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2 会計処理の考え方
(1) 本実務対応報告の対象とする排出クレジットに関わる投資の性質
企業の投資は、一般に金融投資と事業投資に大別される(この点については、金融
商品会計基準第 64 項から第 90 項、「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する
意見書」六 を参照のこと。)。金融投資とは、売買目的有価証券のように時価の変動
により利益を得ることを目的としており、売買市場が整備され、また、売却すること
について事業遂行上の制約がないものである。このような金融投資は、時価の変動が
事前に期待した成果に対応する事実と考えられるため、時価評価と時価の変動に基づ
く損益認識が意味を持つものとされる。他方、事業投資とは、売却することについて
事業遂行上の制約があり、また、事前に期待される成果が時価の変動よりもその後に
生ずる資金の獲得であるため、その事実を待って投資の実績を把握することが適当で
ある。棚卸資産や製造設備などは事業活動を通じた資金の獲得を期待しているため、
資金の流入に基づいて投資の成果を測定するうえで、保有する間は一般に取得原価で
評価されている。
排出クレジットに関わる投資については、活発に取引がなされる市場が整備されて
いるとはいえない場合には、時価の変動により利益を得ることを目的としていても金
融投資には該当せず、むしろ、企業自らが買い手を見つけ、価格交渉のうえで排出ク
レジットを引き渡すことによって利益が得られる事業投資に該当するものと考えられ
る。
一方、排出クレジットの活発な取引市場が整備されており、企業が金融投資として
の取引を行う場合には、トレーディング目的で保有する棚卸資産として、時価をもっ
て貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)は当期の損益として処理する
こととなる(棚卸資産会計基準第 15 項)。
(2) 本実務対応報告の対象とする排出クレジットの取引
本実務対応報告では、事業投資としての排出クレジットを、専ら第三者に販売する
目的で取得する場合(3 及び[付録 1]参照)と、将来の自社使用を見込んで取得する
場合(4 及び[付録 2]参照)の 2 つに分け、それぞれについて、他者から購入する場
合と出資を通じて取得する場合の会計処理を示している。さらに、将来の自社使用を
見込んで取得する場合については、試行排出量取引スキームにおいて排出枠を無償で
取得する場合の会計処理を示している。
ここで、将来の自社使用を見込んで排出クレジットを取得する場合とは、将来、自
主的な行動計画を達成しようとするときや、排出量削減に関する規制が強化されたと
きなどに、保有する排出クレジットを自社の排出量削減に充てる
4
ことを想定して取得
するが、自社の排出量削減に充てないことが明らかになった際には、第三者へ売却す
4
京都議定書に基づく取決めの場合には、国別登録簿(割当量口座簿)における政府保有口座へ
償却を目的として排出クレジットを移転することが該当する。