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監査基準報告書701_研究文書第2号「監査上の主要な検討事項」の事例分析(2021 年4月~2022 年3月期)レポート(研究文書).pdf

監査基準報告書 701 研究文書第2号

「監査上の主要な検討事項」の事例分析(2021 年4月~2022 年3月期)レポート

(研究文書)

2 0 2 2 年 1 2 月 2 3 日

日 本 公 認 会 計 士 協 会

監 査 ・ 保 証 基 準 委 員 会

(研究文書:第 12 号)

監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)が上場会社等の監査に適用されて 2022 年3

月期で強制適用2年目を迎えた。当協会では、2021 年4月~2022 年3月期に係る監査報告書におけ

る KAM の事例を収集し、会員各位の参考となる情報を提供すべく、本研究文書の取りまとめを行っ

た。

本研究文書は、一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成するものではなく、会員が遵守す

べき基準等にも該当しない。また、2022 年 12 月 23 日時点の最新情報に基づいている。

以 上

「監査上の主要な検討事項」の事例分析 (2021年4月~2022年3月期)レポート (研究文書)

Copyright © The Japanese Institute of Certified Public Accountants.

AGENDA

Ⅰ はじめに

 1.本研究文書の概要

 2.分析に係る基礎情報

Ⅱ KAMの個数・文字数に係る定量分析

 1.業種別傾向の分析

 2.企業規模別傾向の分析

 3.会計基準別傾向の分析

 4.監査法人規模別傾向の分析

Ⅲ 個別トピックに係る定性分析

 1.早期適用会社のKAMに係る分析

 2.収益認識関連の分析

 3.IT関連の分析

 4.不正関連の分析

 5.継続企業の前提に関する分析

 6.気候変動関連の分析

 7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析

Ⅳ おわりに

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Ⅰ はじめに

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2

1.本研究文書の概要

(1) 公表の背景

 当協会においては、KAMの早期適用年度(2020年3月期)からKAMの事例収集・分析を行っており、これまで

に以下を公表している。

 監査基準報告書701研究文書第1号「「監査上の主要な検討事項」の早期適用事例分析レポート(研究文書)」

(2020年10月8日公表)

 「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度(2021年3月期)事例分析レポート」(委託研究)(2021年10月

29日公表)

 KAMの強制適用2年目となる2022年3月期についても、会員に有用な情報を提供することを目的として、今般、

KAMの事例分析レポートの取りまとめを行った。

(2) 本研究文書の構成

 KAMの個数・文字数に係る定量分析(Ⅱ章)と個別トピックに係る定性分析(Ⅲ章)の二つの章から構成して

いる。

 個別トピックに係る定性分析については、会員の関心が高いと考えられるトピックについて、事例を取り上げ

ながら全体的な傾向、記載上の工夫が見られる点等について解説を行っている。

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3

2.分析に係る基礎情報

(1) 分析対象となるKAMの母集団

 2022年6月末までにEDINETに提出された、2021年4月~2022年3月期の監査報告書に係るKAM(原則として連結・上場会社に限定※)

※「Ⅲ1.早期適用会社のKAMに係る分析」においては可能な限りサンプル数を増やす観点から単体又は非上場会社を対象に含めている。

 定量分析の一部や「Ⅲ1.早期適用会社のKAMに係る分析」など、経年比較を行う場合には、3月31日決算会社を母集団としている。  「Ⅲ 個別トピックに係る定性分析」において具体的な事例分析を実施する際には、それぞれの分析において着目したキーワード(例:収益認識、IT 等)を基に抽出したKAMデータについて、全件を母集団とするか、件数が膨大な場合には、固有の情報量が多いと考えられるKAMを重点的に分析する という観点から、TF-IDF分析※のスコア値が高いKAMを抽出して母集団としている。

※テキスト情報(文書)の分析に使われる、代表的な機械学習による分析方法の一つで、他であまり使われていない単語を多用している場合に、当該サンプルに高い 得点を振るもの。なお、当該分析においては、業種固有の特徴の差を排除するため、業種別の母集団において算定している。

(2) 定性分析における母集団の抽出方法

 Ⅲ章の各定性分析における母集団の抽出方法は以下のとおりである。

定性分析の内容

Ⅲ1.早期適用会社のKAMに係る分析

Ⅲ2.収益認識関連の分析:収益認識関連KAMの全般的分析

Ⅲ2.収益認識関連の分析:新収益認識基準の適用に関する分 析 Ⅲ2.収益認識関連の分析:収益認識と不正の関連に関する分 析

Ⅲ3.IT関連の分析:企業側のIT評価に係るKAMの分析

母集団の抽出方法 KAMを早期適用した会社(単体又は非上場会社を含む)のうち、複数年度にわたり同一のテーマを取り扱っていると考 えられるKAM (82テーマの計229KAM) 「見出し」又は「内容及び決定理由」において「収益認識」、「工事進行基準」又は「履行義務」のキーワードを使用 しているKAMのうち、TF-IDF分析スコア値の上位50個 「見出し」又は「内容及び決定理由」において「収益認識」、「工事進行基準」又は「履行義務」のキーワードを使用 しているKAMのうち、「会計基準」のキーワードを使用しているKAM(83個) 「見出し」又は「内容及び決定理由」において「収益認識」、「工事進行基準」又は「履行義務」のキーワードを使用 しているKAMのうち、「不正」のキーワードを使用しているKAM(10個) 「見出し」若しくは「内容及び決定理由」において「IT」、「システム」のキーワードを使用しているKAM、又は「見 出し」、「内容及び決定理由」若しくは「監査上の対応」において 「全般統制」、「業務処理統制」のキーワードを使 用しているKAMのうち、TF-IDF分析スコア値が高い上位50個

Ⅲ3.IT関連の分析:監査人側のIT利用に係るKAMの分析

「監査上の対応」において「ツール」、「データ分析」を使用しているKAM(37個)

Ⅲ4.不正関連の分析

「見出し」又は「内容及び決定理由」において「不正」のキーワードで抽出したKAMのうち、実際に不正が発生した事 例(13個)

Ⅲ5.継続企業の前提に関する分析

「見出し」又は「内容及び決定理由」において「継続企業」のキーワードを使用しているKAM(76個)

Ⅲ6.気候変動関連の分析

「見出し」又は「内容及び決定理由」において「気候変動」のキーワードを使用しているKAM(5個)

Ⅲ7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 「見出し」又は「内容及び決定理由」において「工事進行基準」のキーワードを使用しているKAM(25個)

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Ⅱ KAMの個数・文字数に係る定量分析

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5

1.業種別傾向の分析:個数

 2022年3月末決算会社(連結)のKAMの個数について業種別に比較したところ、以下の結果となった。

水産・農林業

鉱業

建設業

製造業

電気・ガス業

運輸・情報通信業

商業

金融・保険業

不動産業

サービス業

計(KAM数)

0個

1個

2個

3個

4個

KAM個数

計(社数) 1社当たりの平均個数

0

0

0

0

0

0

0

0

0

1

1

4

4

74

731

9

241

229

110

30

137

2

0

27

200

12

55

83

27

13

47

0

0

1

22

0

9

8

5

5

2

0

0

0

2

0

3

1

3

1

0

6

4

102

955

21

308

321

145

49

187

1,569

466

52

10

2,098

1.33

1.00

1.28

1.26

1.57

1.27

1.32

1.32

1.53

1.27

1.29

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6

1.業種別傾向の分析:個数(参考)

 2021年4月~2022年3月末決算会社(連結)のKAMの個数について業種別に比較したところ、以下の結果となった。

水産・農林業

鉱業

建設業

製造業

電気・ガス業

運輸・情報通信業

商業

金融・保険業

不動産業

サービス業 計(KAM数)

0個

1個

2個

3個

4個

5個

KAM個数

計(社数) 1社当たりの平均個数

0

0

0

2

0

1

0

0

0

1

4

9

5

104

1,008

13

433

421

119

78

322

2

1

33

276

12

91

128

31

30

86

2,512

690

0

0

3

28

0

12

10

5

9

7

74

0

0

0

4

0

4

4

3

1

1

17

0

0

0

0

0

1

0

0

0

0

1

11

6

140

1,318

25

542

563

158

118

417

3,298

1.18

1.17

1.28

1.26

1.48

1.24

1.28

1.32

1.43

1.24

1.27

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7

1.業種別傾向の分析:文字数

 2022年3月末決算会社(連結)のKAMの文字数※について業種別に比較したところ、以下の結果となった。

※KAMごとの見出し、内容及び決定理由、監査上の対応の文字数の合計。なお、見出しに開示への参照が含まれているようなケースにおいて、開示への参照部分 に見出しタグを付していない場合には文字数に含めていない。以下、Ⅱ章において同様

水産・農林業

鉱業

建設業

製造業

電気・ガス業

運輸・情報通信業

商業

金融・保険業

不動産業

サービス業

計(KAM数)

~1,000

1,001~2,000 2,001~3,000

3,001~

文字数

計(KAM数) 平均文字数

2

2

20

363

4

113

116

20

24

77

6

2

95

818

27

267

294

134

51

153

741

1,847

0

0

13

24

2

9

12

30

0

8

98

0

0

3

0

0

1

1

7

0

0

8

4

131

1,205

33

390

423

191

75

238

12

2,698

1,319

964

1,516

1,198

1,348

1,213

1,223

1,591

1,151

1,196

1,248

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8

1.業種別傾向の分析:文字数(参考)

 2021年4月~2022年3月末決算会社(連結)のKAMの文字数について業種別に比較したところ、以下の結果となった。

水産・農林業

鉱業

建設業

製造業

電気・ガス業

運輸・情報通信業

商業

金融・保険業

不動産業

サービス業 計(KAM数)

~1,000

1,001~2,000 2,001~3,000

3,001~

文字数

計(KAM数) 平均文字数

5

2

34

526

6

218

214

23

63

157

1,248

8

4

128

1,102

29

437

486

145

103

348

0

1

14

34

2

17

22

33

3

14

0

0

3

0

0

1

1

7

0

1

13

7

179

1,662

37

673

723

208

169

520

2,790

140

13

4,191

1,248

1,260

1,422

1,189

1,302

1,177

1,208

1,574

1,131

1,185

1,218

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9

2.企業規模別傾向の分析

 2022年3月末決算会社(連結)のKAMの個数・文字数について企業規模別に比較したところ、以下の結果となった。  企業規模が大きくなるにしたがって、個数・文字数ともに増加する傾向となっている。

個数

連結売上高

0個

1個

KAM個数 2個

3個

4個

計(社数) 1社当たりの平均個数

1兆円以上 5,000億円以上1兆円未満

1,000億円以上5,000億円未満

1000億円未満

合計

文字数

連結売上高

1兆円以上

5,000億円以上1兆円未満

1,000億円以上5,000億円未満 1000億円未満 合計

0

0

0

1

1

47

61

329

1,132

1,569

65

42

124

235

466

14

10

7

21

52

4

1

4

1

10

130

114

464

1,390

2,098

1.81

1.57

1.32

1.20

1.29

文字数

~1,000

1,001~2,000 2,001~3,000

3,001~

26

20

132

563

741

176

149

451

1,071

1,847

27

8

28

35

98

計(KAM数) 平均文字数

6

2

3

1

12

235

179

614

1,670

2,698

1,521

1,417

1,304

1,171

1,248

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10

3.会計基準別傾向の分析

 2022年3月末決算会社(連結)のKAMの個数・文字数について会計基準別に比較したところ、以下の結果となった。

個数

会計基準

0個

1個

KAM個数 2個

3個

4個

社数計

1社当たりの平均個数

日本基準

IFRS

米国基準

合計

文字数

1

0

0

1

1,491

75

3

1,569

392

71

3

466

42

9

1

52

会計基準

~1,000

1,001~2,000

2,001~3,000

3001~

文字数

日本基準

IFRS

米国基準

合計

699

41

1

741

1,629

203

15

1,847

83

15

0

98

5

4

1

10

11

1

0

12

1,931

159

8

2,098

1.25

1.64

2.00

1.29

計(KAM数) 文字数平均

2,422

260

16

2,698

1,230

1,407

1,381

1,248

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3.会計基準別傾向の分析(参考)

 異なる売上規模の母集団ごとに、各会計基準の個数・文字数の平均を比較した図表は以下のとおりである。売上規模が

大きい母集団になるに従って、全体として日本基準とそれ以外の基準の差が縮小していく傾向が読み取れる。

個数

連結売上高

日本基準平均 (該当する社数)

IFRS平均 (該当する社数)

米国基準平均 (該当する社数)

全体

1.25個(1,931社)

1.64個(159社)

2.00個(8社)

3000億円以上8,500億円未満

1.47個(148社)

1.67個(33社)

3.00個(1社)

8,500億円以上

1.72個(88社)

1.78個(60社)

2.00個(6社)

文字数

連結売上高

日本基準平均 (該当するKAM数)

IFRS平均 (該当するKAM数)

米国基準平均 (該当するKAM数)

全体

1,230文字(2,422個)

1,407文字(260個)

1,381 文字(16個)

3000億円以上8,500億円未満

1,359文字(218個)

1,393文字(55個)

1,326 文字(3個)

8,500億円以上

1,545文字(151個)

1,479文字(107個)

1,441文字(12個)

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4.監査法人規模別傾向の分析

 2022年3月末決算会社及び2021年4月~2022年3月末決算会社(連結)のKAMの個数・文字数について監査法人規模別に

比較したところ、以下の傾向となった。

2022年3月末決算会社

監査法人規模

個数平均

文字数平均

大手

準大手

中小

1.29

1.32

1.24

1,326

1,160

1,003

2021年4月~2022年3月末決算会社

監査法人規模

個数平均

文字数平均

大手

準大手

中小

1.28

1.28

1.22

1,294

1,143

996

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Ⅲ 個別トピックに係る定性分析

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1.早期適用会社のKAMに係る分析 (1) 分析の概要

 「監査上の主要な検討事項」の記載は2021年3月31日以後終了する事業年度から強制適用となった。  KAMの経年比較を合理的に行う上で、2年を超える一定の複数事業年度のKAMが公表されていることが必要であるが、強制適

用会社では対象が2期分しかないため、3期分の比較が可能な早期適用会社について、個別の分析対象とした。

 KAMを早期適用した会社(単体又は非上場会社を含む)のうち、複数事業年度にわたり同一のテーマを取り扱っていると考え られるKAM(82テーマの計229個のKAM(※1) )について、文字数(※2)及び記載内容の推移を中心に分析を行い、その傾 向について検討を行った。

※1 2020年期から2022年期にかけて同一テーマを扱っているKAMのほか、2020年期から2021年期又は2021年期から2022年期にかけて同一テー マを扱っているKAMも分析対象としている。 ※2 文字数のカウントに当たっては、内容及び決定理由と監査上の対応の文字数を合計している。

平均文字数

100%未満

文字数前年比変化 (単位:KAM個数)

100%以上~120%未満

120%以上~150%未満

150%以上

平均変化率(%)

2020/3 2019/12

2021/3 2020/12

2022/3 2021/12

1,325

1,381

1,591

33

20

19

3

20

35

9

8

109.28

114.33

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15

1.早期適用会社のKAMに係る分析 (2) 総括

① 文字数の増加

 早期適用年度から強制適用1年目にかけて大きな文字数の変化がなかった場合、強制適用1年目から2年目にかけての変化 も少ないことが想定されたが、強制適用1年目から2年目にかけて大きく文字数が増加したものがあった。これは、強制 適用1年目に公表された他社事例が影響した可能性が高いと推察される。(P17、18参照)

 文字数が大きく増加したKAMでは、KAMの内容及び決定理由における事案の具体的な説明、会計処理の説明、選定理由

の説明や、監査上の対応における手続の説明などが追加されていた。(P19~21参照)

 早期適用年度から強制適用年度1年目及び2年目にかけて記載文字数に大きな変化がない場合であっても、リスク内容の

変化の説明や記載方法の工夫が行われている事例があった。(P22~24参照)

② 該当年度のトピックの記載

 新型コロナウイルス感染症の影響、ウクライナ情勢等、該当年度の特徴的事項の影響を記載した事例があった。(P25参

照)

③ 注記の拡充とKAMの記載の詳細化

 2021年3月期から企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が強制適用となり開示が充実したこ とで、会計上の見積り項目に係るKAMの記載が、前期に比べて詳細になった事例が多くみられたものと考えられる。こ れは、監査報告書におけるKAMと有価証券報告書における開示内容とが相互に影響し合い充実したことを示しており、 今後も経営者、監査役等、会計監査人の間で適宜協議を行い、KAMと開示の高度化を目指すことが重要であると考えら れる。(P26~28参照)

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16

1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 強制適用1年目から2年目にかけて大きく文字数が増加した会社

 強制適用1年目(2021年期)から強制適用2年目(2022年期)にかけて、大きく文字数が増加(120%以上)したKAMは以下のとお

りである。

会社名

㈱三菱ケミカルホールディングス

項目 医薬品に係る耐用年数を確定できない 無形資産(ニューロダーム社買収によ り識別した仕掛研究開発費及びリジェ ネロン社との導入契約により取得した 権利)の評価

㈱AOKIホールディングス

繰延税金資産の回収可能性

㈱新生銀行

貸倒引当金の算定

㈱りそなホールディングス

貸倒引当金の算定

㈱三井住友フィナンシャルグルー プ

㈱みずほフィナンシャルグループ

松井証券㈱(単体)

三菱地所㈱

四国電力㈱

SMBCの法人顧客向け貸出金に対す る貸倒引当金の評価 レベル3の時価に分類されるデリバ ティブ取引の時価算定の妥当性 財務報告に影響を与える証券取引に係 る基幹システム統制 不動産ファンド等に対する不動産販売 に係る収益認識 発電・販売事業セグメントの電灯料及 び電力料

2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期

(単位:文字)

1,219

1,908

1,915

662

673

1,581

1,102

1,599

1,507

1,859

1,122

779

758

1,936

1,419

2,229

3,832

3,143

1,699

976

921

2,187

1,756

2,144

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17

1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 強制適用1年目から2年目にかけて大きく文字数が増加した会社

続き

会社名

第一生命ホールディングス㈱

第一生命ホールディングス㈱

第一生命ホールディングス㈱

第一生命ホールディングス㈱

項目 責任準備金の積立ての十分性に関する 判断の妥当性 海外子会社で計上されているのれんの 減損損失の計上の要否に関する判断の 妥当性 海外子会社で計上されている保有契約 価値の償却又は損失の計上に関する判 断の妥当性 繰延税金資産の回収可能性に関する判 断の妥当性

ENEOSホールディングス㈱ 繰延税金資産の評価

東急不動産ホールディングス㈱

㈱三菱UFJフィナンシャル・グ ループ 三井住友トラスト・ホールディン グス㈱

不動産ファンド等を譲受人とした不動 産売却取引に係る収益認識等

貸出業務における貸倒引当金の算定

法人向け与信に対する貸倒引当金の見 積り

2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期

1,733

1,738

2,767

1,963

1,569

3,359

2,449

804

978

689

2,027

2,904

1,699

1,137

862

906

1,568

2,220

2,924

1,395

1,506

1,254

2,568

3,238

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18

1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 KAMの内容及び決定理由、監査上の対応において説明が追加された事例①

会社名:野村不動産ホールディングス㈱ 監査法人:EY新日本有限責任監査法人 見出し:住宅分譲目的で保有する不動産の評価

2020年3月期

2021年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

・・・ 分譲住宅は、将来における住宅販売市況の変化、開発の遅延などのリスクに晒されており、価格の下落 等に起因し、評価損が発生する可能性がある。

分譲住宅の評価は、将来の住宅販売市況についての経営者の予測や期待において主観的な判断を伴うも のである。

・・・

① ・・・ このうち分譲住宅は、住宅販売市況の変化に加え、個々の物件に係る消費者の選好、開発の遅延等の個 別性の強い多様な要因に基づき、販売価格の低下、建築費や販売費の増加のリスクにさらされており、 評価損が発生する可能性がある。

分譲住宅の評価損計上の判定は、正味売却価額と帳簿価額を比較して行われる。正味売却価額は、物件 ごとの販売価格から販売費を控除し、開発中の物件についてはさらに建築費の今後の発生見込額を控除 して算定される。会社は販売価格の見積りを、販売開始前の物件は物件ごとの事業計画において設定し た販売予定価格に基づき、販売開始後の物件は期末日直近の成約価格に基づき行っている。

販売の進捗が計画より遅延している物件については、経営者が販売価格を下げる可能性がある。また、 開発が計画より遅延している物件については、開発期間の長期化により事業計画上の販売価格が相場か ら乖離する可能性や追加の建築コストが発生する可能性がある。

正味売却価額の算定における重要な仮定は、販売価格や追加の建築コストであるが、分譲住宅は、立地 や商品性、販売戦略、販売や開発の進捗等において個別性が強く、全般的な市況が好調であっても、 個々の物件ごとに状況が異なり、物件ごとの検討が必要になる。 ・・・

① 分譲住宅に係る評価損が計上される要因について、具体的な説明を行っている。

② 分譲住宅の評価損の算定方法について、その要素ごとにどのようにして算定がなされるか、どのようなリスクにさらされている

かを詳細に記載している。

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19

1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 KAMの内容及び決定理由、監査上の対応において説明が追加された事例②

会社名:㈱AOKIホールディングス 監査法人:PwCあらた有限責任監査法人 見出し:ファッション事業における店舗固定資産の減損損失の認識

2020年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

・・・会社グループは、全国に展開しているファッション事業において、市場環境の変化に対応した既 存店の損益改善に注力する戦略を展開中である。

・・・会社グループのファッション事業に係る店舗は、当連結会計年度末現在で638店舗(有形固定資産 の帳簿価額:37,714百万円)である。会社グループは、当連結会計年度において、ファッション事業に 係る店舗固定資産について減損損失1,881百万円を計上した(連結財務諸表注記(セグメント情報等) 【報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報】参照)。

・・・減損損失を認識している。

・・・

2021年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

・・・同事業は、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う市場環境の変化に影響を受けており、特に、 2020年4月の政府による緊急事態宣言発令に伴い、2020年4月から5月にかけて一部の店舗で休業や時 短営業等を行ったことから、当該月の店舗売上は前年同月を大きく下回った。これらの結果、同事業セ グメントの当連結会計年度の売上高は85,387百万円となり、前連結会計年度から13.2%減少している。 2020年6月以降、同事業の月次店舗売上高は徐々に回復傾向を示しており、2021年3月の単月店舗売上 高は、前年同月比で131.7%となり、また、同感染症の影響を受けていない2019年3月の1店舗当たりの 単月売上高との比較でも93.0%までの回復を示しているものの、新型コロナウイルス感染症の拡大によ る市場環境の変化は依然として同事業に大きな影響を及ぼしている。会社グループのファッション事業 に係る店舗数は、当連結会計年度末現在で628店舗(有形固定資産の帳簿価額:35,469百万円、連結総資 産に占める割合:14.9%)である。会社グループは当連結会計年度において、ファッション事業に係る 店舗固定資産について減損損失904百万円を計上している。 ②

・・・減損損失を認識している。会社グループがファッション事業に係る店舗の将来キャッシュ・フ ローを見積るに際しては、翌連結会計年度以降の売上高は、既存の店舗全体として、新型コロナウイル ス感染症拡大の状況に影響を受けていない2019年3月期の水準を下回る水準(86%~92%)で推移する という仮定が用いられている。当連結会計年度末において、減損の兆候が認められたものの翌連結会計 年度以降の店舗営業損益予測に基づく将来キャッシュ・フローの合計額が店舗固定資産の帳簿価額を上 回るため減損が認識されなかったファッション事業に係る店舗の帳簿価額合計は6,273百万円であ る。・・・

① 新型コロナウイルス感染症の影響を含めて事業の状況を具体的に記載することで、リスクポイントの記載が詳細となっている。

② 減損の兆候が認められたものの減損損失計上に至らなかった店舗のエクスポージャーの記載を行うことで、潜在的なリスクの開

示を行っている。

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20

1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 KAMの内容及び決定理由、監査上の対応において説明が追加された事例③

会社名:㈱三井住友フィナンシャルグループ 監査法人: 有限責任 あずさ監査法人 見出し:(SMBCの法人顧客向け貸出金に対する)貸倒引当金の評価

2020年3月期

監査上の対応

2021年3月期

監査上の対応

・・・ (3)定性的要因を勘案した債務者区分の妥当性の評価

・・・ (3)定性的要因を勘案した債務者区分判定の妥当性の評価

SMBCの法人顧客のうち、一定の基準に基づいて選定した債務者について、定性的要因を勘案した 債務者区分の妥当性を評価した。この手続には、経営計画の実現可能性の分析、並びに資金繰りの検討 が含まれる。

SMBCの法人顧客から一定の基準を設けて債務者を選定し、新型コロナウイルス感染症の影響長期 化を含む定性的要因を勘案した債務者区分判定の妥当性について、主に下記の手続を実施して評価した。 ・個別債務者の手元資金等の確保の状況を含む業況の分析 ・経営者が債務者区分判定の基礎とした個別債務者の事業計画について、業界見通し及び直近の業績と の比較分析、並びに経営者が考慮したストレスシナリオ等の影響の分析による合理性の評価 ・各国政府・金融機関による資金支援の動向及び個別債務者の事業計画を踏まえた今後の資金繰りに関 する分析 ・新型コロナウイルス感染症の影響による資金需要に対応した貸出金等の期日到来に伴う融資継続や返 済猶予等、個別債務者の状況に応じた与信判断が債務者区分判定に与える影響の検討

(4)直近の経済環境やリスク要因の貸倒引当金への反映の合理性の評価

(4)直近の経済環境やリスク要因を踏まえた将来の見通しに基づく特定のポートフォリオに対する追

新型コロナウィルス感染症の影響拡大、及びそれらを起因とした原油価格等のマーケット指標の変動 が及ぼす影響等を勘案した債務者区分の見直し、並びに特定のポートフォリオに対する追加引当等の合 理性について、主に下記の手続を実施して評価した。 ・当該感染症等の影響を受ける債務者の直近の業況把握、貸出条件の変更要請等を含む資金繰りの分析、 及びそれらを踏まえた債務者区分の検討 ・原油価格等のマーケット指標に係る外部機関のレポートの閲覧による影響範囲の分析及び仮定の検討、 並びに特定のポートフォリオにおける予想損失の測定手法の評価

加引当等の合理性の評価

新型コロナウイルス感染症が経済環境に与える影響に引き続き不確実性が残ることを踏まえ、特定の

ポートフォリオに対する追加引当等の合理性について、主に下記の手続を実施して評価した。 ・外部機関が公表した関連指標等を用いた業界環境の分析 ・各国政府・金融機関による資金支援が倒産動向等に与える影響及び内部格付遷移の分析を踏まえた追 加引当の対象ポートフォリオの選定に関する妥当性の評価 ・各ポートフォリオの特性及び識別したリスク要因を踏まえた追加引当の見積り手法の妥当性の評価 ・予想損失額の見積りにおける前提のうち、特に経済活動の自粛等による経済環境や市況の変動が各 ポートフォリオの業況に及ぼす影響の程度に関する想定と、業界環境等との整合性の検討

 監査手続が追加されており、手続内容についても具体的な記載が追加されている。

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21

1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 記載内容の見直しや、記載方法の工夫が行われた事例①

会社名:綜合警備保障㈱ 監査法人: 太陽有限責任監査法人 見出し:のれんの評価

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の対応

2020年3月期

・・・ のれんの減損に関する当該判断については、将来の事業計画に考慮されている経営者の仮 定や固有の判断に大きく影響を受けること及び昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大に 伴い当該仮定の不確実性が高くなっていることから、当監査法人は当該事項を監査上の主 要な検討事項に該当すると判断した。

・・・ ・事業計画に考慮されている特定の重要な仮定の変化に対して超過収益力の金額がどれだ け変動するかを判断する感応度分析を実施した。 なお、将来の事業計画の合理性を検討する際に、評価の対象とした事業計画に考慮されて いる重要な仮定は以下のとおりである。 ・・・ (2) 介護事業

介護事業は、在宅介護事業、施設介護事業、高齢者向け住宅事業に区分されており、そ

れぞれ評価の対象とした重要な仮定は以下のとおりである。

在宅介護事業

職員1人当たりの売上高、既存拠点の

利益率、人員計画等

既存施設の将来事業計画、新規施設の

施設介護事業

開設状況、新規施設及び既存施設の入

居率、人員計画等

高齢者向け

住宅事業

新規施設・既存施設の事業計画、新規

施設の開設状況、人員計画等

仮定の記載場所を変更(次ページに続く)

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22

1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 記載内容の見直しや、記載方法の工夫が行われた事例①

(続き)

・・・

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

なお、将来の事業計画の合理性を検討する際に、評価の対象とした事業計画に考慮され

ている重要な仮定は以下のとおりである。 ・・・ (2) 介護事業

・・・ ・減損損失の認識

減損の兆候を把握した場合には、減損損失の認識の判定が適切に行われているかを検討 するため、事業計画に考慮されている重要な仮定を含め、将来の事業計画の合理性を検討 した。

介護事業は、在宅介護事業、施設介護事業、高齢者向け住宅事業に区分されており、そ

れぞれ評価の対象とした重要な仮定は以下のとおりである。

将来の事業計画の合理性を検討するに当たっては、主に以下の手続を実施した。

在宅介護事業

職員1人当たりの売上高、既存拠点の

利益率、人員計画等

既存施設の将来事業計画、新規施設の

施設介護事業

開設状況、新規施設及び既存施設の入

居率、人員計画等

高齢者向け

住宅事業

新規施設・既存施設の事業計画、新規

施設の開設状況、人員計画等

・過年度にのれんの評価に用いられた事業計画と実績を比較分析することにより、将来計 画の見積りの不確実性を評価した。これには、新型コロナウイルス感染症が業績に与えた 影響の程度を確かめ、今後の事業計画に与える影響を評価することを含んでいる。

・将来の事業計画及び事業計画に考慮されている重要な仮定について、関連する資料を閲 覧し、事業計画の合理性を検証した。

移動

 記載内容は同様であるが、記載個所が見直されている。結果として、左右両欄のバランスも整い、全体として見やすいKAMとなっ

ている。

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1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 記載内容の見直しや、記載方法の工夫が行われた事例②

会社名:㈱日本取引所グループ 監査法人: 有限責任監査法人トーマツ 見出し:収益認識に関するIT統制の評価

2020年3月期

2021年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

連結財務諸表注記「21.営業収益」に記載されているとおり、当連結会計年度の取引関連収益は 48,589百万円、清算関連収益は26,427百万円であり、連結損益計算書における営業収益の60.7%を占 めている。 これらの営業収益は、日々の膨大な現物・先物等取引がITシステムにより処理され、売買・取引代金、 取引数量、想定元本額等に一定の料率を乗じて算定・計上されるため、・・・

連結財務諸表注記「20.営業収益」に記載されているとおり、当連結会計年度の取引関連収益は 53,171百万円、清算関連収益は27,939百万円であり、連結損益計算書における営業収益の60.8%を占 めている。

これらの営業収益は、・・・

監査上の対応

監査上の対応

当監査法人は、IT専門家と連携して、取引開始から営業収益の計上に至るまでのITシステムにおける一 連のデータフロー、処理プロセス及び自動化された内部統制を理解し、ITシステム群の安定稼働のため に構築された内部統制の有効性を評価した。それに加えて、営業収益の計上根拠証憑との突合を中心と した実証手続を実施した。主として実施した監査手続は以下のとおりである。 ・ITシステム群のプログラム変更時における責任者の承認証跡の閲覧や、重要データ・ファイルへのア クセス権限付与・変更における責任者の承認や・・・

当監査法人は、IT専門家と連携して、取引開始から営業収益の計上に至るまでのITシステムにおける 一連のデータフロー、処理プロセス及び自動化された内部統制を理解し、ITシステム群の安定稼働のた めに構築された内部統制の有効性を評価した。それに加えて、営業収益の計上根拠証憑との突合を中心 とした実証手続を実施した。主として実施した監査手続は以下のとおりである。

・ITシステム群のプログラム変更時における責任者の承認証跡の閲覧や、・・・

 記載されている内容は同様であるが、文章の字下げや、段落スペースを設けることにより、視覚的に読みやすい記載となってい

る。

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1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 該当年度のトピックを記載した事例

会社名: ㈱三井住友フィナンシャルグループ 監査法人:有限責任 あずさ監査法人 見出し:SMBCの法人顧客向け貸出金に対する貸倒引当金の評価

2022年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の対応

・・・ 「注記事項(重要な会計上の見積り)」及び「注記事項(追加情報)」に記載のとおり、SMBCの法 人顧客向け貸出金に対する貸倒引当金の評価は、主に下記の領域において見積りの不確実性が高く、経 営者による重要な判断が求められる。 ・定性的要因(将来予測情報を含む。)を勘案した債務者区分の判定 ・直近の経済環境やリスク要因を踏まえた将来の見通しに基づく特定のポートフォリオに対する追加引 当の要否判断及びその見積り手法の決定 ・主に要管理先以下の大口債務者に適用されるDCF法における将来キャッシュ・フローの見積り

当連結会計年度においては、これらの判断や会計上の見積りにあたり、特にウクライナをめぐる国際 情勢に起因して事業環境が不透明となったことや新型コロナウイルス感染症の状況が引き続き不透明で あることを考慮する必要があった。これには予想損失の測定に当たって下記の影響を考慮することが含 まれる。 ・ウクライナをめぐる国際情勢下における各国政府による経済制裁やロシア政府による対抗措置が及ぼ す影響 ・各国政府の資金支援が倒産動向等に与える影響も勘案の上、新型コロナウイルス感染症に起因した経 済活動の自粛等による経済環境や市況の動向が及ぼす影響

以上から、当監査法人は、SMBCの法人顧客向け貸出金に対する貸倒引当金の評価、・・・

・・・ (3)定性的要因を勘案した債務者区分の判定に係る評価

定性的要因を勘案した債務者区分の判定が適切に実施されているかどうかを評価するため、SMBC

の法人顧客から一定の基準を設けて債務者を選定したうえで、主に下記の手続を実施した。 ・・・ ・各国政府による経済制裁やロシア政府による対抗措置が個別債務者の業績や資金繰りに与える影響の 分析(外部格付との整合性の分析や返済状況の分析を含む。) ・新型コロナウイルス感染症に関連した各国政府や金融機関による資金支援の動向及び個別債務者の事 業計画を踏まえた今後の資金繰りに関する分析

(4)直近の経済環境やリスク要因を踏まえた将来の見通しに基づく特定のポートフォリオに対する追 加引当の合理性の評価

ウクライナをめぐる国際情勢に起因する不透明な事業環境や新型コロナウイルス感染症が経済環境に 与える影響に引き続き不確実性が残ることを踏まえ、特定のポートフォリオに対する追加引当の合理性 を評価するため、主に下記の手続を実施した。 ・外部機関により公表された関連指標等を用いた業界環境の分析 ・各国政府による経済制裁やロシア政府による対抗措置が長期化することによる影響の分析を踏まえ、 追加引当の対象とされたポートフォリオの選定の適切性の評価 ・予想損失額の見積りにおける前提のうち、各国政府による経済制裁やロシア政府による対抗措置の長 期化を踏まえた、同国与信先における今後の元本又は利息の支払の遅延リスクや支払条件緩和が発生す るリスクの評価(ロシア政府及び企業の返済動向の分析を含む。) ・各国政府や金融機関による資金支援が倒産動向等に与える影響及び内部格付遷移の分析を踏まえ、新 型コロナウイルス感染症の影響が大きいポートフォリオとして追加引当の対象とされたポートフォリオ の選定の適切性の評価 ・・・

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大やロシア・ウクライナ情勢等、該当年度のトピックがどのように影響するのかを具体的に

監査上の対応において記載している。

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1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 注記の拡充とともにKAMの記載が詳細になった事例①

会社名:第一生命ホールディングス㈱ 監査法人:有限責任 あずさ監査法人 見出し:買収により計上した(海外子会社で計上されている)のれんの減損損失の計上に関する判断

2020年3月期

2021年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

・・・ (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)4.会計方針に関する事項(8)のれ んの償却方法及び償却期間に記載されているとおり、買収により計上したのれんは、その 効果の及ぶ期間にわたって償却される。 ・・・

・ Protective Life Corporationの買収に関するのれんについて、同社は、当該のれんを含む報 告単位の公正価値が帳簿価額を下回っている可能性が50%超であるかどうかについての定性 的要因の評価(減損の兆候の有無の判定)を行う。減損の兆候の有無の判定は、その基礎 となる同社の業績が景気動向などの影響を受けやすく、業績予想には経営者の重要な判断 を伴う。

・・・

・・・ 注記事項「(重要な会計上の見積り)1 のれんの評価」に記載されているとおり、買収 及び買収事業に関連して計上されたのれんは、各連結子会社の連結財務諸表に計上されて おり、各連結子会社の所在国の会計基準に準拠して各連結子会社でのれんの減損損失の認 識の要否に関する判断が行われる。また、各連結子会社での判断結果を踏まえ、第一生命 ホールディングス株式会社では、日本の会計基準に基づき減損の兆候の有無の判定が行わ れる。 ・・・ (1) 各連結子会社が実施する、のれんの減損損失の認識の要否に関する判断 ① PLC社の買収及びPLC社が行う買収事業に関連して計上されたのれん

PLC社は、定期的に、のれんを含む報告単位の公正価値が帳簿価額を下回っている可

能性が50%超であるかどうかについて定性的要因を評価する(減損の兆候の有無の判 定)。減損の兆候の有無は、PLC社及び各報告単位を取り巻く経済環境及び市場環境の 悪化の有無、将来の利益又はキャッシュ・フローにマイナスの影響を及ぼす要因の有 無、全般的な業績の悪化の有無、PLC社及び各報告単位に固有のその他の事象を考慮し て総合的に検討される。特に、減損の兆候の有無を判定する際に基礎となるPLC社及び 各報告単位の業績は景気動向等の影響を受けやすく、その業績予想には経営者の重要 な判断を伴う。

・・・

 経営者の重要な判断を伴う会社の見積方法などについて具体的な記載がなされている。

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1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 注記の拡充とともにKAMの記載が詳細になった事例②

会社名: 三井不動産㈱ 監査法人: 有限責任 あずさ監査法人 見出し:固定資産に含まれる不動産等に関する減損損失計上の要否判定の妥当性

2020年3月期

2021年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

三井不動産株式会社の当連結会計年度の連結貸借対照表において、固定資産に賃貸及び運用資産とし ての有形固定資産3,677,609百万円及び借地権40,993百万円が計上されており、これらの合計金額(以下 「不動産等」という。)の連結総資産に占める割合は50%程度である。このうち、減損損失計上の要否 判定に係る事項は、当初事業計画との乖離が生じる等の収益性が低下している不動産等に関連する。

これらの不動産等は規則的に減価償却されるが、減損の兆候があると認められた場合、減損損失の認 識の要否を判定する必要がある。減損の兆候には、継続的な営業赤字、市場価格の著しい下落、経営環 境の著しい悪化及び用途変更が含まれる。

三井不動産株式会社の当連結会計年度の連結貸借対照表において、固定資産に賃貸及び運用資産とし ての有形固定資産3,717,166百万円及び無形固定資産(借地権及びその他)79,633百万円が計上されてお り、これらの合計金額(以下「不動産等」という。)の連結総資産に占める割合は49%程度である。こ のうち、減損損失計上の要否判定に係る事項は、新型コロナウイルス感染症の拡大が与える影響を含め 当初事業計画との乖離が生じるなど、収益性が低下している不動産等に関連する。また、連結損益計算 書において、これらの不動産等から生じた減損損失39,648百万円が計上されている。

固定資産に含まれる不動産等に関する減損損失計上の要否判定に関して、【注記事項】(重要な会計 上の見積り)の「1.固定資産の減損」に、経営者による説明が記述されている。固定資産に含まれる 不動産等は規則的に減価償却されるが、減損の兆候があると認められた場合、減損損失の認識の要否を 判定する必要がある。減損の兆候には、継続的な営業赤字、市場価格の著しい下落、経営環境の著しい ② 悪化及び用途変更等が含まれる。減損損失の認識が必要と判定された場合には、帳簿価額を回収可能価 額まで減額し、帳簿価額の減少額は減損損失として認識される。

このうち、市場価格の算定に用いる個々の不動産等の将来キャッシュ・フロー及び割引率の見積りは、

このうち、市場価格の算定に用いる個々の不動産等の将来キャッシュ・フロー及び割引率の見積りは、

経済環境や金利の変動、不動産市場における競合状況や不動産開発における外部要因、不動産関連税制 や不動産及び金融関連法制の変更、自然災害や新型コロナウイルス感染症の影響等により大きく影響を 受ける。このため、見積りの不確実性が高く、経営者による主観的な判断の程度が大きい。

経済環境や金利の変動、不動産市場における競合状況や不動産開発における外部要因、自然災害や新型 コロナウイルス感染症の影響等により大きく影響を受ける。このため、見積りの不確実性が高く、経営 者による主観的な判断の程度が大きい。減損損失の認識及び測定に関する判断に用いる将来キャッ シュ・フロー及び割引率の見積りも同様である。

以上から、当監査法人は、固定資産に含まれる不動産等に関する減損損失計上の要否判定の妥当性が、

以上から、当監査法人は、固定資産に含まれる不動産等に関する減損損失計上の要否判定の妥当性が、

当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該 当すると判断した。

当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該 当すると判断した。

① トピック事象であるコロナウイルス感染症について記載されている。

② 経営者の重要な判断が伴う会社の見積方法や重要な仮定などについて具体的な記載がなされている。

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1.早期適用会社のKAMに係る分析 (3) 事例 注記の拡充とともにKAMの記載が詳細になった事例③

会社名:㈱みずほフィナンシャルグループ 監査法人: EY新日本有限責任監査法人 見出し:レベル3の時価に分類されるデリバティブ取引の時価算定の妥当性

2021年3月期

2022年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

・・・これらの金融資産・負債に係る金利リスクや為替変動リスクをヘッジする目的又はトレーディン グ目的で、金利・通貨・株式・債券・商品関連のデリバティブ取引を行っている。

・・・これらの金融資産・負債に係る金利リスクや為替変動リスクをヘッジする目的又はトレーディン グ目的で、金利・通貨・株式・債券・商品関連のデリバティブ取引を行っている。

・・・

レベル3の時価に分類されるデリバティブ取引の時価の算定においては、複雑性を伴うオプション評 価モデルや割引現在価値法を評価技法とし、市場データに基づいた裏付けが困難な金利間や金利為替間 等の相関係数、株式や商品ボラティリティ等の重要な観察できないインプットが使用されている。

・・・

また、時価の算定に用いた評価技法及び時価の算定に係るインプットの説明、並びに時価で連結貸借 対照表に計上している金融商品のうちレベル3の時価に関する情報について、注記事項「(金融商品関 係)3.金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」に記載している。 ・・・

レベル3の時価に分類されるデリバティブ取引の時価の算定においては、オプション評価モデルや割 引現在価値法を評価技法とし、金利間や金利為替間等の相関係数、株式及び商品ボラティリティ等の重 要な観察できないインプットが使用されており、これらの評価技法及びインプットは時価算定の市場慣 行や市場環境の変化を適時に反映し決定する必要がある。

時価算定に使用する評価技法は高度な数理計算の前提や仮定が内在するため複雑性を有し、その選択 及び適用にあたっては財務報告の枠組みで特定の評価技法が規定されていないため経営者の主観的な判 断を伴う。時価算定に使用するインプットは市場データに基づく裏付けが困難なため見積りの不確実性 が高く、その決定には経営者の主観的な判断を伴う。 ・・・

 時価算定に使用する評価技法には複雑性が伴う点や、その選択及び適用について経営者の判断が伴う点をKAM決定理由の根拠とし

て記載している。

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2.収益認識関連の分析 (1) 分析の概要

 収益認識関係のトピックについてはKAMに選定されることが相対的に多く、また、2022年3月期は改正企業会計基準第29号 「収益認識に関する会計基準」(以下「新収益認識基準」という。)の適用初年度であったことを踏まえ、個別の分析対象と した。

 以下の分析を実施した。

 収益認識を取り扱っているKAMに係る全般的な分析

• 「収益認識」、「工事進行基準」、「履行義務」※ のキーワードで抽出した上で、TF-IDF分析のスコア値が高いKAM

を母集団とした。 ※可能な限り網羅的に収益認識関連のKAMを抽出するために、「収益認識」のみならず「工事進行基準」(新収益認識基準適用前の象徴的なキー ワード)及び「履行義務」 (新収益認識基準適用後の象徴的なキーワード)も追加している。

 新収益認識基準の適用にフォーカスしたKAMに係る分析

• 上記母集団のうち、「会計基準」※のキーワードを用いているKAMを母集団とした。

※新収益認識基準の適用について言及するKAMについては、「収益認識に関する会計基準」又は「収益認識会計基準」というキーワードが頻出していた ため、「会計基準」を検索ワードとしている。

 収益認識と不正の関連に関する分析

• 上記母集団のうち、「不正」のキーワードを用いているKAMを母集団とした。

参考  2021年3月期及び2022年3月期のKAMについて、①収益認識を取り扱っている件数、②「工事進行基準」に言及している件数、

③「履行義務」 に言及している件数※の比較は以下のとおり

※①は「収益認識」、「工事進行基準」、「履行義務」 のいずれかを使用しているKAMの件数、②は①のうち「工事進行基準」を使用しているKAMの件、 ③は①のうち「履行義務」 を使用しているKAMの件数を比較しているため、重複しているKAMが存在している。

①収益認識を取り扱っている 件数

②「工事進行基準」に言及し ている件数

③「履行義務」 に言及してい る件数

2021年3月期

2022年3月期

422

615

237

6

36

420

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2.収益認識関連の分析 (2) 総括 全体の傾向 ① 新収益認識基準の適用

 2022年3月期は新収益認識基準の適用1年目であったため、収益認識がKAMに選定されるケースが増加したと考え

られる。

 新収益認識基準の適用をKAMとした場合、代理人取引や履行義務の識別、取引対価の配分など、会計的な論点の検

討がKAMになる傾向が見受けられた。

 一方で、新収益認識基準の適用においてどこに影響があるのかを明確に記載せず、「適用初年度においては網羅的

な検討が必要である」ことを理由として記載している事例も見受けられた。

② 収益認識をKAMとした理由

 収益は会社のトップラインであり、財務諸表において質的、金額的に重要であるため、新収益認識基準の適用も相

まって、収益認識がKAMとして選定される場合が増加したと考えられる。

 進捗度に応じて認識する収益のほか、収益認識の期間帰属や、実在性・正確性に焦点を当ててKAMを記載し

ている事例が見受けられた。

 収益認識をKAMとする場合の記載としては、進捗度に応じて認識する収益が選ばれる場合が多く、その場合の内部 統制に関する記述が具体的である事例が多く見受けられた。また、特に収益認識におけるIT統制に関する記載が多 数見受けられた。

 進捗度に応じて認識する収益には、見積りの要素があるため、KAMとして選ばれやすく、その場合にリスク

に対応した内部統制が整備・運用されていることが不可欠であるためと考えられる。

 IT統制との関係については、 3.IT関連の分析を参照のこと。

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2.収益認識関連の分析 (2) 総括 全体の傾向

③ 収益認識の不正リスク

 収益認識の不正リスクを推定してKAMとしているケースは少なく、記載しているケースでは、実際に不正が行われ

たケースと比較して、KAMの決定理由が曖昧になる傾向が見受けられた。

④ 記載上の工夫が見られた点

 新収益認識基準の影響額をKAMに記載している事例が多く、影響による金額的な規模感が把握でき、財務諸表利用

者にとって分かりやすい記載になっていた。(P32参照)

 会計基準の適用による影響額は、会計方針の変更や、収益認識関連の注記で記載されているので、注記を参

照することで会計基準の適用による影響額をKAMに記載しやすくなったと考えられる。

 前年度との比較(経年変化)の記載をしている事例が見受けられた。(P33参照)

 KAM対象について、監査上の対応にツールを活用している旨を記載している事例や、進捗度に応じて認識する収益

について監査上の対応に工事現場の視察を記載している事例が多数見受けられた。

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2.収益認識関連の分析 (3) 事例 収益認識基準の初度適用をKAMとした事例

会社名:三谷商事㈱ 監査法人:太陽有限責任監査法人 見出し:収益認識に関する会計基準の初度適用

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

会社は、【注記事項】(会計方針の変更)1.収益認識に関する会計基準等の適用に記載されていると おり、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号2020年3月31日。以下「収益認識 会計基準」という。)等を当連結会計年度の期首から適用している。会社は、連結子会社を含む会社グ ループで行っている多様な事業に関連した収益認識取引について収益認識会計基準等を適用しているた め、その適用による変更は広範囲に及ぶが、そのうち主な変更点は以下のとおりである。 ① (1)代理人取引に係る収益認識 (2)工事契約及び受注制作ソフトウエアに係る収益認識 (3)割賦販売取引に係る収益認識 (4)ガス事業に係る収益認識 また、会社が収益認識会計基準等を適用した結果、当連結会計年度の売上高は1,449億59百万円 減少し、売上原価は1,450億10百万円減少し、営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益 はそれぞれ51百万円増加しており、収益認識会計基準等の適用による金額的重要性が高い。 会社は多様な事業に関連した収益認識取引について網羅的かつ適切に収益認識会計基準等を適用するた めに、収益認識取引を洗い出し、収益認識取引ごとに収益認識会計基準等の適用方法について検討の上 会計方針を策定しているが、この検討は広範囲に及び、将来にわたって継続的に影響を及ぼす。また、 会社は策定した会計方針に基づいて会計処理及び開示を行っているが、その金額的重要性は高く、会計 方針の変更の内容や影響額を含む注記は、財務諸表の利用者による財務諸表の理解にとって重要である。 以上のことから、収益認識会計基準等の初度適用については、監査上の慎重な検討を要する領域である と判断し、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、会社による収益認識会計基準等の初度適用が適切に行われているか検討するために、主 として以下の監査手続を実施した。 ・収益認識に関連する主要な内部統制の整備状況及び運用状況の有効性を評価した。これには、会計処 理の基礎データの収集のためにシステムに依拠している場合における、当該システムのIT全般統制の 有効性の評価が含まれる。 ・会社が実施した影響度調査の資料を閲覧し、連結子会社を含む会社グループで行っている主要な収益 認識取引が全て網羅されているか確かめた。また、全ての主要な収益認識取引について、収益認識会計 基準等の適用に伴う影響が網羅的に検討されているか確かめた。 ・影響度調査の結果、把握された課題や論点に対する会社の調査結果について、契約書や関連証憑を閲 覧するとともに、会社と協議して取引実態を検討した。 ・収益認識会計基準等を適用するために会社が作成した会計方針及び規程が、取引実態に応じて収益認 識会計基準等に準拠しているか検討した。 ・連結損益計算書で認識された収益が、会社の会計方針及び規程に準拠しているか、責任者への質問や 会計処理と根拠資料の照合により検討した。これには、会社が作成した根拠資料が網羅的かつ正確に作 成されているか検討する手続が含まれる。 ・会計方針の変更の内容を含む収益認識に関連する注記が、会社グループの会計方針を適切に反映して いるか、また、変更による影響額を含む注記が正確かつ網羅的に集計されているかについて、根拠資料 の検証や再計算等により検討した。

① KAMの決定理由において、代理人取引に係る収益認識等、会計基準の適用により発生した会計的な論点について言及し、箇条書きで分かりやすく記載してい

る。

② 新収益認識基準の影響額を記載することで、利用者にとって分かりやすい内容となっている。

③ 監査上の対応において影響度調査の資料や会計方針の変更を含む収益認識に関連する注記についても検討した旨を記載している。

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2.収益認識関連の分析 (3) 事例 前年度との比較(経年変化)の記載をしている事例

会社名:理想科学工業㈱ 監査法人:有限責任 あずさ監査法人 見出し:国内向け印刷機器事業及び理想(中国)科学工業有限公司の印刷機器事業に係る売上高の期間帰属の適切性

2022年3月期

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の対応

理想科学工業株式会社及び連結子会社の売上高69,313百万円の多くは、・・・・・、そのうち理 想科学工業株式会社の国内向け印刷機器事業と中国にて印刷機器事業を営む理想(中国)科学工業有限 公司の売上高が6割強を占めている。・・・・

印刷機器事業については、主に以下の状況から顧客に引渡が完了していない、又は製品が出荷されてい ないにもかかわらず、期末日前の日付で売上高を計上するという潜在的なリスクが存在する。 ・顧客との交渉状況、顧客都合による変更、天候による物流遅延等のコントロール不能な要因により、 印刷機器の設置完了又は出荷のタイミングが予定より遅れる可能性があること。 ・支店を含む各部門の営業責任者は、予算、中期経営計画及び外部公表している業績予想のうち、売上 高の目標達成を特に意識している可能性があること。 ・国内市場では、印刷機器及びインク等のサプライ品は年間を通じて大量の取引が行われているが、学 校や地方公共団体等に対する売上については、年度末に集中することが多いこと。 ・理想(中国)科学工業有限公司では、前連結会計年度に利益体質の強化を目的とした構造改革を実施 したこと。

以上から、当監査法人は、前連結会計年度の連結財務諸表監査において監査上の主要な検討事項とした、 国内向け印刷機器事業に係る売上高の期間帰属の適切性に加えて、理想(中国)科学工業有限公司の印 刷機器事業に係る売上高の期間帰属の適切性が、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要 であり、「監査上の主要な検討事項」に該当すると判断した。

当監査法人は、国内向け印刷機器事業及び理想(中国)科学工業有限公司の印刷機器事業に係る売上高 の期間帰属の適切性を検討するため、主に以下を含む手続を実施した。

(1)国内向け印刷機器事業の売上高に係る手続 ・・・

(2)理想(中国)科学工業有限公司の印刷機器事業に係る売上高に係る手続当監査法人は、連結子会 社である理想(中国)科学工業有限公司の監査人に監査の実施を指示するとともに、以下を含む手続の 実施結果の報告を受け、十分かつ適切な監査証拠が入手されているか否かを評価した。 ①内部統制の評価 製品販売に関する売上高の認識プロセスを理解するとともに、関連する内部統制の整備及び運用状況の 有効性を評価したこと。 ②売上高の期間帰属の適切性の検討 売上高が適切な会計期間に認識されているか否かを検討するため、当該売上高の期間帰属の適切性が損 なわれるリスクが高い連結会計年度末直前の3月月次の売上の中で、特に期末日直前の製品の売上の一 部を抽出し、顧客の署名等が付されている配達通知書を閲覧し、期末日までに製品が出荷されているか どうかを検証したこと。

① 前連結会計年度は国内のみをKAMの対象としていたが、当連結会計年度では国内に加えて中国子会社もKAMの対象にしたという変

化をKAMの内容に記載している。

② KAMの対象に追加した中国子会社における監査上の対応についても詳細に記載している。

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2.収益認識関連の分析 (3) 事例 KAMの内容に重要な仮定を記載し、監査上の対応においても記載された事例

会社名:㈱コア 監査法人:EY新日本有限責任監査法人 見出し:ソフトウエア開発等の受託業務(一定の期間にわたり顧客に移転する財またはサービス)に係る収益認識

監査上の主要な検討事項の決定及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

会社及び連結子会社は、当連結会計年度より「収益認識に関する会計基準」等を適用し、ソフトウエア 開発等の受託業務について、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき収益を認識し ている。進捗度はプロジェクトの総見積原価に対する当連結会計年度末までの発生原価の割合(原価比 例法)によって算定している。この結果、従来の方法に比べて当連結会計年度の売上高は265,36 8千円増加し、営業利益も107,403千円増加している。 会社及び連結子会社では、受注時に顧客との間で諸要件を確認し、作業工数及び外注金額等を検討した 後、プロジェクト原価総額の見積りを行っている。また、各プロジェクトの進捗状況や実際の原価の発 生額、あるいは顧客からの仕様変更指示に応じて、プロジェクト原価総額の見積りの見直しを行ってい る。 プロジェクト原価総額については、予算承認及び日常的モニタリングに加え、月次のモニタリングプロ ジェクト審査会によって監視しているが、当該見積りは、人件費及び外注費の作業工数といったプロ ジェクト固有の状況に応じて変動しやすい重要な仮定を含むものであり、各プロジェクトに対する専門 的な知識と経験を有するプロジェクトマネージャーによる判断に影響を受け不確実性を伴うものである。 以上から、当監査法人は、進捗度算定におけるプロジェクト原価総額の見積りが当連結会計年度におい て特に重要であり、監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、一定の期間にわたり顧客に移転する財又はサービスに係るプロジェクト原価総額の見積 りの妥当性を検討するため、主として以下の監査手続を実施した。 (1)内部統制の評価 プロジェクト原価総額の見積りに関する会社の以下の内部統制の整備・運用状況を評価した。 ・プロジェクト原価総額を含む「プロジェクト予算」がプロジェクトマネージャーにより作成され、必 要な承認により信頼性を確保するための統制・各プロジェクトの進捗状況や実際の原価の発生額、ある いは顧客からの仕様変更指示に応じて、適時にプロジェクト原価総額の見積りの見直しが行われる体制 ・プロジェクト原価、工数の信頼性に責任を持つプロジェクトマネージャーがプロジェクトを管理し、 モニタリングプロジェクト審査会により、その進捗状況をモニタリングする体制 (2)プロジェクト原価総額の見積りの評価 過去のプロジェクトに係る総見積原価と実績原価を比較することで、原価総額の見積プロセスの精度を 評価するとともに、翌期に継続する一定の金額以上のプロジェクトについて、以下の監査手続を実施し た。 ・原価の実際発生額について、モニタリングプロジェクト審査会の議事録を閲覧し、「プロジェクト予 算」との整合性を検討した。 ・「プロジェクト予算」で今後予定している人件費及び外注費の作業工数について、各タスクへの具体 的な人員配置を示す要員計画表や外注計画表と照合した。 ・決算日における進捗度について、「プロジェクト予算」と会計帳簿に基づき再計算を実施した。

① KAMの決定理由において、人件費及び外注費の作業工数について重要な仮定であることを明記し、プロジェクトマネージャーによ

る判断に影響を受けるという不確実性に言及している。

② 監査上の対応において、内部統制及び対応手続について詳細に記載している。

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3.IT関連の分析 (1) 分析の概要

 財務諸表監査における企業側のIT評価及び監査人側におけるITを活用した監査の重要性が一層高まっていることを受けて、個

別の分析対象とした。  以下の分析を実施した。

 企業側のIT評価に係るKAMの分析

• 「IT」、「システム」、「全般統制」又は「業務処理統制」のキーワードを用いているKAM(591個)のうち、

TF-IDF分析のスコアが高い上位50KAMを母集団とした。

 監査人側のIT利用に関する分析

• 監査上の対応において「ツール」又は「データ分析」のキーワードを用いているKAM(37個)を母集団とした。

参考  KAMにおいて「IT」、「システム」、「全般統制」又は「業務処理統制」のキーワードを用いている企業の業種別分布は以下のとおりである。

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3.IT関連の分析 (2) 企業側のIT評価に係るKAMの分析の総括

① 抽出したKAMの具体的な内容  抽出したKAMの具体的な内容は以下のような分布だった※。 ※複数論点にまたがるKAMも存在したため合計が52個となっている。

業種

収益認識 (進行基準 除く)

収益認識 (進行基準)

業界特有の リスク対応

固定資産・ のれんの減 損

棚卸資産の 評価

貸倒引当金 の評価

サイバーア タック

内部統制の 改善

企業結合関 連

引当金

製造業 商業

運輸・情報通信業

サービス業

金融・保険業

建設業

電気・ガス業

6 4

2 2

0 0

1 15

4 1

1 1

0 1

0 8

0 5

2 0

1 0

0 8

4 1

1 1

0 0

0 7

2 3

0 0

0 0

0 5

0 1

1 0

2 0

0 4

1 0

0 1

0 0

0 2

1 0

0 0

0 0

0 1

0 0

0 1

0 0

0 1

1 0

0 0

0 0

0 1

19 15

7 6

3 1

1 52

② 収益認識関連  分析対象とした母集団においては、収益認識に関連してIT評価を取り扱っているものが、多く見受けられた。  金融機関や建設業以外にも、ビジネスの特徴(単価は高くないが、取引数が多い等)を説明した上で、売上高の計上

に当たってITへの依存度が高いことをKAMの選定理由の中で記載しているものが、多く見受けられた。

 監査上の対応として「IT専門家の関与」「IT全般統制の評価」「IT業務処理統制の評価」を記載しているものが、多

く見受けられた。

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3.IT関連の分析 (2) 企業側のIT評価に係るKAMの分析の総括

③ 収益認識関連以外

特徴的なKAMとしては、「基幹システムの入替」「サイバー攻撃を受けた会社の障害対応」がテーマとなっているものがあった。 平時ではない状況下のITシステムに関連するリスクが、KAMの選定理由において記述され、監査上の対応としてはIT全般統制の評 価に着目した記載が行われている。

会計上の見積りのKAMにおいて、見積りの算定に使用するデータに着目してITについて記載している事例も見受けられた。

④ 主な記載上の特徴点

収益認識を取り扱ったKAMで、収益の数値が生成・集計されるプロセスでシステムが広範囲に利用されることに着目した事例が見受けられてい る。単価が低いが膨大な取引数量があるようなケースが見受けられた。(P38、39、41参照)  収益認識の監査対応を取り扱ったKAMでは、業界又は個社ごとのビジネスの特徴を説明した上で、何に着目して監査手続を行っているか説

明しており、ビジネス及びプロセスの特徴を説明する過程において、ITシステムが重要な要素の一つとして含まれている。

収益認識のプロセスにおける重要な要素としてITシステムが取り上げられているが、監査上の対応については、一般的な記載にとどまっている 例が多い。  KAMの決定理由と対応関係を意識して記載されているのは、他のリスク評価手続や実証手続であり、ITシステムの信頼性の検討はその前提

として一般的な記載にとどめられている。

監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」において、経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討の一要素として、「データ」が 取り上げられているが、会計上の見積りに関するKAMにおいて、IT評価に着目しているKAMはあまり多くない。  「データ」と比較して相対的に「見積手法」「重要な仮定」がより重要な要素となっていて、金融機関の貸倒引当金以外では着目されにく

い傾向にある。

サイバー攻撃からの復旧を扱ったKAMが複数見受けられている。(P43参照)  財務数値に影響が及ぶインシデントの場合には、監査においても相当な対応が求められるため、一旦このようなインシデントが発生すると

重要な検討事項になることを示している。

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3.IT関連の分析 (3) 企業側のIT評価に係るKAMの事例 多品種大量の取引から構成される売上高の正確性に関するKAM

会社名:正栄食品㈱ 監査法人:有限責任監査法人トーマツ 見出し:商品売上高の正確性

内容及び決定理由

監査上の対応

2021年10月期

正栄食品工業(以下、会社という)の当連結会計年度の売上高は、連結損益計算書に記載の通り、99, 631,156千円である。このうち、91,785,274千円は日本セグメントの売上であり、その 大部分は会社単体の売上高である。 会社は食品原材料の調達・加工生産・販売を主要業務とし、取扱う商品は、乳製品・油脂類、製菓原材料 類、乾果実・缶詰類、菓子・リテール商品類と幅広い。また、これらの商品分類に含まれる商品品目も多 種多様である。さらに、販売先も食品製造業、小売業、外食産業、卸売業等多岐にわたっている。会社の 売上高は、このように多様な商品品目及び販路を背景に生じる日々多数の売上取引の累積により構成され ている。加えて、商品の販売単価は調達コストの変動等を反映して見直されるケースも多い。 会社は、取引ごとに販売数量及び販売単価を基幹システムに登録することで、売上高を自動で計算し、仕 訳計上する業務フローを構築している。この業務フローには、販売数量及び販売単価の登録を誤る可能性 を低減するための内部統制が組み込まれ、日々の業務において運用されている。 しかし、売上取引は多数かつ多岐にわたり、また、販売価格の見直しが日々多数生じるビジネスであるこ とを勘案すると、販売数量や販売単価の処理誤りが一定程度潜在している可能性があると判断し、商品売 上高の正確性が監査上の主要な検討事項に該当すると判断した。

当監査法人は、商品売上高の正確性を検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。

(内部統制) 取引開始から仕訳計上までの業務プロセスに組み込まれた内部統制の整備及び運用状況について有効性を 評価した。評価にあたっては、特に以下に焦点を当てた。

• 販売数量及び販売単価について、基幹システムへの登録内容の正確性を確認し、承認する統制 ② • 売上高を自動で計算し、仕訳計上する基幹システムのIT全般統制及びIT業務処理統制

なお、ITに関連する内部統制はITの専門家を関与させ、評価を実施した。

(実証手続)

• 商品分類ごとの販売数量及び販売単価の変動要因を把握するために推移分析及び営業担当責任者へ のヒアリングを実施した。加えて、誤りの可能性を含む取引の有無を検討するために、売上全件明 細データを用いて、時系列比較分析や外れ値検出等のデータ解析を実施した。

• この分析の結果から個別に抽出した取引については、担当営業部門への質問により、取引内容(商 品、商流、取引経緯等)や売上取引の経済合理性を確認し、その上で、商品売上高が正確に計上さ れているかどうかを確かめるための受注、出荷及び入金に関する証憑との突合を実施した。 • 個別に抽出した取引以外についても、年間を通じた商品売上高を母集団として統計的手法によりサ

ンプルを抽出し、抽出したサンプルについて受注、出荷及び入金に関する証憑との突合を実施した。

• 売掛金についても、統計的手法によりサンプルを抽出し、残高確認手続を実施した。

① 売上高が多品種大量の取引から構成されていることから処理誤りのリスクに着目していることを記載している。

② 「監査上の対応」において、 IT統制に特に焦点を当てて会社の処理プロセスに関する内部統制を評価していることを記載している。

③ 売上高が多品種大量の取引から構成されていることを受け、実証手続として各種のデータ解析を実施することで異常値(外れ値)を抽出している。

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3.IT関連の分析 (3) 企業側のIT評価に係るKAMの事例 会社ビジネスの性質から会社のITシステムの評価をKAMとしてい る例

会社名:GMOペイメントゲートウェイ㈱ 監査法人:有限責任監査法人トーマツ 見出し:決済代行事業及びGMO後払いの売上収益の正確性

内容及び決定理由

連結財務諸表注記「27.売上収益」に記載されているとおり、当連結会計年度の 決済代行事業の売上収益は30,812,806千円であり、連結損益計算書にお ける売上収益の73.9%を占めている。また金融関連事業の売上収益は10,1 51,451千円であり、連結損益計算書における売上収益の24.4%を占めて おりその過半はGMO後払いの売上収益により構成されている。 決済代行事業及びGMO後払いの売上収益は、日々の膨大な電子商取引の決済が加 盟店のシステムから連携され、複数のシステム間でデータ連携されている。売上収 益は、決済処理件数に処理単価を乗じて、又は決済処理金額に一定料率を乗じて算 定・計上されるため、このプロセスにおける業務処理システムへの依存度が非常に 高い。 業務処理システムによって自動化された内部統制はあらかじめ定められたプログラ ムやマスタ・データに従って大量の取引やデータを一貫して処理する。プログラム やマスタ・データが適切でない、又は業務処理システムの管理が適切でないことに 起因して決済代行事業及びGMO後払いの売上収益に虚偽表示が生じた場合には、 その影響が広範囲に及び、かつ、金額的重要性に鑑みると会社の財政状態や経営成 績への影響が大きなものとなる可能性が高いと考えられる。 当監査法人は、売上収益が適切に連結財務諸表に反映されているかどうかを検討す るにあたり、数値の直接的な検討の前提として業務処理システムが継続的に、かつ 適切に整備、運用されることが必要不可欠であると判断した。 また、当監査法人は、これら売上収益取引に係る内部統制の有効性の評価を実施す るためにはITに関して相応の専門的な知識及び経験が求められると判断した。以 上より、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に相当する事項に該当す るものと判断した。

2021年9月期

監査上の対応

当監査法人は、当監査法人内のITの専門家と連携して、自動化された内部統制が継続的に、かつ適切に整備、運用されてい るかを評価するためにITに係る全般統制の有効性を評価した。取引開始から売上収益の計上に至るまでの業務処理システム における一連のデータフロー、処理プロセスを理解し、自動化された内部統制の有効性を評価した。それに加えて、売上収益 の計上の裏付けとなる証憑との突合を中心とした実証手続を実施した。主として実施した監査手続は以下のとおりである。

①ITに係る全般統制の評価 システム開発やプログラム変更管理、バックアップ等データの保全に関する管理、システム及びデータベースのセキュリティ 対策、障害発生時の対応等のITに係る全般統制の有効性を評価した。 ②自動化された内部統制の評価 (ア)一連の業務処理システムのデータインタフェース処理に関する自動化された内部統制の有効性を評価するために、業務 処理システム間のデータの整合性を検討した。 (イ)業務処理システムにおける売上収益の自動計算に関する業務処理統制の有効性を評価するために、業務処理システムに 実装されているプログラムが仕様通りに計算されているかどうかを検討した。 ③実証手続 (ア)決済代行事業の売上収益を母集団として、サンプルベースで加盟店との契約文書と加盟店マスタのデータを突合し、処 理単価や料率が正しくシステムに登録されていることを検討した。 (イ)決済代行事業の売上収益のうち主要なサービスを対象に再計算を実施し、業務処理システムによる処理の正確性を検討 した。 (ウ)決済代行事業の売上収益を母集団として、サンプルベースで業務処理システムから抽出した処理件数と処理金額をクレ ジットカード会社等の決済事業者の支払通知書と突合して一致することを確かめ、一致しない場合は差異が合理的であること を検討した。 (エ)GMO後払いの売上収益は、取扱高・請求書発行件数・加盟店と契約した手数料率及び単価を用いて再計算を実施し、 業務処理システムによる処理の正確性を検討した。

① 当KAMは売上収益の正確性に関する内容であるが、会社の収益認識プロセスにおけるITシステムへの依存度が非常に高いことから、関連する業

務処理システムの評価に着目していることを記載している。

② 「監査上の対応」において、IT全般統制及び業務処理統制の評価に関する記載が占める割合も高くなっている。

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39

3.IT関連の分析 (3) 企業側のIT評価に係るKAMの事例 契約負債の見積りの元となるポイント管理システムを評価してい るKAM

会社名:㈱シーボン 監査法人:有限責任監査法人トーマツ 見出し:ホームケア製品及びサロンケア製品の取引に係る契約負債

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

会社は、連結財務諸表に記載のとおり、当連結会計年度において、契約負債を1,513,114千円計 上している。注記事項(重要な会計上の見積り)に記載のとおり、会社は、「会員アフターサービス規 約」に基づき、顧客に対し、以下を提供している。

• ホームケア製品の取引については、製品の提供及び購入額に応じたポイントの付与(フェイシャル

サービス等の各種アフターサービスに用いられる)

• サロンケア製品の取引については、製品の提供及びフェイシャルサービスにパックケアをプラスし

た施術サービスの提供

会社は、契約負債の算定にあたり、当該規約に基づき、製品の提供及びポイントの付与並びに施術サービ ス等を履行義務として識別し、予想コストに利益相当額を加算するアプローチ等により算定された独立販 売価格に基づき、取引価格の配分を行っている。当該予想コストは、過去の実績データに基づいて算定さ れている。 また、会社は、契約負債の算定にあたり、ポイントの付与データやポイントのサービス別の消化データ等 の基礎データを用いており、これを基に将来の顧客のポイント使用動向も見積もっている。当該基礎デー タは会社の基幹システムから抽出されるデータであり、抽出にあたっては、システム上の処理プログラム が組まれている。 これら独立販売価格の算定や、将来の顧客のポイント使用動向には、経営者の判断を伴う重要な仮定が含 まれている。 以上から、当監査法人は、ホームケア製品及びサロンケア製品の取引に係る会計処理に含まれる、会計上 の見積りに使用された重要な仮定が、経営者による主観的な判断を伴うものであり、不確実性が高い領域 であること、契約負債を算定するための基礎データがシステム処理に広範に依存していること、及び算定 される契約負債が金額的に重要であることから、監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、会社のホームケア製品及びサロンケア製品の取引に係る重要な会計上の見積りに関して、 経営者が選択した見積り手法、重要な仮定及びデータが適用される財務報告の枠組みに照らして適切であ るか検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。

• 当監査法人内のIT専門家と連携して、契約負債を算定するための基礎データに関して、当該デー タを提供しているシステムの本番プログラムへのアクセスセキュリティやプログラム変更管理等に 係るIT全般統制の有効性を検討した。

② • 当監査法人内のIT専門家と連携して、契約負債を算定するための基礎データに関して、仕様書や プログラムの査閲による処理ロジックの正確性の評価を行った上で、当該処理ロジックを用いて当 監査法人が再現したデータとの照合を行い、正確性や網羅性を評価することで、データ集計に係る IT業務処理統制の有効性を検討した。

• 契約負債の見積りに関して、上記のIT業務処理統制以外の内部統制の整備及び運用状況を評価し

た。

• 契約負債を算出するための基礎データについて、異常な変動を示していないかを検討するために過

年度からの推移分析を実施した。

• 予想コストの基礎となるコストデータに関して、その正確性を検証するために、人件費については 分析的手続を実施し、人件費以外の原価及び費用に関しては関連証憑との突合を実施した。 • 会計処理を行う上で考慮すべきポイント制度の内容を理解すること及び独立販売価格の算定につい て過去の実績データに基づくことの適切性を確認することを目的として、会員アフターサービス規 約及び会社のホームページを閲覧した。

• 将来の顧客のポイント使用動向に関する仮定を検討するため、顧客のポイントの使用動向に影響を

与え得る会社の営業施策及び会員アフターサービス規約の変更等の有無について、取締役会議事録、 経営会議議事録及びこれらの関連資料の閲覧並びに経営者への質問を実施した。

• 契約負債が基礎データを用いて正しく算定されていることを検討するために再計算を実施した。

① 当KAMは契約負債の見積りに関する内容であるが、見積りの元となるポイント管理システムについて記載している。

② 「監査上の対応」において、契約負債を算定するための基礎データに関するIT業務処理統制の評価について具体的に記載している。

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3.IT関連の分析 (3) 企業側のIT評価に係るKAMの事例 Eコマースビジネスを主力事業とする会社の収益認識をKAMとし ている例

会社名:㈱MonotaRO 監査法人:EY新日本有限責任監査法人 見出し:ITシステムに高度に依存した収益認識

内容及び決定理由

監査上の対応

2021年12月期

当連結会計年度の連結損益計算書に計上された売上高189,731百万円には、株式会社Monota RO(以下、会社という)による売上182,472百万円が含まれており、連結売上高の96.1%を 占めている。 会社は、主にeコマースを利用した通信販売によって、工場用間接資材を、製造業を中心とした国内外の 顧客に対して販売している。インターネット上で、多数の商品を消費者から法人まで数多くの顧客に販売 することから、大量の取引を効率的に処理する必要があり、一連の取引は基本的にITシステムにより制 御されている。 具体的には、ECサイトから顧客が注文を行うと、単価および数量等の受注情報が基幹システムに伝達さ れる。受注情報は基幹システム内で出荷指示情報に変換され、自社倉庫に係る倉庫管理システム(以下、 倉庫管理システムという)に伝達される。出荷指示情報をもとに倉庫従業員が検品作業を実施し、運送業 者へ引き渡すことで出荷完了となる。出荷情報は、倉庫管理システム上で当日出荷分として記録された後、 基幹システムに伝達される。基幹システム上で出荷数量に単価を乗じた金額が売上金額として計算され、 会計システムに伝達されることで、会計記録として売上が計上される。 当連結会計年度末時点で、取扱商品は1,800万点と多種にわたり、顧客会員の取引口座として登録さ れている口座数は6,779,319口座である。キャンペーンコードの使用や価格改定により、同じ商 品でも受注ごとに異なる単価となることから、売上高の計算が複雑でITシステムに高度に依存している ため、ITシステムの情報処理が正確に行われない場合には、会社の収益認識において、広範囲に及ぶ金 額的に重要な影響が発生する可能性が高いと考えられる。以上により、当監査法人は当該事項を監査上の 主要な検討事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、ITシステムに高度に依存した収益認識について、当監査法人と同一のネットワーク・ ファームに属するITの専門家を関与させ、主として以下の内部統制を理解し、内部統制の有効性を評価 した。 ・基幹システム、倉庫管理システム、会計システムに係るIT全般統制の有効性を評価するために、プロ グラム変更や重要データ・ファイルへのアクセス権限付与・変更時における申請書類の閲覧や、アクセス 権限の定期的な点検の証跡の閲覧を実施した。 ・ITシステムによる収益認識にかかる一連の自動化された情報処理方法及び業務処理統制の理解のため、 プログラム仕様書の閲覧を実施した。 ・ITシステム間のインターフェース処理に関する業務処理統制が設計に従って実行され、有効に機能し ていることを検討するため、サンプルで抽出した取引について、受注情報から出荷指示情報、出荷実績情 報及び会計上の売上情報まで、金額及び発生時期が正確かつ網羅的に連携し、会計システムに反映されて いることを検討した。 ・売上高に関わる自動化された業務処理統制の有効性を評価するために、サンプルで抽出した取引につい て、受注単価に数量を乗じる計算について再計算を実施した。

以上の内部統制の有効性を評価する手続に加え、主として以下の監査手続を実施した。・出荷数量を用い た売上高の分析的手続を実施した。 ・年間の売上仕訳を母集団としてサンプルを抽出し、証憑突合を実施した。 ・会社が保有する売掛債権の残高確認を実施した。

① 「内容及び決定理由」においてEコーマスの売上が計上されるまでのプロセスが丁寧に説明されている。取扱件数、口座数、単価の多様性を具

体的に示すことでITへの依存度が高い要因をわかりやすく説明している。

② 「監査上の対応」において、売上数値の生成に関連する一連のIT全般統制及び業務処理統制の評価に関する記載を中心にしている。

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3.IT関連の分析 (3) 企業側のIT評価に係るKAMの事例 銀行勘定系システムの更新時リスクに着目してKAMとしている例

会社名:日本証券金融㈱ 監査法人:東陽監査法人 見出し:日証金信託銀行株式会社の新銀行勘定系システムの稼働に関する検討

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

子会社である日証金信託銀行株式会社(以下、「日証金信託銀行」という。) は、銀行業務効率化及び障害管理体制強化の一環として、当連結会計年度に新 銀行勘定系システム(以下、「新システム」という。)を導入している。これ に伴い、日証金信託銀行は、旧銀行勘定系システム(以下、「旧システム」と いう。)のデータ移行を行っている。

日証金信託銀行は日本証券金融株式会社(以下、「日本証券金融」という。) の連結グループにおいて重要な子会社であり、連結貸借対照表に計上されてい る日証金信託銀行の総資産は1,557,744百万円と連結総資産に占める 割合は10.9%であり、その金額的重要性は高い。また、当連結会計年度の 連結営業収益30,138百万円のうち、日証金信託銀行の新システムを経由 して計上される営業収益は2,737百万円と連結営業収益の9.0%を占め ている。 このため、財務報告の信頼性が確保されるためには、当該新システムを介して 処理された情報が財務報告に至るまで正確かつ網羅的に処理されていることが 必要不可欠である。また、その検討にはITシステムに関して相応の専門的な 知識及び経験が求められる。

新システムは日証金信託銀行の幅広い業務を対象とする基幹システムであり、 適切に稼働しない場合やデータ移行を誤った場合、当該システムから得られる 財務情報の信頼性が失われ、日本証券金融の連結財務諸表において関連する勘 定科目及び開示に誤謬が発生する可能性がある。以上から、当監査法人は、日 証金信託銀行の新システムの稼働に関する検討は、日本証券金融の当連結会計 年度の連結財務諸表において特に重要であり、監査上の主要な検討事項に該当 するものと判断した。

当監査法人は、新システムの稼働に関して当法人のITの専門家の関与のもと、新システムの信頼性及びデータの移行について検証するとともに、当該業務プロセス に係る内部統制の有効性を評価することで、新システムを通じ得られる財務情報が正確かつ網羅的に処理されていることを検証するため、主として以下の監査手続を 実施した。 (1)新システムの信頼性の検証 ①IT全般統制の評価 新システムの稼働のために会社が整備・運用したIT全般統制を評価した。実施した評価手続には以下を含めている。 ・稟議書やテスト結果報告資料等を閲覧のもと、システム管理者へ質問することで、新システムの導入に関する計画、移行テストおよび本番稼働までの一連のプロセ スが適切な導入体制の下で実行され、各工程において適切な管理者による承認手続が行われているかどうか検討した。 ・システム画面や出力帳票等を閲覧のもとシステム管理者へ質問することで、新システムに関するアプリケーションの認証機能が適切に機能し、業務分掌に合致した アクセス権限を付与する仕組みがあるかどうか検討した。 ・自動出力したユーザIDリスト等を閲覧のもとシステム管理者へ質問することで、新システムに関するアプリケーションレベルおよびシステムレベルの特権IDの 付与状況およびパスワードの管理状況が適切かどうか検討した。 ・運用委託先の定例報告資料やシステム障害連絡票等を閲覧のもとシステム管理者へ質問することで、新システムに関するバックアップ体制や障害管理体制が適切に 構築されているかどうか検討した。 ②移行データの検証 移行日時点で、新システムおよび旧システムから自動出力した取引データを用いて、主として以下の監査手続を実施した。 ・総勘定元帳の合計金額を突合することで、旧システムの取引データが新システムに網羅的に移行されているかどうか検討した。 ・任意に抽出したサンプルの取引データについて登録内容の一致を確認することで、旧システムの取引データが新システムに正確に移行されているかどうか検討した。 (2)業務プロセスに係る内部統制の有効性の評価 会計事象の新システムへの登録及び仕訳承認に係る内部統制の有効性について評価した。特に、登録された情報が正確に処理され会計事象が正しく仕訳として計上さ れていることを確認することで、当該内部統制に組み込まれた新システムの情報処理の正確性を検証することに焦点を当てた。具体的には主に以下の手続を実施した。 ①信託報酬に係る収益・信託業務管理システムより出力された信託報酬計算書等を閲覧し、一連のプロセスにおいて、業務担当者による確認、適切な管理者による承 認手続のもと信託報酬に関する情報が新システムへ適切に登録されているかどうか検討した。・新システムより出力された仕訳伝票等を閲覧し、新システムへ登録さ れた信託報酬に関する情報が新システムにより適切に処理され正確に仕訳計上されているかどうか検討した。 ②有価証券の取得取引・取引先より発行された取引明細書等を閲覧し、一連のプロセスにおいて、業務担当者による確認、適切な管理者による承認手続のもと取得さ れた有価証券に関する情報が新システムへ適切に登録されているかどうか検討した。・新システムより出力された仕訳伝票等を閲覧し、新システムへ登録された有価 証券に関する情報が新システムにより適切に処理され正確に仕訳計上されているかどうか検討した。

① 銀行勘定系システムにおいて、システム更新時のリスクに着目してKAMの決定理由を記載している。

② 「監査上の対応」において、新システムのIT全般統制の評価と、システム更新時特有の新システムへのデータ移行の検証の手続について、丁寧

に記載を行っている。

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3.IT関連の分析 (3) 企業側のIT評価に係るKAMの事例 サイバー攻撃を受けた会社の障害対応をKAMとしている例

会社名:㈱ニップン 監査法人:EY新日本有限責任監査法人 見出し:サイバー攻撃に伴うシステム障害への対応とシステム復旧過程における会計データの適切性の検証

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

2021年7月7日、会社の子会社のニップンビジネスシステム株式会社において管理運用するニップングループの情 報ネットワークが外部からのサイバー攻撃を受け、大部分のサーバーが同時多発的に全部又は一部が暗号化されたこと により、システム障害が発生した。 これにより、会社はグループネットワーク内で運用している会社及び国内グループ会社の財務会計システム、及び販売 管理といった主要な基幹システム、データが保存されているファイルサーバー、バックアップサーバーへのアクセスが できなくなった。 会社は大規模システム障害対策本部を設置し、サイバー攻撃の原因究明などについて、外部のサイバーセキュリティ専 門家に依頼して調査を実施し、侵入経路や影響範囲を特定するとともに、その助言に基づいて、情報システムや業務関 連データの復旧作業を実施している。情報システムの復旧に関しては、復旧の過程で暫定的に構築するシステム、新規 に構築するシステムなどの切り分けを行って復旧計画を策定しており、取引記録の集計に関しては、システム障害発生 後の一部の期間において、社内管理システムを用いずに手作業により集計した期間が存在する。 また、会社は根本原因調査により認識された組織や内部統制の課題を受けて、サイバーセキュリティに関する全社的な 内部統制(リスクの評価と対応)を再評価し、情報システム推進部を新設するとともに、その改善策を2022年3月 31日までに実施している。 このような会社の状況に関して、監査人には、システム障害の原因や影響範囲に関する会社の調査範囲、調査結果を理 解するとともに、業務関連データの復元方法とその結果、並びに会社の実施したサイバーセキュリティに関する全社的 な内部統制(リスクの評価と対応)に対する評価について検証するために、IT及び情報セキュリティに関する高度な 専門性が求められる。また、システム復旧の進捗に合わせて財務報告に関する内部統制が整備運用されているかどうか、 社内管理システムを利用しない手作業による取引記録や決算が正しく行われているかどうかについて、会社の復旧プロ セスにおける財務報告に関する内部統制の理解と評価、財務報告を誤るリスクに応じた取引記録や開示の検証が必要と なる。 上記のサイバー攻撃によるシステム障害への会社の対応と情報システム復旧過程における会計データの適切性の検証は、 IT及び情報セキュリティに関する高度な専門性を要し、また、会社の復旧プロセスの進捗に応じた監査戦略の策定が 必要となり、当監査法人は「監査上の主要な検討事項」に該当すると判断した。

当監査法人は、会社のサイバー攻撃に伴うシステム障害への対応とシステム復旧過程にお ける会計データの適切性を検討するにあたり、サイバーセキュリティに関する内部専門家 を監査チームに含めて、主として以下の監査手続を実施した。

●会社の大規模システム障害対策本部が実施したサイバー攻撃に伴うシステム障害の原因 及び影響に関する調査の内容について経営者及び情報企画・システム担当部門の担当責任 者と協議するとともに、会社の実施したシステム障害に関わる調査手続きの十分性につい て検討した。大規模システム障害対策本部の議事録を閲覧し、会社の復旧プロセスの進捗 を把握した。

●システム障害発生までのIT全般統制の有効性を評価した。また、業務関連データの バックアップデータの正当性を評価し、復元結果をテストした。会社がシステム復旧の過 程で導入した暫定システムや新システムに関するIT全般統制を評価した。

●ITシステム障害以降の取引の記録及び決算財務報告に関連する内部統制について、手 作業期間やシステム復旧の進捗に合わせて会社が構築した内部統制の理解を行い、それぞ れの整備・運用状況の評価を実施し、取引テストや残高確認などの実証手続を行った。

●会社の実施したサイバーセキュリティに関する全社的な内部統制(リスクの評価と対 応)の評価結果を検証するために、根本原因調査により認識された組織や内部統制の課題 に対する改善策の実施について、新設された情報システム推進部の担当取締役への質問を 行うとともに、改定された情報セキュリティ管理規程を含む規程類及び改善策の実施結果 や運用状況に関する社内の報告書等を閲覧した。

① 監査対象期間の中で、システム障害が発生するまでの期間と、システム障害が発生しその影響のある期間に分けて対応を記載している。障害

発生前はIT全般統制を、障害発生後は手作業やシステム復旧に関連する内部統制に着目している。

② サイバーセキュリティに関する全社的内部統制に着目して、改善状況の確認を行っている。

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3.IT関連の分析 (4) 監査人側のIT利用に係るKAMの分析の総括

① 抽出したKAMの具体的な内容

 抽出したKAMの具体的な内容は以下のような分布だった。

工事契約の監 査ツール

循環取引の 監査ツール

売上の分析 在庫の分析 引当金の分析

繰延税金資産 の分析

保険会社:会 社が利用する ツール

銀行:貸出金 の評価

暗号資産の分 析

ツール・デー タ分析以外

10

1

12

1

1

1

1

4

3

3

37

② 全般的な傾向

 監査法人で用意されている監査ツールとして、工事契約に関する監査ツールの利用が複数見受けられた。個別検討を 行うための対象工事の抽出に利用され、監査チームが行う他の抽出方法を補う方法の一つとして利用している説明が 見受けられた。

 監査上の対応としてデータ分析の専門家を関与させている事例も見受けられた。  監査上の対応として「データの分析」を行っている旨の説明はあるが、具体的な内容の説明が含まれないため、どの

ような目的で、どのような分析を行っているかが不明なものも含まれていた。

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3.IT関連の分析 (4) 監査人側のIT利用に係るKAMの分析の総括

③ 記載上の特徴点

 金融や建設業のように会計処理に個社ごとの差異が出にくいと想定される業種では、監査法人で用意されている監査

ツールを利用しているケースが見受けられた。

 利用する監査ツールの特徴についてその内容がどのようなものか、概要が理解可能なレベルで説明しており、利用者

にもわかりやすい。また、同じ監査法人内の複数の監査チームが同様の説明を行っている。(進捗度異常検知ツー ル:「機械学習を用いた進捗度の予測」「工事原価総額が工事収益総額を超過する工事の予測」/ 自己査定データ分 析ツール:自己査定監査において、債務者・債権データを地域、業種、債務者の財務状況等の観点から視覚化し、信 用リスクの所在にフォーカスした監査対象先の抽出を支援するツール)  監査法人として監査ツールを開発し、監査品質向上の取組の一環として、該当する業種の監査チームにおける利用を促進していることが現

れている。

 売上等の分析では、責任者への質問等、他の手続との組合せで記載されている。

 検討対象の抽出局面において、ツールが補助的に利用されることが多い。

 品種別分析、計上日別分析、プロット図を用いた分析、他の科目との相関関係の分析等、一定の分析手法を記載して

いる。  特定の業種以外では、会社の状況に応じた有効なデータ分析をそれぞれの監査チームが実施していることが窺えるが、KAMにおける説明の

丁寧さは幅がある。

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3.IT関連の分析 (5)監査人側のIT利用に係るKAMの事例 監査人が利用するツール(工事契約)を具体的に記載している例

会社名:清水建設㈱ 監査法人:EY新日本有限責任監査法人 見出し:工事契約における工事原価総額の見積り

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項4会計方針に関する事項(5)重要な収益及 び費用の計上基準に記載のとおり、清水建設株式会社及び連結子会社は、完成工事高及び完成 工事原価の計上基準として、工事契約については、期間がごく短い工事を除き、履行義務の充 足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき、一定の期間にわたり収益を認識する方法を適 用している。当連結会計年度の売上高1,482,961百万円のうち、清水建設株式会社が 一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する方法により計上した完成工事高は、1, 064,109百万円と71%を占めている。 一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する方法による収益は、履行義務の充足に係 る進捗度に基づき測定され、進捗度は工事原価総額に対する連結会計年度末までの発生原価の 割合に基づき算定される。 また、重要な会計上の見積りに記載のとおり、工事原価総額が工事収益総額を超過する可能性 が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる 額のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を工事損失引当金に 計上している。当連結会計年度の工事損失引当金54,117百万円のうち、清水建設株式会 社が計上した工事損失引当金は、53,663百万円と99%を占めている。 工事は一般に長期にわたることから、工事の進行途上における工事契約の変更、悪天候による 施工の遅延、建設資材単価や労務単価等の変動が生じる場合があり、工事原価総額の適時・適 切な見直しには見積りの不確実性を伴う。 また、工事は個別性が強く、基本的な仕様や作業内容が顧客の指図に基づいて行われることか ら、工事原価総額の見積りにあたっては画一的な判断尺度を得られにくい。このため、工事原 価総額の見積りは、工事に対する専門的な知識と施工経験を有する工事現場責任者による一定 の仮定と判断を伴うものとなる。 以上から、当監査法人は、清水建設株式会社の工事契約における収益認識及び工事損失引当金 の計算にあたり、工事原価総額の見積りが、当連結会計年度において特に重要であり、監査上 の主要な検討事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する方法及び工事損失引当金における工事原価総額の見積りの妥当性を検討するにあ たり、主として以下の監査手続を実施した。 (1)内部統制の評価 工事原価総額の見積りに関する会社の以下の内部統制の整備・運用状況を評価した。

<中略>

(2)工事原価総額の見積りの妥当性の評価 工事原価総額の見積りの妥当性の評価の検証にあたっては見積りの不確実性が相対的に高い工事について、主に次の観点から識別し、重点的に監査手 続を実施した。

• 工事請負額 • 工事利益率 • 工事利益額の増減 • 工事の進捗状況

また、進捗度異常検知ツール(機械学習を用いた進捗度の予測に基づき、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する方法を適用する工事に おける不自然な進捗度の推移を検知するほか、工事原価総額が工事収益総額を超過する工事の予測や不自然な原価発生時期の検知を行うツール)を利 用して追加的に工事を識別した。 識別された工事については、以下の手続を実施した。

• 当初の工事原価総額の見積りと、その計算の基礎となる実行予算書とを照合した。また、実行予算書が建設工事請負契約の工事目的物に照らし て整合しているか、工種ごとの積上げにより計算されているか、理由の不明確な異常な金額の調整項目が入っていないかどうか検討を行った。 • 最新の工事原価総額の見積りと修正された原価見積予算を照合し、当該見積りが、工事の進捗状況、協力会社との契約状況等に応じて、適時に

見直されているものであるかどうか検討した。

• 当初の工事利益の見積りと最新の工事利益の見積りの差額が一定の基準値以上のものについては、工事原価管理部署の責任者への質問、工事変

更図面や工程管理表、協力会社との契約書等に照らし、見積りの変更内容が工事の実態を反映しているかどうか検討した。

• 工事原価管理部署の責任者に、工事の施工状況、工事進捗状況、協力会社との契約状況について質問を行い、工事原価総額の見直しが必要な重

要な事象が発生していないかどうかを検討した。

• 必要と認められる工事については、工事現場の視察を行い、工事の施工状況が工事原価総額の見積り及び工事進捗度と整合しているか検討した。 • 工事原価総額の事前の見積額とその確定額又は再見積額を比較することによって、工事原価総額の見積りプロセスの評価を行った。

 進んだ取組として機械学習を用いた監査ツールを利用している例

 ツールの内容について具体的に説明し読者が理解できるように説明している。

 ツールによって異常値(はずれ値)が識別された工事に対する監査手続を詳細に記載している。

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3.IT関連の分析 (5)監査人側のIT利用に係るKAMの事例 監査人が利用するツール(循環取引)を具体的に記載している例

会社名:ダイワボウホールディングス㈱ 監査法人:EY新日本有限責任監査法人 見出し:ITインフラ流通事業における直送取引にかかる売上高の実在性

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

連結子会社のダイワボウ情報システム株式会社は、IT関連商品・サービスを取り扱うディストリビュー ターとして、国内外のメーカー、メーカー販社(以下メーカー等という)から仕入れた商品を二次販売代 理店に販売し、全国のエンドユーザーに提供することを事業としており、セグメント情報におけるITイ ンフラ流通事業セグメントとして開示している。ITインフラ流通事業のセグメント売上高は691,2 81百万円であり、連結売上高の90.5%を占めている。 同社の商流としては、仕入れる商品が、メーカー等から一旦自社の物流倉庫に納入され在庫として計上し、 その後取引先に出荷される場合と、メーカー等から取引先に直接配送される場合(直送取引)がある。 ITインフラ流通事業が取扱うコンピュータ機器及び周辺機器の流通では、取引上、複雑な商流となるこ とがあるが、特に直送取引においては、物の動きが見えづらく、商流に介在する自社の役割が不明瞭な取 引が発生する可能性がある。また、コンピュータ機器等の流通に限らず、流通業界では、過去に実在性に 疑義のある取引が発覚している事実もあり、ITインフラ流通事業における直送取引は実在性に疑義のあ る取引が発生する可能性が否定できない領域と考えられる。 同社においても、直送取引に伴う上述のリスクを低減するために商流における自社及び取引先の役割を確 認しており、個別に取引の経済合理性を確かめることで適正な取引を行うための判断を行っている。また そのための内部統制が整備・運用されている。 以上から、当監査法人は、ITインフラ流通事業における直送取引にかかる売上高の実在性の検討が、当 連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」に該当すると判 断した。

当監査法人は、ITインフラ流通事業における直送取引にかかる売上高の実在性を検討するに当たり、主 として以下の監査手続を実施した。 (1)内部統制の評価直送取引の売上計上プロセスに関連する内部統制の整備・運用状況について特に以 下に焦点を当てて評価した。 ・商流及び取引の内容について記載した受注承認申請が営業担当者により作成され、必要な承認により取 引の経済合理性を受注前に確認するための統制。 (2)直送取引にかかる売上高の実在性についての検討 ①各支店別に、売上高の増減分析、売上利益率の増減分析、予算達成状況の異常点分析を実施した。 ②売上債権残高から金額的な重要性に基づき抽出したサンプルについて、取引先への残高確認手続及び差 異分析を実施した。 ③自社の役割が不明瞭な実在性に疑義のある取引を検知するため、以下の手続を実施した。 ・一定の条件を充たす個々の直送取引について受注承認申請を閲覧し、必要に応じ営業担当者に質問する ことで、商流における自社及び取引先の役割、経済合理性を理解したうえで、取引先から入手した注文書 や納品書等の関連証憑との突合により売上の計上金額及び計上時期との一致を確認した。 ・特定の特徴を示す取引については、取引先から入手した注文書や納品書等の関連証憑との突合により売 上の計上金額及び計上時期との一致を確認したうえで、利益率の高さ、取引量の趨勢、過去の取引記録、 最終顧客の有無、支払サイト等から取引自体の経済合理性を検討した。 なお、上記取引の抽出においては、監査人独自の判断による抽出に加え、循環取引異常検知ツール(循環 取引のリスクが高い取引や補助元帳間の不整合などの異常性を検知する分析ツール)を利用した。循環取 引異常検知ツールでは、総勘定元帳の基礎となる全売上データ及び全仕入データを用いて、売上実績及び 仕入実績のいずれも確認できる取引先が含まれる取引や粗利率が低い取引等を抽出している。

 ツールの内容について具体的に説明し、読者が理解できるように説明している。

 監査人の判断を補足するためのツールとして利用され、対象取引の追加の抽出を行っていることを記載している。

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47

3.IT関連の分析 (5)監査人側のIT利用に係るKAMの事例 データ分析の専門家を関与させている例

会社名:㈱パスコ 監査法人:有限責任 あずさ監査法人 見出し:工事原価総額の見積りの妥当性

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

会社は、空間情報サービス事業(地理空間情報の収集、加工・処理・解析等)を行っており、その多くは 請負業務である。注記事項「(重要な会計上の見積り)」に記載のとおり、当連結会計年度の連結損益計 算書において、請負業務に関する売上高及び売上原価がそれぞれ46,161百万円及び32,697百 万円計上されており、連結売上高及び連結売上原価のそれぞれ81.6%及び77.7%を占めている。 会社は、請負業務に関する工事収益の計上に際して、一定の期間にわたり充足される履行義務については、 履行義務の充足に係る進捗度に基づいて収益を一定の期間にわたって認識している(「(連結財務諸表作 成のための基本となる重要な事項)4会計方針に関する事項の(5)重要な収益及び費用の計上基準」参 照)。 当該収益認識に係る進捗度の見積りは、発生した原価の累計額が工事原価総額に占める割合として算定さ れており、工事原価総額の見積りの妥当性は、当該収益認識にとって重要である。工事原価総額の見積り は請負業務案件の契約内容や性質による個別性が高いうえ、原価項目が多岐にわたるため、業務の完了に 必要な全ての作業に係る費用が工事原価総額に含まれているか否かの複雑な判断が必要となる。さらに、 業務着手後に作業内容の変更があった場合、当該変更が適時かつ適切に工事原価総額の見積りに反映され ているか否かの判断も必要となる。 以上から、当監査法人は、工事原価総額の見積りの妥当性が、当連結会計年度の連結財務諸表監査におい て特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。

当監査法人は、工事原価総額の見積りの妥当性を検証するため、主に以下の手続を実施した。 (1)内部統制の評価 工事原価総額の見積りプロセスに関連する内部統制の整備状況及び運用状況の有効性を評価した。評価に 当たっては、特に以下に焦点を当てた。

 作業内容ごとの工数の積算、使用する情報やデータの収集、不確定要素の反映等、工事原価総額が

社内規定に則って適切に見積られることを担保するための統制

 請負業務着手後の状況の変化を、適時かつ適切に工事原価総額に反映するための統制

(2)工事原価総額の見積りの妥当性の評価 請負業務等の工事原価総額の見積りの妥当性を評価するため、その根拠について経営者に質問したほか、 以下を含む手続を実施した。

 当連結会計年度に完成した案件について、原価発生実績と過年度作成の工事原価総額の見積りとの 比較及び差異内容についての検討を実施し、工事原価総額の見積りの精度を評価するとともに、差 異内容が工事原価総額の見積りの見直しに反映されていることを確かめた。

 期末日後一定期間の工事原価総額の見積りの変更実績をシステムより抽出し、本来、当連結会計年

度に反映すべきであった工事原価総額の見積りの変更がないかどうかを確かめた。

 請負業務の契約期間に占める決算日までの経過期間の割合と当該決算日における原価発生の進捗度 には一定の相関関係が認められる。このため、当連結会計年度においてデータ分析の専門知識を有 する者を関与させ、データ分析技法を適用することによって、進捗度に異常性が認められる案件を 特定した。特定された案件について、工事原価総額の見積りの基礎となる工事原価積算書を入手し、 関連部署の担当者に質問するとともに、見積書や過去の類似案件の工事原価積算書と比較した。

 データ分析技法の適用に当たり、データ分析の専門家を関与させている例

 データ分析の基礎となるデータ間の相関関係について言及し、読者が理解できるように記載している。

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3.IT関連の分析 (5)監査人側のIT利用に係るKAMの事例 データ分析の目的をリスクと関連させて記載している例

会社名:鹿島建設㈱ 監査法人:有限責任監査法人トーマツ 見出し:一定の期間にわたり収益を認識する工事契約に関する収益認識

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

連結財務諸表注記(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)の「4会計方針に関する事項(5)重要な収益及び 費用の計上基準」に記載のとおり、会社は、完成工事高及び完成工事原価の計上基準として、約束した財又はサービスに対 する支配が顧客に一定の期間にわたり移転する場合には、当該財又はサービスを顧客に移転する履行義務を充足するにつれ て一定の期間にわたり収益を認識する方法(以下、いわゆる「工事進行基準」という。)を採用しており、履行義務の充足 に係る進捗度の測定は、主として各期末までに発生した工事原価が、予想される工事原価の合計に占める割合に基づいて 行っている。 連結財務諸表注記(重要な会計上の見積り)の「1当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額」に記載のとおり、当連 結会計年度に係る完成工事高1,797,794百万円のうち1,680,572百万円を工事進行基準の適用により収益 認識しており、また個別財務諸表注記(重要な会計上の見積り)の「1当事業年度の財務諸表に計上した金額」に記載のと おり、そのうち1,113,270百万円を会社が占めている。 連結財務諸表注記(重要な会計上の見積り)にも記載のとおり、工事進行基準の適用にあたっては、工事原価総額を基礎と して当連結会計年度末までの実際発生原価に応じた工事進捗度に工事収益総額を乗じて完成工事高を算定しており、工事収 益総額、工事原価総額及び工事進捗度について、事業環境の状況も踏まえた経営者の重要な予測・判断が用いられる。 会社は、工事着工段階において工事収益総額及び工事原価総額を見積った実行予算書を策定・承認し、着工後の各期末にお いては工事の現況を踏まえてそれらの見直しを実施し、承認する等の内部統制を整備し、これを運用している。 特に近年は、会社の工事契約が大型化及び長期化していることから、例えば以下のような状況が生じた場合に連結財務諸表 全体に及ぼす影響が大きくなる可能性がある。 ①施工中の工法変更或いは施工範囲の変更等に伴う工事変更契約の締結前である場合、工事進行基準の適用にあたって工事 収益総額の見積りを基礎とすることがある。当該状況において、未確定又は変更部分等に係る見積りの網羅性や十分な合理 性・実現可能性が高くない状態で工事進行基準を適用すると、各期の完成工事高が適切に計上されないリスクが存在する。 ②着工当初において予期し得なかった事象の発生、資材及び外注費等に係る市況の変動、並びに工程圧迫や遅れに伴う外注 費の追加発注見込等により、工事原価総額が大幅に増加することがあるが、これらの予測・見積りに際しては不確実性が伴 う。さらに、そのような見積りの不確実性が増大する場合には、工事原価総額の見直しに時間を要することもあり、工事原 価総額の適時な修正・見直しが行われない可能性がある。当該状況において工事進行基準を適用すると、各期の完成工事高 が適切に計上されないリスクが存在する。 ③期末時点における工事進捗度の算定においては工事原価総額を基礎とするため、②の工事原価総額の適時な修正・見直し が行われない場合には、工事進捗度が適切に算定されないリスクが存在する。 以上により、当監査法人は工事収益総額、工事原価総額及び工事進捗度に係る会計上の見積りは不確実性を伴い、かつ経営 者の重要な予測・判断が用いられることに鑑み、会社の工事進行基準の適用による収益認識を監査上の主要な検討事項に該 当するものと判断した。

当監査法人は工事収益総額、工事原価総額及び工事進捗度に係る会計上の見積りの合理性を検討するに当たり、主として 以下の監査手続を実施した。 まず、会社及び業界を取り巻く事業環境を理解した上で、会計上の見積りを基礎とした工事進行基準の適用により認識し た収益に関し、工事収益総額及び工事原価総額の見積りプロセスに関連する内部統制の整備状況及び運用状況の評価を実 施した。また、工事契約ごとの原価の集計や工事進捗度の算定に関連するシステムの全般統制及び業務処理統制について はIT専門家も利用して評価を実施した。 内部統制の整備状況及び運用状況の評価に際しては、特に工事着工時における実行予算書の策定及び承認状況、着工後の 見直しに関して、各工事の状況変化が適時・適切に反映され、承認されているかどうかについて焦点を当てて評価を実施 した。 次に、前連結会計年度の工事収益総額及び工事原価総額に含まれていた会計上の見積りの合理性を評価するため、当連結 会計年度の確定額又は再見積額と前連結会計年度見積額とを比較検討した。 その上で、会社の全ての工事進行基準適用工事に対して、監査上の主要な検討事項の内容と選定理由で記載したようなリ スクが存在する可能性のある工事を識別するため、データ分析ツールによるリスク評価分析を実施した。当該分析によっ て抽出された工事に対し、分析結果に応じて、以下の監査手続から一つ又は複数を組み合わせて実施した。 [工事収益総額に対する監査手続] ①工事収益総額に係る契約書等との証憑突合及び既入金額の検討 ②工事収益総額に会計上の見積りが含まれる場合における、当該見積金額の正確性及び実現可能性の評価のための適切な 工事責任者に対する質問並びにその根拠となる管理資料及び証憑の閲覧による合理性の検討 [工事原価総額に対する監査手続] ③工事損益率が過去の実績と比較して著しく高い又は低い場合の要因についての適切な工事責任者に対する質問並びにそ の根拠となる管理資料及び証憑の閲覧による合理性の検討 ④工事原価総額の見積りが前連結会計年度と比較して著しく増減している場合の要因についての適切な工事責任者に対す る質問並びにその根拠となる管理資料及び証憑の閲覧による合理性の検討 [工事進捗度(実際発生原価)に対する監査手続] ⑤実際発生原価の月次推移分析等により直前月等と比較して著増減を識別した場合の要因についての適切な工事責任者に 対する質問及びその根拠となる請求書等の証憑閲覧による合理性の検討 ⑥外注費等の実際発生原価に対する請求書等の証憑突合 さらに、複数の工事案件に対して工事現場を視察し、工事の進捗状況及び会計上の見積りとの整合性を検討した。

 データ分析の内容を、「内容及び決定理由」で記載したリスクと関連させて記載することで、データ分析の目的が明確に記載されている。

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4.不正関連の分析 (1) 分析の概要

 「不正」というキーワードで抽出したKAMのうち、実際に不正が発生した事例を分析した。  調査対象となったKAMの内訳は以下のとおり。

決定理由

過年度訂正のみ (当四半期訂正なし)

過年度訂正 + 当四半期訂正

当四半期のみ 訂正

当期損益 処理

合計

不正リスクが高い取引や内部統制上の重要な不備 が関連する取引

不正調査の網羅性、虚偽表示の修正の網羅性

2

2

2

4

6

1

1

4

4

4

9

13

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50

4.不正関連の分析 (2) 総括

 不正(不正な財務報告や資産の流用)について記載のある13件を分析した限りにおいて、以下二つのいずれか、又は両方をKAMの内

容としていた。

 不正リスクが高い取引や内部統制上の重要な不備が関連する取引をKAMとしたもの  不正調査の網羅性、虚偽表示の修正の網羅性をKAMとしたもの

 上記のうち、不正調査の網羅性、虚偽表示の修正の網羅性をKAMとしたものについては、不正による虚偽表示の修正(当期に係る訂 正四半期報告書の提出を含む)自体が、当期の財務諸表に重要な影響を及ぼしている場合においてKAMとしていた。(P55、56参 照)

 他方、不正リスクが高い取引や内部統制上の重要な不備が関連する取引をKAMとしたものについては、不正による虚偽表示の修正自 体が当期の財務諸表に重要な影響を及ぼしている場合に限定されず、以下のようなケースにおいてKAMとしていた。(P52~54参 照)

 過年度の不正発覚や訂正報告書の提出を受け、当期の財務諸表監査において不正リスクの高い取引をKAMとしている。  期末日において内部統制の重要な不備の是正が未了、又は是正の完了が期末日近くであったことから、期中において内部統

制が有効でない期間に相当する取引をKAMとしている。

 KAMの決定理由においてその背景や会社の置かれた固有の状況に基づき判り易く説明した上で、監査上の対応においてKAMの決定理 由や背景に個別に対応する監査手続についてどのような観点から実施したのかということを判り易く説明するといったような実務上 の工夫がみられた事例もあった。

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51

4.不正関連の分析 (3) 事例 不正リスクが高い取引や内部統制上の重要な不備が関連する取引をKAMとしている事例

会社名:ネットワンシステムズ㈱ 監査法人:太陽有限責任監査法人 見出し:機器商品群及びサービス商品群の顧客との契約に関する収益認識

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

注記事項(セグメント情報等)に記載されているとおり、・・・機器商品群の売 上高104,611百万円(構成比55.4%)・・・から構成されている。 情報サービス産業の多段階請負構造においては、情報サービスを提供する企業間 で商社的な取引が行われ、中にはそれが物理的にも機能的にも付加価値の増加を 伴わず、会社の帳簿上通過するだけの取引となる場合がある。また、特に、複数 の企業が関与する商社的な取引の場合には取引全体の実態が判別しにくいことか ら、循環取引等の架空不正取引に利用されることもある。 会社及び連結子会社の機器商品群の売上には、複数の企業が関与する商社的取引 が含まれており、これらが架空不正取引に利用され、かつ、正常な取引条件が 整っているように偽装される場合においては、不正による重要な虚偽表示が生じ る可能性がある。 実際、会社においては、2014年12月から2019年11月の間、中央省庁 をエンドユーザーとする架空の機器商品の販売を順次繰り返す形で納品実体のな い売上が計上されていた。このため、会社は、当該不正に関する外部調査委員会 からの調査結果及び再発防止策の提言を受け、循環取引等の架空不正取引の発生 を防止するため、内部統制の改善を行っており、特に、取引全体の実態の把握や 付加価値の増加の有無の判定を行うための内部統制が極めて重要であると評価し ている。

・・・ 顧客に対し機器商品群・・・を提供する契約について収益認識に関する会計基準 を適用するに当たっては、・・・、契約条件等について慎重な検討が必要となる。 会社は、顧客との間で締結される多様な契約に関し、収益認識に関する会計基準 を適用するための内部統制の整備・運用を強化しており、特に受注時における履 行義務の識別に関する内部統制が極めて重要であると評価している。 以上より、当監査法人は、機器商品群の売上について循環取引等の架空不正取引 の有無・・・について慎重に検討する必要があることから、これらが監査上の主 要な検討事項に該当するものと判断した。

・・・ (1)内部統制の評価 収益認識に関連する内部統制の整備及び運用状況の有効性を評価した。評価に当たっては、特に下記の事項に留意し検討を 行った。また、統制の実施者への質問や関連する資料の閲覧を行い、実質的な統制の整備及び運用状況について評価した。 ①全社的な内部統制 ・循環取引等の架空不正取引の再発防止に関する経営者の意向及び姿勢、取組み ・営業重視の企業文化を改革するため経営者の取組み ・営業部門や購買部門、管理部門の業務内容及び相互の牽制機能の明確化 ・循環取引等の架空不正取引の再発防止策の具体化とその実行に関するモニタリング体制の整備及び運用 ・不正リスクを考慮した実効性のある内部監査の実施体制の強化 ・継続的な改善活動のためのマネジメント・サイクルの実施体制の整備・運用 ②業務処理統制 ・循環取引等の架空不正取引を防止・発見するための統制の整備・運用 ・受発注業務に関する適切な職務分掌と職責の明確化 ・受注時における履行義務の識別管理やプロジェクトの利益管理に関する統制の整備・運用 ・主要な業務処理統制における照合や承認を行うために必要な情報の明確化と情報伝達の整備・運用 ・主要な業務処理統制における照合や承認を行う際の統制目標とチェックポイントの明確化 (2)詳細テスト 機器商品群・・・を提供するための顧客との契約に関し、取引形態別に定められた会社の収益認識基準を理解するとともに、 当該基準が収益認識に関する会計基準に適合しているか検討した。 そのうえで、循環取引等の架空不正取引の有無・・・の識別が適切に行われているか等を確かめるため、一定の基準に基づき 選定・抽出した顧客との契約に対し以下の監査手続を実施した。 ・取引開始時の受発注に係る社内検討資料の閲覧及び質問を行い、契約の締結に関する経済合理性や販売する機器の構成、納 期等の取引の実行可能性、機器販売に付随するICTに関する計画・導入・運用・最適化等のサービス契約の内容等、顧客と の契約全体の実態を理解した。 ・契約に含まれる取引条件を吟味し、物理的にも機能的にも付加価値を増加させず、会社の帳簿上通過するだけの取引や循環 取引等の架空不正取引がないか検討した。 ・契約に関して計上された売上高や仕入高に関する契約書や検収書等の証憑の閲覧、これらに関する質問を実施し、証憑の偽 造又は改竄の可能性、証憑間の整合性に留意し、必要に応じて、契約を締結するうえで作成される要件定義書、体制図、提案 書、議事メモ、成果物、検査報告書等の資料を閲覧した。 ・・・

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52

4.不正関連の分析 (3) 事例 不正リスクが高い取引や内部統制上の重要な不備が関連する取引をKAMとしている事例

(続き)

■内容及び決定理由

① 架空循環取引リスクの可能性がある取引形態を説明した上で、会社の機器商品群の売上には不正リスクがあることを、架空循環

取引の特徴を踏まえて説明。

– 訂正内容を踏まえてKAM、又は開示すべき重要な不備に関連する取引であるからKAMということではなく、どのような虚

偽表示リスクがあるのかということを会社の固有の情報や取引の特徴を踏まえて説明している。

② 是正した内部統制について、どのような統制が特に重要であるのかを説明。

■監査上の対応

③ 不備の是正措置(再発防止策)の評価について、その実効性に着目した評価を行ったことを手続の内容とともに記載

④ 不適切な循環取引の特徴を踏まえた実証手続やその着眼点を具体的に記載

– 顧客との契約全体の実態の理解(取引の経済合理性、実行可能性、サービス契約の内容等) – 取引条件の吟味 – 偽造又は改ざんの可能性に留意した、関連書類を含む証憑書類の閲覧、質問

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53

4.不正関連の分析 (3) 事例 不正リスクが高い取引や内部統制上の重要な不備が関連する取引をKAMとしている事例

 P52の事例以外で実務上の工夫がみられたもの

 監査上の対応

– より証明力の強い監査証拠を入手するための監査手続を選定 – 関連する内部統制への依拠をせず試査の範囲を拡大、全件テストをした旨

⇒是正未了、又は是正完了してから間もない状況下において、不備がある期間における取引を対象とした監 査手続を記載している。

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4.不正関連の分析 (3) 事例 不正調査の網羅性、虚偽表示の修正の網羅性をKAMとしている事例

会社名: ㈱旅工房 監査法人:EY新日本有限責任監査法人 見出し:不適切な催行実態の取引に係る会計処理

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月期

会社は、GoToトラベル事業給付金の受給を申請していた宿泊付研修について、取引の一部に受給対 象とならない可能性を否定できない取引が存在し、実態その他の事実関係について精査が必要と判断し た。このため、経営者は・・・弁護士による調査委員会を設置して調査を開始し、・・・調査報告書を 受領した。 その結果、・・・不適切な催行実態の取引に基づいて、結果として不適切な会計処理が行われていた。 経営者は調査結果を受け、会計処理の修正や関連する引当金の計上等を行うとともに、前連結会計年度 の有価証券報告書及び前連結会計年度の第3四半期と当連結会計年度の第1四半期及び第2四半期の四 半期報告書についての訂正報告書を・・・提出した。 不適切な催行実態の取引に関する不適切な会計処理について適切に修正処理がなされているかどうかを 確かめるためには、会社による不正への関与の有無、当該不適切な会計処理の内容及び発生原因、当該 会計処理に係る取引が行われた範囲、当該会計処理に係る取引が会社の営業行為の範囲内で行われたか の評価、当該会計処理に係る類似した取引の有無等を検討する必要がある。 これらの検討には取引実態を適切に理解するための多面的な情報収集による検討に加え、慎重な判断が 必要となることから、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項と判断した。

当監査法人は、不適切な催行実態の取引に関する不適切な会計処理について、適切に訂正等の処理がな されているかどうかを確かめるため、主として以下の監査手続を実施した。

・・・ 調査委員会の作成した調査報告書の信頼性を以下の観点で、調査委員会と協議を行うこと等により検討 した。 ・調査委員会メンバーの能力、独立性、業務の客観性 ・調査委員会が行った調査の範囲、実施した手続、調査結果、結論及びその根拠 また、調査委員会が実施した手続のうち、社内関係者へのヒアリング及び関係資料の確認及び精査に関 して、重要な領域を再実施した。 ・・・

当該会計処理に係る類似した取引の有無を確かめるため、以下の手続を行った。 ・類似の会計処理の発生している可能性のある領域の、本事案に係る取引以外での有無を確かめるため、 財務諸表の趨勢分析及び売掛金や未収入金等の勘定明細の通査を実施した。 ・本事案と同様の取引に関する類似の会計処理の有無を確かめるため、給付金申請案件の一覧を全件閲 覧し、内容を販売管理システムの予約記録、見積書、請求書、顧客とのメール等を閲覧して取引実態を 検討した。 ・本事案に係る取引以外の催行済み取引に関する給付金申請事案についてGoToトラベル事業給付金 が給付されていることを確認するために、申請データと入金データを照合した。

① 不正による虚偽表示の修正の網羅性に関する検証の観点を説明

② 調査報告書の利用可否の判断するための手続に加え、重要な領域について調査委員会の調査に対する再実施を行ったことの説明

③ 類似取引の検証に関する手続の内容を具体的に説明

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55

4.不正関連の分析 (3) 事例 不正調査の網羅性、虚偽表示の修正の網羅性をKAMとしている事例

(続き)

 P55の事例以外で実務上の工夫がみられたもの

 内容及び決定理由において、不正調査に関する専門的な知識及び慎重な判断が必要な旨を記載した上で、監査

上の対応において、不正の網羅的な検証のため、不正調査専門家を関与させた旨を記載している事例

 監査上の対応において、調査委員会の調査に対する追加的な実証手続を列挙している事例

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56

5.継続企業の前提に関する分析 (1) 分析の概要、総括

 「継続企業」のキーワードで抽出したKAM(76個)の内容を分析した。

 総括

 継続企業の前提、すなわち継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在するものの、 その解消又は改善するための対応策により継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在しないとする KAM76件を通読した限りにおいては、会社の状況を踏まえてKAMの記載を工夫しているところも見られた。

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5.継続企業の前提に関する分析 (2) 内容及び決定理由の記載について

 決定理由については、以下のいずれか、又は両方としている事例がほとんどである。多くのKAMでその内容が決定理由で明確に記載されてい

た。

 事業計画に含まれる重要な仮定の不確実性  資金調達の実行可能性、金融機関による支援の継続の可能性

 上場子会社の存在や事業子会社でのファイナンスなど企業集団の構造による特徴を踏まえた、かなり特殊な事例もあったが、多くの事例にお

いては記載内容に大きな差がないと思われる。

 継続企業の前提の判断や開示に関する取扱いを記載し、利用者の判断に資するような記述が31個あった。

 内容及び決定理由に対応した対応手続を記載している。事業計画に含まれる重要な仮定の不確実性と金融機関による支援の継続の可能性の両 方を内容及び決定理由としている場合、監査上の対応において手続の目的を明確に記載している事例も多い。他方、手続の目的を明確に記載 しておらず、決定理由との関係が明確でなかった事例も一部あった。

 事業計画に含まれる重要な仮定の不確実性をKAMの決定理由としている場合(P59、60参照)

 重要な仮定への対応については見積項目のKAMと同様。なお、重要な仮定ごとに手続を具体的に記載している事例もあった。

 資金調達の実行可能性、金融機関による支援の継続の可能性を内容及び決定理由としている場合(P61参照)

 監査報告書日までに実行した資金調達や融資契約の変更等に関する証憑突合  資金提供者や金融機関に対する質問、経営者の見解との整合性を比較

 (内容及び決定理由に関わりなく)共通として

 経営者の対応策を評価するに当たり、資金繰り分析に専門的な知見を有する専門家の関与を記載している事例  資産処分による資金調達余力については、実行可能性に加え、当該資産の価値について検証している事例  会社の作成した資金計画に対する監査人独自のストレステストの実施(36個)

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58

5.継続企業の前提に関する分析 (3) 事例 事業計画に含まれる重要な仮定の不確実性をKAMとしている事例

会社名:ニッコー㈱ 監査法人:有限責任 あずさ監査法人 見出し:継続企業の前提に関する重要な不確実性の有無についての経営者による判断の妥当性の評価

2022年3月期

内容及び決定理由

監査上の対応

連結財務諸表の作成に当たり、経営者は継続企業の前提が適切であるかどうかを評価することが求めら れる。また、継続企業の前提に関する評価の結果、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事 象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が 認められるときは、当該不確実性について連結財務諸表に注記することが必要となる。

ニッコー株式会社及び連結子会社(以下「ニッコーグループ」という。)では、・・・依然として新型 コロナウイルス感染症の影響により、主に陶磁器事業の主要顧客である国内ホテル・レストランからの 受注が低迷し、継続して重要な営業損失を計上している。以上から、当連結会計年度末において、継続 企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在している。 これらの状況を踏まえ、経営者は、当該事象又は状況を解消するための対応策として、ニッコーグルー プ全体での利益確保を確実とする体制を構築すべく、中期経営計画の実現に向けた施策に取り組んでい る。また、取引金融機関に対して、毎月業況及び中期経営計画の進捗状況の説明を行い、資金計画を提 示している。経営者は、これらの対応策の実行によって、当連結会計年度末から12ヶ月間のニッコー グループの資金繰りに重要な懸念はないと判断しており、連結財務諸表において継続企業の前提に関す る重要な不確実性の注記を行っていない。

継続企業の前提に関する重要な不確実性の有無についての判断に当たっては、ニッコーグループの20 23年3月31日までの期間の資金繰り計画が考慮されるが、その前提となる中期経営計画には、以下 の主要な仮定が含まれている。 ●住設環境機器事業における住宅着工件数の増加を前提とした高利益率製品の小型浄化槽「水創り王®」 の販売数量増加、及び受注済のバンクチュール大型工事案件の2023年3月期での完工予定 ●機能性セラミック商品事業におけるOA機器用基板の販売拡大 ●陶磁器事業における製造原価低減の推進及び高付加価値の特注品販売比率の増加 また、取引金融機関との協議により、ニッコーグループは既存の借入契約及び当座借越契約が2023 年3月31日まで継続されると仮定し、資金繰り計画を策定している。

これらの仮定には高い不確実性を伴い、継続企業の前提に関する重要な不確実性の有無についての判断 に重要な影響を及ぼす。・・・

・・・ (1)経営者の対応策についての検討 経営者の対応策が継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象や状況を解消し、又は改善する ものであるかどうか、及びその実行可能性について検討するため、経営者が作成した資金繰り計画を分 析した。当該分析にあたっては、資金繰り計画の基礎となる主要な仮定が適切かどうかについて評価す るため、主に以下の手続を実施した。 ●住設環境機器事業において、小型浄化槽「水創り王®」の利益率が従来型の浄化槽に比べて高いことを 当期の実績値により確認した。さらに、小型浄化槽の出荷台数と相関関係にある住宅着工件数の予測に ついて、外部機関が公表している市場の需要予測レポートを当監査法人が独自に入手し、2023年3 月期の予測値が2022年3月期の実績値に比べ増加していることを確かめるとともに、連結財務諸表 作成時点(2022年4月度)までの販売実績が計画どおり推移していることを確かめた。また、バン クチュール大型工事案件が、2022年3月末の受注残高に含まれており、2023年3月期に完工予 定であることについて販売システム上の受注データを閲覧した。 ●機能性セラミック商品事業におけるOA機器用基板の新製品を含めた販売拡大見込みについて、新製 品の開発進捗状況を事業計画で確認するとともに、販売拡大に係る見通しについて経営者に対して質問 を行った。 ●陶磁器事業の2023年3月期の製造固定費が2022年3月期の実績に比べ減少している根拠とし て、事業計画上の製造水準等との整合性を確認したほか、2023年3月期に特注品の販売比率が増加 するとの見通しについて、2022年3月期末の受注状況との整合性を確かめた。 ・・・ ●既存の借入契約及び当座借越契約の継続に関する仮定について、経営者及び財務部門の責任者に取引 金融機関の融資姿勢を質問するとともに、当座借越限度額を定めた契約書を閲覧した。その上で、当該 金融機関の融資担当者にニッコー株式会社への融資姿勢について質問し、経営者及び財務部門の責任者 による回答との整合性を確かめた。

(2)資金計画に含まれる不確実性の影響についての検討 上記手続の結果や、当連結会計年度の事業計画と実績との差異の要因についての検討結果を踏まえて、 ⑤ 経営者が作成した資金計画に、一定の不確実性を織り込んだ場合の2023年3月31日までの期間の 資金繰りを独自に見積もった。 ・・・

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5.継続企業の前提に関する分析 (3) 事例 事業計画に含まれる重要な仮定の不確実性をKAMとしている事例

(続き)

① 継続企業の前提の判断や開示に関する取扱いを記載 ② 会社の状況⇒該当する例示項目の明示⇒重要な疑義に該当する旨⇒会社の対応策⇒会社は重要な不確実性なし(GC注記をしな

い)という流れを順序だてて記載

③ 資金繰り計画の基礎となる事業計画に含まれている重要な仮定を明示し、これらの仮定に重要な不確実性があることを記載。な

お、仮定の1つに金融機関からの融資条件の継続を記載

④ 重要な仮定に対する監査手続を仮定ごとに記載

⑤ 会社の作成した資金計画に対する監査人独自のストレステストの実施を記載

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5.継続企業の前提に関する分析 (3) 事例 資金調達の実行可能性、金融機関による支援の継続の可能性をKAMとしている事例

会社名: ㈱DDホールディングス 監査法人:太陽有限責任監査法人 見出し:継続企業の前提に関する重要な不確実性の検討

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年2月期

会社は、当連結会計年度において売上高19,353百万円、営業損失7,332百万円及び当期純損 失320百万円、マイナスの営業キャッシュ・フロー1,982百万円を計上している。新型コロナウ イルス感染症の感染拡大の長期化の影響を受け、会社及び連結子会社の売上高は著しく減少しており、 その結果、継続的かつ重要な営業損失を計上し、また、継続的に営業キャッシュ・フローがマイナスと なっている。そのため継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在している。

会社は、当該事象又は状況を解消するため、連結子会社の組織再編による間接コストの削減や人件費・ 地代家賃等の削減、不採算店舗の退店等による収益改善のための施策を実施している。また、金融機関 からの融資枠の確保や第三者割当による資本増強等により事業継続のための資金を調達し、債務超過を 解消している。 会社は、上記の施策を加味した会社及び連結子会社の事業計画及びこれを基礎とした資金収支計画を作 成することにより、当面の事業継続のための資金は十分に確保され、継続企業の前提に関する重要な不 確実性は認められないと判断しており、連結財務諸表に継続企業の前提に関する事項を注記していない。 継続企業の前提に関する重要な不確実性の有無についての検討には、各社の事業計画策定の過程で考慮 された新型コロナウイルス感染症の収束時期及び業態ごとの業績回復計画並びに収益改善のための施策 の効果等の経営者による仮定が含まれている。また、資金収支計画作成の過程で考慮された取引金融機 関による融資継続の見込みに関する経営者の判断が含まれている。・・・

当監査法人は、継続企業の前提に関する重要な不確実性の有無についての経営者による判断の妥当性を 評価するため、主に以下の監査手続を実施した。

・・・

資金収支計画の検討 ・資金収支計画が合理的な期間(当連結会計年度末の翌日から1年間)にわたり作成されていることを 検討した。 ・取締役会で承認された各社の事業計画と各社の資金収支計画の営業収支との整合性を検討した。 ・資金収支計画に含まれる借入金の返済及び資金調達計画の実行可能性を評価するため、経営者に質問 し、契約書等の関連資料を閲覧した。 ・会社の事業状況に関する取引金融機関の認識を理解するとともに、会社に対する融資方針に関する見 解を確かめるため、主要な取引銀行へ質問した。 ・資金収支計画に反映されている不確実性を批判的に検討するため、過去の業績や利用可能な外部情報 等に基づいて資金収支が下振れする可能性を考慮し、合理的な期間にわたる事業継続に必要な資金の十 分性について検討した。

① 会社の状況⇒該当する例示項目の明示⇒重要な疑義に該当する旨⇒会社の対応策⇒会社は重要な不確実性なし(GC注記をしな

い)という流れを順序だてて記載

② 資金繰り計画で考慮されている取引金融機関の姿勢の継続に関する経営者の判断をKAMの決定理由として記載

③ 取引金融機関との契約書類の閲覧をするとともに、会社の理解と融資方針の見解を確かめるための質問を記載

④ 会社の作成した資金計画に対して、監査人独自のストレスを考慮して資金の十分性の検討を記載

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6.気候変動関連の分析 (1) 分析の概要

 「気候変動」のキーワードで抽出したKAM※を分析した。

※季節性商品に関連して言及していたKAMも2件存在したが、本分析においては除外している。

 調査対象となったKAMの内訳は以下のとおり。

決定理由での記載内容

個数

会計上の見積りに使用する重要な仮定における不確実性の要因の1つとして「気候変動対応」を記載

重要な仮定(市場成長率、販売見込数量)について、顧客等の気候変動対策による成長を企業が加味している、 と記載。気候変動自体を不確実性の要因そのものとはしていない。

海外工事案件に係る工事進行基準における工期遅延の要因の1つとして「気候変動リスク」を記載

3

1

1

5

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6.気候変動関連の分析 (2) 総括

 総括

 KAMの決定理由について「気候変動」という言葉を用いている事例を精査した限りにおいては、会計上の見積り項 目に関するKAMについて、重要な仮定に影響を及ぼす不確実性の高い要因の1つとして、「気候変動」や「気候変 動対応」に言及していた。

 気候変動が企業に及ぼす影響についての評価や開示の重要性が高まっていることから、会計上の見積りのKAMにおいても、不 確実性の高い要因として、気候変動や気候変動対応について記載する事例が業種によっては多くなると思われる。

 内容及び決定理由の記載

 会計上の見積りにおける重要な仮定に重要な影響を及ぼす要因、不確実性が高い要因の1つとして、気候変動や気

候変動対応を記載している。

 記載に当たっては、会計上の見積りに関するKAMと同様に、見積項目に関する会社の固有の状況、見積り方法につ

いて説明した上で、重要な仮定を特定し、重要な仮定ごとに不確実性が高い要因を個別に説明している。

 監査上の対応の記載

 重要な仮定への対応手続において、外部機関が発行したレポートとの比較を記載している事例が多いが、当該レ

ポートについて、気候変動対応を反映したものであることに言及している事例は1件のみであった。

 重要な仮定の評価に当たり、評価専門家をを利用することが適切と判断した理由を記載している事例が1件あった 。

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6.気候変動関連の分析 (3) 事例

会社名:出光興産㈱ 監査法人:有限責任監査法人トーマツ 見出し: NSRPに対する投融資の評価に使用される仮定

内容及び決定理由

監査上の対応

2022年3月

【NSRPに対する投融資残高の概要】 ・・・

【NSRPの状況】 NSRPは商業生産開始当初の装置稼働率の低迷やその後の製品市況の悪化により、過去から継続して 営業損失を計上・・・。当期においては製品市況、装置稼働率は改善しているが、・・・前期に続き営 業損失、純損失を計上し、キャッシュ・フローも悪化している。

【会計上の見積りへの影響】 ・・・。これら会計上の見積りの評価は、製品マージンや装置稼働率等の経営者の仮定を含む将来事業 計画を基礎としている。・・・

【監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由】 当監査法人は、上記会計上の見積りのために使用されたNSRPの将来事業計画に含まれる経営者の仮 定を評価し、「製品マージン」、「装置稼働率」・・・を以下の理由により監査上の主要な検討事項に 決定した。 ①「製品マージン」は市場の需給動向、地政学的リスク、気候変動対応等の外部環境の変化により変動 し、不確実性が高いため。 ②「装置稼働率」は外部データが存在しない見積りであり、経営者による偏向が介在しやすく不確実性 が高いため。また、市場の需給動向、地政学的リスク、気候変動対応等の外部環境の変化や足元の キャッシュ・フローの悪化が装置稼働率にどの程度影響を与えるか否かの評価も求められ、見積りの要 素が大きいため。 ・・・

当監査法人は、・・・将来事業計画に含まれる「製品マージン」、「装置稼働率」・・・それぞれにつ いて、構成単位の監査人に指示して、主に以下の監査手続を実施した。「製品マージン」・・・を評価 するにあたっては、評価の専門家を利用することが適切と判断した。これは、「製品マージン」は長期 間に及ぶ見積りであり、かつマーケット分析も踏まえた評価が必要となる点で専門性が高く、・・・。

<製品マージン> ・・・・気候変動対応等の外部環境の変化を反映した複数の外部機関が発行している将来製品マージン の予測レポートを評価し、NSRP使用数値と重要な乖離がないかどうかを検証 ・・・

<装置稼働率> ・・・ ・NSRPの経営者へのインタビューの実施やマーケットに関する外部レポートを閲覧することで、市 場の需給動向、地政学的リスク、気候変動対応の影響も踏まえた製品需給バランスを検討し、将来事業 計画に含まれた装置稼働率と不整合がないかを検証 ・・・

当監査法人は、上記手続により将来事業計画の信頼性を検証し、以下から構成されるNSRPに対する 投融資の評価の妥当性を確かめた。 ・・・

 エネルギー産業など、気候変動や気候変動対応が会計上の見積りに及ぼす影響がより大きい業種において参考になる事例

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (1) 分析の概要

 同一業種内での同一論点に係る分析を行うに際して、 TF-IDF分析を用いても、全ての業種について精査的な検討を 行うことは難しく、有効な分析を行うことが困難であったことから、一例として建設業における工事進行基準を取 り上げて分析を実施した。

 「2.収益認識関連の分析」において用いた母集団のうち、業種が建設業かつ工事進行基準というワードを使用し ているKAMを母集団として、一般的に工事進行基準計算に使用される3つの要素(工事収益総額、工事原価総額、 実際発生原価)で記載の類似性が顕著にあるのか、選定理由、対応手続について、実務的な観点から工夫が見られ る点、特徴的な点等について分析を行った。

 新収益認識基準適用会社においては、工事進行基準というワードが使われなくなっているため、分析対象の母集団

が少ないことに留意されたい。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

 全体の傾向

 新収益認識基準適用会社(2022年3月期決算)及び未適用会社(2022年3月期決算以外)の会社のうち、建設業で 共通的に採用されている「工事進行基準」という用語の記載のある25件を精査した限りにおいては、各社とも事 業の特性や監査手続の特徴を踏まえKAMの記載を工夫をして記載をしているところが多く見られた。

 工事進行基準に関する重要性について

 連結売上高に対して工事進行基準売上が占める割合、金額等を示している会社が大多数であり、全体として金額

的重要性が高いことを示している。

 中には、特定の事業について工事進行基準の対象であることを示しているケースもあり、複数事業を行っている 会社グループにおける事業特性の違いを示すこととなり有用な記載方法であると考えられる。なお、各社ともセ グメント情報等と一致していた。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

 「内容及び決定理由」の記載について

 「工事原価総額」に関する記載について

 一般的に工事進行基準計算に使用される3つの要素のうち、工事収益総額は契約書等で確定しており、ま た実際発生原価は当期までの発生実績の集計で確定しているのに対して、工事原価総額は将来発生額を含 むため経営者による一定の仮定の設定や判断が必要となり不確実性が高いことから、KAMとした理由に記 載されているケースが多かった。

 工事進捗率の計算で多く使われている原価比例法の構成要素のうち、工事原価総額は最も見積要素が入る 構成要素のため詳細な記載が多かった。もともと案件ごとの個別性が高いため総原価の見積りを行う上で 専門知識、経験等を踏まえた一定の仮定や判断を必要とするという難しさだけでなく、その後の工事原価 総額の変動の可能性につき、事業の特性を踏まえてその理由を具体的に記載しているケースも見られ、各 社において工夫が見られた。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

会社名: ㈱大盛工業 監査法人:監査法人アヴァンティア 見出し:工事進行基準の適用における工事原価総額の見積りの合理性

2021年7月期

内容及び決定理由

「注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載されているとおり、会社の連結売上高4,954,536千円のうち、会社が工事進行基準を 適用して計上した売上高は2,898,071千円であり、連結売上高の58.5%を占めている。 工事進行基準は、進捗部分について成果の確実性が認められる工事契約について適用されるが、適用に当たっては、工事収益総額、工事原価 総額及び連結会計年度末における工事進捗度を合理的に見積もる必要がある。なお、会社は、工事進捗度の見積方法に原価比例法を適用して いる。 会社が請け負うプロジェクトの中でも、特に下水道工事は、予期せぬ地中の障害物により工事が予定どおり進まず、当初の工事計画が変更さ れることがあるため、工事原価総額の見積りの変更を通じて、工事進捗度の計算に影響を及ぼすことになる。 また、工事現場ごとに施工条件が異なることから、工事原価総額の見積りには、個々の案件に特有の状況を考慮しながら実行予算を策定して おり、そのプロセスにおいて経営者による判断が介入することから不確実性を伴う。 以上により、会社の工事進行基準の適用は連結財務諸表にとって重要であり、工事進行基準における工事原価総額の見積りに関する監査は、 経営者の見積りを伴い、不確実性が高く、職業的専門家としての判断を要するため、当監査法人は、当該事項を監査上の主要な検討事項に該 当すると判断した

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

 「内容及び決定理由」の記載について

 「実際発生原価」に関する記載について

 特に記載をしている例は見られなかった。

 「工事収益総額」に関する記載について

 一般的に工事収益総額は契約書等で確定していることが多いが、事業の特性から工事収益総額に関して経

営者の見積りが入ることを理由にKAMとしているケースが見られた。

 仕様・工期の変更や資材費・人件費などのコストアップが原因で工事変更契約の締結が必要となるが締結 に時間を要する場合には、工事収益総額の見積りが必要となるため、この点について重要性があることか ら記載している。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

会社名:インターライフホールディングス㈱ 監査法人:仰星監査法人 見出し:工事進行基準の適用による工事収益の認識

2022年2月期

内容及び決定理由

一部の連結子会社は、【注記事項】(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)4.会計方針に関する事項(5)重要な収益及び費 用の計上基準に記載のとおり、完成工事高の計上基準として当連結会計年度末までの進捗部分について成果の確実性が認められる工事につい ては工事進行基準(工事の進捗度の見積りは原価比例法)を適用している。また、(重要な会計上の見積り)に記載のとおり、当連結会計年 度において工事進行基準に基づき、売上高を1,610,141千円計上している。 工事進行基準による完成工事高の計算においては、工事収益総額及び工事原価総額を見積る必要がある。 このうち、工事収益総額は、原則として請負契約書に記載されている請負契約額に基づき見積もられるが、追加工事や工事の変更については、 決算日時点で変更契約の締結に至っていないことがある。このような場合、発注者からの工事指示書、発注者との交渉に用いた変更に係る見 積書、交渉の結果を記録した議事録等に基づき、合意に至る可能性を判断しながら工事収益総額の見積りに反映する必要がある。このため工 事収益総額の見積りは不確実性を伴い、経営者による判断がその見積りに重要な影響を及ぼす。 以上から、当監査法人は、工事進行基準適用工事に係る収益認識の基礎となる工事収益総額の見積りが監査上の主要な検討事項に該当するも のと判断した。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

 「監査上の対応」の記載について

 内部統制評価手続についての記載

 経営者による見積りの合理性を検討するために、会社の工事進行基準に関係する見積プロセスに関する内部統制 の整備・運用状況を評価している旨の記載を行っているケースが多く見られた。多数の工事進行基準案件を有し ている会社においては、工事原価総額などの見積プロセスに関する内部統制に依拠して監査手続を立案せざるを 得ないことから、リスク評価手続、リスク対応手続という実施手続の順序に応じた記載となっている。

 実証手続についての記載

 案件ごとの利益率の変動を分析し、その結果に基づいて検討対象を抽出している旨の記載をしているケースが見

られた。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

会社名: ㈱ピーエス三菱 監査法人:有限責任 あずさ監査法人 見出し:工事進行基準の適用における工事原価総額の見積りの合理性

2022年3月期

監査上の対応

当監査法人は、土木事業及び建築事業における工事原価総額の見積りの合理性を評価するため、主に以下の監査手続を実施した。 (1)内部統制の評価 実行予算及び工事管理月報等の報告書に関連する内部統制の整備状況及び運用状況の有効性について、特に以下に焦点を当て評価を実施した。 ●実行予算の策定時に工種毎に見積原価を算定し、承認する統制 ●工事着工後における状況の変化を適時・適切に工事管理月報等の報告書に反映させるための統制 (2)工事原価総額の見積りの合理性の評価 工事原価総額の見積りの基礎となる実行予算等の見積りの合理性を評価するため、主に以下の手続を実施した。 ●一定の基準により抽出した工事契約について、実行予算の原価明細と関連する根拠証憑を照合し、適切に工事原価総額が見積られているこ とを確かめた。 ●大型工事契約を中心に、利益率の変動が一定率以上増減した工事契約、原価進捗度と工程表の予定進捗率との乖離が一定率以上ある工事契 約、及び状況の変化を示唆する定性的な情報に着目して抽出した工事契約について、工事担当者等への質問、工事工程表の閲覧及び工事原価 総額の変動金額と関連する根拠証憑との照合により、工事着工後の状況の変化が適時・適切に工事原価総額に反映されていることを確かめた。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

 「監査上の対応」の記載について

 その他

 監査証拠とした証憑類につき、具体的名称を記載しているケースが見られた。  監査人にとっては監査手続実施の上で必要な証憑の想定が容易に付くかもしれないが、関連証憑、証憑 書類といった一般的な記載よりも具体的な証憑名を記載する方が、読み手の監査に対する理解に資する と考えられる。

– 見積総原価の基礎となる資料として「実行予算書」を記載している会社が多数あったほか、当初

予算からの変動の根拠資料として具体的資料名を記載している会社があった。

 対象工事の現場往査を行い、その実施目的とともに記載しているケースが多く見られた。その場合の実 施目的として「現場における工事の進捗状況と、工事原価総額の見積りや進捗度との整合性を検討する ため」と明示しているケースもあり、こちらも読み手の監査に対する理解に資すると考えられる。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

会社名: ㈱福田組 監査法人: EY新日本有限責任監査法人 見出し:工事進行基準の適用における工事原価総額の見積り

2021年12月

監査上の対応

当監査法人は、工事進行基準の適用における工事原価総額の見積りの妥当性を検討するに当たり、主として以下の監査手続を実施した。 (1)内部統制の評価 工事原価総額の見積りに関する会社の以下の内部統制の整備・運用状況を評価した。 ・工事原価総額の見積りの基礎となる実行予算書(工事原価管理のための予算書)が、工事現場責任者により作成され、適切な権限者による承認 を受けることにより信頼性を確保する統制 ・工事原価総額の各要素について、社内で承認された標準単価や外部から入手した見積書に対して検討した価格を詳細に積上げて計算しているこ とを確認するための統制 ・工事原価総額の見積りが、工事の施工状況や実際の工事原価の発生額、あるいは顧客からの仕様変更指示に応じて、適時に見直されることを体 制として確保するための統制 ・工事の損益管理、進捗度を含めた工事原価総額の見積りについて、工事管理部門が適時・適切にモニタリングを行う統制 (2)工事原価総額の見積りの妥当性の評価 工事収益総額、工事損益、工事の施工状況等に照らして、工事原価総額の見積りの不確実性が相対的に高い工事を識別し、以下の手続を実施した。 ・工事原価総額の見積りについて、その計算の基礎となる実行予算書と照合するとともに、実行予算書の内容が工事目的物に照らして整合してい るか、工事原価総額の見積りが工種ごとの積上げにより計算されているか、実行予算書の中で将来の不確実性に対応することを理由として不明確 な調整項目が入っていないか検討した。 ・当連結会計年度末における最新の工事原価総額の見積額と当初の工事原価総額の見積額を比較し、重要な変動があるものについては、工事現場 責任者に質問をするとともに、工事原価総額の見直しの根拠となる工事変更契約書や工程表、外注変更契約等の基礎資料の閲覧により、工事原価 総額の見積りの変更内容が工事の実態を反映し、適時・適切に見直されているか検討した。 ・工事現場の視察を行い、工事の施工状況が工事原価総額の見積り及び工事進捗度と整合しているか検討した。 ・工事原価総額の事前の見積額とその確定額又は再見積額を比較することによって、工事原価総額の見積りプロセスを評価した。

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7.同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析 (2) 分析結果

 「監査上の対応」の記載について

 実証手続の実施範囲を選定するために、分析ツールを利用しその結果に基づいて検討対象を抽出している旨の

記載をしているケースが見られた。

 多数の進行基準案件を有している会社については、単なる金額基準だけでなく分析ツールによりリスク評価を 行った上での検討が有効であり、監査のDX化は相当に進んでいることから、今後も同様の手続を実施していく 監査人は多くなっていくものと考えられる。

 既に同様の手続を実施している監査人においては、積極的に対応手続への記載を行うことが、利用者に対する

監査への理解を高めていくことになるのではないかと考えられる。

– 「3.IT関連の分析 (5)監査人側のIT利用に係るKAMの事例」を参照

• 監査人が利用するツール(工事契約)を具体的に記載している例 • データ分析の目的をリスクと関連させて記載している例

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Ⅳ おわりに

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1.本分析結果を受けた総括

 今般の分析対象としたKAMには、記載上の工夫が見られたものが多くあった。多くの会社では2回目のKAMの記載となるが、同一論 点であっても前期の記載より個別具体的な記載に変化している事例は多かった。KAM強制適用初年度の様々な分析レポートや被監 査会社の監査役等とのコミュニケーションを受けて、各監査人、監査法人が一般的な表現から被監査会社における監査の実施状況 に応じた個別具体的な表現への変更を意識した結果ではないかと思われる。

 一方で、例えば以下のように誤解を生じさせる可能性のあるKAM、または、利用者の理解のための十分性を備えていないKAMのあ

るものも見られた。監査人は、これらの点に留意して利用者にとって有用なKAMを目指していただきたい。

 KAMの対象となる論点が明確に記載されていない。  重要な仮定を特定して記載していない。  会計基準の項番号の引用のみで、個々の企業の状況やKAMの選定理由との関連性の説明に欠く。  説明なしに監査の専門用語をそのままKAMに記載している。  KAMの決定理由と監査上の対応の記載が整合していない。  会社の手続と監査人の手続を混同してKAMに記載している。

 KAMは、各事業年度において監査人が特に重要であると判断した事項であることから、被監査会社における状況の変化に留意し、 当該事項がなぜ該当年度においてKAMになるのかを意識してKAMの内容及び決定理由を書く努力が望まれる。また、財務諸表利用 者の理解に資するように、監査上の対応において監査手続を説明していくことを心掛けることが重要である。そうした意識を持ち 努力を続けることで、KAMの制度を劣化させない責任を監査人は負っていることを述べて、本研究文書の結びとしたい。

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