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3.IT関連の分析
(5)監査人側のIT利用に係るKAMの事例 データ分析の目的をリスクと関連させて記載している例
2022年3月期
内容及び決定理由 監査上の対応
連結財務諸表注記(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)の「4会計方針に関する事項(5)重要な収益及び
費用の計上基準」に記載のとおり、会社は、完成工事高及び完成工事原価の計上基準として、約束した財又はサービスに対
する支配が顧客に一定の期間にわたり移転する場合には、当該財又はサービスを顧客に移転する履行義務を充足するにつれ
て一定の期間にわたり収益を認識する方法(以下、いわゆる「工事進行基準」という。)を採用しており、履行義務の充足
に係る進捗度の測定は、主として各期末までに発生した工事原価が、予想される工事原価の合計に占める割合に基づいて
行っている。
連結財務諸表注記(重要な会計上の見積り)の「1当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額」に記載のとおり、当連
結会計年度に係る完成工事高1,797,794百万円のうち1,680,572百万円を工事進行基準の適用により収益
認識しており、また個別財務諸表注記(重要な会計上の見積り)の「1当事業年度の財務諸表に計上した金額」に記載のと
おり、そのうち1,113,270百万円を会社が占めている。
連結財務諸表注記(重要な会計上の見積り)にも記載のとおり、工事進行基準の適用にあたっては、工事原価総額を基礎と
して当連結会計年度末までの実際発生原価に応じた工事進捗度に工事収益総額を乗じて完成工事高を算定しており、工事収
益総額、工事原価総額及び工事進捗度について、事業環境の状況も踏まえた経営者の重要な予測・判断が用いられる。
会社は、工事着工段階において工事収益総額及び工事原価総額を見積った実行予算書を策定・承認し、着工後の各期末にお
いては工事の現況を踏まえてそれらの見直しを実施し、承認する等の内部統制を整備し、これを運用している。
特に近年は、会社の工事契約が大型化及び長期化していることから、例えば以下のような状況が生じた場合に連結財務諸表
全体に及ぼす影響が大きくなる可能性がある。
①施工中の工法変更或いは施工範囲の変更等に伴う工事変更契約の締結前である場合、工事進行基準の適用にあたって工事
収益総額の見積りを基礎とすることがある。当該状況において、未確定又は変更部分等に係る見積りの網羅性や十分な合理
性・実現可能性が高くない状態で工事進行基準を適用すると、各期の完成工事高が適切に計上されないリスクが存在する。
②着工当初において予期し得なかった事象の発生、資材及び外注費等に係る市況の変動、並びに工程圧迫や遅れに伴う外注
費の追加発注見込等により、工事原価総額が大幅に増加することがあるが、これらの予測・見積りに際しては不確実性が伴
う。さらに、そのような見積りの不確実性が増大する場合には、工事原価総額の見直しに時間を要することもあり、工事原
価総額の適時な修正・見直しが行われない可能性がある。当該状況において工事進行基準を適用すると、各期の完成工事高
が適切に計上されないリスクが存在する。
③期末時点における工事進捗度の算定においては工事原価総額を基礎とするため、②の工事原価総額の適時な修正・見直し
が行われない場合には、工事進捗度が適切に算定されないリスクが存在する。
以上により、当監査法人は工事収益総額、工事原価総額及び工事進捗度に係る会計上の見積りは不確実性を伴い、かつ経営
者の重要な予測・判断が用いられることに鑑み、会社の工事進行基準の適用による収益認識を監査上の主要な検討事項に該
当するものと判断した。
当監査法人は工事収益総額、工事原価総額及び工事進捗度に係る会計上の見積りの合理性を検討するに当たり、主として
以下の監査手続を実施した。
まず、会社及び業界を取り巻く事業環境を理解した上で、会計上の見積りを基礎とした工事進行基準の適用により認識し
た収益に関し、工事収益総額及び工事原価総額の見積りプロセスに関連する内部統制の整備状況及び運用状況の評価を実
施した。また、工事契約ごとの原価の集計や工事進捗度の算定に関連するシステムの全般統制及び業務処理統制について
はIT専門家も利用して評価を実施した。
内部統制の整備状況及び運用状況の評価に際しては、特に工事着工時における実行予算書の策定及び承認状況、着工後の
見直しに関して、各工事の状況変化が適時・適切に反映され、承認されているかどうかについて焦点を当てて評価を実施
した。
次に、前連結会計年度の工事収益総額及び工事原価総額に含まれていた会計上の見積りの合理性を評価するため、当連結
会計年度の確定額又は再見積額と前連結会計年度見積額とを比較検討した。
その上で、会社の全ての工事進行基準適用工事に対して、監査上の主要な検討事項の内容と選定理由で記載したようなリ
スクが存在する可能性のある工事を識別するため、データ分析ツールによるリスク評価分析を実施した。当該分析によっ
て抽出された工事に対し、分析結果に応じて、以下の監査手続から一つ又は複数を組み合わせて実施した。
[工事収益総額に対する監査手続]
①工事収益総額に係る契約書等との証憑突合及び既入金額の検討
②工事収益総額に会計上の見積りが含まれる場合における、当該見積金額の正確性及び実現可能性の評価のための適切な
工事責任者に対する質問並びにその根拠となる管理資料及び証憑の閲覧による合理性の検討
[工事原価総額に対する監査手続]
③工事損益率が過去の実績と比較して著しく高い又は低い場合の要因についての適切な工事責任者に対する質問並びにそ
の根拠となる管理資料及び証憑の閲覧による合理性の検討
④工事原価総額の見積りが前連結会計年度と比較して著しく増減している場合の要因についての適切な工事責任者に対す
る質問並びにその根拠となる管理資料及び証憑の閲覧による合理性の検討
[工事進捗度(実際発生原価)に対する監査手続]
⑤実際発生原価の月次推移分析等により直前月等と比較して著増減を識別した場合の要因についての適切な工事責任者に
対する質問及びその根拠となる請求書等の証憑閲覧による合理性の検討
⑥外注費等の実際発生原価に対する請求書等の証憑突合
さらに、複数の工事案件に対して工事現場を視察し、工事の進捗状況及び会計上の見積りとの整合性を検討した。
会社名:鹿島建設㈱
監査法人:有限責任監査法人トーマツ
見出し:一定の期間にわたり収益を認識する工事契約に関する収益認識
データ分析の内容を、「内容及び決定理由」で記載したリスクと関連させて記載することで、データ分析の目的が明確に記載されている。