修正を識別して抽出し、これらの裏付けを適切に
検証する方法を決定する場合には、以下の事項が関連している。
・ 不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価
不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価の過程で入手した不正リスク要因とその他の
情報は、詳細テストを実施する特定の仕訳入力及びその他の修正を識別するのに役立つことが
ある。
・ 仕訳入力及びその他の修正に関して適用された内部統制
仕訳入力及びその他の修正に関する内部統制について、監査人が運用評価手続を実施し有効
と判断した場合には、必要となる詳細テストの範囲を狭めることができる。
・ 財務報告プロセスと入手可能な証拠
多くの企業では、定型的な取引の処理を手作業と自動化された内部統制を組み合わせて行っ
ている。同様に仕訳入力及びその他の修正のプロセスは、手作業と自動化された内部統制の組
合せで行っていることが多い。財務報告プロセスにおいてITを利用している場合には、仕訳
入力やその他の修正は電子的情報のみで存在することがある。
・ 不適切な仕訳入力やその他の修正がもつ特性
不適切な仕訳入力やその他の修正は、例えば以下のような識別できる特性をもっていること
が多い。
(1) 取引とは無関係な又はほとんど使用されない勘定を利用した仕訳入力
(2) 入力担当者以外によって入力された仕訳入力
(3) 期末又は締切後の仕訳入力のうち、摘要欄の説明が不十分な仕訳入力
(4) 未登録の勘定科目を用いて行われる仕訳入力
(5) 同じ数字が並ぶ数値を含んでいる仕訳入力(例えば、0000や9999)
・ 勘定の性質と複雑性
不適切な仕訳入力やその他の修正は、以下のような勘定に含まれる場合がある。
(1) 複雑な又は通例でない取引を含む勘定
(2) 重要な見積りと期末修正を含む勘定
(3) 過去において虚偽表示に利用された勘定
(4) 適時に調整されていない又は未調整の差異を含む勘定
(5) 内部取引を含む勘定
(6) その他、識別した不正による重要な虚偽表示リスクと関係する勘定
なお、複数の事業所又は構成単位がある企業では、複数の事業所又は構成単位からの仕訳入
力を抽出する必要性を検討する。
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監基報240
・ 非定型的な仕訳入力やその他の修正
非定型的な仕訳入力は、月次の販売、購買、支払といった経常的な取引を帳簿に記録する仕訳
と同じ内容と範囲の内部統制では対応できないことがある。
A42.監査人は、仕訳入力及びその他の修正に対する詳細テストの種類、時期及び範囲を、職業的専
門家としての判断に基づき決定する。しかし、不正な仕訳入力やその他の修正は、多くの場合、期
末に行われるため、第31項(1)②は期末時点で行われた仕訳入力やその他の修正を抽出するよう監
査人に要求している。さらに、財務諸表の不正による重要な虚偽表示や様々な隠蔽行為は年度を
通じて起こり得るため、第31項(1)③は監査対象期間を通じて仕訳入力やその他の修正を抽出する
必要性があるかどうかについて考慮するよう監査人に要求している。
《(6) 会計上の見積り》(第 31 項(2)参照)
A43.経営者は、財務諸表の作成に際して、重要な会計上の見積りに影響する多くの仮定又は判断を
行うこと及び継続して見積りの合理性を監視することに責任がある。不正な財務報告は、会計上
の見積りに関する意図的な虚偽表示によって行われることが多い。例えば、企業の業績と収益力
に関して財務諸表の利用者を欺く目的で、利益の平準化又は目標利益水準を達成するために、引
当金等が全て過少又は過大表示されることがある。
A44.過年度の財務諸表に反映された重要な会計上の見積りに関連する経営者の仮定及び判断に対す
る遡及的な検討を実施する目的は、経営者の偏向の可能性が示唆されているかどうかを判断する
ことであり、過年度において利用可能であった情報を基礎として行った監査人の職業的専門家と
しての判断を問題とするものではない。
A45.遡及的な検討は、監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」第13項においても要求されてい
る。遡及的な検討は、経営者の過年度の見積りの妥当性に関する情報、確定額についての監査証拠
又は該当する場合には当年度の重要な虚偽表示リスクの識別及び評価を裏付けるための事後的な
再見積額についての監査証拠、及び財務諸表に注記することが求められる見積りの不確実性のよ
うな事項についての監査証拠を入手するためのリスク評価手続として行う。実務上、本報告書に
記載される経営者の判断と仮定における不正による重要な虚偽表示リスクとなり得る偏向に対す
る監査人の検討は、監査基準報告書540により要求される事項と合わせて実施される。
《(7) 重要な取引の事業上の合理性》(第 31 項(3)参照)
A46.企業の通常の取引過程から外れた重要な取引、又は通例でないと判断される重要な取引が、不
正な財務報告を行うため又は資産の流用を隠蔽するために行われたことを示す兆候には、以下が
含まれる。
・ 取引の形態が非常に複雑である(例えば、連結グループ内における複数の企業間の取引、又は
通常は取引関係のない複数の第三者との取引)。
・ 経営者が、取引の内容や会計処理を取締役会又は監査役等と討議しておらず、十分に文書化
していない。
・ 経営者が、取引の経済実態よりも特定の会計処理の必要性を強調している。
・ 特別目的会社等を含む非連結の関連当事者との取引が、取締役会によって適切に検討され承
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認されていない。
・ 取引が、以前には識別されていなかった関連当事者、又は実体のない取引先や被監査会社か
らの支援なしには財務的資力がない取引先に関係している。
監基報240
《7.監査証拠の評価》(第 32-2 項から第 36 項参照)
A47.監査基準報告書330第24項に記載しているとおり、監査人は実施した監査手続及び入手した監
査証拠に基づいて、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関する評価が適切であるか
どうかを判断する必要がある。リスク評価が依然として適切であるかどうかは、監査人の職業的
専門家としての判断に基づき、主に質的な側面を検討することにより行われるが、これにより、監
査人は不正による重要な虚偽表示リスクについて理解を深め、追加的な又は異なる監査手続を実
施する必要性についての見解が得られることがある。付録3では、不正による重要な虚偽表示の
兆候を示す状況を例示している。
《(1) 財務諸表の全般的な結論を形成するための分析的手続》(第 33 項参照)
A48.どのような傾向や関係が不正による重要な虚偽表示リスクを示唆しているかを決定する際には、
監査人の職業的専門家としての判断を要する。特に、期末日前後の収益や利益を伴う通例でない
関係が該当する。例えば、期末日前の数週間に計上された、異常に多額な利益や通例でない取引、
又は営業活動によるキャッシュ・フローの傾向と矛盾する利益などである。
《(2) 識別した虚偽表示の検討》(第 34 項から第 36 項参照)
A49.不正は、不正を実行する「動機・プレッシャー」、「機会」、不正行為に対する「姿勢・正当化」
に関係しているので、不正が単発的に発生することはほとんどない。したがって、特定の事業所で
の多数の虚偽表示は、その累積的影響が重要でないとしても、不正による重要な虚偽表示リスク
を示唆することがある。
A50.識別した不正の影響はその状況によって決まる。例えば、他の場合には重要ではない不正であ
っても、上級経営者が関与している場合は重要となることがある。そのような状況においては、経
営者の陳述の網羅性と信頼性及び会計記録と証憑書類の真正性が疑わしくなるので、これまでに
入手した証拠の信頼性に疑義が生じることがある。また、従業員、経営者又は第三者による共謀の
可能性もある。
《不正による重要な虚偽表示の疑義》(第 F35-2 項から第 F35-4 項参照)
FA50-2.第32-2項に記載されているとおり、監査人は、不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況
(付録3参照)を識別した場合には、当該状況を考慮して、アサーション・レベルの不正による重
要な虚偽表示リスクに関する評価が依然として適切であるかどうかを判断することが求められる。
不正による重要な虚偽表示を示唆する状況(付録4参照)を識別した場合、当該判断は、第F35-2
項から第F35-4項の手続を実施することにより行われる。
第10項F(5)に記載のとおり、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況が識別された場合に
は、不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況が識別された場合に比し、不正による重要な虚
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偽表示が行われている可能性がより高いことから、懐疑心を高め、第F35-2項から第F35-4項の所
定の手続を行うことが不正リスク対応基準で求められている。
監基報240
《追加的な監査手続》(第 F35-2 項及び第 F35-3 項(2)参照)
FA50-3.実施する追加的な監査手続の種類、時期及び範囲は、その状況に応じた監査人の職業的専門
家としての判断事項である。例えば、監査人は、追加的な監査手続を実施した結果、入手した監査
証拠に基づき経営者に質問し説明の合理性を確かめることもあれば、経営者に質問し説明を求め
た結果、当該説明の合理性を確かめるため、必要と判断した追加的な監査手続を実施することも
ある。また、当初のリスク評価の基礎となった情報と大きく乖離する情報に気付いた場合、当初の
リスク評価を修正した上で、追加的な監査手続を実施することもある。
《監査及び監査報告に及ぼす影響の評価》
A51.監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」及び監査基準報告書700「財務諸
表に対する意見の形成と監査報告」では、虚偽表示の評価と対処及び監査報告書における監査意
見への影響について要求事項を定め、指針を提供している。
《7-2.専門家の業務の利用》(第 F36-2 項参照)
FA51-2.監査基準報告書620第6項では、監査人に、十分かつ適切な監査証拠を入手するために会計
又は監査以外の分野の専門知識が必要な場合、専門家の業務を利用するかどうか判断することを
求めている。監査人は、以下の監査の局面において、不正による重要な虚偽表示リスクに関連し
て、監査人が専門家の業務を利用することが必要と判断することがある。
・ 不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価
・ 評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する全般的な対応の
決定と実施
・ 評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応するリスク対応手
続の立案と実施
・ 入手した不正による重要な虚偽表示リスクに関連した監査証拠の十分性と適切性の評価
FA51-3.不正による重要な虚偽表示リスクの内容や程度に応じて、どのような分野の専門知識が必
要かを検討することとなるが、不正リスクに関連する会計又は監査以外での専門知識には、以下
のような事項を含むことがある。
・ 資産及び負債の評価
- 複雑な金融商品
- 企業結合において受け入れた資産及び引き受けた負債
・ 不正調査
・ ITを利用した複雑な情報システム
専門家の利用方法としては、例えば、以下が考えられる。
・ 第14項で要求されている、不正による重要な虚偽表示がどこにどのように行われる可能性が
あるのかについて特に重点を置いた、監査チーム内での討議に参加し助言を行う。
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監基報240
・ 不正による重要な虚偽表示を識別するための情報を入手するために第16項から第18項で要求
されている、経営者及びその他の企業構成員への質問に同席し、監査チームによる質問を支援
するか、又は専門家自ら、経営者に対して質問を行う。
・ 第26項で要求されている不正による重要な虚偽表示リスクに関連する内部統制の理解を行う
際の、内部統制のデザインと業務への適用の評価を支援する、又は専門家自ら実施する。
・ 第28項(3)で要求されている評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスク
に応じた全般的な対応を決定する際に、企業が想定しない要素の組込みについて、具体的に組
み込む要素に関する助言を行う。
・ 第29項で要求されている評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスク
に応じたリスク対応手続の立案について、不正による重要な虚偽表示リスクに直接対応した内
部統制の運用評価手続及び実証手続の立案に関する助言を行う。
・ 第31項(1)で要求されている経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続として
仕訳入力及び修正の適切性の検証のための手続について、立案の助言及び実施を支援する。例
えば、詳細テストの実施対象とする仕訳入力及びその他の修正の抽出に関する助言や、CAATを
用いた手続の実施を支援する。
・ 不正による重要な虚偽表示リスクに応じたリスク対応手続を専門家自ら実施する、又は、他
の監査チームメンバーが作成した監査調書を査閲する。
・ 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況を識別した場合、不正による重要な虚偽表示か
どうかを決定するために必要な監査手続の種類、時期及び範囲の立案に関する助言を行う。ま
た、監査手続の実施及び入手した監査証拠の評価を支援する。
《8.監査契約の継続の検討》(第 37 項参照)
A52.監査契約の継続が問題とされるような例外的状況の例には、以下の事項を含む。
(1) 不正が財務諸表にとって重要でない場合でも、その状況において監査人が必要と考える不正
に関する適切な行動を企業がとらないこと。
(2) 不正による重要な虚偽表示リスクに関する監査人の検討と監査を実施した結果が、重要かつ
広範な不正による特別な検討を必要とするリスクを示していること。
(3) 監査人が経営者又は監査役等の能力又は誠実性に関して重大な懸念を抱いていること。
A53.監査契約の解除は様々な状況で起こるため、これらを限定的に列挙するのは不可能である。監
査人の判断に影響する要因には、経営者の不正への関与(経営者の陳述の信頼性に影響する。)や
その企業に継続的に関与することへの影響が含まれる。
A54.監査人は、監査契約の継続や規制当局への報告が問題となるような状況においては、適切な法
律専門家に助言を求めることが有益である。
《9.経営者確認書》(第 38 項及び第 F38-2 項参照)
A55.監査基準報告書580「経営者確認書」では、監査において適切な経営者確認書を入手することに
ついて要求事項を定め、指針を提供している。経営者確認書において、経営者が適正な財務諸表を
作成する責任を果たしたことに加えて、企業の規模にかかわらず、経営者には不正を防止し発見
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監基報240
する内部統制を整備及び運用する責任があることを経営者が承知していることが重要である。
A56.不正の特性や、不正による重要な虚偽表示を発見することの困難さから、以下について経営者
が監査人に示したことを確認する書面又は電磁的記録を、監査人が経営者から入手することは重
要である。
(1) 不正による財務諸表の重要な虚偽表示の可能性に対する経営者の評価結果
(2) 企業に影響を及ぼす不正、不正の疑い又は不正の申立てに関する情報
FA56-2.監査人は、経営者の判断若しくは意思又はその他の事項等について、質問等の他の監査証拠
から得た理解を裏付けるために、経営者から書面又は電磁的記録による陳述を入手することが必
要と判断することがある(監査基準報告書500「監査証拠」のA25項並びに監基報580のA9項、A11項
及びA12項参照)。
監査人が、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合に経営者確認書における確
認の要請を検討する内容は、状況に応じて異なるが、例えば、以下の事項がある。
・ 経営者が当該疑義に関連していると認識している全ての情報を監査人に提供した旨
・ 当該疑義に関連した不正による重要な虚偽表示はないと経営者が判断している場合は、その
旨及びその根拠
FA56-3.監査人は、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別したが、当該状況を不正による
重要な虚偽表示の疑義に該当しないと判断した場合においても、当該状況に関連する経営者の陳
述を経営者確認書に含めることを要請することが適切と判断する場合もある。
《10.経営者及び監査役等とのコミュニケーション》(第 39 項から第 41 項参照)
A56-4.国によっては、法令等により、監査人が一定の事項について経営者やガバナンスに責任を有
する者にコミュニケーションを行うことが制限されている場合がある。法令等により、違法行為
又はその疑いのある行為について、企業に注意喚起することを含め、適切な規制当局による調査
を害するおそれのあるコミュニケーションやその他の行為を明確に禁止していることがある。例
えば、マネー・ローンダリングに関する法令に従って、監査人が適切な規制当局に不正を報告する
ことが求められている場合がある。このような状況では、監査人が検討する事項は複雑であり、監
査人が法律専門家に助言を求めることが適切と考えることがある。
《(1) 経営者とのコミュニケーション》(第 39 項参照)
A57.監査人は、不正が存在又は存在するかもしれない証拠を入手した場合は、速やかに、適切な階
層の経営者に注意を喚起することが重要である。これは、例え些細な事項(例えば、従業員による
少額の使込み)であっても同様である。どの階層の経営者が適切かの決定は、職業的専門家として
の判断事項であり、共謀の可能性、不正の内容や影響の度合い等を考慮する。通常、適切な階層の
経営者は、当該不正に関与していると思われる者の上位者(少なくとも一つ上位の職階の者)であ
る。
FA57-2.監査人は、付録4に記載されている不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別した
場合、第F35-2項に基づき経営者に質問し説明を求めることになる。
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《(2) 監査役等とのコミュニケーション》(第 40 項参照)
A58.監査役等とのコミュニケーションは、口頭、書面又は電磁的記録により行われる。監査基準報
告書260のA47項はコミュニケーションを口頭で行うか書面又は電磁的記録で行うかの決定に当た
って考慮する事項を示している。監査人は、経営者が関与する不正又は財務諸表の重要な虚偽表
示となった不正の場合、その内容や影響の度合い等により、適時に報告するとともに、文書によっ
ても報告する必要があるかどうかを検討することがある。なお、監査人は、不正を識別した場合、
法令等の規定により、監査役等に対し報告する責任がある場合があることに留意する。
A59.重要な虚偽表示とはならない従業員による不正に気付いた場合に、監査役等に伝達することが
適切であることを考慮することがある。同様に、監査役等がこのような状況を知ることを希望す
る場合もある。このような場合のコミュニケーションの方法と範囲について、監査役等との監査
の初期段階で協議しておくことは、コミュニケーションの充実に資することになる。
A60.監査人が、経営者、取締役又は監査役等の信頼性や誠実性に疑念を持つような例外的な状況に
おいては、適切に対応するため、法律専門家に助言を求めることを検討する場合がある。
《(3) 不正に関連するその他の事項》(第 41 項参照)
A61.監査役等と協議する不正に関連するその他の事項には、例えば、以下の事項が含まれる。
・ 不正を防止し発見するために構築された内部統制と財務諸表の虚偽表示の可能性に対する経
営者の評価の手続、その範囲及び頻度についての懸念事項
・ 識別した内部統制の重要な不備及び識別した不正に対する経営者の不適切な対応
・ 経営者の能力と誠実性に関する問題を含む、企業の統制環境に関する監査人の評価
・ 不正な財務報告を示唆する経営者の行動(例えば、企業の業績や収益力について財務諸表の
利用者を欺くための利益調整が行われたことを示唆することがある会計方針の選択及び適用)
・ 企業の通常の取引過程から外れている可能性のある取引の承認に関する適切性又は網羅性に
関する懸念事項
《11.適切な規制当局への不正の報告》(第 42 項参照)
A62.監査基準報告書250では、監査人の守秘義務の検討を含め、一定の状況において、違法行為又は
その疑いを適切な規制当局に報告することが求められているかどうか、又は適切であるかどうか
に関する監査人の判断についての詳細な指針が記載されている(監基報250のA27項からA32項参
照)。
A63.第42項で要求される判断には、複雑な検討事項や職業的専門家としての判断を含むことがある。
したがって、監査人が監査事務所内やネットワーク・ファーム内で協議することを検討すること
がある。監査人は、どのような追加的な対応を取り得るか及び特定の対応を講じることによる職
業的又は法的影響を理解するために法律専門家に助言を求めることを検討することもある。
《Ⅳ 適用》
・ 本報告書(2011年12月22日)は、2012年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以
後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。
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監基報240
・ 本報告書(2013年6月17日)は、2014年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用す
る。
・ 本報告書(2015年5月29日)は、2015年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以
後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。
・ 本報告書(2018年10月19日)は、2019年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以
後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。
・ 本報告書(2019年6月12日)は、2020年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以
後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。ただし、2019年4月1日以後開始する
事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から早期適用すること
ができる。
・ 本報告書(2021年1月14日)は、2023年3月31日以後終了する事業年度に係る財務諸表の監査
及び2022年9月に終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実施する。ただし、
それ以前の決算に係る財務諸表の監査及び中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実
施することを妨げない。
・ 本報告書(2021年6月8日)は、2023年3月31日以後終了する事業年度に係る財務諸表の監査
及び2022年9月に終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実施する。ただし、
それ以前の決算に係る財務諸表の監査及び中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実
施することを妨げない。
・ 本報告書(2021年8月19日)は、2021年9月1日から適用する。
・ 本報告書(2022年10月13日)のうち、倫理規則に関する事項は、2023年4月1日以後開始する
事業年度に係る財務諸表の監査から適用する。ただし、本報告書を、倫理規則(2022年7月25日
変更)と併せて2023年4月1日以後終了する事業年度に係る財務諸表の監査から早期適用する
ことを妨げない。
・ 本報告書(2023年1月12日)は、2024年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査
及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する。また、公認
会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する事
業年度に係る財務諸表の監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監
査から適用する。ただし、それ以前の決算に係る財務諸表の監査及び中間会計期間に係る中間
財務諸表の中間監査から適用することを妨げない。その場合、品質管理基準委員会報告書第1
号「監査事務所における品質管理」(2022年6月16日)、品質管理基準委員会報告書第2号「監査
業務に係る審査」(2022年6月16日)及び監査基準委員会報告書220「監査業務における品質管
理」(2022年6月16日)と同時に適用する。なお、本報告書(2022年10月13日及び2023年1月12
日)のうち、倫理規則に関する事項は、2023年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の
監査から適用する。ただし、本報告書を、倫理規則(2022年7月25日変更)と併せて2023年4月
1日以後終了する事業年度に係る財務諸表の監査から早期適用することを妨げない。
以 上
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監基報240
・ 本報告書(2022年10月13日改正)は、次の公表物の公表に伴う修正を反映している。
- 倫理規則(2022年7月25日変更)
(修正箇所:第8-2項及びA5-3項)
- 監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」(2022年7月
21日改正)
(上記以外の修正箇所)
・ 本報告書(2023 年1月 12 日改正)は、次の公表物の公表に伴う修正を反映している。
- 倫理規則(2022 年7月 25 日変更)
(修正箇所:第 8-2 項及び A5-3 項)
- 監査基準報告書 600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023 年1月 12 日改正)
(修正箇所:A5-3項)
・ 本報告書(2024年9月26日改正)は、次の公表物の公表に伴う修正を反映している。
- 企業会計審議会「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂に係る意見書」(2024年
3月27日公表)
(修正箇所:A20 項)
- 監査基準報告書 260「監査役等とのコミュニケーション」(2024 年9月 26 日改正)
(上記以外の修正箇所)
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《付録1 不正リスク要因の例示》(A23 項参照)
本付録では、様々な状況において監査人が直面する典型的な不正リスク要因について例示して
いる。例示に当たっては、まず監査に関連する二種類の不正、すなわち、不正な財務報告と資産の
流用に分類し、さらに、それぞれについて不正による重要な虚偽表示が行われる場合に通常みら
監基報240
れる次の三つの状況に分類している。
(1) 動機・プレッシャー
(2) 機会
(3) 姿勢・正当化
これらの不正リスク要因は、広範囲に及んでいるが例示にすぎないため、別の不正リスク要因
が存在する場合がある。また、本付録での例示があらゆる状況に適合しているとは限らず、企業の
規模、複雑性、所有形態、業種又は状況によって、重要度は異なるものとなる。なお、本付録の不
正リスク要因は、重要度や発生の頻度順に例示しているわけではない。
不正リスク要因は、関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、虚偽表示の生じやすさ(す
なわち、固有リスク)を作り出す状況に起因する動機やプレッシャー又は機会に関係する場合が
ある。意図的な経営者の偏向を含む不正リスク要因は、それらが固有リスクに影響を及ぼす場合
には、固有リスク要因となる。
機会に関係する不正リスク要因は、他の識別された固有リスク要因からも生じる場合があり(例
えば、複雑性や不確実性は、結果として不正による虚偽表示の生じやすさにつながる機会を作り
出す可能性がある。)、また、そのような機会を作り出す内部統制の限界や不備といった企業の内
部統制システムの状況にも関係する場合もある。
姿勢や正当化に関係する不正リスク要因は、特に企業の統制環境の限界や不備から生じる場合
がある。
《1.不正な財務報告による虚偽表示に関する要因》
不正な財務報告による虚偽表示に関する要因の例は、次のとおりである。
《(1) 動機・プレッシャー》
1.財務的安定性又は収益性が、次のような一般的経済状況、企業の属する産業又は企業の事業環境
により脅かされている。
・ 利益の減少を招くような過度の競争がある、又は市場が飽和状態にある。
・ 技術革新、製品陳腐化、利子率等の急激な変化・変動に十分に対応できない。
・ 顧客の需要が著しく減少している、又は企業の属する産業若しくは経済全体における経営破
綻が増加している。
・ 経営破綻、担保権の実行又は敵対的買収を招く原因となる営業損失が存在する。
・ 利益が計上されている又は利益が増加しているにもかかわらず営業活動によるキャッシュ・
フローが経常的にマイナスとなっている、又は営業活動からキャッシュ・フローを生み出すこ
とができない。
・ 同業他社と比較した場合、急激な成長又は異常な高収益がみられる。
- 31 -
監基報240
・ 新たな会計基準、法令又は規制の導入がある。
2.経営者が、次のような第三者からの期待又は要求に応えなければならない過大なプレッシャー
を受けている。
・ 経営者の非常に楽観的なプレス・リリースなどにより、証券アナリスト、投資家、大口債権者
又はその他外部者が企業の収益力や継続的な成長について過度の又は非現実的な期待をもって
いる。
・ 主要な研究開発や資本的支出のために行う資金調達など、競争力を維持するために追加借入
やエクイティ・ファイナンスを必要としている。
・ 取引所の上場基準、債務の返済条件又はその他借入に係る財務制限条項に抵触し得る状況に
ある。
・ 業績の低迷が不利な結果をもたらすような企業結合や重要な契約などの未実行の重要な取引
がある。
3.企業の業績が、次のような関係や取引によって、経営者、取締役、又は監査役等の個人財産に悪
影響を及ぼす可能性がある。
・ 経営者、非業務執行取締役又は監査役等が企業と重要な経済的利害関係を有している。
・ 経営者等の報酬の大部分が、株価、経営成績、財政状態又はキャッシュ・フローに関する目標
の達成に左右される賞与やストック・オプションなどで構成されている(なお、このようなイン
センティブ・プランは、これに関係する勘定残高や取引が財務諸表にとっては重要でなくても、
特定の勘定残高や取引に関係する目標の達成に左右されることがある。)。
・ 企業の債務を個人的に保証している。
4.経営者(子会社の経営者を含む。)、営業担当者、その他の従業員等が、取締役会等が掲げた売上
や収益性等の財務目標(上長から示されたもの等を含む。)を達成するために、過大なプレッシャ
ーを受けている。
《(2) 機会》
1.企業が属する産業や企業の事業特性が、次のような要因により不正な財務報告にかかわる機会
をもたらしている。
・ 通常の取引過程から外れた重要な関連当事者との取引、又は監査を受けていない若しくは他
の監査人が監査する重要な関連当事者との取引が存在する。
・ 仕入先や得意先等に不適切な条件を強制できるような財務上の強大な影響力を有している。
・ 主観的な判断や立証が困難な不確実性を伴う重要な会計上の見積りがある。
・ 重要かつ通例でない取引、又は極めて複雑な取引、特に困難な実質的判断を行わなければな
らない期末日近くの取引が存在する。
・ 事業環境や文化の異なる国又は地域で重要な事業が実施されている。
・ 明確な事業上の合理性があるとは考えられない、仲介手段を利用している又は特別目的会社
を組成している。
・ 租税回避地域において、明確な事業上の合理性があるとは考えられない巨額の銀行口座が存
在する、又は子会社若しくは支店を運営している。
- 32 -
監基報240
・ 業界の慣行として、契約書に署名若しくは記名押印又は電子署名がなされない段階で取引を
開始する、正式な書面又は電磁的記録による受発注が行われる前に担当者間の口頭による交渉
で取引を開始・変更する等、相手先との間で正当な取引等の開始・変更であることを示す文書が
取り交わされることなく取引が行われ得る。
2.経営者の監視が、次のような状況により有効でなくなっている。
・ 経営が一人又は少数の者により支配され統制がない。
・ 財務報告プロセスと内部統制に対する取締役会及び監査役等による監視が有効ではない。
3.組織構造が、次のような状況により複雑又は不安定となっている。
・ 企業を支配している組織等の識別が困難である。
・ 異例な法的実体又は権限系統となっているなど、極めて複雑な組織構造である。
・ 経営者又は監査役等若しくは非業務執行取締役が頻繁に交代している。
4.内部統制が、次のような要因により不備を有している。
・ 内部統制システム(ITにより自動化された内部統制を含む。)に対して監視プロセスが十分
に機能していない。
・ 従業員の転出入率が高くなっている、又は十分な能力を持たない経理、内部監査若しくはI
Tの担当者を採用している。
・ 会計システムや情報システムが有効に機能していない。
《(3) 姿勢・正当化》
・ 経営者が、経営理念や企業倫理の伝達・実践を効果的に行っていない、又は不適切な経営理念
や企業倫理が伝達されている。
・ 財務・経理担当以外の経営者が会計方針の選択又は重要な見積りの決定に過度に介入してい
る。
・ 過去において法令等に関する違反があった、又は不正や法令等に関する違反により企業、経
営者若しくは監査役会等が損害賠償請求を受けた事実がある。
・ 経営者が株価や利益傾向を維持すること、又は増大させることに過剰な関心を示している。
・ 経営者が投資家、債権者その他の第三者に積極的又は非現実的な業績の達成を確約している。
・ 経営者が内部統制における重要な不備を発見しても適時に是正しない。
・ 経営者が不当に税金を最小限とすることに関心がある。
・ 経営者のモラルが低い。
・ オーナー経営者が個人の取引と企業の取引を混同している。
・ 非公開企業において株主間紛争が存在する。
・ 経営者が重要性のないことを根拠に不適切な会計処理を頻繁に正当化する。
・ 経営者と現任又は前任の監査人との間に次のような緊張関係がある。
- 会計、監査又は報告に関する事項について、経営者と現任又は前任の監査人とが頻繁に論
争している又は論争していた。
- 監査の終了又は監査報告書の発行に関して極端な時間的制約を課すなど、監査人への不合
理な要求を行っている。
- 33 -
監基報240
- 監査上必要な資料や情報の提供を著しく遅延する又は提供しない。
- 監査人に対して、従業員等から情報を得ること又は監査役等とコミュニケーションを行う
ことを不当に制限しようとしている。又は、監査人が必要と判断した仕入先や得意先等と接
することを不当に制限しようとしている。
- 経営者が、監査業務の範囲若しくは監査チームメンバーの配置等に影響を与える、又は監
査人に対して高圧的な態度をとる。
《2.資産の流用による虚偽表示に関する要因》
資産の流用による虚偽表示に関する要因の例は、次のとおりである。なお、資産の流用による虚
偽表示の場合にも、不正な財務報告による虚偽表示に関する要因が存在する場合があることに留
意する。例えば、資産の流用による虚偽表示が存在するときにも、経営者の監視が不十分であるこ
とや、内部統制が不備を有していることがある。
《(1) 動機・プレッシャー》
1.現金等の窃盗されやすい資産を取り扱う従業員が、会社と次のような対立関係になっている。
・ 従業員の解雇が公表された、又は予想される。
・ 従業員給与等の変更が行われた、又は予想される。
・ 昇進や報酬等が従業員の期待に反している。
2.経営者や従業員に個人的な債務があり、現金等の窃盗されやすい資産を流用するプレッシャー
となっている。
《(2) 機会》
1.資産の特性や状況が、次のような要因により資産を流用する機会をもたらしている。
・ 手許現金又は現金の取扱高が多額である。
・ 棚卸資産が小型、高価又は需要が多いものである。
・ 無記名債券又は貴金属のような容易に換金可能な資産である。
・ 小型で市場性が高い固定資産又は所有権の明示されていない固定資産である。
2.資産に対する内部統制が、次のような要因により不備となっている。
・ 職務の分離又は牽制が不十分である。
・ 経営者の旅費やその他の支出とその精算に対する監視が不十分である。
・ 資産を管理する従業員に対して経営者による監視活動が不十分である(特に遠方にある事業所)。
・ 流用されやすい資産を取り扱う従業員の採用手続が不適切である。
・ 資産に関する帳簿記録が不十分である。
・ 取引(例えば、購買取引)に関する権限と承認手続が不適切である。
・ 現金、有価証券、棚卸資産又は固定資産に関する資産保全手続が不適切である。
・ 資産について網羅的かつ適時な調整が行われていない。
・ 取引(例えば、商品の返品取引)について適時かつ適切な記帳が行われていない。
・ 内部統制において重要な役割を担っている従業員に強制休暇を取得させていない。
- 34 -
・ ITに関する経営者の理解が不十分なため、ITの不正操作による資産の流用が可能となっ
ている。
・ 自動化された記録に対するアクセス・コントロールが不十分である(コンピュータ・システム
のログに関するアクセス・コントロールと査閲を含む。)。
監基報240
《(3) 姿勢・正当化》
・ 資産の流用に関するリスクを考慮した監視活動を行っていない、又は当該リスクを低減する
措置をとっていない。
・ 資産の流用に関する内部統制を無効化する、又は内部統制の不備を是正しない。
・ 従業員の処遇や企業に対する不満が存在する。
・ 行動や生活様式に資産の流用を示す変化が見られる。
・ 少額な窃盗を容認している。
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監基報240
《付録2 不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続の例示》(A38 項参照)
本付録では、不正な財務報告と資産の流用に関係する不正による重要な虚偽表示に関するリス
ク対応手続について例示している。これらのリスク対応手続は、広範囲に及んでいるが例示にす
ぎないため、状況によっては最も適切な又は必要となる手続とは限らない。また、本付録のリスク
対応手続は、重要度の順に例示しているわけではない。
《1.アサーション・レベルにおける検討事項》
不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続は、不正リスク要因の種類や組合せ、又は
識別した状況、並びにこれらが影響する取引種類、勘定残高及び注記事項並びにアサーションに
よって異なる。
リスク対応手続の例は、次のとおりである。
・ 予告なしに事業所を往査するか、又は特定の監査手続を実施する。例えば、前もって監査人が
参加することが伝えられていない事業所の実地棚卸立会を実施する、又は抜打ちで現金を実査
する。
・ 棚卸資産の実地棚卸完了日と期末日との間に残高の操作が行われないようにするため、期末
日又は期末日近くに棚卸をするよう企業に依頼する。
・ 主要な得意先及び仕入先に対して確認状を送付するとともに、直接連絡をとることにより多
角的な情報を得る。
・ 期末の修正仕訳を詳細に検討し、取引内容や金額について通例でないと思われる全ての仕訳
を調査する。
・ 重要かつ通例でない取引、特に期末日又は期末日近くに発生する取引について、関連当事者
との取引の可能性や資金移動の裏付けを調査する。
・ 各種データを使用して分析的実証手続を実施する。例えば、売上高と売上原価について地域
別、事業セグメント別又は月別に、監査人が算出した推定値と比較する。
・ 不正による重要な虚偽表示リスクを識別した部門の担当者に対して、不正リスクに関する見
解と対応について質問する。
・ 他の監査人が子会社等の財務諸表を監査している場合には、関連当事者との取引等から生じ
る不正による重要な虚偽表示リスクに対応するため、実施すべき監査業務の範囲を当該他の監
査人と討議する。
・ 不正による重要な虚偽表示が行われる可能性が高い財務諸表項目について、専門家が行った
業務が特に重要である場合には、当該専門家による仮定、方法又は結果に関して追加手続を実
施し、その結果が非合理的ではないことを確認する。確認できなかった場合は、他の専門家への
依頼を検討する。
・ 会計上の見積りや判断を伴う項目、例えば、引当金がその後どのように取り崩されたかを評
価するために、当年度の開始残高からの変動を分析する。
・ 期中に実施された調整の検討を含め、企業が作成した勘定残高の調整表等の調整事項につい
て調査する。
・ CAATを用いて手続を実施する。例えば、データマイニングにより母集団から異常取引を抽出
- 36 -
する。
・ コンピュータ処理された記録や取引の信頼性を検証する。
・ 外部証拠を追加して収集する。
監基報240
《2.不正な財務報告による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続》
不正な財務報告による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続の例は、次のとおりである。
《(1) 収益認識》
・ 各種データを利用して、収益に関する分析的実証手続を実施する。例えば、月別及び製品別又
は事業セグメント別に、当年度の収益を前年度の収益と比較する。CAATは、通例でない又は予期
せぬ収益間の関係や取引の識別に有用な場合がある。
・ 会計処理は特定の条件又は契約により影響を受けるが、これらの事項、例えば、リベートに関
する算定基礎や算定期間が十分に明記されていないことが多いため、契約条件及び付帯契約が
ないことを取引先に確認する。検収条件、引渡条件、支払条件、製品の返品権、保証された再販
金額、解約条項又は払戻条項がある場合には、このような状況が当てはまる。
・ 販売担当者、マーケティング担当者又は法務部門担当者に、期末日近くの売上と出荷、及びこ
れらの取引に関連する通例でない条件や状況について質問する。
・ 期末日に複数の事業所を往査し、出荷準備が完了した若しくは返品処理待ちの商品を観察す
る、又は売上や棚卸資産のカットオフ手続を実施する。
・ 収益に関する取引がコンピュータ処理されている場合には、計上された収益に関する取引の
発生と記録に関する内部統制の有効性を検討する。
《(2) 棚卸数量》
・ 実地棚卸手続において特に留意すべき事業所や品目を識別するため、在庫記録を査閲する。
・ 特定の事業所の実地棚卸に予告なしに立ち会う、又は各事業所で一斉に現物のカウントを実
施する。
・ 実地棚卸完了日と期末日との間に残高の操作が行われないようにするため、期末日又は期末
日近くに棚卸を実施するよう企業に依頼する。
・ 実地棚卸立会中に追加手続を実施する。例えば、箱詰された品目の内容、商品の積み方又はラ
ベルの添付方法、及び香料や特殊な化学物質のような液体物質の品質(純度、等級、濃度等)に
ついて、より厳密に調査する。専門家の業務を利用することは、このような場合に有用である場
合がある。
・ 棚卸資産の種類や区分、所在場所又は他の分類基準ごとに当年度の数量を前年度の数量と、
又は実際在高を継続記録と比較する。
・ 実地棚卸の結果を検証するために、CAATを利用する(例えば、タグ・コントロールを検証する
ために棚札番号順に並べる、又は品目の脱落や重複の可能性を検証するために項目番号順に並
べる。)。
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監基報240
《(3) 経営者の見積り》
・ 経営者から独立した専門家に依頼し、経営者の見積りと比較する。
・ 見積りの前提となる事業計画を遂行する経営者の能力と意図を裏付けるため、経営者や経理
部門以外の者にまで質問対象を広げる。
《3.資産の流用による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続》
資産の流用による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続は、通常、特定の勘定残高や取引に
対して行われる。状況によって、上記の1又は2に記載した対応を適用することも可能であるが、
その範囲は、資産の流用に関係する不正による重要な虚偽表示リスクに関して得た情報を考慮し
決定する必要がある。
資産の流用による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続の例は、次のとおりである。
・ 期末日又は期末日近くにおいて現金や有価証券を実査する。
・ 得意先に直接、監査対象期間の取引活動(マイナスの請求書の発行金額、売上返品及び支払
日)について確認する。
・ 償却済み債権の回収分析を行う。
・ 保管場所別又は製品種類別に、棚卸資産の減耗について分析を行う。
・ 主要な棚卸資産比率について業界平均と比較する。
・ 棚卸資産の差異に関する分析資料を検討する。
・ 仕入先リストと従業員リストをCAATにより照合し、住所や電話番号が一致していないかどう
かを確かめる。
・ 給与支払記録をCAATにより調査し、住所、従業員番号又は銀行口座の重複がないかどうかを
確かめる。
・ 業績評価がないなど実在性の疑われる従業員がいないかどうかについて人事記録を調査する。
・ 異常な売上値引や返品について分析する。
・ 第三者との特殊な契約条件を確認する。
・ 契約が約定どおり履行されていることを確かめる。
・ 多額で通例でない費用について妥当性を検討する。
・ 経営者とその関係者への貸付に関する承認や帳簿残高を検討する。
・ 経営者から提出された経費報告書の妥当性を検討する。
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監基報240
《付録3 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況の例示》(A47 項参照)
不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況の例は、次のとおりである。監査人は、不正による重
要な虚偽表示の兆候を示す状況を識別した場合には、当該状況を考慮してアサーション・レベルの
不正による重要な虚偽表示リスクに関する評価の適切性を判断することが求められている。
《(1) 会計記録の矛盾》
・ 網羅的若しくは適時に記録されていない取引、又は金額、会計期間、分類等が適切に記録され
ていない取引が存在する。
・ (根拠資料等による)裏付けのない又は未承認の取引や勘定残高が存在する。
・ 期末日近くに経営成績に重要な影響を与える通例でない修正が行われている。
・ 従業員が、業務の遂行上必要のないシステム又は記録にアクセスした証拠が存在する。
・ 監査人に、不正の可能性について従業員や取引先等からの通報がある(監査事務所の通報窓
口を含む。)。
・ 社内通報制度を通じて企業に寄せられ、監査人に開示された情報に、財務諸表に重要な影響
を及ぼすと考えられる情報が存在している。
《(2) 証拠の矛盾又は紛失》
・ 証拠となる文書を紛失している。
・ 変造又は偽造されたおそれのある文書が存在する。
・ 合理的な理由なく、重要な文書を入手できない(原本が存在すると考えられるにもかかわら
ず、重要な文書の写し、電子化された文書又はドラフトのみしか入手できない場合を含む。)。
・ 勘定残高の通例でない変動や趨勢の変化、又は売上の増加を上回る売上債権の増加といった
重要な財務比率や相関関係の変動がみられる。
・ 質問や分析的手続の結果、経営者や従業員から入手した回答に矛盾が生じている、又は説明
が曖昧であったり、信憑性が疑われる。
・ 企業の記録と確認状の回答に説明のつかない重要な差異がある。
・ 重要な記録等に矛盾する点が存在する。
・ 特定の取引先に対する確認状が、合理的な理由なく監査人に直接返送されないという事態が
繰り返される。
・ 売上債権勘定に多額の貸方記帳その他の修正がある。
・ 売上債権勘定の補助簿と統制勘定又は顧客向け報告書との差異に関して十分な説明がない。
・ 重要な取引に関連する証憑(注文書、請求書、顧客向け報告書等)、又は会計帳簿や記録(総
勘定元帳・補助元帳・勘定明細等)において、本来一致すべき数値が不一致でその合理的な説明
がない。
・ 多数の棚卸資産又は有形資産を紛失している。
・ 企業の記録保存に関する手続に従っていないため、利用不可能な又は消失した電子的証憑が
ある。
・ 確認の回答件数が予想と大きく乖離している。
- 39 -
・ 重要なシステム開発やプログラム変更テスト、又は当年度のシステム変更やプログラムの設
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置に関する証拠が入手できない。
《(3) 経営者の監査への対応》
・ 合理的な理由がないにもかかわらず、監査人が、記録、施設、特定の従業員、得意先、仕入先、
又は監査証拠を入手できるその他の者と接することを企業が拒否する、妨げる、又は変更を主
張する。
・ 合理的な理由がないにもかかわらず、企業が確認依頼の宛先の変更や特定の相手先に対する
確認の見合せを主張したり、他の確認先に比べて著しく準備に時間がかかる残高確認先がある。
・ 複雑な又は問題のある事項の解決について経営者が不当な時間的プレッシャーを加える。
・ 監査の実施に関する経営者の不満が存在する、又は監査証拠に対する監査人の批判的評価や
経営者との潜在的な意見の相違などに関して、経営者が監査チームメンバーに不当なプレッシ
ャーを与える。
・ 監査上必要な情報の提供を著しく遅延する。
・ 監査人がCAATを用いてテストを行う際に、重要な電子的ファイルへのアクセスを制限する。
・ セキュリティ、運営及びシステム開発の担当者を含む重要なIT担当者と接することや設備
へ立ち入ることを拒否する。
・ 重要な投資先や取引先、又は重要な資産の保管先に関する十分な情報が監査人に提供されない。
・ 財務諸表をより完全で理解しやすいものとするための注記の追加や修正に消極的である。
・ 識別された内部統制の不備に対して適時に対処することに消極的である。
《(4) 留意すべき通例でない取引等》
1.不適切な売上計上の可能性を示唆する状況
・ 企業の通常の取引過程から外れた重要な取引又はその他企業及び当該企業が属する産業を取
り巻く環境に対する監査人の理解に照らして通例ではない重要な取引のうち、企業が関与する
事業上の合理性が不明瞭な取引が存在する。
2.資金還流取引等のオフバランス取引の可能性を示唆する状況
・ 企業の事業内容に直接関係のない又は事業上の合理性が不明瞭な重要な資産の取得、企業の
買収、出資、費用の計上が行われている。
3.その他
・ 関連当事者又は企業との関係が不明な相手先(個人を含む。)との間に、事業上の合理性が不
明瞭な重要な資金の貸付・借入契約、担保提供又は債務保証・被保証の契約がある。
《(5) その他》
・ 監査人が取締役又は監査役等と接することに経営者が消極的である。
・ 企業が属する産業における一般的な会計方針とは異なる会計方針を採用しようとしている。
・ 経営環境の変化がないにもかかわらず、会計上の見積りを頻繁に変更する。
・ 企業が合理的な理由がなく重要な会計方針を変更しようとしている。
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・ 従業員による企業の行動規範に対する違反について寛容である。
・ 企業が、財務諸表に重要な影響を及ぼす取引に関して、明らかに専門家としての能力又は客
観性に疑念のあると考えられる専門家を利用している。
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《F 付録4 不正による重要な虚偽表示を示唆する状況の例示》(第 F35-2 項参照)
不正リスク対応基準が適用される監査の場合、監査実施の過程において、下記に例示された不
正による重要な虚偽表示を示唆する状況が識別された場合には、不正による重要な虚偽表示の疑
義が存在していないかどうかを判断するために、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的
な監査手続を実施することが求められる。なお、これらの手続を実施することにより、第32-2項に
記載されている、アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに関する評価が依然
として適切であるかどうかの判断を行うことになる。
不正による重要な虚偽表示を示唆する状況は、以下に例を示しているが、当該付録は、不正によ
る重要な虚偽表示を示唆する状況を網羅的に示したものではない。
1.不正に関する情報
・ 社内通報制度を通じて企業に寄せられ、監査人に開示された情報に、財務諸表に重要な影響
を及ぼすと考えられる情報が存在している。
・ 監査人に、不正の可能性について従業員や取引先等からの通報がある(監査事務所の通報窓
口を含む。)。
2.留意すべき通例でない取引等
(1) 不適切な売上計上の可能性を示唆する状況
企業の通常の取引過程から外れた重要な取引又はその他企業及び当該企業が属する産業を取
り巻く環境に対する監査人の理解に照らして通例ではない重要な取引のうち、企業が関与する
事業上の合理性が不明瞭な取引が存在する。
(2) 資金還流取引等のオフバランス取引の可能性を示唆する状況
企業の事業内容に直接関係のない又は事業上の合理性が不明瞭な重要な資産の取得、企業の
買収、出資、費用の計上が行われている。
(3) その他
関連当事者又は企業との関係が不明な相手先(個人を含む。)との間に、事業上の合理性が不
明瞭な重要な資金の貸付・借入契約、担保提供又は債務保証・被保証の契約がある。
3.証拠の変造、偽造又は隠蔽の可能性を示唆する状況
・ 変造又は偽造されたおそれのある文書が存在する。
・ 重要な取引に関して、重要な記録等に矛盾する証拠が存在する、又は証拠となる重要な文書
を紛失している。
・ 重要な取引に関して、合理的な理由なく、重要な文書を入手できない、又は重要な文書のドラ
フトのみしか入手できない。
4.会計上の不適切な調整の可能性を示唆する状況
・ 期末日近くまで網羅的若しくは適時に記録されていない重要な取引、又は金額、会計期間、分
類等が適切に記録されていない重要な取引が存在する。
・ (根拠資料等による)裏付けのない又は未承認の重要な取引や勘定残高が存在する。
・ 期末日近くに経営成績に重要な影響を与える通例でない修正が行われている。
・ 重要な取引に関連する証憑、又は会計帳簿や記録(総勘定元帳・補助元帳・勘定明細等)にお
いて、本来一致すべき数値が不一致でその合理的な説明がない。
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・ 企業が合理的な理由がなく重要な会計方針を変更しようとしている。
・ 経営環境の変化がないにもかかわらず、重要な会計上の見積りを頻繁に変更する。
5.確認結果
・ 企業の記録と確認状の回答に説明のつかない重要な差異がある。
・ 特定の取引先に対する確認状が、合理的な理由なく監査人に直接返送されないという事態が
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繰り返される。
6.経営者の監査への対応
・ 合理的な理由がないにもかかわらず、監査人が、記録、施設、特定の従業員、得意先、仕入先、
又は監査証拠を入手できるその他の者と接することを企業が拒否する、妨げる、又は変更を主
張する。
・ 合理的な理由がないにもかかわらず、企業が確認依頼の宛先の変更や特定の相手先に対する
確認の見合せを主張したり、他の確認先に比べて著しく準備に時間がかかる残高確認先がある。
7.その他
・ 企業が、財務諸表に重要な影響を及ぼす取引に関して、明らかに専門家としての能力又は客
観性に疑念のあると考えられる専門家を利用している。
・ 重要な投資先や取引先、又は重要な資産の保管先に関する十分な情報が監査人に提供されな
い。
以 上
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