
- 10 -
Ⅳ 本実務ガイダンスの対象範囲
国内外の上場株式や債券など、市場が存在し流動性が高く、評価も容易に可能な資産への投資
に対し、いわゆるオルタナティブ投資(代替投資)
7
と呼ばれる資産運用においては、ハイリター
ンの可能性はあるものの、運用リスクが高く、運用される資産の流動性が低く、客観的な時価
8
に
よる評価が容易でない場合がある。すなわち、ヘッジ・ファンド、非上場株式やそのファンドなど
(これらのシングルファンドのみならず、ファンド・オブ・ファンズの場合もある。)を投資対象
とし各種デリバティブを活用する等によりリターンの向上が期待できる一方で、投資スキームが
複層的になる等複雑で流動性や換金性に乏しく、客観的な時価による評価が容易でなくなり、一
般に運用リスクは高くなる等の傾向がある。また、私募投資信託の仕組みを利用するなど、運用対
象に係る情報入手が困難な場合も考えられる。
このような実在性及び評価の妥当性の観点から監査リスクが高いと思われる運用対象(以下「高
監査リスク資産」という。)は、年金資産受託機関が運用・資産管理を直接行っている一般勘定や
合同運用口よりも、年金基金等の個別のニーズに応じて運用方針を設定できる第二特約や組入れ
銘柄等まで決定することができる直接運用、年金特定信託契約などによる運用においてみられる
(図表8参照)。すなわち、委託者である年金基金等がハイリスク・ハイリターンの運用を目指す
ために、自己の運用スタイルを反映させやすい運用商品において、こうした高監査リスク資産が
含まれるケースが一般的と考えられる。
2012 年に発覚した年金資産の消失事案では、Ⅲ4の「(2) 年金特定信託契約」の年金特定信託
契約による年金資産が消失したといわれている。当該資産は、年金基金と投資顧問会社との間の
投資一任契約により運用されていたものであり、投資顧問会社が私募投資信託の仕組みを用いた
オルタナティブ投資による運用を積極的に行っていたとされている。
上記のような背景に鑑みて、年金資産の実在性や評価の妥当性について十分かつ適切な監査証
拠を得るためには、高監査リスク資産に対してより深度ある監査手続を実施することが有用と考
えられる。そこで、こうした運用対象が組み入れられやすい背景と年金資産受託機関における運
用商品別管理の実態を踏まえ、本実務ガイダンスにおいてはⅢ3の「(3) 特別勘定第二特約」、Ⅲ
4の「(1) 年金信託契約」の直接運用、Ⅲ4の「(2) 年金特定信託契約」及び自家運用を中心に年
金資産に対する監査手続を示すこととした。なお、上記以外の運用商品であっても、高監査リスク
資産が含まれる懸念がある場合は、上記運用商品と同様の監査手続の実施を検討することとした。
また、会計基準第 26 号及び適用指針第 25 号により求められる年金資産の内訳開示は、すべて
の運用商品に対して求められることから、「Ⅵ 年金資産の内訳開示に係る監査手続」ではすべて
の運用商品を検討対象としている。
7
本実務ガイダンスでは、ヘッジ・ファンド、非上場株式やそのファンド、ベンチャー・キャピタル、商品ファンド、
ファンド・オブ・ファンズ、各種デリバティブの活用など、上場株式や債券といった伝統的資産とは異なる投資対象や
投資戦略を駆使する運用手法の総称として「オルタナティブ投資」としている。
8
本実務ガイダンスにおいて「客観的な時価」とは、会計基準等で用いられる「時価」とは異なり、市場価格など、一
般に客観性が容易に認められる時価を指している。