監査基準報告書 540 実務ガイダンス第2号
建設業及び受注制作のソフトウェア業における収益の認識に関する監査 に係る実務ガイダンス
2 0 2 1 年 2 月 2 2 日
改正 2 0 2 1 年 9 月 1 6 日
最終改正 2 0 2 2 年 1 0 月 1 3 日
日 本 公 認 会 計 士 協 会
監査・保証基準委員会
(実務ガイダンス:第 11 号)
項番号
Ⅰ はじめに
1.検討の経緯 ··································································· 1
2.本実務ガイダンスの位置付け ··················································· 5
3.本実務ガイダンスの背景 ······················································· 8
4.定義 ········································································· 10
Ⅱ リスク評価手続とこれに関する活動
1.重要な虚偽表示リスクの検討 ··················································· 11
2.不正リスク要因の検討 ························································· 13
3.内部統制の理解 ······························································· 17
(1) 全社的な内部統制 ··························································· 20
(2) 業務プロセスに係る内部統制 ················································· 26
4.前年度の会計上の見積りの確定額又は再見積額の検討 ····························· 80
Ⅲ リスク対応手続
1.評価した重要な虚偽表示リスクへの対応 ········································· 82
2.評価した不正による重要な虚偽表示リスクへの対応 ······························· 83
3.運用評価手続 ································································· 87
4.実証手続等 ··································································· 89
(1) 基礎資料 ··································································· 90
(2) 収益を認識する単位の決定 ··················································· 91
(3) 取引価格の算定 ····························································· 98
(4) 履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関する実証手続 ························· 101
(5) 工事原価総額の見積りに関する実証手続 ······································· 105
(6) コストに基づくインプット法を採用する場合の発生したコストに関する実証手続 ··· 106
(7) 原価回収基準に関する実証手続 ··············································· 107
(8) 工事損失引当金 ····························································· 108
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(9) コンピュータ利用監査技法(Computer-assisted audit techniques:CAAT)を利用した実
証手続 ······································································· 109
付録:業務プロセスにおける留意事項の例示
1.収益を認識する単位の決定
(1) 契約の識別
(2) 契約の結合
(3) 契約変更
(4) 履行義務の識別
(5) 財又はサービスに対する保証の検討
(6) 本人と代理人の区分の検討
2.取引価格の算定
(1) 変動対価の額の見積り
(2) 契約における重要な金融要素
(3) 履行義務への取引価格の配分
3.履行義務の充足に係る進捗度
(1) 履行義務の充足に係る進捗度の見積り
(2) アウトプット法
(3) インプット法
4.工事原価総額の見積り
(1) 実行予算の策定手続及び承認手続
(2) 予算実績管理及び工事原価総額の見積りの見直し
5.発生したコスト
(1) 発注
(2) 履行義務の充足に係る進捗度と関連しないコストの修正
(3) 人件費
(4) 関連のない他の識別された履行義務に係る認識の単位との間の発生したコストの振替及び
付け替えの防止
6.原価回収基準
(1) 原価回収基準の適用
(2) 原価回収基準の網羅性
7.工事損失引当金
(1) 工事損失引当金の計上
(2) 工事損失引当金の網羅性
8.ITを利用した情報システム
ii
《Ⅰ はじめに》
《1.検討の経緯》
1.2018 年3月 30 日に企業会計基準委員会から、企業会計基準第 29 号「収益認識に関する会計基
準」(以下「収益認識会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第 30 号「収益認識に関する
会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という。)が公表され、原則として、2021 年4
月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されることとなった。
また、収益認識会計基準及び収益認識適用指針の適用により、以下の企業会計基準、企業会計基
準適用指針及び実務対応報告は廃止されることとなった。
(1) 企業会計基準第 15 号「工事契約に関する会計基準」(以下「工事契約会計基準」という。)
(2) 企業会計基準適用指針第 18 号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下「工事契約適
用指針」という。)
(3) 実務対応報告第 17 号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」
2.工事契約会計基準においては、進捗部分について成果の確実性が認められるか否かにより工事
進行基準又は工事完成基準によって工事契約に係る収益及びその原価が認識されるが、収益認識
会計基準においては、履行義務の充足のパターンに従い収益の認識方法が定められている。
3.監査・保証実務委員会実務指針第 91 号「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」は、
工事契約会計基準及び工事契約適用指針に従い工事進行基準により工事収益及び工事原価の認識
を行っている企業の財務諸表の監査において、関連する監査基準報告書の要求事項を適切に適用
するために留意する事項を実務指針として取りまとめた。
今般、工事契約会計基準及び工事契約適用指針が廃止されることに伴い、工事契約会計基準及
び工事契約適用指針の適用が多い建設業及び受注制作のソフトウェア業について、収益認識会計
基準及び収益認識適用指針を適用した場合の企業の財務諸表の監査において留意すべき事項等を
整理するとともに、監査・保証実務委員会 91 号への影響について調査・研究を行った。
本実務ガイダンスは、この調査・研究の成果であり、監査実務を行う上での今後の参考に資する
べく、監査・保証実務委員会 91 号を見直し、今般、実務ガイダンスとして公表するものである。
4.本実務ガイダンスに関連する監査基準報告書は、主に以下のとおりである。
・ 監査基準報告書 540「会計上の見積りの監査」
また、このほか、以下の監査基準報告書が本実務ガイダンスの適用に際しては関連する。
・ 監査基準報告書 240「財務諸表監査における不正」
・ 監査基準報告書 315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」
・ 監査基準報告書 330「評価したリスクに対応する監査人の手続」
なお、監査基準報告書 200「財務諸表監査における総括的な目的」では、本実務ガイダンスに記
載されている監査基準報告書のみでなく、個々の監査業務に関連する全ての監査基準報告書と併
せて理解することが求められている(監査基準報告書 200「財務諸表監査における総括的な目的」
第 17 項から第 19 項及び第 21 項参照)。
本実務ガイダンスは、一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成するものではなく、会員
が遵守すべき基準等にも該当しない。また、2021 年9月 16 日時点の最新情報に基づいている。
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《2.本実務ガイダンスの位置付け》
5.収益認識会計基準及び収益認識適用指針は全ての企業において適用されるが、監査実務が十分
に成熟していない中で特定の業種を想定せずに調査・研究を行うことは対象が広範囲に及び、か
えって会員の実務に有意義なものが提供できないことも想定された。
6.したがって、本実務ガイダンスの作成に当たっては、工事契約会計基準及び工事契約適用指針
の適用が多い建設業及び受注制作のソフトウェア業における監査上の留意事項について調査・研
究を行った。
また、収益の認識方法は、資産に対する支配を顧客に一定の期間にわたり移転することにより、
一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する方法(収益認識会計基準第 38 項)及び履行
義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務とし
て、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に収益を認識す
る方法(収益認識会計基準第 39 項)がある。さらに、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の
認識方法には、原価回収基準(収益認識会計基準第 45 項)もある。このうち、収益認識会計基準
第 38 項に定める収益の認識方法を適用している企業における監査上の留意事項を本実務ガイダン
スの調査対象とした。
7.本実務ガイダンスは、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法により収益の認識を行
うことが想定される建設業及び受注制作のソフトウェア業の財務諸表の監査において、監査人が
監査基準報告書の要求事項を適切に適用するために留意する事項や特定の状況において想定され
る監査手続等を例示したものである。企業ごとに、企業を取り巻く企業環境及び置かれている状
況が異なるため、本実務ガイダンスに記載された留意事項や監査手続は、建設業及び受注制作の
ソフトウェア業における収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の財務諸表の監査に
おいて一律に考慮又は実施されることを想定したものではなく、考慮又は実施する留意事項や監
査手続は、監査基準報告書 315 第 11 項及び A58 項並びに監査基準報告書 330 第4項及び第5項に
従い、監査人の職業的専門家としての判断の結果として決定される。また、本実務ガイダンスに
記載された留意事項や監査手続を考慮又は実施しない場合であっても、考慮又は実施しないこと
に関する合理的な理由について監査調書に記録することを求めるものではない。
《3.本実務ガイダンスの背景》
8.収益認識会計基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される。
契約とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをい
う(収益認識会計基準第5項)。工事契約とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約の
うち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づ
いて行うものをいい(収益認識会計基準第 13 項)、受注制作のソフトウェアとは、契約の形式に
かかわらず、特定のユーザー向けに制作され、提供されるソフトウェアをいう(収益認識会計基準
第 14 項)。
9.特に工事契約や受注制作のソフトウェア(以下、両者を合わせ「工事契約等」という。)に適用
する収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法では、一般的に会計上の見積りの不確実性
の程度が大きく、会計上の見積りに関する重要な虚偽表示リスクが高くなることが多い。この重
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要な虚偽表示リスクには、会計上の見積りの判断を誤ることによる誤謬のみならず、履行義務の
充足に係る進捗度の調整を通じた収益の操作や原価回収基準の恣意的な適用による収益の操作な
どの不正によるものも含まれる。例えば、インプット法であれば、契約における取引開始日から
履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプットの合計(以下「工事原価総額」という。)
の見積りを意図的に調整することや、発生したコストを意図的に異なる識別された履行義務の発
生したコストとすること(以下「コストの付け替え」という。)等、アウトプット法であれば、履
行義務の充足に係る進捗度を見積もるために使用されるアウトプットが直接的に観察できないこ
とを利用することにより履行義務の充足に係る進捗度を意図的に調整すること等が考えられる。
《4.定義》
10.本実務ガイダンスにおける用語の定義は、本実務ガイダンスで別途定めのあるものを除き、収
益認識会計基準及び収益認識適用指針で定義されている用語に従うものとする。
《Ⅱ リスク評価手続とこれに関する活動》
《1.重要な虚偽表示リスクの検討》
11.監査基準報告書 540 第9項により、監査人は、重要な虚偽表示リスクの識別と評価において会
計上の見積りの不確実性の程度を評価することが求められている。
12.特に工事契約等に適用する収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法では、例えば、以
下のような理由から、一般的に会計上の見積りの不確実性の程度が大きく、会計上の見積りに関
する重要な虚偽表示リスクが高くなることが多い。
(1) 収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に当たっては、実行予算に基づく損
益率、履行義務の充足に係る進捗度及び発生したコストの回収可能性の判断等の会計上の見積
りが不可欠であるため、経営者の偏向の存在を完全には排除できないこと。
(2) 一般的に工事契約等は、履行義務の充足の途上において当事者間の新たな合意によって契約
の変更が行われる傾向にあるが、その変更金額が契約の変更の都度決まらない場合があること。
(3) 工事契約等は基本的な仕様や作業内容が顧客の指図に基づいて行われるため、契約内容の個
別性が強い。したがって、工事原価総額の見積りに当たっては、全ての履行義務に適用可能な画
一的な判断尺度を得られにくく、契約内容に関する専門的知識及び実務経験を有する、当該工
事契約等の原価管理又は進捗管理に直接的又は間接的に責任を有する者(以下「工事契約等の
管理者」という。)による判断が恣意的に行われる可能性があること。
(4) 各履行義務に対する監視活動は、取締役会、監査役等、内部監査部門及び工事契約等所管部
署等によって行われるが、労務安全管理又は工程管理が重視される傾向にあること。また、原価
管理について監視活動が実施されていても、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法
の適用の妥当性という観点からは必ずしも十分に実施されていない可能性があること。
(5) 履行義務の充足の途上においては、顧客や原材料の納品業者及び外注業者(以下両者を合わ
せ「外注業者等」という。)又は監督官署等との間で各種の協議が頻繁に行われ、このような協
議の結果が、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に関する会計上の見積り
に影響を及ぼし、工事収益総額や工事原価総額の見直しが必要となる場合がある。このような
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場合には、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用のための合理的な見積りを
実施する部署(以下、このような部署を「見積担当部署」という。)が、当該協議の結果に関す
る情報を適時かつ網羅的に収集できず、最新の状況を会計上の見積りに適時に反映できない可
能性があること。
《2.不正リスク要因の検討》
13.監査基準報告書 240 第 23 項により、監査人は、実施したその他のリスク評価手続とこれに関連
する活動により入手した情報が、不正リスク要因の存在を示しているかどうかを検討することが
求められている。
14.不正リスク要因の検討に際しては、過去の不正事例の理解が有用である。収益認識会計基準等
が適用された主な不正事例は、本実務ガイダンス公表時点においては公表されているものはない
ため、活動を基礎とするという意味では厳密には収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方
法とは異なるが、参考までに工事進行基準を適用している企業においては、以下のような不正事
例がある。
(1) 意図的な履行義務の認識の単位の設定による損益率の調整
(2) 工事収益総額が契約書又は注文書(以下、両者を含め取引に関する合意の確証として交わさ
れる文書を「契約書等」という。)で確定していない場合の工事収益総額の不適切な見積り
(3) 実現可能性の低い原価低減活動による原価低減を考慮した工事原価総額の不適切な見積り
(4) 工事契約等の管理者が外注業者等又は企業内部の者と共謀し、発生したコストを異なる識別
された履行義務の発生したコストとする等のコストの付け替えを実施することによる発生した
コストの操作
(5) 工事契約等の管理者が外注業者等又は企業内部の者と共謀し、発生したコストを故意に計上
しない、又は架空に計上することによる発生したコストの操作
(6) 工事契約等の管理者が外注業者等又は企業内部の者と共謀し、作業実績時間等の操作を行う
ことによる発生したコストの操作
なお、監査における不正リスク対応基準(企業会計審議会)に準拠することが求められる監査業
務においては、監査基準報告書 240 第 F15-2 項により、監査人は、不正による重要な虚偽表示リ
スクを識別するための情報を入手するため、公表されている主な不正事例を理解することが求め
られている。
15.第 14 項に記載した不正事例には、一般的に以下のような不正リスク要因が存在していることが
多いと考えられる。
(1) 動機・プレッシャー
・ 経営者、工事契約等の管理者、その他の従業員等が売上高、利益等の財務目標(上長から示
されたものを含む。)を達成するために、過大なプレッシャーを受けている。
(2) 機会
・ 評価、懲罰及び人事ローテーションを含め、人事制度が有効に機能していない。
・ 外注業者等に不利な条件を強制できるような強大な影響力を有している。
・ 履行義務の遂行拠点が多数にわたるため、有効なモニタリングが行われない。
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・ 履行義務の内容が多岐にわたるため、主観的な判断や立証が困難な不確実性を伴う工事収
益総額、工事原価総額等の重要な会計上の見積りがある。
・ 契約書等に押印がなされていない段階で取引を開始する、正式な書面又は電磁的記録によ
る受発注が行われる前に担当者間の口頭による交渉で取引を開始する、又は変更する等、相手
先との間で正当な取引等の開始又は変更であることを示す文書が取り交わされることなく取
引が行われ得る。
・ 会計システムや情報システムが有効に機能していない。
(3) 姿勢・正当化
・ 経営者が不適切な会計処理の禁止等に関するコンプライアンス意識を高めることを効果的
に行っていない。
16.実際の不正は顧客、外注業者等又は企業内部の者との共謀により行われることがある。このた
め、監査人は、監査基準報告書 240 第 11 項及び第 F11-2 項に従い、不正による重要な虚偽表示が
行われる可能性に常に留意し、監査の全過程を通じて、職業的懐疑心を保持及び発揮し、不正に
よる重要な虚偽表示リスクを識別し評価することが重要である。なお、識別すべき不正による重
要な虚偽表示リスクは、企業及び当該企業を取り巻く企業環境により異なるものであるが、過年
度において財務諸表に重要な影響を及ぼす不正が発生している企業の監査においては、特に不正
による財務諸表の重要な虚偽表示リスクの発生可能性について留意する。
《3.内部統制の理解》
17.監査基準報告書 315 第 10 項(3)及び監査基準報告書 540 第7項(1)により、監査人は会計上の見
積りに関連して適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項の理解が求められている。
18.監査基準報告書 315 第 11 項及び監査基準報告書 540 第7項(3)②により、監査人は関連する内
部統制の理解が求められている。
19.収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法に関する会計処理は、判断や会計上の見積り
の不確実性の要素を含んでおり、経営者や役職者等の誠実性や倫理観、特に、財務報告に対する
考え方に大きく影響を受ける。したがって、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法に
関する内部統制を理解する際には、企業文化・社風の理解に加え、例えば、以下に記載された事項
に留意して、重要な虚偽表示を発見し、防止するために実施される内部統制を識別し、そのデザ
インと業務への適用を評価することが重要である。なお、企業が整備した業務プロセスを理解す
る上での留意事項の例示を付録に記載している。
《(1) 全社的な内部統制》
《① 統制環境》
《工事契約等の実行予算の策定管理及び見積担当部署に関する経営組織》
20.収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に当たっては、会計上の見積りに高度
な判断が求められることがある。特に、工事原価総額や履行義務の充足に係る進捗度の見積り及
び原価回収基準の適用における発生したコストの回収可能性の判断は、一般的には工事契約等所
管部署と関連する他の部署が協力し、実行予算を基礎として行われる。工事契約等所管部署や見
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積担当部署に専門知識を備えた適切な人材が配置されていない場合には、適切な会計上の見積り
が行われない可能性がある。
《工事契約等の実行予算の策定管理及び損益管理に関する規程類の整備状況》
21.資産に対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転する場合、履行義務の充足時点の認識基準
として収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法が適用される。履行義務の充足に係る進
捗度及び発生したコストの回収可能性について合理的な見積りをどのように行うかについての方
針が整備されていない場合には、恣意的な判断が介入する余地が大きくなり、財務諸表に重要な
虚偽表示が行われる可能性が大きくなる。
《人事ローテーション》
22.工事契約等では、その円滑な遂行のために同一の外注業者等に対して継続的に発注する傾向が
あるが、人事ローテーションがなく、同一担当者の長期に及ぶ関与により、なれ合いや癒着等の
関係が生じる場合がある。このような場合には、資産の横領や財務諸表に重要な虚偽表示が行わ
れる可能性がある。
《② 財務報告に関連する情報システムと伝達》
《収益認識会計基準適用のために必要となる情報の収集》
23.契約書等の締結前にも契約の受注のために顧客との様々な協議が行われるが、当該協議内容は
契約の識別や履行義務の識別に影響を及ぼす可能性がある。また、履行義務の充足の途上におい
て、顧客、外注業者等又は監督官署等との間で各種の協議が頻繁に行われている場合、このよう
な協議の結果は、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に関する会計上の見積
りに影響を及ぼす場合がある。契約や履行義務の識別、工事収益総額及び実行予算の見直しに当
たって必要となる協議の結果に関する情報を、見積担当部署が適時かつ網羅的に収集できていな
い場合には、最新の状況を収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用における判断
や会計上の見積りに適時・適切に反映できず、財務諸表に重要な虚偽表示が行われる可能性があ
る。
《履行義務の損益管理等で利用される財務報告に関連する情報システム(関連する業務プロセスを
含む。)の把握》
24.履行義務ごとの工事収益総額及び工事原価総額の管理、発生したコストの集計、履行義務の充
足に係る進捗度の見積り、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法による収益認識の金
額の計算等、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に当たっては様々な局面で
ITが利用されていることが想定される。収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適
用に際しどのようにITを利用しているかにより、ITが重要な虚偽表示リスクに及ぼす影響は
異なるため、ITの利用状況が監査計画に影響を及ぼすことがある。
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《③ 監視活動》
《工事契約等の実行予算の策定管理及び損益管理に対する工事契約等所管部署等、取締役会、監査
役等及び内部監査部門等のモニタリング状況》
25.工事契約等の実行予算の策定管理及び損益管理において、工事契約等所管部署等だけでなく取
締役会、監査役等及び内部監査部門等からの適時・適切なモニタリングを受けていない場合には、
工事契約等の管理者又は工事契約等所管部署等への牽制が働かず、工事収益総額、工事原価総額
及び履行義務の充足に係る進捗度の合理的な見積りが実施されない可能性がある。
《(2) 業務プロセスに係る内部統制》
26.企業は、費用と便益を比較衡量の上、収益認識会計基準及び収益認識適用指針における様々な
定め及び要件が適切に適用されるようにするために必要と判断した内部統制を整備し運用する。
したがって、監査人は業務プロセスを理解する上で、以下に記載する監査上慎重に対応すること
が求められるような状況及び監査上のリスクを考慮し、企業の実態に応じた内部統制が整備され
ているかを評価することが重要である。
27.第 26 項で記載したとおり、内部統制の構築は企業が費用と便益を比較衡量の上行うものである
が、収益認識会計基準及び収益認識適用指針の適用に際しては、特に第 28 項及び第 29 項に記載
の事項に留意する。
28.収益認識会計基準及び収益認識適用指針の適用に際しては、見積りや判断を要する事項が多い
ため、担当者以外の専門知識を有するしかるべき責任者又は部署が、客観的な観点で担当者が実
施した見積りや判断を検討するプロセスが重要となる。一般的にこのようなプロセスは承認とい
う行為で内部統制上構築されることが多いため、それぞれのプロセスにおける承認という行為は
重要な内部統制となる場合がある。
29.見積りの当初認識額と確定額又は再見積額との間で差異が生じることがある。これは財務諸表
上の測定額の見積りを行った日以降に発生した事象や状況の影響を必然的に受けるためであるが、
見積りの精度を高め有効な見積りプロセスを構築するためには、見積りの当初認識額と確定額又
は再見積額との間で生じた差異の発生原因を分析し、必要に応じ見積りプロセスを修正する内部
統制が重要な内部統制となる場合がある。
《① 収益を認識する単位の決定》
《契約の識別》
30.業界の取引慣行や個別の契約ごとの事情等により、口頭による契約であるために合意内容を客
観的に確かめることが困難な場合や個々の取引に係る契約書等の書面又は電磁的記録で合意内容
が明記されていない場合又は取引開始の時点において、契約書等の書面又は電磁的記録が適時・
適切に取り交わされないような場合がある。
31.顧客との契約は、受注登録に関する業務プロセスの過程において識別されることが一般的であ
る。受注登録に関する業務プロセスの過程において、顧客との契約が誤って識別された場合又は
適時に識別されない場合には、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用対象が適
切に決定されない可能性がある。
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《契約の結合》
32.業界の取引慣行や個別の契約ごとの事情等により、収益認識会計基準第 27 項に定める所定の条
件を満たすかを適時・適切に識別できない場合がある。また、当初の契約時点では、同一の商業的
目的を有する取引全体について顧客との合意が行われず、徐々に合意が形成されるような場合も
ある。
33.顧客との契約が誤って結合された場合や、本来結合すべき顧客との契約が結合されなかった場
合には、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法を適用する単位が適切に決定されない
可能性がある。
34.収益認識適用指針第 101 項で定められている代替的な取扱いの適用に際しては、個々の契約が
取引の実態を反映する実質的な取引の単位であるかの判断に恣意性が介入する場合がある。
35.収益認識適用指針第 101 項で定められている代替的な取扱いを適用する場合、金額が独立販売
価格と著しく異ならないことをどのように把握し判断するのかについての方針が明確になってい
ない場合には、誤った判断や恣意的な判断がなされる可能性がある。
36.収益認識適用指針第 102 項及び第 103 項で定められている代替的な取扱いの適用に際しては、
企業が締結している契約には多種多様なものがあり、契約締結先も多岐にわたるため、当事者間
で合意された実質的な取引の単位として複数の契約を結合して収益認識した場合と、個々に収益
認識した場合の収益認識の時期及び金額との差異を把握することが困難な場合がある。
37.収益認識適用指針第 102 項及び第 103 項で定められている代替的な取扱いを適用する場合、重
要性に関する方針が明確になっていない場合には、誤った判断や恣意的な判断がなされる可能性
がある。
《契約変更》
38.契約内容の変更は合意されたが、変更に伴う対価について契約書等が締結されていない場合等
どのような場合に契約変更が行われたとみなすのかについて、不明瞭な場合がある。
39.顧客との契約変更が誤って処理された場合には、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識
方法を適用する単位が適切に決定されない可能性がある。
40.収益認識適用指針第 92 項で定められている代替的な取扱いの適用に際しては、契約変更による
財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らした場合の重要性が乏しいと認められるかどうか
の判断に恣意性が介入する場合がある。
41.収益認識適用指針第 92 項で定められている代替的な取扱いを適用する場合、重要性に関する方
針が明確になっていない場合には、誤った判断や恣意的な判断がなされる可能性がある。
《履行義務の識別》
42.以下のような場合、約束した財又はサービスが、別個の財又はサービスであるか一連の別個の
財又はサービスであるかは、ビジネスの実態を考慮した判断によるところがあり、また、履行義
務の性質が一見しただけでは分かりにくいこともあるため、履行義務の識別が恣意的に行われる
場合がある。
(1) 建設業において、解体工事と新築工事を一つの契約で請負った場合
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(2) ソフトウェア業において、パッケージ・ソフトウェアの販売取引が、販売業者においては単
にパッケージ化された製品の販売取引のようにして扱われたとしても、製造元にとっては製品
の販売というよりもソフトウェアの使用許諾権の販売取引となる場合
(3) ソフトウェア業において、使用許諾期間中に新しいバージョンのソフトウェアがリリースさ
れた場合に、無償で新しいバージョンが提供される場合
43.履行義務の識別が誤って処理された場合には、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方
法を適用する単位が適切に決定されない可能性がある。
44.収益認識適用指針第 93 項で定められている代替的な取扱いの適用に際しては、顧客との契約の
観点で、約束した財又はサービスの定量的及び定性的な性質を考慮した結果として、相対的に重
要性が乏しいと認められるかどうかの判断に恣意性が介入する場合がある。
45.収益認識適用指針第 93 項で定められている代替的な取扱いを適用する場合、重要性に関する方
針が明確になっていない場合には、誤った判断や恣意的な判断がなされる可能性がある。
《財又はサービスに対する保証の検討》
46.財又はサービスに対する保証は、企業が属する業界や取引によって多様であるため、自社の保
証がいずれに該当するのかについては判断に恣意性が介入する場合がある。
47.自社が行っている保証としてどのようなものがあるか適切に把握されていない場合には、財又
はサービスに対する保証の判断を誤ることにより、本来履行義務として識別されるべき保証サー
ビスが引当金として計上される、又は本来引当金として計上されるべき保証が履行義務として識
別される可能性がある。
《本人と代理人の区分の検討》
48.本人と代理人の区分の判定は、顧客に対して財又はサービスを提供している自社が、本人に該
当するのか、代理人に該当するのかについて、個々の取引の態様に応じた実態的な判断が必要に
なる。
49.本人と代理人の区分の判定を誤った場合には、結果として、収益認識の金額を誤る可能性がある。
《② 取引価格の算定》
《変動対価の額の見積り》
50.工事契約等においては、当初の契約金額は、契約書等により確定していることが多い。他方、契
約の追加が合意されたにもかかわらず、対価についての変更が必ずしも契約書等によって適時に
確定しないことがある。また、スライド条項等による事後的な値引き又は値増しや、契約条件に
基づくペナルティー及びインセンティブ等により、契約金額が増額又は減額されることがある。
51.変動対価の額が適切に見積もられない場合には、事後的に収益が不適切に増減する可能性がある。
《契約における重要な金融要素》
52.顧客との契約に重要な金融要素が含まれるかどうかは契約書等に明示されない場合がある。
53.契約に重要な金融要素を含んでいるか否かの判断を誤った場合、信用供与についての重要な便
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益が顧客又は企業に提供されているにもかかわらず、対価の額に含まれる金利相当分が調整され
ない可能性がある。
《履行義務への取引価格の配分》
54.契約における複数の履行義務については、顧客の指図に基づき各履行義務を遂行するため、個
別性が高く独立販売価格を直接観察できないことがある。
55.適切に見積もられていない独立販売価格の比率に基づいて取引価格が配分される場合又は値引
き及び変動対価の履行義務への配分を誤る場合には、財又はサービスの顧客への移転と交換に企
業が権利を得ると見込む対価の額を描写しない可能性がある。
56.収益認識適用指針第 100 項で定められている代替的な取扱いの適用に際しては、対象となる財
又はサービスが、契約における他の財又はサービスに付随的なものであり、重要性が乏しいと認
められるかどうかの判断に恣意性が介入する場合がある。
57.収益認識適用指針第 100 項で定められている代替的な取扱いを適用する場合、重要性に関する
方針が明確になっていない場合には、誤った判断や恣意的な判断がなされる可能性がある。
《③ 履行義務の充足に係る進捗度》
58.履行義務の充足に係る進捗度は、アウトプット法とインプット法のいずれの見積方法が、財又
はサービスの性質を考慮して完全な履行義務の充足に向けて、財又はサービスに対する支配を顧
客に移転する際の企業の履行を描写する進捗度の見積方法として適切か判断することが難しい場
合がある。
《履行義務の充足に係る進捗度の見積り》
59.履行義務の充足に係る進捗度の見積方法が誤って選択された場合には、財又はサービスに対す
る支配を顧客に移転する際の企業の履行を描写するように進捗度が見積もられない可能性がある。
《アウトプット法》
60.履行義務の充足に係る進捗度を見積もるために使用されるアウトプットが、直接的に観察でき
ない場合や、財務報告に直接関連しない可能性がある情報等に基づいている場合には、意図的な
修正が行われることにより、履行義務の充足に係る進捗度が合理的に見積もられない、又は履行
義務の充足に係る進捗度の実態を合理的に反映しない可能性がある。
《インプット法》
61.インプットと財又はサービスに対する支配の顧客への移転との間に直接的な関係がない場合に
は、履行義務の充足に係る進捗度が履行義務の充足を忠実に描写しない可能性がある。また、財
務報告に直接関連しない可能性がある情報等に基づき履行義務の充足に係る進捗度を見積もる場
合には、履行義務の充足に係る進捗度の実態を合理的に反映しない可能性がある。
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《④ 工事原価総額の見積り》
62.収益認識会計基準及び収益認識適用指針においては工事原価総額に関する明示的な定めはない。
ただし、工事契約等に関する履行義務の充足に係る進捗度の見積りをインプット法により算定し
ている場合や、工事損失引当金の判断等において工事原価総額の合理的な見積りは、重要な見積
りプロセスとなる。
63.工事契約等は基本的な仕様や作業内容が顧客の指図に基づいて行われるため、契約内容の個別
性が強い。また、履行義務の充足の途上において契約の変更が行われることがある。
《実行予算の策定手続及び承認手続》
64.工事原価総額の見積りは、一般的には実行予算に基づいて行われる。工事原価総額を合理的に
見積もるためには、見積りが識別された履行義務の各段階におけるコストの見積りの詳細な積上
げとして構成されている等、実際の発生したコストと対比して適切に見積りの見直しができる状
態となっている必要がある。実行予算がそのように策定されていない場合には、実際の発生した
コストとの対比も困難となり、完成までに要するコストを含めた工事原価総額の見積りを適切に
実施することも困難となる。また、契約の初期段階において、実行予算の策定及び承認時期を意
図的に操作することにより、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用時期の操作
又は意図的な適用若しくは適用回避が行われる可能性がある。
65.また、収益認識会計基準第 33 項及び第 34 項においては、顧客に約束した財又はサービスにつ
いて、特定の要件を満たす場合には別個の履行義務として識別することとされている。したがっ
て、工事原価総額の見積りにおいても、識別された履行義務ごとに実行予算が把握されない場合、
個々の履行義務における工事原価総額が正しく算定されない可能性がある。
《予算実績管理及び工事原価総額の見積りの見直し》
66.一般的に工事契約等は、その進行途上における当初想定していない事情の変化により契約の変
更が行われる。これに関する情報の収集及び反映が適時・適切に行われていない場合には、識別さ
れた履行義務の進捗に応じ工事原価総額の見積りの修正が適時・適切に行われない可能性がある。
《⑤ 発生したコスト》
67.コストに基づくインプット法を採用する場合、発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度
に比例しない可能性がある。また、発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に寄与してい
ない可能性がある。
《発注》
68.収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用には個別原価計算の採用が前提となる。
履行義務の遂行に際しては、材料、買入部品等の資材の購入費や外注費等が多額に発生するため、
どの識別された履行義務に関する発注であるかが発注段階で特定できていない場合には、その後
の原価管理が適切に行われない可能性がある。
また、一般的に過去の納品実績や作業実績等と同種の資材の購入や作業の場合には、新規の外
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注業者等よりも既存の特定の外注業者等に発注が偏る傾向があり、外注業者等とのなれ合いや癒
着等が発生する可能性がある。外注業者等とのなれ合いや癒着等が生じた場合には、外注業者等
から実態を伴わない、又は不当な見積金額が提出され、工事原価総額の合理的な見積りが行われ
ない可能性がある。
《履行義務の充足に係る進捗度と関連しないコストの修正》
69.コストに基づくインプット法により履行義務の充足に係る進捗度の見積りを行う場合には、各
決算期における発生したコストの不適切な修正により、履行義務の充足に係る進捗度の見積りが
不適切に行われる可能性がある。
《人件費》
70.コストのうち人件費について、作業日報を各人が記載する、又はシステムに入力することによ
り人件費を計上する場合には、実態とは異なる作業日報が恣意的に作成される可能性がある。
《関連のない他の識別された履行義務に係る認識の単位との間の発生したコストの振替及び付け替
えの防止》
71.識別された履行義務間で発生したコストの振替が行われることがある。
発生したコストの振替は、計上すべき識別された履行義務と異なる識別された履行義務に発生
したコストを計上したためこれを修正する場合に行われるが、適時・適切に振り替えられない場
合には発生したコストの集計が歪められることとなる。
他方、決算日における個々の識別された履行義務の進捗状況や損益状況、全体としての業績等
を考慮し、意図的に発生したコストを振り替える可能性がある。コストの付け替えは財務諸表に
重要な虚偽表示を生じさせるリスクがある。
また、コストの付け替えは、発生したコストの振替により行われるだけでなく、発生したコスト
を、計上する履行義務を識別する段階から操作することにより行われる場合もある。このような
手法によりコストの付け替えが行われた場合には、帳簿上は振替の記録が残らないため仕訳等で
当該事実を識別することが困難であり、関連する諸資料間の整合性を詳細に検討した場合であっ
ても識別できないことがある。
《⑥ 原価回収基準》
72.履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができないほど進捗度を適切に見積もる
ための信頼性のある情報が不足している状況で、履行義務を充足する際に発生する費用を回収す
ることができると判断することが難しい場合がある。
73.収益認識適用指針第 99 項で定められている代替的な取扱いの適用に際しては、いつの時点まで
を契約の初期段階とするかの判断に恣意性が介入する場合がある。
《原価回収基準の適用》
74.履行義務を充足する際に発生する費用の回収可能性に関する判断を誤った場合には、原価回収
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基準の適用対象を誤る可能性がある。
《原価回収基準の網羅性》
75.原価回収基準を適用すべき履行義務について、原価回収基準が適用対象となる履行義務に対し
て網羅的に適用されていることが検討されていない場合には、原価回収基準の適用が漏れる可能
性がある。
76.収益認識適用指針第 99 項で定められている代替的な取扱いを適用する場合、いつまでが契約の
初期段階であると判断するかが明確になっていない場合には、誤った判断や恣意的な判断がなさ
れる結果として収益の認識を開始する時点を誤る可能性もある。
《⑦ 工事損失引当金》
《工事損失引当金の計上》
77.工事損失引当金は、一般的には実行予算等に基づいて計上されることとなるが、工事原価総額
の見積りに関する内部統制が適切に整備されていなければ適切な工事損失引当金の計上を行うこ
とはできない。また、工事損失引当金の計上に関する方針が明確になっていない場合には、恣意
的な工事損失引当金が計上される可能性がある。
《工事損失引当金の網羅性》
78.工事損失が見込まれる履行義務が網羅的に集計されない場合には、工事損失が発生する履行義
務について、工事損失引当金が計上されない可能性がある。
《⑧ ITを利用した情報システム》
79.一般的に、ITにはあらかじめ定められた方針や規定に従い一貫して処理し、複雑な計算を実
行できる等の利点がある。他方、正確なデータを誤って処理したり、システム又はプログラムの
未承認の変更が行われたりする等、IT特有のリスクを内部統制にもたらす。
一般的に、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に関する様々な情報は、I
Tを利用して管理され計算される。
《4.前年度の会計上の見積りの確定額又は再見積額の検討》
80.監査基準報告書 540 第8項により、監査人は、当年度の監査のために、前年度の財務諸表に計
上されている会計上の見積りの確定額又は該当する場合には、再見積額について検討することが
求められている。
81.経営者の前年度の見積りプロセスの有効性に関する情報を入手することができるため、会計上
の見積りの確定額又は再見積額と前年度の財務諸表における計上額との差異の理由を特定して理
解するリスク評価手続を実施する。会計上の見積りの確定額又は再見積額との比較により乖離が
生じた場合に、原因を究明し必要に応じて見積方法の修正等の検討が行われていないときには、
合理的な見積りが行われていない可能性が高く、財務諸表に重要な虚偽表示が存在する可能性が
ある。
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収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用における、会計上の見積りの確定額又
は再見積額との比較によるリスク評価手続としては、例えば、以下のような事項が挙げられる。
(1) 工事収益総額に含まれている契約変更で金額が顧客との間で契約書等により合意されていな
い場合に見積もった金額と、契約書等による確定額又はその後の再見積額との比較
(2) 工事収益総額に含まれている変動対価で金額が顧客との間で契約書等により合意されていな
い場合に見積もった金額と、契約書等による確定額又はその後の再見積額との差額
(3) 識別された履行義務の変更と関連しない工事原価総額の見積りの修正の頻度
(4) 見積計上した発生したコストと確定額又は再見積額との比較
(5) 工事損失引当金の会計上の見積金額と確定額又は再見積額との比較
(6) これらの会計上の見積金額と確定額又は再見積額との比較を実施した結果、乖離が生じた原
因の検討
《Ⅲ リスク対応手続》
《1.評価した重要な虚偽表示リスクへの対応》
82.監査基準報告書 540 第 12 項により、監査人は、監査基準報告書 330 で要求される評価した重要
な虚偽表示リスクへの対応に当たって(監基報 330 第4項参照)、会計上の見積りの性質を考慮に
入れ、以下の手続の一つ又は複数の手続を実施することが求められている。
(1) 監査報告書日までに発生した事象が、会計上の見積りに関する監査証拠を提供するかどうか
を判断する。
(2) 経営者が会計上の見積りを行った方法とその基礎データを検討する。
(3) 適切な実証手続とともに、経営者が会計上の見積りを行った方法に関連する内部統制の運用
評価手続を実施する。
(4) 経営者の見積額を評価するため、監査人の見積額又は許容範囲を設定する。
《2.評価した不正による重要な虚偽表示リスクへの対応》
83.監査基準報告書 240 第 27 項により、監査人は、評価した財務諸表全体レベルの不正による重要
な虚偽表示リスクに応じて、全般的な対応を決定することが求められている。また、監査基準報
告書 240 第 29 項により、評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応
じて、リスク対応手続を立案し実施することが求められている。
84.監査基準報告書 540 第 14 項により、監査人は、会計上の見積りにより特別な検討を必要とする
リスクが生じている場合、監査基準報告書 330 の要求事項を満たすために実施する実証手続に加
えて(監基報 330 第 17 項参照)、以下の事項を評価することが求められている。
(1) 経営者が代替的な仮定又は結果を検討した方法及びそれらを採用しなかった理由、若しくは
経営者が代替的な仮定又は結果を検討しなかった場合における見積りの不確実性の検討過程
(2) 経営者が使用した重要な仮定の合理性
(3) 経営者が使用した重要な仮定の合理性に関連する場合又は適用される財務報告の枠組みの適
切な適用に関連する場合には、特定の行動方針を実行する経営者の意思とその能力
85.最も適切な又は必要となる手続は状況により異なるが、リスク対応手続の立案及び実施に際し
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ては、監査基準報告書 240 により、不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に常に留意し、
監査の全過程を通じて、職業的懐疑心を保持及び発揮し、不正による重要な虚偽表示リスクに対
応することが重要である。
86.収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法を適用している場合の不正による重要な虚偽
表示に関するリスク対応手続としては、例えば、以下のようなリスク対応手続が想定される。な
お、これらのリスク対応手続は、不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続として特別
に立案し実施されるものとは限らず、第 89 項以下に記載されている一般的なリスク対応手続とし
て立案し実施されるものも含まれていることに留意する。また、これらのリスク対応手続は例示
にすぎないため、状況によっては最も適切な又は必要となる手続とは限らないことに留意する。
(1) 財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクが識別された場合
① 収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に関する会計上の見積りの妥当性
を検討する監査チームメンバーに、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法に関す
る知識、技能及び能力がより高い監査チームメンバーを配置する。
② 収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に関する会計上の見積り、例えば、
インプット法により履行義務の充足に係る進捗度を算定している場合、履行義務の充足に係
る進捗度を合理的に見積もるために重要となる工事原価総額の見積りについて、経営者によ
る利益調整に起因する不正な財務報告の可能性を示唆しているかどうかを評価する。
③ 企業が想定しない要素の組込みとして、例えば、工事契約等の実在性や履行義務の充足に係
る進捗度の見積りの妥当性を検討するために、予告なしに、作業現場の視察や作業現場での進
捗会議の資料の閲覧等を実施する。
(2) アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクが識別された場合
① 発生したコストの実在性や網羅性を検討するために、外注業者等に対して識別された履行
義務ごとに債務の残高確認を行う。
② 実行予算の見積りの合理性を評価するために、工事契約等の管理者ごとに実行予算の見直
しの頻度や見直しの時期を検討する。
③ 実行予算の見積りの合理性を評価するために、原価要素ごとに実績額との比較を実施する。
④ 会計処理の妥当性を検討するために、発生したコストに応じ契約金額を検討する等の特殊
な契約の有無、検収条件、引渡条件、支払条件等を確認する。
⑤ 履行義務の充足に係る進捗度の見積りの妥当性を検討するために、作業現場を視察するこ
とにより履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関する心証を得る。
⑥ コストの付け替えのリスクを考慮しつつ、発生したコストの妥当性を検討するために、識別
された履行義務ごとに発生したコストの発生状況と、工程表等による進捗度との比較分析又
は損益率の過去からの趨勢分析を実施する。
⑦ コストの付替えの有無を検討するために、原価管理システムや会計システムから識別され
た履行義務間の発生したコストの振替一覧を入手し内容を確認する。
《3.運用評価手続》
87.運用評価手続は、判断及び見積りの過程の合理性を検証するものであるため、記録や文書の閲
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覧に加え再実施を組み合わせることが効果的と考えられる。
88.運用評価手続は、目的は異なるものの実証手続を兼ねることも可能である。例えば、収益認識会
計基準第 38 項に定める収益の認識方法が適用される工事契約等の作業現場に期中に往査を行う
ことは、発生したコスト、履行義務の充足に係る進捗度等を確かめ、その情報が正しく見積担当
部署に伝達されていることを確かめることが可能であるとともに、工事契約等の管理者に対して
今後の工事契約等の進捗状況を質問し、分析することにより、決算数値の合理的な予測が可能と
なる場合がある。
《4.実証手続等》
89.一般的には、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法には、取引価格の算定における
変動対価や履行義務の充足に係る進捗度、工事原価総額の見積りにおいて会計上の見積りの不確
実性の要素が存在する。したがって、実証手続(運用評価手続と兼ねる実証手続を含む。)の種類、
時期及び範囲を立案するに当たっては、監査基準報告書 330 の要求事項を満たすために実施する
実証手続に加えて、監査基準報告書 540 の要求事項を満たすための監査手続を実施する。この監
査手続としては、例えば、第 90 項以下の監査手続が挙げられる。
なお、第 90 項以下に記載している監査手続は例示にすぎないため、これらの監査手続を実施す
れば監査基準報告書 330 及び監査基準報告書 540 の要求事項を満たすというわけではなく、状況
によっては最も適切な又は必要となる手続とは限らないことに留意する。
《(1) 基礎資料》
90.収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用に際し利用される基礎資料に関する実
証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 基礎資料に記載の数値を含む各種情報に虚偽や異常と認められるものがないことを確かめる。
(2) 基礎資料の正確性及び網羅性を確かめる。
《(2) 収益を認識する単位の決定》
《① 契約の識別に関する実証手続》
91.契約の識別に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 契約書等を閲覧し、識別された個々の契約について、収益認識会計基準第 19 項に定める要件
を全て満たしているかを確かめる。
(2) 契約書等を閲覧し、収益認識会計基準第 19 項の要件を満たしていないが、顧客から受け取っ
た対価を収益として認識している場合は、同第 25 項に定める要件のいずれかを満たしているか
どうかを確かめる。
(3) 契約書等の閲覧のみでは当事者間の合意を把握することが難しい場合、交渉の過程で顧客と
の間で取り交わされた提案書や見積書、出席者の相互承認が得られている顧客との打合せ議事
録等の資料の閲覧や、工事契約等の管理者等に対する質問、作業現場の視察、工程管理や配員管
理等のプロジェクト管理資料等社内管理資料の閲覧等により、当事者間の実質的な合意の内容
を十分に理解するとともに、契約が適切に識別されているかを確かめる。
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(4) 新規の取引先を含む顧客の信用調査等の与信調査の結果や契約書等の閲覧等を実施し、契約
金額の支払条件や対価の回収可能性を確かめる。
《② 契約の結合に関する実証手続》
92.契約の結合に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 契約が結合されたものである場合、契約書等を閲覧し、以下について確かめる。
① 結合された複数の契約は、同一の顧客と同時又はほぼ同時に締結されたものか。
② 収益認識会計基準第 27 項に定める要件のいずれかを満たしているか。
③ 結合された複数の契約について、それぞれの当初の契約時点では同一の商業的目的を有す
る取引全体について顧客との合意が行われなかったが、進捗に応じて徐々に合意が形成され
たために結合されている場合、同一の商業的目的を有するものとして結合された複数の契約
の範囲は適切か。
(2) 工事契約等の名称、遂行する拠点、履行義務の遂行期間等から、複数の契約が単一の履行義
務を構成する場合等、本来契約を結合すべきものが別個の契約として処理されていないことを
確かめる。
(3) 収益認識適用指針第 101 項に従い、契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分を行っ
ている場合には、契約を結合しないことが適切かどうかを確かめるため、収益認識適用指針第
101 項の要件をいずれも満たしているかを確かめる。
(4) 収益認識適用指針第 102 項に従い、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するよ
うに複数の契約を結合した上で認識している場合、複数の契約を結合した際の収益認識の時期
及び金額と、当該複数の契約について収益認識会計基準第 27 項及び第 32 項の定めに基づく収
益認識の時期及び金額との間の差異に重要性が乏しいことを確かめる。
なお、実質的な取引の単位についての判断が適切に行われているかについても、留意する。
(1)から(4)の手続を実施する際には、取引の実態を確かめるため、関係する契約書等の書類の
閲覧や工事契約等の管理者等に対する質問、作業現場の視察等を組み合わせて実施することが有
用である。
《③ 契約金額に関する実証手続》
93.契約金額に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 契約書等との突合を行い、金額の妥当性を確かめる。
(2) 顧客に対して契約金額(契約の変更分を含む。)、受領金額等の直接確認を行い、架空工事の
有無及び契約金額等の妥当性を確かめる。
94.契約変更に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 契約変更の処理について、収益認識会計基準第 30 項又は同第 31 項の要求事項に従って処理
されていることを確かめる。
(2) 契約書等を閲覧し、契約変更に関する契約の当事者による承認が適切に行われているかを確
かめる。
(3) 契約変更の際に、契約の当事者が契約の範囲の変更を承認しているが、変更された契約の範
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囲に対応する価格の変更を決定していない場合には、価格の積算根拠の合理性の検討や、過去
の類似した取引における価格との比較等により、当該契約変更による取引価格の変更が適切に
見積もられているかを確かめる。
(4) 契約書等の閲覧のみでは契約の変更分についての当事者間の合意を把握することが難しい場
合、顧客からの作業指示書、先行着手指示書、出席者の相互承認が得られている顧客との打合せ
議事録等により、当該金額及び作業変更内容について顧客との実質的な合意があるかを確かめる。
(5) 見積計上した金額と確定額又は再見積額との比較を実施し、収益の著しい減額が発生してい
ないことを確かめる。
(6) 収益認識適用指針第 92 項に従い契約変更を処理している場合には、契約変更による財又はサ
ービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しいことを確かめる。
《④ 履行義務の識別に関する実証手続》
95.履行義務の識別に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 契約書等を閲覧し、顧客と約束した財又はサービスについて、取引開始日に適切に評価が行
われ、収益認識会計基準第 32 項のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて、履行義
務として識別されているかを確かめる。
(2) 顧客と約束した財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであるとして、一連の別個
の財又はサービスとして評価している場合、収益認識会計基準第 33 項の要件のいずれも満たし
ているかを確かめる。
(3) 顧客と約束した財又はサービスについて、収益認識会計基準第 34 項の要件のいずれも満たし
ている場合には、別個のものとして扱われているかを確かめる。
(4) 収益認識適用指針第 93 項に従い、約束した財又はサービスが履行義務であるかどうかの判断
をしていない場合には、当該約束が顧客との契約の観点で重要性が乏しいことを確かめる。
《⑤ 財又はサービスに対する保証の検討に関する実証手続》
96.顧客と約束した財又はサービスに対する保証の検討に関する実証手続としては、例えば、以下
の監査手続が挙げられる。
(1) 保証が、契約書等に明示されていない場合を含め網羅的に把握されていることを確かめる。
(2) 各々の保証について、履行義務として識別するか、又は引当金として計上するか、適切に検
討されているかを確かめる。
(3) 保証の金額が取引価格や過去の実績等に基づき適切に見積もられていることを確かめる。
(4) 顧客が財又はサービスに対する保証を単独で購入するオプションを有している場合、当該保
証は別個のサービスであるため履行義務として識別され、取引価格の一部が適切に当該履行義
務に配分されているかを確かめる。
(5) 認識した収益に関する契約において約束した財又はサービスに対する保証と保証サービスの
両方が一括して単一の履行義務として処理されている場合、それぞれを区分して合理的に処理
できないとの判断が適切に行われているかを確かめる。
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《⑥ 本人と代理人の区分の検討に関する実証手続》
97.本人と代理人の区分の検討に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 取引のパターンごとに、事業の特性や商流、他の当事者の関与の有無、取引への関与の度合
い等が網羅的に把握されていることを確かめる。
(2) 顧客との契約に複数の特定の財又はサービスが含まれている場合には、本人と代理人の区分
の判定が特定の財又はサービスのそれぞれについて行われているかどうかを確かめる。
(3) 取引のパターンごとに、収益認識適用指針第 44 項のいずれかを企業が支配しているかどうか
を確かめる。
《(3) 取引価格の算定》
《① 変動対価の額の見積りに関する実証手続》
98.変動対価の額の見積りに関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 契約書等を閲覧し、変動対価に結びつくようなスライド条項、ペナルティー及びインセンテ
ィブ等の契約条件の有無を確かめる。
(2) 変動対価が生じているにもかかわらず、変動対価に結びつくような情報が、契約書等に明示
されていない場合又は契約変更について契約書等がない場合には、交渉の過程で顧客との間で
取り交わされた提案書や見積書、出席者の相互承認が得られている顧客との打合せ議事録等に
より、当該情報及び契約変更について顧客との実質的な合意があることを確かめる。
(3) 変動対価の額の見積りに関する資料により、企業が最頻値法又は期待値法のうち適切な方法
を、契約全体を通じて首尾一貫して適用し、合理的に入手できる全ての情報を考慮して、発生し
得ると考えられる合理的なシナリオに基づいて変動対価の額を見積もっていることを確かめる。
(4) 変動対価の額の見積りは各決算期に見直されていることを確かめる。
(5) 見積計上した金額と確定額又は再見積額との比較を実施し、収益の著しい減額が発生してい
ないことを確かめる。
《② 契約における重要な金融要素に関する実証手続》
99.契約における重要な金融要素に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 契約書等を閲覧し、信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供されていることの
前提となる支払条件を確かめる。
(2) 信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供されているか否かの判断が、企業があ
らかじめ作成した方針と整合していることを確かめる。
(3) 対価の額と現金販売価格の差額、財又はサービスが顧客に移転する時点と顧客が支払を行う
時点との間の予想される期間の長さ及び市場金利の影響を含む関連する全ての事実及び状況に
より、企業による金融要素に係る重要性の判断の妥当性を確かめる。
(4) 企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用される割引率の見積りについて、企
業又は顧客の財務内容を検討し、企業により算出された割引率の妥当性を確かめる。
(5) 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、再計算により、企業が取引価格の算定に当
たって調整した金利相当分の金額の妥当性を確かめる。
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《③ 履行義務への取引価格の配分に関する実証手続》
100.履行義務への取引価格の配分に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 企業が独立販売価格の見積方法として、予想コストに利益相当額を加算するアプローチを用
いる場合、入札・提案時の採算計算に関する資料及び実行予算等との整合性を確かめる。
(2) 企業が独立販売価格の見積方法として、残余アプローチを用いる場合、過去の販売実績等に
より、残余アプローチを用いることの妥当性を確かめる。
(3) 企業が収益認識適用指針第 100 項で定められている代替的な取扱いを適用する場合には、契
約書等を閲覧し、対象となる財又はサービスが、契約における他の財又はサービスに付随的な
ものであり、重要性が乏しいことを確かめる。
《(4) 履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関する実証手続》
《① 履行義務の充足に係る進捗度の正確性に関する実証手続》
101.履行義務の充足に係る進捗度の正確性に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が
挙げられる。
(1) 履行義務の充足に係る進捗度について再計算により、正確性を確かめる。
(2) 履行義務の充足に係る進捗度が各決算日に見直されていることを確かめる。
(3) 作業現場の視察や社内検査の結果の閲覧により、工事契約等の履行義務の充足に係る進捗度
の見積りの妥当性を確かめる。
《② アウトプット法を用いた履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関する実証手続》
102.アウトプット法を用いた履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関する実証手続としては、
例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 履行義務の充足に係る進捗度を算定する方法としてアウトプット法を採用することに合理性
があることを確かめる。
(2) 履行義務の充足に係る進捗度の計算に使用された基礎数値の信頼性を確かめる。特に、生産
単位数、引渡単位数等の財務報告に直接関連しない可能性のある情報に基づいて算定されてい
る場合には、基礎数値と工事原価総額及び発生したコストとの整合性を確かめる。
(3) 識別された履行義務における施工者の履行義務全体と決算日までの当該義務の遂行程度のそ
れぞれに関連する基礎資料について、社内の適切な機関がモニタリングで利用している資料と
の整合性を確かめる。
《③ インプット法を用いた履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関する実証手続》
103.インプット法を用いた履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関する実証手続としては、例え
ば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 履行義務の充足に係る進捗度を算定する方法としてインプット法を採用することに合理性が
あることを確かめる。
(2) 履行義務の充足に係る進捗度が、採用した指標に基づいて決算日までに発生したコスト及び
工事原価総額に基づいて適切に算定されていることを確かめる。また、発生した労働時間等、財
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務報告に直接関連しない可能性のある情報に基づいて算定されている場合には、基礎数値、工
事原価総額及び発生したコストとの整合性を確かめる。
(3) 施工部門が作成した工程表等による進捗度と履行義務の充足に係る進捗度との比較分析を行
い、乖離した理由の妥当性を検討する。
(4) 目的物の出来上がった部分に対応して契約金額の請求を行っている場合には、請求状況との
比較分析を行い、乖離した理由の妥当性を検討する。
(5) 工事原価総額の見積りにおいて決算日までに発生すると見積もられたコストと、履行義務の
充足に係る進捗度の見積りで用いられるコストとの比較分析を行い、乖離した理由の妥当性を
検討する。
《④ 収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の対象の網羅性に関する実証手続》
104.収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用の網羅性に関する実証手続としては、
例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 全ての履行義務について、首尾一貫した方法で、類似の履行義務及び状況について履行義務
の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができるか否かの経営者の判断が妥当かを確かめ
る。
(2) 収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法が適用されていない識別された履行義務に
ついてその妥当性を確かめる。
《(5) 工事原価総額の見積りに関する実証手続》
105.コストに基づくインプット法を採用する場合の工事原価総額の見積りに関する実証手続として
は、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 工事原価総額の見積りの基礎となる実行予算を適時に、かつ、合理的に策定していることを
確かめる。
(2) 実行予算が識別された履行義務ごとに適切に把握されていることを確かめる。
(3) 適切な品質管理基準によるテストが行われ、その結果が適時・適切に実行予算に反映されて
いることを確かめる。
(4) 識別された履行義務の進捗に伴い、適時・適切かつ網羅的に実行予算の見直しを行っている
ことを企業の資料の閲覧等により確かめる。
(5) 実行予算の各項目について、集計の正確性を確かめる。
(6) 会計帳簿と施工部門のコストの予算管理帳簿の数値等その他の管理資料との整合性を確かめる。
(7) 収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の適用により計上した各期の工事損益率等
を趨勢分析し異常性がないことを確かめる。
(8) 決算日後の実行予算の策定状況及び変更状況を確かめる。
《(6) コストに基づくインプット法を採用する場合の発生したコストに関する実証手続》
106.コストに基づくインプット法を採用する場合の発生したコストに関する実証手続としては、例
えば、以下の監査手続が挙げられる。なお、以下に例示した監査手続の実施に際しては、架空原価
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の計上についても留意する。
(1) 履行義務の充足に係る進捗度に合理的に反映させるために発生したコストの調整が行われて
いる場合には、調整方法の合理性や対象となる識別された履行義務の網羅性を確かめる。
(2) 外注業者等に対して識別された履行義務ごとに債務の残高確認等を行い、外注費等の妥当性
を確かめる。
(3) 請求書締切日から決算日までの間に提供を受けた役務等及び支払留保金等の調整を行ってい
ることを確かめる。
(4) 前渡金等、識別された履行義務全体のうち、履行義務の充足に係る進捗度に比例しない金額
を発生したコストから除外していることを確かめる。
(5) 材料、買入部品等について契約書等に明示されている数量と実際数量との比較分析を実施し
数量の妥当性を確かめる。
(6) 人件費について勤務データ、作業日報、工程表等との整合性を確かめる。
(7) 発生したコストの振替がある場合には振替内容が妥当であることを確かめる。
(8) 追加コストに対しては、計上理由や計上金額が適切であることを確かめる。
《(7) 原価回収基準に関する実証手続》
107.原価回収基準に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 回収することが見込まれる費用の計算が、信頼性のある情報に基づいて行われていることを
確かめる。
(2) 原価回収基準が適用された履行義務について、首尾一貫した判断基準により、回収可能性の
判断が行われていることを確かめる。
(3) 決算日ごとに、費用の回収可能性に関する見直しが、識別された履行義務ごとに行われるこ
とを確かめる。
(4) 収益認識適用指針第 99 項に従い契約の初期段階にあるとして原価回収基準を適用していない
識別された履行義務について、契約の初期段階であることを確かめる。
《(8) 工事損失引当金》
108.工事損失引当金に関する実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
(1) 工事契約等の収益認識の単位ごとに工事損益が記録された一覧表等を閲覧し、工事損失引当
金の計上対象の網羅性を確かめる。
(2) 工事損失の見積額について、適時・適切に見直しが行われた実行予算等に基づいて合理的に
見積もられていることを確かめる。
(3) 工事損失のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損
失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金が計上されていることを確かめる。
《(9) コンピュータ利用監査技法(Computer-assisted audit techniques:CAAT)を利用した実証
手続》
109.コンピュータ利用監査技法を利用した実証手続としては、例えば、以下の監査手続が挙げられる。
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(1) 仕訳の検証においては、例えば、以下の事項を確かめる。
① 通常想定されない相手勘定(棚卸資産の相手勘定が仕入債務ではない等)の仕訳を抽出し、
その妥当性を検討する。
② 識別された履行義務間で行われている発生したコストの振替仕訳を抽出し、その妥当性を
検討する。
③ 自動仕訳以外の仕訳により記帳されている仕訳を抽出し、その妥当性を検討する。
(2) 原価管理システムにおける発生したコストの検証においては、例えば、以下の事項を確かめる。
① 原価管理システムにおける処理の結果のみが仕訳として起票される場合、原価管理システ
ムで処理された発生したコストの取消しや識別された履行義務間で行われている発生したコ
ストの振替処理を抽出し、その妥当性を検討する。
(3) 実行予算の検証においては、例えば、以下の事項を確かめる。
① 期末日近くで実行予算の修正が行われているものを抽出し、その妥当性を検討する。
② 一定期間を超えても実行予算が策定されていないものを抽出し、その妥当性を検討する。
③ 実行予算で考慮されていない発生したコストを抽出し、その妥当性を検討する。
(4) 識別された履行義務に係る利益率の検証においては、例えば、以下の事項を確かめる。
① 監査人が合理的と判断する一定の利益率と大幅に乖離しているものを抽出し、その妥当性
を検討する。
② 識別された履行義務の遂行期間を通じて決算日ごとに一定の範囲を超えて利益率が変動し
ているものを抽出し、その妥当性を検討する。
③ 通常よりも粗利率の低い取引を抽出し、商流等を勘案しその合理性を検討する。
(5) 履行義務の充足に係る進捗度の検証においては、例えば、以下の事項を確かめる。
① 監査人が合理的と判断する一定の履行義務の充足に係る進捗度と大幅に乖離しているもの
を抽出し、その妥当性を検討する。
② 期末日近くで履行義務の充足に係る進捗度が異常な推移となっているものを抽出し、その
妥当性を検討する。
③ 過去の履行義務の充足に係る進捗度に関する実績データ(検討対象としているものを除く。)
に基づき、統計学を用いて決定した履行義務の充足に係る進捗度の閾値から外れているもの
を抽出し、その妥当性を検討する。
以 上
・ 本実務ガイダンス(2022 年 10 月 13 日改正)は、次の公表物の公表に伴う修正を反映してい
る。
- 監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」(2022 年7月
21 日改正)
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《付録:業務プロセスにおける留意事項の例示》
以下は、収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法により収益の認識を行うことが想定さ
れる建設業及び受注制作のソフトウェア業の財務諸表の監査において、収益認識会計基準及び収益
認識適用指針における定め及び要件を満たすために企業が整備した業務プロセスを理解する上での
留意事項の例示であり、監査人がチェックリストとして一律に用いることを想定したものではない。
収益認識会計基準及び収益認識適用指針では、様々な定め及び要件等が規定されている。収益認
識会計基準及び収益認識適用指針を適切に適用するためには、これらの定め及び要件を業務プロセ
スにおいて適切に検討・判断することが必要となるが、何をどのように業務プロセスで検討するか
は企業の置かれている状況により異なり、企業が費用と便益を比較衡量の上、収益認識会計基準及
び収益認識適用指針における様々な定め及び要件が適切に適用されるようにするために必要と判断
した内部統制を整備し運用する。
監査人は、以下に記載された留意事項の例示を理解した上で、監査基準報告書315第11項及びA58
項に従い、監査人の職業的専門家の判断の結果として業務プロセスに係る内部統制を理解する。し
たがって、以下は留意事項の例示であり、これらを考慮しない場合であっても、考慮しないことに
関する合理的な理由について監査調書に記録することを求めるものではない。
《1.収益を認識する単位の決定》
《(1) 契約の識別》
1.契約の識別に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① 顧客との間で個々の取引に係る交渉を進める中で、どの段階において契約が識別されるか、
また、どのような形態での合意を契約として識別するかについての方針
② 取引開始日において契約を識別できない取引について、事後的に要件が満たされたとする
かについての方針
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 当事者が、書面、口頭、電磁的記録、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履
行を約束していること。
② 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること。
③ 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること。
④ 契約に経済的実質があること。
⑤ 対価の支払期限到来時における顧客が支払う意思と能力を考慮して、顧客に移転する財又
はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと。
(3) 顧客との契約の識別はどのように承認を得ているか。
《(2) 契約の結合》
2.契約の結合に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されていること。
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② 一つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受ける
か否か。
③ 複数の契約が同時又はほぼ同時に締結されていること。
④ 複数の契約において約束した財又はサービスが、単一の履行義務となるか否か。
(2) 複数の契約を結合するかどうかの検討はどのように承認を得ているか。
3.契約の結合に関し、収益認識適用指針第 101 項で定められている代替的な取扱いを適用してい
る場合の業務プロセスを理解する上での追加的な留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① 個々の契約が取引の実態を表す実質的な取引単位であると判断するための方針
② 個々の契約で定められている財又はサービスの価格と独立販売価格とを比較し、著しく異
ならないと判断するための方針
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 個々の契約が取引の実態を表す実質的な取引単位であること。
② 個々の契約で定められている財又はサービスの価格と独立販売価格が著しく異ならないこ
と。
(3) 検討した結果についてどのように承認を得ているか。
4.契約の結合に関し、収益認識適用指針第 102 項及び第 103 項で定められている代替的な取扱い
を適用している場合の業務プロセスを理解する上での追加的な留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① どのような場合に重要性が乏しいと判断するかの方針
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 例えば、当初の契約時点では、同一の商業的目的を有する取引全体について顧客との合意が
行われず、進捗に応じて徐々に合意が形成されるような場合において、当事者間で合意された
実質的な取引の単位として複数の契約を結合して収益認識した場合と、個々に収益認識した
場合の収益認識の時期及び金額との差異を把握し差異が重要なものでないこと。
(3) 検討した結果についてどのように承認を得ているか。
《(3) 契約変更》
5.契約変更に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 契約の範囲の変更は決定しているが、変更された契約の範囲に対応する価格の変更を決定
していない場合における対価の額の見積りに関する方針
② 契約変更により生じる取引価格の変更の見積り方法(第 11 項参照)
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 追加された財又はサービスが既存の財又はサービスとは別個の財又はサービスとなるか否
か。
② 変更される契約の価格が、追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格に特定
の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されるか否か。
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③ 独立した契約として処理されない場合に、いまだ移転していない財又はサービスが契約変
更日以前に移転した財又はサービスと別個のものであること、又は契約変更日において部分
的に充足されている単一の履行義務の一部を構成すること、若しくはこれらの両方を含むこ
と。
(3) 契約変更に関する処理はどのように承認を得ているか。
6.契約変更に関し、収益認識適用指針第 92 項で定められている代替的な取扱いを適用している
場合の業務プロセスを理解する上での追加的な留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① どのような場合に重要性が乏しいと判断するかの方針
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 契約変更による財又はサービスの追加がされた場合、既存の契約内容に照らした場合の重
要性
(3) 検討した結果についてどのように承認を得ているか。
《(4) 履行義務の識別》
7.履行義務の識別に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、当該財又はサービスが別個の財
又はサービスとなるか否か。
② 顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、当該別個の財又はサービスの特
性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じであるか否か。
(2) 履行義務の識別はどのように承認を得ているか。
8.履行義務の識別に関し、収益認識適用指針第 93 項で定められている代替的な取扱いを適用し
ている場合の業務プロセスを理解する上での追加的な留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① どのような場合に重要性が乏しいと判断するかの方針
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 約束した財又はサービスに関し、顧客との契約の観点で定量的及び定性的な性質を考慮し
た契約全体における相対的な重要性
(3) 検討した結果についてどのように承認を得ているか。
《(5) 財又はサービスに対する保証の検討》
9.財又はサービスに対する保証に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の実施方法がどのように定められているか。
① 自社が行っている保証の内容を判断するために必要となる情報の収集・管理
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 顧客との契約の中に財又はサービスに対する保証が含まれている場合、履行義務として識
別するか否か。
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② 約束した財又はサービスに対する保証が、財又はサービスが合意された仕様に従っている
という保証と保証サービスの両方を含む場合、それぞれを区分して適切に処理できるか否か。
③ 顧客が財又はサービスに対する保証を単独で購入するオプションを有しているか否か。
(3) 財又はサービスに対する保証の内容及び処理はどのように承認を得ているか。
《(6) 本人と代理人の区分の検討》
10.本人と代理人の区分に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① 財又はサービスが顧客に提供される前に当該財又はサービスを企業が支配しているとする
かについての方針
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 約束の履行に対する主たる責任、在庫リスク及び価格裁量権等といった指標を考慮して、財
又はサービスが顧客に提供される前に当該財又はサービスを企業が支配しているか否か。
② 顧客との契約に複数の特定の財又はサービスが含まれている場合、個々の財又はサービス
のそれぞれに対しての本人と代理人の区分
③ 企業に代わり外注先等の他の当事者に履行義務の一部又は全部を充足させる場合、企業が
本人に該当する可能性
(3) 本人と代理人の検討はどのように承認を得ているか。
《2.取引価格の算定》
《(1) 変動対価の額の見積り》
11.変動対価の額の見積りに関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 対価の額を適切に予測するための方針
② 変動対価の額に関する不確実性の影響を見積もるに当たって、契約全体を通じた首尾一貫
した単一の方法の適用
③ 見積もった取引価格の、各決算日における見直し
④ 契約条件にスライド条項等の事後的な値引き又は値増しの条項がある場合における、企業
が入札や提案の過程などを通じて合理的に入手できる全ての情報を考慮した発生し得ると考
えられる対価の額に関し合理的な数のシナリオの識別
⑤ 変動対価に結びつくような情報の収集・管理
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 見積計上した金額と確定額又は再見積額との比較を実施し、乖離が生じた場合における原
因
② 値引き又は値増しに関し、企業の取引慣行、同じ顧客との契約、顧客との交渉状況及びその
他特性の類似した契約など。
③ ペナルティーやインセンティブ等に関し、履行義務を充足するまでの見込期間、各決算日時
点の進捗及び顧客との交渉状況など、発生の要因となる事実
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(3) 変動対価の額の見積りはどのように承認を得ているか。
《(2) 契約における重要な金融要素》
12.契約における重要な金融要素に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 信用供与に関し、重要な便益が顧客又は企業に提供されているとするかについての方針
② 重要な金融要素の影響に関し、約束した対価の額を調整する場合における、契約における取
引開始日において企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積もら
れる割引率の決定
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 契約に明記されているか否かにかかわらず、信用供与の存在に関する実質的な判断
② 対価の額と現金販売価格の差額、財又はサービスが顧客に移転する時点と顧客が支払を行
う時点との間の予想される期間の長さ及び市場金利の影響を含む関連する全ての事実及び状
況
③ 対価の額と現金販売価格との差額が信用供与以外の理由により生じていると判断する場合
の理由の合理性
④ ソフトウェア等の利用料を長期間にわたって顧客から回収する契約のように、契約書等に
おいて信用供与に関し明示されておらず、企業会計基準第 13 号「リース取引に関する会計基
準」が適用されていない取引
(3) 重要な金融要素の有無及び使用する割引率はどのように承認を得ているか。
《(3) 履行義務への取引価格の配分》
13.履行義務への取引価格の配分に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 値引き又は変動対価を特定の履行義務に配分するかについての方針
② 複数の履行義務に関し包括契約を結んだ場合における、履行義務に取引価格を適切に配分
するための独立販売価格の見積方法
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 類似の状況における、独立販売価格の見積方法の首尾一貫性
② 独立販売価格の見積方法として、予想コストに利益相当額を加算するアプローチを用いる
場合における、入札・提案時の採算計算に用いた情報との整合性
③ 独立販売価格の見積方法として、残余アプローチを用いる場合における、企業が当該財又は
サービスを独立して販売したことがないなど、残余アプローチを適用できる要件の充足
④ 複数の履行義務に関し包括契約を結んだ場合における、履行義務への取引価格の配分
⑤ 契約変更によって生じる取引価格の変更があった場合における、履行義務への取引価格の
配分
(3) 履行義務への取引価格の配分はどのように承認を得ているか。
14.履行義務への取引価格の配分に関し、収益認識適用指針第 100 項で定められている代替的な取
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扱いを適用している場合の業務プロセスを理解する上での追加的な留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① どのような場合に重要性が乏しいと判断するかの方針
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 対象となる財又はサービスが、契約における他の財又はサービスに付随的なものであるか
否か。
② 対象となる財又はサービスの重要性
(3) 検討した結果についてどのように承認を得ているか。
《3.履行義務の充足に係る進捗度》
《(1) 履行義務の充足に係る進捗度の見積り》
15.履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 履行義務の充足に係る進捗度の見積方法としてアウトプット法又はインプット法を用いる
かについての方針
② 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができると判断された全ての履行義
務に関し、首尾一貫した方法で、履行義務の充足に係る進捗度の見積りに適切な方法(アウト
プット法又はインプット法)を採用すること。
③ 履行義務の充足に係る進捗度の見積りにおける恣意性の介入の防止
④ 履行義務の充足に係る進捗度の見積りに当たって基礎となる情報の収集や基礎数値の見積
り
⑤ 履行義務の充足に係る進捗度の計算方法
⑥ 履行義務の充足に係る進捗度の各決算日における見直し
(2) 履行義務の充足に係る進捗度の見積方法の選択はどのように承認を得ているか。
《(2) アウトプット法》
16.アウトプット法に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の事項をどのように検討しているか。
① アウトプット法を用いて履行義務の充足に係る進捗度を見積もることが、履行義務の充足
に係る進捗度を合理的に反映する方法であること。
② アウトプット法を用いる場合、履行義務の充足に係る進捗度をどのような指標を用いて見
積もるか。
③ 工程表等による進捗度と履行義務の充足に係る進捗度を比較すること等による見積結果の
妥当性
(2) 見積もられた履行義務の充足に係る進捗度の合理性を確保するためにどのように承認を得て
いるか。
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《(3) インプット法》
17.インプット法に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① コストに基づくインプット法を用いて履行義務の充足に係る進捗度を見積もる場合、工事
原価総額及び発生したコストに関する業務プロセス(付録第 18 項から第 23 項参照)。
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① コストに基づかないインプット法を用いて履行義務の充足に係る進捗度を見積もることが、
履行義務の充足に係る進捗度を合理的に反映する方法であること。
② コストに基づかないインプット法を用いる場合、履行義務の充足に係る進捗度をどのよう
な指標を用いて見積もるか。
③ 工程表等による進捗度と履行義務の充足に係る進捗度を比較すること等による見積結果の
妥当性
《4.工事原価総額の見積り》
《(1) 実行予算の策定手続及び承認手続》
18.実行予算の策定手続及び承認手続に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① 受注時の予算から実行予算承認にいたる手続、策定方法
② 実行予算の策定期限に関する方針
③ 策定された実行予算の変更や見直しに関する手続、変更方法
④ 原価要素を識別された履行義務ごとに集計するプロセス
(2) 以下の事項をどのように実施しているか。
① 材料費や外注費等に関し、見積書の入手等による、適切な積上げによる集計
② 人件費に関し、職位に応じて適切な賃率等が設定されている場合、これに適切に見積もられ
た工数を乗じた計算
《(2) 予算実績管理及び工事原価総額の見積りの見直し》
19.予算実績管理及び工事原価総額の見積りの見直しに関する業務プロセスを理解する上での留意
事項
(1) 以下の実施方法がどのように定められているか。
① 発生したコストを適時・適切に実行予算と対比できるような集計
② 当初の実行予算と見直された後の実行予算又は直近の実行予算と発生したコストとの差異
を把握し、乖離が生じた場合には、その原因を分析又は検討するとともに、完成までに要する
コストを含めた工事原価総額の見積りへの適切な反映
③ 事後的な事情の変化や契約の変更といった諸条件の変化に関する情報が、適時に見積担当
部署に伝達されることによる工事原価総額への反映
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《5.発生したコスト》
《(1) 発注》
20.発注に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の実施方法がどのように定められているか。
① 外注業者等に対する発注内容、金額及び当該外注業者等の選定理由
② 発注段階において、コストを計上する予定の識別された履行義務を特定し、発生したコスト
を当該特定の識別された履行義務に適切に計上する発注管理
(2) 外注業者等への発注についてどのように承認を得ているか。
《(2) 履行義務の充足に係る進捗度と関連しないコストの修正》
21.履行義務の充足に係る進捗度と関連しないコストの修正に関する業務プロセスを理解する上で
の留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 履行義務の充足に係る進捗度の見積りに関し、発生したコストの修正を行うかについての
方針
② 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に反映させるために行われる発生したコストの修正
に関する規定
③ 履行義務の充足に係る進捗度の見積りにおける、発生したコストの修正を行う必要がある
識別された履行義務の有無に関する情報の収集
④ 外注費等を目的物の出来上がった部分に対応して支払っている場合の算定方法
⑤ 他の識別された履行義務のコストや関連性のない外注費等(架空外注費等を含む。)が発生
したコストに含まれることによる、履行義務の充足に係る進捗度が過大に見積もられるリス
クの防止
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 発生したコストに含めるように修正するための、請求書締切日から決算日までの間に提供
を受けた役務等
② 発生したコストに反映するように修正するための、支払留保金等
③ 発生したコストから控除するための、識別された履行義務全体のうち、決算日までの履行義
務の充足には含まれない前渡金等
(3) 発生したコストの修正はどのように承認を得ているか。
《(3) 人件費》
22.各人の作業日報に基づき集計計算されている場合の人件費に関する業務プロセスを理解する上
での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 作業日報の作成に関する規定
② 作成された作業日報が実態に合ったものであることを確認するためのモニタリング
③ 作業日報を変更する際の手続
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(2) 作業日報はどのように承認を得ているか。
《(4) 関連のない他の識別された履行義務に係る認識の単位との間の発生したコストの振替及び付
け替えの防止》
23.コストの付け替えを含む発生したコストの振替に関し、関連のない他の識別された履行義務に
係る認識の単位との間の発生したコストの振替及び付け替えの防止に関する業務プロセスを理解
する上での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 発生したコストの振替を行う際の、振替理由及び振替の手続
② 振り替えるべき発生したコストの適時・適切な把握及び集計
③ 発注に関する業務プロセス(第 20 項参照)。
④ 外注業者等からの請求書に関し、どの識別された履行義務のコストか、どのような作業を実
施したかについての事後的な検証可能性
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 適時・適切な振替の実施
② 他の識別された履行義務の発生したコストが混入している場合には識別できるように、実
行予算と実績との適時・適切な比較分析による、差異原因の分析
《6.原価回収基準》
《(1) 原価回収基準の適用》
24.原価回収基準の適用に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① 履行義務を充足する際に発生する費用を回収することができるとするかを判断するための
方針
② 決算日ごとに、履行義務を充足する際に発生する費用の回収可能性の見直し
(2) 発生する費用の回収可能性の判断はどのように承認を得ているか。
《(2) 原価回収基準の網羅性》
25.原価回収基準の網羅性に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができないと判断された履行義務の
全てに対して、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することができるかどうか
の検討
② 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができないが、当該履行義務を充足
する際に発生する費用を回収することが見込まれると判断された履行義務の全てに対して、
原価回収基準が適用されていることの検討
(2) 原価回収基準を適用していない識別された履行義務についてどのように承認を得ているか。
26.原価回収基準の網羅性に関し、収益認識適用指針第 99 項で定められている代替的な取扱いを
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適用している場合の業務プロセスを理解する上での追加的な留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① 契約の初期段階であると判断するための方針
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 原価回収基準が適用されていない識別された履行義務に関し、契約の初期段階にあること
の検討
(3) 検討した結果についてどのように承認を得ているか。
《7.工事損失引当金》
《(1) 工事損失引当金の計上》
27.工事損失引当金の計上に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針又は実施方法がどのように定められているか。
① 工事損失引当金の計上についての方針
② 工事収益総額の見積りの方法(付録第 11 項から第 14 項参照)。
③ 工事原価総額の見積りの方法(付録第 18 項及び第 19 項参照)。
(2) 以下の事項をどのように検討しているか。
① 実行予算等や販売直接経費がある場合はその見積額
(3) 工事損失引当金の計上はどのように承認を得ているか。
《(2) 工事損失引当金の網羅性》
28.工事損失引当金の網羅性に関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の実施方法がどのように定められているか。
① 工事損失が見込まれる識別された履行義務の網羅的な集計
② 対象となる識別された履行義務が網羅的に工事損失引当金の計上の検討対象となっている
ことの確認
《8.ITを利用した情報システム》
29.ITを利用した情報システムに関する業務プロセスを理解する上での留意事項
(1) 以下の方針がどのように定められているか。
① 受注情報、工事収益総額、工事原価総額及び発生したコストのシステムへの登録(当初登
録、変更、修正及び取消し)及び承認
(2) システムにおける以下の事項をどのように検討しているか。
① 複数のシステムにより収益認識会計基準第 38 項に定める収益の認識方法の基礎となる情
報が管理されている場合、システム間の整合性及び連携
② 設定されている自動計算の計算過程
③ 独立販売価格の設定方法
④ 契約と履行義務の関連付け
⑤ 履行義務への取引価格の配分計算
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⑥ 履行義務の充足による収益の認識方法
⑦ 契約変更や取引価格の変動への対応
⑧ 収益の認識方法の設定方法
⑨ 履行義務の充足に係る進捗度の測定方法
以 上
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