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監査基準報告書 701 研究文書第1号
「監査上の主要な検討事項」の早期適用事例分析レポート(研究文書)
2020 10 月8
改正 2022 10 13
日本公認会計士協
監査・保証基準委員会
(研究文書:第5号)
1.はじめに ......................................................................... 1
2.KAM の早期適用事例の全体像 ........................................................ 2
(1) 早期適用会社が属する業種の分析 ................................................. 2
(2) 早期適用会社の売上規模の分析 ................................................... 2
(3) 早期適用会社が適用する会計基準の分析 ........................................... 3
(4) 監査領域別におけ KAM の個数に関する分析 ....................................... 3
(5) 各監査報告書における KAM の個数に関する分析 ..................................... 4
3.KAM の記載内容の全般的傾向 ........................................................ 6
(1) KAM の記載と会社による情報開示との関連 .......................................... 6
KAM の記載における会社が未公表の情報の記 .................................... 6
会社による情報開示の充実の必要性 ............................................. 8
(2) KAM の記載形式及び記載内容 ...................................................... 9
KAM の記載に関する形式 ........................................................ 9
会計上の見積り以外の領域を対象とする KAM ..................................... 10
個別財務諸表の監査報告書における KAM の記載 .................................. 13
財務諸表項目の金額の記載 .................................................... 15
(3) 監査上の対応 .................................................................. 15
「監査人による手続の結果に関連する記述」等の記載 ............................ 15
専門家の業務の利 .......................................................... 15
(4) その他 ........................................................................ 16
会社法上の監査報告書における KAM の記載 ...................................... 16
KAM の記載を踏まえた定時株主総会における対応 ................................. 19
KAM CAM の相違 ............................................................. 19
早期適用事例のうち特徴的であった事例 ........................................ 19
4.監査人が留意した事項及び認識した課題 ............................................ 22
(1) 会社とのコミュニケーション .................................................... 22
円滑にコミュニケーションを実施できた事例 .................................... 22
ii
会社とのコミュニケーションにおいて直面した課題 .............................. 22
KAM の検討スケジュール ....................................................... 22
(2) KAM の選定と記載内容 ........................................................... 23
KAM の対象項目の決定 ......................................................... 23
KAM の記載 ................................................................... 23
監査人の監査計画との関連 .................................................... 23
(3) 財務諸表の注記事項への参照 .................................................... 23
(4) 会社が未公表の情報の取扱い .................................................... 24
(5) その他 ........................................................................ 24
英文の監査報告書において記載され KAM ....................................... 24
KAM の記載に関する品質を確保するための法人レベルでの体制 ..................... 24
5.早期適用会社の認 .............................................................. 25
(1) KAM の早期適用目的又は理由 ..................................................... 25
(2) KAM の導入による変化及び効 ................................................... 25
経営者、監査役等、監査人間のコミュニケーションの深度 ........................ 25
追加的な情報開示 ............................................................ 26
監査の信頼性及び透明性の向上 ................................................ 26
その他 ...................................................................... 26
(3) KAM の導入の趣旨を達成するための更なる課 ..................................... 27
(4) 株主総会における事前対応 ...................................................... 28
6.財務諸表利用者の期待及び課題 .................................................... 29
(1) 監査報告書の情報価値の向上 .................................................... 29
全般的な感想 ................................................................ 29
KAM の個数 ................................................................... 29
会社法監査におけ KAM の適用と株主総会前の有価証券報告書の提出............... 29
(2) KAM の記載内容 ................................................................. 30
(3) 会社による情報開示の充実 ...................................................... 30
(4) KAM の強制適用に向けての期待及び課題 ........................................... 30
監査人に対する期待及び課題 .................................................. 30
会社による情報開示に対する期待及び課題 ...................................... 31
その他 ...................................................................... 31
7.早期適用事例の総括及び KAM の記載をより有意義なものとするための留意事項 .......... 32
(1) 早期適用事例の総 ............................................................ 32
早期適用に対する適用前の期待と結果について .................................. 32
早期適用事例の総 .......................................................... 32
(2) KAM の記載をより有意義なものとするための留意事項 ............................... 34
8.おわりに ........................................................................ 35
iii
(別紙1)提出会社ごとの KAM の記載状況(連結財務諸表に対する監査報告書) ............. 37
別紙2)提出会社ごとの KAM の記載状況(個別財務諸表に対する監査報告書) ............. 43
(別紙3)監査領域別 KAM 記載の分析 ................................................ 48
(1) 固定資産の評価 ................................................................ 48
(2) のれんの評価 .................................................................. 51
(3) 関係会社株式の評 ............................................................ 53
(4) 貸倒引当金の見積 ............................................................ 57
(5) 収益認識 ...................................................................... 59
(6) 引当金の見積り(貸倒引当金以外) .............................................. 63
(7) 組織再編 ...................................................................... 65
(8) 金融商品の評価 ................................................................ 68
(9) 繰延税金資産の評 ............................................................ 71
(10) 棚卸資産の評価 ............................................................... 75
(11) IT システムの評価 ............................................................. 76
(12) 新型コロナウイルス感染症関連 ................................................. 79
(13) その他の領域 ................................................................. 80
(別紙4)監査人に対するインタビュー .............................................. 83
(1) 会社とのコミュニケーション .................................................... 83
(2) KAM の選定と記載内容 ........................................................... 84
(3) 財務諸表の注記事項への参照 .................................................... 85
(4) 会社が未公表の情報の取扱い .................................................... 86
(5) その他 ........................................................................ 86
(別紙5)KAM の早期適用会社に対するアンケー ....................................... 87
(1) 監査役等 (回答数:39 社(42 名)) ........................................... 87
(2) 財務諸表作成責任 (回答数:36 社(36 名)) ................................. 92
(別紙6)財務諸表利用者に対するインタビュー ........................................ 98
(1) 監査報告書の情報価値の向上 .................................................... 98
(2) KAM の記載内容 ................................................................. 99
(3) 会社による情報開示の充実 ...................................................... 99
(4) KAM の強制適用に向けての期待及び課題 .......................................... 100
監査上の主要な検討事項分析チーム メンバー一覧
志村さやか(日本公認会計士協会 常務理事(監査基準・品質管理基準担当))
長塚 弦(日本公認会計士協会 監査基準委員会 委員長)
中山 清美(リーダー
関口 智和(サブリーダー)
會田 浩二
石原 鉄也
加藤 正英
神山 智宏
古賀祐一郎
齋藤 哲(日本公認会計士協会 監査基準委員会 副委員長)
健一
廣川 朝海(日本公認会計士協会 監査・保証実務委員会 委員長)
浩之
山中 彰子(日本公認会計士協会 監査基準委員会 副委員長)
結城 秀彦(日本公認会計士協会 常務理事(監査・保証・IT 担当)
西田 俊之(オブザーバー/日本公認会計士協会 常務理事(倫理担当))
樋口 誠之(オブザーバー/日本公認会計士協会 倫理委員 副委員長)
敬称略
-1-
1.はじめに
「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters)」(以下「KAM」という。)の記載は、2018
平成30年7月5日付けで企業会計審議会から公表された監査基準の改訂に関する意見書
より我が国の監査実務に導入されることになったこれにより監査人は、監査報告書
おいて、監査意見とも監査の過程で監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委
員会(以下監査役等という。と協議した事項の中から特に注意を払った事項を決定した
上で、その中からに、当年度の財務諸表の監査において、職業専門家として特に重要である
と判断した事項を監査上の主要な検討事項として記載することとなる。
KAMの記載は、監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高めるこ
とにその意義があるされていまた、財務諸表利用者に対して監査のプロセスに関する情
報が提供されることで監査の信頼性向上に資することや、監査役等とのコミュニケーションや
経営者とのディスカッションを更に充実させることを通じコーポレート・ガバナンスの強化
や効果的な監査の実施につながることが期待されている。
会では、監査基準改訂後、これまで監査基準報告書の新たな公表及び改訂を行ったほ
か、関連するQ&Aを公表する等、KAM記載の導入向けて対応してきた。これに加え、協会
は、多くの監査人及び会社が初めて対応する2021年3月期の事業年度における強制適用を前に、
KAM記載に関する実務を円滑に進めるため、「監査上の主要な検討事項分析チーム(以下
KAM分析チーム」という。)を立ち上げ、2020年3月期までの有価証券報告書における早期適
用事例について分析を行うこととした。
KAM分析チームは、2020年3月期まで有価証券報告書におけるKAM早期適用例を様々な
視点から分析するとともに、監査人だけでなく、有価証券報告書提出会社の監査役等及び財務
諸表作成責任者の方々、財務諸表利用者であるアナリストの方々にアンケート調査やインタビ
ューを行ってきた。今般、その結果がまとまったため、研究文書として公表する。
研究文書では、単なる項目別の事例分析にとどまらず、適用前から想定されていた論点に
関する全般的な傾向、早期適用から見えてきた監査人としての課題、有価証券報告書提出会社
の認識、財務諸表利用者の期待など様々な観点から分析等を行った。
本研究文書は、2021年3月期以降強制適用を行う監査人がKAMに関する実務を行う上で参
になる情報のほか、今後より一層KAMを意義あるものにするための留意事項を含んでいる。当協
会は、本研究文書が、当協会会員のほか、多くの方にご参照いただくことを期待している
本研究文書は、一般に公正妥当と認められる監査基準を構成するものではなく、会員が遵
守すべき基準等にも該当しない。また、202010月8日時点の最新情報に基づいている。
末筆にはなるが、ご多忙の中、アンケート調査やインタビューにご協力頂いた多くの皆様に
この場を借りて深く感謝を申し上げる。
-2-
2.KAM の早期適用事例の全体像
KAM分析チームは、まずKAM早期適用事例の全体像を把握するた定量的な分析実施
た。2020年3月期までにKAMの記載を早期適用した監査報告書を受領した被監査会社(以下「早
期適用会社」という。)は、9月末時点で48社であった
1
以下の記載は、早期適用会社の属性、KAMの対象領域などの観点によりまとめたものである。
(1) 早期適用会社が属する業種の分析
早期適用会社について、証券取引所が上場会社に適用している33の業種別(証券コード評
議会 業種別分類表 中分類)に従って分布状況をまとめたものを【図表1】に示している。
これによると、銀行業が6社と最も多く、これに電気機器が5社、不動産業、証券、商品先
物取引業がそれぞれ4社と続く結果となり、全体として金融関連の業種が多かった。他方で、
早期適用事例がない業種も12種存在し、建設業、金属製品、食料品など、100社以上の上場
会社が存在する業種で早期適用会社がない業種あった。このように、早期適用会社は、特
定業種に偏在していたと言える。
なお、その他(非上場会社)に区分された3社はいずれも早期適用会社(銀行業)の連結
子会社であった。
【図表1】早期適用会社が属する業種別会社数
業種 会社数
銀行業
電気機器
不動産業
証券、商品先物取引業
輸送用機器
卸売業
サービス業
小売業
医薬品
その他金融業
業種 会社数
水産・農林業
石油・石炭製品
非鉄金属
保険業
陸運業
情報・通信業
電気・ガス業
機械
精密機器
その他(非上場会社)
48
(2) 早期適用会社の売上規模の分析
早期適用会社の連結売上
2
又は収益の規模に基づく分布状況は【図表2のとおりである
これによると、連結売上高1兆円以上の会社は25社あり、これを含めた連結売上高1,000億円
1
2019 12 月期の米国証券取引委員会(SEC)登録企業1社を含む。
2
連結財務諸表を提出していない会社に関しては、個別財務諸表の売上高とする。
-3-
以上の会社は44となって、これらの大手企業が早期適用会社数の90を超えていた。
このように、KAMの早期適用は大手企業の監査業務において主に実施されていたが、連結売上
高が1,000億円未満の会社においても、4社の監査報告書においてKAMの早期適用が行われた
【図表2】早期適用会社の売上規模別の会社数
連結売上高又は収益 会社数
1兆円以上 25
5,000 億円以上1兆円未満 13
1,000 億円以上 5,000 億円未満
1,000 億円未満
48
(3) 早期適用会社が適用する会計基準の分析
早期適用会社が適用する会計基準に基づく分布は表3のとおりである。これによる
と、国際財務報告基準(以下「IFRS」という。)適用会社及び米国会計基準適用会社
合わせると24社となり、全体の半数を占めていた。このうちIFRS適用会社19であり、
2020月期時点でのIFRS適用会社192社の9%程度を占め会社の監査業務でKAM早期適
用が実施されていた。
なお、201912月期の連結財務諸表監査以降、SEC登録会社のうち、早期適用会社が大規模
早期提出会社(Large Accelerated Filer)に該当する場合、監査報告書に「監査上の重要な
事項(Critical Audit MattersCAM」を記載することが要求されている。このため、大規
模早期提出会社の監査においては、全てのケースで米国公開企業会計監視委員会(Public
Company Accounting Oversight BoardPCAOB)の監査基準に基づく監査報告書にCAMが記載さ
れていた一方で、日本の監査基準に基づく監査報告書にはKAMが記載されていた。
【図表3】早期適用会社が適用する会計基準
会計基準 会社数
日本基準 24
IFRS 19
米国会計基準
48
(4) 監査領域別における KAM 個数に関する分析
【図表4】は、早期適用事例のKAM監査領域別に分析したものである。これによると、連
結財務諸表監査報告書では固定資産、のれん、貸倒引当金、繰延税金資産など、主に会
計上の見積りの領域に関するものが多く記載される傾向が見受けられた。一方、ITシステム
の評価など、会計上の見積りに関連しない領域を対象にしKAMも存在した。
また、個別財務諸表の監査報告書におけるKAMについても、会計上の見積りの領域に関する
-4-
ものが多い傾向は連結財務諸表の監査報告書と同様であった。ただし、個別財務諸表の監査
報告書では、個別財務諸表の監査に特有の論点である関係会社株式の評価が最も多かった点
が特徴的であった。
【図表4】監査領域別におけるKAMの個数に関する分析
監査領域 個数(連結) 個数(単体)
固定資産の評価 19
のれんの評価 17
貸倒引当金の見積り 11
収益認識 10
引当金の見積り(貸倒引当金以外)
組織再編
金融商品の評価
繰延税金資産の評価
棚卸資産の評価
IT システムの評価
新型コロナウイルス感染症の拡大による影響
関係会社株式の評価 16
その他
102 48
(5) 監査報告書における KAM の個数に関する分析
早期適用会社の各監査報告書におけるKAMの個数に関する分布は【図表5-1】及び【図表
5-2】のとおりである。
これによると、連結財務諸表の監査報告書において記載されたKAMは2個の事例が22と最
も多く、3個(13社)、1個(10社)と続いて一方、個別財務諸表の監査報告書にお
いて記載されKAM1個の事例29社と最も多く、平均でも1.3個と連結財務諸表の場合
2.2個と比べて少ない結果となっなお、KAMの個数について、早期適用会社が適用する
会計基準によって大きな偏りはなかった
-5-
【図表5-1】連結財務諸表の監査報告書におけるKAM個数
KAM 個数 会社数
会計基準別内訳(会社数)
日本基準 IFRS 米国会計基準
10
22 10
13
会社数の合計
3
47 23 19
KAM 総数 102 52 39 11
1社当たりの平均個数 2.2 2.3 2.1 2.2
【図表5-2】個別財務諸表の監査報告書におけるKAM個数
4
KAM 個数 会社数
29
会社数の合計
5
38
KAM 総数 48
1社当たりの平均個数 1.3
3
早期適用会社 48 社のうち、連結財務諸表を作成する会社は 47 社である。
4
個別財務諸表については、全て日本基準の適用会社である。
5
早期適用会社 48 社のうち、個別財務諸表の監査報告書において KAM が記載された会社は 38 社である。
-6-
3.KAM の記載内容の全般的傾向
本章では、2.KAMの早期適用事例の全体像」を踏まえたで、KAMの記載内容の全般的な
傾向と特徴的な事例等に関して記載する
(1) KAM の記載と会社による情報開示との関連
KAM の記載における会社が未公表の情報の記載
ア.試行検討時の調査と早期適用事例の調査との比較
当協会は、監査基準の改訂に関する企業会計審議会における審議に当たってKAM の導
入における実務上の課題を識別するため2017 年に KAM 記載に関する試行検討を実施
した。試行検討においては、日本基準の適用会社 17 社、IFRS 又は米国会計基準適用会
社9社の合計 26 社の監査業務が選定され、監査チームにおいて国際監査基準(ISA701
独立監査人の監査報告書における監査上の主要な事項のコミュニケーション」に準拠
した KAM の文案の作成が実施された。
試行検討の結果、会社が適用する会計基準別に整理すると【図表6】列に記載し
た結果が得られた。これを踏まえ、企業会計審議会の審議では、特に日本基準適用会
社の監査業務に当たっては、多くの場合、会社が未公表の情報を記載せず KAM を記載
ることが困難な状況にあることが認識された。
このため、今回、早期適用事例の分析に当たって、早期適用事例の監査チーム向け
同様のアンケート調査を実施し、会計基準別の分析を実施した。この結果、【図表6】
の右列に記載した結果が得られた。これによると、早期適用事例においては、会計基準
にかかわらず、ほとんどの会社が未公表の情報を記載せずに KAM を記載できたことが判明
した。
なお、当該結果は、必ずしも、会社が従来開示していた情報を基礎として KAM の記載が
できたことを意味するものではなく、KAM の記載に向けた検討過程において、会社による
情報開示の充実が図られた可能性がある。この点については、以下「② 会社による情報
開示の充実の必要性」において更なる分析を行う。
-7-
【図表6】試行検討時の調査と早期適用事例の調査との比
(単位:KAM の個数)
試行検討時の調査
早期適用事例の調査
日本基準
IFRS 又は
米国会計基
日本基準
IFRS 又は
米国会計基
a. 監査対象の財務諸表に記載されてい
る情報に基づき、当該会社の監査に
固有の状況を記載できた。
13
31.7%)
26
86.6%)
28
51.9%)
39
81.2%)
b. 財務諸表に開示のない情報ではある
が、会社が公表している情報を利用
して、当該会社の監査に固有の状況
を記載できた。
19.5%)
6.7%)
22
40.7%)
12.5%)
c. 当該会社の監査に固有の状況を記載
しようとすると、会社未公表の情
報を記載せざるを得なかった。
18
43.9%)
6.7%)
1.9%)
0.0%)
d. その他
4.9%)
0.0%)
5.5%)
6.3%)
6
41
100.0%)
30
100.0%)
54
100.0%)
48
100.0%)
イ.KAM に記載された情報が会社により未公表であった事例
監査チーム向けのアンケート調査によると、上記の【図表6】に示したとおり、KAM
記載に会社未公表情報が含まれていた事例が連結財務諸表監査報告書において1
件あった。また、【図表6】には記載していないものの、同様の事例が個別財務諸表
監査報告書において3件あった。これらは、以下のような事例であり、いずれも KAM にお
いて企業が未公表のセンシティブな情報が開示されたものではなかった。
従来、KAM の対象とされた項目に関する金額が財務諸表及び注記事項で表示又は開示
されていなかった。このため、監査実施の過程においては有価証券報告書等におけ
る追加的な開示について監査チームと会社との間で協議を行ったものの、会社が追
的な開示を行わないと判断したため、「KAM の内容及び決定理由」において当該内容を
記載することになった
従来、財務諸表において KAM と判断した事項に関する会計方針が記載されていたが、
当該記載は概括的なものにとどまっていた。この点、KAM の記載に当たっては、KAM
該当すると判断した理由をより適切に説明する観点から、会社との協議を経たで、
KAM の内容及び決定理由」において、当該会計方針について会計基準を踏まえつつ
より具体的な説明を記載することになった。
6
調査に対する回答には、複数選択した回答及び無回答があった。
-8-
会社による情報開示の充実の必要性
「別紙3 監査領域別 KAM 記載の分析」によると、KAM の早期適用事例においては、有
価証券報告書における記述情報の記載を踏まえたり、注記事項の開示内容を参照するなど
して、特定の事象又は項目について記載されている場合が多かった。これらを踏まえると、
KAM の導入と有価証券報告書における記述情報の充実に関する取組みとが相まって、開示
報が充実された可能性がある。また、KAM の対象項目に関連する開示内容が前年度から変更
されている事例については、日本基準、IFRS のいずれの会計基準を適用する会社において
も見受けられた。
当協会が実施した 2017 11 月の KAM の試行検討の時点では、日本基準においては IFRS
や米国会計基準に比べて注記事項に関する開示要求が詳細でないため、日本基適用会
社における財務諸表を対象とした KAM の記載においては、会社が未公表の情報を記載する
ことなく、対象とる具体的な事象や金額等を特定することが困難ではないかという見解
が多く示された。
しかし、早期適用事例においては、結果として、日本基準適用会社における財務諸表
を対象とした KAM の記載においても、会社が未公表の情報が開示された事例はほとどな
かった。この点について監査チーム向けのアンケート調査を実施した結果、日本基準の適
用会社においても KAM の記載に至る過程で財務諸表作成者と監査人との協議が行われ、記
述情報や注記事項の拡充が図られていたことが判明した。
具体的には、以下のような事例があった
有価証券報告書の「事業等のリスク」において、「のれんの減損に係るリスク」とし
て、のれんを含む資産グループから得られるキャッシュ・フロー等が継続してマイナス
の場合等、どのような状況を原因としてのれんの減損損失を計上する可能性があるかが
新たに記載された。
有価証券報告書の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況
の分析」において、「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」の「固定資
産の減損」として、減損の兆候が認められる事業について減損の認識判定に使われる回
収可能価額の評価の前提となる将来キャッシュ・フローを見積るための重要な仮定の
内容が具体的に記載された。また、実際に同事業資産の減損の認識判定を行った結果、
回収可能と判断している旨が新たに記載された。
個別財務諸表の「有価証券関係注記」において、子会社株式及び関連会社株式の中で
主な投資銘柄の名称とそれぞれの投資簿価が新たに記載された。
なお、2021 年3月 31 日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務
諸表及び個別財務諸表から適用される企業会計基準第 31 号「会計上の見積りの開示に関す
る会計基準」(2020 年3月 31 企業会計基準委員会。以下「企業会計基準第 31 号」と
いう。)によれば、「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその
他の情報」として、次の事項について注記することが要求されている。
(1) 当年度の財務諸表に計上した金額の出方法
-9-
(2) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
(3) 翌年度の財務諸表に与える影響
これを踏まえ、2021 年3月期においては、上記の内容が財務諸表の注記事項として記載
されることにより、KAM として記載されることの多い会計上の見積りに関する開示がより一
層充実するものと考えられる。KAM の記載においても、関連する財務諸表における注記事
がある場合は、当該注記事項への参照を付した上で(監査基準報告書 701「独立監査人の
査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」第 12 項参照)、KAM の決定理由及び内
容がより一層具体的に明らかにされることが期待される。
(2) KAM の記載形式及び記載内容
KAM の記載に関する形式
早期適用事例においては、監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」の文
例において例されている左右対比表形式(「KAMの内容及び決定理由」及び「監査上の対
応」左右対比する形式)によっていた早期適用会社41社と大勢を占めていた。他
方、左右対比表形式によらず上下の縦方向に記載していた早期適用会社は7あった。こ
のうち、3の事例はこれを縦の表形式に取りまとめており
7
また他の4の事例で
表を用いずに記載てい
8
事例1(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ参照)
左右対比表形式は、KAMの内容及び決定理由の記載と監査上の対応の記載と対比して示
すことによりKAMの理解を容易にする一方で、記載の分量が多い場合には縦に長く一覧性
に乏しくなること、また、英文KAM及びCAMの開示がなされる会社においては、これら
記載様式の整合性を考慮すること等の理由により、他の方法によって記載することとした
ものと考えられる。
7
三井物産(株)、四国電力(株)、(株)AOKI ホールディングス
8
(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、三菱 UFJ 信託銀行(株)、(株)三菱 UFJ 銀行、三菱 UFJ 証券ホールデ
ィングス(株)
-10-
事例1 (株)三菱 UFJ ィナンシャル・グループ
15 期(平成 31 年4月1日 令和2年3月 31 日)連結財務諸表の監査報告書
9
から抜粋
1 貸出業務における貸倒引当金の算定
会社は、株式会社三菱UFJ銀行をはじめとする銀行子会社を傘下に有しており、中核的な事業の一つとして貸出
業務を行っている。貸出業務には、貸出先の倒産等により貸し付けた資金の全部又は一部が回収できなくなること等
により損失を被るリスクが存在する。
(省 略)
監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由
貸倒引当金の算定は、内部規程として予め定めている資産の自己査定基準及び償却・引当基準に則ってなされてい
る。しかしながら、その算定プロセスには、貸出先の債務償還能力を評価・分類した内部信用格付の決定、貸出先か
ら差し入れられた担保の価値の評価、及び、過去実績を基に算定した損失率への将来見込等による調整といった種々
の見積りが含まれている。
(省 略)
監査上の対応
当該監査上の主要な検討事項に対して当監査法人は、主に、特定の貸出先の内部信用格付及び追加引当額の決定に
係る会社の内部統制の有効性を評価し、また、特定の貸出先の内部信用格付及び追加引当額の決定に係る根拠資料を
入手し妥当性を評価した。
(省 略)
会計上の見積り以外の領域を対象とする KAM
「2.(4) 監査領域別におけるKAM個数に関する分析」に記載したとおり、KAMの早期
適用事例の多くは、見積りの不確実性が高いと認識された会計上の見積りに関連する領域
を対象としていた。
他方、会計上の見積りに関連しない項目をKAMの対象とした事例には、以下ものがあっ
た。
ア.収益の認識に関する事項
【図表】の事例はいずれも収益認識に係る監査上の論点のうち、会計上見積り
に関連しない事項をKAMの対象項目として選定したものである。このうちの2件は取引に
係る契約条件の判断が複雑である事例、1は収益認識に係る業務プロセスがITシス
テムに高度に依存している事例である。こうした事例は特定の業種に限らず想定される
ため、今後、KAMの対象を検討する際の参考になると考えられる
9
EDINET 閲覧(提出)サイト(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ 有価証券報告書 15 期(平成 31 年4
月1日‐令和2年3月 31 日)
-11-
【図表7】会計上の見積りに関連しない収益の認識に関すKAM
KAM の小見出し KAM とした理由
分譲事業に関する投資家向け
賃貸住宅・オフィスビル等の
分譲に係る収益認識の適切性
(三井不動産(株)
特別目的会社を利用した複雑なスキームの取引や継
続的に取引を行っている取引先との取引については、
売却条件の経済的合理性、売却価格の妥当性、売却取
引の合理性等について経営者による重要な判断を伴
う。
不動産ファンドに対する不動
産売却に係る収益認識(三菱
地所(株)
売却先が不動産ファンドである場合には、不動産の
リスクと経済価値のほとんど全てが移転しているかど
うかの判断が複雑になる。
電気事業セグメントの電灯料
及び電力料(四国電
(株))
電灯電力料の計上プロセスは、全体を通じて業務処
理システムの自動化統制に高度に依存している。
イ.IT システムの評価に関する事項
KAMの早期適用事例では、ITシステムに関連する領域をKAMの対象としていたものが4
あった(【図表8】参照)。このうち、1は労働集約型の事業において費用に占め
る人件費が非常に大きいことから、財務諸表に重要な影響を及ぼす人事システムに関す
る新たなシステムへのデータ移行という早期適用年度に発生した事象に対応したもので
ると考えられるまた、3は収益認識に係る業務プロセスがITシステムに高度に依
存している状況にあるため、IT全般統制や業務処理統制の整備・運用評価やデータの正
確性検証などが監査上の対応として記載されているものであった。このように、ア.
収益の認識に関する事項」で取り上げた1件を含めると、計5件のKAMが収益の認識に係
る業務がITシステムに高度に依存していることを理由とする事例となってい業種に
より異なるものの、業務のIT化が進んでいることから、IT全般統制や業務処理統制等を
含むITに関連するKAMの記載は、今後もKAMとして選定されることが考えられる。
-12-
【図表8】ITシステムの評価に関するKAM
KAM の小見出し KAM とした理由
財務報告に影響を与える主要
なシステム統制(松井証券
(株))
純営業収益の大半を占める株式等委託手数料等は、
システムにより処理・記録されたデータを基に計上さ
れている。
収益認識に関する IT 統制の
評価((株)日本取引所グル
ープ)
営業収益は、日々の膨大な取引が IT システムにより
処理されるため、IT システムへの依存度が非常に高
い。
営業収益を検討する前提として、IT システムの安定
稼働が必要不可欠と考えた。
通信サービス契約における
IFRS 15 号「顧客との契約
から生じる収益」の適用上の
重要な判断及び見積り及び収
益計上の前提とな IT シス
テムの信頼性(ソフトバンク
(株))
通信サービス契約による売上高の金額に重要性が高
く、顧客に対する課金請求及びそれに基づく収益計上
が正確に行われるためには、関連する IT システムが適
切に整備され、かつ運用されることが極めて重要であ
ると判断した。
新人事システムへのデータ移
行の正確性(綜合警備保障
(株))
新人事システムへのデータ移行を誤った場合、誤っ
た処理が反復継続される。
新システムにより計算された給与諸手当の金額的重
要性は高い。
ウ.その他
会計上の見積りに関連しない事項をKAMの対象としている事例で、ア及びイに該当しな
い事例が2(関連当事者取引に関する事例及び表示方法の変更に関する事例)あった
(【図表9】参照)。このような関連当事者取引や会計方針の変更(表示方法の変更を
含む。)は、監査上の重要な検討事項となることが多いため、今後KAMとして選定され
ることが考えられる。
-13-
【図表9】会計上の見積りに関連しないその他の領域に関するKAM
KAM の小見出し KAM とした理由
関連当事者、継続的な不動産
売買取引関係のある相手及び
特別目的会社を譲受人とした
不動産売却取引(東急不動産
ホールディングス(株)
譲受人が関連当事者等である場合には、不動産に継
続的に関与することで、リスクと経済価値がほとんど
全て移転しているかの判断が複雑になることがあり、
当該判断を誤った場合には、不動産売却取引について
不適切な収益又は売却益の認識が行われるリスクが
る。
譲受人が関連当事者等である場合には、取引価額を
恣意的に調整することで、不適切な収益又は売却益の
認識が行われるリスクや損失計上の回避が行われるリ
スクがある。
不動産賃貸事業に係る表示方
法の変更((株)AOKI ホール
ディングス)
不動産賃貸事業に係る表示方法の変更は、経営者に
よる主観的な意思決定を伴うものであり、損益計算書
の段階損益に重要な影響を及ぼす。
個別財務諸表の監査報告書における KAM の記載
個別財務諸表の監査報告書に記載されたKAM48個であった。個別財務諸表の監査報告書
におけるKAMは、連結財務諸表監査報告書に記載されKAMと比較して、以下の点が特徴
的であった
KAM項目はあるものの、連結財務諸表監査報告書において同一内容のKAMが記載さ
れているため、KAMの内容の記載が省略されている事例(17件、11社)があった。
KAMがないと監査人が判断して、記載ない事例10社)があった。
以下において、個別財務諸表の監査報告書におけるKAMついて、その概要とともに、特
徴的と考えられた点について記述する。
ア.個別財務諸表の監査報告書における KAM の概要
個別財務諸表の監査報告書におけるKAMの主な内訳は、関係会社株式の評価16個、収益
認識8個、固定資産の評価5個、貸倒引当金以外の引当金の見積り5等となってり、
特に関係会社株式の評価を対象とするものがかった。個別財務諸表においは、関係
会社株式残高に重要性を有する会社が多かったことに加え、結財務諸表監査にお
いてのれんや固定資産の減損損失に係る論点がKAMに該当すると判断された場合、個別
務諸表の監査において当該固定資産等を有する関係会社株式の評価がKAM該当すると判
断される事例が多かったためと考えられる。
イ.連結財務諸表の KAM と同一内容のため、KAM の内容の記載が省略されている事例
個別財務諸表における情報は、連結財務諸表の一部を構成するため、当年度の監査
おいて特に重要な事項は共通することが多い。このため、連結財務諸表の監査報告書に
おいて同一内容のKAMが記載されている場合には、個別財務諸表の監査報告書においてそ
-14-
の旨を記載し、KAMの内容の記載を省略することができることとされている(監基報701
12項及び監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガ
イダンス)」Q2-8)。
早期適用の事例では、個別財務諸表の監査報告書において、上記の定めを踏まえ、
結財務諸表の監査報告書に記載されているKAMと同一内容であるとして記載が省略されて
いる事例が17件(11社)あった
10
また、個別財務諸表の監査報告書においてKAMの内容の記載を省略する場合においても、
個別財務諸表の監査報告書KAMに関連する金額を記載している事例があった
11
。これは、
連結財務諸表及び個別財務諸表におけるKAMの対象金額が相当程度異なるなど、実質的な
内容が異なる場合には、連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書の各々にKAMの内容
を記載する必要があるとされていた
12
ことを考慮したものと考えられる。
ウ.KAM がないと監査人が判断していた事例
監査基準報告書701A59項では、「企業の実質的な事業活動が極めて限定される状況
においては、監査人が特に注意を払った事項がないため、第9項に基づき監査上の主要
な検討事項がないと監査人が判断することがある」とされている。また、監査基準報
告書700ガ1Q2-6では、極めてまれな状況であると考えられるが、強いて挙げるとす
れば、例えば、事業活動を行っていない純粋持株会社が考えられるとしている。そのよ
うな会社の個別財務諸表の監査における監査上の主要な検討事項の有無については慎重
に検討することが示されている。
早期適用の事例で、収益項目が経営指導料、受取配当金、受取利息等に限られ、売
金等の営業債権が計上されない等、個別財務諸表の表示から会社が純粋持株会社又はこ
れに準ずる会社(以下「純粋持株会社等」という。)であると判断される場合、個別財
務諸表の監査報告書においてKAMないと監査人が判断している事例が10件あった
13
。他
方、純粋持株会社等であると判断される会社の個別財務諸表の監査報告書においてKAM
記載していた事例が6件あった
14
。これらを踏まえると、純粋持株会社等の監査において
は、上記取扱いを踏まえ、個別財務諸表の監査報告書にKAMを記載するかどうかについて
の判断が行われたものと考える。
なお、純粋持株会社等に該当しない会社の財務諸表の監査報告書において、KAMない
とされている事例はなかった。
10
三菱電機(株)、富士通(株)、(株)デンソー、三谷産業(株)、(株)新生銀行、三菱地所(株)、四国電力
(株)、(株)メンバーズ、(株)三菱 UFJ 銀行、三菱 UFJ 証券ホールディングス(株)、(株)日立製作所
11
(株)新生銀行
12
「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概
要及びコメントに対する金融庁の考え方(2018 11 30 金融庁)
13
(株)三菱ケミカルホールディングス、(株)三井住友フィナンシャルグループ、(株)みずほフィナンシャルグル
ープ、(株)大和証券グループ本社、野村不動産ホールディングス(株)、ENEOS ホールディングス(株)、東急不
動産ホールディングス(株)、(株)岡三証券グループ、三井住友トラスト・ホールディングス(株)、野村ホール
ディングス(株)
14
(株)AOKI ホールディングス、(株)りそなホールディングス、(株)日本取引所グループ、第一生命ホールディン
グス(株)、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、三菱 UFJ 証券ホールディングス(株)
-15-
財務諸表項目の金額の記載
組織再編を対象とする KAM の記載においては、適用される会計基準にかかわらず、全ての
事例で対象となる事象が特定されていたほか、KAM の内容及び決定理由の記載において、
連する財務諸表項目に関する金額が記載されていた。
さらに、連結財務諸表におけるのれんの評価を対象とする KAM の記載についてはIFRS
及び米国会計基準の適用会社における早期適用事例10 件)において、複数の事業に関連
して連結貸借対照表に計上されているのれんの中から、KAM の対象となる特に重要なものを
特定した上で、関連する金額が記載されている事例が比較的多かった。一方、日本基準
適用会社における早期適用事例(7 件)では、連結貸借対照表に計上されているのれんの金
額は記載されているものの、対象の絞り込みがされている事例は比較的少数だった。
加えて、個別財務諸表における関係会社株式の評価を KAM としている早期適用事例(16
件)では、複数の関係会社の中から特に重要な検討の対象となる会社を特定し、その帳簿
価額を記載している事例が6件あった。但し、特に絞り込みを行うことなく貸借対照表
上の関係会社株式の金額をそのまま記載している事例の方が多かった。
以上を踏まえると、組織再編に係る KAM については、個別性が高いことから、KAM の対象
比較的特定しやすいため、絞り込みがされているものと考えられる。他方、のれん又は
関係会社株式の評価に係る KAM について、特に日本基準適用会社の事例においては、IFRS
の開示要求との相違を背景として、KAM に関連する金額の開示こそされているものの、個別
の事業や銘柄レベルまで絞り込みを行うことなく、KAM の対象を含む勘定残高をそのまま記
載している事例が比較的多かったものと考えられる。
「(1)②企業による情報開示の充実の必要性」の項で記載したように、早期適用会社に
おいて開示内容が前年度から変更されている事例は、日本基準、IFRS のいずれの会計基準
を適用する会社においても見られた。有価証券報告書における記述情報を含む開示内容と
監査人による KAM の記載内容とは密接な関係があるため、監査人は、会社の適切な情報開
示を促すという観点から、会社との協議を深めることが必要と考えられる
(3) 監査上の対応
「監査人による手続の結果に関連する記述」等の記載
監査人は、KAMに対する監査上の対応について、「監査アプローチの内容」や「実施した
手続の簡潔な概要に加え、「監査人による手続の結果に関連する記述」や「当該事項に
関する主要な見解」を記載することがあるとされている(監基報701A46項参照)。
しかし、早期適用事例において、「監査人による手続の結果に関連する記述」又は「当
該事項に関する主要な見解」が記載されている事例はなかった。
専門家の業務の利
監査人は、監査上の対応として監査アプローチを記載する際に、例えば、複雑な金融商
品の公正価値の評価のように見積りの不確実性が高い会計上の見積りに関して、専門家の
業務を利用したことを記載することがある。その場合、KAMに対応するために、どのような
領域の専門家の業務をどのような局面で利用したかについて、利用した業務の内容、範囲
-16-
及び目的等を具体的に記載することが適切であると考えられるとされている(監基報700
1Q2-13)。
早期適用事例の KAM の記載においても、監査上の対応として、専門家の業務の利用につい
て記載されている事例があった。これらの記載では、多くの事例において、単に専門家の
業務を利用した旨を記載するのではなく、専門家による業務の内容(「超過収益力の評
価」、「IT システムの信頼性の評価」、「将来減算一時差異のスケジューリングの検討」、
「組織再編について評価モデルの検討や重要な仮定の検討」、「金融商品の評価」等)や、
どのような領域に関する専門家であるか(IT 専門家、税務専門家、公正価値評価又は企業
価値評価の専門家等)が記載されていた
(4) その他
会社法上の監査報告書における KAM の記載
2020年3月期の監査において、会社法上の監査報告書においKAMを任意で適用した事例
が1件あった
15
。また、会社法上の監査報告書において最終的にKAMが記載されなかった
のの、KAMの記載が最終段階に至るまで検討された事例が複数あったことが監査チームに対
して行ったアンケート調査によって明らかとなった
会社法上の監査報告書において、KAM の記載がされた事例及び KAM の記載が最終的にされ
なかったものの最終段階に至るまで検討がされた事例の双方について、該当する監査チー
ムに対して実施したアンケート調査への回答で示された主な内容は下のとおりである。
ア.会社法の監査報告書で KAM の記載を検討した理由
会社法上の監査報告書で KAM の記載をすべきと考えた主な理由は以下のとおりであ
た。
会社法上の監査報告書KAMを記載し、株主総会前に株主に提供すべきではないかと
いう監査役等からの提案に対し、会計監査人による会社との協議の結果、会社法上の
監査報告書にKAMを記載する方針について合意に至ったため
会社法上の監査報告書KAMが記載されることは、監査人にとっても、会社法監査の
主たる受益者である株主に対して自ら実施した監査の品質と信頼性に関する説明責
任を果たす上で有意義と考えられたため
株主総会前に、会計監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項が
KAMとして株主に提供されることになり、監査役等が会計監査の相当性を判断する上で
も重要であった事項が対外的に明らかにされ、会社と株主との対話の実効性を高め
ことにも貢献できると考えたため。
なお会社法上の監査報告書にKAMが記載された会社からは、会社法監査へのKAM任意
適用を提案した理由としてKAMが記載された会社法上の監査報告書が株主総会前に株主に
提供されることにより、会社法と金融商品取引法との監査報告書における情報格差を無く
し、株主・投資家等のステークホルダーに対し、有用かつ適時な情報開示を一貫して行う
15
(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ
-17-
ことができると考えたためとの回答が示された。
また、会社法監査にKAMの制度を任意適用できた理由として、①会計監査人が早い段階か
ら方針を決断したこと、②財務諸表作成責任者が、会計監査人の方針を踏まえ、企業情報
の開示を充実する責任は自らにあるとの認識のもと、事業報告及び計算書類等における情
開示の拡充に積極的に取組んだこと、③監査役等が会計監査人の意思及び財務諸表作成
責任者の対応姿勢を評価し、それらを強く後押ししたことによるものであり、このつの
要素のうち、どれ一つが欠けても、会社法監査へのKAMの任意適用は円滑には実現できなか
ったとの回答があった。また、この中でも特に実務上の鍵を握ったのは、財務諸表作成責
任者における企業開示の充実への取組であり、KAMの記載内容に関連する事項について、財
務諸表作成責任者が事業報告及び計算書類等における十分な開示を行い、有価証券報告書
の関連開示との差を縮小又は解消することが、会計監査人が会社法上の監査報告書にKAM
記載するための重要な前提となることから、財務諸表作成責任者が早い段階からKAMの意
及び企業情報開示の充実の必要性を認識し、開示の拡充に取り組むことが円滑なKAMの導
を支えると考えたとの回答が示された。
イ.会社法上の監査報告書への KAM 記載検討する過程で気付いた課
監査チームによる検討の過程で、会社法の監査報告書における KAM の記載を行う場
合、特に以下の点が課題として認識された。
(日程に関する課題)
会社法上の監査報告書KAMを記載する場合、約2か月間の検討プロセスの前倒しが
必要になることから、KAMの内容や開示の充実について、前年度に試行検討を実施した。
また、当年度においても監査の計画段階から通年でKAMの項目や文案について会社と
ミュニケーションを実施する等、期末監査に先立ち、十分な準備が必要となった。
会計上の見積りに関する監査手続は、期末日後に実施することが多い。このため、
仮にKAMが会計上の見積りに関わる論点に関連する場合、KAMに含まれる監査上の対応
記載内容について検討するための時間も必要であることから、会計上の見積りに関
する監査手続を早期に完了させる必要性が認識された。
(計算書類等/事業報告における開示の充実に関する課題
金融商品取引法では、2020年3月期より有価証券報告書における記述情報の開示充
実が行われたが、会社法においてはこれに相当する改正はなく、会社が任意に開示
充実する必要があった
KAMの記載や関連する開示の全てを書面で株主に提供する場合、一定の印刷・郵送コ
ストの増加が見込まれことから、記載内容の検討に加え、情報の提供方法(インタ
ーネット上のホームページに掲載する開示方法の活用を含む。)についても会社の
討が必要となった
ウ.会社法の監査報告書で KAM を記載することを取り止めた理由
会社法上の監査報告書における KAM の記載を最終的に取り止めた事例では、主に以下の
-18-
点が理由とされた。
2020年3月期の会社法上の監査報告書でKAM任意で記載する場合、翌年度以降に仮
KAMの記載が困難な状況が生じた場合であっても、KAMの記載を行わないことが実務
上懸念されたため。
仮にKAMの対象となる項目について計算書類等における注記事項を有価証券報告書と
同程度に行うことが必要である場合、計算書類等においKAMの対象になる項目の注記
記載が突出して詳細になってしまい、結果として開示情報の粒度が不統一になって
まうことが懸念されたため
KAMが決算日近くに発生した新たな事象や後発事象に関するものである場合、KAM
記載や計算書類等における関連する開示の検討によって、広範な影響(取締役会開
日、招集通知発送日、株主総会の開催日等への影響)が生じるため、会社法の決算
及び監査の日程を考慮すると、実務上の対応が相当程度困難になると考えられたため
エ.会社法上の監査報告書における KAM 記載に関する見解
会社法上の監査報告書におけるKAM記載やその制度化について、肯定的な見解と慎
な見解の双方が示された。
会社法上の監査報告書におけるKAMの記載について肯定的な見解には、以下ようなも
のがあった。
特に多数の株主が存在する上場会社の監査においては、会社法上の監査報告書にお
けるKAMの任意適用を促進すべきである。
当年度の財務諸表監査におけるKAMの情報が、株主総会前に株主に提供されることが
望ましい。
会社法上の監査報告書KAMが記載されることによって、会社法上の開示の事前検討
が早期に実施されることになる。
他方で、これに関する慎重な見解としては、以下のようなものがあった
有価証券報告書を株主総会前に提出することで、株主への情報提供は可能であるた
め、会社法上の監査報告書におけるKAM記載を制度化する必要はないのではないか。
今回の新型コロナウイルス感染症拡大など不測の事態が生じる可能性を考慮すると
現行の取扱いのままでよいのではないか
会社法上の監査報告書におけるKAMの記載を検討するに当たっては人的リソースと
監査日程が十分に確保されていることを慎重に確認した上で議論すべきである。3
決算が大勢を占める我が国において、4月下旬から5月初旬にかけて大型連休があ
という固有の事情もあり、人的リソースや監査日程が十分に確保されていない中で
会社法上の監査報告書にKAMの記載対応を行う場合、かえって監査の品質へ悪影響を及
ぼす懸念がある。
オ.株主総会前に有価証券報告書を提出した事例
KAM の早期適用会社の内、会社法上の監査報告書におい KAM を記載しなかったものの、
-19-
株主総会前に有価証券報告書を提出した会社は4社
16
(内、株主総会を延期した会社は1
17
)であった。
KAM の記載を踏まえた定時株主総会における対応
KAMの適用に当たっては、KAMの記載について定時株主総会の質疑応答で取り上げられ
かどうかが議論の対象となっていた。このため、今回の分析に当たっては、会社法上の監
査報告書でKAMが記載された事例、及び有価証券報告書が定時株主総会以前に提出された事
例に係る早期適用会社(計5社)を対象として、定時株主総会においてKAMに関する質疑応
答があったかについて調査を行った。
この結果、これらの早期適用会社による定時株主総会においてKAMが質疑応答の対象とな
った事実はなかったようである。
KAM CAM の相違
SEC登録会社の監査においては、PCAOBAS3101「無限定適正意見の監査報告書」に準拠
して、監査報告書にCAMを記載することが要求されており、大規模早期適用会社の監査にお
いては2019年630日以後に終了する事業年度の監査から、それ以外のSEC登録会社の監査
においては20201215日以後に終了する事業年度の監査から監査報告書におけるCAMの記
載が要求されている。
これらの会社に係る連結財務諸表の監査においては、日本の監査基準に基づく監査報告
書でKAMが記載されるとともに、PCAOBの監査基準に基づく監査報告書ではCAMが記載されて
いたが、早期適用事例では、KAM(左右対比表形式)とCAM(左右対比表形式以外の形式)
とで記載上の様式が相違している事例が多かっ方、KAMCAMのそれぞれが対象と
る監査領域に関してはおおむね一致していたほか、具体的な記述に関して、記載の順序
こそ異なるものの、記載内容はおおむね一致していた。
早期適用事例のうち特徴的であった事例
早期適用事例のうち、特徴的と考えられた事例は、以下のとおりである。
ア.監査に影響を及ぼす要因を KAM として取り扱っている事例(三井物産(株))
三井物産(株)の連結財務諸表の監査報告書では、監査に影響を及ぼす要因として
来の油価の変動をKAMの対象項目とし、関連する複数の勘定科目に係る会計処理(持分法
投資評価、有形固定資産及び無形資産の減損、のれんの減損、投資評価)に対する影響
及び監査上の対応がまとめて記載されていた。
早期適用会社におけるKAMの記載事例は、「○○に関する会計上の見積り」や「○○に
関する減損」等、監査の対象となる会計処理を示す見出しを付した記載が大半であった。
しかし、本事例では、何に重点をおいて監査を実施したのか、どのような領域において
16
三谷産業(株)(有価証券報告書提出日6月 11 日、株主総会開催日6月 12 日)、松井証券(株)(有価証券
報告書提出日6月 26 日、株主総会開催日6月 28 日)、(株)日本取引所グループ(有価証券報告書提出日6月
16 日、株主総会開催日6月 17 日)、オリンパス(株)(有価証券報告書提出日7月6日、株主総会開催日7月 30
日)
17
オリンパス(株)
-20-
監査人の重要な判断が行われたのかを前面に出して記載されている点で特徴的であった。
イ.新型コロナウイルス感染症の監査に及ぼす影響が KAM の対象項目として記載している
事例((株)AOKI ホールディングス)
新型コロナウイルス感染症の監査に及ぼす影響については、KAMの個々の項目(固定資
産の減損等)の中でKAMの決定理由に関連して言及されている事例が複数あったが、特に
本事例では、新型コロナウイルス感染症の影響の評価が単独のKAMの対象項目として選定
されていた。
会社の外部要因又は内部要因に重要な変化がある場合には、監査人が注意を払う領
に変化が生じ、結果として監査役等にコミュニケーションを行う事項も変わり、KAMの記
載は変化することが想定される(監基報700ガ1Q2-10。新型コロナウイルス感染症
は、監査対象年度において生じた重要な事象と考えられることから、その影響の評価に
関してKAMの対象として選定されたものと考えられる。
ウ.KAM に該当すると判断された事項以外の事項を含め、主要な監査論点を一覧表の形で
載している事例((株)AOKI ホールディングス)
(株)AOKIホールディングスの連結財務諸表の監査報告書では、主要な監査論点(
査役等とコミュニケーションを行った事項又は監査を実施する上で特に注意を払った事
項)について、潜在的影響額と発生可能性の観点から一覧表にした上で、前年度におけ
るリスク評価の結果からの変化が示されていた。
KAMの記載に当たっては、監査役等とコミュニケーションを行った事項又は監査を実施
する上で特に注意を払った事項について監査報告書に記載することは求められていない。
しかし、本事例では、任意に、監査役等とコミュニケーションを行った事項について、
それぞれの事項の内容及び重要度が、前年度の評価と比較される形で簡潔に記載されて
いた。(事例2 (株)AOKIホールディングス参照)
-21-
事例2 (株)AOKI ホールディングス
44 期(平成 31 年4月1日 令和2年3月 31 日)連結財務諸表の監査報告書
18
から抜粋
監査上の主要な検討事項
(省 略)
監査役とコミュニケーションを行った潜在的な重要な虚偽表示リスク及び当連結会計年度に発
生した重要な事象が監査に与える影響
潜在的
影響額
*3,4
発生
可能性
*3,4
A
新型コロナウイルス感染症拡大による影響(
*1
B
ファッション事業における減損会計の適用(
*2
C
エンターテイメント事業における減損会計の適用(
*2
D
ファッション事業における棚卸資産の評価
E
アニヴェルセル・ブライダル事業における減損会計の適用
F
繰延税金資産の回収可能性
G
資産除去債務の計上
H
経営者による内部統制の無効化リスク(
*2
I
収益認識に係るリスク
J
不動産賃貸事業に係る表示方法の変更(
*1
K
セグメント情報の変更(
*1
*1:当連結会計年度に新たに監査役とコミュニケーションを行った項目である。
*2:特別な検討を必要とするリスクに該当する項目である。
*3:上表における「高」「中」「低」は、当連結会計年度の監査において各項目の重要性を相対的に判断した結果
として記載している。
*4:上表における矢印は、監査人によるリスク評価の程度に関する前連結会計年度からの推移を表しており、利用
者にとってより有用な情報となるよう「高」「中」「低」内で変動があった場合にも記載している。したがっ
て、必ずしも「高」「中」「低」そのものの変動(「中」から「高」への変動等)を示すものではない。
18
EDINET 閲覧(提出)サイト(株)AOKI ホールディングス 有価証券報告書―第 44 期(平成 31 年4月1日‐令和
2年3月 31 日)
-22-
4.監査人が留意した事項及び認識した課題
KAMの早期適用を行った監査の現場において、どのような課題等が生じたかについて理解する
ことは、2021年3月期より開始されるKAMの強制適用を円滑に進めるに当たって有用と考えられ
る。このため、今回の分析では、KAMの早期適用を行った監査の現場における実務上の留意点
課題等について、監査チームに対するインタビュー及びアンケート調査を実施した。
インタビュー等によって得られた回答の要旨は、以下のとおりである(詳細は、別紙4参
照)。
(1) 会社とのコミュニケーション
円滑にコミュニケーションを実施できた事例
多くの監査チームにおいて、監査の早い段階から継続的に監査役等及び経営者と十分か
つ適時にコミュニケーションを行うことにより、会社の理解が十分に得られ、KAM の早期適
用を円滑に行うことが可能となったとの回答があった。また会社とのコミュニケーショ
ンにおいて、KAM の草案を具体的に提示することにより、会社も注記事項等の開示を具体的
に想定することができたため、有効な意見交換を行うことができたとの回答もあった。
なお、KAM の導入を契機に、監査役等及び経営者との間で監査リスクが高い領域について、
より深度のある協議を行うことに努めた結果、会社との協議の時間は、全体として以前よ
り増加したと回答した監査チームが多かった。
会社とのコミュニケーションにおいて直面した課題
会社とのコミュニケーションにおいては、会社から、同一業種に属する会社と同様の KAM
が選定されることや、KAM の記載が同様の内容となることを期待されることがあったとの回
答や、監査報告書に KAM を記載することによって、KAM の対象項目に関する事業上のリスク
が高いとの誤解を受けないかについて、会社が懸念していたとの回答もあった。
また、KAM の記載と会社の開示との整合性に多くの検討時間を費やすとともに、KAM の文
案の修正の都度、監査役等と経営者の双方に対してコミュニケーションを行うことから、
想定よりも多くの時間を必要としたとの回答あった。さらに経理部と異なる部署
述情報の作成が行われる場合、監査や KAM に関する理解を得るために、追加の協議が必要
となった回答もあった
KAM の検討スケジュール
早期適用事例の多くにおいて、KAM の文案を決定する時期や有価証券報告書の提出までの
日程等について、会社と早めに協議するとともに、監査の早い段階で KAM 具体的な草案
を会社に提示して議論を重ねることが必要との回答があった。特 KAM の適用初年度は、
関係者の理解を十分に得るため、監査役等及び経営者とのコミュニケーションを定期的か
つ頻度高く実施することが重要とのことであった
また、期末近くに発生した事象を KAM の対象としたことにより、KAM の草案を検討すると
ともに、KAM に関連する注記事項等の開示を会社と協議した時期が、期末監査の往査期間と
重なり、繁忙を極めたとの回答もあった
-23-
(2) KAM の選定と記載内容
KAM の対象項目の決定
KAM の対象項目の決定に関しては、個別財務諸表の監査における KAM の対象項目の決定が
困難だったとの回答があった。特に、純粋持株会社の個別財務諸表の監査において、関
係会社に対する投資の評価等に特に注意を払う事項がない場合、KAM がないとするのか、
対的な重要性に鑑みて KAM を選定するのかについて判断に時間を要したとの回答があった。
KAM の記載
ほとんどの事例で、監査チームは、KAM の対象を早めに決定していたものの、会社及び業
界における特有の状況や当期に発生した重要な事象又は取引等を考慮して、具体的な KAM
記載の検討に多くの時間を要したとの回答があった。また、財務諸表利用者の観点から
平易で理解しやすい記述とするために、会社の事業活動 KAM との関係について記載を追
加する等の記載上の工夫が必要との回答があった。
一方、KAM の記載が、会社にとって否定的な記述と捉えられないように配慮しつつ、正確
に記載することに努めたとの回答や、海外の構成単位の監査人が実施した監査上の対応を
正確に理解し、KAM の中で簡潔かつ平易に記載することに苦労しとの回答もあった。
監査人の監査計画との関連
監査人が策定する監査計画は監査期間中必要に応じて更新されるため、監査人のリス
ク評価及びリスク対応手続の更新に伴い、当初想定していた KAM の内容も更新されること
がある。早期適用事例においては新型コロナウイルス感染症が会社に及ぼす影響に関し
て、期末日後に KAM の対象項目を追加又は記載の大幅な変更等を行ったとの回答があった。
また、監査人のリスク評価及びリスク対応手続の更新に伴い KAM の記載を更新し、また、
必要に応じて監査上の対応の記載に関する詳細さの程度を見直す等の検討を行ったとの回
答があった。
(3) 財務諸表の注記事項への参照
監査報告書の KAM 区分において、関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該
注記事項への参照を記載することが要求されているこの点、日本基準では財務諸表注記
関する要求事項が限定的であることもあり注記事項への参照を行うことなく、有価証券報
告書の記述情報の充実を前提に KAM の内容を決定したとの回答があった。
また、会社の販売プロセスや事業計画の内容、持分法適用会社の財務情報、又は IT システ
ムのデータ移行等に関する事項を KAM の記述に含める場合、有価証券報告書において関連す
る情報が開示されないことがあるため対応に苦慮し事例や、個別財務諸表に関しては連
結財務諸表に比べて要求さ開示項目が少ないため、注記事項への参照を行えなかった
の回答もあった。
上記のほか、個別の監査対象領域において監査チームが認識した課題は、「別紙(3)②個
別の監査対象領域における課題」を参照いただきたい。
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(4) 会社が未公表の情報の取扱い
会社が注記事項又は記述情報の中で KAM に関連する開示を行わない場合、KAM の記載におい
て監査人が未公表の情報に触れる記載を行うことがあり得るKAM における未公表の情報の取
扱いに関しては、「3(1)KAM の記載における会社が未公表の情報の記載」に記載のとおり、
KAM のほとんどは、注記事項又は記述情報として結果として開示された情報と対応していた。
また、早期適用会社においては、会社が未公表情報に関して、監査人の守秘義務との関
係で KAM の記載内容について会社から強い難色を示された事例はなかったようである。
(5) その他
英文の監査報告書において記載され KAM
有価証券報告書のほかに英文財務諸表を作成している会社の監査においては、監査報告
書において KAM を英文で記載する必要が生じ得る。この点KAM を英文で記載する草案の過
程で、和文の監査報告書の KAM 記載を修正する必要が生じたとの回答があった。
KAM の記載に関する品質を確保するための法人レベルでの体制
大手監査法人及び一部の準大手監査法人では、早期適用事例への対応に当たって、監査
チーム及び審査担当者だけでなく、監査法人内部の第三者(例えば、品質管理本部所属者)
によるレビューを経ることも要求されており、レビューを多層的に実施する品質管理体制
が構築されていた。また、レビューに当たっては、KAM の記載に誤りがないだけでなく、財
務諸表利用者にとって理解しやすいものとなっているかにも着目されていた。
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5.早期適用会社の認識
KAM の早期適用により、会社が認識した課題等について理解するため、早期適用会社の監査役
等及び財務諸表作成責任者にアンケート調査を実施した。
当該アンケート調査には39 社(42 名)の監査役等及び 36 社(36 名)の財務諸表作成責任
者から回答が得られた詳細は、別紙5参照)。アンケート調査結果の概要は、以下のとお
りである。
(1) KAM の早期適用目的又は理由
KAM の早期適用目的又は理由に関する質問に対して、監査役等及び財務諸表作成責任者から、
以下のような回答があった。
(監査役等からの回答
KAM の早期適用により、監査委員会と会計監査人の更なる連携強化とリスク識別の効率
化・精度向上、リスクマネジメント強化を図ることが期待された。
監査人から早期適用したい旨の表明があり、制度趣旨に賛同できることから早期適用
る方向で経営陣との調整に側面から協力した。
(財務諸表作成責任者からの回答)
KAM はグローバルにビジネス展開する企業にとっては必要な開示であり、早期適用するこ
とで利害関係者や投資家に対して、有益な情報を積極的に提供する姿勢を示すことができ
る。
投資家や株主といった監査報告書の利用者に対して監査の透明性の向上を図ることがで
きる。
監査人や監査役、経営者等の間でコミュニケーションや議論が深まることによるコーポ
レート・ガバナンスの強化や、投資家の監査や財務諸表に対する理解が深まることにより
経営者との対話が促進される効果を期待する。
(2) KAM の導入による変化及び効果
経営者、監査役等、監査人間のコミュニケーションの深度
監査役等財務諸表作成責任者いずれからも、経営者、監査役等、監査人間において、
コミュニケーションの深度が増したとの回答が大半を占めており、KAM の導入により期待さ
れていた効果の一つが実現されたと言える
具体的には財務諸表上のリスクについて、客観的・定量的に評価する仕組みを再整理
したことで、監査人や監査役、経営者等の議論が従来よりも深まったとの回答や、KAM にお
いて監査上の対応を詳細に開示されることになったため、監査に対する理解が深まったと
の回答があった。また、監査人に従来以上の緊張感が生まれたと感じるとともに、KAM の内
容と連結財務諸表注記との整合性を検討することでも、会社と監査チームとの間のコミュ
ニケーションは活発化し、監査品質が向上したと感じたとの回答があった。
一方で、以前から深度のあるコミュニケーションが取れており、大きな変化はなかった
との回答もあった。
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追加的な情報開示
KAM の導入により、前年度に比較して財務諸表における注記の充実等の追加的な情報の開
示を行ったという質問に対して、追加的な情報開示を行ったと回答した監査役等は約
4割、財務諸表作成責任者は約6割であった。
追加的な情報開示に際して検討を行った主な内容については、事業等のリスクや経営者
による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析における重要会計上
見積り及び当該見積りに用いた仮定に関する事項に関する回答が多くあった。また、KAM
記載を財務諸表利用者が十分に理解できるかどうかという観点で、開示内容見直しを行
ったという回答も多くあった
一方で注記の充実等の追加的な情報の開示を行うに当たっては、タイトな決算スケジ
ュールの中で、監査人とのスケジュール調整に多少の困難を感じた、KAM の導入に伴う開示
充実監査人との文言の調整など追加的な工数がかかり、相当な時間を要したとの課題
認識を有している回答もあった。
監査の信頼性及び透明性向上
早期適用の経験を踏まえて、KAM の導入により財務諸表利用者に対して監査のプロセスに
関する情報が提供されることに伴い監査の信頼性及透明性向上期待すると回答が、
監査役等、財務諸表作成責任いずれからも多く寄せられた具体的には、以下のよう
な回答があった。
従来の監査報告書は標準化した文言が使用され、財務諸表利用者からは監査意見に至
るまでのプロセスが見えなかったが、KAM の導入により監査手続の透明性は向上したと考
える。
監査人が重点的に監査を行った項目が第三者にも分かることで、財務諸表や監査に対
する信頼度が上がった
一方で、株主との対話という観点では、以下のような課題認識を示す回答もあった
KAM の性質上、監査という観点からの専門的な記載にならざるを得ず、どこまで株主
対して有用な情報提供となっているのかは、継続的な検証が必要である。
財務諸表における注記の充実につながらなければ、株主にとって余り効果はないので
はないかと考える。
その他
上記のほか、特に監査役等から、KAM を早期適用したことによる効果として以下が指摘さ
れた。
株主総会に先立ち有価証券報告書を提出したため、株主総会参加者に対しては充実し
た情報提供を行うことができた。株主に対する説明責任の範囲・深度の観点で、監査役
等としての対応をより充実させる契機になったと受け止めている。
会社側は会計基準に従って企業情報を適切に作成・開示する、そして、監査人は、監
査基準に従い監査を適切に実施しその結果を報告することで、それぞれの責任を適切に
-27-
果たしていくことが、本質的なテーマであると考えている。そして、企業においてこの
「二重責任の原則」が適切に機能しているか否かを監視・監督することが監査役等
重要な役割であることを改めて確認した
(3) KAM の導入の趣旨を達成するための更なる課
KAM の導入の趣旨を達成するための更なる課題について、早期適用会社の監査役等及び財
諸表作成責任者に対して制度上、監査人側、会社側及び利用者側のつの観点から確認
監査役等と財務諸表作成責任者認識している主な課題は次のとおりで、両者で共通
課題認識があることが確認できた。
制度上の課題
(監査役等からのコメント
会社法上の会計監査人の監査報告書 KAM を記載するか否かについ
て検討する必要がある
(財務諸表作成責任者からのコメント)
会社法上の監査報告書における KAM の記載は任意とされているが、
そもそも会社法と金融商品取引法の二元的な開示制度が会社の負担に
なっていることが問題であり、その点を解消することが先決と考え
る。
監査人側にお
ける課題
(監査役等からのコメント
KAM の選定については、記載がボイラープレート化しないように
選定理由を長期的な視点で説明できるようにしておく必要がある。
同一の KAM を複数年にわたって継続的に記載する場合、事象の変化
に応じて有益な情報提供を行うための工夫が必要である。複数年にわ
たり記載内容が変化しないことで、制度が形骸化していくことを懸念
する。
(財務諸表作成責任者からのコメント)
早期に KAM を選定し、その選定理由や記載内容について会社側と十
分な協議時間を確保する必要がある。
今後は、初年度の記載事項がボイラープレート化しないように、毎
期項目の選定や記載内容について十分に検討する必要がある。
会社側におけ
る課題
(監査役等からのコメント
有価証券報告書での開示内容と KAM が連携することにより、利用
(投資家)にとって分かりやすい文章となっていることを確認する必
要がある。
KAM のみならず、監査人が識別したリスク項目について、経理部
や監査役等でとどめずに、幅広経営者とも共有し、リスクを意識
た経営を行うように改善すべきと感じる
(財務諸表作成責任者からのコメント)
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財務諸表作成責任者が早い段階から KAM の意義及び企業情報開示の
充実の必要性を認識し、開示の充実に取り組むことが円滑な KAM の導
入を支えると考えている。
KAM を投資家(株主)目線で有用なものとするには、早期の KAM
提供が必要であり、会社法監査報告書での任意適用や有価証券報告書
の早期提出等について検討する必要があると思料する。
利用者側にお
ける課題
(監査役等からのコメント
KAM は、監査プロセスに関する情報を提供するものであり、KAM とし
て記載された事項が「リスク発現が高まるアラーム」と受け止めら
れないように、財務諸表作成者と利用者の理解が必要である。
(財務諸表作成責任者からのコメント)
財務諸表の利用者が当該制度の背景・趣旨を正しく理解し、監査上
問題があった事項が KAM に記載されるといったような誤解がないよ
う、KAM の趣旨につき、利用者に対して継続的な啓蒙活動が必要であ
る。
(4) 株主総会における事前対応
ほとんどの会社から、早期適用の有無KAM の記載内容及びその選定プロセス等について、
想定し得る質疑応答を作成し株主総会準備を行っていたとの回答が得られた方で、
事前の対応及び準備は行わなかった、有価証券報告書の提出が株主総会後であるため、仮に
質問が出たとしても詳細な説明は差し控えることを想定していたとの回答もあった。
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6.財務諸表利用者の期待及び課題
今回の分析に当たって、企業会計審議会の監査部会において当該監査基準の改訂に関わっ
た財務諸表利用者からKAM の早期適用事例を踏まえた所感とともに、強制適用に向けた期待に
ついてインタビューを行った。
財務諸表利用者からは、全体として、監査報告書の情報価値の向上の観点からおおむね期待
どおりの記載となっており、財務諸表利用者にとって有用な事例が見られたと評価するコメ
トを受けた。他方、KAM に関連する会社の情報開示の充実や、株主総会前の KAM の情報提供等
関する要望も聞かれた詳細は、別紙6参照)財務諸表利用者からの回答のうち主な内容
の要約は以下のとおりである。
(1) 監査報告書の情報価値の向上
全般的な感想
早期適用の事例は、全体としておおむね期待どおりの記載となっていたとの回答が得
られた特に、従来の監査報告書では、どのような監査プロセスを通して監査意見が形
成されたかについて情報が提供されてこなかったため、KAM が監査報告書に記載されること
は非常に意義のあることであり、会社との対話にもつながるとのコメントがあった。
他方、KAM の記載をより有意義なものにするためには、KAM そのものの記載を充実させる
だけでなく、記載の前提となる財務諸表の注記事項及び有価証券報告書における記述情報
を併せて充実させることが必要であり、会社に対して KAM に関連する財務諸表内外情報
(会計上の見積りにおいて用いられた仮定、重要な会計上の見積りや事業等のリスクに関
する記述情報、監査役等の主要な検討事項の開示を促すことが強く期待されるとのコメ
ントが示された。
なお、一部の財務諸表利用者からは、のれんの減損損失の計上の要否の検討が KAM として
記載され、翌四半期以降において減損損失が計上されている事例が有用な情報を提供して
いる事例として言及された。当該財務諸表利用者からは、こうした事例では、KAM の記載に
よって、減損損失の計上がされていないものの将来において減損損失の計上がされる可能
性がある資産の存在が明らかになる可能性があり、こうし場合、KAM によって提供される
情報が有用であるとの指摘があった。
KAM の個数
KAM の個数については、日本の早期適用事例では1社当たりおおむね2個程度であったが
一部の財務諸表利用者からは、KAM の個数の多寡を議論すべきではないものの、KAM の決定
プロセスを経て、結果的に KAM が1個というのは、英国の事例等と比較しても少なので
はないかというコメントも示された。
会社法監査における KAM の適用と株主総会前の有価証券報告書の提出
会社法上の監査報告書において KAM の記載がされた事例があった点について、株主総会は
会社と株主との間の最良の対話の機会であるため、会社法上の監査報告書を通して KAM
株主総会前に提供されるということ有用とのコメントがあった。仮に会社法の監査報
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告書への記載が難しいのであれば、有価証券報告書の提出を株主総会前に前倒しする等
よって、KAM の内容が株主総会の前に投資家に提供されることを期待するというコメント
あった。
(2) KAM の記載内容
財務諸表利用者にとって有用な事例として以下の事例が取り上げられた。
KAM の内容及び決定理由が丁寧に記述されていた事例
無形資産の評価に関す KAM の中で、資金生成単位グループの使用価値の見積りにおけ
る回収可能価額が帳簿価額を上回る余裕額を記載していた事例(住友商事(株))
有形固定資産及び無形資産の減損に関する KAM の記載の中で、使用価値の見積りにおけ
る重要な仮定として中期経営計画等を明記し、これが影響を受ける要因を具体的に記載し
ていた事例(富士通(株)
監査役等とコミュニケーションを行った潜在的な重要な虚偽表示リスク及び当期に発生
した重要な事象が監査に与える影響について、潜在的影響額と発生可能性の観点から評価
した表を KAM の補足情報として任意に記載していた事例((株)AOKI ホールディングス)
監査上の対応が丁寧に記述されていた事例
収益の認識に関する KAM における監査上の対応として、分析的実証手続とそれ以外の
証手続とを分けて比較的細かく丁寧に記載していた事例(四国電力(株)
(3) 会社による情報開示の充実
会社による情報開示が充実することにより、KAM に記載された背景がより分かりやすく感
た事例がある一方で、KAM に対応する注記事項や記述情報の充実を更に会社に働きかける必要
があると考えられた事例があったとのコメントがあった。
また、監査人が重要な監査領域として KAM に記載する事項が財務諸表の注記事項として記
載されていないという状況は、財務諸表利用者が意思決定を行うために必要な情報が財務諸
表において開示されていないということにもなり、本来望ましいものではないとのコメント
が示された。
会計上の見積りに関する KAM に関しては、見積りの方法だけではなく、各社固有の実情に
応じて見積りの仮定が開示されることが重要であるとのコメントがあった。さらに、KAM の対
の記載にたって、財務諸表における計上額だけではなく、その中の特定された情報を記
載することが望ましく、これにより会社との対話において特定の事案に絞った議論が可能
なるとのコメントが示された。
(4) KAM の強制適用に向けての期待及び課題
監査人に対する期待及び課題
監査人に対する期待として、KAM として記載すべき事項に関しては、会社が注記事項とし
て開示することに消極的であったとしても、監査報告書において適切に記載すべきとの
メントが示された。また、仮に会社 KAM に関連する財務諸表の注記に消極的であるよう
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な場合でも、監査人が KAM を記載すプロセスを通じて、作成者の行動を変えていくこと
につながることも期待されるとのコメントも示された。
一方、監査人の課題として、一部の KAM の記載において、単に会計基準をそのまま書き写
しているだけのような事例が見受けられたことや、監査上の対応が具体的にイメージでき
記載と簡素な記載との程度の差が大きかったとのコメントが示されたこれらを鑑みる
と、例え会社の注記事項や記述情報の開示が充実したとしても、必ずしも内容が充実した
KAM につながるとは言えず、結局 KAM の記載には、財務諸表利用者等に対する監査人の姿
が表れるとの指摘がされた。また、KAM の記載を通じて、財務諸表利用者に対する積極的な
コミュニケーションを期待するコメントもあった。さらにKAM の記載について次年度以降
も、新たな視点で記載するマインドセットを監査人が保持できるかどうかが、今後の課題
であるとの指摘もされた。
会社による情報開示に対する期待及び課題
会社による情報開示に関しては、KAM の事例を確認する中で、改めて企業開示の在り方が
重要であり、KAM の有用性は企業の開示姿勢にかかっているとの期待が示された。
また、監査役等の対応に関して、ガバナンスの観点から KAM の内容に関して、監査役等が
どのように対応したかが重要であり、有価証券報告書においてこれに関わる開示が行われ
ることを期待するとのコメントも示された。
その他
上記のほか、財務諸表利用者の中には、会社が未公表のセンシティブな情報が KAM におい
て記載されるとの期待をすることがあるため、期待ギャップが生じないよう、KAM に関する
正しい理解の醸成が必要であるとの見解が示された
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7.早期適用事例の総括及び KAM の記載をより有意義なものとするための留意事項
(1) 早期適用事例の総
今回実施した分析を踏まえると、早期適用事例は、以下のように総括される。
早期適用に対する適用前の期待と結果について
企業会計審議会監査部会で KAM に関する監査基準の審議が行われた際に、金融庁から東京
証券取引所第一部上場会社の監査業務におい KAM の早期適用が期待される旨が示され
いたほか、東京証券取引所から上場会社に対して、KAM の早期適用について検討を促す文書
が発出されていた。これは、多くの国で既に KAM 適用されていることや、早期適用事例
の中で KAM の記載の好事例をなるべく多く蓄積することが強制適用年度における円滑な実
務の実施に資すると考えられたこと等を背景とするものである。
この点、2020 年3月前後から急速に拡大した新型コロナウイルス感染症の影響もあり、
結果として早期適用事例は合計 48 社に関するものにとどまったほか、早期適用会社別に見
ると特定の業種に偏りがある傾向がられた。これを踏まえると、全体として、早期適用
事例の充実によって期待された実務の蓄積は必ずしも十分にはできなかった可能性があ
る。他方で、早期適用事例の中には、2021 年3月期以降の強制適用に向けた実務において
参考になる点も多くあった。
早期適用事例の総括
KAM によって提供される情報の有用性に関する見解)
KAM によって提供される情報の有用性に関して、早期適用事例において以下のような見解
が得られた。
財務諸表利用者は、多くの場合、KAM の記載を理解しようとする際に、財務諸表やその
他の開示における記載も併せて参照していた。この点、早期適用事例ではKAM の記載に
当たって前提となる有価証券報告書における会計上の見積りに関する開示、事業等のリ
スクや監査役会等における主な検討事項等の開示情報が必ずしも十分でなく、かつ、こ
れらの開示と KAM の記載とのつながりについて理解することが困難な事例があるとの指摘
があった。
一部の財務諸表利用者からは、のれんの減損損失の計上の要否の検討が KAM として記
載され、翌四半期以降において減損損失が計上されている事例が有用な情報を提供して
いる事例として言及された。当該財務諸表利用者からは、こうした事例では、KAM の記載
によって、減損損失の計上がされていないものの将来において減損損失の計上がされる
可能性がある資産の存在が明らかになる可能性があり、こうした場合、KAM によって提供
される情報が有用であるとの指摘があった。
財務諸表利用者の中には、会社が未公表のセンシティブな情報が KAM において提供さ
れることを期待することがあるとの指摘がされた。この点、財務諸表利用者からは、KAM
において会社が未公表の情報を開示することは当初より意図されておらずKAM の意義に
ついて財務諸表利用者の十分な理解を得るための更なる取組を行うことが必要との指摘
があった。
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KAM の記載内容について)
KAM の記載によって監査報告書に会社が未公表のセンシティブな情報が記載された事例は
なかった。ただし、監査チームからのアンケート調査への回答では、多くの事例で、KAM
記載に至る過程において、特に「KAM の内容及び決定理由」の記載に関連して会社による
加的な開示がされるよう協議を実施した旨が確認された。
また、財務諸表利用者からは、「監査上の対応」の記載に関して、監査実務の経験のな
い者が監査上の対応の十分性を評価することは困難であるという見解が聞かれた。一方、
他の財務諸表利用者から、監査上の対応を十分に丁寧に記載していない場合、監査人の説
明責任の果たし方が不十分との印象を受ける可能性があるという見解も聞かれた。加えて、
KAM の記載について、その多くが似通ったものとなっている旨の指摘があった。
なお、早期適用事例の中には、KAM に該当すると判断された事項に限らず、主要な監査論
点に関する監査リスクの評価が一覧の形で示されていた事例も存在した。当該事例につい
ては、財務諸表利用者からは監査上のリスクが網羅的に理解できると評価する見解が聞か
れた。
(その他)
上記の他、早期適用事例において、以下のような結果が得られた。
個別財務諸表の監査報告書における KAM の記載はその多くが連結財務諸表の監査
告書で記載されていることを繰り返すものや、実質的に同一のものとして記載を省略し
ているものだった。ただし、財務諸表利用者から、個別財務諸表の監査報告書における
KAM の記載が不要であるという見解は聞かれなかった。
KAM の記載は、ほとんどの事例が監査基準報告 700 実1で示されていた左右対比表形
式によっていた。他方、上下対比表形式を含め、他の形式で表示されている事例もあっ
た。この点、財務諸表利用者へのインタビューでは、KAM の記載形式を統一すべきという
見解は特になかった。
早期適用事例のうち、会社法上の監査報告書で KAM が記載された事例、及び有価証券
報告書が定時株主総会以前に提出された事例に係る早期適用会社を対象として、定時株
主総会において KAM について質疑応答があったかについて調査を行った。この結果、これ
らの早期適用会社において、定時株主総会において KAM が質疑応答の対象となった事例は
なかったようである。
会社法上の監査報告書への KAM の記載については、監査チーム向けのアンケー調査
において、会社が未公表の情報を KAM で記載することにならないようにするため、計算書
類等や事業報告における企業開示のり方が実務を進めていくで重要な課題として示
された。また、監査チームへのインタビュー等では、会社法上の監査報告書への KAM の記
載を制度化すべきという見解は聞かれなかった。他方、会社法上の監査報告書への KAM
任意の記載を促したり、有価証券報告書を株主総会前に提出する等によって、株主に当
年度の KAM に関する情報を株主総会前に提供することが必要であるという見解も聞かれ
た。
-34-
(2) KAM の記載をより有意義なものとするための留意事項
以上を踏まえると、KAM の記載をより有意義なものにするためには、今後の実務において、
以下のような点に留意することが必要と考えられる。
(全般的な課題に関する留意事項)
KAM の記載をより有意義なものにするためには、KAM そのものの記載を充実させるだけで
なく、記載の前提となる財務諸表の注記事項のほか、有価証券報告書における事業等のリ
スクに関する開示、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分
析に関する開示及び監査役会等における主な検討事項に関する開示等を併せて充実させる
ことが必要と考えられる。このため、KAM の記載に当たっては、会社によって KAM に関連す
る財務諸表の注記事項及び有価証券報告書における記述情報の開示が十分にされるよう、
経営者及び監査役等との十分な協議を実施することが重要と考えられる。特に、2021 年3
31 日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務
諸表から適用される企業会計基準第 31 号により会計上の見積りに関する注記が求められる
ことから、十分な留意が必要である。
監査役等、経営者、監査チームからのアンケート調査では、早期の段階から協議するこ
との必要性が各者から強く示された。このため、KAM の記載をより有意義なものとするため
には、早期の時点で監査人から具体的な文案を提示したで、経営者、監査役等、監査人
の3者による協議を実施することが望まれる。
KAM の記載は、会社が未公表の情報を監査報告書において新たに提供する位置付けのもの
ではなく、監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高めるこ
とを目的としたものである。当該 KAM の目的については、財務諸表利用者に対して、引き
続き説明を行い、理解の浸透を図ることが必要と考えられる。
KAM の識別における課題に関する留意事項)
KAM に該当すると判断される事項は、会計上の見積りに関連するものが多い一方で、それ
以外のものも KAM に該当すると判断される場合がある。また、監査に及ぼす要因を勘定科
目横断的に KAM とすることも、財務諸表利用者が監査上の重要な論点を適切に理解する上
で有用である可能性がある。さらに、例えば新型コロナウイルス感染症に関する監査上の
課題への対応のように、監査計画段階では予見できなかった事項が事後的に KAM に該当す
ると判断される可能性もある。このためKAM の選定に当たっては、会計上の見積りに関
る事項に当初から絞り込み過ぎることなく、また、監査の実施過程を通じて監査役等と十
分なコミュニケーションを実施し、監査プロセスの中で当初の暫定的な結論について継続
的に見直しを行っていくことが必要と考えられる。
個別財務諸表の監査においては、KAM として記載すべき事項の識別が困難との見解も聞か
れる。しかし、早期適用事例では、KAM は監査論点の相対的な重要性を考慮して選定される
という認識を踏まえ、純粋持株会社等の監査に関する事例のほかには KAM とする事項につ
いて該当がないと判断された事例はなかった。今後、KAM の識別を行う際は、こうした早期
適用事例を踏まえて検討を行う必要があると考えられる。
-35-
KAM の記載における課題に関する留意事項)
KAM の記載のうち「KAM の内容及び決定理由」の記載に関して、多くの事例において KAM
の記載に関連して会社により追加的な開示がされるよう、経営者及び監査役等と協議を実
施していた。こうした経験を踏まえるとKAM の記載を円滑に進めていくためには、早期
KAM の草案を作成した上で、KAM の記載に関連して会社にどのような開示を促すべきかにつ
いて検討を行うことが必要と考えられる
KAM の記載のうち「監査上の対応」の記載に関して、これを十分丁寧に記載していない場
合、説明責任の果たし方が不十分との印象を与える可能性があるとの見解が示された。こ
のため、「監査上の対応」の記載に当たっては、財務諸表利用者が必ずしも監査実務につ
いて十分な理解を有するとは限らないこと踏まえた上で、平易かつ丁寧に記載すること
が必要と考えられる。また、財務諸表利用者の理解を深められるよう、「監査上の対応」
に記載された監査手続の意義について関係者による啓蒙が続けられることが望まれる。
早期適用事例では、同じ領域の KAM の記載は多くが類似の記載となる傾向があり、これ
について財務諸表利用者からは各社で画一的な記載になるリスク及び毎期同じような記載
になるリスクについて懸念が表明された。このため、早期適用事例を踏まえつつも、KAM
記載が会社の実態に基づき財務諸表利用者にとって有意義な記載となるよう、継続的に記
載の改善に努めることが望まれる。
(その他の課題に関する留意事項)
KAM の記載形式は、ほとんどの事例監査基準報告書 700 実1で示されていた左右対比表
形式によっていたが、これは例示であり当該形式に限定されてはいない。KAM の記載につい
て望ましい形式は、KAM の記載量等によっても異なるため、左右対比表形式以外の早期適用
事例も参考にしつつ、個々の事実及び状況を踏まえた形式を検討することが望まれる。
KAM の記載について品質を確保するために、大手監査法人及び一部の準大手監査法人では、
監査チーム及び審査担当者だけで KAM のレビューを行うのではなく、監査法人内部の第三
者(例えば、品質管理本部所属者)によるレビューが実施される体制が構築されていた
レビューの実施に当たっては、KAM の記載が誤ったものでないことに加え、財務諸表利用者
にとって理解しやすいものとなっているかにも着目することが重要と考えられる。こうし
た多層的なレビュー・プロセスを通じてKAM の記載について監査法人内で一定の品質が
保され、全体として有用なものとなることが期待される。
会社法監査報告書への KAM の記載については、現行の制度を前提とすると直ちに強制す
ることは困難と考えられる。一方で、株主総会前におけ KAM の提供が財務諸表利用者か
ら期待されている鑑みると、有価証券報告書を株主総会前に提出するとも考えられ
る。
8.おわりに
当協会が実施した KAM の早期適用事例に関する分析では、KAM の記載に関して強制適用におけ
る実務上の課題や今後の実務における留意事項が識別された。当協会は、今後、今回の分析で
識別された課題や留意事項について会員向けに周知を行うほか、利害関係者との議論を続け、
-36-
KAM の記載をより有意義なものとするための取組を続けていくことを予定している。
今後、2021 年3月期の財務諸表監査から強制適用される KAM の記載を円滑に進めていくため、
会員においては、今回の分析で得られた課題や実務上の留意事項を踏まえKAM の記載をより有
意義なものにするよう、早期に対応することが望まれる。
本研究文書(2022 10 13 日改正)は、次の公表物の公表に伴う修正を反映している。
監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」(2022
7月 21 日改正)
-37-
(別紙1)提出会社ごとの KAM の記載状況(連結財務諸表に対する監査報告書)
No. 会社名 決算日 会計基準
連結KAM
個数
固定資産の評価 のれんの評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
新型コロナ その他
1 マルハニチロ㈱ 2020/3/31 日本基準 1
Peter Pan
Seafoods,Inc.が
保有する有形固
定資産の減損損
失の認識の要否
に関する判断
2 住友金属鉱山㈱ 2020/3/31 IFRS 2
Quebrada
Blanca
Holdings SpA
持分取得に関連
する鉱業権
(Reserve)の
公正価値の見積
Sierra Gorda
S.C.M.への貸付
金に対する貸倒
引当金の見積り
3 大陽日酸㈱ 2020/3/31 IFRS 1 のれんの評価
4
㈱三菱ケミカル
ホールディングス
2020/3/31 IFRS 3
耐用年数を確定
できない無形資
産の評価
のれんの評価
繰延税金資産の
評価
5 武田薬品工業㈱ 2020/3/31 IFRS 2
米国におけるメ
ディケイド、メ
ディケア及びコ
マーシャル・マ
ネージドケア・
プログラムに関
するリベートの
引当金の見積り
取得対価の配分
の完了に伴って
遡及修正され
た、Shire社の買
収によって取得
した製品に係る
無形資産の取得
日時点における
公正価値の見積
6 エーザイ㈱ 2020/3/31 IFRS 1 のれんの評価
7 日立金属㈱ 2020/3/31 IFRS 1
非金融資産の減
8 日立建機㈱ 2020/3/31 IFRS 1
Bradken社およ
びH-E Parts
International
ののれんの評価
9 日立製作所 2020/3/31 IFRS 2
長期請負契約等
の原価総額の見
積り
南アフリカプロ
ジェクトに係る
和解の会計処理
-38-
No. 会社名 決算日 会計基準
連結KAM
個数
固定資産の評価 のれんの評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
新型コロナ その他
10 三菱電機㈱ 2020/3/31 IFRS 2
工事請負契約に
おける収益認識
工事請負契約に
係る受注工事損
失引当金の見積
11 富士通㈱ 2020/3/31 IFRS 3
有形固定資産お
よび無形固定資
産の減損
のれんの評価
進捗度に基づく
売上収益
12 ソニー㈱ 2020/3/31
米国
会計基準
2
日本の連結納税
グループに係る
繰延税金資産の
回収可能性
保険契約債務及
び繰延保険契約
13 ㈱デンソー 2020/3/31 IFRS 2
・製品保証引当
金の見積計上
・独占禁止法関
連損失引当金の
見積計上
14 トヨタ自動車㈱ 2020/3/31
米国
会計基準
2
小売債権に対す
る金融損失引当
製品のリコール
等の市場処置に
かかる債務
15 本田技研工業㈱ 2020/3/31 IFRS 3
米国金融子会社
の小売金融債権
に対するクレ
ジット損失引当
金の見積り
主務官庁への届
出等に基づく個
別の無償補修費
用に対する製品
保証引当金の見
積り
米国金融子会社
におけるオペ
レーティング・
リース資産の残
存価額の見積り
16 オリンパス㈱ 2020/3/31 IFRS 2
治療機器セグメ
ントのれんの評
開発費用の資産
化プロセスと会
計処理
17 キヤノン㈱ 2019/12/31
米国
会計基準
2 のれんの評価
未払販売促進費
の評価
18 三井物産㈱ 2020/3/31 IFRS 2
持分法適用会社
に対する投資の
取得対価の投資
先の資産・負債
への配分
将来油価前提
19 住友商事㈱ 2020/3/31 IFRS 3
マダガスカル
ニッケル事業を
営む持分法適用
会社が保有する
固定資産の評価
・欧米州青果事
業における無形
資産の評価
・鋼管事業にお
ける無形資産の
減損損失の測定
-39-
No. 会社名 決算日 会計基準
連結KAM
個数
固定資産の評価 のれんの評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
新型コロナ その他
20 三谷産業㈱ 2020/3/31 日本基準 1
空調設備工事契
約及び受注制作
ソフトウェアの
工事進行基準の
適用における工
事原価総額の見
積りの合理性
21
㈱AOKI
ホールディングス
2020/3/31 日本基準 3
・ファッション
事業における店
舗固定資産の減
損損失の認識
・エンターテイ
メント事業にお
ける店舗固定資
産の減損の兆候
判定
新型コロナウイ
ルス感染症拡大
が財務報告に与
える影響
22 ㈱新生銀行 2020/3/31 日本基準 3
・プロジェクト
ファイナンスに
係る貸倒引当金
の評価
・新型コロナウ
イルス感染症
(COVID-19)に
よる貸出金等の
信用リスクへの
影響の評価
利息返還損失引
当金の評価
23 ㈱三菱UFJ銀行 2020/3/31 日本基準 3
バンクダナモン
の取得により計
上したのれんの
減損処理の要否
貸出業務におけ
る貸倒引当金の
算定
企業結合取引に
より計上した無
形固定資産の評
24
㈱三菱UFJ
フィナンシャル・
グループ
2020/3/31 日本基準 3
バンクダナモン
の取得により計
上したのれんの
減損処理の要否
貸出業務におけ
る貸倒引当金の
算定
企業結合取引に
より計上した無
形固定資産の評
25
㈱りそな
ホールディングス
2020/3/31 日本基準 1
アパートマン
ションローンに
係る貸倒引当金
の評価
-40-
No. 会社名 決算日 会計基準
連結KAM
個数
固定資産の評価 のれんの評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
新型コロナ その他
26
三井住友
トラスト・ホール
ディングス㈱
2020/3/31 日本基準 2
三井住友トラス
トクラブ株式会
社(以下「三井
住友トラストク
ラブ」とい
う。)に関する
固定資産から生
じる減損損失計
上額の妥当性の
検討
法人向け与信に
対する貸倒引当
金の見積りに関
する合理性の検
27
㈱三井住友
フィナンシャルグ
ループ
2020/3/31 日本基準 2
SMBC信託銀
行のリテールバ
ンク事業に関連
するのれん及び
その他の無形固
定資産の使用価
値の評価
貸倒引当金の評
28
㈱みずほ
フィナンシャルグ
ループ
2020/3/31 日本基準 2
自己査定及び償
却・引当の妥当
流動性が低く市
場価格がない金
融商品の時価評
価の妥当性
29
三菱UFJ
信託銀行㈱
2020/3/31 日本基準 1
Colonial First
State Group
Limitedの主
完全子会社の取
得により計上し
た無形固定資産
に係る公正価値
評価について
30
野村ホールディン
グス㈱
2020/3/31
米国
会計基準
3
法令諸規則等へ
の違反や訴訟に
対する引当金
流動性の低い金
融商品の評価の
妥当性
繰延税金資産の
評価の妥当性
31
㈱大和証券
グループ本社
2020/3/31 日本基準 2
・トレーディン
グ商品に属する
デリバティブ取
引に係る評価の
合理性
・営業投資有価
証券・営業貸付
金(投資部門)
の評価の合理性
-41-
No. 会社名 決算日 会計基準
連結KAM
個数
固定資産の評価 のれんの評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
新型コロナ その他
32
㈱岡三証券
グループ
2020/3/31 日本基準 2
負ののれんの算
定の妥当性
繰延税金資産の
回収可能性の検
33
三菱UFJ証券
ホールディングス
2020/3/31 日本基準 1
見積りの不確実
性が高いデリバ
ティブの時価評
34
㈱日本取引所
グループ
2020/3/31 IFRS 3
ソフトウェア及
びソフトウェア
仮勘定の評価
株式会社東京商
品取引所の連結
子会社化
収益認識に関す
るIT統制の評価
35 三井不動産㈱ 2020/3/31 日本基準 4
固定資産に含ま
れる不動産等に
関する減損損失
計上の要否判定
の妥当性
分譲事業に関す
る投資家向け賃
貸住宅・オフィ
スビル等の分譲
に係る収益認識
の適切性
分譲事業に関す
る販売用不動産
等の評価の合理
横浜市所在マン
ションに係る会
計処理及び開示
の妥当性
36 三菱地所㈱ 2020/3/31 日本基準 3
再開発事業に関
連する有形固定
資産の評価
不動産ファンド
に対する不動産
売却に係る収益
認識
分譲マンション
開発用土地の評
37
野村不動産ホール
ディングス㈱
2020/3/31 日本基準 3
賃貸事業目的で
保有する不動産
の減損
・住宅分譲目的
で保有する不動
産の評価
・販売目的で保
有する収益不動
産の評価
38 東急㈱ 2020/3/31 日本基準 1
固定資産の減損
及び開発等関連
費用
39 ソフトバンク㈱ 2020/3/31 IFRS 2
通信サービス契
約におけるIFRS
第15号「顧客と
の契約から生じ
る収益」の適用
上の重要な判断
及び見積り及び
収益計上の前提
となるITシステ
ムの信頼性
重要な組織再編
及び企業結合
-42-
No. 会社名 決算日 会計基準
連結KAM
個数
固定資産の評価 のれんの評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
新型コロナ その他
40 四国電力㈱ 2020/3/31 日本基準 2
情報通信事業セ
グメントのデー
タセンター事業
の評価
電気事業セグメ
ントの電灯料及
び電力料
41 オリックス㈱ 2020/3/31
米国
会計基準
2
アセットマネジ
メント契約に関
する耐用年数を
確定できない無
形資産の減損損
失の認識の要否
に関する判断の
妥当性
公正価値測定に
おいてレベル3
に分類される投
資ファンドへの
投資残高の評価
の合理性
42 ㈱メンバーズ 2020/3/31 IFRS 2 のれんの評価
収益認識(売上
高の期間配分の
適切性)
43 綜合警備保障㈱ 2020/3/31 日本基準 2 のれんの評価
新人事システム
へのデータ移行
の正確性
44
第一生命ホール
ディングス㈱
2020/3/31 日本基準 5
買収等により計
上した保有契約
価値の償却又は
損失の計上に関
する判断
買収により計上
したのれんの減
損損失の計上に
関する判断
責任準備金対応
債券の振替及び
小区分の廃止に
関する会計処理
及び開示
繰延税金資産の
回収可能性に関
する判断
責任準備金の積
み立ての十分性
に関する判断
45
ENEOSホール
ディングス㈱
2020/3/31 IFRS 2
石油・天然ガス
開発セグメント
における減損損
繰延税金資産の
評価
46
東急不動産ホール
ディングス㈱
2020/3/31 日本基準 2
大規模不動産の
開発事業に関連
する固定資産の
評価
関連当事者、継
続的な不動産売
買取引関係のあ
る相手及び特別
目的会社を譲受
人とした不動産
売却取引
47
綿半ホールディン
グス㈱
2020/3/31 日本基準 3
小売事業におけ
る固定資産の減
のれんの評価
工事進行基準の
適用による工事
収益の認識
-43-
(別紙2)提出会社ごとの KAM の記載状況(個別財務諸表に対する監査報告書)
No. 会社名 決算日 会計基準
個別KAM
個数
固定資産の評価
関係会社株式の
評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
その他
1 マルハニチロ㈱ 2020/3/31 日本基準 1
「商品及び製
品」及び「仕掛
品」に含まれる
水産物の評価
2 住友金属鉱山㈱ 2020/3/31 日本基準 1
SMMQB
Holding SpA
式の減損処理の
要否に関する判
3 大陽日酸㈱ 2020/3/31 日本基準 1
子会社株式の評
4 武田薬品工業㈱ 2020/3/31 日本基準 1
繰延税金資産の回
収可能性に関する
判断
5 エーザイ㈱ 2020/3/31 日本基準 1
子会社株式の評
6 日立金属㈱ 2020/3/31 日本基準 1 固定資産の減損
7 日立建機㈱ 2020/3/31 日本基準 1
子会社株式(H-
E Parts
International
LLC社)の評価
8 ㈱日立製作所 2020/3/31 日本基準 2
工事契約及び受
注制作のソフト
ウェアの原価総
額の見積り
南アフリカ
プロジェク
トに係る和
解の会計処
9 三菱電機㈱ 2020/3/31 日本基準 2
工事請負契約に
おける工事進行
基準売上高の計
工事請負契約に
係る受注工事損
失引当金の見積
10 富士通㈱ 2020/3/31 日本基準 2
有形固定資産およ
び無形固定資産の
減損
進捗度に基づく
売上高
-44-
No. 会社名 決算日 会計基準
個別KAM
個数
固定資産の評価
関係会社株式の
評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
その他
11 ソニー㈱ 2020/3/31 日本基準 1
市場価格のない
子会社株式の評
12 ㈱デンソー 2020/3/31 日本基準 2
・製品保証引当
金の見積計上
・独占禁止法関
連損失引当金の
見積計上
13 トヨタ自動車㈱ 2020/3/31 日本基準 1
製品のリコール
等の市場処置に
かかる債務
14 本田技研工業㈱ 2020/3/31 日本基準 1
主務官庁への届
出等に基づく個
別の無償補修費
用に対する製品
保証引当金の見
積り
15 オリンパス㈱ 2020/3/31 日本基準 1
オリンパスメ
ディカルシステ
ムズ株式会社へ
の会社分割に伴
う会計処理、開
16 キヤノン㈱ 2019/12/31 日本基準 1
子会社株式の評
17 三井物産㈱ 2020/3/31 日本基準 1
関係会社株式の
評価
18 住友商事㈱ 2020/3/31 日本基準 2
・マダガスカル
ニッケル事業を
営む関係会社に
対する投資の評
・欧米州青果事
業を営む関係会
社に対する投資
の評価
-45-
No. 会社名 決算日 会計基準
個別KAM
個数
固定資産の評価
関係会社株式の
評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
その他
19 三谷産業㈱ 2020/3/31 日本基準 1
空調設備工事契
約及び受注制作
ソフトウェアの
工事進行基準の
適用における工
事原価総額の見
積りの合理性
20
㈱AOKI
ホールディングス
2020/3/31 日本基準 1
不動産賃貸
事業に係る
表示方法の
変更
21 ㈱新生銀行 2020/3/31 日本基準 2
・プロジェクト
ファイナンスに
係る貸倒引当金
の評価
・新型コロナウ
イルス感染症
(COVID-19)
よる貸出金等の
信用リスクへの
影響の評価
22 ㈱三菱UFJ銀行 2020/3/31 日本基準 1
貸出業務におけ
る貸倒引当金の
算定
23
㈱三菱UFJ
フィナンシャル・グ
ループ
2020/3/31 日本基準 1
子会社株式の評
24
㈱りそな
ホールディングス
2020/3/31 日本基準 1
関係会社株式の
評価
25
三菱UFJ
信託銀行㈱
2020/3/31 日本基準 1
Colonial First
State Group
Limitedの主要完
全子会社の取得
により計上され
た子会社株式の
評価について
-46-
No. 会社名 決算日 会計基準
個別KAM
個数
固定資産の評価
関係会社株式の
評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
その他
26
三菱UFJ証券ホー
ルディングス㈱
2020/3/31 日本基準 1
見積りの不確実
性が高いデリバ
ティブの時価評
27 松井証券㈱ 2020/3/31 日本基準 1
財務報告に影響
を与える主要な
システム統制
28
㈱日本取引所
グループ
2020/3/31 日本基準 1
関係会社株式及
び関係会社出資
金の評価
29 三井不動産㈱ 2020/3/31 日本基準 3
固定資産に含まれ
る不動産等に関す
る減損損失計上の
要否判定の妥当性
分譲事業に関す
る投資家向けオ
フィスビル等の
分譲に係る収益
認識の適切性
分譲事業に関す
る販売用不動産
等の評価の合理
30 三菱地所㈱ 2020/3/31 日本基準 2
再開発事業に関連
する有形固定資産
の評価
不動産ファンド
に対する不動産
売却に係る収益
認識
31 東急㈱ 2020/3/31 日本基準 1
固定資産の減損及
び開発等関連費用
32 ソフトバンク㈱ 2020/3/31 日本基準 1
収益計上の前提
となるITシステ
ムの信頼性
33 四国電力㈱ 2020/3/31 日本基準 1
電気事業セグメ
ントの電灯料及
び電力料
34 オリックス㈱ 2020/3/31 日本基準 1
割賦債権、リー
ス債権及び営業
貸付金の評価の
合理性
35 ㈱メンバーズ 2020/3/31 日本基準 1
収益認識(売上
高の期間配分の
適切性)
-47-
No. 会社名 決算日 会計基準
個別KAM
個数
固定資産の評価
関係会社株式の
評価
貸倒引当金の
見積り
収益認識 引当金の見積り 組織再編 金融商品の評価
繰延税金資産の
評価
棚卸資産の評価
ITシステムの
評価
その他
36 綜合警備保障㈱ 2020/3/31 日本基準 2
関係会社株式の
評価
新人事システム
へのデータ移行
の正確性
37
第一生命ホールディ
ングス㈱
2020/3/31 日本基準 1
関係会社株式の
減損損失の計上
に関する判断
38
綿半ホールディング
ス㈱
2020/3/31 日本基準 1
関係会社株式の
評価
監査基準報告書 701 究文書第1号
「監査上の主要な検討事項」の早期適用事例分析レポート(研究文書)(別紙3~6)
(別紙3)監査領域別 KAM 記載の分析 ................................................ 48
(1) 固定資産の評価 ................................................................ 48
(2) のれんの評価 .................................................................. 51
(3) 関係会社株式の評 ............................................................ 53
(4) 貸倒引当金の見積 ............................................................ 57
(5) 収益認識 ...................................................................... 59
(6) 引当金の見積り(貸倒引当金以外) .............................................. 63
(7) 組織再編 ...................................................................... 65
(8) 金融商品の評価 ................................................................ 68
(9) 繰延税金資産の評 ............................................................ 71
(10) 棚卸資産の評価 ............................................................... 75
(11) IT システムの評価 ............................................................. 76
(12) 新型コロナウイルス感染症関連 ................................................. 79
(13) その他の領域 ................................................................. 80
(別紙4)監査人に対するインタビュー .............................................. 83
(1) 会社とのコミュニケーション .................................................... 83
(2) KAM の選定と記載内容 ........................................................... 84
(3) 財務諸表の注記事項への参照 .................................................... 85
(4) 会社が未公表の情報の取扱い .................................................... 86
(5) その他 ........................................................................ 86
(別紙5)KAM の早期適用会社に対するアンケー ....................................... 87
(1) 監査役等 (回答数:39 社(42 名)) ........................................... 87
(2) 財務諸表作成責任 (回答数:36 社(36 名)).................................. 92
(別紙6)財務諸表利用者に対するインタビュー ........................................ 98
(1) 監査報告書の情報価値の向上 .................................................... 98
(2) KAM の記載内容 ................................................................. 99
(3) 会社による情報開示の充実 ...................................................... 99
(4) KAM の強制適用に向けての期待及び課題 .......................................... 100
-48-
(別紙3)監査領域別の KAM 記載の分析
(1) 固定資産の評価
KAM の識別
早期適用会社の半数近くが、固定資産の評価を KAM として選定していた。固定資産の減損
損失に係る検討は、多くの早期適用会社において生じる可能性のある事象であり、会計上の
見積りを伴う項目であることから、KAM の対象として選定される可能性は相対的に高いも
と考えられる。
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書において、固定資産の評価が KAM の対象と
て記載されている会社の会社数KAM 個数)それぞれ 19 社(20 個)及び5社(5個
あった。このうち2社は小売業に属し、4社は不動産業に属する会社であった。連結財務諸
表の監査報告書については、日本基準の適用会社 11 社(12 個)、IFRS の適用会社は6社
(6個)、米国会計基準の適用会社は1社(1個)であり、適用する会計基準による傾向は
見られなかった。個別財務諸表については、全て日本基準の適用会社であった。
KAM の内容
固定資産の評価を KAM として選定した会社について、その内容を分析すると、以下の傾向
が見受けられた。
ア.耐用年数を確定できない無形資産
IFRS 適用会社では、耐用年数を確定できない無形資産について減損テストが毎期要求さ
れ、将来キャッシュ・フローを見積もる必要があることから、一般的に複雑な見積りとし
KAM に選定される傾向があった
1
イ.減損の兆候を識別したものの減損損失を認識しなかった事例
日本基準の適用会社では、減損損失が生じた場合に KAM して記載するケースが多いな
か、減損の兆候を識別したものの減損損失を認識しなかったケースを KAM として扱ってい
る事例があった
2
減損損失が計上された場合のみならず、減損損失を計上しない状況にお
いても、減損の兆候がある場合は、その重要性によって監査人が特に重要と判断した事項
に該当すると判断することがある。なお、早期適用会社において、減損の兆候を識別した
ものの減損損失を計上しなかったケースでは、記述情報の事業等のリスクにおいて開示が
行われていた。
ウ.不動産業における減損
不動産業に属する早期適用会社においては、そのビジネスモデルは多様であり、全ての
会社において固定資産の評価を KAM として選定していた。会社のビジネスモデルを説明し
た上で、減損の兆候を識別する際の複雑性を KAM の対象としている事例が複数あった。ま
た、減損の兆候の識別を KAM の対象としているのか、又は減損損失の認識若しくは測定を
1
(株)三菱ケミカルホールディングス
2
住友商事(株)他
-49-
KAM の対象としているのかについて、事例ごとに丁寧に書き分ける工夫が見受けられた。
KAM として決定した理由
減損の兆候の識別を KAM の対象としている場合には、その判断の複雑性を、また減損損失
の認識又は測定(減損損失を計上しなかった事例を含む。) KAM の対象としている場合
は、将来に関する見積りの要素が含まれることから、見積りの不確実性や経営者の判断を
うことを、KAM の決定理由として挙げていた。また、減損損失の認識又は測定に関して、
査人は会社の将来事業計画を検討することが多いが、将来事業計画の策定における重要な仮
定について列挙している会社が多く見受けられた。
なお、KAM として決定した理由の内訳は以下のとおりであった。
KAM の決定理由
3
連結 個別
不確実性又は経営者の判断 18 5個
財務諸表における重要 5個 -
複雑性 4個 4個
ア.不確実性又は経営者の判断
減損の兆候が識別された場合の使用価値の検討においては、経営者が作成した将来事業
計画が監査上の重要な検討対象となっており、その不確実性又は経営者の判断に関する事
項が、ほぼ全ての事例における KAM の選定理由として挙げられていた。さらに、将来の事
業計画を作成する上で使用された重要な仮定として、収益に関連する数量と単価の見積り、
費用の見込み額又は成長率等について、具体的な説明が行われている事例が多かった。ま
た重要な仮定についても具体的に記載することで、会社にとって固有の状況を表した記載
となっていた。
イ.財務諸表における重要性
ほとんどの事例において、KAM の対象となる金額や領域について言及しているが、金額
に言及した上で重要と明記しているケースは3件のみであった
4
また、金額には言及せずに重要と明記したケースは2件あり、いずれも不動産関連事業
の会社であった
5
事業の性質を考慮すると、固定資産の評価は、他の業種と比べ金額的に
も質的にも重要であることは明らかであり、事業の特質に基づき重要性を強調していたも
のと考えられる。
ウ.複雑性
KAM に決定した理由として、複雑性を挙げる事例は少数であり、将来キャッシュ・フロ
3
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
4
四国電力(株)、綿半ホールディングス(株)他
5
野村不動産ホールディングス(株)、東急不動産ホールディングス(株)
-50-
ーを検討する上で高度な専門知識を必要とする事例や、減損の兆候の識別において多くの
事項を考慮する必要がある事例等の4件であった
6
割引率の検討以外で専門家の関与が必
要な事例や、不動産業で開発期間が長期にわたる事例等の固有の事情がある場合を除き
一般的に固定資産の評価は複雑ではなく、むしろ将来キャッシュ・フローの見積りに関連
する不確実性や経営者の主観的判断を伴う点が KAM に決定した理由とされる傾向にあった。
財務諸表の注記事項への参照
対象となる固定資産の金額や注記事項等への参照方法は様々であり、減損損失を計上して
いる事例では関連する注記項目を参照しているものの、減損損失を計上していない事例では、
参照先となる注記事項がないため、セグメント情報と関連付けて記載する事例や記述情報に
おいて開示した上で KAM に記載する事例が見受けられた
7
また、不動産業に属する会社で、減損の兆候の識別を KAM の対象としている事例では、
ずれの開示も参照しないか、または、貸借対照表の勘定残高を参照していた。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されていたが、代表的な監
手続としては以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価
内部統制に言及した KAM は全体の 1/3 程度(7個)である
8
また、関連する個々の内部
統制に関し、具体的な内容を記述した事例はなかった。
イ.重要な仮定の特定と会計上の見積りに対する監査手続
会社の将来事業計画の見積りで使用された重要な仮定の記載は、事例によって詳細の程
度にばらつきが認められるものの、具体的に記載している事例が多く、これに対応する手
続に関しても、重要な仮定にどのように対応したかについて具体的に記載している事例が
多かった。重要な仮定に対する主な監査手続は、複数の関係者への質問、社内資料の閲覧
外部情報との照合、監査人自ら設定した推定値との比較、感応度分析等となっていた。
ウ.専門家の利用
割引率等について専門家を利用している事例が半数(10 件)を占めた
9
その他
固定資産の減損損失の認識又は測定に関しては、監査上、比較的長期にわたる事業計画を
検討するが、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮して記載された KAM が6個あったもの
6
日立金属(株)、三井住友トラスト・ホールディングス(株)他
7
マルハニチロ(株)、住友商事(株)他
8
住友金属鉱山(株)、三井不動産(株)他
9
日立金属(株)、ENEOS ホールディングス(株)他
-51-
の、その影響についての具体的な記述は見受けられなかっ
10
また、固定資産の減損の認
において、回収可能価額が帳簿価額を上回る余裕部分の金額に言及する事例が1件あった
11
(2) のれんの評価
KAM の識別
連結財務諸表の監査報告書において、のれんの評価を KAM の対象として記載している会社
16 社であり、また KAM の個数は 17 個となっており、固定資産の評価に次ぐ件数となって
いた。会計基準としては日本基準の適用会社は7社(7個)IFRS 適用会社は8社(9
個)及び米国会計基準の適用会社は1社(1個)であった。これは、多くの業種で企業買収
が増加している状況にあること、のれんの評価に当たって多くの見積り要素が関係すること
から、KAM として選定される可能性が相対的に高くなるためと考えられる。なお、個別財
諸表の監査報告書においては、のれんの評価が KAM の対象となっている事例はなかった。
KAM の内容
のれんの評価については、関連する事業やその特色を記載した事例のほか、対象となる
会社の名称や金額を具体的に記載している事例が多く見られた。これは連結貸借対照表にお
けるのれんの計上額が大きいということだけでなく、会社にとって質的に重要なのれんや監
査人が特に重要と判断したのれんについて特定して記載しようとしたものと考えられる。
の結果、各社で固有の事情が反映され、いわゆるボイラープレート化せずに記載されており、
強制適用に際しても参考となる事例が多いものと考えられる。
また、IFRS の適用会社では、のれんとともに耐用年数を確定できない無形資産の評価につ
いて一つの KAM として選定されているケースが多かった
12
。これは、両者が買収後の取得原
価の配分の結果として認識され、いずれも減損テストが毎期要求されることから、将来キャ
ッシュ・フローを見積もる必要があるためと考えられる。
一方、日本基準の早期適用会社においては減損損失の計上がなくとも KAM の対象としてい
るケースがあった
13
。これは将来の事業計画や将来キャッシュ・フローの見積りには不確
性や経営者の判断が大きく関わることから、減損の兆候の有無にかかわらず監査人が特に重
要と判断したためと考えられる。なお海外での買収の結果発生したのれんについては、IFRS
適用会社と同様に耐用年数を確定できない無形資産の評価と合わせて KAM として選定されて
いる事例が見受けられ
14
KAM として決定した理由
KAM に決定した理由としては、以下の表のとおりであった。のれんの評価に当たっては将
10
(株)AOKI ホールディングス、三井住友トラスト・ホールディングス(株)他
11
住友商事(株)
12
大陽日酸(株)、日立金属(株)他
13
綜合警備保障(株)、綿半ホールディングス(株)他
14
(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ
-52-
来キャッシュ・フロー及びその基礎となる事業計画の見積りに関して見積要素が含まれるこ
とから、見積りの不確実性や経営者の判断を伴うことを挙げている。また、将来の事業計画
や将来キャッシュ・フローの見積りは、複数の重要な仮定を前提としていることから、これ
らの仮定を列挙し、その複雑性を挙げている会社も見受けられた。
KAM の決定理由
15
連結
不確実性又は経営者の判断 15
複雑性 8個
財務諸表における重要 1個
財務諸表の注記事項への参照
IFRS の適用会社では、のれんに関する注記事項への参照が記載されているが、日本基準の
適用会社では注記事項への参照はほとんど行われておらず連結貸借対照表計上額を参照し
ている事例が大半であった。
ただし、日本基準においても、2021 年3月 31 日以後終了する事業年度から企業会計基準
31 号が適用されるため、関連する注記事項への参照が記載されることが考えられる。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価
内部統制の評価に関する記載が行われていた KAM 10 個と、全体の半分強にとどまり、
必ずしも記載されているものではなかっ
16
イ.重要な仮定の特定と会計上の見積りの監査手続
将来の事業計画や将来キャッシュ・フローの見積りに使用された重要な仮定に関する記
載は、事例によって詳細の程度にばらつきが認められるものの、各社固有の内容を具体的
に記載していた。
重要な仮定に対する監査手続としては、複数の関係者への質問、社内資料の閲覧、利用
可能な外部データとの比較、監査人自ら設定した推定値との比較、感応度分析等が記載さ
れていた。
ウ.専門家の利用
評価モデルや割引率について専門家を関与させている事例は 13 件であり、のれんの評
価に関しては、専門家の利用が多い領域であると考えられ
17
15
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
16
エーザイ(株)、キヤノン(株)他
17
(株)三菱ケミカルホールディングス、富士通(株)他
-53-
エ.構成単位の監査チーム
構成単位の監査チームが作業を実施している場合には、その作業の内容を具体的に記載
している事例が見受けられた
18
その他
のれんの評価においては、会社が策定している事業計画の対象期間を超えた長期にわたる
事業見通しを考慮することがあるため、既に具体的な事業計画が存在する期間とそれ以降の
期間とに分けて監査上の対応を記載している事例が多く見受けられた
19
なお、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮したとする事例も見られたが、影響につい
ての具体的な記述はなかった。当該事例では、日本基準のためのれんに関する注記はないが、
「会計上の見積りに対する新型コロナウイルス感染症の影響」に係る追加情報において、
型コロナウイルス感染症が会社の事業計画に影響を与えている旨を記載していた
20
(3) 関係会社株式の評
KAM の識別
関係会社株式の評価 KAM として記載されている早期適用会社は 15 社であり、KAM 16
個であった。関係会社株式の評価は一般的に個別財務諸表に特有の論点であり、個別財務諸
表は全ての会社で日本基準に準拠して作成されている。
通常、個別財務諸表に係 KAM の多くが連結財務諸表に係る KAM と同一内容であり、個別
財務諸表に固有の KAM は比較的少ない。こうした中で、個別財務諸表に固有の KAM としては
関係会社株式の評価に係る KAM が最も多く、個別財務諸表に固有 KAM の中の代表的な項目
であると言える。
また、個別財務諸表において関係会社株式の評価が KAM の対象とされている会社 15 社のう
ち9社で、連結財務諸表においてはのれんの評価が KAM として選定されていた
21
。これは、
子会の超収益等を反映て1当たりの資産を基とした金に比て相
い価額で子会社株式を取得している場合に、連結財務諸表においてはのれんが発生すること
から、のれんの評価と関係会社株式の評価が表裏一体の関係にあるためと考えられる。
KAM の内容
関係会社株式の評価に係る KAM の記載の深度は様々であるが、最も顕著な違いは KAM の対
象とした関係会社の名称を記載することによって特定しているかどうかであった。
関係会社株式の評価に係る KAM16 個のうち、対象とした関係会社の名称を記載して特定し
18
住友商事(株)、第一生命ホールディングス(株)
19
大陽日酸(株)、オリンパス(株)他
20
綜合警備保障(株)
21
キヤノン(株)、日立建機(株)他
-54-
ている KAM は9個あっ
22
。特定の関係会社株式の評価の重要性が高い場合には、関係会社
の名称や金額を記載することで、財務諸表利用者の理解が深まり、経営者との対話が促進
れることが期待される
なお、多数の関係会社に対する投資があることを理由に関係会社株式の評価を KAM として
いるケースでは、特定の関係会社の名称は記載されていなかった。
KAM として決定した理由
関係会社株式の評価を KAM として決定した理由は、ほぼ全ての KAM において金額的重要性
が挙げられていた。関係会社株式の評価に係る複数の KAM で、KAM の対象となる関係会社
式の計上金額が明記されていた。また、関係会社株式の計上額が総資産等の金額に占める割
合が記載されている KAM は9個であり、対象となる関係会社株式の金額的重要性が考慮さ
ていたことがうかがえ
23
KAM の決定理由として、金額的重要性以外にも、主に以下のような理由が記載されていた。
KAM の決定理由
24
個別
不確実性又は経営者の判断 12
複雑性 2個
多数の関係会社投資 2個
持株会社 2個
ア.会計上の見積り
関係会社株式の実質価額が著しく低下している場合には、実質価額の回復可能性は、経
営者の判断によって重要な影響を受けることが、主な KAM の決定理由とされていた。また、
関係会社株式の評価に際して、超過収益力が実質価額に反映されている場合には、超過収
益力の評価に関して、当該関係会社が獲得する将来キャッシュ・フロー及びその基礎とな
る事業計画の見積りに関連する不確実性、複雑性及び経営者の判断等が KAM の決定理由と
されていた。
イ.多数の関係会社に対する投資
投資先である多数の関係会社が様々な地域・業種で事業展開している場合に、各関係会
社の理解が必要になることを KAM の決定理由としている事例があった
25
ウ.持株会社
持株会社の監査においては、おおむね関係会社株式の評価 KAM の対象として記載して
22
住友金属鉱山(株)、(株)りそなホールディングス他
23
(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、(株)日本取引所グループ他
24
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
25
三井物産(株)
-55-
おり、その中で KAM の記載において持株会社であることを明記している事例が2件あっ
26
また、持株会社の中には、関係会社株式等の回収可能性が問題となるような状況に至
ってない合でても関係社株金額重要が高とをな理とし
KAM に選定している事例があった
27
財務諸表の注記事項への参照
財務諸表注記への参照が明記されてい KAM 10 個、参照されていない KAM が6個であ
った。参照先としては、個別財務諸表の会計方針、財務諸表注記(有価証券関係)への参照
であった。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.連結財務諸表の監査報告書における KAM(のれんの評価)の参照
関係会社株式の実質価額に反映されている超過収益力の回復可能性を検討する場合、そ
の監査手続は、連結財務諸表におけるのれんの評価を検討する場合の監査手続と重複する
ことが多かった。そのため、関係会社株式の評価に係る KAM の監査上の対応の記載におい
て、連結財務諸表ののれんの評価に係る KAM に記載されている監査上の対応を実施してい
ることを記載又は参照して省略を図っている KAM が4個あった
28
イ.内部統制の評価
関係会社株式の評価に係る監査上の対応で、内部統制の評価について記載している KAM
は8個であった
29
。関係会社が多数ある事例に限らず、特定の関係会社株式を KAM の対象
としている事例でも内部統制の評価について記載されていた。
ウ.経営者による承認
関係会社株式の評価において利用されている関係会社が獲得する将来キャッシュ・フロ
ー及びその基礎となる事業計画については、経営者による承認を確かめていることを記載
している KAM が多かった。
エ.関係会社の状況の理解
関係会社株式の実質価額の回復可能性を検討する過程において、関係会社の経営環境や、
業績の見通しを理解するため及び多数の関係会社の中から、財政状態の悪化の兆候がある
関係会社の有無を確かめるため、経営者とのディスカッション、責任者等への質問又は議
26
(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、(株)日本取引所グループ
27
(株)日本取引所グループ
28
エーザイ(株)、第一生命ホールディングス(株)他
29
日立建機(株)、綜合警備保障(株)他
-56-
事録の閲覧といった監査手続を実施していることが記載されていた。
オ.会計上の見積りへの対応
関係会社株式の評価に利用されている関係会社の将来キャッシュ・フロー及びその基礎
となる事業計画の検討においては、過年度の実績との比較検討、趨勢分析、外部情報の利
用といった手続を実施していることが記載されていた。これらの手続は、売上高成長率や
割引等の計上積り用いれて主要仮定対し実施れるース
多かった。
カ.専門家の利用
関係会社株式の実質価額に反映されている超過収益力の評価においては、監査人のネッ
トワークファームの専門家を関与させている事例があった
30
いずれも「複雑性」を理由
として KAM に選定されているケースであった。
キ.構成単位の監査人への指示
KAM の対象となる関係会社の財務諸表の監査が構成単位の監査人によって実施されてい
る場合に、構成単位の監査人が実施した監査手続や入手した監査証拠を評価していること
を記載している KAM が2個あった
31
ク.感応度分析
成長率や割引率といった主要な仮定の変動に伴う超過収益力の変動を検討する、いわゆ
る感応度分析を実施していることを記載している KAM が3個あった
32
海外では、IFRS の財務諸表注記で感応度分析や回収可能価額のうち帳簿価額を上回る金
額が開示されることが多く、それに対応した監査上の対応 KAM に記載されることが多い。
しかしながら、早期適用会社の KAM では感応度等について記載されている事例は必ずしも
多くはなかった。企業会計基準第 31 号が 2021 年3月期以降適用されると、提出会社の開
示の変化に応じて KAM の記載内容が変化することが考えられる。
ケ.新型コロナウイルス感染症による影
関係会社の将来キャッシュ・フロー及びその基礎となる事業計画の検討において、新型
コロナウイルス感染症が業績に与える影響の程度に関する経営者の仮定(深刻度や収束時
期)を評価していることを記載している KAM が3個あった
33
新型ロナイル染症影響大き考えれる係会株式評価おい
ては、このような記載を行うことも、監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を
30
大陽日酸(株)、キヤノン(株)他
31
住友金属鉱山(株)、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ
32
大陽日酸(株)、キヤノン(株)、綜合警備保障(株)
33
大陽日酸(株)、日立建機(株)、綜合警備保障(株)
-57-
高めることにつながると期待される。
(4) 貸倒引当金の見積
KAM の識別
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書において、貸倒引当金が KAM の対象として記
載されている会社の会社数(KAM の個数)は、それぞれ 10 社(11 個)及び3社(4個)であ
った。連結財務諸表の監査報告書に関しては、そのうちの7社は金融サービスを主たる事
とする会社、3社は金融サービス以外を主たる事業とする会社であった。後者のうち2社に
ついては主たる事業の小売債権に対する貸倒引当金を KAM の対象としていた。
会計基準としては、IFRS の適用会社は2社、米国会計基準の適用会社は1社、日本基準
適用会社は7社であり、適用する会計基準による顕著な傾向は見られなかった。個別財務諸
表については、全て日本基準の適用会社であった。
KAM の対象となる財務諸表は、連結財務諸表の監査報告書にのみ記載している会社は8社、
連結・個別の両方の財務諸表に対する監査報告書に記載している会社は2社、個別財務諸表
の監査報告書にのみ記載している会社が1社であった。なお、連結財務諸表の監査報告書に
おいてのみ貸倒引当金の評価に関する KAM が記載されている理由としては、持株会社の形
をとっており、親会社単体では特に事業を行っていないこと等が考えられる。
KAM の内容
いずれの KAM に関しても、貸倒引当金に関する会計上の見積りの内容について記載されて
いるが、貸倒引当金の対象となる債権については、関連する事業の債権全体を対象として
る事例
34
と、相手先や引当対象の領域を特定して記載している事例
35
があった。また、新型コ
ロナウイルス感染症による貸倒引当金の追加計上について単独の KAM としている事例
36
も見
受けられた。
KAM として決定した理由
貸倒引当金を KAM の対象としたいずれの事例においても、見積りの不確実性や経営者によ
る主観的な判断の程度が高いことを KAM の選定理由としていた。また、監査意見の基礎と
る監査証拠の入手の難易度(例えば、入手した監査証拠の十分性の検討においても、監査上
の重要な判断が必要となることがある。や監査手続の実施及び結果を評価するために必要
な専門的な技能又は知識に関しても、貸倒引当金を KAM として決定した理由としている事例
があった。
KAM の決定理由は、以下のとおりである。
34
トヨタ自動車(株)、(株)みずほフィナンシャルグループ他
35
住友金属鉱山(株)、本田技研工業(株)他
36
(株)新生銀行
-58-
KAM の決定理由
37
連結 個別
不確実性又は経営者の判断 11 4個
監査証拠の入手の難易 3個 -
財務諸表の注記事項への参照
財務諸表の注記事項への参照に関しては、これが明記されている KAM がほとんどであり、
参照されていない KAM は1個のみであった。財務諸表の注記事項への参照が明記されてい
KAM のうち、参照先は以下のとおりであった。
会計方針への参照 10
38
追加情報への参照 4個
39
上記以外の財務諸表の注記事項への参照 3個
40
金融サービスを主たる事業とする会社については会計方針への参照が付されおり、併せて
新型コロナウイルス感染症による貸倒引当金への影響について、追加情報が参照さている事
例もあった
41
。金融サービス以外を主たる事業とする会社については、いずれも日本基準以
外の会計基準が適用されており、会計方針への参照のみでなく、関連する注記事項への参照
が記載されていた。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価 / IT 統制の評価
内部統制の評価を記載している KAM 10 個あり、貸倒引当金の評価に関する内部統制
を対象にしていた
42
また、そのうち IT 全般統制又は業務処理統制の評価について言及し
ている KAM は2個であった
43
イ.責任者・担当者等への質問
会計上の見積りに関連した KAM においては、その決定理由として会計上の見積りや見積
りに用いた仮定に経営者の判断が重要な影響を及ぼすため、多くの事例で会社の審査部門
又はスク理部責任及び当者質問協議実施いるとが載さ
ていた。
37
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
38
(株)みずほフィナンシャルグループ、オリックス(株)(個別財務諸表)他
39
(株)新生銀行、三井住友トラスト・ホールディングス(株)他
40
住友金属鉱山(株)、トヨタ自動車(株)他
41
(株)新生銀行
42
本田技研工業(株)、(株)三井住友フィナンシャルグループ他
43
(株)りそなホールディングス、三井住友トラスト・ホールディングス(株)
-59-
ウ.会計上の見積りへの対応
会計上の見積りへの対応として、利用可能な外部データとの比較検討、内部専門家の利
用等の手続を実施していることが記載されていた。
エ.専門家の利用
10 個の KAM において、監査法人又はネットワーファーム所属の専門家の利用に言及
されていた。利用した専門家の業務の領域は、信用リスクの評価、事業価値の評価、IT
制、不動産価値評価等であった。
オ.構成単位の監査人への指示
2社(金融サービス以外を主たる事業とする会社)については、構成単位の監査人への
指示が記載されていた
44
構成単位の監査人に対する指示の内容としては、見積りの合理性
の評価に関する監査手続の実施が含まれていた。
(5) 収益認識
KAM の識別
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書において、収益認識 KAM の対象として記載
されている会社の会社数(KAM の個数)は、それぞれ 10 社(10 個)及び8社(8個)であっ
た。連結財務諸表の監査報告書に関しては、このうち日本基準の適用会社は5社(5個)、
IFRS の適用会社は5社(5個)であり、適用する会計基準による顕著な傾向は見られなかっ
た。
これら 10 社については、いずれも連結財務諸表の監査報告書において収益認識が KAM
して記載されており、大多数の会社で個別財務諸表の監査報告書においても収益認識を対象
として記載されていた。一方で、連結財務諸表の監査報告書において収益認識が KAM として
記載されているものの個別財務諸表の監査報告書において収益認識が KAM として記載され
ていないケースとしては、以下のような事例が見受けられた。
財務諸表提出会社が持株会社であり、事業子会社の収益認識が連結財務諸表における KAM
となっている事例
45
連結財務諸表における KAM IFRS の適用に起因する KAM であり、個別財務諸表(日本
基準)においては KAM とならない事例
46
また、いずれの会社においても、KAM として取り上げられている項目は売上高の全てでは
なく、特定の取引種類、特定の事業セグメントの取引又は特定の期間の取引に焦点を当てて
いることが明確に記載されていた。
44
住友金属鉱山(株)、本田技研工業(株)
45
綿半ホールディングス(株)
46
ソフトバンク(株)
-60-
なお、財務諸表利用者に対して監査や財務諸表に対する理解を深めてもらうためには、KAM
の対象とした取引の金額が KAM に記載されることが望ましいが、記載されていない事例も5
社あった。上記のように特定の取引種類に的を絞って KAM とした場合に、当該取引の金額
財務諸表に開示されていないことが要因の一つと考えられる。
KAM の内容
収益認識の KAM について、その内容を分析したところ、最も多いのは、収益認識に会計上
の見積りが含まれる事例(6個)であった。
ア.工事進行基準
5個の KAM については工事進行基準を適用する会社におけ KAM であり、工事進捗度の
基礎となる工事原価総額の見積り等において、高い不確実性や経営者の判断が重要な影響
を及ぼすことを理由として選定されてい
47
なお、会社の事業環境によっては、工事損失引当金についても KAM になることが想定さ
れるが、工事進行基準と同じく工事原価総額の見積り等が論点となることから、工事進行
基準の KAM に含めて記載している事例があっ
48
。一方で、工事進行基準と工事損失引当
金を別々の KAM として記載している事例もあっ
49
また、工事進行基準であっても、算定プロセスの全てを対象とするのではなく、工事原
価総額の見積りのプロセスのみに絞るなどした上で、監査上の対応も的を絞って記載する
傾向にあった。
イ.その他の会計上の見積り(IFRS 適用会社)
IFRS を適用している会社で、収益認識のプロセスにおいて会計上の見積りが用いられて
いる論点を KAM として記載している事例があった
50
。具体的には、履行義務が一定の期間
にわたり充足される取引における当該期間の見積りや、資産化された契約コストの償却期
間の見積り等であった
また、日本基準を適用している会社では、工事進行基準以外の会計上の見積りが KAM
されている事例はなかったが、2021 年4月1日以後開始する事業年度から企業会計基準第
29 「収益認識に関する会計基準が適用されることにより、今後は日本基準を適用する
会社においても、収益認識プロセスにおいて会計上の見積りが用いられることが多くなる
ため、当該論点が KAM として記載される事例が増加することが考えられる。
ウ.特定の取引の複雑
不動産業において、一件当たりの売却が多額となること、取引の個別性が高いこと、特
別目的会社を利用した複雑なスキームが用いられていること等から KAM して記載されて
47
三菱電機(株)、三谷産業(株)他
48
(株)日立製作所、綿半ホールディングス(株)他
49
三菱電機(株)
50
ソフトバンク(株)
-61-
いる事例が2件あった
51
エ.その他
その他には、各社の個別の事情を考慮したものとして、以下のような事例があった。
大量小口の取引を IT により高度に統制している事例
52
期末月に売上が集中する事例
53
KAM として決定した理由
収益認識を KAM として決定した理由の一つに、売上高の金額的重要性がある。対象となる
取引の金額の記載があ KAM は5個であり、そのうちの4個については売上総額に占める対
象取引の割合が記載されていることから、収益認識が KAM として選定された要因として、対
象となる取引の重要性が考慮されていたことがうかがえる
54
KAM の決定理由としては、金額的重要性の他にも、主に以下のような理由が記載されてい
た。
KAM の決定理由
55
連結 個別
不確実性又は経営者の判断 8個 6個
個別取引の重要性/複雑 3個 3個
IT システムへの高度な依拠 2個 2個
期末に集中する取引 1個 1個
なお、売上高は財務諸表の中でも投資家が最も注目する指標の一つであり、また過去の粉
飾決算の事例でも売上高が多額に操作されているケースが多いことから、監査人は収益認識
には不正リスクがあるという推定に基づき、どのような種類の収益、取引形態又はアサー
ョンに関連して不正リスクが発生するか検討することが求められている。しかしながら、
益認識が KAM として記載されている 10 の中には、「不正リスク」があることを理由に KAM
として記載している会社はなかった。
財務諸表の注記事項への参照
財務諸表注記への参照が明記されている KAM は6個、参照されていない KAM が4個であっ
た。
会計上の見積りに関連した6個の KAM ついては、いずれも財務諸表の注記事項への参照
か、参照されていない場合でも有価証券報告書の「事業の状況」において会計上の見積り
51
三井不動産(株)、三菱地所(株)
52
ソフトバンク(株)
53
(株)メンバーズ
54
三井不動産(株)、四国電力(株)他
55
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
-62-
見積りに用いた仮定が記載されていた
56
一方で、会計上の見積り以外の KAM においては、財務諸表の注記事項への参照がなかった。
関連する注記事項がないことが要因と考えられる。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価/IT 統制の評価
収益認識が KAM の対象とされている 10 個のうち、8個で内部統制の評価が記載されて
いた
57
。大量小口の売上取引を対象としているケース等、IT 統制に高度に依存している場
合には、IT 統制の評価についても記載されていた
58
イ.経営者とのディスカッション/責任者等への質問
収益認識が KAM の対象とされている 10 個のうち 7 個で経営者とのディスカッションや
責任者等への質問が記載されていた。このうち、会計上の見積りに関連した6個の KAM
おいては、会計上の見積りに用いた仮定に経営者の判断が重要な影響を及ぼすため、全て
のケースで経営者とのディスカッションや、責任者及び担当者への質問又は協議を実施し
ていることが記載されていた
59
ウ.会計上の見積りへの対応
会計上の見積りに関連した KAM においては、バックテスト、趨勢分析、外部情報の利用
などの手続を実施していることが記載されていた。
エ.専門家の利用
収益認識を KAM の対象としている場合、監査上の対応に専門家を利用していることを記
載している事例は3件であり、以下のようなケースで専門家を利用している事例があった。
IT システム開発に係る工事進行基準の監査上の対応として、データ分析の専門家を関
与させ、開発案件の進捗度の趨勢分析や相関分析を実施している事例
60
収益計上の前提となる IT システムの信頼性を評価するために、監査法人内の IT の専
門家を利用している事
61
オ.特定の取引/異常な取引へのフォーカス
56
富士通(株)、綿半ホールディングス(株)他
57
三菱電機(株)、三谷産業(株)他
58
四国電力(株)、ソフトバンク(株)
59
(株)日立製作所、富士通(株)他
60
富士通(株)
61
四国電力(株)、ソフトバンク(株)
-63-
実証手続を実施する上では、KAM 対象とした取引の中で、重点的に手続を実施すべき
特定の取引や異常な取引を選定していることが記載されている事例があっ
62
(6) 引当金の見積り(貸倒引当金以外)
KAM の識別
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書において、引当金の見積り(貸倒引当金以外)
KAM として記載されている会社は、それぞれ7(8個)及び4社(5個)であった。連結
財務諸表については、IFRS の適用会社は4社(5個)米国会計基準の適用会社は2社(2
個)、日本基準の適用会社は1社(1個)であった。個別財務諸表については、全て日本基
準の適用会社であり、4社(4個)であった。
個別財務諸表の監査報告書において引当金の見積り(貸倒引当金以外) KAM の対象とし
て記載していた会社は、連結財務諸表の監査報告書において実質的に同じ内容の項目を KAM
として記載していた。
連結財務諸表においては、引当金の貸借対照表計上額のうち、KAM の対象として絞り込ん
で特定した残高を KAM の記載に含めていた会社が半数程度あったが
63
、個別財務諸表にお
ては貸借対照表において独立掲記された引当金の残高を KAM の対象としていた会社1社(1
個)
64
を除き、KAM の対象として絞り込まれた引当金の残高に係る記載はなかった。KAM の対
象として特定した残高が会社の開示に含まれない場合、貸借対照表上の引当金残高等から更
に絞り込んで記載することには、会計基準の種類にかかわらず慎重な検討を伴うものと考え
られる。
KAM の内容
引当金の見積り(貸倒引当金以外)を対象とする KAM について、その内容を分析したところ、
以下のとおりであった
ア.製品保証引当金
製品保証引当金に関す KAM は、連結財務諸表の監査報告書において3個及び個別財務
諸表の監査報告書において3個が記載されていた。これらの会社の業種は、運送用機器(完
成車又は自動車部品メーカー)であった
65
イ.法令等への違反や訴訟及びその他の法的手続に係る引当金並びに偶発事象の開示
連結務諸の監告書おい3個個別務諸の監告書おい1個
は、法令等への違反や訴訟及びその他の法的手続に係る引当金並びに偶発事象の開示を対
象とする KAM であった
66
62
三菱電機(株)、三菱地所(株)他
63
武田薬品工業(株)、(株)デンソー他
64
本田技研工業(株)
65
(株)デンソー、本田技研工業(株)他
66
(株)デンソー、野村ホールディングス(株)他
-64-
ウ.その他
上記のほか、各社の個別の事情を考慮したものとして、以下のような事例があった。
工事請負契約に係る受注工事損失引当金の見積り
67
連結財務諸表1個、個別財務諸表1個
リベート引当金の見積り
68
連結財務諸表1個
KAM として決定した理由
引当金の見積り(貸倒引当金以外)の KAM について、KAM に決定した理由を分析したとこ
ろ、連結財務諸表の監査報告書における1個を除き、全ての KAM において、複雑性又は経営
者の判断を伴うことが理由として挙げられていた。会計上の見積りについては、経営者の判
断に依存する程度が高いほど、見積りの不確実性が高くなり、重要な虚偽表示リスクが高
なるとされているが、このことと整合的である。その他、監査証拠の入手の難易度を理由
して挙げた KAM があった。
KAM に決定した理由は、以下のとおりであった。
KAM の決定理由
69
連結 個別
不確実性又は経営者の判断 7個 5個
複雑性 1個
財務諸表における重要 2個
専門的な技能や知識の必要性 1個 1個
監査証拠の入手の難易 3個 1個
財務諸表の注記事項への参照
連結財務諸表の監査報告書において記載された KAM は、全て財務諸表の注記事項への参
が明記されていた。なお、個別財務諸表において注記事項への参照が明記されている KAM
なく、引当金明細表を参照している事例、連結財務諸表の監査報告書に記載されている KAM
と実質的に同一の内容のため省略している事例等があった
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価
67
三菱電機(株)
68
武田薬品工業(株)
69
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
-65-
引当金の見積り(貸倒引当金以外)を KAM としている場合には、多くのケースで内部統
制の評価が記載されていた
70
連結財務諸表の監査報告書において7個、個別財務諸表の監
査報告書において5個 KAM において、記載が見受けられた。
イ.重要な仮定の特定と会計上の見積りの監査手続
通常、引当金の見積りにおいて、見積りの不確実性をもたらす重要な仮定を具体的に特
定し、その仮定の合理性を評価するなどの監査手続が実施される
71
これらの手続が具体的
に記載されていたのは、連結財務諸表の監査報告書において5個、個別財務諸表の監査報
告書において4個の KAM であった。
ウ.専門家の利用
監査人の専門家の利用について、連結財務諸表の監査報告書に関しては1個及び個別財
務諸表の監査報告書においても1個の KAM において記載されてい
72
連結財務諸表における2個及び個別財務諸表における1個 KAM では、経営者の専門家
の利用についての記載がされていた
73
これらは、全て、会社の顧問弁護士から見解を受領
した場合であった。
(7) 組織再編
KAM の識別
組織再編に関する KAM が記載されている会社の会社数(KAM の個数)は9社(9個)であ
った。
このうち、連結財務諸表の監査報告書のみに記載されている会社が8社(8個)、個別
務諸表の監査報告書のみに記載されている会社が1社(1個)であった。また、日本基準の
適用会社は5社、IFRS を適用している会社は4社であった。
KAM の対象としては、9社中8社が特定の会社又は会社グループの組織再編を対象として
おり、対象とする会社名又は会社グループ名(関連数値を含む。) KAM に含めて記載し
いた
74
また、9社中1社は持分法適用会社全体を対象としており、持分法適用会社に対す
投資残高や持分法による投資損益、持分法適用会社に対する投資の取得による支出額を記載
していた
75
KAM の内容
取得対価の資産・負債への配分の適切性(暫定的な評価額の修正のケース及び負ののれん
70
三菱電機(株)、本田技研工業(株)他
71
三菱電機(株)、(株)デンソー他
72
トヨタ自動車(株)
73
(株)デンソー、野村ホールディングス(株)
74
武田薬品工業(株)、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、(株)岡三証券グループ、ソフトバンク(株)他
75
三井物産(株)
-66-
の算定の妥当性を含む。)が多く、中でも無形資産の公正価値の評価を KAM としている例が
多かった
76
。IFRS における共通支配下の取引の複雑さに着目している事例(子会社化の会計
方針の決定、遡及修正再表示及び開示の正確性)
77
や、会社分割の会計処理と分割元企業の
延税金資産の回収可能性について記載している事例もあっ
78
KAM として決定した理由
取得原価の配分における無形資産の公正価値評価を KAM 内容としている事例が多く、
形資産の評価には会計上の見積りが用いられていることから、経営者の判断の影響が大きい
こと、専門的知識の必要性、監査上の高度な判断を要すること、不確実性の程度が高いこと
等が理由として記載されていた。無形資産の公正価値の評価を KAM としている事例では、
ぼ全ての事例において、評価に当たっての重要な仮定を明示して、KAM の決定理由が記載
れていた。
KAM の決定理由のうち、主なものは以下のとおりである。
KAM の決定理由
79
連結 個別
不確実性又は経営者の判断 6個
金額的重要性、質的重要性 3個 1個
複雑性 4個
専門的な技能や知識の必要性 3個
ア.金額的重要性、質的重要性
KAM の決定理由において、無形資産の金額の重要性、持分法投資の金額的重要性、負の
のれんの発生額の重要性など、金額的重要性について言及している事例が3件あった
80
た、質的重要性を含むと考えられる事例として、会社分割の目的や分割元企業の課税所得
の見積りの判断に重要な影響を及ぼすことを理由として記載している事例が1件あった
81
イ.複雑性
無形産の価にて複な見りをるこにつて言てい事例あっ
82
また、子会社化の会計方針の決定、遡及修正に係る再表示及び開示の正確性を KAM
内容としている事例において、複雑な遡及修正が広範囲にわたり実施されることを理由と
している事例があった
83
76
武田薬品工業(株)、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ他
77
ソフトバンク(株)
78
オリンパス(株)(個別財務諸表)
79
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
80
三井物産(株)、(株)岡三証券グループ、ソフトバンク(株)
81
オリンパス(株)(個別財務諸表)
82
三井物産(株)、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ他
83
ソフトバンク(株)
-67-
財務諸表の注記事項への参照
財務諸表の注記事項への参照が明記されている KAM は8個参照されていない KAM が1
であった。
企業結合注記への参照を記載している例が多く、それ以外に会計方針を参照している事例
やセグメント情報の負ののれん発生益を参照している事例があった。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価
組織再編を対象とする KAM の内6個において、内部統制の評価が記載されていた
84
。対
象は、KAM の内容に応じ、無形資産の公正価値の見積りに関連する内部統制を対象とする
事例、持分法適用会社に対する投資の取得対価の資産・負債への配分決定プロセスを対象
とする事例、遡及修正を含む連結決算プロセスを対象とする事例が見受けられた。
イ.経営者とのディスカッション/責任者等への質問
子会社化の会計方針の決定等を KAM としている場合において、取引の実態や経済的合理
性の検討に当たり、経営者や関係する役職者への質問を行っている事例があった。また
取得原価の配分の適切性等を KAM としている場合において、取引の目的と会計処理の整合
性の検討に当たり、経営者や関係する役職者への質問を行っている事例があった。
ウ.会計上の見積りへの対応
組織再編の事例の中でも無形資産の公正価値評価を KAM としている場合、KAM の内容及
び決定理由において記載した重要な仮定に焦点を当てて記載していることが多く、会計上
の見積りへの対応手続としては、以下のような事例があった。
無形資産の公正価値評価に採用した評価モデルの合理性について、評価専門家を利用
して検討している事例
85
重要な仮定について、過年度の実績との比較検討や、外部情報との比較検討、評価
門家を利用して検討を行っている事例(無形資産の科目ごとに重要な仮定を挙げ、それ
ぞれの検討手続を記載している例もあった。)
86
専門家が独自に入手した外部情報を参照しながら、監査人が合理的と考える許容可能
な範囲を算定し、経営者が評価した公正価値が許容範囲内にあるかどうかを検討してい
る事例
87
84
武田薬品工業(株)、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ他
85
ソフトバンク(株)
86
武田薬品工業(株)、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ他
87
三井物産(株)
-68-
エ.専門家の利用
組織再編を対象とする KAM の内6個において、専門家の利用が行われていた
88
利用した専門家の分野は以下のとおりであった。
公正価値評価(又は企業価値評価)の専門家 4個
IT 専門家 1個
記載なし(内部専門家と記載されているのみ 1個
公正価値評価(又は企業価値評価)の専門家については、評価モデルの検討や重要な仮
定の検討において利用されていた。
IT 専門家は、ソフトウェアの評価を含む取得対価の配分を KAM した例において利用さ
れていた。
オ.構成単位の監査人への指示
連結子会社の監査人に監査の実施を指示し、監査手続の実施結果についての報告を受け、
十分かつ適切な監査証拠が入手されているかについて評価した旨を記載した上で、連結子
会社の監査人によって実施された具体的な手続を記載している事例が1件あった
89
(8) 金融商品の評価
KAM の識別
連結財務諸表の監査報告書において、金融商品の評価に関する事項が KAM として記載され
ている事例は6社(KAM の個数は7個)であった。これらの事例の全てが、金融機関等に
るもので、銀行・証券・保険会社グループが含まれていた。また、日本基準の適用会社は4
社(5個)、米国会計基準の適用会社は2社(2個)であり、適用する会計基準による顕著
な傾向は見られなかった。他方で、個別財務諸表の監査報告書において金融商品の評価に関
する事項が KAM として記載されている事例も1社(1件)あった
なお、連結財務諸表と個別財務諸表の監査報告書の双方において KAM が記載されている事
例では、個別財務諸表の監査報告書において、連結財務諸表監査に係る KAM と同一内容であ
るため記載を省略している旨の記載がされていた。
KAM の内容
1個を除くほとんどの KAM が、活発な市場における市場価格が得られない事象を対象とし
た事例であった。これらの事例の詳細は、以下のとおりであった。
ア.米国会計基準を前提とした記載
米国会計基準では、公正価値測定に当たってのインプットについてレベル別開示(レベ
88
三井物産(株)、ソフトバンク(株)、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ他
89
武田薬品工業(株)
-69-
ル1からレベル3)が要求されているほか、公正価値測定に当たってレベル別のガイダン
スが示されている。
米国会計基準を前提とした記載では、レベル3のインプットに関する公正価値の測定の
一部が KAM の対象とされていた
90
また、KAM の対象を特定している事例として、海外ファンドが保有する投資ファンドの
評価に限定している事例(金融商品を保有する事業体で絞り込んでいるケース)があった
91
イ.日本基準を前提とした記載
日本基準では、2019 年7月に、企業会計基準委員会から企業会計基準第 30 号「時価の
算定に関する会計基準」が公表されており、2021 年4月1日以後開始事業年度の期首から
適用されるが、同基準では、IFRS や米国会計基準と同様に、レベル別開示等が要求される
しかし、KAM の早期適用年度である 2020 年3月期においては、同基準は適用されていな
ったため、流動性が低い金融商品又は流動性が低く市場価格がない金融商品の評価が KAM
の対象とされていた。
また、KAM の対象を特定している事例として、金融商品のうち、デリバティブ取引に限
定している事例(金融商品の種類で絞り込んでいるケース)があった
92
ウ.その他
上記のほか、「責任準備金対応債券の振替及び小区分の廃止に関する会計処理及び開示」
KAM の対象としている事例があった。この事例は、流動性が低い金融商品の評価への対
応が KAM とされているものでなく、償却原価で測定される金融商品を時価評価の対象とな
る金融商品に振り替えることの適切性に関するもので、保険会社の財務諸表監査に特有の
事例であった。
93
KAM として決定した理由
KAM の決定理由の主なものは以下のとおりである
KAM の決定理由94
連結
95
財務諸表における重要 6個
不確実性又は経営者の判断 5個
90
野村ホールディングス(株)、オリックス(株)
91
オリックス(株)
92
(株)大和証券グループ本社、三菱 UFJ 証券ホールディングス(株)
93
第一生命ホールディングス(株)
94
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
95
個別財務諸表に係る当該 KAM は連結財務諸表監査に係る KAM と同一内容であるため記載を省略している事例(1件)
のみである。
-70-
複雑性
96
5個
通例でない取引(測定区分の変更を伴う振替) 1個
ア.全般的な傾向
金融機関においては、通常、大量の金融商品(デリバティブを含む。を保有しており、
総資産に対して金融資産が占める比率は一般的に高い。特に、流動性の低い金融商品の評
価は複雑であるほか、不確実性が高く、経営者の主観的な判断が介入する余地が高い。こ
のため、金額的重要性や会計上の見積りに含まれるこれらの要因が KAM 決定理由として
記載されているケースが大半であった。
イ.日本基準を前提とした記載
日本基準に準拠して作成された財務諸表に対する監査報告書では、二つの事例において、
流動性が低い金融商品 KAM として識別されていた
97
。流動性が低い金融商品の評価に限
らず、トレーディング商品の時価評価に当たっては、特に複雑なデリバティブ取引におい
て、価格算定モデルの調整や取引相手先等の信用リスク及び流動性リスクを考慮した評価
調整がなされる。このため、1件の事例においては、トレーディング商品のデリバティブ
取引に係る評価の合理性が KAM として識別されていた。
ウ.米国会計基準を前提とした記載
米国会計基準では、公正価値測定に関してレベル別開示が要求されている。このため、
米国会計基準に準拠して作成された財務諸表に対する監査報告書(2件の事例)において
は、主にレベル3のインプットを用いて公正価値測定を行う金融商品について、複雑性
不確実性、主観性が高いという理由で KAM に該当するとされていた。
98
エ.通例でない取引
日本基準に準拠して作成された保険会社の財務諸表に対する監査報告書において、責任
準備金対応債券の振替及び小区分の廃止に関する会計処理及び開示についての検討が、通
例でない取引に該当するものとして、KAM に該当するとされてい
99
財務諸表の注記事項への参照
対象となる全ての KAM において、務諸表の注記事項への参照が明記されていた。ただし、
財務諸表の注記事項への参照に関しては財務諸表項目の説明や会計方針の記載への参照が
記載されている事例があったものの、参照先の情報が具体的に示されてない事例も見受けら
れた。
96
価格算定モデル、取引相手先等の信用リスク及び流動性リスクを考慮した評価調整に起因するものを含む。
97
(株)みずほフィナンシャルグループ、(株)大和証券グループ本社
98
野村ホールディングス(株)、オリックス(株)
99
第一生命ホールディングス(株)
-71-
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、KAM 内容及
び決理由おい記載されいるスクと監上の応と間の関係明示かど
は個々の KAM によって大きく異なっていた。
「監査上の対応」において記載されていた主な監査手続は、以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価/IT 統制の評価
全ての KAM において、内部統制の評価に関する検討が記載されていた。ただし、内部統
制の評価を別項目として記載しているかどうかを含め、記載の程度は異なっていた。
イ.専門家の利用
全ての KAM において、専門家の業務の利用への言及がされていた。特に、インプットデ
ータ(例えば、EBIT マルティプル、加重平均コスト)の検討に加え、測定手法や価格算定
モデル及び価格算定モデルへの調整の検討において、専門家の業務を利用している事例が
多かった。
ウ.構成単位の監査人への言及
構成単位の監査人に対して言及があった事例が1個見受けられた
100
当該事例では、「構
成単位の監査人」という表現は用いられず、「海外子会社の監査人」という表記がされて
いた。これ以外のケースでは、主に親会社の財務情報が KAM として識別されていたことも
あり、構成単位の監査人に対する言及はなかった。
(9) 繰延税金資産の評
KAM の識別
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書において、繰延税金資産の評価が KAM の対象
として記載されている会社の会社数(KAM の個数)は、それぞれ6社(6個)及び1社(1
個)であった。対象会社の業種は化学、石油石炭製品、電気機器、証券商品先物取引業、
保険業と多岐にわたりまた、連結財務諸表において IFRS米国会計基準・日本基準を適用
する会社がそれぞれ2社ずつという内訳であり、業種や適用する会計基準による顕著な傾向
は見られなかった。なお、上記6社のうち5社
101
は持株会社を最終親会社とする連結グルー
プであり、これらの会社の個別財務諸表の監査報告書において、繰延税金資産の評価に関
る事項が KAM として記載されている事例はなかった。
KAM の内容
適用される会計基準の違いによる KAM 内容の記載に顕著な相違は認められなかったが、
100
オリックス(株)
101
(株)三菱ケミカルホールディングス、野村ホールディングス(株)、(株)岡三証券グループ、第一生命ホール
ディングス(株)、ENEOS ールディングス(株)
-72-
徴的な記載としては以下が挙げられる。
ア.KAM の対象領域に関する記載
連結財務諸表の監査報告書における KAM6個のうち4個において、一部の連結納税主体
や特定のセグメントに属する子会社等に係る繰延税金資産の評価を KAM 対象としている
旨や、当該子会社等に係る繰延税金資産の計上額が重要である旨が記載されていた
102
イ.税務上の繰越欠損金に関する記載
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書を合わせた7個の KAM のうち3個において、
税務上の繰越欠損金を保有している旨が記載されていた
103
。そのうち2個については、欠
損金に係る繰延税金資産の金額が記載され、もう1個においては、対応する金額の記載は
ないものの繰越欠損金が多額に存在する旨が記載されていた。
ウ.評価性引当額に関する記載
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書を合わせた7個の KAM のうち3個において、
繰延税金資産の金額から控除した評価性引当額の金額が記載されていた
104
。そのうち2個
は米国会計基準を適用している会社に係 KAM であり、残りの1個は日本基準の適用会社
に係る KAM であった。評価性引当額による2段階アプローチが採用されていない IFRS
適用会社の KAM においては、評価性引当額に関する記載は行われていなかった。
KAM として決定した理由
KAM の決定理由の主なものは、以下のとおりである。
KAM の決定理由
105
連結 個別
不確実性又は経営者の判断 6個 1個
将来収益の予測 3個 1個
ア.会計上の見積り
繰延税金資産の評価(回収可能性)に当たっては、将来減算一時差異等と同時期に解消
される将来加算一時差異の金額やタックプランニング等も考慮されるが、多くの場合、
収益力に基づく将来の課税所得の見積額が最も重要な要素となる。このため、繰延税金資
産の評価に関する事項 KAM として記載された7個全てにおいて、将来課税所得の見積り
に関連する内容が KAM の決定理由として記載されていた。具体的には、当該見積りには不
確実性や経営者の判断を伴う旨が KAM 決定理由とされていた。
また、7個中6個において、将来課税所得又はその基礎となる事業計画の策定に当たっ
102
ソニー(株)、ENEOS ホールディングス(株)
103
(株)三菱ケミカルホールディングス、武田薬品工業(株)(個別財務諸表)他
104
野村ホールディングス(株)、武田薬品工業(株)(個別財務諸表)他
105
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
-73-
て経営者が設定した仮定や、仮定に影響を与える要因等が具体的に記載されており、その
うち2個に関して、新型コロナウイルスの感染拡大に関連付けた記載が行われていた
106
イ.企業分類
日本基準を適用している会社の KAM(連結・個別合わせて3個)のうち、企業会計基準
適用指針第 26 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、「企業会計基準
適用指針第 26 号」という。の企業分類の決定に関する内容を KAM の決定理由として記
している事例は1個のみであった
107
ウ.量的重要性
繰延税金資産の計上額や内訳金額を記載している事例はあるものの、例えば、それらの
総資産や純資産に対する割合等を示した上で、量的重要性 KAM の決定理由である旨を明
示的に記載している事例はなかった。
財務諸表の注記事項への参照
全ての KAM(7個)において、財務諸表項目に関連する注記事項への参照が記載されてい
た。また、これに加えて、関連する会計方針に関する注記への参照が明記されている事例
2件あった
108
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、KAM 内容及
び決理由おい記載されいるスクと監上の応と関係が明かどかは
KAM によって異なっていた。
監査上の対応において記載されていた主な監査手続は以下のとおりである
ア.内部統制の評価 / IT 統制の評価
4個の KAM において、内部統制の評価に関する検討が記載されていた
109
。ただし、「内
部統制の整備運用状況の有効性を評価した。又は「〇〇(KAM の決定理由の記載内容)
に関するものを含む、内部統制の整備・運用状況を評価した。」という記載にとどまって
いた。
イ.専門家の利用
税務専門家の業務の利用について言及していた KAM は4個であった
110
いずれも、KAM
決定理由とされた不確実性や、経営者の判断を伴う将来課税所得の見積りに対する直接的
106
野村ホールディングス(株)、ENEOS ホールディングス(株)
107
第一生命ホールディングス(株)
108
ソニー(株)、ENEOS ホールディングス(株)
109
ソニー(株)、武田薬品工業(株)(個別財務諸表)他
110
(株)三菱ケミカルホールディングス、ENEOS ホールディングス(株)他
-74-
な対応の記載ではなく、将来減算一時差異のスケジューリングの検討等に当たって税務専
門家を利用した旨が記載されていた。
ウ.構成単位の監査人への言及
連結財務諸表の監査報告書における KAM のうち、監査上の対応において構成単位の監査
人の作業について言及があった事例は1件のみであった
111
。当該事例は、一部の海外子会
社における繰越欠損金が多額であるケースであった。
エ.仮定の合理性の評
KAM の決定理由として、将来課税所得の見積り又はその基礎となる事業計画の策定に当
たって経営者が設定した仮定や、仮定に影響を与える要因等を記載していた6個の KAM
おいて、当該仮定等の合理性を評価するために実施した手続が記載されていた。当該合理
性を評価する手続としては、4個において経営者との協議や質問等を実施した旨が記載さ
れていた
112
。また、同じく4個において外部データとの比較を実施した旨が記載されてい
たが
113
、比較した具体的な外部データの内容について言及していた事例は1件のみであっ
114
なお、KAM の決定理由において、経営者が設定した仮定や仮定に影響を与える要因等が
複数記載されている事例はあったが、それらの合理性を評価する手続の内容は集約して記
載されており、個々の仮定や要因ごとに区分して手続を記載している事例はなかった。
その他
上記のほか、繰延税金資産の評価を KAM としている事例では、以下のような特徴的な点が
見受けられた。
監査上の対応において、将来課税所得の見積りに対する手続として当該見積りの基礎
とな事業画と締役等で認さた事計画の整性の討等実施た旨
記載されている事例が5件あった
115
。また、過去の事業計画の達成状況や課税所得の見積
りと実績との比較等を実施した旨が記載されている事例が5件あった
116
企業会計基準適用指針第 26 号の企業分類の決定に関する内容を KAM の決定理由として
記載している事例(1件)において、同適用指針が定める分類2の要件として示されてい
「近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれていない」かどうかの検討を実施した旨
が記載されていた。
117
111
ENEOS ホールディングス(株
112
(株)三菱ケミカルホールディングス、(株)岡三証券グループ他
113
(株)三菱ケミカルホールディングス、ENEOS ホールディングス(株)他
114
武田薬品工業(株)(個別財務諸表)
115
野村ホールディングス(株)、(株)岡三証券グループ他
116
(株)三菱ケミカルホールディングス、第一生命ホールディングス(株)他
117
第一生命ホールディングス(株)
-75-
(10) 棚卸資産の評価
KAM の識別
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書において、棚卸資産の評価が KAM の対象と
て記載されている会社の会社数(KAM の個数)は、それぞれ3社(4個)及び2社(2個)
あり、全て日本基準の適用会社であった。早期適用会社のうち、一般的な棚卸資産の評価を
KAM として選定していたのは個別財務諸表の監査報告書に係る1社(1個)のみで、他の3
(4個)は不動産業であった。不動産業における販売用不動産は、貸借対照表において棚卸
資産として表示されるとは言え、評価に当たっては個別性の高い土地、建物(開発中のもの
を含む。)が主であり、正味売却価額の算定に見積りの要素が深く関わってくることから、
KAM として選定される可能性が高くなるものと考えられる。
一方、製造業や販売業における製品、仕掛品、商品等の一般的な棚卸資産については、
価の市況変動の可能性、将来の追加製造コストの見積り、保管期間が長期にわたるなど見積
要素が多岐にわたることを理由として KAM に選定されていた。
KAM の内容
棚卸資産の評価を KAM の対象とした事例については、以下の傾向が見受けられた。
ア.開発不動産
開発不動産については、販売に至るまでの期間が長期にわたるため、将来の経済環境、
金利変動、不動産市況のほか、開発に関連する様々な外部要因の影響を受けるとして、そ
れらの要因に関する検討を記載していた
イ.製造業等の棚卸資
製造業等の棚卸資産に関する KAM は1個のみであったが、会社の棚卸資産の特色を説明
するとともに、正味売却価額に影響を与える要素及び監査上の対応を具体的に記載してい
118
KAM として決定した理由
KAM に決定した理由は、以下のとおりであった。将来に関する長期的な見積要素が含まれ
ることから、不確実性や経営者の判断を伴うことを挙げている事例が多かった。
KAM の決定理由
119
連結 個別
不確実性又は経営者の判断 2個 2個
複雑性 2個
財務諸表における重要 2個
118
マルハニチロ(株)
119
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
-76-
財務諸表の注記事項への参照
貸借対照表計上額やセグメント情報への参照を記載しているが、注記事項を参照している
事例はなかった。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価
内部統制の評価に関する検討が記載されていた KAM は2個で、必ずしも記載されている
ものではなかった
120
イ.専門家の利用
専門家の利用について記載した KAM は、不動産業の販売用不動産についての1個であっ
121
ウ.重要な仮定に対する監査手続の記載
早期適用事例では、いずれも保有している棚卸資産が販売に至るまでの期間が比較的長
期にわたるため、評価に当たって利用する正味売却価額の算定に当たって、将来における
見積り要素を多く含むことから、見積りに関する重要な仮定に対する監査手続が記載され
ていた。重要な仮定に対する監査手続としては、棚卸資産としての性格上、第三者への販
売を前提としていることから、外部公表情報との整合性を記載している事例が3件となっ
ており、比較的多かっ
122
その他
早期適用事例からは、将来に関する長期的な見積りの要素が含まれる場合に、KAM の対象
として選定されやすいものと考えられるが、それ以外の場合であっても、例えば、期間の長
短だけでなく各社の棚卸資産の特性によっては重要な仮定となる要素があるとともに、当該
仮定に複数の要素が関係したり、経営者の判断が大きく関わる場合には、KAM として選定さ
れることは十分に考えられる。
(11) IT システムの評価
KAM の識別
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書において、IT システムの評価が KAM の対象と
して記載されている会社の会社数(KAM の個数)は、それぞれ2社(2個)及び3社(3個
120
マルハニチロ(株)、三井不動産(株)
121
三井不動産(株)
122
三井不動産(株)、三菱地所(株)
-77-
であり、IT システムの評価を KAM として記載した会社は4社であった
123
このうち、IFRS
適用会社は2社、日本基準の適用会社は2社であり、適用する会計基準による顕著な傾向は
見られなかった。
IT システムの評価を KAM として識別した会社は情報通信業、券業、その他金融業など
一般に事業を行うためのインフラとして IT 利用度が高く、また複雑なシステム処理を伴
うと想定される業種が多かった。
KAM の内容
IT システムの評価の KAM については、2個が収益計上に関連するものであった
124
ア.収益計上に関連す IT システムの信頼性
収益計上に関連する IT システムを KAM として記載した会社において、収益項目全般で
はなく、KAM の対象となる事業や契約、勘定科目等を特定していた。いずれの会社におい
ても特定した収益に関連して IT システムが重要な役割を果たしており、収益計上が適切
に行われるためには IT システムの評価が重要であることを示す記載があった。
イ.新システムへのデータ移行の正確性
当期に新人事システムの稼働を開始し、旧人事システムのデータを新システムに移行し
ており、当該データ移行の正確性を KAM として識別していた(1個)
125
KAM として決定した理由
IT システムの評価を KAM とした理由は、以下のとおりである。その多くが IT システムの
利用度が高く、財務報告に与える影響が重要であるケースであった。
KAM の決定理由
126
連結 個別
IT システムの利用度 2個 3個
IT システムの安定度 1個 1個
処理対象の金額的重要 2個 2個
専門的な技能や知識の必要性 1個
ア.IT システムの利用度
全ての会社において、日々の取引が継続反復的に大量に処理され IT システムの影響が
広範であることや、複数の IT システムと連携して処理されている等、ずれの事例におい
ても、IT システムの利用度が高いことをうかがわせる記述があった。
123
松井証券(株)、(株)日本取引所グループ、ソフトバンク(株)、綜合警備保障(株)
124
(株)日本取引所グループ、ソフトバンク(株)
125
綜合警備保障(株)
126
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
-78-
イ.IT システムの安定度
IT システムに不備や障害があった場合には財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が
ることや、バージョンアップやリプレース等の定期的な更改がシステムの安定稼働に特に
重要な影響をもたらす可能性がある等、IT システムの安定度を決定理由としている KAM
2個あった
127
ウ.IT システムの変更等が及ぼす金額的重要性
当期に旧人事システムのデータを新システムに移行しており、データ移行を誤った場合、
誤った処理が自動で反復継続されること、かつ、新システムにより計算される給料及び賞
与等の金額的重要性が高いことを決定理由としている KAM があった
128
財務諸表の注記事項への参照
財務諸表の注記事項への参照が明記されている KAM はなかった。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.IT 全般統制の検証
全ての KAM において、IT 全般統制の有効性の検証が記載されていた。例えば、監査上の
対応として以下のような事例があった。
データ移行計画の文書化や適切な管理者による承認手続
プログラム変更やアクセス権限付与・変更時の責任者の承認証跡の閲覧
開発管理やデータ移行等に係るシステム管理者への質問、関連文書等の閲覧
イ.自動化された業務処理統制の検証
全ての KAM において、自動化された業務処理統制の検証が記載されていた。例えば、監
査上の対応として以下のような記載があった。
データインターフェース処理に関する業務処理統制の有効性を評価するため、IT シス
テム間における売買・取引代金、取引数量の整合性の検証
自動計算に関する業務処理統制の有効性を評価するため、収益項目である取引料、
数料等の料金の再計算の実施
特定月の給料残高等について、旧人事システムの計算結果と新人事システムの計算結
果の総額の照合
特定月の給料残高等の中から特定の個人の給料等に関するデータをサンプルとして抽
出し、新旧システムの計算結果の照合
127
松井証券(株)、(株)日本取引所グループ
128
綜合警備保障(株)
-79-
ウ.専門家の利用
IT システムの評価を KAM としている場合、3個が IT の専門家を利用していた
129
(12) 新型コロナウイルス感染症関連
KAM の識別
連結財務諸表の監査報告書において、新型コロナウイルス感染症に関連する事項が KAM
して記載されている会社は、1社(KAM の個数は1個)であった
130
新型コロナウイルス感染
症に関連する KAM は、IFRS の適用会社及び米国会計基準の適用会社に該当はなく日本基準
の適用会社に関連しており、個別財務諸表の監査報告書にはなかった。
新型コロナウイルス感染症に関連する事項を対象とした KAM には、具体的な金額の記載は
ないものの、新型コロナウイルス感染症の拡大をめぐる状況が会社グループの財務報告及び
監査人の会計監査に広範な影響を及ぼす旨が記載されていた。
KAM の内容
小売業において、新型コロナウイルス感染症拡大が財務報告に与える影響について KAM
記載していた。
KAM として決定した理由
新型コロナウイルス感染症拡大が、会社グループの財務報告及び監査人の会計監査に広範
な影響を及ぼすことを理由として記載していた。
財務諸表の注記事項への参照
新型コロナウイルス感染症に関連する KAM には、財務諸表の注記事項への参照が明記され
ており、追加情報が参照されていた。
これは、新型コロナウイルス感染症に関連して、2020 年5月 11 日に企業会計基準委員会
から公表された議事概要を踏まえて開示された追加情報を KAM の記載の中で参照したもので
ある。
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価
内部統制のデザインや運用の変更の有無について検討を行っていた。
129
ソフトバンク(株)、(株)日本取引所グループ
130
(株)AOKI ホールディングス
-80-
イ.重要な仮定の特定とそれに対する会計上の見積りの監査手続
新型コロナウイルス感染症による会計上の見積り(固定資産の減損や繰延税金資産の回
収可能性等)に与える影響の検討を行っていた。
ウ.専門家の利用
専門家の利用についての記載はなかった
エ.その他
追加情報等の開示について検討を行っていた。これは、新型コロナウイルス感染症の影
響に関連してどのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表利用
者が理解可能な情報を具体的に開示する必要があるとされているため、監査上も適切な開
示が行われているかについて焦点が当てられたものと考えられる。
また、監査リスク全般の評価の見直しや実査、立会及び確認などの実証手続を含む監査
手続に対する制約の有無など、監査計画に関連する記載もされていた。
(13) その他の領域
KAM の識別
連結財務諸表及び個別財務諸表の監査報告書において、その他の領域が KAM の対象として
記載されている会社の会社数(KAM の個数)は、それぞれ9社(9個)及び2社(2個)であ
った。連結財務諸表については、日本基準の適用会社は3社(3個)IFRS の適用会社は4
社(4個)、米国会計基準の適用会社は2社(2個)であった。個別財務諸表については、
全て日本基準の適用会社であった。
KAM の内容
その他の領域の KAM 内容は、以下のとおりであった。
表示方法の変更
131
関連当事者取引
132
未払販促費の見積り
133
将来油価に関する見積りが財務諸表に及ぼす影響
134
偶発債務
135
保険契約債務及び繰延保険契約費
136
131
(株)AOKI ホールディングス
132
東急不動産ホールディングス(株)
133
キヤノン(株)
134
三井物産(株)
135
三井不動産(株)
136
ソニー(株)
-81-
オペレーティング・リース資産の残存価額の見積り
137
開発費用の資産化
138
和解に係る会計処理
139
KAM として決定した理由
複数の事例で、複雑性又は主観的な判断を伴うことが理由として挙げられていた。その他
の領域においても、経営者の主観的な判断を伴う会計上の見積りに関連する場合が多いこと
が背景にあると考えられる。
なお、KAM の決定理由は、以下のとおりであった
KAM の決定理由
140
連結 個別
不確実性又は経営者の判断 5個 1個
複雑性 3個 1個
財務諸表における重要 4個 2個
専門的な技能や知識の必要性 1個
監査証拠の入手の難易 1個 1個
財務諸表の注記事項への参照
財務諸表の注記事項への参照が明記されている KAM は、連結財務諸表の監査報告書にお
て8個、個別財務諸表の監査報告書において2個であった
141
監査上の対応
監査上の対応には、監査人が実施した主要な監査手続が記載されているが、代表的な監査
手続は以下のとおりであった。
ア.内部統制の評価
連結財務諸表の監査報告書において、5個の KAM に記載されていた
142
イ.重要な仮定の特定とそれに対する会計上の見積りの監査手続
その他の領域を対象とする KAM についても、会計上の見積りに関連する領域が多い。見
積りの不確実性をもたらす重要な仮定を具体的に特定し、その仮定の合理性を評価する等
の監査手続を具体的に記載していた KAM は、連結財務諸表の監査報告書において5個あっ
137
本田技研工業(株)
138
オリンパス(株)
139
(株)日立製作所
140
複数の理由を挙げている場合もあるため、上記の内訳合計は KAM の個数とは一致しない。
141
(株)日立製作所、オリンパス(株)
142
ソニー(株)、本田技研工業(株)他
-82-
143
。なお、これ以外の監査報告書では、開発費用の資産化、表示の変更や関連当事者に
関する事項といった会計上の見積りに関連しない事項を KAM の対象としていた。
ウ.専門家の利用
連結務諸の監告書おい、監の専家の用にて記されいた
KAM は2個であった
144
連結財務諸表の監査報告書の KAM(1個)において、経営者の専門家の利用について記
載されていた。具体的な内容は、会社の顧問弁護士から見解を受領した場合であった
145
143
ソニー(株)、キヤノン(株)
144
ソニー(株)、本田技研工業(株)
145
三井不動産(株)
-83-
(別紙4)監査人に対するインタビュー等
KAMの早期適用を行った監査の現場において、会社とのコミュニケーション、KAMの選定と記載
内容、財務諸表の注記事項への参照会社により公表されていない情報の取扱い等に関し、監査チ
ームに対するインタビュー又はメール等によるアンケート調査を実施した当該インタビューに
おける、主な回答内容は以下のとおりである。
(1) 会社とのコミュニケーション
円滑にコミュニケーションを実施できた事例
監査役等及び経営者とのコミュニケーションを通じて、会社から KAM の選定や KAM の記
載等に関する理解を得ることができた。その過程では、監査役等及び経営者のリスク認識
等に留意しながら丁寧な説明を心がけた監査の早い段階から会社と KAM に関するコミュ
ニケーションを実施してきたことから、KAM 目的に対する会社の理解は十分に得られて
おり、早期適用に際して特段苦労した点はなかった。
事実認識やリスク認識について、会社と十分かつ適時の意見交換を行った結果、KAM
記載を修正することはあっても意見相違等はなく、会社は KAM の記載を全面的に受け入れ
てくれた。監査役等は KAM の目的等に関する理解を十分に有しており、また経営者も KAM
に関する関心が高いため、コミュニケーションを通して KAM の記載に関するコメントを多
く受領した。
以前から監査役等及び経営者との間で、監査リスクの高い領域に係る会計事象について
活発に協議してきたが、KAM の導入を契機に、より深度のある協議を行うことに努めた。
その結果、会社との協議のための時間は、全体として以前より増加した。
監査チームが会社に対して、KAM 草案を具体的に提示することにより、会社も注記事
項等の開示を具体的に想定することができたため、有効な意見交換を行うことができた。
その結果、財務諸表の注記事項として KAM に関連する情報を開示することができた
会社とのコミュニケーションにおける課題
経営者は、監査報告書に会計上の見積りに関連する KAM が記載されることで、財務諸表
利用者から、KAM の対象となった項目の事業上のリスクが高いとの誤解を受けないか懸念
していた。例えば、固定資産等の減損を KAM の対象とした場合、減損処理を必要とする資
産が数多くあるという印象を与えないかと懸念していた。
経理部と異なる部署で記述情報の作成が行われる場合、監査や KAM に関する理解を得る
ために、追加の協議が必要となった。
KAM の文案の修正の都度、監査役等と経営者の双方に対してコミュニケーションを行っ
た。そのための日程調整やコミュニケーションの内容の検討等に想定よりも多くの時間を
要した。
会社は、同一業種に属する会社ならば同様の KAM が選定されることを期待したり、KAM
の記載も同様の内容となることを期待することがあった。その際、会社は、KAM 記載が
他社と比較して特異なものになっていないか等を懸念していた。
-84-
有価証券報告書の開示と KAM の記載の深度、KAM を選定する際の重要性の程度について、
監査チームも手探りであり、これに関する監査チーム内の討議及び会社とのコミュニケー
ションに苦労した。また、KAM の記載と会社の開示情報の文言との整合性をとることに多
くの時間を費やすとともに、会社の開示の変更に伴い KAM の記載を変更することが多かっ
た。
収益認識を KAM の対象として選定することについて会社とコミュニケーションを行った
が、会社は KAM の記載の中で不正リスクについて言及することには否定的であった
KAM の検討スケジュール
KAM の文案を決定する時期や有価証券報告書の提出までの日程等について、会社と早め
に協議するとともに、監査の早い段階で KAM 具体的な草案を会社に提示して議論を重ね
ることが肝要である。監査役等とは監査計画の段階から KAM の選定候補について報告し、
四半期レビューや監査の結果報告等の機会を利用して、年間を通じて更新を続けた。特に
KAM の適用初年度は、監査役等及び経営者とのコミュニケーションを定期的かつ頻度高く
実施することが重要である。
3月決算法人の場合第2四半期決算日までに KAM の対象項目を暫定的に決定するとと
もに、会社が KAM の記載に関連した開示を行えるように、遅くとも3月までに KAM の草案
を提示することが望ましい。
事業報告と有価証券報告書の記述情報の整合性を図るために、KAM の記載に対応する会
社の開示について、事業報告の校了までに検討する必要があった。
KAM の記載を決定する時期を有価証券報告書の校了日としたため、実務上時間的余裕が
乏しかった。また、期末近くに発生した事象を KAM の対象としたため、KAM の草案を検討
するとともに、KAM に関連する注記事項等の開示を会社と協議した時期が、期末監査の往
査期間と重なり、繁忙を極めた。
(2) KAM の選定と記載内容
KAM の対象項目の決定
個別財務諸表の監査において、KAM の対象項目の決定が困難な事例があった。特に、純
粋持株会社等の個別財務諸表の監査において、関係会社に対する投資の評価等に特に注意
を払う事項がない場合、KAM がないと判断するのか、相対的な重要性を鑑みて KAM を選定
するのか、多くの時間をかけて検討した。会社からは、純粋持株会社等の個別財務諸表の
監査において KAM が選定されることについて理解を得にくいと感じた。
KAM の記載
KAM の対象を早めに決定したものの、会社及び業界における特有の状況や当期に発生し
た重要な事象又は取引等を考慮して、具体的な KAM の記載内容についてどの程度の深度で
記載すべきかの検討に最も多くの時間を要した。
財務諸表利用者の観点から平易で理解しやすい記述とするために、社の事業活動と KAM
-85-
との関係について記載を追加した。また、財務諸表利用者には、プロの投資家から一般の
投資家まで幅広い対象者がいることから全ての利用者に満足してもらえる KAM を作成す
ることはかなり困難であると感じた。したがって、会計基準や監査基準の用語を忠実に用
いることよりも、正確性を阻害しない範囲でより一般的な用語を用いて KAM を記載するよ
う心がけた。
KAM の記載が、会社にとって否定的な記述と捉えられないように配慮しつつ、正確に記
載することに努めた。例えば、会社作成情報の精度が低いとの印象を与える懸念が生じる
おそれを感じた。また、会計上の見積りに関連する重要な仮定や内部統制について、どの
程度まで記載するかについて慎重な検討を行った。
海外の構成単位の監査人が実施した監査上の対応を正確に理解し、KAM の中で簡潔かつ
平易に記載することに苦労した。特に構成単位の監査人への依頼が複雑な場合、監査上の
対応の記載が分かりにくくなることがあった。
監査人の監査計画との関連
監査人のリスク評価及びリスク対応手続の更新に伴い KAM 記載を更新したり必要に
応じて監査上の対応の記載に関する詳細さの程度を見直す等の検討を行った。
KAM の早期適用に向けて事前に準備を重ねてきたものの、新型コロナウイルス感染症が
会社に及ぼす影響に関連して、期末日後に KAM の対象の追加や記載の大幅な変更等を行っ
た。
(3) 財務諸表の注記事項への参照
全般的な課題
日本基準では財務諸表の注記事項への参照ができる項目が限られるため、注記事項への
参照を行うことなく、有価証券報告書の記述情報の充実を前提に KAM の内容を決定した。
例えば、のれんや固定資産の減損に関する開示の充実について会社と協議を重ねた結果、
財務諸表の注記事項と併せて、記述情報における開示の充実を図ることになった。
会社の開示を促すためにも、監査の早い段階で会社に対し KAM の草案を提示する必要
あり、それが遅れると監査の終盤で会社と監査人の双方に大きな負荷がかかる。2021 年3
月期は企業会計基準第 31 号が適用されるため、有価証券報告書の記述情報又は注記事項
のどこに何を開示するかについて、十分な協議を行うことが重要である。
KAM の記載や KAM に関連して従来開示していない事項を開示することにより、株主や投
資家に対する追加説明等が必要となる可能性について、会社が懸念を示した。そのため、
追加開示の必要性について会社と相当な時間をかけて議論を実施した。
会社の販売プロセスや事業計画の内容、持分法適用会社の財務情報又は IT システムの
データ移行等を KAM の記述に含める場合、有価証券報告書において関連する情報が開示さ
れないことがあるため、対応に苦慮した。また、個別財務諸表は連結財務諸表に比べて要
求されている開示項目が少なく、注記事項への参照を行えなかった。
-86-
個別の監査対象領域における課題
工事進行基準を採用している会社において期末時点で進行中の案件に係る売上高及び
売掛金等を KAM の対象としたが、関連する注記事項への参照が困難であった。
日本基準の財務諸表では感応度分析に関する開示が求められてないが、監査チームは感
応度分析を実施したため、監査上の対応として感応度分析を実施したことを記載した。
のれんの評価や関係会社株式の評価については、日本基準の財務諸表では詳細な注記が
求められていないため、KAM に関連する注記事項への参照はできなかった。例えば、対象
となる特定の関係会社の名称と金額を個別に参照することはできなかった
固定資産の減損について、減損の兆候はあるが減損損失を計上していない資産グループ
KAM の対象としているものの、日本基準の財務諸表では、減損損失が損益計算書に計上
された場合にのみ注記が行われるため、KAM 対象とした資産の帳簿価額等を参照できな
かった。
(4) 会社が未公表の情報の取扱い
KAM の記載の中には、対象とした取引等の金額や定性的な文言が有価証券報告書の開示に
含まれていないことがあるが、監査役等及び経営者とのコミュニケーションにおいて、KAM
の記載内容について十分な協議を行ったため、守秘義務との観点で会社から強い難色を示さ
れたことはなかった。
KAM の記載に未公表情報が含まれていないかどうか細心の注意を払い、慎重に検討した。
監査の初期段階から、開示も含めて会社とコミュニケーションを実施したが、KAM の記載に
未公表情報が含まれる場合には、会社と有価証券報告書又は適時開示等の開示に関して協議
を行い、全て公表情報として開示してもらった。その結果、KAM の記載には未公表情報は含
まれていない。
KAM の記載内容として、特定の債務者に対する債権の評価に関して個別の情報を含めるこ
とや減損に関連する個別資産名等を記載することは会社の理解が得にくく会社との議論に
時間を要した。特定の項目に関してはセンシティブな要素を含んでいたため、KAM の内容を
どこまで記載するか、また記載すること自体についても慎重な検討が必要となった。
(5) その他
英文の監査報告書において記載される KAM と平仄を取るために、和文の監査報告書の KAM
の記載を修正する必要が生じた。
-87-
(別紙5)KAM の早期適用会社に対するアンケート
早期適用会社の監査役等及び財務諸表作成責任者にアンケートした結果は次のとおりである。
(1) 監査役等 (回答数:39 社(42 名)
質問1.KAM の早期適用
KAM を早期適用した目的又は理由について記載してください。
<主な回答>
監査人、監査役、経営者等の間のコミュニケーションや議論が深まることによりコーポレ
ート・ガバナンスが強化される効果や、投資家の監査や財務諸表に対する理解が深まること
により経営者との対話が促進される効果を期待した。
KAM の早期適用により、監査委員会と会計監査人の更なる連携強化とリスク識別の効率化
精度向上、リスクマネジメント強化を図るため。
会計監査人より早期適用したい旨の表明があり、制度趣旨には賛同できることから早期適
用する方向で、経営陣との調整に側面から協力した。
質問2.KAM の導入による変化
KAM の導入により、監査人とのコミュニケーションに変化が生じましたか(複数回答可)。
回答数
a. ほとんど変わらない
b. 経営者と監査人との間のコミュニケーショ
ンの深度が増した。
13
c. 監査役等と監査人との間のコミュニケーシ
ョンの深度が増した。
38
d. 経営者と監査役等との間のコミュニケーシ
ョンの深度が増した。
11
e. その他
<「e.その他」の主な回答>
従前よりしっかりと行っていた監査人とのコミュニケーションの内容が開示されることに
なっただけであり、深度について特段の変化はない。
KAM を意識したコミュニケーションは行ったが、深度に大きな変化はない。経営者、監査
役等、監査人間のコミュニケーションは以前から深い。
-88-
KAM の導入により、前年度に比較して、財務諸表における注記の充実等の追加的な情報
の開示(未公表の情報の記載を含む。を行いましたか。「a.はい」の場合は当該開示に
際して検討した主な内容をご記入ください。
回答数
a. はい 17
b. いいえ 23
回答なし
<「a.はい」の主な回答>
監査法人と経理担当に、記述情報の充実に関する提案を行った。その結果、有価証券報告
書における事業等のリスクの記載が充実した。
KAM に関する監査人との協議において、困難と感じる状況はありましたか。「b.あり」の場
合、困難と感じた状況の内容を記載してください。
回答数
a. なし 36
b. あり
<「b.あり」の主な回答>
会計監査人との間のスケジュール調整に関して、元々タイトな決算スケジュールとの兼ね
合いで、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、多少の困難を感じた。
同一のリスクに対する連結財務諸表と個別財務諸表の監査報告書での KAM の記載の要否及
KAM の記載内容に関する監査人との意見調整に困難を生じた。
-89-
質問3.KAM の効果
早期適用の経験を踏まえ、KAM の導入により、どのような効果が期待できると思われますか
(複数回答可)。また、そのように考えられる理由をご記入ください。
回答数
a. 財務諸表利用者に対して監査のプロセスに関する情報が提
供されることで、監査の信頼性向上に資する。
31
b. 財務諸表利用者の監査や財務諸表に対する理解が深まる。 24
c. 財務諸表利用者と経営者との対話が促進される。 15
d. 監査人と監査役等のコミュニケーションや、監査人と経営
者の間の議論を更に充実させることを通じ、コーポレート
ガバナンスの強化や、監査の過程で識別した様々なリスク
関する認識が共有されることにより効果的な監査の実施に
ながる。
37
e. その他
<「e.その他」の主な回答>
早期適用の経験だけでは期待できない。
<回答の主な理由>
(a.b.c.d.)年度当初から KAM の対象項目の選定を意識した対話を継続することで、監査事項
ごとの重要性の度合いに関する認識を共有でき、これによって実効性のある会計監査とそれ
に対する監査活動が展開できること。
(a.b.c.d.)監査人が重点的に監査を行った項目が第三者にも分かることで、財務諸表や監査
に対する信頼度が増し、社内でも事業リスクに関する共有が図られた。
(a.b.d.)KAM の導入に加え、有価証券報告書に監査役等の活動状況が記載されることと合わ
せ、経営者から独立した立場・視点からの情報提供が増えることは、財務諸表を含めた会社
の開示情報に対する内部評価の客観性を高め、その信頼性向上に資すると考えている。これ
までブラックボックスとなっていた監査結果に至るまでの検討協議内容や監査活動の視
について開示要請されることは、利害関係者による監査に対する牽制機能として働き、監査
人や監査役等による監査の実効性と効率性の向上や、経営者による内部統制の強化活動にも
つながっていくと期待される。
(a.d.)KAM の導入に際して、監査人、会社側、監査役等が事業リスクと会計上のリスクとの相
関関係を再整理し、共有化することで、リスクに対応した会計監査を実施することができ、
監査品質の向上に役立った。
(d.)KAM の協議を通じて、監査人と監査役等とのコミュニケーションは活性化したと考え
れ、また KAM 導入は監査人の発言力の強化をもたらし、財務諸表開示の透明性を高める効果
が期待できると考えられる。
-90-
KAM の記載は、貴社の「株主との対話」に役立つと思われますか。そのように考えられる
理由をご記入ください
回答数
a. はい 32
b. いいえ
c.その他
<「c.その他」の主な回答>
どちらともいまだ判定できない。
<「a.はい」の主な理由>
KAM は、株主(投資家)にとって大きな関心事である事業活動上のリスクと関わっている
ため、その内容と対応についての記載は株主との対話の深度を高めると考えている。また今
後は、監査等委員会と会計監査人との協議内容に対する関心が高まる事も予想され、株主か
ら株主総会の場において質疑される可能性も想定しておく必要があると考えている。
KAM の記載により株主の理解が深まり、より踏み込んだ株主総会での質疑応答等が発生す
るきっかけとなり得ると思われる。一方で、KAM の記載内容についての理解が及ぶか否かは
監査人の記載の仕方も含めて、今後継続的に検証していく必要があると考える。
<「b.いいえ」の主な理由>
「KAM の内容及び決定理由」は、投資家(株主)にとって、監査人の着眼点の提供という
意味で、ある程度役には立つものの、「監査上の対応」は、基本的には監査手続を記載し
いるのみであり、付加価値のある情報となっていないものと思われる。より踏み込んだ「監
査上の対応」の記載又は財務諸表における注記の充実につながらなければ、投資家(株主)
にとって余り効果はないものと思われる
質問4.その他
KAM の導入に際し、その趣旨を達成するための課題があると感じましたか。もしあれば、
制度上の課題、監査人側の課題、会社側の課題、利用者側の課題に分けて、該当箇所に記載
してください。
主な回答
制度上の
課題
監査役会等の監査報告書の在り方につき、KAM の導入を踏まえどう考える
べきか検討する必要がある。
会社法上の会計監査人の監査報告書に KAM を記載するか否かについて検討
する必要がある。
会社法と金融商品取引法による二元開示制度が改善されない限り、会社側、
-91-
監査人側の負担は軽減されない。
監査人側
の課題
KAM の選定方針については、記載がボイラープレート化しないように、選
定理由を長期的な視点で、説明できるようにしておく必要がある。
監査役等とコミュニケーションした事項から、KAM に絞り込むまでの合理
的な理由を監査役等や経営者に説明する必要性がある。
同一の KAM を複数年にわたって継続的に記載する場合、事象の変化に応じ
て有益な情報提供を行うための工夫が必要である。複数年にわたり、記載
容が変化しないことで、制度が形骸化していくことを懸念する。また、KAM
選定基準を明確にしておかないと、対象事項の状況が変わっても KAM から外
すことの合理的説明が困難となり、年を追うごとに KAM が増加する一方と
ることも懸念される。
会社側の
課題
有価証券報告書での開示内容と KAM が連携することにより、利用者(投資
家)にとって分かりやすい記載となっていることを確かめる必要がある。
監査関係者と一部の財務担当者以外は KAM に対する関心が薄いため、会社
として、有価証券報告書の記載内容にもっと関心を持つべきだと思う。
KAM のみならず、監査人が選定したリスク項目について、経理部門や監査
役等にとどめずに、幅広く経営者にも共有し、リスクを意識した経営を行
ように改善すべきである。
利用者側
の課題
KAM は監査プロセスに関する情報を提供するものであり、KAM として記載さ
れた事項が「リスクの発現が高まるアラーム」と受け止められないように
作成者・利用者の理解が必要である。
記載された KAM の個数が事業上のリスクや不正会計のリスクの高低と関連
付けされてしまう可能性がある。
株主総会において KAM に関する質問が出ることを想定して、事前に対応及び準備された事
項がありましたら記載してください。
<主な回答>
KAM の早期適用の有無、KAM 内容についての説明など、想定し得る質疑応答を、執行部
側、監督側でそれぞれ作成し、実際に回答する際の役割分担など、事前にすり合わせを実
した。
有価証券報告書は株主総会後に開示予定だったことから、未開示の情報をどのように答弁
するかを考慮しながら、監査人との協議をどのように行ったのか、監査等委員会としての考
えはどのようなものであったのかについて答弁を用意した
事業報告中の「監査委員会の運営」に、KAM の記載内容を監査人と協議した旨を記載した。
また、株主総会の想定問答において、KAM 早期適用を行うことと、KAM の記載予定項目に関
する回答を準備した。
-92-
その他お気づきの点(ご苦労された点、良かった点等)を以下に記載してください。
<主な回答>
KAM の導入は、監査人の監査の透明性・情報価値の向上や監査品質の強化、監査に対する
社会の信頼性の確保という目的で行われるが、株主・投資家等会社の利害関係者に提供され
る情報の有用性・信頼性は、会社と監査人が、「二重責任の原則」に基づき、それぞれの役
割を果たすことによって支えられている。すなわち、会社側は会計基準に従って企業情報を
適切に作成・開示する、そして、監査人は、監査基準に従い監査を適切に実施しその結果を
報告することで、それぞれの責任を適切に果たしていくことが、本質的なテーマであると考
えている。そして、会社において、この「二重責任の原則」が適切に機能しているかどう
を監視・監督することが監査役等の重要な役割であることを改めて確認した。
株主総会に先立ち、有価証券報告書を提出し、かつ KAM の早期適用も行ったため、株主総
会参加者に対しては充実した情報提供を行うことができた。株主に対する説明責任の範囲・
深度の観点で、監査役等としての対応をより充実させる契機になったと受け止めている。
表現、文章について検討に時間を要し、最終確定が有価証券報告書作成期限間際であった。
また、英文化した際の確認時間が不足した。
(2) 財務諸表作成責任 (回答数:36 社(36 名)
質問1.KAM の早期適用
KAM を早期適用した目的又は理由について記載してください。
<主な回答>
欧米などにおいては既に KAM が導入されており、グローバルにビジネス展開する会社にと
っては必要な開示であると考え、早期適用することにより利害関係者や投資家に対して、
益な情報を積極的に提供する姿勢を示すことができると判断した。
投資家や株主といった監査報告書の利用者に対して監査の透明性の向上を図るため、また、
監査人、監査役等及び経営者双方の認識向上を目的として、早期適用した
KAM の導入趣旨監査のプロセス情報を提供することによる監査の透明性」「信頼性」
の向上、監査人と監査役等と経営者とのコミュニケーションを通じたリスク認識の共有)
賛同し、KAM に限らず、従前より開示内容を充実させたいとの考えがあり、早期適用を決定
した。
監査人や監査役、経営者等の間でコミュニケーションや議論が深まることによりコーポレ
ート・ガバナンスが強化される効果や、投資家の監査や財務諸表に対する理解が深まること
により経営者との対話が促進される効果を期待して KAM 入を決定した。
-93-
質問2.KAM の導入による変化
KAM の導入により、監査人とのコミュニケーションに変化が生じましたか(複数回答可)。
回答数
a. ほとんど変わらない 11
b. 経営者と監査人との間のコミュニケーショ
ンの深度が増した。
13
c. 監査役等と監査人との間のコミュニケーシ
ョンの深度が増した。
19
d. 経営者と監査役等との間のコミュニケーシ
ョンの深度が増した。
e. その他
<「e.その他」の主な回答>
経営者、監査役等、監査人間において、以前から深度のあるコミュニケーションが取れて
いる。
CAM の導入準備を進めていたため監査人とのコミュニケーションに大幅な変化は生じなか
った。
これまでのコミュニケーション内容に加え、KAM をテーマにした内容も実施するようにな
った。
KAM の導入により、前年度に比較して、財務諸表における注記の充実等の追加的な情報の
開示(未公表の情報の記載を含む。)を行いましたか。「a.はい」の場合は当該開示に際し
て検討した主な内容をご記入ください。
回答数
a. はい 23
b. いいえ 13
<「a.はい」の主な回答>
企業内容等の開示に関する内閣府令の改正に伴い、重要な会計上の見積り及び当該見積り
に用いた仮定に関し、追加的な情報の開示を検討するに当たり、KAM の導入による議論を踏
まえて、KAM に対応した内容も記載した。
KAM の記載を利用者が十分に理解できるかどうかという観点で、開示内容が十分か否かと
いう見直しを主に実施し、MD&A 及び注記に追加的な情報の開示を行うこととした結果、これ
まで公表していなかった情報も含めて記載を追加した。
-94-
KAM に関する監査人との協議において、困難と感じる状況はありましたか。「b.あり」の
場合、困難と感じた状況の内容を記載してください。
回答数
a. なし 23
b. あり 12
無回答
<「b.あり」の主な回答>
KAM の導入に伴い開示充実や監査人との文言の調整を行ったが、どの程度記載の充実や文
言の統一が必要かについて監査人との協議が発生し、開示資料の作成にも追加的な工数がか
かった。また、監査人による監査報告書の作成に通常よりも多くの時間がかかり、有価証券
報告書の社内承認プロセスに影響があった。
制度が浸透していない状況では、読み手が KAM を会社のリスクとだけ捉える可能性もあり、
KAM の選定や表現方法の検討に当たって、経営者、監査人、監査役等との間で相当な時間を
要した。
質問3.KAM の効果
早期適用の経験を踏まえ、KAM の導入により、どのような効果が期待できると思われます
か(複数回答可)。また、そのように考えられる理由をご記入ください。
回答数
a. 財務諸表利用者に対して監査のプロセスに関する情報が提
供されることで、監査の信頼性向上に資する。
29
b. 財務諸表利用者の監査や財務諸表に対する理解が深まる。 28
c. 財務諸表利用者と経営者との対話が促進される。 10
d. 監査人と監査役等のコミュニケーションや、監査人と経営
者の間の議論を更に充実させることを通じ、コーポレート
ガバナンスの強化や、監査の過程で識別した様々なリスク
関する認識が共有されることにより効果的な監査の実施に
ながる。
27
e. その他
<回答の主な理由>
(a.b.)従来の監査報告書は標準化した文言が使用され、財務諸表利用者からは監査意見に至
るまでのプロセスが見えなかったが、KAM の導入により監査手続の透明性は向上したと考え
る。また、KAM の導入に当たり財務諸表の記載充実を行ったため、結果的に財務諸表利用者
の財務諸表に対する理解が深まったと思われる。
(a.b.d)監査報告書における KAM の記載の対象事項の決定理由と監査手続を詳細に記述され
ている点が、経営に係る重要事象の正しい理解の材料になると考える。また、KAM に記載し
-95-
た重要なリスクについては、翌年度以降における継続記載の可能性もあり、会社としてリス
クマネジメントの重要性に対する意識も向上したと考えられる。さらに、監査上の対応を
細に開示することになるため、監査人に従来以上の緊張感が生まれたと感ずるともに、KAM
の内容を連結財務諸表注記と併せて検討することで、監査人と会社のコミュニケーションは
活発化し、監査品質の向上につながったと考える。
KAM の記載は、貴社の「株主との対話」に役立つと思われますか。そのように考えられる
理由をご記入ください
回答数
a. はい 24
b. いいえ
c.その他
<「c.その他」の主な回答>
来的に「一体的開示」ができるようになれば、株主との対話に役立つようになると思う。
<「a.はい」の主な理由>
KAM を明確化し株主に開示することにより、株主の当社に対する理解が更に深まることが
期待できるため。
株主は会社決算における重要事項をより容易に認識でき財務諸表に対する理解を深めるこ
とができるため、会社との対話において役立つと考える。ただし、株主にとっての有用性
KAM の記載内容や記載の分かりやすさに左右されると考える。
<「b.いいえ」の主な理由>
主である投資家への情報開示は、IR 資料でも対応しているところであり、情報開示と
て重複感がある。また、KAM の性質上「監査」という観点からの専門的な記載にならざるを
得ず、どこまで株主に対して有用な情報提供となっているのか、継続的な検証、議論が必要
ではないかと考える。
質問4.その他
KAM の導入に際し、その趣旨を達成するための課題があると感じましたか。もしあれば、
制度上の課題、監査人側の課題、会社側の課題、利用者側の課題に分けて、該当箇所に記載
してください。
主な回答
制度上の
課題
KAM の導入を始めとして、株主投資家等の利害関係者に提供される企業情報
の有用性・信頼性は、会計監査人・経営者・監査役等がそれぞれの役割を果た
-96-
すことによって支えられていると認識している。したがって、KAM の導入に際
しての課題については、これら三者が、それぞれ株主・投資家に対して果たす
べき役割を踏まえ、相互に理解し連携することが重要であり、これを適切に実
現できるかどうかが、KAM 導入における最大の課題であると考えている
KAM を単純にリスク情報の開示と紐付けている記事が見受けられるが、その
点に違和感を感じる。KAM の意義について一般の投資家の理解を深めていくこ
とに加えて、KAM は、アラート情報ではないことを周知していくことが必要で
あると思う。
会社法上の監査報告書におけ KAM の記載は任意とされているが、そもそも
会社法と金融商品取引法の二元的な開示制度が会社の負担になっていることが
問題であり、その点を解消することが先決と考える。
監査人側
の課題
早期に KAM を選定し、その選定理由や記載内容について会社側と十分な協議
時間を確保する必要がある。
今後は、初年度の記載事項がボイラープレート化しないように、毎期項目の
選定や記載内容について十分に検討する必要がある。
監基研第6号Q2-6(監査上の主要な検討事項がない状況)において「監
査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと判断することは
まれであり、少なくとも一つは存在していると考えられる。」と記載されてい
るが、個別財務諸表に対しても KAM の記載が必ず必要なのかは検討の余地があ
ると考えられる。
KAM において、監査人が当該事項を KAM と決定した理由と監査上の対応は記
載されるものの、個別項目に対する監査上の評価は記載されないため、投資家
に対する情報の有用性を向上させる工夫が必要と思料する
会社側の
課題
執行部側が早い段階から KAM の意義や企業情報開示の充実の必要性を認識し、
開示の充実に取り組むことが円滑な KAM の導入を支えると考えている。
KAM を投資家(株主)目線で有用なものとするには、(株主総会前 KAM
の導入が必要であり、会社法監査報告書での任意適用や有価証券報告書の早期
提出等について検討する必要があると思料する。
利用者側
の課題
財務諸表利用者が当該制度の背景・趣旨を正しく理解し、監査上問題があっ
た事項が記載されるといった誤解がないよう、KAM の趣旨につき、財務諸表利
用者に対して継続的な啓蒙活動が必要である。
株主総会において KAM に関する質問が出ることを想定して、事前に対応及び準備された事
項がありましたら記載してください。
<主な回答>
KAM の意義、KAM の記載内容、その選定プロセス、社内の議論等について一般の株主からの
質問に平易な内容で回答できるように回答案を準備した。
有価証券報告書を株主総会後に提出することとなったことから、KAM の早期適用の有無、
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KAM として監査報告書に記載される内容について、想定問答を作成した
会社法上の監査報告書には記載していないため特段の準備はしなかった。また、有価証券
報告書の提出が株主総会後であるため、仮に質問が出たとしても詳細な説明は差し控える
とを想定していた。
その他お気づきの点(ご苦労された点、良かった点等)を以下に記載してください。
<主な回答>
有価証券報告書の作成においては、財務諸表の注記事項だけでなく、記述情報について、
KAM の表現との整合性の検討・修正等の細かい事務作業において苦労があった。
KAM は監査報告書に含まれるため、往々にして会計の専門用語が使用されたり、会計基準
のある程度の理解を前提にした記載となる場合がある。会計の専門家でない株主や投資家な
どにも容易に理解できる記載になるよう、監査人や監査役等、経営者等と相応の工数を割い
て議論する必要があった。
KAM の情報は経営者や投資家が重視する情報(将来予測や事業リスク等)と異なる面も多
いが、KAM の導入に関連して、開示情報の見直し・充実に向けた検討を行うことができた点
は良かった。
監査上の重要事項を選出するに当たり、財務上のリスクについて、客観的・定量的に評価
する仕組みを再整理したことで、監査人や監査役等、経営者等の議論が従来より深まった。
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(別紙6)財務諸表利用者に対するインタビュー
企業会計審議会の監査部会において監査基準の改訂に関わった財務諸表利用者から、KAM の早
期適用事例を踏まえた所感とともに、強制適用に向けた期待について聴取した。
財務諸表利用者に対しては、監査報告書の情報価値の向上、KAM の記載内容、会社による情報
開示の充実及び KAM の強制適用に向けての期待及び課題について回答を求めた。今回のインタビ
ューにおいて聴取した主な回答は、以下のとおりである。
(1) 監査報告書の情報価値の向上
全般的な感想
全体として、おおむね期待どおりの有用な記載となっていた。コロナ禍において積極的
に早期適用に取り組んでいただいたことに感謝している。従来の監査報告書では、標準化
された必要最小限の記載を通じて監査意見を効率的かつ効果的に伝えてきたが、監査意見
が無限定適正意見であったとしても、意見形成がどのような監査プロセスを経てどのよう
な判断を通して行われ、また監査上の主要な検討事項はどのような領域であって、どのよ
うな監査上の対応が実施されたのか等について、今まで情報として提供されてこなかった。
したがって、KAM が監査報告書に記載されることは非常に意義のあることであり、財務諸
表利用者として、会社との対話につながるものと考えている。
財務諸表利用者は会計監査について詳細な理解を有していないが、KAM の内容と具体的
な監査上の対応を通して、監査人がどのような事項を監査上重要視しているのか等を理解
することが可能になったことにより、監査に対する安心感及び信頼性が高まった。また、
監査人が監査報告書に KAM を記載するということは、複数の市場関係者による会社に対す
る監視のための基礎の一つであり、会社の経営に対する一定の規律を与える効果が期待で
きる。
KAM の記載をより有意義なものにするためには、KAM そのものの記載を充実させるだけ
でなく、記載の前提となる財務諸表の注記事項及び有価証券報告書における記述情報を併
せて充実させることが必要である。したがって、監査人は、会社に対して KAM 関連する
財務諸表内外の情報(会計上の見積りにおいて用いられた仮定、重要な会計上の見積りや
事業等のリスクに関する記述情報、監査役等の主要な検討事項)の開示を促すことが期待
される。
KAM の個数
KAM の個数については、英国の財務報告評議会(Financial Reporting Council)の調査
結果では1社につき平均で4個程度であったが、日本の早期適用事例ではおおむね2個程
度であり、英国の実務に対して相対的に少なかった。KAM の記載個数に関する定めはなく
個数の多寡を議論すべきではないと認識しているが、財務諸表利用者としては、KAM の決
定プロセスを経て、結果的に記載された KAM が1個というのは少ないように感じた
会社法監査における KAM の適用と株主総会前の有価証券報告書の提
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(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グループの会社法監査において、KAM が早期適用され
たことは、財務諸表利用者として大きな意義を認識している。株主総会は会社と株主との
間の最良の対話の機会であるので、会社法上の監査報告書において任意に KAM の記載を
うことによって、KAM が株主総会前に公表されることは有用である。仮に会社法上の監査
報告書への記載が難しいのであれば、有価証券報告書の提出を株主総会前に前倒しするこ
と等を通して、KAM の内容を株主総会の前に投資家に提供することが期待される。
海外の投資家との会話では、会社法の監査報告書に KAM が入っていない状態は奇異に
け取られるとともに、金融商品取引法監査との取扱いの差を設ける趣旨を説明することが
困難である。KAM に限らず、有価証券報告書自体を株主総会前に提出することが本来望ま
しい姿であるが、現状の実務を考慮すると、まず会社法の監査報告書に KAM を記載するこ
とが適当と考える。
その他
IT 統制を KAM の対象としている事例に関し、財務諸表利用者として、目新しい視点であ
ると感じた。財務諸表利用者は、監査実務の理解を十分有している人は少ないため、監査
において、財務会計システムの整備・運用の状況や他のシステムとの連携を確かめている
ということは新鮮で、関心を持てた。
(2) KAM の記載内容
無形資産の評価に関する KAM の中で、資金生成単位グループの使用価値の見積りにおける
回収可能価額が帳簿価額を上回る余裕額を記載していた。同社が採用する会計基準は IFRS
であるが、こうした情報を具体的に有価証券報告書の注記事項として記載した上で、監査人
がそれを参照することにより KAM を記載していた。(住友商事(株))
監査役等とコミュニケーションを行った潜在的な重要な虚偽表示リスク及び当期に発生し
た重要な事象が監査に与える影響について、潜在的影響額と発生可能性の観点から評価した
表を KAM の補足情報として任意に記載していた事例。こうした事例により、投資家は、KAM
がどのように選定されるのか、また、KAM としては記載されていないがどのような監査上の
論点を検討しながら監査が進められてきたのかについての理解を深めることができる。こう
した事例を KAM の好事例として、他の会社の監査にも広がっていくことは、将来的な方向性
として有用と考える。((株)AOKI ホールディングス)
有形固定資産及び無形資産の減損に関する KAM の記載の中で、使用価値の見積りにおける
重要な仮定として中期経営計画等を明記し、これが影響を受ける要因を具体的に記載してい
た事例。(富士通(株))
収益認識に関する KAM における監査上の対応として分析的実証手続とそれ以外の実証手
続とを分けて比較的細かく丁寧に記載している事例。(四国電力(株))
(3) 会社による情報開示の充実
会社の情報開示が充実することにより、これに対応して KAM に記載された背景がより分か
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りやすく感じた事例がある一方で、KAM に対応する注記事項や記述情報の充実を会社に働き
かける必要があると認識する事例があった。
早期適用事例では、KAM の記載に当たって前提となる有価証券報告書における会計上の見
積りに関する開示、事業等のリスクや監査役会等における主な検討事項等の開示情報が必ず
しも十分でなく、かつ、これらの開示と KAM の記載とのつながりについて理解することが困
難な事例があった。
見積りの方法だけではなく、中期経営計画、新型コロナウイルス感染症の収束時期又はビ
ジネモデの特徴等の各固有実情に応じた積り仮定を開示しもらことが重
要である。見積りの仮定の開示を通じて、どのような状態になると当初の見積りの想定が異
なってくるのかが理解できるので、こうした記載は必要と考える。
KAM の対象の金額として、財務諸表における計上金額だけではなく、プロジェクトを特定
した情報が記載されることが望ましく、これにより会社との対話において特定のプロジェ
トに絞った議論が可能となる。
早期適用事例において、のれんの減損に関する KAM が記載され、翌四半期以降においての
れんの減損損失が計上された事例があった。こうした事例では、KAM の記載により、将来に
おいて減損が生じる可能性がある資産の存在が明らかになることがある。
財務諸表利用者に対して、会社を正しく理解してもらうためには、記述情報に限らず注記
事項に関しても充実した開示が求められ特に監査人が重要な監査領域として KAM に記載す
る事項が、財務諸表の注記事項として記載されていないという状況は、本来望ましいもので
はないと考える。したがって、こうした監査上のリスクが高くて重要な事項については、
応する財務諸表の注記事項が適切に開示される実務が期待されるところである。
(4) KAM の強制適用に向けての期待及び課題
強制適用に向けての期待
KAM として記載すべき事項に関しては、会社が注記事項として開示することに消極的で
あったとしても、監査報告書に KAM として記載することを、監査人に対して期待する。こ
のことは、監査人と会社との間のよい意味での緊張感が保たれていることを示しており、
KAM の記載だけでなく監査制度全体への信頼を担保するという意味でも適切と考える。仮
KAM に関連する財務諸表の注記事項を会社が開示していないという事があれば、財務諸
表利用者にとってはその会社の開示姿勢を知るという意味で重要な情報となり、それが会
社との対話の糸口の一つになることから資本市場全体としてその会社の開示姿勢を改め
ていくことにつながると思う。その意味で会社が財務諸表の注記に消極的であったとして
も、監査人が必要な KAM を記載するという行為自体が資本市場の参加者、特に財務諸表利
用者の支持を得て、結果として財務諸表作成者の行動を変えていくことにつながると考え
る。
識別された課題
ア.監査人
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今回の KAM の早期適用事例に関しては、KAM が適切に選択されているかどうかという
ことと、開示内容が会社固有の表現となっているかどうかについて注目していた。全体
的には経営者の見積りの要素が大きい項目が KAM の対象とされる等、多く KAM が適切
に選択されていたと考えている。一方、一部の KAM の記載において、単に会計基準をそ
のまま書いているだけのような事例が見受けられた。KAM の強制適用において、多くの
KAM で同様の記載が行われる可能性があることを懸念する。
詳細に記載され、監査上の対応が具体的にイメージできる KAM 、簡素な KAM との程
度の差を感じた。また、同一の監査法人においても、KAM の記載の程度の差を認識した。
監査報告書の透明性を上げて監査の信頼性を上げるという KAM の制度趣旨からすると、
ボイラープレート化された、情報価値の低い、又は容易に想定が可能な記載内容になら
ない配慮が必要であると考える。
会社の注記事項や記述情報の開示が充実したとしても、それが必ずしも内容の充実し
KAM につながるとは言えず、監査人 KAM の記載の在り方は、財務諸表利用者等に対
する監査人の姿勢を示しているものと考える。また、KAM は監査人にとって、財務諸表
利用者に監査の品質等を伝える有効な機会でもあり、今後 KAM を通じて積極的にコミュ
ニケーションを取ることを期待する。
初年度適用後、KAM の記載がボイラープレート化し、記載分量はあるものの、毎年同
様の内容で、提供される情報としての新規性に乏しくなるという可能性がある。それ自
体は否定されることではないが、財務諸表利用者としては、KAM を記載するに当たって、
新たな視点で記載するマインドセットを監査人が保持できるかどうかが、今後の課題と
認識している。
イ.会社
KAM の事例を確認する中で、改めて企業開示がとても大切であることを認識した。重
要な会計方針及び見積りに関しては、企業内容等の開示に関する内閣府令の改正により
有価証券報告書において開示項目となっている。これは、記述情報の項目ではあるもの
の、KAM と関連付ける実務があるとよいと思う2021 年3月期には企業会計基準第 31
も適用されるが、KAM の有用性は会社の開示姿勢にかかっていると理解している。
KAM の内容に関して、ガバナンスの観点から監査役等がどのように対応したのかが重
要であり、有価証券報告書においてこれに係る開示が行われることを期待したい。企業
内容等の開示に関する内閣府令の改正により、監査役会等の活動状況の開示が行われて
いるが、当該開示において、KAM に言及されている事例は少ない
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KAM の早期適用会社のうち、有価証券報告書の「監査の状況」の中で KAM に言及している会社は、三井物産(株)、第
一生命ホールディングス(株)、野村不動産ホールディングス(株)、エーザイ(株)、三谷産業(株)(株)日本取引所
グループ、綿半ホールディングス(株)(株)みずほフィナンシャルグループ、(株)三菱 UFJ フィナンシャル・グルー
プである。
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ウ.投資家
KAM は、会社が未公表のセンシティブな情報や財務諸表利用者の投資判断及び経済的
意思決定を行うための一次情報を提供するものではない。しかしながら、財務諸表利用
者は、KAM の記載内容からこれらの情報を得る等の過剰な期待をすることがあり、例え
ば、固定資産の減損に関する KAM の記載に、翌期以降に発生する固定資産の減損の示唆
を提供する情報を含むことを期待する場合がある。財務諸表利用者の期待ギャップや誤
解が生じないよう、KAM に関する十分な理解を通じて、KAM が会社、財務諸表利用者及び
監査人をうまく結びつけるものになればよいと考える。